● 「なぁ焔鬼よ。 俺の下につけ、そうすりゃあ幾らでもお前の望みをかなえてやる」 奴は、禍鬼はそう言っていた。 この俺の、渇ききった心を満たしてくれると。 この、全身を蝕む退屈と言う名の病から解放してくれると。 忠誠を誓ったつもりはない。 心酔しているつもりもない。 俺が奴の下についている理由は、ただ一つ。 俺の心を唯一満たし、退屈から解放してくれる強者との戦い。 其れを奴が約束してくれたからにほかならない。 そうして『温羅』に通ずる本丸下部でその鬼は只、待ち続けていた。 望むのは、自らの渇ききった心を満たす強者との戦い。 「此処に来る者が何者でも俺は構わん。ただ強くあってくれればそれでいい」 そうでないと……退屈で、死んでしまう。 ● 温羅への切り札になる『逆棘の矢』の争奪戦は、鬼道優位に終了した。 鬼道の強さ、執着は予想以上であり。 其れは矢に相応の意味があるという証明なのかもしれない。 いずれにせよ、アークは彼らに対抗する手段を二本確保することができた。 「決戦よ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が集まったリベリスタ達に厳しい表情で告げる。 「現時点でこちらの戦力は完璧ではないけれど、 あの暴挙……いえそれ以上の暴挙を繰り返させるわけにはいかない」 『万華鏡』が観測した『未来』。 力を蓄えた鬼道が暴れ出し、人間社会を滅茶苦茶にする。 今こうして話を聞いている、その時にも鬼の本拠『鬼ノ城』では 戦慄の未来に向け鬼達がその恐るべき牙を研いでいるのだ。 今動かなければ、間に合わない。 最早、一刻の猶予もないのだ。 「作戦目標は鬼道の本拠地『鬼ノ城』の制圧及び鬼ノ王『温羅』の撃破。 公園に出現したこの巨城は、堅牢な防御力を誇っていて簡単には落ちたりしない。 正直かなり厳しい戦いになるけれど……やってくれるわね?」 イヴの言葉に頷くリベリスタ達。そんなリベリスタ達を見てイヴは言葉を続ける。 「第一の関門となるのは四天王の1人『烏御前』率いる部隊よ」 彼女と彼女の配下達は『鬼ノ城』に敵を寄せまいと積極的に迎撃に出てくる。 彼女達に対し、どういう戦いを見せるかで城外周部における安全度が変わってくる。 後方回復支援部隊による援護効率が向上し有利な状況を作りやすくなってくるのだ。 「第二の関門は城門。四天王『風鳴童子』率いる部隊」 攻城戦において有利は常に守備側にあり地の利を持つ彼らの部隊は精強な抵抗を見せるに違いない。 想像以上の厳しさに息を飲むリベリスタ達に イヴは追い打ちをかけるかのように、城門を突破しても安心はできないと告げる。 「第三の関門は城門を抜けた先の御庭。 此処では鬼の官吏『鬼角』率いる精鋭近衛部隊が戦いの時を待っているわ。 ただ、この2つのエリアを制圧すれば鬼ノ城本丸への進撃が効率的になる上、敵の強化が解除されるわ」 「そして、最後の関門になるのが本丸下部。此処を受け持つのはあの『禍鬼』よ。 何を考えているのかいまいち良くわからないけど……間違いなく手強い相手」 『温羅』との決戦に臨む部隊の余力を温存出来るかどうかは各戦場での勝敗にかかっているだろう。 「最後に、これが一番重要だけど『風鳴童子』、『鬼角』、『禍鬼』はそれぞれ『逆棘の矢』を所有している。 彼等の撃破に成功すればこの矢を奪い取る事が出来るかも知れない」 矢を手に入れる事が出来れば、状況は間違いなく好転するだろう。 「貴方達に頼みたいのは、本丸下部で待ち構える『焔鬼』という鬼が率いる部隊の討伐」 強者との戦いでしか自らの退屈を紛らわす事の出来ないその鬼は 『温羅』に続く本丸下部で、戦いの時を今か今かと待ち望んでいる。 「相手はあの『禍鬼』の配下の1人、強力な戦闘力を秘めているし配下も多いわ」 「でも、勝てば事態は好転するから」 絶対に勝って。 そう、最後にイヴは呟いたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月06日(金)01:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 鬼ノ城の主、『温羅』のもとへと続く、本丸下部。 其処を8人のリベリスタ達が進んでゆく。 「己が強者たらんとするだけの戦士ではなく、強者たる己と見合う強者との『死闘』を望む戦士か」 こういう敵こそ、手強いと未だ見ぬ強敵の感情を探りつつ『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が言う。 「ある意味厄介で、ある意味可哀想…というのは、可笑しいか」 わしの様に日々楽しめれば、 退屈などせんのじゃがなと『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)は思う。 「とりあえず、俺は戦うだけっす。 相手が強い奴と戦うのが好きな奴なら、尚更っすよ!」 オレも強い奴と戦うのは好きっすからね。 と笑って見せるのは『倉庫に棲む虎』ジェスター・ラスール(BNE000355)だ。 強い奴と戦うのが好きというジェスターに素敵な感性ねと 『Bloody Pain』日無瀬 刻(BNE003435)と『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)が頷いた。 そうして。 長い回廊を抜け、やがて辿り着いた戦場で。 その鬼は目を閉じ、じっと座して待ち続けていた。 その様は、まるで愛しい恋人を待ち続けているよう。 燃え盛る炎を思わせる真紅の長髪に、哀しい程に白く、白い袴姿の鬼。 彼こそ、この場を訪れたリベリスタ達が探していた倒すべき敵――焔鬼。 その周囲には、彼の配下らしき鬼達の姿もある。 これが鬼か、と『野良魔女』エウヘニア・ファンハールレム(BNE003603)は思う。 「話には聞いていたが興味深い出で立ちだね。 その姿をしっかりと観察していたいが、その余裕は無さそうなのが残念だ」 その言葉に、閉じられていた焔鬼の目が開かれていく。 静かに、ゆっくりと立ち上がり目の前の人間達を見回しながら。 成程、面白い連中が揃ったものだと焔鬼は思う。 「奴の……禍鬼の口車に乗り、待ち続けていた甲斐もあったというもの」 右手に携えた日本刀が激しく唸りを上げ、焔を巻き上げる。 動こうと思えば、直ぐにでも動けるが……まずは見極めなくてはなるまい。 目の前にいる者たちが自らの退屈を癒す程の強者であるかどうか。 「準備が必要ならとっととするがいい。 全力を見せてみろ」 そう言い放つ焔鬼の言葉に、配下の鬼たちがどよめきを見せる。 此処は本丸下部。 此処を突破されれば、最早鬼達には後はないのだ。 そんな、最後の砦とも言うべき場所を守る任についた鬼があろうことか人間達に本気を出せなど。 「焔鬼様、お役目をお忘れですか!? 我らの役目は!」 「黙れ」 そう、意見した鬼を一瞬で焔鬼は黙らせる。 焔を纏う日本刀を向け、それ以上くだらぬ事を言えば焼き尽くすと。 やがて観念したのか、鬼達は意を決した表情でリベリスタ達へと向き直った。 「他の連中は知らないがな。 俺が望むのはただ一つ」 この渇ききった心を満たす事のできる強者との戦いのみ。 そして、その邪魔をするというのなら仲間である鬼であろうと関係なく燃やし尽くすと焔鬼が嗤う。 その瞳には、狂気の色が浮かんでいる。 「さぁ人間共、死力を尽くしこの俺を引きずりだして見せろ! お前達が俺と戦うに値するのならば、俺もまた全力を以ってお前達を燃やし尽くしてやろう!」 そう嘲笑う焔鬼に。 「悪いがお前の暇潰しには付き合えない」 その身に闇を纏いながら、言い放つのは『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)。 「お前等鬼に比べれば人間は弱い」 「弱者ならば去るがいい、確かに弱者では俺の退屈を紛らわす事は出来ん」 焔鬼が、期待はずれもいい所だと禅次郎を見る。 そんな、焔鬼に強い視線を以って。 「だが、化物を倒すのは何時だって人間だ。 化物は人間に倒される、今までも、これからも」 「吠えるではないか、面白い!ならば弱者よ!この俺を倒してみせるが良い」 ニタリ、と楽しげに笑みを浮かべる焔鬼。 「其は鬼の道。 ただ飢えと渇きを満たさんが為、屍山血河を踏み越える」 爆砕戦気。 破壊的なオーラを纏いながらそう言うのは『水龍』水上 流(BNE003277)だ。 「其の道、我等が断とう」 武を修める者であるが故、神に仕える者であるが故、無辜の民を護らんが為に。 「我が名は水上流。水龍の名の下に、汝等を調伏せん!!」 名乗りを上げる流に続くようにリベリスタが布陣を整え、 迷子が流水の構えを、咲夜が守護結界をそれぞれ展開する。 そうして、鬼達とリベリスタ達の戦いは始まった。 ● 戦いの鐘が鳴っても、焔鬼は未だ動かずにいた。 彼らが自らと戦うに相応しい者たちであるか品定めをするように只、見据えるのみ。 故に、リベリスタ達を積極的に排除しようとするは彼の配下である6体の鬼達のみ。 そして其れは、先に配下を殲滅せんとするリベリスタ達にとっては都合の良い事であった。 まず最初に動いたのは、刻だ。 前衛に立つジェスター、迷子、流、零二より少し後方に位置し 前衛を抜けてくるやも知れぬ鬼が後衛に行かぬようブロックしつつ戦うのが彼女の役目。 刻の足元から、黒く澱んだ瘴気が溢れかえる。 ズキリ、と胸が痛む。其れは強力な瘴気を生み出す際に伴う――反動。 暗黒が前に出てきていた6体の鬼達へ呑み込まんと濁流となって襲いかかる。 襲い来るその瘴気の濁流から逃れたのは、僅か2体のみ。 残りの4体は咄嗟に防御の構えを取るも 綺麗にそのまま飲み込まれ、痛みに悶え苦みながら悲鳴を上げる。 その怨嗟の声を聞いて、刻は心地いいと感じていた。 そんな刻に続くように、今度は咲夜が動く。 もしも焔鬼が動いた際にその攻撃の範囲内に入らぬよう。 けれど仲間の傷を即座に癒せるように気をつけながら、後方に位置取り。 「まずはあの敵じゃな。合わせるのぅ?」 符術によって生み出した式神の鴉を、先程の攻撃で傷ついた鬼達の1体へと放ってゆく。 が、流石は鬼と言う所か。 傷ついた身体でありながらも、素早い身のこなしで放たれた鴉を携えた日本刀を使い捌ききっていく。 「配下とはいえ、流石にやるのぅ……」 幼い子供が拗ねるような目で、攻撃を捌いた鬼を見据える。 「非力な人間風情、この先には決して行かせはせんッ!」 武器を構え、飛び出してきたのは先程刻の攻撃を躱したうちの1体。 手にした日本刀で目の前にいる零二へとそのまま斬りかかる。 そんな鬼の斬撃を、零二はすんでの所で躱してみせる。 「踏み込みが甘いな」 「全くだ、なっていない……それでも俺の部下か?真面目にやれ!退屈だぞ」 焔鬼が部下を脅し、一喝する。 これ以上無様な所を見せるのならば、俺が殺してもいいんだぞと。 そんな焔鬼の一声で、鬼達の眼の色が変わる。 焔鬼の『殺す』は恐らく、冗談ではない。 この鬼ならば、例え味方であろうと本当にやりかねないのだ。 そうして部下を一喝した焔鬼はそのまま。 「攻撃というのなら」 焔鬼が、焔を纏う日本刀をリベリスタ達へ向ける。 「これくらいはしなくてはなぁ!」 爆焔砲。 火山の噴火を思わせる勢いで刀の切先から生まれた焔の塊が流星の様に飛来し。 辛くも躱したジェスターと迷子、射程距離に入っていなかった咲夜とエウへニアを除く 流、零二、刻、禅次郎の4人へと次々と着弾し、爆発してゆく。 「今のを躱すのが2人か。 面白い、面白いぞ人間共、見込み通りだ! 命中した者達も此処で終わるような者達ではあるまい?立て、立ってみせろ!」 楽しいぞ、と焔鬼が笑いながら刀をリベリスタ達に向ける。 「全く、厳しい戦いだな……だが臨むところだ」 先ほど躱した鬼の一撃とは比べ物にならない一撃に、零二が笑う。 個での実力は間違いなくヤツのほうが自分達よりも格上だろう。 しかし。 「オレ達は皆、命の一滴、運命の一片迄……この戦に賭けている! 焔鬼よ、お前の焔でも、刃でも……!そう簡単に屠れるものとは思わぬことだ!」 負ける訳にはいかないと零二が焔鬼を睨みつける。 「貴方は戦えればそれでいいのね。 うん、それはとても素敵な感性だと思うわ」 そう言いながら立ち上がるのは、刻。 自分がアークに居るのは楽しむのに都合が良いからなのよねと彼女は言う。 「だから、この時を楽しみましょう、ご同類さん?」 その言葉を聞いて焔鬼はとても嬉しそうに。 「楽しませてくれ!この俺の退屈を、渇きを潤す戦いを!」 そう、言葉を返したのだった。 ――この者達は、強い。 焔鬼は思う。 あれ程の攻撃を受けて尚立ち上がる。 ああ、最早こんな城がどうなろうと俺は構わん。 「行け、お前達も俺を楽しませろ!」 それ以上自らが攻撃する事なく。 あえて配下の鬼を、リベリスタ達に差し向けるのはある種の信頼。 この者達はこんな雑魚共にやられる奴らではない!! 久しく忘れていた戦いの高揚を思い出させてくれる強者達よ。 お前達を倒すのはこの俺――焔鬼だ。 「わしも戦いは好きじゃからなぁ」 利害関係が一致したな、と迷子は焔鬼を見ながら言う。 彼女の目には最早、眼前の配下の鬼達など映ってはいない。 その瞳に映すのは焔鬼のみ。 刃物や鈍器と例え打ち合おうとも問題ない程の頑丈さを持つ武器。 即ち大煙管に炎を纏い、力任せに近くの鬼を薙ぎ払う。 クリーンヒットしたその一撃は、命中した鬼の身体を炎で焼き尽くし塵に返す。 更に、そのまま流れに乗るように。 今度はジェスターが愛用のジャマダハル――Lesathを構え、自身の幻影を生み出してゆく。 幻影達が繰り出すは、蠍の毒針を思わせる神速の突き。 次々と繰り出されるその攻撃は、幻影に翻弄される手負いの鬼達を次々に仕留め。 残る鬼は、たちまちの内に2体のみを残す形となった。 「どうだい。 あんたの飢えは、何とかなりそうかい?」 そう焔鬼に問いかけながらエウへニアが素早く目の前に魔方陣を展開し、 其処から生み出された魔力弾、マジックミサイルを手負いの鬼の内の1体へ向け、放つ。 着弾と同時に、爆発が巻き起こり黒焦げとなった鬼はその場へと崩れ落ちる。 最後に残った1体も、禅次郎の放った魔閃光と流のギガクラッシュの前に最早為す術もなく。 「残るは焔鬼、お前1人だけだな」 爆砕戦気によって、自らの力を高めながら零二が焔鬼を見る。 1対8だというのにも関わらず何処か余裕を持った表情の焔鬼。 ――ヤツは、焔鬼は強い。 恐らくはこの状況でようやく同じ土俵に立ったばかりなのだと零二は思う。 「全員で掛かるぞ!」 その声を受け、全員が一斉に焔鬼へと向かっていく。 ● 焔鬼が、動く。 リベリスタ達が動くよりも、速く、疾く――恐るべき速度を以って。 即座に間合いを詰め、眼前の全てをその射程距離におさめた後。 今度は、本気で目の前にいる強者達を、更なる強さを以って叩き潰す為に。 猛り狂う焔を纏った刀を噴火させる。 「フハハハハッ!さぁ、もう一度だ!とっておきの花火を上げてやろう!」 巻き起こる爆焔が、戦場を埋めつくさんと迫る。 とても躱しきれる量ではない。 そう直感してからの禅次郎の動きは誰よりも早いものだった。 メンバー唯一の癒し手である咲夜を庇うように焔の前に立ちはだかり。 次の瞬間、戦場の全てを溢れんばかりの焔が埋め尽くした。 人も、鬼も、その全てを焼き尽くさんとする灼熱の焔。 そのたった一撃で、焔鬼は自身の前に立つリベリスタ達のほとんどを焼き払って見せた。 「すまぬ…助かったのじゃ」 小さく言葉を漏らす咲夜の前で、満身創痍の禅次郎が崩れ落ちる。 否。 崩れ落ちはしなかった。 優勢と、劣勢には翼があるのだという。 そしてその翼は、最後まで決して諦めない者達のほうへと飛んでゆく。 崩れ落ちそうになる足を踏ん張り、禅次郎は眼前の敵をしっかりと見据える。 ――まだ、終わりじゃない。 そう、運命の翼は。 仲間のために命を張った彼を。 そして、そんな彼の仲間たちである彼らを決して見捨てはしない。 直撃を受け、一度は倒れたリベリスタ達が1人、また1人と立ち上がる。 立ち上がるリベリスタ達を見て、焔鬼の顔が驚愕に染まる。 「バカな……、直撃だったはずだ。 何故だ、何故それ程の攻撃を受けて立ち上がれる!?」 其れは、焔鬼が初めて見せる焦燥。 幾ら目の前の者達が強者といえど、今の一撃を受けて立っていられるはずがない! 彼は知らなかった。 理解出来ていなかったのだ。 リベリスタ達が運命に愛される理由。 死をも恐れぬ勇気――その、意思の強さを。 焔鬼が一歩、後退する。 刀を持つ手が自然と震える。 そんな、生まれて初めての焦燥と恐怖を感じつつある焔鬼に。 「対策も兼ねて、背後に廻る隙もなかったっす。焔鬼、今の一撃すげぇ楽しかったっすよ!」 唯一、絶望的とも思えた爆焔の直撃を躱しきったジェスターが言う。 「死線の果てにこそ、オレ達の未来がある……」 それが『人』の強さだと、零二が言う。 「一手間違えばあっという間に死すというのに、戦いは面白いのう。 わしは過去がない。積み重ねてきた物がないから失うものがない だからこそ命一つを賭ける戦いというものが何よりも面白くて仕方がない…!」 楽しさからか迷子が饒舌になる。 「世界を守ることに興味はないが、リベリスタはお主らのようなのといつでも戦えるからやめられん!」 本当に楽しそうに、そう迷子が言うと隣にいた刻が頷く。 「赤と青。 焔の鬼と水の龍。 何とも因果なものだと思われませぬか?」 湧き出づる運命を見事、その身に抱き掴みとった流が焔鬼に言う。 運命は――死をも恐れぬ勇気を以って、仲間を守りぬいたリベリスタ達を選んだ。 決着は、近い。 ● 満身創痍の中。 自らの身体が傷つくのも厭わずに刻が動く。 最後の力を振り絞った彼女が創りだすは、漆黒の霧。 焔鬼の周囲を漆黒の霧からなる黒い箱に閉じ込め、苦痛を与えていく。 「ハハハッ! 楽しい、楽しいぞ!」 ありとあらゆる苦痛が焔鬼を襲う。 身体が麻痺し、所々から血が噴き出していく。 だが、まるで其れを楽しむかのように焔鬼は声を上げる。 反動に、ぐらりと崩れ落ちそうになる刻。 幾ら耐えぬいたとはいえ、先程の焔鬼の一撃は本当に致命傷だったのだ。 そんな刻や、仲間たちの傷を癒すのは咲夜の天使の歌。 「誰一人欠ける事なく、最後まで立ち続ける為に」 清らかなる詠唱によって響く福音が、仲間たちの傷を優しく癒してゆく。 「絶対に皆で帰るのじゃよ」 小さくそう呟いた咲夜の言葉に仲間たちが強く、頷く。 「のう焔鬼よ」 「なんだ、俺の理解を超えた強き者よ!」 「強者なら、この上に格別のがおるじゃろうに。 わしは人間と戦うのは大好きじゃがお主は相手が鬼では不満なのか?」 どうしてそちらと戦わなかったのかと、炎を纏った大煙管を振り回しながら迷子は焔鬼に問う。 「どうだかな、だが俺は戦えたのがお前達で良かったと思っているぞ! お前達の様な者を俺は見たことがない!まるで、そう、この世界に愛されているかのようだ!」 そう言って笑う焔鬼の土手っ腹に、迷子の会心の大煙管がヒットする。 僅かに揺らぐ焔鬼。 其処に追撃を加えるように跳躍したジェスターがそのまま、焔鬼の死角から強襲する。 運命に選ばれたその一撃は、回避の隙など一切与えず的確に焔鬼の身体を貫いていく。 「いいぞ、今のはこの戦場で見たお前の攻撃で一番輝いていた!」 焔鬼が歓喜する。 思えばいつもは只、蹂躙する側だった。 刀を振るえば糸の切れた人形のように崩れ落ち。 焔を放てば、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていく。 退屈だった。 だが、今は違う。 「嗚呼、心が満たされていく!」 「その分だと、どうやら渇きは満たされたらしいね」 「だがまだ足りぬ。もっと楽しませてくれ!」 頷きながら、エウへニアがマジックミサイルを放つ。 魔弾が次々と着弾し、焔鬼の身体を黒く焦がしてゆく。 しかし焔鬼は倒れない。 ボロボロの身体で、尚も立ち続ける。 「本来ならば、此処で倒れる所なのだがなぁ……お前達のように立ってみせようではないか!」 そんな焔鬼に今度こそトドメを刺すべく、零二、流、禅次郎の3人が動く。 零二の振りかぶったバスタードソードが、激しいオーラと共に焔鬼を怯ませ。 続く流が、水上家重代の宝刀――瀧丸に雷光を纏った強烈な一撃を加える。 衝撃に耐え切れなかった焔鬼の身体が、大きく揺らぎ宙へ浮く。 そうして、最早満身創痍となった焔鬼へ。 禅次郎が禍々しい黒光を帯びた銃剣と共に迫る。 告死の呪いを以って、この戦いを終わらせる為に! 「ハハハハハッ!」 禅次郎の銃剣に身体を貫かれるのがそんなに嬉しいのか、焔鬼が笑い声を上げる。 「何故笑う、焔鬼」 「何故、何故だと!?これが笑わずにいられるか!? 俺は今、この身を蝕む退屈という名の病から解放されたのだぞ!」 「そうか……良い事を教えてやる。 お前が行く場所は等活地獄。 人間界の時間で1兆6653億年は戦っていられるぞ。 良かったな、きっとこれからも退屈しないで済む」 そう、自らに言う禅次郎に。 「莫迦を言え、お前達程の相手、地獄にも居るものか。 お前達のせいで、また退屈してしまいそうだ……嗚呼、楽しかったなぁ。そうだ」 お前達、俺を楽しませに地獄まで来てくれと。 そう最後に言い残し焔鬼が静かに消滅していく。 其れは、この戦場で起こった戦いの終わりを告げていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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