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<鬼道喰らわば>月夜を恋う童唄


 意図せぬ所で恋が始まる。
 愛しい、愛しい、愛しい、愛しい――
 その紅の瞳に出来る事なら映りたい。
 嗚呼、そうか、御前様の為だ――
「守ろう、行かせは致しませんわ、人間如きが」
 この恋情は紛れもない忠誠。
  
 貴女がこれ以上先に通しはしないと仰るのなら。
 通しはせぬ、通しはせぬ。ここから先には行かせはせぬ。
 
 城から遠い、外堀に立つ鬼は恋患う。
 行かせはせぬ、通しはせぬ。此処が貴方方の死に場所となる。
 恋は美味――御前様がこの城外で喰いとめるというならば。
「御前様、私は――絲鬼は、貴女様の願うことならば、何でも――ああ、喰われてしまいたい程愛してる」



 『逆棘の矢』――争奪戦を巻き起こしたアークと鬼たちであったが、その成果は二本の矢の確保に終わった。しかし切り札を二本確保したという成果は大きい。
 まだ、足りない。
 そう、鬼道は強力である。それも予想を超えて、遥かに。それは矢に『意味』がある証明になりえるかもしれない。
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は此処まで語った後に一つ、息をついた。
「現時点においてはまだ対策は完璧じゃない。それでも――決戦に踏み切るしかない」
 その双眸に宿るのは怒りか、それとも不安か。
 少女の真摯な瞳はリベリスタ達を見まわした。
「それでも、これ以上の暴挙を繰り返させるわけにはいかないでしょう」
 頷きあう、誰もその言葉を否定する者はいない。誰だってそう思うから。
「作戦目標は鬼道の本拠地『鬼ノ城』の制圧及び鬼ノ王『温羅』の撃破。公園に出現したこの城は一筋縄ではいかない――強大な防御力を持っている。」
 難しいかもしれない、それでもやってくれる?
 イヴの目は真実を語っていた。本当に簡単にはいかない。けれど其れに屈する者はいない。
 頷きあう彼らを見てイヴがほっと胸をなでおろす。

「任務の概要を説明する。
 私たちの第一の関門、障害は『烏御前』――そう四天王の彼女。彼女とその配下の部隊。
 彼女らは城へ敵を寄せ付けまいと積極的な迎撃をしてくると思う」
 それでも、彼女の居る場所を制圧できれば城外周部の安全度が変わる。後方回復支援部隊の援護効率が向上するのだ。
「次に第二の関門は城門。障害は四天王の『風鳴童子』。城攻めは守備が有利と言う。
 地の利はあちらにある――精巧な抵抗を見せるはず。
 城門を突破できても次にあるのは御庭。そこには『鬼角』率いる近衛部隊が戦いを待っている。
 この二つを制圧できれば鬼ノ城本丸への進撃が効率的になるし、敵の強化が解除される」
 イヴはそこまで言い小さく嘆息する。
 此処まででも難しい。けれどこれで終わりではない。
「それから本丸下部。そこの防御をしているのが『禍鬼』。手ごわいのは確か」
 ――『温羅』との決戦に臨む部隊の余力を温存できるかは各戦場での勝敗にかってくる。
 全て外せない重要な事項になるのだ。
 イヴが此処から聞いて、とリベリスタたちに向き直る。
「これが一番重要。『風鳴童子』、『鬼角』、『禍鬼』は矢を――『逆棘の矢』を有してる。
 彼らの撃破に成功すれば矢を奪い取れるかもしれない」
 リベリスタ達がざわめいた。
 あの『温羅』への対抗策の『逆棘の矢』を手に入れる事が出来ればきっと戦況も好転する。
 ここでイヴが一息、重要な事項は言い切った、後はここに集まった者へのお願いを伝えるだけだった。

「皆に頼みたいのは、烏御前を愛してやまない『絲鬼』が主となった鬼の部隊の討伐」
 愛して愛して――愛しい御前が大事で、愛してやまない少女の姿をした女鬼『絲鬼』。
 その鬼らは城外で、御前が望んだ『ここを通さないで』を守るべく戦いの時を待っているという。
 ――鬼たちは強い。気をつけて。
 イヴの瞳が不安で曇る。しかし、彼女は目の前のリベリスタ達が兵ぞろいだということを知っている。

「お願い、成功すれば戦況は好転する。だから」
 ――だから、どうか、勝って。
 少女は祈る様にそう呟いた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月06日(金)01:37
 愛しい者の為ならば。
 こんにちは、椿しいなです。それでは鬼を退治いたしましょう。


●重要な備考
・このエリアは『城外』です。
・このエリアの作戦達成効果は『後方回復支援万全化』です。
・当シナリオの結果次第でエリア『城外』の作戦達成度が変動します。
 エリア『城外』の作戦達成度が目標値以上になると作戦達成効果が発動し、アークに有利が発生します。
 作戦達成度の目標値については『鬼道喰らわば』作戦ページをご確認下さい。
 作戦達成効果は『温羅』との決戦に適用されます。(例えば回復支援が万全なら後退で回復支援を受けられる為、死亡確率が低下し、立て直し易くなります。進撃効率が上がれば大きな被害を受けずに目標に到達出来ます。鬼角の術が破れた場合、温羅の防御力が低下します)


●戦闘場所
 今回は夜襲となります。夜の鬼ノ城城外で御座います。
 

●敵詳細
【絲鬼】(いとしき)
 短く切りそろえた黒のおかっぱ頭にやけに白い肌、瞳の色は澄み切った空の色。
 烏ヶ御前を愛してやまない幼い女鬼。手には日本刀。戦闘時は後衛で指示をしてきます。
・愛霞(神遠複// 魅了or混乱)
 視界を遮る霞です。愛しさを力に変えて。心に迷いがあればある程濃く見えるでしょう。魅了又は混乱を付与
・刻絶(物近単// 虚弱or流血)
 日本刀で想いを絶つ。近づくと其の刀を振りかぶり切り裂きます。流血又は数分の一の確率で虚弱を与えます。
・夢解(神近単)
 想いを固め作りだした氷の腕で攻撃を行います。

【配下鬼】×10
 手には金棒を持っている鬼達です。絲鬼と同じく烏ヶ御前に並々ならぬ愛情を持っています。戦闘時は前衛にいます。
・金棒で殴る(物近単)
 金棒で殴り付けます。数分の一の確率で混乱を付与
・愛の告白(配下鬼のうち3匹が使用//神遠単・味方回復)
 普通の配下たちと区別はつきませんが3体のみ仲間が傷つくと回復行動に出ます。

それではご参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ソードミラージュ
架凪 殊子(BNE002468)
覇界闘士
李 腕鍛(BNE002775)
デュランダル
雉子川 夜見(BNE002957)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
プロアデプト
シメオン・グリーン(BNE003549)
ダークナイト
★MVP
スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)


 夜の空気はやけに冷え切って、此処で行われる戦闘の過酷さを示しているかのようであった。
 仰ぎみれば憎き城。城を守る事を目的とした小さな鬼。
 短く切りそろえたおかっぱの髪をまだ冷たい春風に揺らせ、何よりも愛しい人を想い、少女は口元を歪めた。
「御機嫌よう、人間さん」
 澄み渡った空の様な眸は少女の迷いのない様子すらも顕している。
 彼女の瞳がとらえたのは、人間――そう、リベリスタ達であった。
 スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)は髪を春風に揺らし、彼女より幼い鬼を見つめる。
「絲鬼さん?」
「如何にも、わたくしが絲鬼ですわ。人間さん」
 スペードの問いに答えた幼い鬼、絲鬼はくるりと回り纏っていた赤い着物の裾を揺らし笑った。
 青い少女は思う。絲鬼の、愛に殉じた鬼の名前を記憶しようと。
 絲鬼が願ったのはきっと彼女の最愛の人にして主であろう烏ヶ御前からの寵愛。叶えてはやれぬその願い。届けてはやれぬその愛。少女は彼女の願いを絶つと決めた。
 それが彼女の覚悟なのである。
「あなたの生き様を刻みつけましょう」
 少年は楽しそうに月夜に舞う幼い鬼の姿を見つめる。
 『落とし子』シメオン・グリーン(BNE003549)は新たなひらめきを胸に、愛に生きる鬼をただ、ただ、遠目から見てるだけであった。
「キミ達と分かり合う事ができないって僕もわかったよ、――」
 ふと、漏らしたのはこの場にはいない相手への言葉。意味は絶望だろうか、それを耳にした絲鬼がぴくり、と反応した。
「分かり合う、分かり合うなんて!」
「でも、感謝はしているのさ」
 それで如何、シメオンの言葉にむっとした様な幼鬼は水色の瞳をすっと細めた。
「わたくしが知ったことではありませんけれど」
「絲鬼殿は可愛いでござる」
 絲鬼に声をかけたのは『女好き』李 腕鍛(BNE002775)であった。少女はそのやけに白い肌を赤く染める。その様子だけ見ればまるで人間と変わりがなく見えた。
「恋する女の子は、例え鬼で有ろうとなんであろうと可愛く可憐で美しいと相場が決まっているでござる」
 だがしかし、その恋情が人間と鬼の相互理解には役立たなかったというのが彼にしては残念で仕方ない。
 愛に生きているならば、此方と、自分たちと分かり合うこともできるのではないか。瞬時によぎった思いも、世界の悪戯で不可能と言われてしまう。
「世界の平和の為、倒させていただくでござる」
 腕鍛の言葉に絲鬼は一礼した。ご機嫌麗しゅう、人間の皆様――

「さあ、愛故に絲鬼、参ります」


 幼い姿をした鬼、と『月刃』架凪 殊子(BNE002468)は呟いた。
 恋は甘酸っぱく、素敵である。
「状況が違えば応援してやりたいものだが」
 だが、此処は敵と味方、戦場である。甘ったるい恋情を誰よりも大切にしている鬼の娘と、世界の平和――いや、自身の住まう世界を守るために戦う蝙蝠の少女。
 互いに譲れぬ想いがある、ぶつかり合うしかできないのだ。少女はその素早い脚で戦場を駆け抜ける。
 一気に幼い鬼へと近づいた所で、少女が不敵に笑った。
「人間さん、貴女が世界を愛するように、鬼の世界を愛してる者だっているのよ」
 絲鬼の前に立ちはだかった10体の鬼たち。少女は鬼と目が合う。少女は口元に肉食動物の獰猛な笑みを浮かべた。
「貴様ら如きに遣られてはやらん」
 殊子の後ろ姿を見つめて一歩踏み出したのは『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)であった。
 少年は大切な人の為に、愛しい相手の為に、何かを成し遂げようとする気持ちが痛いほどに分かった。
 彼にも守りたい人が沢山いる、愛しい恋人や、相棒や、親友や――今この戦場に共に立つ戦友たち。
「幼い女の子だって、僕は迷わない」
 目の前で笑う絲鬼の姿を少年は月の様に輝く瞳で射た。絲鬼の白い肌が生きていることを証明するかのように月の光を得て輝いた。
「君が愛の為に立つのならば、僕はこの世界のすべての人間の為に立つ」
 彼は正義の味方でも、最強の肩書を持ってもいない。だが、そんな肩書などなくても彼には守りたいものを守るだけの力と、気持ちがあった。
「ご機嫌麗しゅう、愛に生きた鬼さん、此処は通してもらうよ」
 少年の虚空を切り裂く蹴撃は殊子の隣を走り、絲鬼へと向かおうとしていた。
「ご機嫌麗しゅう、素敵なお兄様」
 幼い鬼は舞うように避け、日本刀を振るった。ぎいん、と鈍い音を立てて彼女の刃とぶつかる蹴り。
 一筋縄ではいかない相手だ、と雪白 桐(BNE000185)は思う。
 桐も少女と戦うことが辛かった。大事にしたい人がいる、守りたい人がいる。お互い守りたい気持ちで溢れている。彼女の気持ちも分かるのに、戦わねばならないのか。
 少女が大切な人の願いを守るために、大切な人を守るために其処に立つのなら、自分もまた、守りたいものの為にその場に立っている。
 彼は生きる。その強い意志を、生命力を、戦う力に帰る。猛激する準備をする。
「貴女は何のために戦ってるんですか」
「わたくしは、愛しいあの人のため!愛しいあの人が望まれるなら、この命捨ててまでも!」
 少女の叫びが戦場を震わせる。
 ――愛して、愛して。
 絲鬼のその声と共に霞が視界を遮った。彼女の心の愛を映し出すかのように濃い霞に『蒼い翼』雉子川 夜見(BNE002957)は小さく舌打ちする。
 彼は情など捨てた。彼は愛を遵守する幼鬼など関係ない。淡々と戦いを遂行するのだ、戦場に持つべきものは情ではない、ただ彼の握りしめた小太刀のみ。
「さて鬼退治だ、雉子川夜見、参戦させてもらう」
 ――お前の愛の霞など、消し去ってやる。
 彼はその身に素早さを纏う、風となりて、闇を裂く。それがこの蒼い翼をもった天使なのである。
 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の眸は絲鬼と同じような澄んだ晴天を顕していた。
 彼女は迷い、と呟く。
「…どうかな、だれも好きじゃなくてただ拳を固めるだけのわたしは迷ってる?」
 霞が濃い、と涼子は思う。視界をさえぎってしまう霞。だが、彼女は激情を胸に抱いている。彼女は空虚であった。ただ、その手のつかめるものはあまりなくて、だからこそ迷いがあるのかと問うた。
「わたくしは、それを迷いと言うのかは存じませんわ」
 絲鬼が笑った。涼子には何もないけれど、彼女は信じる拳と、彼女を動かす命と、彼女の迷いを顕す心があった。彼女は彼女であった。
「……めんどうだ」
 先にお前をぶっ飛ばしてやるよ、そう涼子は嗤う。絲鬼が小さな笑みを漏らした。
 シメオンの意思を秘めた聖なる光が戦場を焼き払う。
 数匹の鬼がその場でのたうちまわった。痛い、痛いと体を揺らす。
 だが、まだだ。絲鬼の目の前に立っている鬼たちが彼女の小さな姿をかくしてしまっている。腕鍛は攻撃をしながら思う。
 回復を使う鬼がいる、と聞かされた話があった。その鬼が何処に居るのかをまだ、突き止められていない。
 鬼が走り出す、振りかざした棍棒がシメオンの傍を立ち回りながら戦場を走っていたスペードを掠めた。
 「ぅ、ぁ――っ」
 瞬時に脳に浮かんだ、助けてという言葉。だが彼女はその言葉を飲み込んだ。
 鬼と、人。けして交わらないと分かっているのだから。奪い合うと決めたのだから。彼女への、幼い鬼への彼女なりの精一杯の敬意を顕す作法になるから。
 彼女の放った黒き力が鬼へとブチ当たり、鬼が後ずさった。
 月明かりに照らされた涼子が鬼の横へ回り込み、彼女の瞳に宿った激情に狂ったオロチを放つ。
 鬼は思う、自身たちよりも鬼らしいのはこの人の子ではないのか、と。
 殊子は鬼らの中心で笑んでいた。
「貴様らなど見てはいない、先に見据えるのは貴様らの御前だ」
 澱みなき攻撃で鬼へと攻撃を封じさせる、身を守ることしかできなくなった鬼の驚愕の感情を見つめ、肉食獣の様な娘は獰猛な笑みを向けた。
「さぁ、集まって止めに来い。その金棒の向かう先、全て私に寄越せ」
 彼女は背後を仰ぎ見る。背後で攻撃の期を待つ夏栖斗を見つめる。
 彼の放つ虚空を全ての敵に浴びせるために、少女はその身に攻撃を浴び続けている。血が溢れる、金棒での打撲でやけに腕が痛んだ。
「僕らは生半可な気持ちでここに居る訳じゃない!」
 少年は、決意を固め蹴りを繰り出す。蝙蝠の少女を巻き込んだその攻撃は背後に居た絲鬼へと届き、彼女の頬に傷をつけた。
 鬼が愛を叫ぶ。倒れかけた仲間へと激励を繰り出す愛している、あの方を守るために立ちあがれ。
「回復鬼、あいつでござる!」
 腕鍛が叫び、鋭い蹴りで愛を叫んだ鬼へと攻撃を繰り出した。
 鬼が、愛を叫ぶ、その言葉はまるで呪詛の様にその身に戦う意思を宿らせる。
 彼の声に反応した夜見が目の前に立ちふさがった鬼へと全身のエネルギーを込め一閃する。
 吹き飛んだ鬼の目は遠い何処かを見ているようだった。
「誰かの事を一途に想えるって素晴しい事だね」
 ――だったら、此処で死ぬのだって本望だろう?
 シメオンが叫んだ。鬼たちは一斉に彼を見つめる。もう弱ってきてるだろう鬼3体が彼に向って走ってくる。
 彼は聖なる光で鬼らを包み込む。焼き払え。愛に生きた鬼さえも。
 一体が抜けてくる。彼をめがけて走ってきた鬼の前にスペードが立つ。
 彼女の運命が燃え上がる。くるくると、くるくると、巡れ巡れ。
「まだ、立てます……っ!」
 彼女は目の前の鬼から守るべき相手を庇い気丈に笑った。
 少女の体は殴られた傷でズタズタになっている。しかし彼女の決意は固い。愛の霞で行く先を隠されてしまっても切り開く意思があるとその目は語っている。。
 戦場を見つめる桐は迫ってくる鬼を避け、その身から電撃を放つ。
 負けるわけにはいかないのだ。金棒を振りかぶった鬼の攻撃をその腕に受ける。
「負けませんよ、あなたになんか負けてやりませんよ」
 少年の赤い瞳がぼんやりと光った。決意を固める、大きな刃を振りかざす。
 彼の後ろに居た鬼が愛を叫ぶ。
「居ました!二体目です!」
 その声に仲間たちが全員一斉に攻撃を仕掛ける。しかし――彼らの目の前に霞がまた広がった。
 愛しいの、愛しいの!
 絲鬼の澱んだ愛が蔓延する、愛を求める、愛が広がり、視界を遮る。
 殊子は戦場の外に残してきた友人らの顔を浮かべて霞を振り払う。陶酔が過ぎている小さな鬼を見つめて不敵に笑った。
「私は、貴様の愛し方嫌いではないぞ絲鬼」
 ――温羅は強いのか。
 その問いに絲鬼は悲痛の表情を浮かべ胸を抑えた。
「強くなければ、わたくしたちはこうしてこんな所を守りませんわ」
「ならば、ここで私たちを足止めした時間は確実に烏ヶ御前の役に立っているよ」
 絲鬼の表情が悲しげに揺れる。
 無傷とまではいかず、遠距離攻撃を受けていた彼女の着物の裾は綺麗なままではない、泥に汚れ、破け、その頬にも傷を負っている。
「もう、汚れてしまったわたくしは御前様には愛されませんわ」
「愛したものを信じろ」
 言われなくても、少女の瞳に怒りが宿る。
 彼女の怒りは殊子に向いた――愛している人が自分を見てくれないと分かっていても信じている。それは貴女に言われなくても十分に分かっている。
 彼女の怒りを感じ取るかのように残っていた6体の鬼たちが一斉にリベリスタ達へと攻撃を繰り出した。
「お嬢さん、そんなに烏ヶ御前が好きなの?」
 ――君を見ていないかもしれないのに。
「うるさいうるさいうるさい!!!!」
 私を見て、私を見て――
 少女の怒りを感じた鬼が夏栖斗を金棒で殴る。彼は少なくなった力を補充する様に一体の鬼の首にかみつき、力を得る。
「好きなんだったら、その気持ちを大事にすることが大事でござる」
 目の前に居た鬼は三体目回復手であった。愛しいと言葉を発し仲間を激励する。腕鍛は炎を纏った一撃を叩きこんだ。
 攻撃を喰らいすぎた回復手がその身を地に伏せる。
「絲鬼殿、信じられないならそんな気持捨ててしまえばいい」
「心に迷いがあるのは貴様だろう、絲鬼」
 彼はその剣に無を乗せる。愛や恋などの情はない――ただ、敵を倒すだけ。
 剣戟を受けた鬼が膝つく、彼の鬼に向けて涼子が拳を叩きこんだ。
「……だいたい、気に入らないんだよ」
 絲鬼を見つめた涼子が吐き捨てる。優しい黒、白き肌、青い瞳。何処かの誰かのようだ――
 涼子が絲鬼を憎悪に歪んだ瞳で睨みつけた。
 鬼たちが倒れる、残された鬼に叩きこまれた罠が一体の鬼を絡め取った。
「わたくしは、絲は、絲はただ、御前様の為!」
 彼女の振りかざした刃が目の前に立っていた殊子へと振るわれる。
「私も同じだ。言葉を信じ、代行の刃となって敵を屠る。譲れぬし、捻じ曲げるのを許すわけにも行かんよ、この想いは」
「絲だって!絲だって!」
 幼い女鬼は錯乱したように刃を振るう。
 舞う――
 舞い踊る――
 少女はリベリスタ達の攻撃を避ける。その攻撃を一撃でも見舞われたら倒れてしまうと語る様に。
「君の気持ちを彼女は知っているのか、君の独りよがりじゃないのか」
「絲の独りよがりですわ!でも、いいの、いいの!絲は御前様が微笑んでくださるならそれで!」
 絲鬼は泣き出しそうなほどにその眸を歪め、何故、と自身を囲んだリベリスタ達を見つめた。
「運命なんて幾らでも燃やします。私たちは守りたいものがあるから」
 そのためなら、いくらだって。
 桐の振りかざした攻撃を絲鬼は受ける、その刃はもはやその身を支えることしかできなくなっていた。
「何故!何故!?」
 ――何故あなた達はそこまで必死になれるの?わたくしは愛しい人の為にしか頑張れないのに。
 少女が泣き叫ぶ。作り出した氷の腕が夜見を狙う。想いを固めたその腕は彼の攻撃により砕かれた。
「その想い、砕かせてもらう」
 少女の空の様な瞳が呆気なく砕かれた自身の思いを見つめ、茫然と開かれる。
 幼い姿の彼女の慟哭が響き渡る。
 名前を叫ぶ、御前様、御前様、好き、好き、好きです。
 ただ、少女は叫んだ。
「これで……、終わりにしましょう……?」
 優しい少女が繰り出した暗闇に囚われた。

 ――御前、様…?

 少女が月へと手を伸ばした


 戦場に静けさが訪れる。
 倒れた少女の眸を閉じた腕鍛は彼女の頬に残った傷を撫でる。
 鬼とはいえど、ただ、恋に生きただけの小さな少女だったのだ。
 もし彼女が鬼でなかったなら――恋する女の子は可愛いと褒め照れさせたり、恋愛について語り合えたのだろうか。
「おやすみなさい」
 少女の頬に伝っていたのは涙。涙をハンカチで掬い取った夏栖斗は困ったように笑って、倒れた少女の横顔を見つめた。
「ごめん、それでもこの世界が大事なんだ」
 守るべきは最愛の人。それは彼も、絲鬼も一緒であった。ただ、その思いは夏栖斗が少し強かっただけ。
 彼は最愛の人たちがいる最高の世界を、両腕では抱えきれない大きな世界を守るために前を向く。
「貴様は十分烏ヶ御前を愛していたし、その役目を全うしたよ」
 傷ついた体を引きずった殊子は言う。彼女の信じた思いは強く、意思も強く。
 愛の霞に惑わされることもなかった――彼女は信じていたから。その力も、運命も、彼女は自身の手で掴み取った。
 彼女は前を向く、進むしかないのだ。彼女の掴み取ったその運命を。
「貴女が守っていた方にお見せしますね、守る為に必死に戦った姿を伝えておきます」
 桐が掴んだのは少女の握りしめていた日本刀。彼女が懸命に戦った為か、刃は崩れてしまっていた。
 それでも、幼い鬼が一人の愛しい人の為に盲目的に戦った証拠である。
「願わくば――」
 スペードの祈りに少年らは振り向いてから月を仰ぐ。
 嗚呼、月夜に恋うは童歌。
 
 ――貴女の行く先に、想い人がいます様に。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。
 小さな幼い鬼には少し、大きすぎた愛情だったのかも、しれません。

 MVPは彼女の気持ちに触れてくださった優しいあなたへ。
 彼女の事を覚えてくださってくださるなら嬉しく思います。

 これから戦いも過酷を極めるかと思いますが、
 皆様のしあわせをお祈りして。

 ご参加有難うございました。