●餓えたおっぱい 大山村(たいざんむら) 雄大にそびえ立つ山の麓に抱かれるように、その村は存在した。四方を山々に囲まれ、その谷間を縫うように舗装された路面だけがわずかに外部との接点を保っている。 田畑を拓き、昔ながらの営みを続けるその村には、古くから受け継がれる村独自の教義が現代においてなお受け継がれていた。 『巨乳に非ずは、おっぱいに非ず』 そして今、村は深刻なおっぱい飢餓に晒されている。 時代のうねりは大きな波となり、村から若者と共に大きなおっぱいを攫った。 ――たゆんたゆたゆたゆんたゆん。たゆんたゆたゆたゆんたゆん。 いっそ、希望などなければ良かったのだろう。 絶望という闇に閉ざされれば、大きさのみに拘らないまぶしい魅力の輝きに、村に残されたおっぱいから気付けたかもしれないのだから。 それでも村人たちが希望を捨てなかったのは、この村にはおっぱい神(しん)の加護があると信じていたから。 たゆん祭り―― 村人達の飢えが極限に達した時、村を代表する巫女の身体を依り代とし、おっぱい神自らが救済の恩寵を与えるため現代に蘇ると伝えられる、大山村独自の儀式の呼び名である。 ――たゆんたゆたゆたゆんたゆん。たゆんたゆたゆたゆんたゆん。 夜の帳が降りた村の広場に灯り火が焚かれ、社と呼ぶにはあまりに簡素な木造の祭壇の上に一人の少女が立ち、それを囲むように離れたところに並ぶ男たちが祝詞を唱えている。 (ふふ。バカなおとこたち。おっぱいおっきくなったらアタシはじょうおうさま) 祭壇に立つ少女、平山 壁子(かたやま へきこ)の姿は、なるほど。顔立ちに多くの幼さを残し、この村であっては決してレディとして扱われないであろう自己主張の薄いふくらみを持っていた。 (そしておかしをみつがせるの! じょうおうさまのいうことはぜったいなの。ぜったい!) たゆん祭りの巫女に立候補するには、女性であるという性別以外は問題にはならない。たとえそれが邪な動機であっても、魅力的なおっぱいを渇望する願いの強さが重要視される。 そして最後に、巫女は声高らかに結びの句を読み上げた。 「――たゆんたゆたゆたゆんたゆん。おっぱああぁいっ!」 ●ブリーフィングルーム 「時代の流れに淘汰されるべき価値観ってあると思う」 含みさえ込めて、アークの誇るぺったんこ『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう、切り出した。 「…………」 失礼。訂正させてほしい。 淑女の片鱗を見せながら、今はまだ年相応の控えめなつぼみを持つ少女『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう、切り出していた。 「見て」 巨大モニターの画面に、たゆん祭りの巫女に選ばれた少女、平山 壁子(ひらやま へきこ)の変わり果てた姿が映し出されている。 「村人の悲願は、E・フォースよって成就される」 男達のおっぱい飢餓は遂に、思念体であるE・フォースを招来させるまでの妄執となった。 外観だけでいうなら、平山 壁子の姿はE・フォースに憑依される前とさほど変わりはないのだろう。だが、その一部。奇形とすら形容できるほどに肥大化された巨大すぎる胸だけが、人ならざるものに変貌した事実を如実に物語っていた。 「画面に映る姿はフェーズ2。E・フォースは憑依した人物に合わせて特徴を大きく変える」 村人たちは儀式により、救済をもたらす神が降臨するものと信じて疑わず、平山 壁子もそれは同様だ。 神に抗う意志も、力もない壁子の肉体は、E・フォースの力を十全に引き出す憑代となっていた。 「E・フォースは村人に選ばれた女性に降りてくる。リべリスタであってもそれは例外じゃない」 それでも運命の加護を持つリべリスタであれば、一般人である壁子に比べてE・フォースへの抵抗を可能とする力が多少なりとも備わっているのではないのだろうか。 それにはイヴが首肯で肯定し、 「リべリスタが巫女に選ばれた場合、E・フォースの進行フェーズは1に留まる。でも肉体の支配権は敵に奪われるから、戦闘を回避することはできない」 戦闘となれば、敵は依り代となった肉体の力を引き出し行使するだろう。だが同時に、E・フォースは村人達の願望の体現する思念体でもある。あまりにも戦闘に不向きな宿主であれば、E・フォース独自の攻撃方法に転じる可能性は高い。 「村人たちは『一目拝みたい』という願望が強いから、事前の戦場外への移動はむずかしい。ただ、今回は神秘を隠匿する必要はない」 結界等による人払いの力や、戦闘開始以前の説得は困難ということなのだろう。 また、たゆん祭りは大山村独自の神秘の儀式でもある。祭りを行うこの日は特に、村全体が神秘に対して寛容的になっているということだろうか。 「それもある。けど、一番の理由は村人はおっぱい以外に興味がないし、視線もおっぱいから外さないだけ。恋は、盲目」 E・フォースの現れる大山村に向かうには、一日に数本程度運行しているバスに乗る必要がある。 どれほど急ごうとも到着時刻はたゆん祭りの最中となり、その時点で村人は細かいことが気にならないほどに興奮している。裏を返せば、強く意識を惹く方法でもなければ、説得も無下にあしらわれるのだろう。 「皆が到着するはたゆん祭りの山場、巫女を選ぶオーディションの飛び込み参加者募集を締め切り直前。 オーディションでは『我こそがおっぱい神に選ばれるに相応しい』と主張する時間が与えられる。より多くの村人から支持された女性が優勝」 祭りの最中にまで参加者を募集しているのは、ひとえに村のオーディション参加者が平山 壁子ただ一人であり、盛り上がりに欠けるためであろう。村の外部の者であっても飛び込み参加が歓迎されることは容易に想像がつく。 だが、リべリスタからの参加がなければ、オーディションもなく儀式は執り行われ、E・フォースとの戦闘へと突入する。 必要な情報は出揃った。 リべリスタ達はブリーフィングルームの外へと足を向ける。 最後にふと、振り返れば―― ぺったんこなつぼみの手前に掌を上下させ、 「たゆんたゆたゆ…… Σ」静かに囁く少女の視線が、刺さった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:みみみ聶 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月24日(火)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●魔乳乱神 弾け合うおっぱいとおっぱい。 繰り出す一撃の反動がたゆんと揺らし、防ぐ弾力がたゆん揺らす。 『たゆんたゆたゆたゆんたゆん』 せめぎ合うおっぱいとおっぱい。 空振る風圧がたゆんと揺らし、躱した勢いの慣性がたゆんと揺らす。 守護を誓った対象に視線を向ければ、はだけた服から連想したであろう『ポロリもあるよ!』的な光景を祈祷するべく己に向かい呪詛を吐く。 『たゆんたゆたゆたゆんたゆん』 それすら見えぬ、聞こえぬ、感じぬと、精神を麻痺させ意識を照準の先に収束させる。しかし、 「はぁ、男って……」 沈鬱の吐息と共に洩れ出る諦観の言葉を『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)は留めることはできなかった。 ――三十分前―― (昔から八百万神とか言うけどよ、) 太陽が山の稜線の向こうへと沈んだ、夜の闇が広がる大山村。 『未完の器』護孝 愁哉(BNE002383) の視線の先には疑念を抱くことなく信仰に奉じる男達の姿があった。 (ったく、訳の解らん信仰してやがる) おっぱい神。 村人の飢えが極限に達した時、救いの恩寵を与えるために蘇ると伝承される神の呼び名である。 「たゆん祭り、でしたかしら? 折角ですからどのような祭りなのかとくと拝見させて頂きますわ」 実り豊かな胸を露出の高いメイド服に包む『アリスを護る白騎士』ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132) 「田舎のお祭りって超すげぇ! お胸が大きい者が世を制するって感じだわ、ちょっと感動しちゃうかも」 喜色満面「フハーン!」と感嘆の声をあげる『怪力乱神』霧島・神那(BNE000009) 「巨乳に非ずは、おっぱいに非ず、か。何とも馬鹿げた事を……」 歩を進める度にプルンと揺れる『闇夜に浮かぶ月の光』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082) の見事なおっぱい。 「おっぱい好きって世の中にたくさんいるよね」 開催されるたゆん巫女オーディション。そのフォローに徹するためには主役は二人いらぬと、サイズの合わぬ下着できつく胸を封印した『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545) そうした一団とは少し離れた場所で、村人と言葉を交わす忍びの姿。 大山村の男達は通ずる所のある者を歓迎するのだという。 ならば『巨乳好き』たる彼が魅力溢れるおっぱいズを引き連れてきたと伝えれば、この後の活動もやりやすくなるだろう。 なにやら両者が神妙に頷き、村人が「たゆん」と胸の前で空をたくし上げれば、忍びがそれに返した。 かくして、 「遠路はるばるようこそおいで下さった、深くお礼申し上げる。とのことで御座る」 無事リべリスタ一行は『ニューエイジニンジャ』黒部 幸成(ID:BNE002032)に導かれるように、たゆん祭りの会場へと足を踏み入れた。 ● 燻る白煙が山の大気に霧散する。 芳香を肺に流し込み、やがて『黒腕』付喪 モノマ(BNE001658) は携帯灰皿に煙草を落とした。 「たゆん」 掌を胸の前に掲げ、滑らかに上下へ揺らす。 幾度となく繰り返した甲斐あってか、流れる動作でそれができた。 山中から広場を眺望すれば、つつがなくオーディションが開始される様子が見て取れる。 「真のおっぱいを同志諸君に届けるため。これより巫女選定オーディションを開始するで御座る!」 幕は上がった。 モノマはマントを翻し、役割に徹するための姿へと自身を変える。 ……祭壇に立つ司祭の姿が黒部 幸成にしか見えなかったのは、この際些事だろう。 「エントリー№1。人の生まれ持った可能性が生み出した奇跡のおっぱい。霧島・神那殿ーッ!」 「たゆんたゆんたゆ~ん! フヒヒヒヒ!」 豪放磊落、自らノンアルコールビールをその身に浴びかけ両胸をたくし上げる神那。 濡れた服は吸着性と若干の透明性を得て、艶めかしさをより強調させた。 『おおぉぉ……!』 沸き起こる歓声。村人の眼から澎湃と涙が溢れる。 夢見た。焦がれた。そして飢えた。 されど、決して手に入らなかった光景がここにはあった。 「はぁ~、ふわふわのふっかふか~」 それは同性故の特権だろう。村人の情欲を刺激するため凪沙は顔を神那の谷間に埋め、やわらかく返す弾力を堪能し尽す様に揉みしだく。 指と指の間から、支えきれない程に肉厚な胸肌が溢れた。 『ぐおおぉぉぉ……!』 くぐもる苦悶の声。村人は『く』の字姿の前屈みとなる。 その彼らに向けて、神那は男達のボルテージを最高潮に引き上げる宣言を高らかに放つ。 「私が巫女になった暁にはこの胸で晩酌していいぞぉ!」 『おおぉぉぉおぉぉおおぉぉおおッ!1!!』 「うぐぐ……っ」 神那の放つ『威風』にたじろいだ様に後退る平山 壁子。 「ふ、ふんっ。さいごにわらうのはこのアタシよ」 それでも気丈にぺったんこな胸を張り、少女は幸成から続けられるだろう紹介を待つ。 たゆん祭りの巫女を選定するオーディション。参加者不足を予感した村人はオーディション自体がお流れになると思いこみ、司会者の準備を怠っていただけのことではあるが、その祭祀として黒部 幸成が村人から祭り上げられたことは僥倖といえた。 そして――、 平山 壁子紹介の時を前にして、たゆん祭り司祭、幸成は瞼を伏せた。 黒部 幸成のフォローの力があれば、例えそれが砂上の海に沈む一粒ほどの珠玉であろうと拾い上げ、心響かせるフレーズに磨き上げることも可能だろう。 だがこの場で壁子を優勝に導くことは一般人のエリューション化を促すことを意味する。幸成は己の心を殺し、言葉を紡いだ。 「エントリー№2。(おっぱいの魅力は)特にないで御座る。平山 壁子殿(棒読み」 「Σ」 『しーー……ん』 「うっく……。ひっく」 それでも湛えた涙は目尻に留めたまま、藁をも掴むような視線を凪沙に向ける。 先のようなアピールがあれば勝負の行方はわからない。けれど、凪沙はかぶりを振り、 「壁子ちゃん、悪いけどまだ三次元になってないんだよ」 「さんじげんっ!?」 『二次元と形容できるほどに胸が平坦』を意味する鋭利な言葉は、深く心に突き刺さるようだ。 だが、壁子の心が支えを失い崩れる直前。一つの影が祭壇を駆け上がり、一直線に自身へ向かう姿を壁子は視界の隅に捉える。 壁子は歓喜した。 この際誰であろうと構うまい。例えそれがマントにマスク姿の『私怪しい者です』と全身で主張する謎の人物であろうと、このタイミングで祭壇に駆け上がることは己のアピールを補助するために他あるまい。やはり、おっぱい神は自分を見捨ててはいなかったのだと。 だが、 謎の人物はモノマだった。速度を落とすことなく突っ込んできた。「ぐえぇぇ」当身をきめられた。『がしっ。どかっ!』壁子は気を失った。三次元(笑) モノマは村人に向けて「たゆん」と流れる動作で村独自の礼をとり、 「この貧乳はおっぱいへの渇望もなく参加し神聖なたゆん祭りを冒涜した(中略)このままではおっぱい神様がお怒りになり降りてこない。よって、おっぱい神様の使者であるこの私がこの娘に罰を与える。敬謙な信者諸君はこのまま祭りを続行するがよい!」 そうして、威厳ある演説の声が響くうちに壁子を担ぎ山へと向けて踵を返した。 ● 『汝、たゆんを求めるか――』 言葉は突然、神那の脳裏に直接響いた。 『たゆんを求めるならば』 その声に、意識の深層に沈殿した願望が浮かび上がる。 もとより神那のおっぱいは豊満無双。それでも飽くなき「両胸をもっと大きくしてみたい」という願いに蓋することは叶わなかった。 『――くれてやる!』 「私がやるべき事はE・フォースを倒す事、ただそれだけ」 空気を引き締めるように響く声。神那の胸が変貌していく中で、エルフリーデは凜乎とした態度を崩すことなく狩猟者としての感覚を研ぎ澄ませる。 「ふん……、このような児戯に戯れる事になろうとはな……」 戦闘を予感し、シルフィアの柔らかい語調は高圧的なものへと変わる。 リべリスタの眼前にはかつて神那と呼んだおっぱいとはもはや別物なまでに肥大化したおっぱいの姿。 果たして、E・フォースは村人の願いを聞き届け、おっぱい神となりここに現界した。 『FUHAAAAAN!!!』 「親愛なる同志諸君……偽のおっぱいに惑わされてはならぬ」 厳かにおっぱい神を『偽』と断定した幸成の言葉に、だが村人は釈然としない怪訝な面持ちとなる。 「司祭様。あんたがそげなこといっぢゃいげねぇ。おっぱい神様はここにおるだ」 村人達の視線が注がれる中、リべリスタとE・フォースの戦いは激化の一途をたどる。 しかしその光景を前にして、日常とかけ離れた神秘に気付く村人、言い換えれば『おっぱい以外に視線を向ける村人』は存在しなかった。 「真に崇めるべきおっぱいとは、神の手で与えられたものなどでは御座らん!」 E・フォースに特筆すべき脅威があるとしたら、それは自身の虜である『おっぱい神信者』の体力を吸い上げ、己の回復力に転化す力にあると言えるだろう。 ならば村人の興味をより魅力的なおっぱいへ向けることが、その力を無力化させる有効な手段となる。 「そう、真に崇めるべきはああいったおっぱいなので御座るよ……!」 魂の叫びと共に幸成が指差したその先に、 「皆様ぁ~♪ 此処は危険ですわ、どうぞ、こちらへおいで下さいませ~♪」 露出の高いメイド服で豊満な胸を強調し、谷間をこれでもかと『たゆん』と揺らすうさ耳メイド、ミルフィの姿があった。 「兎は古来よりの神の使い。わたくし、うさ耳おっぱいメイドが皆様を『お導き』致しますわ♪♪」 「うさ耳おっぱいメイドのお導きっ!!?」ああ、哀れ雄の本能かな。ミルフィに向き直る妄想逞しい村人はやはり、揃いも揃って見事な『く』の字姿の前屈みであった。 「うさぎはぁ、寂しくなると死んでしまいますの、、どうか、このうさぎメイドの所にいらして下さいませ、御主人様ぁ、、☆」 「うぁぁ。うぁぁああ。うあああああ」 誘惑の狭間で悶えの声を上げる前屈み達。 おっぱい神とミルフィ、どちらのおっぱいも甲乙付け難い。迷える子羊達に繋がれた鎖を断ち切るには、あと一手の押しが必要だった。 (む、、では、直接) 「キャストオフっ!!」 叫びと共にメイド服を脱ぎ捨てる。現れたのは、頬を紅潮させたミルフィの豊かな肢体を包むビキニの姿。 (は、恥ずかしいですが、これも犠牲者を出さぬ為っ、、) かくして、『く』の字姿の大行列は、ミルフィに誘導されるまま村の外れまで続くこととなった。 「不埒者めが、おっぱい神様の御前なるぞ!」 「おっぱい神だのなんだの崇めてるが、それで本当に救いが与えられんのか?」 同胞へと向けられた糾弾を律したのは、護孝 愁哉のよく通る声だった。 「あんた等は昔からそりゃでかい胸を信仰して来たが知らんねェがよ。俺から言わせりゃダメだね……!」 「ぐッ!」 「ど、どうしちまっただ兄ちゃん……!?」 激情を喉に詰まらせたように一人の村人の顔が血色を帯びる。それとは別の村人、愁哉から贈られた「大人の本」を愛おしそうに抱いた者は困惑めいた面持ちとなった。 「良いか、おっぱいってのはな……もっと癒されるべき存在なんじゃねえのか? そこにあれば、大きさなんて関係ねえ……小さかろうと、大きかろうと……。優しい気持ちになれる……そういうもんじゃねえのか?」 「おっぱい神様の恩寵が救いに値しないと申すか……。ぐ、ぐぁあッ!」 突然、村人が大地に昏倒する。 おっぱい神は自身を奉じる者の体力を不可視の力で略奪する。そうと知らず力を吸われ続けた村人に、遂に限界が訪れようとしていた。 朦朧と混濁した意識の中で、それでも昏倒した村人は自身を包み込む慈愛を確かに感じた。 「これがほんとのたゆんなんだね」 誰かの声が遠く響く。 顔に感じる温もりを放さぬよう、崩れ落ちそうになる意識を世界に繋ぎとめた。 「一時的な物とは言え暴力程効率の良い指導はこの世に存在しないわ。けれど――」 月明かりに濡れた金色の髪が夜風になびく。 「――誰かが蓄積した彼らの飢えを満たさなければ、この村はいずれまた澱むのよ」 その光景。シルフィアに膝枕され、やわらかな慈愛の母性を顔で受け止める同胞の姿に、広場に残る村人は羨望の眼差しを注ぐ。 「手に入れられねえ、皆が崇める様なもん眺めてるだけで満足か!?」 愁哉に一喝され、びくりと村人が揺らいだ。 「そもそも……男なら、てめえだけの最高のおっぱいを見つけるのが本懐じゃねえか……! 世界は広ェ! 村がやべえってんなら、外からテメエらで引っ張って来いよ! 村ん中で引っ込みながらただ嘆くだけじゃあ、本当のおっぱいマイスターたぁ、言えねえぜ、野郎共!」 「あ、あぁぁ、あぁぁあああッッ」 感極まり、吐き出された慟哭。 そうして村人の信仰は遂に、瓦解した。 『FUHAAAN!』 異常を察したように狼狽の声を響かせるE・フォース。 その傷痍が二度と癒えることはない。絶え間なく注がれ続けた自身への信仰。回復力へと転化されるその供給は今、絶たれた。 「ハントは鮮やかに、かつ正確に」 エルフリーデは優雅を思わせる動作でライフルを構え、E・フォースに照準を合わせる。 大山村に伝承されるおっぱい神。 それに終焉を告げる猟銃の咆哮が、轟いた。 ● 「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」 炎を纏うモノマの拳が、闇に浮かぶ密度ある思念体を霧散させた。 壁子に外傷がないことを確認し、安堵の息を漏らす。 「うっぐ、ひっぐ。みんなアタシのことバカにしてぇ……!」 先の戦闘が暗闇の中であったことが神秘を隠匿する利点に働いたのだろう。へたり込む壁子は周りが見えない程に泣きじゃくっている。 灯したライターの火が闇に揺らぐ。 「どうしておっぱいしんさまはアタシをみすてたの……っ」 大山村には『巨乳に非ずは、おっぱいに非ず』という独自の教義がある。 そんな環境の中、ぺったんこな彼女に対する村人からの扱いはレディに対するそれではなかったのだろう。 だが、おっぱい神とは村人の思念が革醒したエリューションだ。縋れば破滅を招く偽りの神である。 「ねだってばかりいんじゃねぇぞっ! おっぱいがちいせぇのが嫌なら揉んででかくすりゃいいだろうが!!」 一喝は衝撃となり、壁子の小さな身体に響いた。 「ちなみに、俺は乳派であって大きさなんて関係ねぇ。巨乳しか認めねぇなんて俺が認めねぇぜ!」 その言葉に、泣きじゃくる壁子の嗚咽は止まる。 けれど、後からあふれ出る雫だけは、留めることができなかった。 雲は晴れ、月明かりが降り注ぐ。 続く道の先に民家が見えた。ここからならば、壁子一人でも帰れるだろう。 仲間の元へ戻ると告げたその姿を、壁子はただ静かに見送った。 壁子が彼の名を聞きそびれたことを悔やむのは、それから少し、後のこととなる。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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