● ――ああ、それは死を誘う天の使いか。 暗い穴から這い出てくるソレは、人の形を模していた。 穢れを知らぬ純白に身を包み、その顔に慈愛の笑みを浮かべて謳っていた。 『聖なるかな 聖なるかな せいなるかな』 それは天に座するものへと捧げられる讃美歌。 口ずさむ声は清らかに、朗々と響き渡る。 その声に誘われるように――周囲を飛んでいた鳥が、生まれたばかりのエリューションが、集い始める。 ソレは、自身の羽を羽ばたかせる。一回、二回、三回。 その度に散る羽根が姿形を変え、集ったありとあらゆる生物の元へと舞い降りる。 そして導くように手を繋ぎ、あるいは寄り添いながら穴の中へと還って往く。 『聖なるかな 聖なるかな せいなるかな』 ソレは、天上を謳い続ける。 遍くを、その喜びで満たそうと謳い続ける。 それが天から使わされた自らの命であるとそう信じて。 ――また一匹、生まれたばかりのエリューションが穴の中へと連れ去られた。 ● 「セラフ……と言って、この中の何人がわかるかしら」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に告げられた一声は『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)のそんな言葉だった。 「別名は熾天使。天使達の中でもっとも位が高いとされる階級に属する者達。それがセラフよ」 ラファエル、ミカエル、ガブリエル。名前だけならば聞いたことがある者も多いだろう彼らも、一説によればセラフの一員だという。 「まぁ、一般的には大天使に属するとされてるんだけど……それは今は関係ない。問題は――」 イヴが既に知っていた者、知らなかった者含めて視線を送り、続ける。 「今回、閉じない穴からそのセラフが潜り抜けてきた」 開口一番、その名を口にされた時から予感はあったが、やはりかという思いがリベリスタ達の間に広がる。 「というか、聖書の中だけの存在じゃなかったんだ……」 リベリスタの一人が漏らす呟きに、イヴは苦笑を浮かべる。 「事実は小説よりも奇なりとは言うけど、この手のタイプのアザーバイドが出現すると大抵は甚大な被害を被るから……いくつかの事実は、そういった媒介の中に埋め込まれて誤魔化されていてもおかしくはない」 さらにイヴは続ける。 「正確に言えば今回出現したものは天使じゃないのかもしれないし、もしかしたら天使の話のもとになった内の一つなのかもしれない。それが『本物』かどうかは私には分からないけど……アークは便宜上、このタイプのアザーバイドをセラフというコードネームで呼ぶことにした」 このセラフと呼ばれたアザーバイドの特徴は、歌を用いてこの世界の存在を魅了する点にあるという。 絶え間なく天の喜びを口ずさむ者。それ故に、アークはこの存在をセラフと名付けた。 「セラフはその歌に魅了された存在を、自分の世界に連れていこうとするわ。ただの一般人も、一般動物も、エリューションもリベリスタもフィクサードも関係なく無差別に。抵抗する者は実力行使を以て穴の中へと引きずり込む。……一般人なら、その際の衝撃に耐えきれずまず死に絶えるわ。エリューションなら、もしかしたら耐えうる個体もいるかもしれない」 では、リベリスタやフィクサードは? リベリスタ達の問いに、イヴはただ首を振る。 「わからない。……だけど、あまりお勧めはできない」 個体としては、リベリスタ単体よりも遙かに優れていることが多いエリューションでさえ耐えきれないモノが大半なのだ。結果は推して知るべしだろう。 「このセラフ、実は何度かこっちに来ては救済と称して周囲のエリューションを連れ去った記録が残ってるの」 だからこそ、アークはコードネームを設定し監視を続けていた。 「……今までは、周囲のエリューションを無差別で穴に引きずり込んで滅ぼしてくれる存在として認識していた。閉じない穴の周辺にはもうほとんど野生の動物とかもいないし、私達が気をつければ害はない、と。……だけど、今回はそういうわけにも行かなくなった」 これを見て、とイヴが持っていた写真を皆へと配る。 「これは……」 それは見るもおぞましい姿をした異形のエリューションだった。 「今回連れ去られるエリューションのいずれかが、そう遠くない未来に再びこの世界に戻ってきて猛威を振るう景色が見えたわ。どんな世界でどんなフェーズ移行を経るのかはわからないけど、現在の形状から推測するのは不可能」 だから全部撃破してきて、と。 「……セラフ自体は倒さなくていいのか?」 「貴方達が近づけば、セラフは歌で洗脳したエリューションを支援しつつこちらに攻撃を仕掛けてくるわ。そして倒れた者から順に引きずり込もうとしてくる。……エリューションの数は三体。正直、セラフまで相手にするのは厳しいと思う」 幸いなことに、エリューション三体を倒せば今回は諦めて元の世界に還るという。 「歯がゆいだろうけど、今回は後手に回りすぎた。セラフ自体は、もし次に穴から出てくることがあればその時に討伐をお願いすることになると思う」 今までは害にならなかったが、これからはそうも言ってられなくなったというわけか。 「セラフの歌は独特で、強力。くれぐれも油断しないで」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:葉月 司 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月20日(日)23:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『天使』とは 「セラフ、……まぁ、つまりいわゆる天使か。……セラフって可愛いのかな?」 件の現場へと向かう最中。ぼそりとそう呟いたのはモテたい盛り、好奇心旺盛な『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)だった。 「そういえば、特徴は聞いてたけど容姿については確認してなかった……けど、天使って文献を見ると結構化け物じみたのもいるのよ?」 どうせだったら眼福なら良いなと天使の姿を夢想する涼を、冷静な『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)のツッコミが現実へと引きずり戻す。 涼は一瞬だけ「うっ」と言葉を詰まらせた後、 「し、仕方ないだろ! リアルでモテねぇんだから天使に夢見たっていいだろ! チクショー!?」 その色々と残念な一言がなければ結構いい線いくだろうに、とは誰もが思っても口にはしない。それがきっと優しさという名の労り。 「『何度か来ては救済と称して周囲のエリューションを連れ去った』――ということは、これは救済である、と意志が示されたということでしょうか?」 その意志が誰の意志か、の明言はあえて避けた『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)の発言に、 「もしそうだったとしても……『誰かにとっての神』の救済も、それに反する者達には救いを与えない」 それが自らを害する存在であれば尚の事、悪魔と捉えられても仕方ない。と、『不機嫌な振り子時計』柚木・キリエ(BNE002649)がかるたの密やかなる懊悩に答えるように言い放つ。 「聖書に出てくる熾天使はどんな記載か、キリスト教徒ではない僕には良く分かりませんが……古来から謳われている神隠しの現象はもしかしたら、このセラフ達の仕業なのかもしれませんね」 だとしたらその救済は、防がなければならない。 『宵闇に紛れる狩人』仁科・孝平(BNE000933)もその救済という言葉に疑問を抱く一人だった。 だってそれは、当人にとってはいざ知らず、この世界に取り残された者達にとっては救済足り得ないのだから。 「天使が無条件で人間の味方をしてくれるのは物語の中だけ……」 でもお互いのことを知り合えば、無条件とはいかなくてもきっと協力しあえるはず。そう拳を強く握りしめるのはこの天使達と名前の由来を同じくする『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)。 「出来れば友好的なお付き合いをしたいな」 「まぁ、友好的かどうかは……もうすぐわかるじゃろ。ほれ、そろそろ聞こえてこんか? セラフの賛美歌、とやらが」 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)には随分と前から聞こえていた、この世ならざる世界の言語で紡がれる旋律。 「それじゃあ、行くとするか」 全員の背中に翼の加護を付与させながら『てるてる坊主』焦燥院・フツ(BNE001054)が自らの背に生まれた翼を羽ばたかせる。 足下にはいつのまにか霧が立ちこめており、否応なくリベリスタ達をせき立てる。 皆で顔を合わせて頷き、なるべく霧に触れないように浮かびながら歌声の方へと近づけば――やがて見えてくるのは三対の翼を持ち、三体のエリューションを引き連れるセラフの後ろ姿。 各々が自己強化のスキルをそれぞれ付与させ、そして背後から突くように戦闘へと突入する――! ●『天』に坐す まず真っ先にリベリスタ達の奇襲に気がついたのは霧状のエリューションだった。 持ち前の俊敏さに加え、さらに体を速さというものに最適化させた孝平のゴーストを狙った一撃。その動きを阻害するようにミストが自身の霧を頒布する。 「くっ……」 まとわりつく霧に邪魔をされ、孝平の一撃はゴーストにぎりぎり反応されてしまう。 「体のど真ん中を狙ったんですが……手応えがないですね」 それはまるで綿菓子を切っているような感覚。おそらく半身半霊の利点……霊体の部分を集めて受け流したのだろう。 見れば霧はさらに深くなり、捕らわれた何人かが動きにくそうに顔をしかめている。 「流石に、自らの栄光を求める者の配下と、それに選ばれるかもしれない群体」 あまり堪えた様子のないゴーストの姿と、ミストの厄介さに一層気を引き締めるキリエ。 「慎重に事に当たろう、一つのミスも犯さぬように」 まずは最初に落とすべき敵に向けて練り上げた気糸を放ち、天使の歌声が彼の者を癒さぬように深く内側を抉る。 ゴーストはその攻撃にうめき声を上げながらも、セラフの声に呼応してその身を歓喜に震わせる。 ゆるりと振り返り、リベリスタ達の存在に気づいたセラフは、どうやらまず回復よりも先に強化を施したらしい。 「くそう、見た目は人型なのに、顔と体を翼で隠してるせいでよく見えないぜ!」 そんなセラフを忌々しく睨みつけるのはミネラルをブロックする系ソードミラージュ、涼。 涼の言うとおり、セラフは一対の翼で顔を隠し、さらに一対の翼で体を隠し、残りの翼でもって飛んでおり、その全体図はよく掴めない。 翼からはみ出た肩や足は華奢でありながらも芯が通っており、良くも悪くも中性的な雰囲気を醸し出している。 「セラフ様に聞きたいことはたくさんあるけど、まずはこの状況を少しでも楽にしないとだね……!」 涼と同じくミネラルのブロック役として、セラフィーナが無数の刺突でミネラルの表層を削り取っていく。 削られ、新たに覗く部分さえも鏡のような光沢をたたえるミネラルが、剥がれかけた箇所を自ら引き剥がし、涼とセラフィーナに向けて投げつける。 瞬間、目が眩むほどの光量を放ちながら爆発する欠片。 回避が難しいと二人がとっさに急所を庇いながら地面に転がる。 すさまじい熱量が肌を焼くのと同時に、フツの紡ぐ天使の歌が流れその傷を塞いでいく。 メアリもそれに続こうとして……その瞳が、蠢くミストの異変を捉えて声を張り上げる。 「ミストが変な動きをしておる、気をつけるのじゃ!」 戦域を覆うミストの色が、急激に変化していく。 毒々しく、吐き気を催すほどの異臭が鼻につき、叫んだ直後のメアリの器官を蝕む。 「けほっ……! これは、かなり毒性が強いのう……!」 セラフによって強化されたそれは、おそらく死毒クラスの毒性を持っている。 そう判断したメアリは瞬時にブレイクフィアーを展開させ、この霧を多量に吸い込んでしまった者達の症状を緩和させる。 この色の霧に覆われている限り、いずれまた死毒に侵されてしまうだろうが……だからといって見過ごせるレベルの毒ではない。 「たく、回復役が2人いて良かったぜ……」 「まったくじゃ」 フツのぼやきにメアリも同意し、体勢を立て直すために一歩前に出―― 「待って二人とも、前に出たら駄目!」 ――ようとして、綺沙羅に止められる。 「……待て。今、俺達は無意識のうちに前に出ようとしてたのか?」 綺沙羅の言葉でようやく自分達が行おうとしていた行動に気がつき、フツの背筋が凍る。 「というか気がついたらキサ達全員、かなり奴に引きずられてるの。見て、周りの景色。最初と随分違うでしょ?」 それはセラフの歌の特性。 後衛はおろか、前衛……さらにセラフに追従するエリューションすらもセラフへと引き寄せる魔性の歌声。 それを利用して、セラフは戦域を閉じない穴の方へと近づかせていた。 傷つき、倒れた者から随時、穴の中へと導きやすくするために――。 「歌の内容然り、ぞっとしないわね」 綺沙羅の瞳が、セラフを映す。 後光さえ差し込みそうな気高さと同時に、えも言えぬ深い闇を内包するその姿に、「理解できない」ことを直感的に理解する。 「セラフはなんと歌っておるのじゃ?」 「わからないならわからないままの方がいいこともあるけど……メアリは、知っておいた方がいいかもね」 綺沙羅と同様に深淵を覗きうるメアリには。訳もわからず引き込まれるのとそうでないのとでは、違うかもしれないと。 『聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、昔いまし、今いまし、のち来たりたまう、主たる全能の神』 歌の全容を纏めるならば、それはトリスアギオンと呼ばれる内容に限りなく近い文になるだろう。それを口ずさみながら、綺沙羅は顔をしかめる。 「奴らがこっちの世界に伝わるそれを引用してるのか、それとも奴らが歌っているものをこっちの誰かが記し遺したのかはわからないけど、」 未知の言語で既知の内容を歌われるのはあまり気分のいいものじゃないわ。 最後の方は独り言のように言いながら、綺沙羅が言葉を締める。 「御使いというパフォーマンスもあろうが……神的存在が復活しラグナロクみてーな超次元的闘争が、とかいうのもあながちあり得ないってわけでもなさそうじゃのう」 「ともあれ、意識して後退するよう心掛けろってことだな。そういうわけで、聞こえてたか皆!」 叫ぶフツに前衛陣もそれぞれの形で応え、ようやくセラフに導かれていた行進が止まる。 そんな、回復や状況を冷静に解析する後衛陣に厄介さを覚えたのか、ゴーストの攻撃は次第に後方へと向けて放たれるようになる。 戦闘の要となるメアリやフツの、特にEPに与えられるダメージを軽減させるため、キリエが二人からやや離れた場所から気糸を撃ち込み挑発を繰り返す。 そしてかるたがセラフの与えた強化を剥ぎ取る強撃でゴーストを打ち据え確実にダメージを蓄積させていく。 「……と、後退を意識しながら戦うのはなかなかに難しいですね」 必要以上にゴーストとの距離を詰めようとしていた体をなんとか自制させながら、孝平が一つ息をついてからゴーストへ切り込む。 スピードで押し切る戦法上、どうしてもこの手の後方へと誘い込む手合いとは相性が悪い。 既にセラフの後方にはうっすらと閉じない穴が見え始めているため、これ以上のセラフの後退は看過できない。 ……が、焦れば焦るほど感情はより前のめりに、体はより前へ進もうとする。 「キサにとって神は至高足り得ない……!」 セラフの言葉を解し、その深淵を覗けてしまう――つまりもっともセラフの影響を受けやすい状況にある綺沙羅が唇を噛み、その衝動を殺す。 「救済なら間に合ってる――奇跡は2度も必要ない」 翼によって隠されたセラフの顔を睨みつけながら符を放ち、ゴーストの体を啄む烏を生み出す。 全身を包むほどの烏に覆われるゴースト。 既に何度となく切り付けられ、弱っていたゴーストは烏に抵抗するもやがて力なく倒れ伏す。 「ようやく一体。……どう、まだ余裕はありそうかい?」 動かなくなり、霊体であった部分が消滅し体積が半分程度となったゴーストを見遣りながらメアリとフツの状態を確認し、キリエは確かめたかったことを検証するためミネラルの方を向く。 相変わらず死毒をまき散らす霧が発生しており視界は悪いが、狙えないことはないだろう。 気糸を極限まで細く伸ばし、ミネラルのブロックをする涼とセラフィーナの間を縫うようにしてミネラルを穿つ。 気糸はキリエに確かな感触を与えつつ――しかしミネラルの表面に完全に弾かれ、全くの同じ軌道を描き自身へと返ってくる。 「ダメ、か……!」 気糸を放った手をとっさに引き寄せ庇うがわずかに間に合わない。掠めるように皮膚を裂く痛みに、それが完全反射であることを悟る。 霧が傷口に浸食し焼けるような熱を持ち、 「燃える蛇、ね……」 セラフの別名を思い出して苦笑してしまう。便宜上名付けられた名前だとしても、この状況を省みるにあまりにも出来すぎた名前だ。 「僕がミネラルの方へ増援へ向かいます。皆さんはミストの方へ!」 完全に神秘的な攻撃が効かないならば、神秘攻撃が得意なメンバーはミストを狙う方が効率的と孝平が涼とセラフィーナに合流し、ソードミラージュ三人が高速の斬撃を繰り広げミネラルを確実に削っていく。 「ならこちらは……霧もろとも吹き飛びなさい!」 毒々しい霧の中、ぼんやりと浮かぶ紅いコア目掛けて旋風を巻き上げるかるた。 三位一体、ではないが一度陣形が綻んでしまえば決壊は容易く。 補助能力しか持たないミストを倒す頃にはミネラルも粉々に叩き砕かれ、戦局はあっけなく終焉を迎えた。 ●『聖なるかな』 「セラフ様、あなたがこの世界にやってきてエリューションを連れ去るのにも理由があるのだと思います。私達にその理由を教えて貰えないでしょうか?」 綺沙羅が言うには、どうやらこちらの言葉は向こうに届いているということで、セラフィーナがまず代表して声をかける。 もし向こうから何か応答があれば綺沙羅が翻訳する手はずになっているが……綺沙羅はそれを、皆がセラフに必要以上に近づかないことを条件に了承した。 「まずはあなたが導こうとした彼らを勝手に倒してしまったことをお詫びいたします。ですが彼らエリューションが連れ去られた場合、彼らはより強力な力を得て帰還し、この世界で猛威を振るいます。そうさせないために、私達は今ここで彼らを討伐しました」 たとえセラフがここよりも昏い世界の住人なのだとしても。 一途に主を讃え、主に尽くすその姿に、少しだけ物語の中の天使が重なって見えて、セラフィーナは必死に言葉を紡ぐ。 「お互いの事を知り合えば、良い解決方法を思いつくかもしれません。セラフ様……あなたの事を、話してはくださいませんか?」 そのセラフィーナの問いかけに、セラフはしばし沈黙した後に口を開く。 「――我は罪を清めるもの。主へと至る旅路を課して罪を清めるもの」 綺沙羅によって介された言葉はそんな内容。 穴は試練であり、そこで身を清めたものだけがセラフの世界へ至ることが出来ると。 「……貴様らにとってこの世界とはなんじゃ?」 メアリの問いには、簡潔な言葉が返ってくる。 「――救うべき場所」 それだけ口にして、セラフはリベリスタの方を向いたまま穴の中へと還っていく。 ――そしていつの間にか現れていた小さな天使達も、エリューションだったものの残骸を回収してセラフへと付き従うように穴へと潜っていく。 「あ、ミネラルの綺麗な欠片が残ってたら拾って帰ろうと思ってたのに……!」 綺沙羅が慌ててミネラルの倒れていた場所を確認するが、既にすべて回収されており跡形もなくなっていた。 「あぁ、綺麗さっぱりなくなってる……」 「っていうか、セラフは無理だったが天使だったらアレ、神城の心のフォトグラフに焼き付けられたんじゃ……!? ぐぉ、一生の不覚……!」 方向性は違うが真剣に落ち込む二人を、やれやれと肩をすくめながらフツが慰める。 本音を言えばフツ自身もミネラルの欠片には賢者の石には及ばずとも何かないか……と期待してはいたのだが、なくなってしまったものは仕方ない。 色即是空。縁が繋がっているならまた巡り会うこともあるだろう。 「ま、それはあのセラフにも言えることだがな……」 これが奇妙な縁にならなければいいが、とつくづく思いながら深くため息をつき。 こうして、三ツ池公園に訪れた天使騒動は一旦の幕を閉じるのだった――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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