●決戦に於いて 「先日発見された『逆棘の矢』の争奪戦の結果は、皆さんご存知かと思います。 鬼たちにとっても相当重要だったのでしょう――五本中二本の確保で精一杯でした。 『二本も手に入った』と言ったほうが適切なのかも知れませんが……現状、ゆるりと構えているわけにも行きません、残念ながら。 『万華鏡』が観測した未来は、鬼道の総進撃による前回以上の暴挙です。 対策も万全ではなく、勝算も未知数ですが、一般被害を出すわけにはいきません。 この機を以って、アークは『鬼ノ城』の制圧と『温羅』の撃破を目的として行動します」 背後に映しだされた『鬼ノ城』、かつて『鬼ノ城自然公園』と呼ばれていた場所に出現した巨大な城を背にしたまま 、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は参考資料に視線を落とす。 「『鬼ノ城』の攻略は四段階の戦闘を以って温羅撃破に至ります。一度しか説明しませんからね。 先ず、四天王『烏ヶ御前』率いる迎撃部隊。彼女たちは『鬼ノ城』への接近を許すまいと積極的迎撃戦に向かってきます。 この戦力を如何に削るかで城外へ回復支援部隊をどの程度配置できるかが変わってきます。 次に、城門。こちらは同じく四天王が一人『風鳴童子』の部隊が存在します。 地の利と、攻城戦に於ける防御の優位性を彼は十全に活かすでしょう。逆に言えば、城門攻略が進撃の効率化につながるという証左でもあります。 同時に、城門突破後の御庭には鬼の官吏『鬼角』の精鋭部隊が控えます。鬼角の陣容を叩くことで温羅の強化をわずかに削ぐこともできます。 そして、更に本丸下部。ここにあの『禍鬼』が控えています。 今までの報告書からも彼の考えが読めないのですが、どちらにせよ鬼側の敵であり、四天王の一角。強力なことには違いありません。 以上四ヶ所の戦場でどれだけ戦果を挙げるかで、『温羅』との決戦の部隊に於ける余力を量ることができるでしょう それと――『風鳴童子』『鬼角』『禍鬼』の三体の鬼は『逆棘の矢』を所持しています。 彼らを撃破することで手に入るかもしれませんから……目標としては十分すぎるでしょう」 夜倉の視線に薄暗いものが宿る。達成すれば、絶対的有意を確保できるこの状況。 そして、最終目標は敗北を許されぬ戦い。一部隊の戦場を説明するだけでも、労力は決して少なくない。 「君達に対処してもらうのは、『烏ヶ御前』傘下部隊として配置された『百央』と『間武』、配下鬼三十体の撃破です。 この二体は、岡山駅前周辺を襲撃した将格の鬼三体のうち生き残り二体で、配下鬼は新たに配備されたもののようです。 数でこそ前回から減っては居ますが、覚醒から日がたった現状、彼らも多少は力をつけています。 決して『以前よりは容易』『以前と同じ戦い方で倒せる』というわけではありません。 まあ、似たような戦術は通用するかも知れませんが……彼らも鶏頭ではありませんからね。十分な注意を求めます」 ●鬼道怒髪天を衝く 「……来やがったぜ間武。九頭原が殺されたのは許せねえし、元の部下共も死んじまった。 けどそれだけだ。俺達ァ生きてる。温羅様も目覚めた。今度はもっと、上手くやろうぜ?」 「ああ゛、もっと、うまく――くって、やる」 鬼ですら忌避する瘴気を纏った巨大な鬼が、底冷えのする咆哮を鳴らす。 高々と掲げた刃を振り下ろし、隆々とした肉体を誇示する様にもう一体は構えをとった。 円陣を組むように布陣した鬼、都合三十と将二人。 何もかもを清算する決戦が幕を開ける。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月12日(木)00:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●統べる厄災 鬼ノ城に響き渡る鬨の声。 次々と戦いの空気に包まれる周囲を、百央と呼ばれるそれは口の端を歪め、睥睨する。 「来たぜェ間武、上手くやろうぜ。上手くやれるんだろう――なあ、野郎共!」 声を張る白央に応じるのは、轟と唸る鬼達の声。彼岸に現れたリベリスタ達を前に、間武と呼ばれた片割れは深々と瘴気を吐き出し、応じる。 「も、もちろん、だぁ……あの黒いのがきたら、こんどこそくって、やる」 「お前は本当に食い気だけだぜ、でもまぁ、やるよなぁ普通……!」 瘴気と殺気が充満する戦場に、鋭く輝く刃が一振り――マガツハラと名乗るそれを構え。 周囲に布陣する鬼達が次々と拳を、得物を構え。 そうして、戦争は始まる。 「……っ、ぎ」 「木偶のように突っ立っていろ。動いた所で、亀と変わらんのだろう?」 喉奥で唸るような間武の声に応じたのは、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の苛烈な悪罵だった。鬼をも凌駕する速度から、間合いに踏み込んでの呪縛の印を切る動作は、庇うことすら許さずにそれを縛り付け、主導を取る。 その後方から鬼の群れを見据え、構えたのは『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)。閃光を放つ少女の眼に込められた感情は、生半可な意思ではなかった。身内の受けた借り、屈辱を全身全霊を以って返すという意思。その戦いで失われた者へ対する感情も合わせ、強い怒りがあるのは違いないだろう。 「……全部纏めて叩き潰す、覚悟しろ」 大凡半数を巻き込んだ光が戦場を焼き、たじろぐ最中に飛び込んでいったのは源 カイ(BNE000446)の姿だった。咄嗟に反応できた――というか、認識したのは間武。ユーヌの呪縛によって動けぬ身でこそあれ、その口の端から溢れる唸り声は、彼に向けての怨嗟に満ちていた。 「……今です、狙ってください」 レイチェルの言葉に無言で応じたカイは、数体の鬼を巻き込んで一手のもとに吹き飛ばす。その一撃では倒しきれなかっただろうが、先んじて放たれたレイチェルの一撃との相乗効果からか、容易くその命を刈り取ってみせる。技の冴えと言えば容易かろう。しかし、半ば以上は意思の強さが作用しているのは間違いない。倒すという絶対的決意があればこそ、こうも容易く先陣を切ることができるのだろう。 「あはぁん、いい手応え……もっとよぉん」 艶めかしく、しかし危険な感覚を纏って前線に踊りでた『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)の刃も、大雑把に振るわれながら確実に間合いに捉える繊細さを併せ持ち、鬼達を切り裂いていく。言葉の端々に宿る狂気をその動きに合わせ、自らの欲求に素直でありながら敵を誘う繊細さを持っている。何れかの死が終わり、或いは始まりとして作用する彼女の精神性は、鬼をして驚嘆せしめるものかもしれない。 『やっだぁ、城外とかマジ閑職♪ ホントは温羅に信頼されてないんでしょ~』 「……あ?」 機先を制されたことへの苛立ちを僅かに感じつつあった白央の思考に割り込む様に、無邪気なトーンで毒を孕んだ言葉が届く。誰あろう『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)のものだ。予想以上の先制を受けたとは言え、彼とて鬼の眷属がひとり。多少の悪罵を聞き流す程度の度量はあるはずだが、それでもその意識を向けさせるには十分だったといえるだろう。 「――ハ」 だが、彼女の前に立つ『ミスター・パーフェクト()』アウラール・オーバル(BNE001406)の存在が、湧き上がる怒りにブレーキをかける。白央は彼をしっている。正面から打ち合い、殺しきれなかったあのニンゲンを知っている。しぶとくもまた立ち塞がるのか。喜びとも、嘲弄ともつかない笑みで口の端を歪め、マガツハラを構え直す。 「そういうしぶとさは評価してやる。評価してやるから、そのまま死ねよ」 さらりと転がり堕ちた言葉をそのまま刃に乗せ、空気が刃となって飛ぶ。狙いは、とらでもアウラールでもなく、おろち。彼女の刃の舞いを縫うように、鋭い一撃が掠め過ぎる。ほんの僅か掠った程度ではあれ、「当てた事実」は変わらない。 「こんばんは、私罪姫さん。今宵貴方達を殺しに来たの」 乱戦の様相を呈しつつ在る戦場で、影から牙を閃かせたのは『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)。両手に物々しいチェーンソーの刃を構え、牙を深々と突き刺す姿は禍々しく、どちらが鬼で在るか分かったものではない――が、世界にとっての『隠(オヌ)』は確実に、彼女が今ねじ伏せた方を指すのだろう。 「……俺はリベンジだの、再戦だのとは関係ない人間だがな」 拳を引いて、レイチェルが仕掛けた側と逆方向を突き進むのは『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)だった。憂いを残す、それは自分には無いことかもしれない。だからこそ、仲間の憂いは絶たねばならない、とも思う。 再戦敵わぬ者の分を背負った、それだけで十分だとも言えるだろう。決意ひとつを以って一撃を叩き込む。単純な思想が、最も強力に作用する戦況なのだ。 「さぁ、今宵は決着の時――」 自らの仁義をフィンガーバレットに込め、纏めて何度も撃ち放つ。嘗ての蹂躙劇に居合わせ、止めることが出来なかった、その悔しさは筆舌に尽くしがたい。『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)にとって、これ以上の敗北や屈辱は、味わいたいものではあるまい。尤も、それはすべてのリベリスタに共有できる感覚ではあろうが。 「撃って撃って撃ちまくるのみ!」 故に。その弾丸の重みを知るのは他ならぬ彼女自身であるはずだ。あったはずなのだ。 とらが閃光を放とうと構えるより、幾分か早く。 半分よりやや多い程度まで減らされた鬼達が一斉に動き出し、先陣を切った面々に群がり、或いは散開し、次々と殴りかかる。 単一であれば避けるに厳しい程ではない敵であれ、数がまとまれば完全に避け切ることもままならない。見切りに秀でた者ならいざ知らず、平均レベルの者はわずかに、しかし着実に傷を増やしていく。 「残り物の雑魚程度に負けるかよ!」 だが、その程度の傷が、数に任せた程度の優位が、リベリスタを凌駕するかと言えば――否、だろう。前線に踏み込んできた『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の張りのある声が癒しの旋律を招き寄せ、鬼達が与えたダメージを尽く癒し切る。 一度戦い、敗北を喫し、守るべきものを守る猶予すら与えてくれなかった相手が、目の前に居る。最も苦慮した存在を除き、そこに居る。それだけで、既に脅威に値しない。その程度、敵と呼ぶに値しない。だから、倒してみせる。 「あ゛……びゃく、え゛ェ」 「――ったく。九頭原が居ねェからって調子に乗ってやがるし、間武は頼りねェときた。オイ、間武ゥ! もう少しまともにやれねェのか!」 「何度動ける様になった所で無駄だとは思わないのか? ソロになるのも寂しいだろうし、向こうで再結成したらどうだ?」 強引に呪縛を抜けようとする間武に、ユーヌが再び印を切ろうと身構える。だが、白央はその行為を止めようとしなかった、増して、ユーヌを狙おうともしなかった。ただ、数体の鬼が間武の前に、立ち尽くしている。 次々と散らされる鬼達から逃げたのだろう。ただそこに居るだけ、なのだろう。吹けば飛ぶような耐久力しか残されては居まい。 だがそれでも、それは盾だ。ただいっときでも猶予を生む存在だ。 残された数体を、レイチェルの閃光が容易く引き裂く。カイが、おろちが、罪姫が、次々と白央目掛け前進する。 「俺を狙え私を倒せ……小煩い蝿が何匹で庇い合った所で蝿は蝿じゃねえか。自重しなクズ共!」 白央が、刃を腰だめにして一歩踏み込み、乱雑に振るい、薙ぎ払う。誰を狙うわけでもなく、しかし誰をも狙うような大雑把さで振り回すその威力が、低かろうはずもない。 白央へとまっさきに向かった数名は、その多くが回避に長けた者だった。だが、『すべてではない』。 そして、呪縛から解き放たれた間武が、大きく息を吸い込む。 「あ゛ァァァahhhhh――!」 咆哮。ただの、しかし鬼のそれは人の常識を遥かに超えた肺活量と、ひとの思念では到底及ばない悪意を孕んだ代物だ。容易く受けていいものでもなく、警戒せずにいるべきものでは決して、無い。 とらを庇ったアウラールは言うに及ばず、その大音声は多く乗りベリスタの鼓膜を叩き、或いは神経にすら届かせる。白央の一撃を既に受けたものに対しては、より深く。その咆哮に神経をかき乱され、意識を狂わされる。圧倒的で大雑把で狂気的で歓喜に塗れた声が、たった一度で戦慄にたたき落とす。 嘗ての鬼の狂騒の具現。封印から放たれた悪意の、これが本来の悪意の形なのだろう。 ●善意在りて汝抗せん 完璧な形を維持しての決定的優位の持続。そんなもの、実現するはずがない。 圧倒的強者への絶対的勝利。そんなものは、きっと夢物語の類だ。 だからこそ、戦いは全て得難い結末の連続なのだ。 だからこそ、戦いの成立は一人では成り得ない。 ――故に。リベリスタと鬼との決定的な相違点は、弱者であるがゆえに招き寄せる意思の選択。 一人では成立しない全てを、団結で纏め上げ、意思を貫くその過程だ。 「私罪姫さん。吸血『鬼』の殺人『鬼』。白央さんもう逃がさないのよ。今日こそ殺し愛いましょう」 罪姫にとっての無念は、狂気的なまでに邂逅を望み、果し合いを望んだ白央に一太刀も打ち込むこと無く敗北を味わった事実だろう。自らの手で、自らの念で、かの敵に戦いを挑むことが出来なかったという過去は、彼女にとってどれほどの屈辱か。きっと顔すら覚えられても居ない。それが悔しい。だから、刻みこんで刻み尽くす、と誓った。 「行くぜ、鬼野郎……!」 猛の拳が唸りを上げ、白央の胴へと打ち込まれる。炎を纏ったそれが与えたダメージは、それのみをして脅威と呼ぶことは出来ないかもしれない。だが、愚直に、意思を以て叩きつけたならばどうか。仲間の一撃に繋げるならば、その優劣を測れるものだろうか。 多くの味方が傷つくのならば、それを超えて癒せばいいし、守ればいい――とらとエルヴィンの回復もまた、戦線を支える一因となった。 傷を癒し、災禍を祓い、意思のままに勝利へと導き邁進する。神聖術師としての矜持を、その能力を以て全うせんとする意思のあり方がその原動力であり、強さだ。 間武の呼吸が孕む瘴気すらも一瞬の後に打ち消し、肉体の摩耗すらも過去にする。 「げ、ェ、gh、ァ……! お前、お前え゛……!」 「今度の縛りはこの前以上です……きっちり決着をつけてあげます」 ぎらぎらとした欲求を孕んだ瞳の先に居るのは、気糸を引き絞るカイの姿だった。精錬されたその能力が生み出したそれは、凡庸な革醒者が操るそれとは一線を画す拘束力と威力を伴って間武を締め上げる――互いにとって屈辱となったあの日の再現といえるだろうか。 「悪いけど……貴方に、もう自由は残されていない」 距離を置き、短弓を構えたレイチェルもまた、一瞬の隙も奢りもなく間武を見据えている。カイの一手で縛り上げたとは言え、相手はリベリスタを退けた鬼が一体。仲間が片割れを退けるまで留め続けることの難しさを理解していないわけではない。だが、それを為すことが勝利の条件であるならば迷いはない。 「こいつら……!?」 「もっと、もっと、もっともっと――!」 多対一、ただそれだけで不利になる白央ではない。その程度は慣れているし退けるに容易い。そう、考えていた。だが、何度裂いても叩きこんでも、目の前の人間は一向に敗北に至る気配がない。それどころか、一合ごとに精度を増し、受け流すようになってきているようにも思えた。 おろちにとって、戦いは逢瀬だ。たった一度きり、退けば終わり退かれれば終る、単純な終末への直進。だからこそそのすべてを吐き出し、出し尽くす。 (俺らは、勝つ為に此処に来たんだからよ……!) 猛の意識が加速し、拳が唸りを上げ、脇を掠める刃がその意思を研ぎ澄ます。受け止めることすら生温く、無傷で退ける程度の覚悟を自らに課して貫き通す。 「私は端役、あちらが主役だ」 何度目かの一撃を、そうして構えた白央の腕が不自然に止まる。形のない呪縛がその前身を包み、表情に乏しい声音が嘲弄の響きをこぼす。 「やられ役に出番などない。あの世にひっこんでいろ」 印を切り、残心の構えをとったユーヌに赫怒の視線を向けたが――その映像が白央が焼き付けた最後の風景。 首から上が鮮やかに回転し、落下していく。さながらコマのように、哀れに、地を跳ねた。 そして、それを目にする猶予すら、間武には与えられはしなかった。指の一本も拘束され、全ての動きを封殺された彼に暴食の存在としての自由などはじめからありはしない。この戦いに於いて、欠点があったとすればただ一点――リベリスタの意思を折ることができなかった、それだけの誤算が、人が鬼を超えるに値する縁(よすが)となったその皮肉。 「人も鬼も大差無いのよ。だってどちらも、殺せば死ぬんだもの」 淡々と告げられたその事実を最後に、戦場は静寂に包まれる。遠くに響く戦の響きと共に、リベリスタ達が安らぐ暇などどこにもない。 「…………」 カイの目が細められ、苦しげに吐き出された息が夜気を裂く。 まだ終わりではない、終えてはならない。だから、次を見据えなくてはならない。 鬼との戦いは、未だ終わらず。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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