●光封 「うたはじょうず?」 アーク本部で『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言った。 イヴはかいま見えた未来の事件を語る。光のエリューション・エレメントが暴走する。場所は山の中腹に整備された公園の時計台。膨大なエネルギーを帯びたまばゆいばかりに白く光るエリューション・エレメントはまたたく夜空の星の様に誰も居ない深夜0時に天空からまっすぐに落下する。その衝撃は公園を跡形もなく消し去り山の形を大きく変える。それほどの膨大なエネルギーが意味もなく放出され破壊だけをもたらし消えるのだ。 「山が破壊されると林業とか治水とか道路とか物流とか色々困る人がいる。でも、このまま破壊しようとしても強すぎる……だから力を封印してから戦って倒して」 つまり力の封印なくして倒せないということなのだろう。強力なエリューション・エレメントの力を封じるのだから、相応に難しかったりするのだろうとリベリスタ達は身構えていたが、イヴは小さく首を横に振る。 「簡単……うたって封じればいい」 そこで最初の台詞につながるのだろう。 「白光は7つの光。それを5・7・5で詠めばいい。封じたらそれだけ弱くなる。速度も力も全部……でも色の部分は2つの意味がある言葉にするのがいい詩の条件」 たとえば……と、イヴは一句詠む。 闇払い 沈み休みし 空のあかつき 「赤い月と暁……こんな感じ。あと6句、頑張って」 短冊に踊る墨跡を示しつつ、イヴはちょっぴり照れくさそうであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月19日(木)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●時は止まらない 陽が沈むと辺りは真っ暗になってしまった。点在する照明のLEDライトが煌々と新星の様に場違いな光を放っているが、それも少し距離をとれば儚いものとなる。普段であれば、もう22時を廻った公園に動くものはない……筈であった。だが、今宵だけは違う。10人を越える若者達の姿があった。 「やっぱり炎が作る光っていいわね。暖かみがあるし風情があるわ」 さして苦労もせず危なげなく慣れた手つきで焚き火をし始めた『威風凛然』千早 那美(BNE002169)は、夕暮れの空の色をした瞳に明るいオレンジ色の炎を映す。 「この時期でも夜中……特に山の中は街中よりも冷えることがあるからね。確かに光が消えたら大変だしな」 那美の焚き火にくべる枯れ枝集めを手伝った『Digital Lion』英 正宗(BNE000423)は、勢いよく燃える炎に照らされながら言う。 「これが戦というものでござるですかぁ? なにやらわらわも身の引き締まる思いなのでござるですぅ!」 彼女にとってはまさに今夜が初陣となる。『サムライガール』一番合戦 姫乃(BNE002163)はかがり火の様に燃える炎に頬を照らされ、少しばかり気負っていた。それも致し方ない……彼女はまだ10歳の女の子、どう言い逃れしても見とがめられれば補導されてしまう若すぎるリベリスタなのだ。 「悪いなアルカナ。ちょっと頼まれてくれなかか?」 焚き火の明かりはあるけれど念のためにとランプを時計台の周囲に置いた『星守』神音・武雷(BNE002221)だが、縄ばしごを掴んだまま困った様な表情で声を掛ける。一番上から下へと縄ばしごを降ろしたいのだ。 「おやすいご用じゃ」 縄ばしごを受け取ると『有翼の暗殺者』アルカナ・ネーティア(BNE001393)はふわりと飛び、時計台から四方に降ろす。 「耀きし、巨大な敵に、武者震う……武者震う、武者ぶるう、ブルー。なんちゃってね」 今回の敵とその弱体方法を踏まえた上で『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)も一句詠む。敵を封じる詩を詠む役回りではないからこそ出来る余裕だろうか。 「傍迷惑、な相手……人の居ない所に、落ちて消えるだけ、だから暴れて回る奴、よりはマシなのかもしれない、けど」 途切れがちの言葉を『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が言う。今夜の事が世の全ての隕石事件の真相だと言われても、信じてしまいそうな案件だ。 「無駄に費やされる膨大な力……いっそ我が内に取り込められればよいのだが」 どれほど魅惑的だとしても、制御されていない力は破壊しか生まない。もし『ソウルブレイカー』竜一・四門・ベルナルディ(BNE000786)に手段があったとしたら、どの様な運命を背負う事になっても力を手にした事だろう。何かを為すためには力が要る。綺麗事では済まない事を竜一は経験を通して知っていた。 焚き火から少し離れた場所で雪白 桐(BNE000185)は上を見る。暗い場所でも遠くまで見通せる目は、今もじっと敵が現れるのを警戒している。今回は時間との勝負でもある……敵の出現は1分1秒でも早く皆に伝えなくてはならない。 皆、固唾を呑んでその時を待つ。なんの装飾もない簡素な時計台の長針と短針が文字盤の12を同時に指した。 「……来ました!」 遥か上空で爆発的な白い光が発生したのを桐の血色の瞳は見逃さない。ほぼ同時に天乃の金色に輝く瞳も光を捉える。夜空を彩る星にも紛れるほどの微かな輝きは流れ星の様に急速に接近しギラギラと輝きを増す。 「………お、きたかぁ?」 寝転がっていた武雷が身を起こした。 「皆、封印は頼むぞ」 時計台の間近まで接近し正宗は仲間達に言う。 ●封印のうた 現れたからにはもはや一刻の猶予もない。 「とりあえず、詠む!」 腹式呼吸で大きく息を吸い込んだ天乃は息が続く限り大声で詩を詠む。イヴがサンプルにするようにと披露した赤の色を詠み込んだ句だ。 闇払い 沈み休みし 空のあかつき 「えー、ごほん……」 光の変化を確認する時間さえ惜しみ武雷は黄の句を叫ぶ。黄色と帰路の意味を持たせた句だ。 星払い 友と見上げる きろの空 藤棚や 紫薫る 里景色 続いて那美が紫の句を詠う。紫に群れ咲くの意味を封じている。アメジストの様に紫にけぶる瞳の色を詩に込める。3つの詩で3つの光を封じられた敵の姿は白から青っぽい色に変わり、落下速度は目に見えて遅くなっている。 「詩で力が弱まるとはなんとも不思議な話だが……しかし、それで事を為せるのなら問題はないな」 黒い瞳を真上に向けて『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が言う。 「あぁ、どういう形であれ、この世に仇なす輩は討ち果たすまで」 竜一は琥珀色の瞳は刺すような鋭い視線で今や仄青く揺らぐ光を見据え、橙と代々の詩を詠む拓真に続けて詠う。 祈り込め 灯篭流しを 橙に 日差し避け 葉桜のもと あおぐ涼風 青の句にはあおぐの文字を入れる。残る詩は2句となり、エリューション・エレメントは速度を緩め光は弱まり暗緑色へと変わってゆく。 さめざめと 地に藍染める 涙かな チューリップ 選り取り見取り 綺麗だな 藍の言葉に愛や哀の意味を込めた句を桐が詠み、最後は姫乃が子供の高い声で緑の句を叫んだ。 「如何にでござるですぅ!」 詠いきった姫乃が上空を睨むように見つめる。 「効果確認しました。敵、エリューション・エレメントは光量速度、共に著しく低下」 桐の夜でも遠くを見通す目が正確に敵の状況を皆に伝える。 「やったな、皆!」 全身が光り輝く防御の力で包まれた正宗の顔に笑みが浮かぶ。 「眩しすぎるのが難点だったけど、今は見えやすい程度になってくれて助かったわ」 沙希をかばうようにショットガンを構えたこじりはためらうことなくトリガーを引く。魔力のこもった弾丸が朧げな光を撃ち抜いた。千切れるように光が奪われいびつな形に変化する。『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は竹簡を小さく2度叩くのを合図には力を使う。活性化された魔の力が力強く沙希の身体を駆け巡っていく。 僅かに形を損なったエリューション・エレメントだが、消滅することはなく依然緩い速度で時計台へと落下している。更に鈍くなったとはいえまだ残る力を地上へと向けて放ってくる。 「何事も恐れることなく存分に戦うがよい。如何なる手傷も治す事こそわらわの務めじゃ」 古風な装束をまとった『伯爵家の桜姫』恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)は動き難そうな様子も見せず、天乃の傷を癒した。アルカナもすぐに癒しの微風を喚び武雷の傷を治す。 天乃も攻撃態勢に入るが敵の姿はまだ遠く、強力なスキルを使っての攻撃は出来ない。だとしても、エリューション・エレメントが墜落するまでの時間は限られていて、1瞬たりとも無駄には出来ない。 「水滴が石を穿つように……貫いて、みせる」 思いを込めてナイフを投げて攻撃するが、確かにさほどダメージを与えられない。 「うまくいったか」 正宗と同じように武雷の身体もまばゆい光のオーラに包まれる。それとは逆に那美は全身に闘気をめぐらせ攻撃する力を強化する。刻々と迫る敵を見据えながらも、那美は視界の端に天乃を入れる。心配しているのだが何も言わないし態度にも表さない。自分が天乃の立場なら辛くなるから……見守るだけだ。 「我が内にて眠る力よ……」 同じく闘気をみなぎらせた拓真に続き、竜一は力を喚ぶ為の言葉を紡ぎ、魔力を最大限にまで強化増幅する。 「まだ時間は充分にあるようですね」 手数は減らしても強い攻撃を放てるようにと続く桐も闘気をまとう。 「無念なのでござるですぅ。わらわのあっぱれとしかいいようのない凄技を披露することが出来ぬでござるです」 姫乃は不満げにまだ遠い敵を見上げ、じりじりと次の攻撃に備えて集中力を高めようとする。 「まだ……まだ届かないか」 他者を回復する術を持つ者達を庇うように立ち続けながら、正宗は我が身を癒し続ける力を解き放つ。 「割に合わないのよね、アークのバイトは」 酷い怪我というわけではないが、こじりの服の腕には高熱で焼けた跡がある。買い換えるか工夫をしないと普段着に使えないかもしれないと思いつつ、こじりは再び魔力のこもった弾丸を放った。1度目よりも強い威力を放った弾丸が更に敵の身体を吹き飛ばす。 再度エリューション・エレメントが光の束で攻撃する。これも先ほどよりも強く高エネルギーを放ってくるが、鬼子そして沙希が竹簡を傾けて味方の怪我を次々と治してゆく。 7色の句を詠んで7色の光を封じ、敵の力を大幅に弱体したリベリスタ達。だがエリューション・エレメント討伐には思わぬ障害があった。それは彼我の距離であった。落下速度が遅くなったために、なかなか近接攻撃の射程内に入ってこない。桐が疾風居合い斬り、竜一がマジックミサイル、そしてこじりがピアッシングシュートで遠隔攻撃を放ってはいるが、他は通常攻撃でありその威力は弱くどれも決定的な攻撃とはならない。 「この一撃、受けてみるのじゃ!」 空を飛べるアルカナだけが易々と敵に接近し、破滅的な黒いオーラで攻撃し続けているが、このままでは落下までに倒しきれない可能性もある。 「おれの背中でよかったら、使っていいぜ~?」 立ったまま両手を時計台の壁面についた武雷は、困惑している仲間達に顔だけ斜め後を向いてニヤリと笑う。 「いいからおれを踏み越えて跳んでくれ」 「わかった。やって……みせる」 真っ先に天乃が武雷の背を駆け上がり、更に頂上の時計を蹴って跳ぶ。空を駆ける天乃から立ち上る破滅的なオーラが鈍く輝くエリューション・エレメントを貫いた。 「那美! あんたもだ」 「わかった」 武雷の背を利用し空へと駆け上がった那美は全身に激しく帯電し、そのまま捨て身の攻撃を放つ。バチバチと音と光を放ちながら電撃が敵を包み侵食するように圧していく。 「もう少しだ!」 敵の高度も明度も明らかに激減している。柄にもないと内心思いながらも、竜一は自分と仲間を励ますかのように声をかけ、力ある言葉により展開した魔方陣から弾丸を放っていく。 「最後は支えられて散るのが華なんでしょうね?」 桐の素早く剣を抜き放つ動きが真空の刃を生み出す。その見えない切っ先がエリューション・エレメントの鈍い輝きを切り裂いて空へ消える。 「縁起でもないのでござるです。ごめん……わらわも背をお借りするのでござるです!」 小柄な姫乃も空に舞う。迫る敵との距離はドンドン縮まっていて、思いっきり跳んだ姫乃が全身のエネルギーを集約させた球は大太刀から放たれ敵を貫く。拓真とアルカナもここぞとばかりに攻撃を集中させ、沙希と鬼子は丁寧に丹念にリベリスタ達の傷を塞ぐ。 「地上に落とすわけにはいかない。絶対に……徹底的に叩き潰す」 「おぉ……来い!」 武雷の背を跳んだ正宗は腕の筋肉を最大限に使い攻撃を放つ。光が更に力を失い失速する。 「貴方に負けるのを想像すると、無性に頑張りたくなるのよね」 もはや鬼火の様に儚い光は手を伸ばせば届きそうな場所にある。こじりは跳躍もせず全身の力をショットガンに集中させた。爆発的なエネルギーが弾丸の様に飛ぶ。 「……どっせい!!!」 垂らした縄を片手で掴み縄ばしごを駆け上がると、武雷は大太刀を振るう。全身の力を爆発させた一撃……刃は真っ二つに光を斬る。2つに裂けた光は地上に落ちる前に燃え尽きる花火の様に空に消える。 夜の公園には急速に静寂と闇が戻ってきた。 「しかし、人騒がせなエリューションだな~。まぁ、綺麗はキレイだったけどな」 太刀を鞘に戻しながら武雷は言った。 「終わったわね」 長い乱れ髪を掻き上げながら那美が言った。 「あ……折角、一緒になったんだから、那美」 片手を掲げる天乃の様子に一瞬小首を傾げた那美だったが、すぐに手を挙げハイタッチでパンと手を叩き合う。 「……綺麗だったわよ」 そっとささやく様にこじりは言った。だからこそ人が何かを成し遂げようとする様の方が美しいと証明したかったから、負けられなかった。 「思ったよりも被害が出なかったのはよかったが、まぁ公園だしな」 早朝から散歩の老人が来るかもしれないと、正宗は縄ばしごや焚き火の後始末を始める。 「お腹も減りましたし、帰りがけにラーメンでも食べて帰りましょうかね。皆様、いかがですか?」 良い店を知っているらしく、竜一は穏やかな雰囲気をまとって言う。 「奢りですよね?」 いつもより少し表情を緩めた桐が言った。大事そうにノートを抱えた沙希や拓真、アルカナと鬼子も帰り支度をしている。 「わらわは床を取らねば明日に触る、至極残念でござるです」 しょんぼりと姫乃が言ったが、0時を廻っているのだが仕方ない。 一仕事終えたリベリスタ達は山を下りていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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