●守り守られし民 彼女はヒロイン。彼女を信ずるすべての者の憧れ。 彼女はヒーロー。世界を愛し、世界を救う守護者。 彼女は世界。彼女を信ずるすべての者の中心。 我々は彼女を傷つけるすべてから彼女を守りぬくと誓った。 我々は彼女に危害を加えるすべての者に愛と言う名の制裁を加える。 彼女こそが正義であり、彼女こそが絶対である。 ならば我々も彼女の正義に従い、彼女に従い、世界を救わねばならない。 彼女と共に歩み、世界を平和に導くのだ。 我々の信ずる魔法少女に、栄光あれ! ●魔法少女親衛隊 まばゆく輝く太陽の光を遮る雲は欠片さえもない。快晴と呼称するのに差し支えのない空。清々しい。気持ちいい。世界は平穏を極めている。流れる風が心地いい。人でごった返す街の中でも、晴れと曇りでは様相も心持ちも幾分異なってくる。出かけるには絶好の休日だ。 しかしながら平穏を打ち破るものなんていうのは突如として現れるもので、かつこちらの都合なんて聞いちゃくれない。大号令は平和に亀裂をいれる刃物となる。 「諸君、我々は魔法少女に守られている!」 いつの間にかそこには『誰か』を取り囲む人だかりができている。男、男、女、男、男で並ぶ彼らの異様な雰囲気に、彼らと周囲の人間の間に境界が生まれる。 「諸君、我々は魔法少女と歩みを共にするものである!」 スピーカーで増幅された音がビルの壁に反響して耳に響く。その煩さが、彼らの言う『魔法少女』が一切周囲に認識されないままに、嫌悪感を増幅させていく。 「諸君、我々にとって魔法少女が正義である。然らば、彼女を崇拝するのが当然である!」 一見して実直であった。神を信仰するように。夢を追い求めるように。 その実滑稽であった。鰯を崇拝するように。夢に追いすがるように。 傲慢にして愚劣。一心不乱に信仰だー崇拝だーとわめき散らすその姿は、信仰対象の俗っぽさも相まってまぁなんだ、気の毒だ。 こう言った訳のわからぬ輩にはスルー安定、なのだが。如何せんうるさい。やかましい。しつこい。折角の休日に聞きたくもない宗教じみた演説が跋扈したとなればムカつかない訳もなく。 「だーっうっせーな! どっかいけよおめぇら!」 と罵声が飛び出した。残念だが当然である。 ぐるりと、集団の首が一斉に声の発生地点に向いた。威勢良く叫んだ若い男は、罰が悪そうに顔をしかめる。ズンズンと効果音の付きそうなドッシリとした足取りで、集団の代表と思われる無精髭の男が彼に近付いていく。 「貴様、魔法少女を愚弄したな」 その顔は憤怒に満ちている。もの凄く真剣だ。緊張が人の隙間を駆け抜ける。若い男は全く以て訳が分からない。文句を言ったのお前らだよ、の「も」の字を発した瞬間だった。 「不敬は輩は罰に値する!」 言葉と共に振り下ろされた手刀が彼の脳天を割る。血がダクダクと流れ出し、道を染める。唖然。静寂。間を置いて悲鳴が響きだす。恐怖し、逃げ惑う。 人を殺したというのにその男は冷静であった。心というものが些かも感じられぬ表情で、彼は叫ぶ。 「魔法少女は絶対である! 彼女を守り、崇拝しないものは不敬である! 即刻我らが罰する!」 ●なんて事の起きぬように 「とまあこんな事が起きそうな訳でして」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が申し訳なさそうに言うと、リベリスタもなんだか申し訳なくなってくる。何だこの訳のわからない輩は。理解できない。というか何度見直したってわかりたくない。 「『魔法少女』と呼ばれるフィクサードを崇拝する『親衛隊』なる組織が確認されました。彼らは魔法少女に守られ、また魔法少女を守ることを信条とし、少しでも彼女を愚弄するものがあればたちまち激昂し、暴れ回ります」 それが少々厄介でして、と和泉は苦笑する。 「彼ら親衛隊はフィクサードではなく一般人の集団なのです。手っ取り早く魔法少女を倒せればいいのですが、それをしてしまうと彼らが暴動を起こしてしまう。こちらとしても一般人の死者の発生はできるだけ避けたい。彼らもある意味で操られているので……」 どういうことか、とリベリスタは疑問を呈する。 「『魔法少女』の近くにいる人間は誰も彼も少なからず催眠状態になっているみたいなんです。自身に人が集まるようにでしょうか。とにかく彼らは何らかの催眠を受けているのですが、これがとある条件を満たさないと解けない面倒なものでして。 催眠が解けると、催眠状態の時の記憶は無くなってしまうので、彼らの前で神秘を使う事は何の問題もないのが救いですが」 どんな条件か、とリベリスタは問う。 「魔法少女が誰かを守ることです。そうすれば魔法少女は自ら撤退し、一般人の催眠も解ける。めでたしめでたし。 そこでここまでの条件を満たす魔法少女の撃退パターンを検討し、いくつか上がった中から最も面白くて安全なものをやってもらうことにしました」 魔法少女についてのあれこれなど曖昧な部分を尋ねようとしたリベリスタだったが、その全ては弾けとんだ。おいこの女子大生、今変な事言ったぞ。 「格好よく負けてきてください」 言った彼女が魔女に見えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月02日(月)22:39 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 諸君、我々は魔法少女に守られている! 諸君、我々は魔法少女と歩みを共にするものである! 君、我々にとって魔法少女が正義である。然らば、彼女を崇拝するのが当然である! 『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)はその様子をジッと見つめている。 ● 大号令、恐怖、怒号の嵐。その中を割って入る一つの悲鳴があった。 「くっ、こいつら、強いっ…きゃぁっ!?」 リリィ・アルトリューゼ・シェフィールド(BNE003631)が空を切って着地する。すると彼女の前に五つの影が現れた。それは統一感の無い思い思いの格好で、中にはヒーローっぽいのもいたのだけれど。真っ黒のボディスーツに燻銀の鎧、高飛車を顔で表すようなヒールなメイクの『悪木盗泉』霧島・撫那(BNE003666)が前に出て。 「貴方の力はその程度ですの!? わたくしの盾の前では無力、無力ですわぁ!」 と叫んだならば。そこにいる誰もが彼らが悪の秘密結社的な者だと理解した。周囲の人間、親衛隊も含めた全員がそれに目を奪われる。さっきまでもよくわからなかったけど今度もよくわからない。 そうだあれだ、特撮の撮影だと無理矢理誰かが理解しようとしたとき。 「そこまでです悪の組織!」 そこにいた全ての人間が声のした方を向く。スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)が空から舞い降り、スペードの隣に着地する。嗚呼これはマジなのかと誰かが希望をかなぐり捨てた。 「あなたたちの野望はこの魔法少女プリティー☆トランプ(21歳)が阻止します!」 へ~ん しんっ! 幻視発動、しかし何も起こらなかった! すかさず幻想纏いを取り出して、瞬時に自前の導師服を身に纏う。リリィと共に、魔法少女プリティー☆トランプ(21歳)ことスペードはポーズを決める。 「お待たせ、リリィ」 「遅いわよ、……待ってたんだから」 「ふふ、何人いたって同じ事」 『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650 )は高らかに声を上げる。心の奥深くを覗くような不敵な笑みは、柔和な笑顔に強かな恐怖を生んだ。 「あなた方は敗れる運命なのです。抗うのは無駄な事。我々は我々の目的を果たすのです」 「待ちなさい! この人たちに手出しはさせないわ!!」 吹き荒れる魔炎がシエルを包む。それを見て、周囲の人間のほとんどが逃げ失せた。しかし彼女は、平然とした顔で、リリィに和やかに微笑んだ。 「言ったでしょう、無駄だと」 「いつもオレたちの邪魔しやがって! 今日こそやってやるぜ!」 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が果敢にスペードに向け牙を剥く。スペードもそれに応戦する。何度かの殴打や蹴りの応酬の後、腹に鋭く入った拳に、スペードは苦しそうに顔を歪め、のろい動きで後退する。 「我が名はムーンバット、魔法少女よその血を我に捧げよっ!!」 『血に目覚めた者』陽渡・守夜(BNE001348)はリリィを指差して宣言する。リリィは触発されて守夜に何度となく攻撃を放つが、その全ては彼の流れるような動きについていけず、守夜の後ろへと逸れていった。 「ハハハ! 当たらぬ、当たらぬぞォ!」 「魔法少女を愚弄したな、貴様ァ!」 リリィ、スペードの後ろより、親衛隊が声を上げる。信ずる魔法少女、守るべき魔法少女に敵意を向けられたならば、彼らが怒らぬ訳が無い。彼らは本能のままに守夜に、そして悪の秘密結社に進撃する。 「お前らも敵か、よかろう、始末してくれる!」 守夜と牙緑が親衛隊を相手すべく応戦の構えを取る。シエルと撫那はその後ろで戦いの様子を観察していた。しかし、双方の纏う雰囲気を見るに、戦力の差は圧倒的。 「このままでは負けてしまう……! こんな時、颯爽と真の主役たるキュートな魔法少女が駆けつけてくれれば……」 スペードはふと背後を見る。今まで親衛隊に囲まれ、その姿を周囲に晒す事はなかったその少女に目を向けた。薄めの茶髪のセミロング。それを覆う程の大きな帽子を被っている。フリルは着いているが抑えめで、帽子と服は白と水色で彩られている。その右手には、先の方には深淵のように深い蒼色の珠が埋め込まれたステッキが握られていた。 「っは! 貴女は……魔法少女!」 ● スペードの言葉に、その少女は視線を彼女に向ける。動乱の中にあって彼女は凛としていて、それでいてクールであった。その冷静さは、この場がどうあろうと自分が全ての人間を守ってみせるという気持ちの表れにも思えた。 「どうして私が、魔法少女だと?」 「同じ魔法少女な私には分かるのです」 スペードは一切疑いの無い眼差しを、彼女に向ける。彼女は、スペードに釘付けになる。 「魔法少女プリティー☆トランプ……だっけ? あなたたちはいったい何を……」 「あ、あなたも魔法少女なんでしょう!? お願い、人々を守るために力を貸して!!」 駆け寄ったリリィが必死に助けを乞う。現状は敵の方が多勢。不利だ。人々を助ける為の最も有効な手段は、手を取り合う事。 「力を貸して魔法少女」 スペードは彼女に駆け寄り、両手で肩をつかむ。 「私達……いえ、世界が貴女の力を必要としているの」 グォ、と鈍い唸りが彼女らの耳に入る。親衛隊の何人かは既に気を失い、敵によって縛り上げられていた。まだ倒れていない親衛隊は、何故か戦気を失っている。 「これ以上やらせないわ! 受けなさい、フレアバー…っ!? ダメ、このままじゃ一般人を巻き込んじゃう!」 リリィが動きを止める。視線の先で、一人の女性親衛隊員が守夜によって羽交い締めにされ、身動きが取れなくなっていた。響いた牙緑の言葉が、全てを物語っていた。 「言うことを聞け! こいつがどうなってもいいのか?」 ジリジリと、親衛隊は後退していく。彼らは魔法少女の為に結成された集団だ。魔法少女が全てにおいて先に立つものだろう。しかし彼らとて、同胞を傷つけられるのをよしとするはずが無かった。 「あ、ちょっと!」 魔法少女はスペードの手を振りほどき、牙緑の方を向く。ゆっくりと歩み寄って、彼女自身の距離をつかむ。 「そこから動くな! こいつがどうなっても知らないぞ?」 「罪も無き一般人を見捨てられる正義の味方がおりまして!?」 撫那の高笑いが虚空に響く。しかしそれを切り裂くように、一筋の弾丸が飛んだ。それは魔法少女が唯一持つ、魔法少女としての攻撃。威力は高くはないけれど、その弾丸に込めた想いは、強かった。一直線に飛んだ弾丸は守夜の顔に綺麗に当たり、彼は避けられず、やや大げさに人質と共に倒れ込む。その手は人質から離れ、彼女は解放される。 「皆、私を信じてくれたんだもの……助けなきゃいけないよね」 彼女は振り向き、スペードとリリィに手を差し出す。 「行きましょう、リリィ、プリティー☆トランプ。正義は必ず勝つの」 「……えぇ!」 瞬間、親衛隊に戦気が戻る。彼らは勢いよく牙緑や守夜に攻撃を再開した。 「こ、こんな力……! 聞いておりませんわよ!」 両手に持った縦で攻撃を器用に防ぎながら、撫那は苦々しく言葉を吐いた。 「かくなる上は……本領発揮、で す わーー!」 ● 親衛隊の勢いは強まるばかり。前線で戦う守夜と牙緑は防戦一方だった。いくら彼らが手練だとしても、全てをさばききる事は難しかった。一向に減らない敵の数に痺れを切らし、撫那はシエルに合図を送る。 瞬間、眩い神のごとき光が戦場を包んだ。神の怒りは親衛隊の身を焦がし、恐ろしい程のトゥラウマを植え付ける。 「大丈夫ですか!? ……!」 攻撃したシエルが思わず呟いたが、慌てて首を振って、見下すような顔で言い直す。 「……おバカさんですね……この程度で倒れるなんて……弱過ぎです」 掲げたクロスは、彼女を神の加護を一身に受けた神の使いのように見せた。 「ごめんなさい……疾く御怪我を癒しますね……でも……ごめんなさい」 彼女の心にどれだけの後悔が刻まれているとも知らず。 「よくやったわ、シエル」 撫那は満足げに言った。シエルはいそいそと回復の為の詠唱を始める。 「許せない……!」 スペードは激昂する。守るべき人々が傷つけられ、守れずにいる現状を、悔いている。自分に激怒している。 「でも、ここで負けるわけにはいかない」 魔法少女は呟く。その目は、希望で満ちている。勝つという意気で溢れている。 「皆の為にも、ね」 「うん!」 「ふん、ふざけた連中ですわぁ! ほら、行きなさい!」 彼女の言葉が牙緑と守夜をせき立てる。それを受けて、リリィが炎の魔法を放った。 「ふざけているかは、私たちが決めるわ!」 守夜は炎に包まれて、焼けこげる。それでもなお立ち上がろうとするがその手は空気を掴もうとして、空を切る。 「む、無念……!」 彼は膝からガクッと倒れ、起き上がる事は無かった。 「気に入らないんだよ、お前らは!」 牙緑は素早く駆け寄って、魔法少女に向けて拳を振るう。スペードはすかさずそれを庇って受けた。 「私が盾になる、だから速く!」 「えぇ、わかった」 飛び出した魔法の弾は彼の腹を強烈に撃ち、その戦気を余すところなく奪い去った。彼は虫の息になって、力なく倒れた。 「そんな、わたくしの部下たちが!」 撫那はシエルと共におろおろしている。その胸中を知って知らずか、魔法少女は自身の持つステッキを二人に突きつけて強気で言う。 「後ろで見てただけの貴方たちにもう勝ち目は無い」 三人の魔法少女たちは攻撃を開始する。シエルの攻撃をスペードが全て受け、魔弾と魔炎の渦に敵を包み込んだ。その中でシエルは、撫那は、傷ついていく。 炎が消えるようにシエルは倒れる。魔法少女は最後の攻撃を撃つため、撫那を狙う。 照準が、定まる。 「わ、わたくしは攻撃をすべて部下に任せているのですわ! 盾しかないのですわーーー!?」 「そこまでですよ!」 ● 突如として声が響く。今日この戦場において紡がれるストーリーの役者は、揃いきっていなかった。戦場にあって戦闘をせず、ただ一人ぼっちで、戦況を読んでいた。この瞬間、この展開の為に。 「フフフ、さあ掛かってきなさい、そこな魔法少女。私がこのゲームのラスボスです」 『アマチュアゲーマー』尾宇江・ユナ(BNE003660)のパワースタッフが、親衛隊の一人に突きつけられている。二番煎じの人質確保。しかし戦況も佳境のこの場において、意味を持たない訳ではない。 人質は気を失ってはいなかった。ただ起き上がろうとする度、ユナにパワースタッフで小突かれていた。 「死にはしませんよ……死ぬほど痛いかもしれませんが」 「ひどい……」 魔法少女は思わず呟く。ユナはそれを聞いてフフンと鼻を鳴らした。 「全ての人々を守ろうなんて、無謀なんですよ」 「でかしたわ、ユナ」 撫那がユナに賛辞を贈る。 「あぁ、ずっと皆を縛ってたあんた、やっぱり仲間だったんだ」 彼女はそれを一切気にせず、続ける。 「私を倒すか、人質を助けるか。どちらかしかできません。この状況、あなたはどうするのでしょうねぇ」 「どうもこうも」 彼女は、よくわからないと言うように首を傾げる。 「そんなもので人が殺せるとでも? 意外と頑丈だよ、人って」 「へぇ、そうかい。じゃあ……」 ユナはパワースタッフをゆっくりと上に持ち上げて、人質の首を狙う。 「実際にやってみましょう!」 「……遅い」 振り下ろすより先にリリィがフレアバーストを放つ。放った魔炎は人質をギリギリで掠め、ユナだけを包み込んだ。それほどダメージの痕跡は見られなかったけれど、十分に聞いたようで。 「う~。や~ら~れ~た~」 と棒読み気味の断末魔。パタリとゆっくり倒れる体。あれどうしてだ、火だるまなのに血が出ているよ。 幸いにも魔法少女は一切気にしていなかった。ただクールに、残った撫那を見つめていた。 「辞世の句くらいは読ませてあげましょうか?」 冷静に冷徹に彼女は言葉を突き刺した。撫那は若干顔を青くしつつ、呟いた。 「……わたくしを倒しましても第二第三の悪の組織があなたを……」 「知らないわよ、そんなの」 運命に認められし彼女は己が道を歩んで正義を貫く。味方には博愛の心で人々を守る魔法少女。敵には冷徹にして無情。己に相応しいと信じている攻撃で、悪を駆逐せんと誓った少女の想いが、一つの結末を迎える。 「負けないで……貴女は、世界の希望……」 「らめえええ!?」 悲鳴を余所に、唱えた呪文に想いを乗せて、その攻撃は虚空を駆ける。 マ ジ ッ ク ミ サ イ ル 直線を描いて鋭く撫那を切り裂いた。彼女は仰向けに倒れ込んで空を見る。あまりの綺麗さに、心を失ってしまいそうになる。空虚に身を任せてしまいそうになる。 「く……貴方様は……一体何者でござますか?」 苦しそうに、なんとか言葉を吐き出して、シエルは尋ねる。 「魔法少女ラディカルリリカ……なんて、恥ずかしい名前の魔法少女よ」 「こんな魔法少女に負けるなんて、悔しい……!」 その言葉すら、空気に飲まれていった。 守夜と牙緑が素早く立ち上がり、ユナとシエルと撫那を分担して抱え込む。そこにもう戦うという気はほとんど見られず、ただひたすらに逃げたいという願いだけが見えた。 「覚えてろー!」 牙緑の最後の言葉で、戦いは全て終わった。 ● 「ありがとう!あなたのおかげで助かったわ!」 「ありがとう。貴女のおかげでこの街の平和は守られたわ」 リリィとスペードはそれぞれで魔法少女に賛辞を贈る。 「私はただ、皆を守りたいと思っただけだから」 そう言いつつ、彼女はステッキに目をやった。その眼は、何よりも寂しげだった。 「またどこかで会いましょう!」 「と、言いたい所なんだけど」 リリィの言葉を、スペードは接ぐ。スペードはしっかりと魔法少女を見、そして告げた。 「ねぇ、アークへ来ない?」 誰かを守る事は尊い。どんな道具、どんな手段を使ってでも成し遂げたい程。でも、それが必ず必要な訳ではない。彼女の持つアーティファクトが、誰かを守るのに必要なわけじゃない。ましてや、引き換えにこんな事件を起こしてしまうものなのだから。そんなものを使わなくても、誰かを守りたいと願うなら、彼女の助けを必要とする人は、きっといる。 誰かを守るのに、そんなものは要らないよ、とスペードは言う。 うん、わかってるよ、わかってるけど、と魔法少女は苦笑する。 「魔法少女になりたくてなったわけじゃない。 でも魔法少女でいなくちゃいけないの。 だから、ごめんね、アークへは行けない」 じゃあ、またどこかで。 そう言って彼女は消えた。どこか遠い遠い彼方へ。 街には平和が戻っている。でも、誰もここで起きるはずだった惨事を、起きた出来事を、知らない。今日ここで起きた事件は、リベリスタと魔法少女だけの秘密。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|