●小さな木の家のナカ 『タスケテ』 『シニタクナイ』 『イタイ』 『ユルシテ』 『ドウシテワタシガ』 『サムイ』 腐った血の香と、真っ黒に乾いた血文字の中で少女が一人笑っている。 手の中にはまだ少しだけ肉の残った人の骨を抱きしめて、楽しげに楽しげに笑っている。 ここは彼女の楽園。 ここは彼女の処刑場。 哀れな躯の墓場。 何も知らずに迷い込んだ者達の最後の場所。 ●ブリーフィング 「お疲れ様です。本日の任務の説明を致します」 コンソールから目を離し『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がリベリスタ達を睥睨する。 「今回の任務は、フーティファクト『安らぎの家』の内部に潜むE・アンデッドの討伐です」 和泉が手早くキーボードを操作すると、モニターには随分と高価そうなミニチュアハウスが映った。 手の込んだ外装は、それだけで職人の技術が伺える。 「魔術師が制作したと言われている、このミニチュアハウスは扉に触れた者を内部に格納する力があります。それだけならば無害なのですが……」 何時しか、このミニチュアハウスの中にはアンデッドが潜み始めた。 アンデッドはこの無害なアーティファクトに何も知らず入り込んだ者を殺し喰らう。このアーティファクトはアンデッドの餌場になったのだ。 「アーティファクトその物は、街外れのアンティークショップに置いてあります。ショップ内への出入りは可能ですが既に店主が内部に取り込まれ死亡を確認しました。これ以上被害を出さない為にも早急な解決を期待しています」 そう言って、和泉はリベリスタに敬礼を送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月17日(火)23:14 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●小さな家の小さな屠殺場 アーティファクト『安らぎの家』。 元々は魔術師が慰安の為に作り出した、内部に圧縮した空間を内包しただけの無害な魔術具。 言ってしまえば、家の中に置ける別荘だ。 ミニチュアハウスとしての出来栄えも一級品。魔法や神秘の事をフィクションと信じる一般人から見ても、その価値は高いのだろう。 だからこそ、それを悪用したアンデッドが現れたのは不幸であった。 内部に踏み込んだ際にまずリベリスタ達が感じたのは、むせ返る程の腐臭だった。 肉の、そして血の腐った臭いが充満した玄関は、外から見える素朴な美しさを感じるミニチュアハウスの印象とは真逆の薄ら寒い狂気を感じ取れる。 床を踏みしめれば、生乾きの血が靴底に纏わりつきグチグチと嫌な音を立てて、歩く速度を、前に進む意思を挫こうとしてくる。 腐敗する臭いに比例して、周囲を飛び回る蝿やまだ固まりきっていない血の中で蠢く蛆が増えてくる。 たった数メートルで目的地に達すると言うのに、精神的な重圧によって距離が伸びて行く様にも思えた。 こう言ったグロテスクさに慣れないのか、『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)は玄関に入った瞬間に大きく深呼吸した。 「依頼は依頼……こういう時は心頭滅却すればおばけも普通に怖い……じゃなかった、落ち着いてじっくりと対処しましょうっ!」 ぐっ、と握り拳に力を込めて決意を顕わにした物の、生臭い腐臭を吸い込んでしまった為か若干涙目だ。 それを笑う事無く、『視感視眼』首藤・存人(BNE003547) を中心に居間へ続く通路から行ける部屋を確認し始める。 どうやら玄関から居間を経由せずに行ける部屋は客室の様だった。 真白いシーツのベッド、高級な印象を受けるテーブルとイス。最低限の物しか無いが、どれも品が良い。 もっとも、部屋の中に血や腐肉、そして態々部屋を検分する事にした原因である骨さえ無ければ、だが。 「閑静な個室、そのものの有用性は理解するに難しくない。本来とても素敵なアーティファクトであったのだろうが……」 小さく心情を吐露しながら、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371) が骨を破壊している。 事前に得た情報から、今回の敵は犠牲者の骨を使役してくる。この骨の破壊も、犠牲者がこれ以上弄ばれるのを防ぐ意味でも、後ろから挟撃される事を防ぐ意味でも必要だった。 どの程度破壊すれば良いかは判断が付かなかった為、少々手間取ったがある程度骨を粉砕して客間の処理は済ませた。 居間に突入する寸前に『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が自己強化を済ませ、それにつられる様に自己強化能力を持つ者達がその力を解放する。 前衛を担う冬芽、零二、そして『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637) の三名が前に立ち居間への扉を開け放った。 ●死霊 『タスケテ』『イタイ』『ナンデコンナコトニ』『シニタクナイ』『ヤテメテクレ』『ココカラダシテ』 清潔な壁紙が貼り付けられた純白の壁は血に濡れ、天井から下げられたガラスとは違う不思議な材質の照明からは腐った臓物が垂れ下がり、木の暖かさを残したフローリングには骨が積み上げられている。 壁、床、天井、調度品。 あらゆる場所に人だったモノがぶちまけられ、犠牲者の物と思われる血文字が助けを求めている。 その中に、居た。 『オ……アァァアァ……ァ』 シルエットだけは少女だった。 ワンピースドレスの様なボロ布を纏い、肌は土気色に変色し部分によっては固まった血でどす黒く染まっている。 眼窩は黒い空洞と化し、どす黒い液体が地面へと滴り落ちる。髪は重力に逆らいザワザワと蠢いている。 最早生前の姿が解らぬ程に歪んだそれは、リベリスタ達を発見すると同時に骨の従者達を呼び寄せた。 だが同時に、『天井』から微かに煌く気の糸が飛ぶ。 空を引き裂き伸びる気糸がレイスを捕らえようとした瞬間、スケルトンが骨だけの身体をレイスの前へと踊らせ、己が身を気糸に晒してブロックする。 「ちっ、やはり骨を如何にかせねばならぬか」 蝙蝠の様に逆さまに天井に張り付き、気糸を放った『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)が呟く。 彼は前衛担当3名の頭上に、己の異能である面接着と類まれなるバランス感覚によって天井を床として進入していたのだ。 とは言え、奇襲気味に放った一撃はスケルトンに防がれた。予想はしていたが面倒な事はこの上無い。 だが、幸成の放った糸の効果でスケルトンの一体は動かなくなった。破壊されて居ない所を見るに、視認し辛い糸が縛り上げたのだろう。 一撃を与えた幸成が天井を蹴って移動し撹乱しようとした瞬間。 居間に置いてあるテーブルや椅子、花瓶などの調度品や家具が宙に浮かんだ。 『アァアァァァァオォォ……』 レイスが発する奇怪な叫びに呼応する様に調度品や家具達が暴走した動物の様に荒れ狂う。 「くっ……!」 事前情報が無ければ不意を撃たれただろう。其れほどまでに唐突に家具達が襲い掛かってきた。 防ぎ、避ける事が出来た者が多いが体力的に劣る存人が飛んできたテーブルの足がに掠ってしまう。直撃では無いが、その一撃で数歩後ろに踏鞴を踏んでしまった。 威力は高い。存人だけでな、他の者も多かれ少なかれ被害を被った様だ。 「……言葉で語るは、些か遅すぎたか。ならば……この拳にて相対するのみ。義桜葛葉、推して参る…!」 居間だ旋回を続ける家具達の一部を粉砕しながら、葛葉が突き進む。粉砕した木片が吹き飛び一種の目くらましとなって進攻を助け、本人はその勢いのままに無傷のスケルトンに向かう。 左右の拳、肘、各種の蹴り。気迫とオーラの纏った連撃が正確にカルシウムの塊を捉え粉砕してゆく。 肋骨を胸骨を頭蓋を完全に破壊されたスケルトンはその場でただの骨となり崩れ落ちる。 「意外と被害が出てるわね。待ってて、今治すわ」 元の想定では補助的な能力の行使を考えていた片桐 水奈(BNE003244) の口から妙なる歌声が響く。 歌声が癒しの風となりリベリスタを包む。見る見る内に傷が癒され活力が満ちる。その活力のままに、零二が増えた。 いや、正確に言えば残像を残して周囲をなぎ払ったのだ。 その斬撃はまだ動けるスケルトンと縛られたスケルトン。そして周囲に散らばった素材となる骨を巻き込み破壊する。 「とりあえずおばけ怖いから早くどっかいくといいと思うのっ!」 パキパキと小気味の良い音に眉を顰めながら冬芽が骨を破壊しつつも気によって作られた爆弾をレイスに向けて放り投げる。 投擲の速度が遅かったからか、レイスが余裕を持って避けて見せた。着弾点火式だったのかそれで爆発する事は無い。 しかし…… 「斜線は通っている……狙わせて貰う!」 雷慈慟がいつの間にか張り巡らせた気の糸の包囲網を狭める。 予想通り、レイスはその中心に入り込み動きが止まった。同時に、冬芽が放った爆弾が破裂する。 『ギィィィィイイ……!』 金属が擦れ合う様な不快な悲鳴を上げながらレイスがもがく。まだ無事だった骨が浮かび上がり、一つの身体を作り上げようとした瞬間に炎が上がった。 天井付近に浮遊した小鳥遊・茉莉(BNE002647)とダメージから復帰した存人が魔術による爆撃を行ったのだ。 爆炎は床を舐め尽くし、今だ無事な骨達ごと生まれようしたスケルトンと気糸から逃れようとするレイスを巻き込んで焼き尽くす。 「これで盾は無くなりました!」 「今がチャン……!?」 『ギィィィィィィィアァァァァァ!!』 レイスを縛る糸が切れる。同時に叫びと共に生臭い風が渦巻き始めた。 癒しの風の余韻を吹き飛ばし、砕けた骨が腐って落ちる。 周囲の腐臭を巻き込んでより濃厚になった、生きたまま人を腐らせる神秘の風が襲いかかる。 「ぐっ……!」 「きゃっ……!」 リベリスタ達の癒しきれて居ない傷が広がり、炎症を起こし膿んで来る。 傷口から瘴気が入り込み、内部を腐らせようと荒れ狂うのだ。 神秘に対する抵抗力が低ければ、肉がグズグズの腐肉に変わるだろう。だが相手は神秘に対する能力を持つ。 持続すれば別だが、どうもこの風の持続は短い。とは言え、何度も受ければ別だ。 「畳み掛けるでござる!」 幸成の声と共に気糸が飛ぶ。 レイスは闇雲に腕を振り回し、その糸の軌道を乱そうとする。しかし、幸成が学んだ忍びの技術はそれに対応して腕を絡め取る。絡め取った糸は、ギリギリと腕に食い込み、霊体の腕を締め付ける。 この糸の目的はダメージでは無い。動きを止める為なのだ。 「手伝おう」 その意図を察した雷慈慟が同じく気の糸を放つ。幸成の放った物よりも大量に、そして的確に相手の全身に絡み、縛りつけて動きを確実に封じてゆる。 「ここは確実に動きを止めます」 さらに、自らの血液から作り出された黒い鎖が強烈な本流でレイスに襲い掛かった。 茉莉が放った魔術だ。 黒い鎖がレイスの両肩、両足を刺し貫きその周辺に巻き付いて絞め砕くのだ。 「申し訳程度ですが!」 「火力支援致します」 水奈と存人が魔力の矢を放つ。動けなくなったレイスの胸元に次々に着弾しはじけ飛んで周囲にエクトプラズムと思われる何かが飛び散る。 身動きの出来ないレイスはただ怨みと苦痛の篭った叫びを上げるだけだ。 機を逃すまいと、踏み込んだ葛葉が裂帛の気合と共に全力の拳を振るう。 正しく振るわれた拳がレイスの腹部に吸い込まれるように叩き込まれ、その拳が内部に浸透して相手の防御を無視する。 『ガガガガガガギギィィィィィ』 レイスの苦痛の叫びが響く。 「……もう、おやすみ」 静かに、優しさすら感じる声を呟いて零二の剣が一閃する。 美しい軌跡を描いたその一撃が深く相手を切り裂き…… 「――痛かったよね。寒かったよね。苦しかったよね。でも、貴方達の糸は既に切れていて……その嘆きは、ここにあってはいけないものだよ。だから、私が貴方達の縺れた糸を解いてあげる」 哀れみが篭った言葉と共に、冬芽の作り出したオーラの爆弾が…… レイスを粉々に打ち砕いた。 ●小さな家 爆発の中に消えたレイスが、レイスと成り果てる前に何があったかは解らない。 だがその怨念が神秘を引き寄せてしまったのだと推測できる。 そして、その怨念がこの部屋の死体達を縛っていたのは事実だろう。 現にレイスが消滅すると、グロテスクな装飾として周囲を汚していた腐肉や血の染み、血文字等が後を追う様に消えていったのだ。 残ったものは被害者の物と思われる砕かれた遺骨と、壊れてしまった家具達だけ。 砕かれた遺骨は可能な限り回収し、このアーティファクトを回収した後然るべき所で弔われる。 その前に、リベリスタ達は各々が黙祷を捧げた。 せめて安らかに眠るように。 その意思は、皆口には出さなかったがレイスにも向けられた。 しばしの黙祷が終わり、武器を収めると漸く疲労が押し寄せてきた。 「明るく良い部屋だと言うのに……目が描きたい」 ぽつりと存人が自分の趣味に基づき呟いた。 彼は眼球が好きなのだ。 「いや、それはちょっと……」 茉莉が反論する。 改めて見れば、このアーティファクトの内部は童話に出てきそうな程に幻想的で素朴な物だ。 女性的な視点から見れば、いや見ずともそんな所に眼球の絵なりオブジェなりがあると言うのは流石に勘弁願いたい。 現に、男性陣の一部も頷いている。 「私としては家具が壊れてしまったのは残念ね」 そう言ったのは水奈だ。 どれも素朴な、しかし手の込んだ調度品なのだ。 居間にあった物だけでだとしても、やはり破壊されれば悲しい物だ。 「と、兎も角アーティファクトを回収しましょう!」 冬芽が明るい声で提案する。 おばけが怖い彼女としては、今回の仕事は精神的に相当堪えたのだろう。 その心情を汲んで、皆が頷いた。 こうして、アーティファクトの回収とエリューションの討伐は終わったのだ。 外に出れば、時間はあまり立っていなかった。 今度は仕事以外で来たい。 誰かの呟きが聞こえ、皆がそれに同意するのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|