● 其れは、悩みを背負うもの。 其れは、苦しみを背負うもの。 其れは、人々を悩み苦しみから解放するもの。 夜の闇を、まるで流れ星の様に少女が駆ける。 闇に溶けそうな黒のフードに身を包み、 その手にはフードと同じく黒い刃を持つ鎌を携えている。 少女には誰かの泣いている声が聞こえた。 誰かの苦しんでいる姿が見えた。 ――大丈夫だよ。全部私が背負うから。 ――全部、私が終わらせるから。 決意と共に、少女は今日も夜を駆ける。 一人でも多くの苦しみを、文字通り終わらせる為に。 ● 「……お願い、この子を止めて」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はブリーフィングルームに集まった リベリスタ達に対し、何処か悲しげな表情でそう告げた。 「色んな人達の悩みや苦しみが集まって生まれたE・フォースが出現したの。現在のフェーズは2。 黒いフードを被った青白い肌の少女の姿をしていて、手には同じく黒い鎌を携えているわ」 まるで死神のようだとリベリスタ達は思う。 「彼女は自分を生み出した悩みや苦しみから人々を解放するために 人々を殺そうとしてしまう。死んでしまえば、悩みも苦しみもなくなってしまうから」 それを聞いてその場に集まったリベリスタ達の表情が曇る。 きっと、そのE・フォースは本当に皆を悩みや苦しみから解放してあげたいだけなのだ。 自分を生み出した苦しみを。 痛みを知っているから。 そんな人達を助けてあげたいと思っているだけなのだ。 確かに、死んでしまえば楽になるだろう。 中には、そうして貰いたいと、そうして欲しいと願う人達もいるかも知れない。 楽になれるのなら、死んだって構わないと。 「でも、そんなの間違ってると私は思う」 悩みなんて誰にでもあるものなのだから。 そして、人はきっとそういうものを経験して強くなっていくのだからと。 そんなイヴの言葉にリベリスタ達が強く頷いた。 「彼女は深夜の市街地に1人で現れる。 貴方達が目的の邪魔をしようとすれば排除しようとしてくるわ。 攻撃方法は相手に自分が背負っている悩みや苦しみを与える鎌を用いた近接範囲攻撃と、 同じく鎌を用いた黒い衝撃波を飛ばす遠距離攻撃の2つ。 どちらも強力だし、彼女は自分の目的を果たす為必死になって貴方達を排除しようとする」 でも、負けないでと。 絶対に止めてあげて、此処で終わらせてあげてと。 リベリスタ達の目を見ながら、イヴは最後にそう呟いたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月31日(土)21:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●リベリスタ、夜の街を往く 草木も眠る丑の刻とは良く言ったもの。 街灯が只々、静寂を照らす人気のない深夜の市街地。 そんな場所を年齢も性別もバラバラの、数人のリベリスタが歩いている。 「彼女が人々の死神なのだとしたら、私達は彼女達の死神、といったところかな?」 シャドウサーヴァントで腰にぶら下げたクマのぬいぐるみに似た影、ゲーデを呼び出し 同じく腰に固定した懐中電灯で視界をしっかりと確保しながら、 『二回に一回』花咲 冬芽(BNE000265)はそんな事を呟いた。 彼女――死神を彷彿とさせる少女は、死を以って人々を悩み苦しみから解放する者なのだという。 なんともまぁ、ありがた迷惑な話だと『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は思う。 最も、そんな事は彼女にとってはさしたる問題ではない。 彼女にとって最も重要な事は、すべき事は。 さながら歯車のようにアークの敵を撃ちぬき、アークに利益をもたらす事。 「死が救いねぇ……」 そんな事は只一時の気の迷いだと言いたげな表情で『足らずの』晦 烏(BNE002858)は 携帯灰皿でお気に入りの銘柄の煙草の火をもみ消した。 普段は決して煙草を欠かさない烏が其れをもみ消したのは、 火種によって自分たちの所在が彼女にばれないための仲間達への心遣いから。 「生きる事への悩みや苦しみは誰にでもあるものだよね」 でも、それに対する救いが「死」だなんて 間違ってると『執行者』エミリオ・マクスウェル(BNE003456)は考える。 人は誰もが迷って、悩んで、苦しんで、でもそれを乗り越えて強くなって生きていくものだから。 「俺には死が救い、というのは理解できます。 安楽死、尊厳死なんてものもありますからね」 何処か茫洋とした表情で言うのは『論理決闘者』阿野 弐升(BNE001158)だ。 死の救済を否定する気は彼にはない。 だとしても、其れが誰かにとっての悲劇となるのならば。 そして、自らにとって悲劇に映るのならば――。 「止める理由としては、十分ですよね」 悲痛な顔で仲間のほうを振り向くのは。 少女をおびき出すための演技か。 あるいは本心か。 そう言う弐升に『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)が沈鬱な面持ちで頷いた。 ●死神、現る そうして、『死神』と呼ぶべきその少女は姿を現した。 市街地で彼女が興味を持ちそうな言葉を交わしながら進むリベリスタ達の前に音もなく出現したのは 彼女がリビングデッドやノーフェイスの類ではなく、あくまで人々の思念の集合体だからだろうか。 街灯や懐中電灯に照らされ少女の姿が鮮明になってゆく。 闇に溶けそうな黒いフード。 風が吹けば折れてしまいそうなか細い四肢を備えた青白い肌。 そして、死神少女を死神たらしめる最大の特徴でもある黒い刃を持つ大鎌。 彼女こそが、件のエリューションなのだとリベリスタ達が理解するのに。 最早、ほんの数秒の僅かな時間すら必要はなく。 リベリスタ達の行動は極めて迅速だった。 少し離れた位置に待機していた『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)や 同じく離れた場所から仲間たちの動向を見守っていた リリィ・アルトリューゼ・シェフィールド(BNE003631)を含む リベリスタ達全員が即座に事前に打ち合わせていたとおり陣形を作りあげていく。 人払いの結界を以って、戦いの不安要素を取り除き。 各々の武器、装備品を手に瞬時に、瞬く間に少女を包囲した。 そんなリベリスタ達を無言のまま見回す少女。 やがて、彼らを自らの目的を邪魔する障害だと認識したのか。 その手に携えた大鎌を構え、敵意を顕にする。 私の邪魔をするのなら、あなた達を殺すと言わんばかりに。 そんな少女の意思を感じ取ったのか。 その場にいた全員に緊張が走る。 大気が張り詰め、何時戦いが始まってもおかしくはない一触即発の空気。 「待って。 少し話がしたいの」 そんな空気を破ったのは相手の目をじっと見据え、少女に話しかけた冬芽。 その手に大鎌――Aletheiaを携えたまま、目の前の少女と対峙する。 姿形が似ているかも知れないと思ったからなのか。 あるいは単純な興味本位からか。 そうして話しかける冬芽に突然斬りかかる事はせず。 「……話?」 初めて、少女が口を開いた。 呆けたように言葉を返す少女のその声色は。 とても綺麗で、純粋で――硝子細工のように儚い声色。 「説得する気も、譲歩する気もないけど……いきなり問答無用なんて行きたくないから」 「貴方が本当に人の事を考えてこんな事をしてくれているのは分かっているんです」 そう少女に話しかけたのは、ヘルマンだ。 「正直、結構むかついてます。 でもこれだけはちゃんと言っておきたい。悲しいこととか辛いこととか、 それと同じくらいの素敵なこととか、そういうものを全部ひっくるめてその人なんです」 だからこそ、それが分かるからこそ人は苦しくたって耐えられるのだと。 吐き捨てるように、ぶつけるように少女にヘルマンは言葉を投げつける。 「死による救いだなんて。 死は救いなんかじゃないわ」 そんなの思い上がってるだけ、大嫌いよとリリィは言う。 「我思うと我思う、故に我ありと我思うってな。 世に生まれてから死に至るまで悩みと苦しみは人と共に有る」 悩みを背負い、苦しみを背負うからこそヒトなんだよと、 死は救いじゃない、ただ無に至るだけだと烏は言う。 「もう、終わらせよう? こんなの只の悲劇だよ」 憐れむような目で、エミリオは少女を見る。 その目に射ぬかれた少女は一瞬、戸惑うような顔を見せたけれど。 直ぐに表情を戻し何かを考えるように、自らの答えを探す様に目を閉じ沈黙する。 そうして、一触即発だった空気は完全に消え去り悲しいほどの静寂が、その場を包み込んだ。 時間にして僅か一分にも満たない時間。 しかし、感覚にしておよそ数時間には匹敵するであろう沈黙の後。 「あなた達の言いたい事は理解できる」 ゆっくりと少女がリベリスタ達を見据え、口を開く。 自分達の言い分を理解できるという少女の答えに、ほんの僅かな安堵が溢れる。 だが。 理解できると言った少女はその口で、さらなる言葉を紡いでいく。 「でも、それでも、私は止まらない」 あなた達にだって、分かるはずと。 決意に満ちた、けれど何処か哀しみを押し殺すような。 そんな、強い視線で。 少女はリベリスタ達をしっかりと見据える。 それが、それこそが少女の答え。 「ならば、死神気取りはお呼びでない事を、身を以て教えてやるとしよう」 互いに譲れないものがあるのなら、戦うしかない。 最早避けられない戦いに向け、ハーケインが漆黒解放する。 そしてそれが少女と、リベリスタ達の開戦の合図となった。 ●譲れないものの為に ――時刻は既に深夜三時を回ろうとしていた。 この時間にこんな場所を人が通るとは考えにくいし、万全を期すべく結界も張った。 しかしその結界とて、完璧なものではない。 結界には効果を発揮する限界は勿論存在するし、 時間に関しても、余りに長引き過ぎれば目撃者が出る可能性もあるかも知れない。 なるべく早く終わらさなくてはならない。 戦いが始まると同時に、前衛のヘルマン、弐升、冬芽が前方に展開する。 残りのメンバーも直線を丸ごと薙ぎ払う少女の衝撃波に備えるように それぞれが重ならないように、慎重に後方に展開していく。 「先ほども言いましたが、本当にむかついてますので」 声と共にヘルマンが全身に破壊的な闘気を漲らせていく。 「貴方が勝手に背負った気になっている荷物、返してもらいますかね」 弐升もまた、コンセントレーションによって脳の伝達処理を向上させ、集中力を高める。 「貴女が総ての人の死を背負うのなら、孤独な貴女の死を私が想ってあげる」 強い決意と共に、同じ前衛の二人よりも更に一歩前へと踏み出す冬芽。 そのまま自身の所持するドール『My name is 「AAA」』を囮に 少女の視線を誘導した冬芽は隙を逃さず魔力によって作り出された死の爆弾を植えつけ、炸裂させる。 「ッ……」 不意をついた死の爆弾の炸裂に、少女が思わず顔を歪める。 「だけど憶えておいて。 その想いは、何処にも存在しないの。 想いとは、言葉。 言葉とは意味。 言葉にならないモノに意味はなく、それは何処にも在りはしない」 私は貴女の死に対する想いに、意味を与えてあげることができないから。 だからその答えとして、私が貴女の死を想ってあげる。 「何処にも存在しないなら、私は生まれたりしなかった」 炸裂した爆弾は無傷とは行かない。 が、少しも怯まずに少女はきつい視線で言葉を返す。 「私は死なない。 救わなきゃいけない、今こうしてる時にも苦しんでる人はいるんだから」 そう言う少女に。 「本物の神ってのは決して人を救わない。 何時だって人を救うのは同じ人だけなのさ」 だからな、救おうなどと想い悩まず。 己に悩み苦しみを背負いこまずゆっくり眠ると良いと。 烏は優しい死神に、愛銃によるバウンティショットを叩きこんでいく。 その銃口が狙うは――少女の両脚。 少女の逃走を封じるための、鮮やかなる一手。 「でも、私を生み出したのはその……人なのに!」 言葉に心を惑わされたのか、バウンティショットを見事に少女の両脚へ命中。 脚を撃たれ態勢がぐらりと崩れた瞬間を見逃さず。 マナブーストを済ませたリリィとエミリオが、それぞれ魔曲・四重奏と暗黒を放っていく。 「鬱陶しいのよ、その歪んだ考え。 責め苦の四重奏、とくと味わいなさい!」 四色の激しい魔光による攻撃と、生命力を瘴気に変えた暗黒の魔力が同時に少女へ命中する。 それらの攻撃を受けても尚、鎌を支えにした少女は怯まず倒れようとはしない。 「お呼びで無い死神はさっさと撃ち抜いて居るべき場所へお帰り願いましょう」 そんな少女に追撃を加えんと今度は、リーゼロットが1$シュートで腕を正確に射抜いていく。 が、それでも尚少女は倒れない。四肢を撃たれ満身創痍になりながらも。 撃たれた両脚でしっかりと大地を踏みしめ、血まみれの腕で漆黒の大鎌を力任せに横薙ぎに振るう。 瞬間、街灯に照らされた戦いの舞台。 その舞台を黒く染め上げるような鋭い斬撃が奔った。 斬撃は少女の周囲のコンクリートをいとも容易く抉り取り。 粉塵を激しく巻き上げながら、前衛の3人を薙ぎ払う。 そんな、想像を遙かに上回る一撃に残りのリベリスタが目を見開き驚愕する。 「これが、私の痛み……わかったでしょう? もう、道を開けて」 ふらふらの腕で、泣きそうな顔で、搾り出すように少女がリベリスタ達に言う。 「こんな痛みを抱えてる人達を救う為に私はいるの! 私はやらなきゃならないの!」 懇願するように。 駄々をこねるように。 「これ以上戦うなら、今度はあなた達を殺す」 そう言って再び少女は大鎌を構え、今度は其れを縦に薙ごうとする。 生み出すは黒い衝撃波。 其れも、先程見せた斬撃を上回る威力を持つ少女の切り札。 少女が其れを放とうとしたまさにその瞬間。 「私達、まだ死んでないよ……終わってない」 巻き起こる粉塵の中から、声がした。 「勝手に人を殺さないでください」 「言ったでしょう。 貴方が背負ってる荷物を返して貰うって」 強烈な斬撃を受け、フラフラになりながらも立ち上がる3人。 それを見て残りの5人が胸を撫で下ろす。 「どうして……どうして立ち上がれるの!?」 少女の放つ斬撃には、少女が背負うべき痛みや苦しみを対象に与える力がある。 ショックを受け、抵抗する力を奪う。 だと言うのに、3人はまるで揺らがない。 「言ったでしょう? 悲しいこと辛いことと同じくらい素敵な事があるから頑張れるって。 それを今から貴方に教えてあげます」 優しく諭すように、少女にそうヘルマンは言う。 「辛い事、苦しい事もありますがそれだけじゃあない」 少々の絶望で足を止めるのは勿体無いと弐升は言う。 下を見ればキリがない。 でも、上を見てもキリがないと。 「論理決闘者にして群体筆頭、推して参る」 そう言って駆け出す弐升。 ――決着の時は、近い。 ●拳とチェーンソー 蹴り技を得意とするヘルマンは、普段ならば拳を振るう事は滅多にない。 そんな彼がその拳を少女へと叩きつけたのはきっと、伝えたい気持ちがあるから。 その方が、伝わると思ったから。 激しい闘気を身に纏ったヘルマンの掌打――土砕掌は、 既に満身創痍の少女の防御を完全に無視し致命的な一撃を与える。 激しい苦痛に顔を歪めその手を大鎌を落としながらも、麻痺する身体を必死に動かそうとする少女。 「動かないと、助けないと……不幸な人は幾らでもいるから! 悩んで、苦しくて、辛くて」 泣きじゃくりながら言葉を吐き出す少女に。 「不幸の反対は幸せなんです! 目を背けることじゃない! そんで、幸せってのは! それからの人生の中じゃないと! 絶対に手に入らないものなんです! それを刈り取って!ぜんぶなかったことにして!それで救い!? ふざけてんじゃねえぞ、このクソッタレ……!!」 凄まじい昂ぶりと共に、自分の気持ちを全て吐き出すヘルマン。 そうして吐き出した後、今度は軽く微笑んで。 「……ね、安心してください。 人ってこんなにエネルギーに溢れてる、行き過ぎてあなたをぶん殴っちゃうくらい」 そう、少女を安心させるように。 「死の先に、それを上回る幸があるかもしれない……チープな言葉です。 だが、只一筋の道を、二つ無きこの身で駆け抜けてこその人生」 ネガティブよりもポジティブ、シリアスよりもコミカルに、楽しく愉快に。 その手に構えたチェーンソーから繰り出すギガクラッシュに想いを乗せて。 ――生きるってのは楽しいことなんですよ。 そのまま、少女を一閃した。 ●救済 「本当は、最初から分かっていたよ」 かすれるような声で、少女が言葉を搾り出す。 「でも、私が立ち止まれば私を生み出した人達の気持ちが無くなってしまうと思ったから。 例え間違っていたとしても、私は止まれなかった。 どれだけ叫んでも、泣いても、私は走るしかなかった」 武器を下ろし、静かに少女の言葉にリベリスタ達が耳を傾ける。 少女は自分のしていた事をちゃんと理解して、そして、きっと救いを求めたいたんだとエミリオは思う。 だからこそ自分が『悲劇』という言葉を出した時、彼女は反応したのだと。 でも、自分では止まることができないから。 自分を止めてくれる人達を待っていた。救ってくれる人を。 そうして、最後に少女は微笑みながら。 リベリスタ達が見守る中、静かに消滅していった。 ――こうして、ひとつの事件は終わりを告げたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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