●事件の周辺 ピエロのマスクを被った男が付きまとってくるんです。 と、彼は、言った。 そんな事を突然言われても、どうしたらいいのか全く分からなかったので、持田は、今しがた捕まえたばかりの猫を抱き抱えた格好のまま、ちょっと、停止した。 そしたら相手も何かぼーとか見つめ返して来て、それで年若い男子が二人して道端で見詰め合ってるとか、あれこれ何だろう、とかちょっと持田が思い始めたころ、目の前の作業着姿の青年が、「え」とか何か、あれ? 次、貴方の番ですよね? みたいに、言った。 僕、喋ったんで、次、貴方の返事ですよね、と。 「うんあのー」 持田はとりあえず一旦、会話を仕切り直す事を試みる事にした。「もう一回最初からやっていいですか」 「はい、いいですけど」 「まず、僕が仕事で、依頼人の猫を探してたじゃないですか」 「はい」 「それでここに停車しているこの、貴方……ええっと鴬谷さんでしたっけ。の白いバンの下に、見つけたこの猫が入って行ったじゃないですか」 「そうでしたね」 「で、バンの下から猫を取り出すのに、鴬谷さんに声をかけて、そしたら手伝ってくれて」 「はい、手伝いました」 「そしたら、へー仕事で猫を探してるなんてー、とか何か世間話みたいになって、探偵事務所って本当にあるんですねーとか何か、貴方が言って」 「そうですそうです、持田さんが探偵事務所で働いてらっしゃると聞いたんで」 「で。実は僕にも困ってる事があるんですけど、聞いて貰えますか、と貴方が言ったんでしたよね」 「はい。そうです。で、持田さんは、はーいいですけど、って言ったんです」 「ですよね」 「だから言いました」 「あー、それでピエロのくだりなんですね」 「はい、それでピエロのくだりなんです」 「はー」 持田は時間を稼ぐように間延びした返事を漏らす。「で、付き纏われてる」 自分の脳に言葉を染み込ませるように、ゆっくりと、言う。 でも残念ながら、その意味不明な言葉は、全く脳味噌に浸透してこなかった。 「はい。っていうか、今も居ます」 そしたら鴬谷がまた、更に意味不明な事を言った。ただでさえついて行けていないのに、更に引き離された気分で、これはもう途方に暮れるしかないのではないか、という予感がした。 「え?」 「いや、今も居るんです。わりと、見えない人が多いみたいなんですけど。助手席に乗ってて、こっちをめっちゃガン見してます」 「あれ? これって、幽霊とか、そういう類の話でしたっけ」 「どうなんでしょうね。近いんですかね」 「え、今もガン見してるんですか」 「これぞ正しいガン見だ、っていうくらい、ガン見してますね」 「監視されてるんですか」 「んー、何なんですかね。多分ちょっと何か、好かれてる感じなんですかね。もしかしてこれ僕、ちょっと襲われるんじゃないかなって、一瞬思う事はありますよね」 ってそれは冗談なんですよね、とか思ったけれど、鴬谷の顔は一切笑っていない。かといってさほど深刻そうでもなく、見ようによってはもう何か、あんまりにも意味不明な事が起きてるので、考えるのやめました、と、達観しているようにも、見えた。 「はー」 また持田は、時間を稼ぐように、間延びした返事を漏らす。「それは、大変ですね」 「はい、困ってます」 「でもそれ、は……うちの探偵事務所ではお力になれないんじゃないかな」 「やっぱりそうですよね」 「まあ、所長に話してみてもいいですけど」 「いえ、まあいいです」 「あ、いいんですか」 「とりあえずは、聞いて貰えただけでも。ほらあんまりこれって、肉親とか友達とかには言えない話ですし」 「そうですよね。聞いた方も微妙な感じになりますしね」 「はい。そうなんですよね」 鴬谷は、そう言って少し、苦笑する。 ●事件 「アザーバイドの送還及び、E・ゴーレム討伐の仕事をお願いしたい」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、言った。 「時間帯は夜、場所は、閉店後のパチンコ店だ」 そう言って彼は、ブリーフィングルームのモニター画面を操作する。こじんまりとした、街角のパチンコ店が映し出された。 「リベリスタの皆の到着地点は、閉店後のパチンコ店の駐車場になる。そこに白いバンが止まってるんだけど、この車内に、今回送還すべきアザーバイドが乗車してる。 で、外見の特徴なんだけど、このアザーバイド、どういうわけかゴム製のピエロのマスクを被っててね。意味は全く分からないんだけど、それ以外の格好は、この世界の一般人の成人男性と変わらないから。一応服装を言っておくと、黒い綿のパンツをはいて、トレーナーで、ジャケットを着用。 あと、今回はこの白いバンに一般人の青年が一緒に乗車してるんだ。彼については巻き込みたくないし、こちらの存在を知られても面倒だから、その場から引き離すか、避難させておいて欲しい。 ただ、どうもこのアザーバイドは、この青年に執着しているように見えるから、説得には少し、工夫が必要かもしれない。一般人にこちらの存在を知られないようにさえしてくれればいいから、どのような作戦でいくかは、任せるよ。多少強引でも、構わない。ちなみに、このアザーバイドは、リベリスタの皆とは、コミュニケーションがとれるみたいだ。 で、Dホールだけど。 店内に並ぶパチンコ台、それも入口を入って左から二列目の台のどれかに出現する、と言う事までは分かってるんだけど、特定には至っていない。だから申し訳ない訳ないけど、探し出して欲しい。この日を逃したらまた、D・ホールは消えてしまうみたいで、また次の週にならないと現れないらしいんだ。 あと、このアザーバイドの出現の影響で、店内のパチンコ台がE・ビースト化すると予知された。これも、討伐してきて欲しい。詳しい資料は、今、配るから」 そして、手元にある資料に手を伸ばし、一同に向け、配り始めた。 「まあ、そんな感じで。今回も、宜しく頼むよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月30日(金)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● アザーバイドと鴬谷を乗せた白いバンは、閉店後のパチンコ屋の駐車場に、ポツン、と停まっていた。 「うわ何かもー、思いっきりピエロじゃん」 そしたら何か、バンの車内を確認したらしい『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)が、わりと面倒臭そうな口調で、早速、言った。 だいたい、思いっきりピエロじゃん、って形容詞が、日本語としてきちんと成立しているのかどうか微妙な気もしたけれど、それでもそう言いたくなる気持ちは、何となく、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179) にも、理解できた。 「ピエロのマスクを被った青年、に見える、アザーバイドですか」 京一は、アークで聞いた説明を思い出しながら、頷く。「アザーバイドも色々な世界から着ますからね。私たちみたいな姿形をしたものもたまには居るんでしょう」 「でも、姿形はあたし達と同じだとしても、何せあいつ、マスク被ってるしね」 「本当にそうじゃ」 『廃闇の主』災原・悪紋(BNE003481) がバンの方を見据えたまま、こちょん、と頷く。「ピエロマスクとはこれまた何とも奇怪な姿じゃ。まぁ……何かしら理由があるやも知れんがのぅ」 「そして、何故か鶯谷さんみたいな普通の人のそばにずっと居る。理由があるんだと思いますが、それでも元の世界にお戻りい頂かないといけないですしね」 そんな京一の言葉に、『エルステ・リーベ』初佳・クリサンテーモ(BNE000300) が、自らを鼓舞するように、こく、とか、頷く。 「ピエロさん、帰れるように、頑張らなきゃ……!」 とか何かやってる後ろから、ちょこちょこと控え目な動作でついて来ていた『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405) が、「やっぱり帰らなきゃ駄目みたいな感じなんですよね」と、ちょっと切なそうな感じで言った。 「ま。何にしても、これは奇怪な神秘にまつわる話だよ」 幾本もの色糸を絡ませた長い白髪に、右目を覆う眼帯が特徴的な老女、『野良魔女』エウヘニア・ファンハールレム(BNE003603) が、歳の甲と言うべきか、快濶に、言った。「探偵とやらも所詮は一般人だ。猫とは違って、彼等では如何ともし難い話だね。餅は餅屋、あたし達の手できっちり片付けてやろうじゃないか」 そして、な、と丁度隣に居たからという理由で、『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658) を見やった。 そんな、エキセントリックな感じの外見の老女に、カッとか見られて、光介は、ちょっと何か、ビクっとする。 その時点では既に、ピエロの顔が心ない感じが無理で苦手で、若干ビビってる感じだった光介は、魔女の彼女に見つめられ、すっかり追い詰められて、「はい!」とテンパった顔で頷き、「任務ですもんね、ちゃんと頑張りますっ!」とか勢い良く続け、勢い余って、「こ、怖くなんかないです、全然!」とか、別に誰にも聞かれてないのに、思い切り墓穴を掘った。 「うん大丈夫か、光介」 「はい……多分」 「まぁ、アザーバイドの考えとることはよぉわからんけんど」 一方、そんな光介の背後から聞こえた、『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)の声は、のんびりとしている。 「特に危険がないんやったらやりたいことをやらせて満足させてから帰らせたいとこぜよ」 「あ、そうですよね。目的とか、聞きだして」 「そうそう、ほんでヤたいようにヤッて頂いて、満足して貰ってやな」 「あれ、何ですか」 「ん?」 ってそんな、はい何か、みたいな平然とした顔で見られたら、凄い貴方の言葉がやましく聞こえたんです、なんてそんな事は、絶対、言えない。 とかやってる内にも、 「そうだよね。よし」 とか何か、決意したみたいに呟いた初佳が、白いバンに向かって歩き出していた。そして、バンの前までやってくると、運転席の窓を、コンコン、と。 そして、突然現れた人に、ぎょっとしたような顔つきになった一般人鴬谷を、その無垢な黒い円らな瞳で見上げ見上げながら、「おにいさん、困ってるよね。えっと、お力になれると思うのだけど……」 と、言った。 「え。えっと、あの、君は」 「失礼、私どもは、怪しいものではありません」 背後から、京一が、加勢する。 「あ、はー」 って、どう考えてもこんな場所にいきなり現れてくるとか、何か、怪しいですよね、みたいな目で、鴬谷が、見てくる。 そこへ、マイナスイオンのスキルを発動した光介が、やって来た。 「こんばんは。ボク達、本当に、怪しい者じゃないんです」 とか何か言いながら、邪気のない瞳で下から見上げるようにする彼の小柄な体から、ぶわーっと発される緊張や警戒心を緩和させる空気に、一般人はじわじわと感化され、最終的にはすっかり、「お力、っていうのは」とか何か、車から降りて来て、話聞く気満開、みたいになった。 「実は、不審者の通報があってな。だから、わしら出動して来たぜよ」 仁太が、わりといい加減な事を言い、さっさと誤魔化す。けれど、精悍な体つきをした44歳の風格に、鴬谷は、「あ、そうなんですね」とか何か、騙された。 「ほんであんたの隣のピエロやけどな。ちょっと危険やからさ、離れとってくれへん?」 「あ」 と、鴬谷は、背後のバンを振り返り、やっぱりコイツ、おかしかったんですね、危ない奴だったんですね、みたいな軽蔑の眼差しで、ピエロを、見た。 「そういうわけであの、すぐ済ませますから……ちょっとの間、外していてもらえませんか?」 「あ、何なら、うちと一緒にこっちで待っとこう」 初佳がちょいちょい、と鴬谷の服を引っ張る。 すかさずピエロが、え、なになに、何してるの、何処に連れて行くの、みたいな、不安げな動作を、見せた。助手席から、突然姿を消し、初佳の前に現れて、とうせんぼ。 しようとするのを、光介が、慌てて、押し止める。 「ちょっと待って下さい。貴方には話があるんです。大丈夫です、彼は何処にも行きませんから」 え、そうなの、みたいに、ピエロが光介を見下ろす。 「はい。あの、大丈夫です」 って間近で見るマスクの迫力にやっぱりちょっとビビりながら、言った。「えーっと、貴方は、あれなんですよね。何か、あの人に、言いたい事とか、伝えたい事があるんですよね? も、もし鴬谷さんに言いたいことがあるなら、ボクらが伝えておきますよ? ダメですか?」 「そうそう。だいたいあんたが異世界からやって来たっちゅーことは、わしらにはもう、バレてるぜよ。弁明するなら今の内やで。あの男に付き纏ってる理由をとっとと吐くぜよ」 「分かりますか。彼と貴方は、住む世界が違うわけです。だから、会話もままならなかったかも知れない。けれど、貴方の意思を伝えて頂ければ、私達が、通訳しましょう。その代わり、貴方には、素直に元の世界に戻って頂きたいわけです」 仁太に続き、京一が、冷静に解説を、加える。 ピエロは無言で暫く小首を傾げていたが、やがて、分かりました、みたいに、こくん、と頷いた。 「そもそも、おヌシは、何故ピエロのマスクなんぞ被っとるんじゃ。それがまず、解せん」 悪紋が、とりあえずそこはっきりさせようよ、みたいに、言う。 どっからどう見ても、外見的には小学生の少女が、お婆ちゃんみたいな物言いをするのが、不思議に見えたのか、ピエロが、じーとか、彼女を、見下ろす。 「うん、見んでいいから、答えい」 促され、口元に手を当てたピエロは、ちょっと小首を傾げてから、両の頬に手を当てて、ぶるぶる、と首を振った。 「それはつまり……このくだりについては、深くは触れるな、と?」 悪紋が言うと、はい、そうして頂けると、みたいにピエロが頷く。 「ん。では……まあ、そっとしておいてやろう」 はいどうもありがとうございます、みたいに、ピエロが頭を下げた。 「で? おヌシが鴬谷の元に現れる理由、目的は何なのじゃ」 「もしも、ピエロさん。本当はただ、あの、えっと、鴬谷さんと遊びたかっただけとか、そういう理由だったりするんなら……」 シャルロッテがおずおず、と、問いかけた。 とか、仲間達が、ピエロの話を懸命に聞こうとしてる間にも、何だったらいつでも、力づくで強制送還してやるよ、捕縛して黙らせてやるよ、気絶とか、軽くやってやるよ、みたいな、暴れるタイミングを待ち構える御龍は、その時がやってこなさそーなので何かもー完全にやる気とかなくて、とりあえず、何か、隣で、革張りの古めかしい大き目の手帳に何やら書き込んでいたりするエウヘニアを、眺めた。 「何、書いてんの」 「神秘の記録さ。神秘にまつわる知の収集が目的でね」 「ふーん」 「というか、思ったんだがね」 そこで、それまで黙々と記録をとっていたエウヘニアが、不意に、仲間に向け、声を発した。 「このピエロ。喋れないんじゃないのかい? こちらの言っている事は、分かってるようだけどね」 「喋れない」 それは、困りました。みたいに、シャルロッテが表情を曇らせる。 「では、ボディランゲージなどはどうでしょう。もしくは筆」 とか何か京一が言い終わらない内に、ピエロが、もぞもぞと動きだした。 「あ、何かやっとんで」 「うむ。ボディランゲージじゃろうかの」 「頬に手を当てて……もじもじ……。照れてる? あ、好きなんですかね、鴬谷さんのことが」 「そして、えーっと、何かを掴んで……顔を近づけて?」 パタン。 ん? と、全員の眉が、何か、寄った。 とかいう間にも、まだピエロの動きは続いている。両手を広げて、それを何かを抱きしめるみたいにぎゅっと閉じ、そしてそのまま、体を横に曲げる。 パタン。 「何ていうか」 暫くして、ポン、と仁太が、ピエロの肩を叩いた。 「それは……ごめん」 そんな、みたいな雰囲気で、ピエロがじーとか仁太を見る。 「いやそれはわしらには、協力できひんぜよ。っていうかそんなに押し倒したいんやったら、自分でさっさとヤッとけばよかったぜよ」 はいそうなんですけどね、みたいにピエロは項垂れ、それから、少し離れた場所で初佳と一緒に居る鴬谷を見た。 もう一度俯き、意を決したように、歩き出す。 「いやいや、駄目ですよ、駄目です」 いや、分かってますから、みたいにピエロは、止めた光介の手を差し戻した。そして鴬谷の傍まで行き、その肩に触れよう。とした手が、すかっ、と空を噛むみたいに、すり抜ける。 それから、一同を振り返り、どうです? みたいに、肩を竦めた。 「なるほど。触れないんですね」 京一が、相変わらずの冷静さで、言った。 こくん、とピエロが頷く。 「それは、諦めるしかないのぅ」 暫くして、悪紋が、さっぱり、と言った。 「そうやな。何せあれぜよ。そもそも触れへんねやったら、確実それ無理ぜよ。気持ちは、分かるけど、無理なもんは無理や。傍におる方が辛いんやから、忘れるためにも帰った方がええ。元の世界で、絶対あんたにも、えー出会いがまた、来るぜよ」 仁太が、ポンポン、とピエロの肩を叩く。 「そうだよ」 初佳が、多分話の全容は分かっていないだろうけれど、とにかくポジティブに乗っかった。 「でも、大丈夫。安心して。うち達がちゃんとピエロさんを送り届けてあげるから」 そしてその手を掴み。 「ただ、貴方を帰す前にね。その場所の近くに、何か、こあい敵が出るの。すごく危ないから、うち達の後ろについててほしいの」 と、可愛らしい笑みを浮かべた。 ● 店内に入ると、「はー……」とか何か言いながら、シャルロッテが辺りを見回した。 「見た事ない機械がいっぱい……コレがパチンコとかいうものなんですね」 「んー。D・ホールは、入口を入って左から二列目の台のどれかや~言うてたな、確か」 そちらの方に向かって歩き出しながら言った仁太は、 「でも、パチンコ台なんて、テレビのCMくらいしか聞いた事無いなあ。こんなのやって楽しいのかな?」 とか何か、シャルロッテが独り言のように言ったのを聞き逃さず、振り返る。 「なんやシャルロッテちゃんはパチンコやったことないんか。ほんなら、わしに任せとき。台の見極めなら得意ぜよ」 「台の見極め、というのではなくて、D・ホールの探索だけどね」 懐中電灯で辺りを照らしながら、エウヘニアがすかさず、指摘する。 「デスヨネー」 とかやってる後ろでは、悪紋が「うむ。やはり、閉店後探索なので明かりは必要じゃな」とか何か言っていて、でも、落ち着いた口調のわりに、その手元の懐中電灯の動きが、わりと必死だった。 小さな物音とかにも、ハッと、したように灯りを向けている。 「あのー、もしかして、暗闇とか、わりと怖い感じですか」 って自分も実の所そうだったので、仲間ですよね、分かってくれますよね、ってそんな気分で言っただけだったのに、 「何を。別に。暗いとかは、全然平気なのじゃ」 とか言ってる顔が、真顔過ぎて、必死な感じがわりと臭い。 「あ、はー」 「全く。くだらぬお喋りは控えてさっさと進むぞ……!ほれ! ほれ! 早く行かぬか!」 今度はそう切れ出して、思いっきり光介を前へと押しだすように、した。 絶対、怖いんだろうな、と思った。 とかやってたら、暗視ゴーグルで辺りを警戒しながら、熱感知を発動していた初佳が、「出た!」とか何か、ピエロの前に庇い出ながら、声を上げた。 「あれ! ゴーレム!」 すかさずアクセス・ファンタズムから、ショートボウをダウンロードし、そしてそのままピエロを庇いつつ、後衛に下がる。 そこへ飛び出して来たのは、御龍だ。 「やっと我の出番か。くくく。丁度退屈していたところだ。暴れさせろ!」 これまでの退屈の鬱憤を全て消化させます! みたいな、凄まじい勢いで、月龍丸を手に、E・ゴーレム「スロット台」へと飛びかかっていく。 爆砕戦気で強化された体躯からは、破壊的な闘気が漲っていた。最早、見た目は巨大な鉄塊といった形の月龍丸の刃が、通路へと飛び出して来たスロット台のてっぺんを、ガツン、と切り裂く。 至近距離に来た御龍に、スロット台がコインを放出し、反撃に出た。 それを冷静に見定めた御龍は、バッと飛び跳ね、位置を変える。ぴゅ、と避け切れなかったコインが、彼女の白い頬を切り裂いた。 あーそーいうことしますかーみたいに、ニヤリ、と冷酷に瞳を細めた御龍は、傷になんぞ全く構いません! みたいに、また、月龍丸を振りぶった。 ギガクラッシュを発動する。 電気に変換した自らのオーラを激しく放電し、スロット台に向けて捨て身で電撃を纏う一撃を放つ。 とかいう御龍が、あんまりにも激しいので、後衛で何かちょっとビビってますみたいなピエロを、初佳と、光介、エウヘニアの三人が、どうどう、と宥める。 「大丈夫だよ」 「ええ、大丈夫ですから」 「そうだね。わりと大丈夫だと思うよ。いざとなれば、若いの二人が、庇ってくれるだろうしね」 「え」 とかいうその少し離れた場所では、二台あるE・ゴーレム「パチンコ台」と対峙する仁太が、「いや玉とか痛いって! ぎょえー!」とか何か叫びながら、放出されるパチンコ玉から、逃げていた。 「仁太さん。頑張って、踏ん張って下さいね」 と、そんな彼に向け、応援しているのか、突き放しているのか、良く分からない口調で言った京一が、守護結界を発動する。 印を結び、仁太の付近に瞬時に防御結界を展開した。「援護は、しますので」 「そうじゃそうじゃ、頑張れ頑張れ」 続けて後衛から声を発した悪紋は、「狙いはそこじゃな、ほれ!」と、式符・鴉を発動。符術で作り出された式神の鴉が、彼を追いかけている二体の内の一体を、射抜いた。 その動きが不意を突かれ、止まるのとほぼ同時に、今度は頭上、隣のパチンコ台の列によじ登っていたシャルロッテのヘビーボウの矢が、残りの一体に向かい、鋭く、飛んで行く。「仁太さん、援護はお任せ下さいませ」 続いて、彼女の細身の体から放たれる魔閃光の黒いオーラが、台を、撃ち抜いた。 「よーし」 仲間達の援護で時間を稼ぎ、くる、と機敏に体制を立て直した仁太は、「わしもー怒ったでー! 許さんぜよー」 とか何か、愛嬌のある口調で言い、シューティングスターを発動する。 びっとその顔つきが引き締ったかと思うと、驚異的な集中力を滲ませ、ハニーコムガトリングを放った。 その手に構えた、パンツァーテュランという名の禍々しい巨銃から、凄まじい勢いで弾丸が続けざまに飛び出して行く。 ダダダダダダダダダダダダダダダーッ! 鋭い弾丸。敵は、反撃する事も出来ず、まるで蜂の巣のように穴だらけになっていった。 ● D・ホールの前に仲間達が集まり、そこへと入って行くピエロを眺めていた。 「じゃあね。ピエロさん、ばいばいっ」 初佳が、無垢な表情で手を振る。 「向こうでも元気にやるんだよ」 「そうそう、えー出会いは必ずあるけんね」 エウヘニアと仁太が言い、 「頑張って下さいね」 「お気をつけて」 と、光介と京一が、言った。 「異世界か~‥‥どんな世界なんだろう……」 シャルロッテが、ピエロの背中を見送りながら、言う。 「変な所なんじゃないの~」 すっかりまた、退屈モードに戻った御龍が、煙草の煙を燻らせながら、のんびり、答えた。 「さて。では、ブレイクゲートで穴閉じじゃな」 そしてピエロが消えると、悪紋が、言う。 異論を唱える者は、もちろん誰も居なかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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