●所謂CRT的怨嗟 家電リサイクル法の制定は、その意図と明らかに反する形の社会問題を生み出すに至った。 時代に取り残されたCRTディスプレイ、地上デジタル放送に乗じて買い換えられたテレビ、その他理不尽な理由からその存在価値を失い、リサイクルにより再生の目を見ることすら許されないそれらは、不法投棄という名の――ある種の姥捨に遭い、共鳴するように一箇所に捨てられ続ける。 闇より深い悪感情が投棄されたそれらに生まれたのであれば。 何より無知な『闖入者』がそれに妙な方向性を与えるのもまた、叱り。 車上から放り出された携帯電話が、時代を先取りしすぎた音楽を垂れ流しながら落ちてくる。 『ディスプレイの墓場』、などという不名誉な異名を受けたその場所に落ちたそれは、瞬く間に周囲のディスプレイを引き寄せ、取り込み、巨大化していく。やがて現れたのは――それはそれは大きな、ロボット的な何かだった。 『#'&%$☆ ∀∈√Σ♪』 顔面にあたる部分のディスプレイに、最近話題のあのモデルの口癖が映し出されたのは気のせいだろうか。 ●最新技術と過去の遺産があわさり最恐に(以下略 「……三行で」 「CRTディスプレイの不法投棄場としてとある筋で有名だった場所、その脇に高架橋が走っていたのですが。 偶然、通りがかった車両内の携帯電話が革醒、運転手と同乗者を殺害してしまいます。 その反動で放り出されたそれはそのまま落下、周囲にあったCRTディスプレイを取り込み大型エリューション化しました」 「……え? それだけ?」 「それだけですよ? 何か問題が?」 僅かに失望と戸惑いを感じさせるリベリスタの言葉に、『無貌の予見士』月ヶ瀬夜倉はさも不思議そうに首をかしげた。期待に答えない奴である、本当に。 「E・ゴーレムフェーズ1、『ディス捨腐レイ』。全高四メートルのディスプレイの集合体で、中央に件の携帯電話が隠れている格好です。まあ、周囲のディスプレイをいくら破壊してもコア部分を破壊しない限り、周囲のディスプレイで補強することができます。何とも厄介ですね。 とはいえ、自己修復能力は大したことありませんし、ぶっちゃけCRTなんで硬いというほど固くもないです。問題があるとすれば、その能力。 ディスプレイに映像を表示し、それを見た対象……指向している相手ですから実質全体攻撃の範囲に、精神系統のバッドステータスを付与します。 コア部の携帯電話から流れる音声との相乗効果で、かなり面倒くさいかと思います。……そもそも、日本語なのに日本語じゃないですしあれ。何時の時代の文語文ですか」 話しているうちに、何故か不機嫌そうに言葉を続けるその姿には湧き上がる怒りのようなものすら感じるが、いったいコレは何なのか。 ディスプレイが切り替わる。次々と流れる単語の羅列。……なんだろう、これは。明らかに女子中高生が使いそうなアレだ。ギャル文字とか、そういう感じの。 おい何だ『3nd』って。某県出身の復興の旗印の二人組か、そうなのか。 「……ナンダコレ」 「こんな文章が流れます。謎音声で音読してくれやがります。訳のわからないラップとか流れます。 日本語にうるさい方には相当に苦痛でしょうねえ……」 乾いた笑いに反して、その目は全く光を取り込んでいなかった。諦めの境地ここに極まれり。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月31日(土)21:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●説明を放棄する程度に現代語 「古今東西、若者達のイマジネーションというものは往々にして大人達のそれを軽々と越えていくものさ。あたしが若かった頃だってそうだった」 『野良魔女』エウヘニア・ファンハールレム(BNE003603)の口元が、ゆるりと弧を描く。 若かりし日のイマジネーションに想いを馳せた彼女はしかし、探求者であり「イマジネーション」を突き詰めるよりも神秘の探求に力を注いだことを悔いはしない。 その結果として、この状況下に身を置くのならば尚の事だ。からからと笑いながら、僅かに空を切る自らの足に視線を向けた。 彼女に限ったことではないが、既にその場のリベリスタ達は空中へと足を踏み出している。『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の翼の加護が、万全に機能しているからだ。 「コアはギャルなんだろ。当代風の言葉遣いなんだろ。くらぶ↑ とかも好きなんだろ!」 記憶が正しければフツは十七歳の筈だが、何故こうも浮世離れした言動なんだろうか。 「くらぶ↑」とか表現が既にギャルってんじゃねえか! 徳の代わりに世代感覚置き去りじゃねえか! 「日本語ってひらがなとカタカナと漢字……ローマ字もそうだっけ? 他にも、まだ何かあるのか?」 『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)、日本語勉強中である。発音は至極日本人なのだが、しかし書き取りはまだ勉強中だ。そう言えば「さ」と「ち」のかき分けは出来るようになったのだろうか。 (ノートPCにコギャル風音読ソフトをインストール……接続したからいつでも使える) 知能と引換にSAN値をほうり投げる系少女、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は一切ぶれなかった。 ノートパソコンを『綺沙羅ボード』と接続し、その簡易処理で周囲をあっさり狂気の坩堝に追い込むこともお茶の子さいさいな彼女にとって、今回のエリューションなどものの数ではないのかもしれない。 「ギャルでクラブでいぇいいぇいだねっ!」 JK力を得るには若干早い系女子、『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)は存在自体大博打な気がしないでもない。 SANチェックのダイス目が無駄に大きそうな感じで。戦闘準備は万全といった体で、既にシャドウサーヴァントをその身に侍らせている。 念の為言っておくと、影は彼女自身のそれをトレースしているため、傍目には二人目の少女に見えなくもないだろうか。まかり間違っても人以外ではない。 「ヒメだよっ! 今日はねぇ、Eゴーレムを倒しに来たの! ウフフ♪」 そして、ブレないキャラ代表のマグロレディさんこと『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)。 この少女に失うものは殆ど無いらしい。最初からブッチギリの彼女にはもう、何も言うまい。 黒歴史が黒くならない系ソードミラージュは伊達じゃない。 「$'∂∃∂√∇☆」 「でもギャル語って、実際は一部でしか使われてないんですよね」 メインであろう胸部に『禾厶ハ天才τ″す☆』とか何をまかり間違ったギャル語だか分からない謎の文字列が並んでいる。うわぁ。 だが、そんなものにも恐れないのがリベリスタだ。呆れ気味な言葉は雪白 桐(BNE000185)のものだが、 構えられた『まんぼう君』に乗せられた気魄は常の戦闘と変わらない練度だ。 どれほど狂っていても冗談じみていても、相手はエリューションであり敵である。覚悟は既にできている。 「――●REC」 害獣谷の秘密兵器こと『害獣谷の白い死神』フギィ・ムニィ(BNE003454)、『わざわいなすもの』とともにビデオカメラを構えた。もうだめだこいつら何とかしないと。 一番何とかしないといかんのは、個人的にそんなもんが黒歴史にならない舞姫と害獣谷の面々、そして何より 「くらぶー、と言えば、ミラーボールが必要だろう。それならオレがミラーボーズになるしかないな!」 この徳高すぎるミラーボーズ(17)だと思うんですけどね! 本シナリオ最大の問題点は! ●※ただし映像として残る 「ヒメと踊ろうよ、いぇいぇい♪ ウフフ、足止めだよ☆ テヘペロ」 舞姫、携帯プレーヤーから『ブラックキャット』の曲を大音量で流し始めた。なんというかこれはすごい。そしてひどい。 ノリノリのまま放ったソニックエッジが完璧な軌道をトレースし、ディ捨腐レイの腹部にあたる部分を砕き、ショートさせた。 その速度に、暫く動くことも叶わないのではないだろうか。 「なにそれ、マジキンモー、したまとかもつけれないんでしょ? スッピンとかマジありえなーい、ダイコンだしいきてくの鬼意味なくね?」 舞姫に合わせるように一撃を叩き込んだ桐、やはり現役(だった)高校生である。女子じゃないのに無駄に言語の女子力が高い。ついでにヘイト値も無駄に高い。 (いい感じで盛り上がってきたら、コア部分の携帯電話も一緒にノリノリになってくるんじゃね?) フツ、思いつくことにいちいち恐ろしさを感じる。自分達だけではなく敵にすらノリノリを要求するとか徳が高い。まさに徳の無駄遣い。 幻想纏いから取り出した携帯プレイヤーを式神化し、自らの傍に侍らせた。 九十年代、バブル崩壊直前のディスコサウンドをかき鳴らすそれは舞姫ものと相まって現場の雰囲気を迷子にする。 冬眠明けの森のくまさんもビビって脱兎するレベル。 「~!”§※々!?」 『レヽι″ゎゑ!』とか何とか表示されているが、どうにも人間に聞き取れるものではなかった。 ギャル語は余程のケースでなければ読解できるものが多いとはいえ、これは何とも酷い。 言語的には兎も角、聴覚で感知できないとかもうね。もうね。 「ディ捨腐レイ、まだまだ使えるのに身勝手な人間に捨てられた気分はどうだ!」 合間を縫うようにして放たれたアウラールの一撃は、確実にその中心を撃ち貫いた。彼自身の言葉も怨みを買うためのものとして割り切っている為か、意識を自分に向けるには十分だったといえるだろう。 「これで動きが鈍ってくれると助かるんだけどねぇ……」 エウヘニアが、アウラールの十字閃光に合わせるように神気を放ち、確実にその動きを鈍らせる。 ついでと言わんばかりに冬芽のハイアンドロウが炸裂し、その巨体をぐらつかせた。 綺沙羅はというと、コアの位置を特定できたはいいものの、その瞬間に何かを見てしまったのか、僅かにふらついているのが見て取れた。エネミースキャンだし仕方ないね。 「…………リベリスタ。深い」 照準を合わせ、呼吸を整えながらフギィが呟く。 先輩方の歪みねぇ勇姿がこうして後輩に受け継がれるのである。受け継ぐな。 ●ひでぇノリ争奪戦 まあ、ひでぇっちゃひでぇのだがリベリスタたちの連携は決して悪いものではなかった。 夜間の視界はフツの発光によりほぼ完璧に確保されているし、何だかんだ言っても居並ぶメンバーのうち数名はアーク有数の精鋭だ。技の冴えも威力も並のエリューション相手に後れを取るものではない。 『カラス? っていうの? かわうぃい式符とか撃っちゃうカンジ?』 ……綺沙羅、その音声プログラムは何か違うと思うんだ。 (ギャル語こそ現代の方言。方言にはその土地の機密を漏らさぬ為に発展したものもあるとキサは聞いた。ちゃらい容姿で世間を謀り、難解な言語で機密を隠し、過剰なデコでスパイ道具を隠す……まさか……!) 当の本人は全力で場の雰囲気に飲まれに言ってるからいいか。何か突っ込んじゃだめだ。いいか。 「ギャル語って中傷の言葉多いですよねー」 麻痺状態から立ち直ったディ捨腐レイの一撃を打ち合いからの軌道変更で逸らし、返す刀で叩き込みながら、桐は呆れる様に呟く。 古いものだとチョベリバとかMK5とかそんな感じだろうか。マンバとかって種族名か。ごめんな、おじさんの知識だからな! 「最高に超ハイってやつだねっ! ウフフ♪」 重複表現が許されるのもギャル語の妙だろうか。お前どこまでハイになるんだよ。(テンションが)ハイアンド(SAN値が)ロウか。 「余裕ありそうだし、お立ち台を……こんな感じか?」 アウラール、超幻影で舞姫の足元にお立ち台を創りだす。幻影なので実体はないが、それでも随分とお立ち台である。すっごいぴよこなのは見ないことに。 「楽しそうでいいねぇ。私は記録させてもらうとするが、楽しめるなら楽しめばいいんだよ」 からからと笑うエウヘニアには、年輪を感じさせる老獪さと僅かな温かさを感じずにはいられない。これが年の功か。 というか、このままではただボコボコにされてまた廃棄されるのだ。 コア部である携帯は露出には至らぬが、壊れた部分を切り離し新たに接続する度、ディスプレイの危機感を得る身にある。 エリューションのくせになまいきだ。 そんなわけで、悲鳴にも似た音量で、全てのディスプレイに映像を載せて、音声が反響する。 えーマジチョロいんですけどってゆーかこ↑こ↓アタシのヤサっていうか? やめてくれない?(イメージ言語) 困ったぞ、この意訳ではギャルというより追突されて学生を拉致るヤクザにしか見えない! 「私も来年には立派にJKですっこれくらいお茶の子さいs」 冬芽、言うや否や膝から崩れ落ちた。力が入らない。体力はあるのに、一撃が見合わない。 どうやら深く理解しようとしすぎたらしい。女子高生のハードルの高さが少女の心を砕くとか。 何て酷いエリューションなんでしょう本当に(棒読み) 「――射る射る射る射る射る射る射る射る射る射る射る射る射る射る射る射る射る」 フギィ、怒りの衝動に任せてトリガーを引く引く。超攻撃してる。怖い怖い。 「もう少しバランスよく作れなかったのかい。直してやりたいくらいだよ」 エウヘニア、怒りのポイントが何とも年輪を(ry でもやってることは範囲ギリギリのフレアバーストだ。ディスプレイがこげ落ちる。 「辛いか、苦しいか、せつないか、悲しいか! もっと人間を憎め!!」 辛うじて虚脱で済んだアウラールは、素早く浄化の光で世界を満たす。 ヒューッ! 危ないところだったぜ! 何だか手遅れ感が否めないけどキミのせいじゃない! だが、リベリスタ達の猛攻からすれば逆に遅れたのは良かったのかも知れない。 だって、ディスプレイの間に隙間できてるし。 本体の携帯電話、微妙に見えてるし。 フツと綺沙羅の目、ぬらりと音をたてるような粘度の視線を向けてるし。 「ミュージック、スタァァァァトゥ!」 フツさん、まさかの式神プレイヤー直結。 「キサは深淵を覗いて勇者になる……!!」 そして真実を知って正気度が減る。最大値も減る。 「遺影遺影! 涅槃でねばねば、ニルヴァーナ!」 最早半壊したディ捨腐レイを前に、発光を持続させつつ回転するフツ。ミラーボーズである。 「大人の魅力がフィーバーして、オトコノコはめろめろきゅんな感じかなっ☆」 かわいそうなまいひめ。げんじつにこわれてしまったのね(ぼうよみ) 「繰り返すリズム 跳ねるようなリズム 眩暈をおこすほどに 刎ねる銀糸 あの日の元へ――♪」 やだ、冬芽が至極マトモにリズムにビートなのに明らかに狙ってるようにしか聞こえない。 あとさり気なく怖い。攻撃の手が止まってない。マジ怖い。 「鬼ボコるとかマジかんべんー」 音楽に合わせ踊りながら、流れるようにギガクラッシュ(リミットオフ込み)。桐ってばぶれない子。 「しっかり記録させてもらうよ」 エウヘニア、大事な事なのでもう一度確認しました。 「……精鋭、深い」 害獣谷の秘密兵器だからって、あのノリに染まらず綺麗に育って下さい。 『〒※?#¬∀∞∋∬!?』 「……ミンナ、巻キ添エ」 ハイ喪った! 綺沙羅SAN値喪ったよ! 「どんな言葉で表現したって、大事なのは伝えたい気持ち……ハートだ!」 アウラール、すごくいいことを言った。シナリオの軸みたいなことをいった。 そう、気持ちが大事なのだ。どんな言語でも根底には心が宿らないと意味がない。 「……けど、程々で勘弁してもらえると助かる」 おおっとぶん投げたー! ところで、当のBGMなのだが、いつの間にかディスコサウンドのノリで般若心経が流れている。 これはあれか、一時期有名になったあれか。 「お立ち台? 違うね、蓮の花だ! 蓮華座だ!」 「……えっ」 フツの余りの勢いに幻影を練り直すアウラール。本当に、えっ。 「いぇす、いあ、いあ」 それ以上はいけない。冬芽が可愛くてもそれはいけない。重傷にしてしまう。 「イェイイェイ☆ まだまだいっくよー! テヘペロ♪」 あ、舞姫さんはそのままでお願いします。 「もういいから、鬼死んでくんない?」 トドメのような桐の言葉が決定打。ディ捨腐レイはゆっくりと、しかし確実に崩壊していく。終わりへと突き進む。 崩れ落ちた其れの中から抜け出た式神に引きずられるように現れた携帯電話は、数度震えて、砕け散った。 色々と酷い戦場に静寂が訪れたとほぼ同時に、フギィがあらぬ方向へ駆け出す。 舞姫は追いかけるか一瞬躊躇したようだが、全速力で追うことを決断。 残されたメンバーには、本当に何が何やらである。 「ほんとに酷いものを見た」 呆れたように綺沙羅が呟く……が、彼女は今後夏の花さえも恐怖の対象になるのだろうか。 巻き添えになった周囲が影響を受けなければいいのだが。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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