●狼の群れ ビーストハーフという説明文句が面倒くさい時、彼はしばしばワーウルフだと自己紹介する時がある。 そんな時は決まって説明する余裕が無かったり、説明を聞いてもらえない時の方が多い。 例えば今がそうだ。 「…………」 岩陰から外を覗く。多くの人が猟銃や斧を手にきょろきょろしている。 自分を探しているのだ。 見つけたらズドンとやるつもりなのだろう。 まあ、無理もない。 これまで随分と人を殺して来てしまったのだ。 今更仲良しこよしができるとは思えなかった。 「行ったか。もう出てきていいぞ」 人が去ったのを確認してから、洞窟の中に声をかける。 何匹かの狼が這い出てきた。 狼と呼ぶにはいささか巨体で、小象程度はあった。犬でもこのくらいのサイズはいるのだから、さほど非常識なことではない。 非常識さで言うなら、彼らが残らずエリューションビースト化していることくらいだった。 ぐるぐると唸る彼等に、動物に分かる言葉で話しかける。 「この辺ではもう暮らせそうもない。別の山に移るしかなさそうだな」 「……」 「そうだな。人間を少しばかり殺すことになるが、まあいいだろう」 これは人間どもが蒔いた種だ。 狼男のフィクサードはそう言って、青い目を細めた。 ●狼であるがゆえ 「以上が、今回戦うE・ビーストとフィクサードのデータになります」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は資料の束を並べてそう言った。 とある山中、村人を次々と襲う凶悪な化物が出たのだと言う。 彼は狼の頭と爪。そして人の身体を持ち、若い女や子供も容赦なく食い殺してしまうだろうと噂されていた。 村人たちは猟銃を持って討伐に出たが、その内三名が無惨な死体となって帰って来たと言う。 巨大な顎で乱暴に食いちぎられた跡があり、化物の存在は明らかであるとして、今も討伐活動が続いている。 「ですが、このまま放っておけば一般人の死者が増えるだけです。皆さんの手で……リベリスタの力で、彼を止めて下さい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月03日(火)22:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●アポカリプスの悲劇 巨狼と人狼が山を行く様を思い描いて、『まるで古典ホラーですね』と『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は述べた。 山中、かの人狼たちが通るであろう道を逆向きに進みながらのことである。 「被害が出ている以上、このままと言うわけには」 「じゃ、な」 草を踏み、斜面を登る『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)。 「ちと怖いが、人を襲っている以上はな」 「一般人を守るためにも、彼らの被害を抑えないといけませんよね」 『人が襲われているから』。 それが『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)を含む彼等の統一見解だった。 普通ならそうとるのだ。人類であるからには。 ライフルに弾込めをする星龍を横目に、『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)はどこか達観した表情を浮かべる。 「狼の本質が狩りなら、私達はその凶行を止めるだけよ。これ以上誰も殺させはしないわ」 どちらが狼で、どちらが狩人なのかもわからぬまま、リベリスタは山道を行く。 暫し歩くうち、視界が開けつつあることに気づいた。 目を細める『雷を宿す』鳴神・暁穂(BNE003659)。 「彼は、相場通りの狼男なのかしら」 「というと?」 真顔で振り向く『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)。 暁穂は彼から目を反らして、独り言のように言った。 「なんでもない。任務である以上キッチリやらないと」 「任務ですか。まあ……」 うさぎは真顔のまま前へ向き直った。 「自分の大切なものを、全てに対し優先生き方というのは、正しいのでしょうね。でも相手がEビーストである以上、私は殺しますよ」 「人を恨むなとも、人の所為ではないとも言いませんか」 長い髪を揺らす『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)。 うさぎに、と言うより自分に向けて言う。 「非道な所業と分かっていても、人は文明に縋る以外に生きられないものですから」 「ふうん……」 『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)は目を閉じる。 遠くより近づく、何者かの足音を聞いていた。 「害獣同士お友達になりたかったけど、残念ね」 目を開ける。 狼が、そこには居た。 ●狼の牙が鋭い理由 レイラインがスピードを上げて飛び込んで行く。 狼の牙に剣が食い止められ、耳障りな音を立ててた。 「人を食らった以上、こうするしかないのじゃ。すまぬ!」 力任せに押し込もうとするレイライン。それを顎と首の力で押し返そうとする狼。 正しく激突の様相を呈していたが、其はここだけに限った話ではない。 暁穂もガントレットをしっかりと嵌め込み、狼へ向けて駆け出す。 今回の役割はブロック要員だ。見た所相手の数は人狼含めて八体程度である。全員抑え込めるとは無論思っていないが、足止め程度にはなる筈だ。 更に言うなら、ブロックで個々に抑え込みながらどれか一体を集中攻撃するのは状況的に難しくなるし、何より暁穂の実力では一対一でもまともに勝てる気はしていない。 つまり、彼女の目標は足止めに他ならない。 「無視はさせないわよ!」 紫電を纏った拳を狼へ叩き込む。 サイドステップでかわされるが、この程度は予測の内だ。狼は跳ねかえるように飛び掛って来て、暁穂の腕に食らいつく。 ガントレットを歯に食い込ませ、暁穂は必死で相手を押さえつけた。 「暁穂さん、無理はしないでねっ」 指から肘までにかかる独特なガントレットを嵌め、彩花は両腕を大きく薙いだ。壱式紫電、発散。狼たちに電撃を浴びせつつ、自分もブロックに加わった。 それでもまだ足りない。うさぎがタンバリンのような形をした奇妙なナイフを握って突撃。狼の一体に向けてメルティーキスを刻み込む。 暁穂が相手をしていた狼をジグザグに切り裂いて殺した。 「相手の数、多いですね」 真顔のまま呟くうさぎ。口に入った砂をぺっと吐き出す。 「沢山いてくれた方が当てやすくていいわっ」 そんな彼の頭上を飛び越えるウーニャの影。彼女は丸くしていた身体を広げ、狼たちの中心へと降り立った。 何もない場所から手品のようにカードを一枚取り出す。 左から来た狼を屈んでかわし、すれ違いざまにカードを通すようにして切り裂いた。 続いて前後から。ウーニャは高速で一回転する。螺旋を描く後ろ髪。飛び掛っていた狼は目と喉を斬られて転がった。 それをまるで踏み潰すかのように、淡々と消しにかかるうさぎ。 数が多いなら減らせばいい。そのレベルのシンプルさで彼(もしくは彼女)は動いていた。 「まあ、誰もここまで来ないのが一番いいんですがね」 咥え煙草にサングラス。目つきがはっきりとしないまま、星龍は淡々とライフルの照準を合わせる。まずはスターライトシュート。時としてインドラの矢。行ってしまえば効率重視。目の前にある脅威が可及的速やかに且つ安全に死ぬように動いていた。 うさぎ達を抜けて飛び込んできた狼を、ライフル弾で打ち返す。 「防ぎきれてませんか……っと」 何かを察して後方へ飛び退く。一瞬遅かった分肩を切り裂かれたが、支障はないものとして捨て置いた。 爪から血をしたたらせ、地に降りる人狼。 名前も知らぬフィクサードである。 「誰かは知らない。目的は聞かない。恨み言も述べるのはよそう。だから死んでも、文句は言わないでくれよ」 再び飛び掛ろうとする人狼に、鋭いダガーが投じられた。 爪で弾き返す人狼。同じタイミングで、高い樹の幹から飛び掛ったであろうクローチェが気糸を放出させた。 糸が全身を絡め取る直前、身を丸めてよける人狼。 クローチェは構わずギャロッププレイを連続放射した。 「狩りをするのが狼の本能なら、罪人を狩るのが私達の宿命よ」 「そして死ぬのが私の運命だと。傲慢だな」 「人の心を失って獣に堕ちたあなたには傲慢さももはや――」 足首にかかる気糸。人狼はそれを無理やり引きちぎった。 「話をしている場合ではない、ようですね」 やや遅れて翼の加護やマナサイクルを発動させる凛子。 胸ポケットに狼の嫌がる香水を入れてはいたが、使うのはやめておいた。相手は上位世界の存在力を持っている。この世の常識で払えるものではない。 だから、我々がいるのだ。 「まずは、狼から減らしましょうか」 ●独りでは生きられない 岩の露出した地面を、後ろ向きにてんてんと跳ねるうさぎ。 それを三匹の狼が追いかけて行った。 足首に食らいつかれ、バランスを崩す。 しかし動じることなく真顔のまま、片手をついて上下反転。近くの木の幹に狼を叩きつけると、遅れて飛び掛ってきた狼たちに対してスピン。片手に持った変態ナイフ(普通ではない形態であることを示す)で狼の顔や腕を切り裂いた。 ぼろぼろと、どさどさと崩れ落ちる狼。 人狼の他に立っている狼はもう居なかった。 うさぎはひょいと直立体勢に戻ると、真顔のままで人狼に向き直る。 「どうぞ悪く思って下さい。拒否する権利なんてないのだから」 「……」 「よろしければ、埋葬の希望をお聞きしても?」 「それすらも要らぬお世話なのでしょうけど」 低い体勢から飛び込み、魔氷拳を繰り出す彩花。人狼はそれを顔の前で払いのけると、彩花の首を掴み取った。 「……っ!?」 そのまま足をかけ、地面に向けて投げ落とす。 思ったより人間臭い技に驚く反面、やはり『これ』も人間なのかと綾香は思った。だがそれ以前に、はやく殴って逃れなければと言う思いがある。 人狼の手首を掴んで固定し、反発するように拳を入れる。リーチの差こそあったものの、充分に衝撃は伝わったようで、人狼の手は彩花から離れた。 そこへすかさずギャロッププレイを繰り出すウーニャ。人狼は全身を絡め取られて転倒する……かと思いきや、糸を引きちぎって離脱。更にウーニャの脇を通り抜けるようにして爪撃を入れてきた。 ウーニャは脇腹を片手で抑える。布が無い分素直に血が噴き出た。 「意外と速い」 「だったら最大加速をぶつけるまでじゃ!」 樹幹を蹴って飛ぶレイライン。ソードエアリアルが繰り出されるが、人狼はそれを屈んで交わした。 「とっとと、浮いてばかりじゃと低姿勢なヤツに当てづらいぞ」 実際的にそういうことは無いが、そうと思えるほどに人狼は素早かった。 ターンをかけて再び斬り込むレイライン。 今度はよけられなかったが、硬い爪(よく見れば爪の形をした武器だと分かる)によって強制的に弾かれる。レイラインは回転しつつ着地。土を盛大に跳ね上げる。 「星龍さん」 「ええ、ちゃんと狙ってますよ」 状況を察して軽く集中していた星龍は、人狼の背中目がけてカースブリットを叩き込んだ。 緊急回避行動をとった人狼だったが、回避運動まで予測して撃たれた弾は外れなかった。 「が――っ!」 飛び退こうとして失敗。地面に転がる人狼。 凛子はそこへマジックアローを連射した。 対して人狼は立ち上がることなく、そのまま転がって避ける。 「山を切り開かれ、追いやられた狼に同情しましたか?」 「……」 「それも結局、人間のエゴでしょう」 「エゴくらい押し付けるさ」 「……はい?」 「家族なんだ。我儘も、迷惑もかける。命もな」 歯を食いしばってとびかかる人狼。 その首と脚に、二つのギャロッププレイがかかった。 ウーニャとクローチェによるものである。 今度ばかりは逃げられない。 地面に頭から突っ込み土を舞い上げる。 指の上でダガーを回し、逆手に持ち帰るクローチェ。 「貴方達の安住の地は一つだけよ。あの世に行きなさい狼」 振り上げられるナイフ。 その手が、ぴたりと止まった。 「ねえ、あんた」 暁穂がとても穏やかに問いかけ始めたから、である。 横目で彼女を見やるクローチェ。 人狼もまた、うつ伏せのまま彼女に目をやった。 「あんた、自分から人を殺したりしてないんじゃないの? 危害を加えようとした人間を、返り討ちにしてただけじゃない?」 「…………」 「あたしたちの任務ってさ、討伐じゃないの。殺害でも、ないのよ」 「……何が言いたい」 「わたしは、あんたをバケモノじゃなく人として見るわ。だから殺すんじゃない。『止める』のよ」 「……」 人狼は暫く沈黙して、自ら目を閉じた。 「世迷いごとだな。人を殺せば恨まれる……その程度の分別は付けている。『悪気は無かったので赦して下さい』などと、言うつもりはない」 「殺したのは、仕方ないけど」 「だが、お前の言う通りではある。猟銃で仲間を撃った人間を、返り討ちにしただけだ。そうでもしなければ、追われることもなかったろうが」 「……そう。じゃあ、こうしましょ」 ウーニャは強引に割り込み、人狼の後頭部を踏みつけた。と言うより、叩きつけたと言う方が近いだろうか。 かくして気を失った人狼を適当に拘束し、人の手を借りて担ぎ上げる。 「理由は無いんだけど、親近感と言うか?」 「……Eビーストが全て倒された以上、私は別に反対しませんよ」 真顔のままで手を貸すうさぎ。 「……」 クローチェは、黙ってナイフを収めた。 ●狼はひとつではない どういう用意があったものかはさておいて、適当に廃棄されていた麻袋に人狼を詰め込んで彼らは山を下っていた。 Eビーストたちは、その場に放って置いた。死んでしまえばただの狼の死骸である。誰かが見つけて埋めるか、自然の理に沿って朽ちていくだろう。 とりあえず当面は、人狼が目を覚ます前に安全な場所まで運びおおせてしまいたい。彼らはそんなふうに考えていた。 そんな中。 「おや、登山客かい?」 鼻を赤くした男達がすれ違いざま、彼らを呼びとめた。 無視するのも不自然だと、適当な返事をして振り向く彩音。 「ええ、まあ」 「危ないぞ、この辺は……その、狼が出るから」 「日本狼がですか?」 「いやあ、まさか。野犬の類だよ」 男は、どこかほがらかに笑って言う。 「さっき無線でね、狼の死体が見つかったんだそうだ。何匹か一緒に死んでいたから、ひとまずは大丈夫だろうって」 「ひとまずは、ですか」 うさぎが目を細めて言う。 男は手にした猟銃を掲げて見せて、やはりほがらかに言った。 「ほら、まだ残ってるのが居るかもしれないだろう? 手負いの虎じゃないが、怪我した獣は危ないからね。見回りをしてる所なんだよ」 「はあ、それは……ご苦労様です」 他に言うことは無い。凛子はあまり深くかかわり合いになりたくないとばかりに踵を返した。 「そういうことでしたら、私達はもう行きます」 「ああ、気を付けてな」 山道を下り始める凛子たち。 山道を登り始める男達。 お互いがお互いを意識しなくなる、その直前。 彼等はこんな会話を聞いた。 「それにしても怖いなあ。村に人狼が出たなんて。子供が三人も食い散らかされたんだろう?」 「こら、よそモンに聞かれたらどうする」 「馬鹿だな、信じやしないって。人狼なんて居る筈ないさ」 反射的に振り返る暁穂。 その時にはもう、男達はずっと遠くへ離れていた。 「ねえ、これって……」 振り返らず、前を向いたまま、星龍とクローチェはどこか鬱陶しそうにつぶやいた。 「仕事を終えた気がしませんね」 「……ええ」 「後にしましょ。まずはコレを運ばないと」 麻袋を肩にかついて言うウーニャ。 彼等は日の暮れかける山道を、しずしずと下って行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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