●綺麗な蓮華野原で 12歳の次女が泣きながら言った。 「お姉ちゃん、どうしよう」 10歳の三女が泣きながら言った。 「どうしよう、こんなんじゃおうち帰れないよう」 三女の友人の10歳の少女が泣きながら言った。 「何でこんな格好になっちゃったの? あたしたち……」 眼の前でしくしくと啜り泣き続けるかつて可憐な少女であった者達を前に、15歳の長女は自分がしっかりしなければと思った。 次に長女は、しかし確かにこんな格好で町に戻れば大騒ぎになると思った。そして、父母でさえも自分達を見分けてくれる筈がないと思った。一瞬途方に暮れて泣きそうになったが、口を引き結んで嗚咽を堪らえた。そして、薄れそうになる意識を必死に手繰り寄せて考えを纏める。 そうだ、これはおかしな病気に違いない。医者に行けば治してもらえるかも知れない。 それとも、もしかしたら悪霊に取り憑かれたのかも知れない。有名な霊能者に頼んだら、もしかしたら元に戻れるかも知れない。 長女は心を決め、言った。 「帰ろう。だって、他に行く所なんて無いじゃない」 そうして、徐々に変形して指の短くなっていく手で苦心惨憺しながら、3人の少女の髪に目に染むような赤紫の蓮華草を編み込んでやった。怖がる妹達へのせめてもの励ましに。 「大丈夫かな? 怖がられないかな?」 「怖いよ。皆怖がるよ」 「いやだ……でも帰りたい」 「帰りたい」 「……帰ろ? じゃあ、帰ろ?」 「うん、帰ろう」 「帰ろう……」 「帰ろう」 「かえろう」 「かえろ……」 「かえロ、」 「カエロ」 「カエロ」 カエロ。 一度心を決めた彼女達はその思いだけを胸に急速に知性を手放していき、咲き乱れる蓮華草の花をずしずしと踏み躙りながら山を降り始めた。 ●真白イヴ 「◯◯県北部。◯◯郡××町の山の中。数日の後に女の子4人がエリューション化、フェイズは2。体型が変容して首長竜みたいになってる。当然四足歩行。皮膚は茶色く硬化しているけど、刃が通らない程じゃない。顔ももう、元の見分けなんか、つかない。精々髪の毛だけが彼女達を見分ける術になるくらい。彼女達は自分の家に帰りたいという思いだけを残して理性も知性も失ったまま、山を降りて町を目指す。これを倒すのが今回の皆の仕事。もう知性も残ってないせいで山の中で迷っているから、人に見つからずに戦うのは簡単。彼女達が変形によって得られた攻撃方法が、大きな口に生え揃った牙での噛みつきと重くなった体での踏みつけかな。当然ちょっと血が出るよ。首が長いからそこそこ射程もあるわ、そこそこだけど。後衛まで届く訳じゃない。後は力もそれなりに強くなってるけど、本当に、哀れなほど何の神秘的な能力も持たない存在」 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)は事務的に言うべきことを伝える。 そのイヴの口調にリベリスタ達もなんとなく事務的にその依頼内容を咀嚼し、なるほど4体の怪物を倒せば良いのだと理解した。 と、イヴは目を伏せて小さく溜息を吐いた。そして視線を落としたまま、釘を刺すように続ける。 「……もう、どうにもならないんだからね。その子達の思いに対して何かできるなんて考えないでよ?」 リベリスタ達はその言葉によって、返ってその事実に思い至る。 ただ帰りたいというそれだけの望みも、決して叶えられてはいけないもので、その動かざる事実に改めてそれぞれの哀惜の念を抱くのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:藍尾 礼人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月01日(日)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●前日 『万華鏡』とイヴは今回、対象の名前と所在までも捉えていた。予知された日の前日、『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)と『癒し風の運び手』エアウ・ディール・ウィンディード(BNE001916)は3人姉妹の住む家の前に佇んでいた。 裕福そうな邸宅。広い門から花々の開き始めた庭が見える。10m先には白壁の建物、ガレージには4ドアのセダンと、自転車数台。 幻視・結界、そしてエアウと創太が同様に所持する飛行の能力。使えない訳ではない。だが、それでも人の住まう民家に忍び込むにはあともう少し、何かが足りなかった。 本当ならエアウは姉妹の思い出の品、大好きだったであろうぬいぐるみや玩具の類、何よりその元に帰りたくて仕方なかったであろう親、そして姉妹自身を含む家族写真などがあれば拝借し、それを最後に手渡したかったのだ。 「……諦めようぜ。白昼堂々空飛んで家に忍び込むなんざ、家人と鉢合わせちゃごまかしようがねえし。せめてこの家の写真だけでも撮って、それを供えるぐれーしか、俺様にできることはねえって思う」 夜なら夜で、同じだけのリスクの他にもしっかりとした戸締りを何とかする工夫も必要だったろう。いずれにせよ、もう少しばかりの手間が必要となるのは変わらなかった。創太に促され、エアウも寂しそうに頷いた。 さて、と創太がカメラを構えようとした時に玄関の扉が開いてころころとツインテールとお下げ髪の2人の少女が飛び出してきた。続いてポニーテールを結った勝気そうな少女。3人はこちらに向かって走ってきて――エアウ達に気づき立ち止まった。 あ、と創太はカメラを下ろす。少女達はまじまじと2人を見つめ、そしてツインテールの少女が首を傾げて不思議そうに言った。 「うちの写真、撮ってたの?」 「う、うん。立派なおうちだし、庭にお花も咲いていて綺麗だったから」 エアウが少しばかり狼狽えて、しかし見たままの感想を口にした。 ポニーテールの娘、この家の次女はちょっとした警戒心を抱いているようにも見える。しかし3女は無邪気に言って門扉を開けた。 「お姉さん、何だか悲しそう。うちのお庭の写真、撮っていいよ」 そこへ再び玄関の扉が開き、ロングヘアの少女――この家の長女が現れた。 ●戦場へ 「家に帰れない子供……ってか、帰しちゃいけない子供、か」 (ひっでぇ話だぜ全く) カルラ・シュトロゼック(BNE003655)はがっしりした安全靴で露に濡れた雑草を踏み分けながら呟いていた。 時に過酷で、不条理な運命というものに対する怨嗟が胸の裡に渦巻き、無意識が「帰る場所の無い子供」を己の人生と重ねようと働くのを理性で押さえつけながら、カルラは戦場へと足を進めてゆく。初めての戦闘に対する緊張がその乱れる心に拍車を掛けた。その隣を歩む『ブレイブハート』高町 翔子(BNE003629)も今回が初の戦いだが、それについての緊張は少なくとも外見からは見て取れない。 少女達に対して自分ができることを考え、そして辿り着いた結論は「家に帰さない」事。 (このまま家に帰ったら、あの子達はきっと大切な家族を手にかけてしまう。だから、家族に会わせないことが……) 森の奥の薄闇の中からがさがさとやかましい葉擦れの音が聞こえてきた。 (この子達に対してできること) 翔子は真っ直ぐ前を見据えた。 ●怒り (シチュエーションとしては嫌いではないけど理性が薄いのが残念ね……) 現れた敵の姿を眺めて自慢のストレートヘアを顔から払いながら、『Bloody Pain』日無瀬 刻(BNE003435)は僅かに不満気に口を尖らす。理性との葛藤、運命への怨嗟、そう言った声が彼女の心を満たすのだ。 「まあ良いわ。セイギノミカタのお仕事、始めましょうか」 そういうと刻は結界を用いた。成功の為に念を入れるのも仕事のうちだ。 作戦は、前衛4人で敵を1人づつ足止め、1体ずつ攻撃を集中させて順次撃破していくというもの。足場の悪さを無効にするフライエンジェが多いこのチームはそれだけで地の利ならぬ「地の不利」を緩和し有利を得ていた。加えてこちらにはホーリーメイガスが居る。エアウが翼の加護を仲間達へと施せば淡く光る小さな羽が、フライエンジェならぬ4名の体をふわりと宙に浮かべた。これで俄然戦闘が有利に運ぶ。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は大きな魔書を掴む両の手指で器用に印を結ぶと、戦場を包み込む守護の結界を張りながら進み出た。目の前には茶色のしなやかなロングヘアを歌舞伎の連獅子のように降り立てる、元・長女の褐色の体。 その間に小鳥遊・茉莉(BNE002647)はやや高めに舞い上がると視界と射線の確保を試みつつ静かな詠唱で身に宿る魔力を高めていく。 「行くぜ」 担当は決めてある。髪型で見分けのつく次女、ポニーテールの怪物に向け創太は翼を広げて滑空するとその勢いのまま踏み込み力強く一打を打ち込んだ。知性を失った生き物は動物的な本能で慄き後ずさる。 (同情しねぇっつったら嘘になる。でもよ、こうなっちまったもんは――全力で、全開で、できるだけ早く済ませてやるのが) 昨日会った時には強気そうな眼差しが印象的だった少女。それが今は醜く膨れ上がり、平たい胴の横から4本足を生やしたまるで亀のような体、その前部から太く長いろくろ首を伸ばして創太を見下ろしてくる。その顔に目鼻は存在したが、それは眼窩も鼻孔も、そして唇もまるで皺の1つであるように細長く横に伸びている。そんな風に変わり果てても髪の毛だけが元のまま……、というのが余計に醜悪で滑稽でさえあった。 (このままじゃ、死ぬより辛いだろ……) 他の前衛達を見回すと、目の前にキン! と鋭い音を立てて光の十字架が発現し『不屈』神谷 要(BNE002861)がクロスジハードで皆に守りを施したことを知る。要本人はそれを見届け、樹木1本分奥に見え隠れするお下げ髪の個体へと跳び、創太の左手奥の方では刻が黒いオーラを纏いながら三女の牙と相対していた。 「君たちはもう、帰れない」 雷音は式符を投げつけながら真っ直ぐに髪の長い怪物を見据えて告げた。式苻は忠実な鴉へと姿を変え、怪物の長い首を切り裂く。 「帰れないんだ」 足場の悪さを意に介する知性すら見せず突進してくる塊に、今度は言い聞かせるように呟くと、次に来るだろう打撃に備えて身構えた。 その後ろで一つ羽ばたくと茉莉はちらりと視線を左右に走らせる。多少の高所から見ても茂る枝々が意外に視界を遮ると見て取り、複数対象のスキルではなく魔曲・四重奏を撃ち出した。4色の光が弧を描き、今まさに雷音に襲いかかった長女の成れの果てを撃つ。グルル、と低く唸ると魔物は身を捩り茉莉の方を睨む、その隙に翔子が駆け、大上段から振りかぶったダガーを突き立てた。ダガーを引き、体をよけると入れ替わりにカルラが紅く染まったナイトランスを構えて突撃する。運命への苛立ちも、初めて命を奪う事に対する慄きも、全てを込めた鋭い穂先はぶつりとした手応えと共に肉厚の皮膚を深々と貫き、意外に柔らかな中身――血と肉の感触がカルラに吐き気を催させた。 (ウ……) これが、戦い。傷つけ、殺すという事。思わず手が震えそうになるのを、槍をしっかり掴むことで抑え込んで槍を引き抜き、カルラは自分が貫かれたかのように顔を歪めて刻んだ傷を凝視した。 後方のエアウも、長女の苦しむ姿に胸を締め付けられていた。昨日出会った、控えめで芯の強さを感じさせた少女がこれ程までに人間からかけ離れてしまった事実。 「終わらせてあげるね……。倒しに来たんじゃない、救いに来たんだから」 エアウは表情を引き締めると天使の福音を振り撒くために、重い十字架を翳した。 象のような足が振り下ろされて、要はそれを両手を交差させて防いだ。完璧なる守り、その名のスキルが単純な打撃を和らげてくれる。 怪物に遺された少女の面影のお下げ髪は今や乱れほつれて、編みこまれた花は萎れて無様に垂れ下がっている。それを更に振り立てて盲滅法突き進んでくる生き物に要は落ち着いた表情で掌を向け十字の光を打ち出す。怪物は更にいきり立ち、泣き叫ぶように顔を歪めて「カエルノ……!」と一言しゃがれ声を発した。 純粋な思いを踏み躙る自分達の行為に彼女達は怒りを覚えて当然だ。ならばその怒りは全て受け止めよう。それこそを是とする要の頬を牙が掠めて切り裂く。赤い血が滲んで肌を汚し、そしてその小さな傷は瞬く間に塞がった。これなら大分持ち堪えられそうだ、要は頬を拭うと、背後の仲間達との位置関係を測り始める。 要の左後方では、刻が全力防御で敵の攻撃をいなしていた。長く伸びて間合いを詰めてきたその頭部に肩を喰い千切られかけて、刻は薄く笑みを刷いた。 「この痛みはいずれ纏めて貴方に返すわよ」 何回目かの式苻・鴉は既に魔物に怒りを与え、魔物はひたすら雷音に向かってくる。頭突きのように繰り出される鋭い牙が雷音の腕を噛み裂く、エアウの詠唱が耳に届き、傷が塞がるのを感じる。横手からは翔子とカルラ、背後から茉莉の攻撃が醜く変わり果てた少女の体を雷音の目の前で貫いていく。魔物は身を捩りながら苦痛の声を上げ、雷音はそれを見て涙ぐむ。 悲しい、けれど、ボク達にできるのは彼女達を倒す事だけなんだ。 そう言い聞かせて前を向き、黒い鳥を放ち続ける。射線を確保した茉莉が放った黒い鎖の奔流が少女達を飲み込んだ時、目の前の明るい色の髪が渦に飲み込まれ押し潰されて千切れるのを見た。 少女の1人の死から間を開ける事もなく、雷音は腕を伸ばして次の力を呼ばわる。 「來來! 氷雨!」 氷の雨は雷音の堪えた涙のように、葉を打つ音を立てて一面に降り注いだ。 その傍らで、1人で1体の敵を受け持つという重荷をようやく下ろせる事に創太は思わず息をつき、そしてまた蛇腹剣を取り直す。何度も受けた剣圧によって歩みの鈍るポニーテールの獣に向け1歩踏み込んで、しなる得物を振り下ろし、次女の体をクリーンヒットする。次の瞬間、多くの血を流した体から一瞬力が抜けて、がくりと膝が落ちた。 しかし攻撃は効いている。その一撃の重さにポニーテールの個体は歩みを止めざるを得ない。 (怖いけど、怖くないよ……!) 恐れを知らぬかのような勢いで翔子が飛び込むと、そのスローイングダガーが次女の眉間に吸い込まれるように突き立った。 魔物はふらりと長首を揺らすと、その伸びきった声帯が許す限りの明瞭な声で、 「オネエチャン……」 と言葉を残して、どう、と前のめりに倒れた。程無くしゅうしゅう、ぷすぷすと煙を上げてその体は萎んでいき、生命を失った革醒者は物体としての存在までもこの世から否定された。 創太は再びふう、と息をつくと己の傷を確認し、首を曲げて振り向くと友人を呼んだ。 「エア、回復頼む。後半戦の始まりだ」 ●業と非業 「やっと本番ね……」 負った傷の分だけ、ダークナイトの呪いは強くなる。滑るように後退し間合いを取ると、刻は楽しそうに笑った。散々自分を傷つけてくれた魔物に、ようやくツケを払わせる事が出来る。 「貴方も不幸ね。これだけ優しい人の揃った中でよりによって私と相対する事になるなんて、ね」 これまでに受けた傷は、まあかすり傷と言えるものも多かったが、それなりに血は流したつもりだ。刻が3女に向かって手を伸ばすと、ぶわりとその褐色の体を呪いの具現のような霧が現れて包み、次の瞬間にはそれらが傷へと変わって皺の走る皮膚に食い込んでいた。 要は最後の1歩の後退をした。これで、射線と視認を遮っていた樹木と茂みを越える事ができた。そしてジャスティスキャノンにより怒りを植えつけられた魔物はまんまと要の誘導に従い、茂みを踏み越えて味方の射程に入ってくる。またしても茉莉の黒鎖が樹間を埋め尽くすように溢れて視認の叶った2体を翻弄する。創太はもう何度目かも分からぬハードブレイクを今度はツインテールに向けて真っ向から振り下ろす。再び翔子が飛び出してダガーを繰り出し、慎重に狙いを定めていたカルラが、いつしか震えも収まり無心となった迷いのない矛先で過たず3女の喉元を貫いた。突貫槍に込められたパワーがその巨体をも後方へと吹き飛ばして、3女の体は樹の幹にぶち当りそれをへし折りかけてめり込み止まった。ううう、と苦悶の声を上げもがくのを、優しいとすら言える微笑を浮かべて刻は最後のペインキラーを放った。 「私に耐えるなんて柄にも無い事をさせたのだから少しは楽しませてもらおうと思ったけれど……、もう終わっちゃうのね。その声だけで我慢してあげるわ」 またしても呪いの具現がびしりと3女の全身に刻まれて、幾ばくかの痙攣の後に長首ががくりと地まで垂れ下がった。 最も長く1人で敵と対峙していた要だったが、強力な守りに特化した彼女にとっては物理攻撃しか持たぬこの生き物達から大した手傷を負わされる事もなかった。 手にしたブロードソードの刃は要の心のように曇りなく眩しく輝いて、生を許されぬ存在を真っ直ぐに切り裂く。 神秘の加護を持たぬ哀れな生き物の最後の1匹は、最も強大な魔力を持つ茉莉の4色の閃光に撃たれ、赤黒く粘る血を吹き出しながら地に臥し息絶えた。 ●哀悼 終わった、全て。昨日まで少女だった肉体は全て、跡形もなく宙に溶けていった。 要はぽつりと言った。 「遺品は、家族の手に戻るようにできないでしょうか……」 世界の真相は隠匿される。怪物の死骸が残るならそれは『アーク』の手により処分されるだろうし、事件そのものを隠匿するなら遺品も全て回収されてしまう、それを知っての言葉だった。 (戻ったら、『アーク』に要請してみよう) その身が帰ることは叶わなくても、せめて、その形見だけは家に帰してあげられないかと。 創太は傾斜を下って見晴らしの良い場所に立つと、悼みを捧げる仲間たちの邪魔が入らぬように周囲を見張ることにする。 茉莉が姿を消し、やがて子供の頭程の大きさの石を携えて戻ってきた。 「お墓の代わりにするのですぅ……」 戦いの最中には常に非情なまでの冷静さを保ち続けていた茉莉だったが、決して少女達の運命に何も感じていない訳ではなかった。 エアウは置かれた石の前に昨日撮った写真を2枚並べた。1枚には4人の少女が並んで、白い壁の邸宅を背に。もう1枚には、3女とその友人が、友人の方の家を背にし、ピースサインを作って写っている。 要が、地に落ちた少女達の髪留めを拾い集めて石の前に並べた。長女だけは髪留めがなく、形見と呼べるものが無い事に雷音は胸を締め付けられる。 エアウがそっと目を閉じ黙祷を捧げた。 (貴女達は確かにここに居た……それは誰にも否定させない) 私は忘れない……、だから、ゆっくりお休み。 茉莉が同じように側に立ち、目を伏せて無言で哀悼を示した。 数歩離れた所で翔子は墓代わりの石を眺めていたが、吹っ切るように悲しげに微笑んだ。 眼の前の命は救えなかった、でもそれは分かっていた事。悲しいけれど仕方ない事なのだから。 「……少し、頭冷やしてくる」 カルラは戦場を背に、山中へ歩を進めた。と、その後を雷音が追ってくる。 「……1人にしてくれないのか」 「ボクもこちらに行くのです」 どうやら目的地は同じだと察してカルラは苦笑し、そのまま2人は黙って蓮華畑へと向かった。 蓮華の花が一面に咲き誇る野原で、戦闘服のポケットに手を突っ込んで、カルラは赤紫の絨毯を見下ろす。 「俺も、もう帰れねぇよな……逃げないし、忘れないぜ」 (理由はどうあれ俺は家に帰りたいだけの子供を殺したんだ……) その事実から逃げず、この先ずっと、向き合い続けると誓う。 雷音は少し離れた場所で花冠を編んでいたが、それを終えると大切な家族である養父に宛て、メールを打ち始めた。 『ボクがやったことは正しいことかわかりません。自己満足でも彼女達を少しでも救いたいと思ったのです』 座り込む少女の小さな背中は、カルラの傷つき昂った心を少しだけ癒してくれるように感じた。 ●エピローグ 地元警察は4少女失踪事件の捜査を開始したが、上層部からの指示により捜査は打ち切られる。関係者には当然箝口令が敷かれ、事件は迷宮入りとなった。 残された家族達は、ある者は子供達がきっといつか戻ると信じ続けたし、ある者は口には出さずとももう二度と会えないだろうと諦めた。 真実は伏されてはいたものの、真実に迫った者達がいる。 失踪した少女達の捜索に当たった地元の青年団の数名は、苔の生えた地表がめくれ上がった様や、へし折れた木の根・木の枝、何かが叩きつけられたかのように折れかけ歪んだ樹木といった格闘の痕跡を発見した。その戦場の真中に明らかに墓碑として他所から運ばれてきた石と、そこに供えるように置かれた物品を見、少女達がもう帰らないであろうと、確信に近い想像を得る。石の前には、可愛らしい髪留めが数個きちんと並べて置かれ、そして石の上には蓮華草の萎れかけた花冠が掛けられていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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