●仮面闘士 痛い。痛い。頭痛が痛いとは言葉の綾か。けれども頭痛に心は痛い。悩ましい。少しお酒を飲み過ぎたせいだろうか。情けない。あれほど友人からも適度にしろと言われたのに。旨いのがいけないのだ。それがいい訳に過ぎなくとも。全く以て自分が憎い。 足がふらつく。視界がぼんやりする。家はもうすぐだからと友人を帰らせたのはマズかったろうか。否、彼も彼とて気が利く男だ。その程度もできないようならどれだけ拒んでもついてきただろう。信頼か見限りかは問うまでもないはずだ。また頑に大丈夫と言いはったのも自分だ。まさに自業自得。 しかし。夜道に一人放り出されたように歩を進めるのは何とも孤独だ。孤独というものはどうにも向けどころのない心配症を引き起こす。ありもしないものを想起し、あるものを否定的に見、無意識に心がざわつく。実際に一寸先が闇である事が、不安を増長する。孤独というものが夜を増長させる。 何故だろう、一人でいるという事を意識した途端、それは私の目にぼんやりと映るようになった。アルコールの影響か不明瞭な視界がその正確な姿を捉える事はない。けれどもそれは確かに踊っていた。狂ったように踊り散らして、行進していた。 近付く。徐々に、徐々に。ボケた眼にも次第にそれははっきり見えるようになる。 先頭の彼らは金の仮面を纏っている。人であるのは確かだが、彼らがどういう顔立ち、性格なのだろうかという思索はできない。笑っているのか、泣いているのか、それとも別か。わからないから不気味であった。不可思議なそれを私は唖然と見ていた。 彼らの後ろに続く行列を見たとき、不気味、不可思議は恐怖に暗転する。腐臭。死臭。死者の行列が自分に近付いてくる。後ずさる。よろけて尻餅をついたが痛みはない。感じない。空気を求めるように口を開いては閉じを繰り返す。頭が働かない。動転する。狼狽する。恐らく死者が怖いのではない。状況の異常性。現実からの乖離。それが近付いてくる現在。不定形の未来が鎌を振り上げて追いかけてくる心境。 気がつくとそれらの足下に私はいた。鼓動が落ち着く。空気が緩む。それはきっと嵐の前触れだ。顔は愚か表情さえ見えないのに、彼らが何を求めているかが理解できる。何故私の前で立ち止まっている。見下ろしている。見つめないでくれ。取り囲まないでくれ。私をお前たちの中に取り込まないでくれ。私に目を向ける十二の影に請うように、目を潤ませた。 空白地帯の脳内が身体を硬直させる。目の焦点が合わない。呼吸するのも困難になる。一人の仮面がゆっくりと、私の頬を触る。撫でるように。躾けるみたいに。それが恐らく作業であった。私を彼らに縛り付けるための。 私の頬に触れていた仮面が、もう一人に合図する。反応もなしにそれは手を振り上げ、私の胸に突き刺した。貫かれ、血が滴る。抜いたその手に肉塊がある。しかし何故だか心地よい。よく見ると、行列をなしていた死者全員の胸には、穴が空いている。それがきっと心だったのだろう。 立ち上がる。不可解な感情に身を任せて、ゆっくりと行列に加わる。恐怖はない。どうして同じである彼らにそれを抱くだろうか。 私は踊る。彼らと共に。『私』はもういない。 ●断ち切る 最初は二人。仮面が彼らを導いた。彼らは仲間を求めて人を襲った。 結果人が死んで、それは彼らの仲間になった。 襲って、殺して、仲間は増えて、行列ができた。今彼らは夜の闇に紛れて行進している。 毎夜響く不気味な音に、近隣住民は恐怖する。 その実体を指して、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はこう呼んだ。 「『Death Parade』。毎晩毎晩こんなものが彷徨いているなんて、恐ろしいですね」 和泉はクールに言う。エリューション事件なんてアークでは茶飯事だ。ある種お化けのようなものもあるだろうが、恐怖をかき立てるものなど沢山ある。これはその内の一つに過ぎない。 「金色の仮面を被った二体と、それに付き従う十一体、計十三体のアンデッドが確認されています。今回の依頼はこれらの討伐」 毎夜、彼らは列をなして住宅街を練り歩いている。彼らが通るルートの予測は、既についていた。 「何カ所か戦いに適すると思われる場所があります。戦力とご相談して決めるのがよろしいかと」 「なぁ」 リベリスタの一人が、ルートのある点を指差して言う。 「そいつら、金城っていう一家の家をスタートとゴールにしているみたいだが、ここは何か関係があるのか」 「……そこでは、先日殺人事件がありましてね。仮面を被った二人はその事件の被害者です。ただその事件との関連はわかりません。家族のうち二人が行方をくらませていたり、何日か前に家族ではない男が家に入ったという目撃情報もありますが、関係性は判然としません。とりあえずはアンデッドの討伐に集中してください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月29日(木)23:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 仮面は死者を率いて列を成す。毎日、毎日、何かに取憑かれたように。探し求めるのは仲間か、はたまた別か。少なくとも彼らが、彼らの『パレード』の仲間を増やしつつ、なお行進している、というのは事実だ。だが死者は眠らなければならない。安らかに。穏やかに。神の身元で眠っていられるようにしてあげなければ。『愛煙家』アシュリー・アディ(BNE002834)は誓う。 結界が張られて、あたりに一切の人の気配が無くなった。人気の無い学校の校庭に、月明かりに照らされて八つの影が薄らと落ちる。ある者は暗々とした夜闇に目を凝らし、ある者は個人で用意した灯りをちらつかせ、それらの到着を待つ。 「どこぞの黄金仮面なら名探偵が颯爽登場して謎解きしてくれるのに」 時間を持て余していた。一度緊張を解いた『落とし子』シメオン・グリーン(BNE003549)は思わず声を漏らす。彼らのパレードや素性、事件がどんなものであるかなど、彼には全く興味がない。彼が興味を持っていたのは、金の仮面であった。あれを隅々まで調べ、解き明かしたいと、彼は考える。そのためにはまず、パレードの中止は不可欠だ。 B級映画さながらのホラーショーはカンベンして欲しい。これからくるであろう死者の行列を、『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は忌々しく想う。気に入らない。死してなお世界に仇なすなど。速やかに引導を渡してやろう。 リーゼロットがそう思ったとき、彼女は覗いたスコープの先にちらと動くものを見つけた。彼女はすぐにそれをエリューションであると認識する。暗視の技能を持っているものからもエリューション到達の報告が上がる。いそいそと準備を始めるリベリスタ。エリューションはゆっくりとリベリスタに近付いてくる。列を成し、踊って。ここに至るまでにもう、宴は始まっていたのだろうか、彼らのテンションは狂っているかのように高い。 彼らが校庭に至る。それはリベリスタが準備を終えた頃の事だ。校庭にエリューション全てが入った所で、金仮面が立ち止まる。同時にアンデッドの行進も、止まった。戦闘態勢に入るリベリスタを、アンデッドたちは虚ろな目で見ている。金仮面はそれに覆われて顔の表情を読む事は出来ない。何を思っているのだろう。何を求めているのだろう。それが生者の計り知れぬものだという事は、確かだ。 「パレードというにはちと陰気ですねえ」 ユーキ・R・ブランド(BNE003416)が前に出る。見物客のいないパレードに終止符を打とうと意気込んで、アンデッドの足止めをする壁となる。他の仲間が同様に前に出ると、アンデッドたちはリベリスタに襲いかかるべく、散り散りになった。 「『行軍』ね。巡業ならあの世でやっていて貰おうか」 アンデッドが退いて通った射線上には二体の金仮面の姿があった。『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は彼らの顔を覆い隠す仮面を狙い、素早い動きで射撃する。放たれた弾丸はしかし金仮面を捉えず、その脇をすり抜ける。自身への攻撃に気付いた金仮面の視線が、明らかに特定の方向へと向いた。 ぼんやりと、どんよりと、幾人かのリベリスタをその視界内に捉える。憎悪、嫌悪、殺意、憤怒。どれとも取れる黒々とした思念が、二つの金仮面を中心に渦巻いた。それは視線という一つの方法を以て、リベリスタに降り注ぐ。例えば怒る相手に、例えば殺意を持った相手に、立ちすくむように、体が強ばる。それが何を由来とするものなのかは定かではない。しかしある種の恐怖となって、視線を注がれた者の足を止まらせる。 「なんか死体にはこういうのが効きそうな気がするし」 シメオンは聖なる光を放ってアンデッドを攻撃する。アンデッドは邪であるのだろうか。期待を以て放たれた光は、アンデッドを焼尽すには至らない。 「こうも臭うと掃除したい気分になりますよ」 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)はぶつくさと言う。職業メイドの性分が働くのか、どうにも臭いや汚れを落としたくなる。金仮面の直視を逃れたモニカの体は動きを止める事は無い。 「死体に成り果てても家に帰ろうとする気概は結構ですが、余計なお友達が多過ぎますね」 構えた得物はアンデッドの先頭に立つ金仮面の、仮面の破壊を目論むのだが、アンデッドの襲撃がそれを阻む。アンデッドを先んじて倒すべきだと、彼女は判断する。 「二度目の死をプレゼントです」 止めどない銃撃の嵐がアンデッドを襲う。衝撃に幾らか体力は奪えたようだが、まだ玉砕には至らない。 フンと鼻を鳴らし、モニカは攻撃を続ける。 「プレゼントはエンドロールまで取っておきましょう」 ● アンデッドは死体。既に冷たくなってしまったものが、再び動き出したもの。故に通常人間が生命活動を行うにあたって発する熱力を帯びる事は無い。しかしいくら体温が無いと言えど、骨が軋み、肉が擦れれば、当然そこには熱が発生する。『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)はその熱を的確に察知し、暗闇に紛れる敵の場所、行動を探る。時折仲間のライトがちらついて、彼女の攻撃の助けとなった。 金仮面の周りに彼らが率いていたアンデッドの姿は見えず、自分たちの進行を妨げるリベリスタを広く散らばって襲撃していた。リーゼロットの銃に備わっているライトで、金仮面の様子はよく見えていた。金仮面は孤立している。 彼女を含めた前衛陣は後衛に敵を漏らさぬよう壁を為していた。凪沙はそこを一旦抜け出して、こちらに向かっているアンデッドの動きに注意しながら、金仮面に接近する。アンデッドの追撃が彼女のを背後から攻めるが、凪沙の動きは止まらない。接近して、力を込めた炎の拳を掲げる。 「火葬するよ」 火の粉を振りまきながら、凪沙は振り下ろす。やがて消えた炎の跡に、焦げた腕が見えた。金仮面の両腕が、仮面をしっかりと防いでいた。仮面は端が少しだけ焦げているだけでだった。 もう一人の金仮面が凪沙に近付いて、手刀を鋭く振るう。それを受けつつ、彼女は自分を狙うアンデッドの気配を複数感じ取った。彼女は悔しそうに前衛の壁に戻る。 リベリスタはアンデッドをうまくさばきながら、彼らを指揮する二つの金仮面を執拗に狙っていた。アンデッドの攻撃は苛烈ながら、ただ一心に狙った敵を攻撃していた。金仮面を守る気配は少しもない。金仮面に接近して攻撃を仕掛けようと、それは変わる事は無い。 ただし、金仮面はリベリスタの動きを縛る。『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は少しでも被害の少ないよう、仲間の呪縛を解いた。金仮面の視線は自分をも縛る事がある。イスタルテは壁を抜けて金仮面に出来るだけ近接して、自分が呪縛の標的にならぬよう動いていた。 アンデッド二体がイスタルテに近付く。ユーキは彼らに剣を振るって暗黒にアンデッドを巻き込んだ。二つの死体は瘴気の中でくねりながら、やがて動きを少なくする。腐って、爛れて、朽ちた死体は、真に死体となってその場に倒れた。 その時、ユーキに向けて黒色の光線が飛んだ。金仮面が、不意をついて放ったものだった。ユーキはハッとしてそれを避け、金仮面を見る。仲間としたアンデッドの死に怒っているのかと彼女は感じたが、はっきりとしなかった。金仮面はそれを境に、前進してリベリスタに自分から近付いていった。 「好都合じゃないか」 アシュリーは構えた得物から素早く銃撃し、仮面を狙う。金仮面はアシュリーの動きを見て、スッとそれをかわした。そしてすかさず彼女を睨む。無意識に感じる畏怖から、彼女の額に汗が滲む。けれども、それを振り払わなければ、勝機は無い。 凪沙は強く踏み込んで、金仮面の片割れに接近する。モニカやリーゼロット、イスタルテに福松は、遠距離からその仮面を狙う。燃える拳が金仮面を襲う。防ぎきれずに金仮面にひびが入る。放たれた銃弾が金仮面に降り注ぐ。その一つが、仮面に直撃する。入ったひびが仮面を縦断し、静かに割れた。まっぷたつに割れた。片面だけ落ち、もう片面はそれの顔を覆うままだった。 仮面が失せた所に、金仮面の素顔が見える。女性だ。齢は五十くらいであろうか。顔にできたしわやたるみは、彼女の重ねた年月を感じさせると共に、その身に降り掛かった悲劇がどんなものであるかを表していた。よく見ると、仮面に隠れていた頬はパックリと裂かれている。 彼女の視線が、銃弾の来た方向に向いていた。暗闇の中、その目はしっかりと、憎悪の対象を認識していた。視線がリーゼロットに注がれる。 同時に彼女は、口をパクパクと動かした。単調ではなく、何らかの規則を以て。明らかに、言葉を伝えようと。 ● 彼女の仮面を破壊した途端、もう一つの金仮面の動きが激しくなった。機敏に動き、アンデッドと共にリベリスタに接近する。 「邪魔するな!」 金仮面の周囲を動くアンデッドの軍勢に向けて凪沙は叫ぶ。取り囲むように周囲を動くアンデッドに向けて彼女は飛び、鋭く蹴りをいれる。生じたかまいたちがいくつかのアンデッドの指を吹き飛ばした。 「君たちには興味が無いんだ。さっさと消えておくれ」 シメオンにより放たれた光は、幾分弱ってきたアンデッドを焼く。炎を振り払いきれなかった一つのアンデッドが、その業火に飲み込まれて塵になった。 アンデッドが高々と跳躍し、豪腕を福松に振り下ろす。幾つか飛ぶその攻撃に、彼の意識は朦朧とする。彼の横を通り抜けようとするアンデッドの姿が目に焼き付く。あの世に逝くべき者に、この世に残る者が敗れて、どうすると言うのだ。 よろめく足を懸命に立て直すと、彼は素早く得物を、今まさに横にいたそのアンデッドの頭に突きつける。 「ここの通行料は安くはないぞ!!」 銃声と共に、銃弾がアンデッドの頭蓋を貫通する。血に塗れた銃弾が地に落ちる頃には、アンデッドの体も血に伏せ、二度と起きる事は無かった。 モニカがいましがたアンデッドを葬った『虎殺し』を、残りの敵に向けて構える。残る敵はアンデッドが二つに、金仮面二つ。片方は行動は機敏で未だ仮面が割れていない。片方はこちらに視線を向けてばかりで、それ以上をしてくる気配はない。 「そろそろお掃除も終わりにしたいですね」 モニカは手にした『掃除用具』で射撃する。重い一撃は一直線に金仮面を狙う。被弾したのは仮面ではなく、肩。仮面の効果は続き、アンデッドの拳がモニカを襲う。モニカが少しアンデッドから距離を置く。 モニカの側を、弾丸が通過した。リーゼロットの放った一撃は、アンデッドと共に追撃を企てていた金仮面の顔を見事に撃ち、仮面を割った。イスタルテの放った銃弾とユーキの暗黒が残りのアンデッドを飲み込んで、アンデッドを殲滅したとき丁度仮面が音を立てて、落ちた。 もう片方のアンデッドの素顔が見える。成人にも満たぬ程の男性。童顔だが顔立ちはよく、生前は溌剌とした好青年であった事がうかがえる。ただ、右目が潰れていた。シメオンは柔和な笑顔を絶やさない。凪沙は強ばる体をぎゅっと抑えてその顔をじっと見つめる。彼らを襲ったであろう悲劇に、誰も臆する事は無かった。 二つの仮面が割れて、十一の死体が再び死んで、残った彼らの目に生気はなく、また先ほどまでの戦気も消え失せていた。仮面がもたらしたのであろうエリューションとしての能力は未だ健在で、彼らの視線はリベリスタを縛るのだが、彼らの目は何かを訴えるように、彼らの口は何かを求めるように、リベリスタに何かを伝えようとする。微かに漏れる声が、その言葉が何であるかをリベリスタに伝達する。 こ ろ し て 心の叫びであった。痛みからの嘆きであった。彼らは一度殺されているのだ。しかしながら彼らは依然として生き、戦場に立っている。誰かに、何かに唆されて、操られて、死なれずにそこにいる。金の仮面は彼らに苦痛を強いた。それが望んだ痛みであったなら。彼らはきっと喜んで受け入れただろうが、しかし彼らが求めていたのは死であった。金仮面に生かされた現状からの解放。救済。世界に仇為す事を強いられた彼らの最後の望み。 「それならば、安らかに眠れ」 アシュリーが放った二つの光弾が、二人の胸を同時に貫く。同じ場所にあいた穴が、同じ時に彼らを死へと誘った。苦痛に歪んだ顔は徐々に安らかになり、やがて逝った。 ● アシュリーはアンデッドの一つの側に寄る。服は先の戦闘で少し破損してしまったが、まだ役目は保っている。ポケットなどを探ると、幾つか身元のわかりそうなものも出てくる。 「こいつも、家族のもとに送ってやれそうね」 「身元のわからなそうなものは、ある?」 シメオンが尋ねる。アシュリーは黙って一つの死体を指差した。 「死体で実験なんて、罰当たりな奴だ」 福松の言葉に、シメオンは微笑みで応える。 「ま、それで何かわかるんなら上々でしょう」 「そうですね」 モニカの言葉に、イスタルテも同意する。シメオンは指定された死体の側に寄り、ゴソゴソ死体を探りながら、呟く。 「うーん……やっぱり生きたサンプルが欲しいなあ」 アシュリーはその様子を観察しながら、煙草に火をつけた。 リーゼロットは事件の資料を眺めていた。事件の発生の判明は金仮面によるパレードが予知された時の事だったそうだ。今回の依頼の詳細を調査するにあたって金城という家がヒットし、そこには凄惨な現場と遺体が残されていたそうだ。エリューションの為に、それは未だに残っている。 不思議な事に五人家族であるにも関わらず、遺体は一つしか無かったそうだ。内二人は今回エリューションとして倒された。一人はそこで死んでいる。ならば残りの二人はどこにいったのだろう。わからない。現状では、解答を得る為のヒントは少なすぎる。 リーゼロットの目がある項目に向く。家族に関わりのない、一人の男の金城邸への侵入が、目撃されているという事だ。しかし、詳細は未だ不明。面倒くさくなりそうだ。リーゼロットは資料を静かに閉じた。 夜中、人通りのほとんどない住宅街の中に、金城邸はあった。扉を開け、中に入る。家を余すところなく腐臭が支配していた。凪沙とユーキは、重苦しい雰囲気を掻き分けて、家の中を捜索する。 腐臭の発生源はリビングであるようだった。ドアを開けると、遮る壁の無くなったそれが風のように二人に流れ込んでくる。片目だけ開けて、それをやり過ごしつつ、部屋の様子を見る。 床を染めている赤。血。二つの大きな血溜まりは何日も前にできたのだろう、すでに乾いていた。それらの隣にもう一つの血溜まりと、顔を血に染めた少女の遺体が横たわっている。その側には、綺麗な金の仮面が、二つに割れて落ちていた。ユーキは彼女に近寄った。凪沙は嗚咽を抑えるように手で口を覆っている。 凪沙は近くに飾ってある写真群に目を向ける。笑顔の過去を切り取った写真には、無数の刺し跡があった。映っている五人の人間のうち、二人は先ほど自分たちが殺した者だった。恐らく家族であろう彼らの笑顔も、今は寂しげに見える。 ユーキは金の仮面を覗き込む。見つめると、どんどん引き込まれてしまいそうな気持ちになってくる。心なしか、仮面は笑っているようにも見えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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