●三人の冒険家の話。 昔々、3人の冒険家が居た。 1人は勇敢な冒険家で、1人は慎重な冒険家、最後の1人は臆病な冒険家だった。 ある時彼らが訪れたのは、森の奥のそのまた奥。誰も立ち入ったことがないと噂される、樹海の最果て。 数多の難関を潜り抜け、彼らが辿り着いたその場所には、古い古い洋館が立っていた。 ゴゴゴ、と不気味な音を響かせるその洋館に窓はなく、入口だけが3つあった。 赤い扉、青い扉、黄色い扉の入口が3つ。 最初に足を踏み出したのは、勇敢な冒険家だった。 蹴り飛ばすように赤い扉を開け、中に入っていく。 しばらくすると、屋敷全体が大きく揺れ、雷のような音が響き渡った。 勇敢な冒険家は戻ってこなかった。 次に、慎重な冒険家が青い扉を潜った。 慎重な冒険家は、慎重に慎重を重ね扉を潜り、先へ進んでいく。 やがて、不気味な呻き声と冷たい風が扉の隙間から吹きだしてきた。 慎重な冒険家は戻ってこなかった。 最後に残された臆病な冒険家は、黄色い扉を開けなかった。 帰ってこない仲間たちを待つことを諦め、そのまま来た道を引き返す。 引き返しているうちに、臆病な冒険家は何者かに追いかけられていることに気付いた。 臆病な冒険家は、森を抜けて帰ってくることはなかった。 それ以来、この森に立ち入るものは誰もいなかった。 ●冒険家の末路。 「以上が、今回行くことになる樹海近くの村に伝わる昔話。3人の冒険家の話。単なる昔話だと思われていたけど、先日似たようなの洋館が発見されたの」 集まったリベリスタ達を見回しながら『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が言った。 その白い手に持たれているのは、古ぼけた絵本。3人の冒険家の絵本だ。 元は何の変哲もない洋館だったのだという。しかし、最近になってエリューション化したようだ。数年前死んだ洋館の主人が、その昔話に執着していたためだろうか? 洋館自体も昔話を元に設計されているらしい。彼の残した思念が神秘と混ざり合ったのだろう。村人に洋館が発見されたことにより、眠っていた思念が活性化したのだと考えられる。 つまり、昔話の再現を目的として。 「ターゲットは、洋館。E・ゴーレム。フェーズは2。だけど、外部からの攻撃は弾かれて通用しない。また、内部ではいかなる強化も無効にされる模様」 飛行能力も、使用不可能みたい、とイヴは呟く。 「幸い、洋館までの道のりは既に判明しているから、樹海を彷徨う必要はない。また、扉の内部に付いても、ある程度判明している」 ちょっと待ってて、とモニターを切り替えた。モニターに移されたのは、薄暗い部屋のようだ。部屋の真ん中に椅子が置かれ、そこに誰かが座っている。 「目指すのは、洋館最上階のこの部屋。この洋館の核が、この椅子に座っている……」 と、画像がアップされる。そこに映っていたのは、干からびた手足と、落ちくぼんだ眼窩、蜘蛛の巣が張り巡らされた口腔。 「このミイラよ。屋敷の主人、だったみたい。このミイラの破壊によって、この洋館はE・ゴーレムとしての力を失う」 ミイラ自体は、何年もこの場所に座り続けているらしく、体中が蜘蛛の糸や埃に塗れていた。ところどころ白骨化し、片方の腕は肩から外れている。 「扉に関してだけど、どれも1~4人程度しか入れないようになってる」 それ以上の人数が入ろうとすると、結界のようなものが発動して弾きだされるらしい。 「赤い扉は、トラップだらけ。飛行能力や身体強化が無効化されるから、気を付けないと大けがをする可能性もある。出血、ノックバックを伴う罠が多いみたい」 と、映し出されたのは赤い扉。広がる染みが血痕のようにも見えて、気味が悪い。 「青い扉の中は、樹海で死んでいった者達の残留思念のようなもの、つまりE・フォースが彷徨っている。直接命に関わる脅威ではないけど、脱出できなければ、生死に関わる。不運や混乱、呪いに気を付けて」 次にモニターに映ったのは、青い扉だった。這いまわっている蔦が枯れ、ぶら下がっている。 「最後の黄色い扉の中にはE・アンデッドが沢山。正確な数は不明だけど、たぶん20体程度。爪や牙による攻撃は、毒や麻痺を与えてくるから」 と、最後に移されたのは黄色い扉。他の扉に比べ、比較的綺麗に見える。 そのうちどれかを突破し、最上階に辿り着くことが、今回のミッションと言うわけだ。 「最上階のミイラをなんとかすれば、洋館の破壊は不要。ミイラをなんとかしないと、そもそも破壊が不可能。このまま放置しておいても特に問題はないのだけど、迷い込む人がいると危ないから、なんとかしてきて」 そう言ってイヴは屋敷の見取り図をリベリスタ達に渡す。 赤い扉から最上階までは、直線距離にして40メートル程度。 青い扉からは、20メートル。 黄色い扉からは、30メートルとなっている。 「距離が短いほど、難易度が高いみたいね。生前、この屋敷の主人は、かなりのゲーム好きだったみたいね。この屋敷も住居というよりはゲームの会場だったみたいだし。近くにいる者全員が扉を潜らないと、ゲームはスタートしないみたい」 迷惑な話よね、とイヴは呟いた。 つまり、全員が扉を潜らねばそれ以上先には進めないと言うことだ。 薄暗い森の奥に建つ不気味な洋館は、今日も獲物が来るのを待ち構えている……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月28日(水)23:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●トリックハウスに迷う者……。 森の奥深く、うっそうと生い茂る草木を掻きわけた先に、その洋館は建っていた。 主の居なくなって久しい、古ぼけた洋館だ不思議と窓は一つも無く、入口は赤青黄と三色の扉。頑丈な煉瓦の壁には蔦が這いまわっている。 そんな洋館の前に集うのは、8人の男女。アーク所属のリベリスタ達だ。 「んー。中々いい雰囲気の洋館じゃないの。びっくりお化け屋敷なのが残念でならないわね。外から焼いて清めたりとかできないのかしら? ほんと、エリューション事件は面倒ね」 紫髪に眼帯の少女が、屋敷を見上げて微笑む。『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)だ。 そんな彼女の隣では、灰色の髪と髭の男『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が、屋敷の近くにウレタンマットを敷いている。 「降りる事が叶わぬ時の備えだ」 パンと、ウレタンマットを叩いて感触を確かめる。 「ゲームだと、宝箱だと思ったらモンスターだった、みたいな敵がいるけど。まさか家全体がゴーレムとか……ちょっとビックリだね」 はは、と乾いた笑い声をあげるのは『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)だ。 ゲーム好きだった主人が建てた、ダンジョンゲームのような屋敷に乗り込む準備を整えていく。 「ゲームか。一般公開していれば村おこし程度にはなっていたかもな? いや、無理そうか。話題にする価値もない。来ても一度で飽きそうだ」 隙間から冷たい風が漏れる青い扉に手をかけ、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が嘲りを含んだ、皮肉気な笑みを浮かべる。 「人の来ない樹海の中に洋館を建てるなんて変わってますね。ダンジョンゲームとか、わたしもそういうの好きなんでちょっと楽しみです」 ユーヌの後ろに立って、防寒着を着用しながら『誰かの為に』鈴村・優樹(BNE003245)が、楽しそうに目を輝かせる。懐中電灯を握りしめ、いつでも扉を潜れるよう準備をする。 ユーヌ、鈴村の後ろにジルとウラジミールも並んだ。この4人が選んだのが青い扉だ。 「じゃあ、行こうか。気を付けて。屋上で待つ」 黄色い扉に手をかけた『red fang』レン・カークランド(BNE002194)の言葉を合図に、計8人のリベリスタ達が一斉に屋敷の中へ踏み込んだ。 ●青い扉と黄色い扉。 「……っ!?」 無言で顔をしかめて『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は、バンデ―ジで口と鼻を覆った。黄色い扉の内部には、腐臭が立ちこめていたのだ。彼女達が足を踏み入れた途端、天井から吊るされた蝋燭が灯って廊下をぼんやりと照らす。 とはいえ、視界が確保できるのはせいぜい数メートル程度。その先に広がる暗がりからは、何者かが唸るような声が無数に聞こえる。恐らく、このルート内を徘徊しているというE・アンデッドの声だろう。 「不惜身命、粉骨砕身の気構えにて御勤め致すっ!!」 風音 桜(BNE003419)が蜥蜴の瞳を爛々と輝かせ、残罵倒を構えた。敵の気配を感じ取ったリベリスタ達の間に緊張が走る。 幅3メートル程度の廊下で陣形を組み、慎重に進んでいく。曳馬野の視線が、進路の先にある戸棚に注がれる。戸棚の影や、内部にアンデッドが隠れていないか見極めているのだ。 「来たみたいだね。気をつけて」 くぐもった内薙の声。口と鼻をマスクで覆っているためだ。そうでもしなければ、通路に満ちる腐臭に耐えることはできないだろう。 「ぁぁあ……」 掠れた呻き声が大きくなる。リベリスタ達の気配を察知して、アンデッドがやって来たのだ。緩慢な動作で影から姿を現したのは、腐敗し、一部白骨化した死体だった。黒く変色した舌を口からはみ出させ、一歩一歩前へ歩いてくる。 「とりあえず、一体」 姿を現したアンデッドに向かって曳馬野が銃弾を撃ち込んだ。顎を撃ち抜かれたアンデッドは、大きく仰け反る。そこにすかさず内薙が術で作りだした鴉が追い打ちをかける。勢いよく突っ込んで行き、アンデッドの首を切断した。 最初の一体を無事撃退し、安心したのも束の間、影の中からワラワラとアンデッドが彷徨い出てくる。後から後から、闇から湧くかのように現れるアンデッドに、内薙が顔を青くした。 「全部で20体、だっけ? 20丁度とは限らないし、油断しないように」 曳馬野がそう呟いて、銃を構えた。入口から10数メートル進んだ位置でこれなのだ。悠長に一体一体撃破していたのでは、時間がかかり過ぎる。 「この場所で囲まれるのも、嫌だよね」 覚悟を決めたように大きく頷く内薙。彼の後ろでは、レンが全身のエネルギーを解き放つ準備をしている。ぼんやりと、彼の身体を赤いオーラが包む。 「館の主人を守る騎士、とでも言うんだろうか。悪いが、通してもらう」 その言葉が合図だっただろうか。 レンの身体から放出されたエネルギーが、アンデッド達に襲い掛かる。放たれたエネルギーは一瞬、廊下に赤い月の象を結んだ。 赤い月に押され、アンデッド達が後ろに下がる。ワラワラと廊下を塞いでいたアンデッド達の間に、一本道が出来あがった。 その道を広げるべく、曳馬野が駆けだした。アンデッド達の中に飛び込んで、近くにいる相手から順に拳を叩き込んでいく。 曳馬野が開いた空間に、内薙、レン、風音の順で続く。 「数が多いから、早めに減らさないとね」 胸の前で手を組んだ内薙の身体から、眩しいほどの光が溢れる。強い力を持った光が、アンデッド達を焼き払う。それとほぼ同時に、再び赤い月が現れた。 内薙もレンも、敵の数が多いからだろう、手加減なしの全力で技を放つ。 アンデッドに進路を阻まれたこの状況を、少しでも早く抜け出したいのだ。 「勇ましくも考え深くもなくて、生きたがりでもない。なににもなれないけど。黙って死んでやる気はないんだ」 自分に言い聞かせるように、噛みしめるようにそう言いながら、曳馬野は次々とアンデッドを殴り倒す。拳に血が滲むのも構わず、ただがむしゃらに。 「今日のわたしは、一人じゃない」 それが可能なのは、背中を守ってくれる仲間の事を信頼しているからだろう。一人じゃないから、無茶だってできる。仲間がいるから、身体も張れる。仲間と一緒に、生きて帰る為に、彼女は必至で血路を開くため、戦うのだ。 曳馬野が撃ち漏らしたアンデッドや、彼女に襲いかかろうとしているアンデッドは風音が斬り伏せる。 「タンスの影とか、気をつけてね」 傷ついた仲間を治療しながら、内薙が叫ぶ。 「階段が見えた。走って」 曳馬野がアンデッドを殴り飛ばし、道を開いた。数メートル先には階段が見える。アンデッドの輪の中から抜けだして、4人は階段を駆け上がった。 「纏めて葬り去る! 俺は、俺にできることを!」 階段の踊り場から放たれたのは、呪力を纏う赤い月。レンの身体から放たれたエネルギーが、アンデッド達に襲い掛かる。赤い月が消えた後に残されたのは、力尽き、二度と動くことがなくなった無数の死体だった。 最上階までの道のり、ようやく半分と言った所だろうか。先はまだ長い。 同時刻、青い扉。 身体が震えるほどの冷気と、1メートル先も見えぬほどの暗闇。まるで、冷蔵庫の中を歩くような気分になってくる。 青い扉を潜って数分。道程の半分ほどは既に進んだだろうか。 「わたしの役目は回復がメインなんで、一番後ろにいますね」 周囲の様子を窺いながら、鈴村がそう言った。 「壁抜けとか定番だから、前方以外にも注意を向けておかないと」 暗視ゴーグルを使って辺りを見回すのは、鈴村の隣を歩くユーヌである。回復役である鈴村が襲われないよう、細心の注意を払っている。 「準備を整えるのは気持ちを整えることでもあるのだ。油断はしないでいこう」 暗視ゴーグルの位置を直しながら、ウラジミールが立ち止る。一度陣形を立て直そうという意図があっての行動だった。一向に姿を現さないE・フォースの存在も気にかかっている。 「ああ、来たみたい」 ジルが眼帯を外しながらそう呟いた。暗闇の中に、金に瞬く瞳が浮かび上がって見える。彼女の視線の先には、ぼんやりとした人の影があった。 「………………………」 感情の窺えぬ虚ろな目が、彼女たちを捉える。すゥ、と音もなく前に進むそれは、この屋敷で亡くなった者の思念体がE・フォースと化したものだ。 声にならぬ声をあげ、両手を伸ばして襲い掛かってくる。 否、襲い掛かるのではなく、助けを求めているのだ。ただ、この暗闇から逃げ出したいと、それだけを願う。 冷たい手が、ユーヌの胸を突き抜けた。彼女の脳裏に、死者の記憶が駆け廻る。 しかし……。 「恨みも苦しみも今更だ。泣き喚く前にさっさと消えろ!」 強い意思で、E・フォースの攻撃に堪え切り、ユーヌは術で作りだした鴉を放つ。暗闇の中で旋回した鴉が、E・フォースを貫いた。 「任務を開始する」 鴉に貫かれ動きを止めていたE・フォース目がけ、ウラジミールがサバイバルナイフを大上段から振り下ろす。空気ごと切り裂くような一撃によって、E・フォースの姿はかき消された。 「まだ来ますよ! 前とか、壁とかから!」 超直感によっていち早く敵の接近を悟った鈴村が注意を促す。彼女の声から数秒後、前方に3体、左右の壁から1体ずつE・フォースが現れた。 左壁から鈴村へ襲い掛かるE・フォース目がけ、ユーヌが鴉を飛ばす。 「無効持ちが引きつけた方が楽だからな」 「ふんっ!」 右から現れたE・フォースはウラジミールが喰いとめる。 前方からやって来た3体の進路を塞ぐように、ジルが飛び出した。ダガーを片手に、踊るようにしてE・フォースを切り裂いていく。タタン、と軽い足音が廊下に響き渡った。 「邪魔よ、妄念共。アタシに近寄るな!」 ジルがそう叫んだ、その時、腰につけていた懐中電灯が床に落ちた。ジルの視界が闇に包まれる。軽快なステップを踏んでいた足を止め、回避行動に切り替える。 「は、当たらなければどうということは………ウボァ」 ジルの首にE・フォースの腕が絡みつく。氷のような温度に驚いたのか、変な声が漏れた。彼女の脳裏にE・フォースの恨みの念が叩きこまれる。 一瞬にしてジルの目の焦点が合わなくなった。混乱状態に陥ったのだ。ダガーを構え、当たるを幸いに周囲のものを切り刻みにかかる。 ヒュン、と空気を裂く音。一瞬遅れて、闇の中に血が舞った。ジルのダガ―がユーヌの肩を切り裂いたのだ。遅れて、ユーヌの傍にいたE・フォースも切り裂かれて消える。 「感受性豊かだな? 私にない感性は好ましいな」 肩を押さえて、ユーヌが後退する。彼女と入れ替わるようにして前に出たのはウラジミールだ。 「焦っている時は、足元を確認しろ!」 怒号と共に、ダガ―の刃をサバイバルナイフで受け止める。その隙に、鈴村がジルに駆け寄った。 「チームのサポートが、わたしの役目ですから」 ジルの顔に手をかざす。手の平から光が溢れた。あちこち彷徨っていたジルの目の焦点が定まる。ジルは何度か首を振って意識をハッキリさせると、ダガ―を引っ込めた。 「敵も残り少ないですし、一気に駆け抜けましょう。最上階は、もうすぐです」 鈴村の言葉に頷いて、リベリスタ達は肩を並べて駆けだした。 目指すは、屋敷の最上階。 姿を現したE・フォースを切り捨てながら、一目散に闇の中を進む。 ●ミイラの眠る最上階。 初めに最上階に辿り着いたのは、黄色い扉を選んだチームだった。無数のアンデッドと交戦してきたせいで、返り血や体液に濡れてひどい有様だった。 ぜぇはぁと息を切らしながらも、彼らは最上階に辿り着いたのだ。天井に開いた明かり取りの窓から、弱い光が差し込んでいる。 「あとどれくらいかかりそうだ?」 レンが、AFを使って青い扉を選んだチームに連絡を取る。しかし、返事はなかった。 彼の手元を覗きこんでいた曳馬野と内薙が、心配そうに眉を下げる。風音は、自分達が潜った扉の前に立ち、警戒を怠らない。道すがらE・アンデッドは全て倒してきた筈だが、撃ち漏らしが無いとは言い切れない。 「ミイラを破壊して、助けに行くか?」 レンがそう呟く。彼の視線の先には、埃と蜘蛛の巣に塗れた、一体のミイラがあった。かつてはこの屋敷の主人だった者の、なれの果てだ。屋敷をエリューション化させている原因でもある。 曳馬野がミイラに近寄り、銃を構えた。 その時。 「さーて、ここまでくれば終わったも同然ね」 ジルの声が、聞こえた。 バン、と大きな音をたてて扉が開く。飛び出してきたのは、青い扉を選んだチームの面々。連絡どころではなかったようだが、それでも無事、青い扉を突破することが出来たようだ。 「すいません、遅れました。全員揃ってますか?」 疲れた顔でそう言うのは鈴村だ。ユーヌの怪我を治療しながら、辺りを見回す。 「破壊した瞬間、崩れたりしないだろうな、この屋敷」 「その場合は、最短距離で帰れる青い扉のルートから脱出だね。それか、跳び降りるか」 ユーヌの言葉に、内薙が返事をする。全員無事に辿り着いたのを確認して、曳馬野は安堵のため息を漏らした。 「それじゃぁ、破壊するから」 そう言って、曳馬野は銃の引き金を引いた。渇いた音をたてて、弾丸が発射される。寸分違わずミイラの眉間を撃ち抜いた。 ミイラは、ザラザラと砂になって崩れ落ちる。存外あっさりした最後に、曳馬野は拍子抜けしたような表情を浮かべる。 「任務完了だ」 ウラジミールが、ミイラの崩壊を見届けてからそう言った。近くにあった木箱に、崩れ去ったミイラを詰め込む。後で、正式に葬るつもりらしい。 ミイラが消えたからか、屋敷自体もエリューション化が解けたようだ。さきほどまで感じていた、生き物の体内にいるような圧迫感が消えてなくなっている。 なにはともあれ、これでこのトリックハウスもただの廃屋と化した。 いままでかろうじて屋敷としての形を留めていたが、後はただ時間に蝕まれ朽ちるだけ。 こんな森の奥の屋敷に用事がある者もいないだろう。後は、時間がなんとかしてくれる。 朽ちるのも、人の記憶から忘れ去られるのも、時間が……。 「せっかくだから、赤い扉の方も見に行ってみる?」 なんて、笑顔で提案する内薙に、仲間達はそれもいいかと頷いて見せるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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