●もふもふだってやる時はやるのです 一面の、砂。他には季節柄柔らかな光を齎す太陽と、そのまします空以外、無い。何も無い。 否、少なくとも一週間前までは、そうだったのだ。 今は、ちょろちょろと駆け回る、白くてもふもふした何かが、いる。 数は十二。もふもふした細長い何かが、かなりのすばしっこさで砂原を縦横無尽に駆け巡っている。 その腕には、一様に、鈍色に煌めく鋭い刃が生えていた。それは恰も鎌のように。 そう、つまり、この白い彼等の名は、 ●もふもふとて甘く見るな! 「……そんな訳で、このE・ビーストの正体は、鎌鼬」 ――カマイタチ。 はぁ、草原とか歩いてたら足首とか斬りつけてくるとかいうあの妖怪ですか。 科学的に検証すると夢が無くなる存在でもあるらしいのだけれども。 「そのE・鎌鼬が何故か、砂丘に出現した」 何だE・鎌鼬って『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)ちゃん。 「細かい事は気にしない。柔軟に物事に対応出来る力も、リベリスタには必要」 さいですか。 「E・鎌鼬は総数十二匹。体力とか防御力の方は、フォルムを裏切ってないから大した事は無いの。けど、問題はスピードと、命中率。ヒットアンドアウェイでも命中率が下がらないっていう脅威の身体能力を備えてる」 イヴの背後のモニターの中で無駄にちょこまか動き回るE・鎌鼬。さもありなん。 捕まえたと思ってもちょろっと逃げていきそうなあの感じ。正しくイタチそのものだ。 「攻撃手段は砂丘の砂を腕の刃の風圧で飛ばす遠距離攻撃。それと、その可愛らしい見た目を最大限に生かして、こっちを油断させてきたりもするみたいだけど」 まぁ、何とかなるでしょう、と。しれっと、言い放って下さった。簡単過ぎる。 彼女の目の前に並び立つ、リベリスタ達を信じているからこその言葉――だと、思いたい。 「……ああ、それと。もう少し」 突如、ぴっと右手人差し指を立てるイヴ。 「E・鎌鼬、諄いようだけど、かなり素早い。で、皆が砂丘に入り込んだ時点で、一匹ずつバラバラに現れて、可能であれば皆を取り囲むように布陣してこようとする。勿論、固まって行動する事は殆ど無い」 纏めて掃討するには少々骨の折れる相手、という事か。 加えて数も多い。相手の見た目以上には厄介な戦いになりそうだ。 「それじゃあ、頑張ってきて。待ってる。皆が勝って帰って来るの、信じてるから」 ――嬉しい言葉ではあるのだけれど、せめてもう少し感情籠めてくれたらなぁ……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月31日(土)21:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●エリューション=? 「イタチっておならしなかったっけ?」 ――開口一番それですか。 「自分の身を守る為に、臭いのするって聞いた事あったと思ったんだけど。それともカマイタチはオナラしないのかな? もしそうなら超絶美少女の瞑ちゃんと同じだね! アイドルはオナラしない理論的な意味で」 オナラオナラ連呼し過ぎだよ『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)ちゃん。 とは言えその辺りは本人も自覚はあるらしく『てへ☆』みたいな顔をしていた。自覚のある何とやらは何とやらと言うが――まぁ、そういう問題ではないだろう。と言うかもう何も言うまい。 「わ、わかっています……彼らはエリューション、他のもふもふ、脅かす存在。ここで討たねば、ならないの、です……!」 っぐ、と小さな握り拳を固めるのは『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)。抵抗の意志と準備は既に完了済だ。敢えて言い換えればそう、覚悟完了。 しかし相手は曲がりなりにもイタチである。もふもふである。悠然と生きてる子も好きだが、すばしっこく愛嬌振り撒く子も大好きだ。そんな事を考えて、ともすれば頬が緩みそうになるのを、ふるふるとかぶりを振って耐えるフィネ。 そんな彼女とは対照的に、漆黒とか群青とか深緑とか紫とかそんな感じのダーク系の色が凄絶に混ざり合ったような、澱んだオーラを憚りも無くその身から漂わせているのは『霧の人』霧里 まがや(BNE002983)であった。 (参加理由その一。ストレス発散、以上) それ以上でもそれ以下でもないといった単純明快、シンプルな動機であった。 (普段なら可愛いねにハートマークでも付けたい所のイタチの姿もどーにも癪に触って仕方無い) 声にならない叫びとなってこみ上げるこの気持ちは殺意だろう(歌うように)。 今更ではあるが、今回集まった八人のリベリスタ達は、E・鎌鼬改めイタチのE・ビースト討伐の為に、件の砂丘まではるばる足を運んできていた。 「鎌鼬、って想像上の生き物だけど、E・鎌鼬とは……なんという偶然、と言うべきなのかしらね」 何とは無しにそんな事をぽつりと呟いた『後衛支援型のお姉さん』天ヶ瀬 セリカ(BNE003108)は、最早苦笑するしかないといった風情であった。 同じイタチのE・ビーストでも此処まで鎌鼬然としていると本当に偶然というものは恐ろしい。 そんな彼女に『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)も思わず苦笑で返す。 「もふりたかったが一般人を魅了しながら切り裂きに行かれても困るしね」 繰り返すが相手は姿こそアレだが歴としたエリューションである。しかもその魅力さえ武器にするような相手だ。放っておく訳にもいかないだろう。此処は心を鬼にして討伐せねば。 尤も、まがや辺りは(殺意的な意味で)かなり乗り気だったようではあるけれど。 「鎌鼬…日本のモンスター、いや妖怪だったかしら? お話の通りバケモノっぽい見た目であって欲しかったわね」 どの道倒すべき相手ではあるが、その方が幾分かやり易かった事は確かであろう。『愛煙家』アシュリー・アディ(BNE002834)は腕を組みつつ、軽く溜息を吐いた。 まぁ今更言っても仕方の無い事だ。アシュリー達リベリスタも勿論それは理解している。今は無事に任務を遂行する事だけを考える事としよう。 ●シンキングタイム 蒼穹を鷹が旋回する。 そして何故か、砂丘には引っ繰り返ったトラックが出現していた。 「上手く隙間無く埋まり、機能すれば良いが……」 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)が後顧の憂いを断つべく用意したものだ。尚、上下逆さまなのは正位置で出すと下の隙間から敵がこんにちはしてくるのを防ぐ為である。今から砂で塞ぐのも手間なので。 「しかし……この世界は自分に愛着のある存在をどうしてこうも……敵へと変貌させてしまうのだろうな」 判っている。自分がやるしか無い事も、彼等に罪が無い事も。しかしいずれはこの世界で生きる者達に仇を為す存在になるかも知れないなら、自分が手を汚してでも討つしか無いのだ。 ――鷹が啼いた。 「! 来たか……」 じりじりと、リベリスタ達の周囲を取り囲むように現れる鎌鼬。数は――十匹。恐らく姿の見えない残り二匹は、遮蔽しており死角になっているトラックの側から迫ってきているのだろう。 「例えどんな存在であろうとも、全力を尽くす」 見てしまったからには。そして、出会ってしまったからには。 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が、自分の獲物を構える。他のリベリスタ達も、既に臨戦態勢だ。 雷慈慟が背後にあるトラックを顧みる。 (矢張り登ってくるつもりか、だが……!) ひょいと、二匹の鎌鼬の顔が、トラックの上――上にあるのは下だがややこしいのでこれ以上言及しない――から、頭を見せた、その瞬間。先程まで上空を旋回していた鷹が、即座にトラックへと急降下した! 猛禽類はイタチの天敵。食らう者と食らわれる者の関係。それを利用し、ファミリアーで呼び寄せた鷹を見回り、そして牽制を行わせたのである。 その発想、着眼点、見事なものだ――が、此処で少し考えて欲しい。 自然生態系的な意味での“天敵”というのは、先程も述べたが食うか食われるか、もっと言えば殺すか殺されるかの関係だ。後者は前者に抵抗する手段を持たない為に、殺される事になるのである。 要するに逆を言えば、抵抗する手段を持っている相手に関しては、天敵たり得ないという事であり―― 「鷹さんが……!」 フィネがか細い悲鳴を上げた。鎌鼬が、鷹に向かって腕の鎌を振り被る! 「くっ!」 急ぎ、雷慈慟はトラックをAFに収納する。 鷹は寸での所で鎌の一撃を躱した。鎌鼬二匹はそのまま落下していく。その内の一匹の細長い身匹を、一瞬にしてその感覚を最大限にまで研ぎ澄ませたセリカの、黒鉄の銃口が捉えた! 「可愛い外見は嫌いじゃないけど、手加減する訳にも行かないの。悪いけど、狙い撃つわよ……?」 銃声。一発。 それが戦いの始まり、その合図であった。 ●形はどうあれ力は力 真っ先に駆けだしたのは瞑。義弘とフィネの位置関係に気を配りながらも、自慢の機動力と判断力で、怒涛の連撃を白の群れに浴びせてゆく。幾ら素早い鎌鼬と言えど、この猛攻を完全に躱し切る事は出来ず、甲高い悲鳴を上げて仰け反った。 其処へ疾風が、その名の如き疾き風の一撃を、鎌鼬の真空刃にも負けぬ勢いと鋭さを以て見舞ってゆく。 「何故、砂丘何だろうかという素朴な疑問もあるんですが」 考えても無意味かと、白き毛を赤く染めた鎌鼬を見て、苦笑する。 ほぼ同時に、お返しとばかりに鎌鼬の腕が振り下ろされ、風の刃がリベリスタ達を襲う。 「!」 何という速さであろうか、決して油断も慢心もしていなかった義弘、アシュリー、セリカがその身に一文字の紅を刻み込まれた。傷口からその紅は更に滴り落ちる。 だが、やられっぱなしでいるばかりのリベリスタ達ではない。反撃の更に反撃、オルクス・パラストが誇る対エリューション用大口径狙撃銃、その引き金をアシュリーが引いた。 一切の迷いも無く解き放たれたその弾丸は、まさにその心意気に応えるが如く鎌鼬の腹へと吸い込まれ、弾けた。 「ヂュイッ」 悲鳴を上げて、一匹の鎌鼬が痙攣し、そのまま動かなくなった。 「ああ苛々する、無性に苛々する。頼むから纏めて消えろ……」 何やら更にオーラが禍々しい事になっているまがやが、ありったけの力を籠めて迸る一条の雷撃の一閃を開放する。 解き放たれたその一撃は彼の苛立ち具合を反映するかの如く、八匹の鎌鼬を纏めて貫いた――ああ残り三匹に当たらなかったからって如何にも忌々しそうに舌打ちしないで下さいまがやさん。 ともあれ、その怒りの一撃は、八匹の中でも見事に直撃を受けた二匹を一瞬にして葬り去る程の威力を得ていた。負のパワーを舐めてはいけない。 そんな彼を危険人物とみなしたか、残った鎌鼬の内二匹がその動きを不意に止めた。そしてひょいと立ち上がり、こてんと首を傾げて見せたのだ! ――狙ってやがる! 魅了の力に中てられたまがやの意識が一瞬、ぐらりと歪む。確かにイタチは可愛い――が、ちらと視界の端に捉えられた鎌が再び苛立ちを呼び起こした。そのまま何とか耐えた。ついでに何か癪なので睨み返してやった。 だが、彼だけがピンポイントで狙われた訳ではないので、こんな事に。 「イタチ可愛いよイタチ!!」 「瞑さんが魅了されてる!」 セリカの視線の先には何やら妙にテンションが上がってしまった瞑がいた。完全に中てられている。 「フィネ女史」 「は、はい……っ」 魅了の力から、雷慈慟によって護られたフィネが、眩き浄化の光を溢れさせてゆく。与えられた偽りの意志を洗い流し、あるべき魂へと呼び掛ける。 「ハッ、うちは何を!?」 「ちょいと精神操作されてたみたいだな、まぁ、何事も無くて良かった」 忙しなくきょろきょろと辺りを見回す瞑に苦笑を漏らす義弘。何か今日苦笑率多いな。 それはそれとして、その微妙な笑みから義弘はすぐに切り替え、正義の十字の光を撃ち出した。熱意を伴う裁きの光は義無き精神を白熱で以て焦がしてゆく。 また一匹、白の獣が地に伏した。 ●向かい風にも負けず、道を切り拓け 敵の数も半分近くまでその数は減ってきている。 「そろそろ“あれ”が来るかも知れませんね!」 燃え盛る炎の拳でまた一匹の鎌鼬を屠りながら、疾風が注意を促す。 そう、まだ鎌鼬達が使っていない、とっておきの大技。これ以上数が減る前に、使ってくる可能性は、極めて高い。 「皆、怪しいと感じたら抜かり無く防御を!」 セリカが呼び掛ける――と、鎌鼬達がそわそわし始め、今までに無い動きを見せてくる。 密集しようとしている! 「お! 来るよ、来るよ! イタちん達の大技っ!」 瞑が、真っ先に動き出した。流れるような動きで鎌鼬の一匹に肉薄、そのまま、得意の連撃で喰らいつき、敵の動きを止めに掛かる。 しかし残る五匹はそのまま一所に密集、ひょいひょいと数度跳ねたかと思うと――自慢の鎌を更に数度、素振りし、幾重もの真空の刃を生み出し、砂を巻き上げ、砂を伴った巨大な竜巻、砂嵐を生み出した! 咄嗟に義弘はアシュリーを、雷慈慟はフィネを庇いにかかる。他のメンバーは両腕で自らの身体を砂と風の暴力から護り、素早く反応出来た瞑も防御の構えを取る。 濁流ならぬ濁風が、リベリスタ達にぶつかり、呑み込む。あの小さな身体から、これだけの一撃を生じさせ、蹂躙し、痛めつける。重い。煩わしい。それでも、逃れられない。 しかしならば――耐え切るまでだ。 砂煙の中――影は、八つ。倒れた者等、いやしない。 庇われた者達以外は、多かれ少なかれ傷を負ってはいたけれど。 それでも、立っている。それで、十分だ。 「ほら、大丈夫?」 「盾を自称する位の働きはして見せるさ」 傷を負いながらも気丈に笑みを見せる義弘に、アシュリーが治癒の符を飛ばす。それを受けて、また彼は光の十字架を描き出す。 (ここまで身を挺してくれた方達が居る……多少の痛みくらい甘受して、自分の役割、果たしたい) 心の中で唱え、光を齎す。フィネの光が、惑い、たたらを踏むまがやとセリカの魂を揺さぶり起こす。そのまままがやは荒ぶる灼熱の炎を立ち上らせ、セリカもどんな的をも逃さぬ程の一矢で敵を射抜く。 風には、風を。空を裂かんと構える疾風に、雷慈慟が同調し、その力を流し込む。疾風の更なる力とする、その為に。 「何も気にしなくて良い、能力を最大限発揮してくれ」 「有難う、助かります」 その勢いでそのまま、繰り出された襲撃は空を切り裂き、そのまま敵の身を一刀両断ならぬ一蹴両断にした。 敵からも反撃は飛ぶ。鎌の一撃は矢張り速く、鋭い。しかしそれでも、身を斬られた者はアシュリーの癒しの符がその痛みを取り除く。 敵は順調にその数を減らしてゆく反面、リベリスタ達の傷も決して浅くは無いものの、誰一人として欠けてはいない。 「すばしっこいのはうちも同じ、可愛らしいのもうちも同じ。ただひとつ敵に足りないものがあるとするならば、速さが足りない!」 瞑の自慢は速さもさる事ながら、その素早さを保ったまま、返す刃でもう一度、連撃を叩き込む事すら可能な程の“速さ”。その速さに仲間達は思いの外救われている。彼女の一見派手な、しかし地道な戦いぶりは、敵を想像以上に疲弊させている。 負けじと疾風も風の応酬で鎌鼬と競り合う。セリカも光弾を乱射し敵の身体に穴を開けてゆく。余裕の出てきたフィネも攻勢に転じ、破滅を予見する死神を、敵へと向かわせ死を告げた。 そして。 「死ね、主に心の平穏の為に」 最後まで眉間の皺が消えなかったまがやの怒りの炎で、最後の白が焼き消えた。 ●戦い終わって日も暮れて 「ふぅ、っと。無事に終わったわね、何とか」 応急処置を受けながら、セリカが安堵の溜息を吐いた。 彼女の、そして仲間達の応急処置を終えたアシュリーは、愛用の煙草で一服。 「砂まみれだしさっさと報告をしてシャワーでも浴びたいところね」 「あ、えと……ちょっと、待ってて下さい……」 その声の方を振り返れば、フィネが白いもふもふの亡骸の山、その隣で何かしていた。 「ん、何してるんだ?」 瞑がフィネの手元を覗き込めば、地面に穴を掘っているようであった。 「もふもふ、お墓…せめて、砂に埋めます、ね」 確かに、生きていた者達だから。 今でこそ世界に仇為す存在と化したとて、かつてはこの世界に息づいていた生命である事に、変わりは無いのだから。それを判っているから、フィネは蔑ろにはしたくなかったのだ。 そんな彼女を、微笑ましげに見つめていた疾風も、思い立ったように彼女に並び、砂をその手で救う。 「一人では時間も掛かるでしょうし、手伝いましょう」 「そうだな、元はただのイタチだったのだし、この位は良いだろう」 雷慈慟も彼等に並び、倣う。やがて義弘や瞑も手伝いに加わった。 そんな中、まがやはふと空を見上げ、呟いた。 「腹立って仕方無い連中だったけど、こんな風にしてくれる人間もいるんだ、有難く思えよな」 不機嫌な顔はそのままに、空へ、投げ掛けた。 リベリスタ達が去った後に残った、墓標は無いけれど、確かに其処にいたのだと、証明するように膨らんだ砂の丘。 其処で彼等は、産み落とされた星の一部となって、眠る。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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