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復讐の炎、燃え上がる

●炎の舞台。 
 炎が踊る。
 赤く激しく燃え上がる炎は、その熱量をもって全てのものを侵略し、破壊し、そして灰にする。
 赤々と燃える炎は周りの酸素を取り込みさらに大きくなり、燃える物がある限り侵攻が止まることはない。気がつけばそのビルは業火で包まれていた。
 逃げ惑う人の悲鳴と逃げ遅れた人の絶命の声。炎はそんな声さえも消し去るほど激しく燃え上がり、さらに飽くことなく赤く激しく踊る。
 炎で彩られたステージの中、相対する二人のフィクサードがいた。
 一人はフライエンジェ。このビルのオーナーでもありフィクサード組織『ナインブレイド』のボス。彼の部下はすでに逃げるか倒れるかし、彼自身も炎熱で憔悴していた。
 一人はビーストハーフ。黒地に黄色の斑点をの肌をもった爬虫類のような男。かなり傷ついてはいるものの、倒れることなく目の前の相手をにらんでいた。
「これで『ナインブレイド』も終わりだな。炎の中、消えるがいい」
「てめぇ、何者だ!? いきなりやってきて事務所燃やして! 何の恨みがあるって言うんだ!」
「5年と2か月前。貴様等は私の家に強盗に入った。私はその生き残りだ」
「そ……そんな昔のこと覚えちゃいねぇ!」
「だろうな。貴様等にとってあのことは重ねてきた悪行の一つに過ぎない。
 だが私は覚えているぞ。父と母の断末魔。嬲られた姉の悲鳴。貴様等の笑い声。全て覚えている」
 一言一言、恨みを刻むようにビーストハーフの男は言う。
 その傍らには、半透明の女性がいた。思念体と呼ばれるその存在はどこかビーストハーフの男に似ている。エリューション・フォース。そう呼ばれる存在。
「くそ……! こんなところでやられてたまるか!」
 最後の力を振り絞り、窓から外に飛び出す男。羽を広げて滑空し、何とか地面に着地した。そのまま夜の街に姿を隠す。
 窓からそれを見ていたビーストハーフは、炎の中、静かに呟いた。
「逃がさぬぞ。何処までも追いかけて、その魂ごと燃やし尽くしてくれる」

●Salamandra salamandra
「簡単に言うと、復讐だ」
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はこれから起き得る未来を簡潔にまとめた。
「事の起こりは五年前。フィクサードの犯罪集団『ナインブレイド』が起こした強盗事件だ。家に押し入って金品を奪う。能力を使って家族を皆殺し。最後に家に火を放つほどの徹底ぶりだ。警察の捜査も当然入ったが、いまだその尻尾すらつかめていない状況だ。それを幸運と思うか不幸と思うかは難しいところだな」
 ただの人間に、犯罪に特化したフィクサード組織を捕らえることなどできよう筈もない。能力を使い痕跡を消し、仮に食らいつかれても牙をむけば済む話だ。覚醒していない人間の強さはフィクサードのそれと比べて天と地ほどの差がある。
「だが殺したはずの家族が生きていた。そして炎の中、彼は覚醒。フェイトも得て、リベリスタに。プロト・アーク時にフィクサードを殲滅するリベリスタとして、働いていたのだが……」
 伸暁は肩をすくめて、悲哀を表現する。ため息のあと言葉を続けた。
「『ココでは私の目的は果たせない。悪鬼羅刹とならねば、悪は倒せない』……彼はそういって袂を分かった。そのあとの足取りはつかめなかったが、炎を操るフィクサードとなって今日予知された」
 フィクサード。覚醒してフェイトを得ながら、しかし私利私欲のためにその力を使うもの。彼は『復讐』という願望のためにその道を選んだ。
「名前は阪木・竜平(さかき・りゅうへい)。ファイヤサラマンダーというイモリのビーストハーフだ」
「イモリのビーストハーフ?」
 アークの中でも見られないビーストハーフの種族に、眉をひそめるリベリスタ。
「希少なビーストハーフさ。冷たい黒地の肌に黄色い斑点が特徴だ。まぁ、それは瑣末。彼は拳に炎を纏わせて近くにいる人間を殴ってくる。クリーンヒットすれば身体が炎に包まれるだろうね。武術の心得もあるので、その気になれば一度に複数人を殴ってくる。
 あと女性のE・フォースを一体連れている。目に見える全ての相手を呪い、ツキを落とすみたいだ。思念体ゆえに物理攻撃は素通りする。
 端的に言えば強い。フィクサード組織一つを壊滅させるぐらいには」
 伸暁の言葉にブリーフィングルームが静まり返る。言葉が皆に浸透したのを確認して言葉を続けた。
「今回の任務は阪木の捕縛だ。生死は問わない。
 阪木は辺りを燃やしながらリーダーを炙り出そうとする。そうなれば『ナインブレイド』と無関係な人も巻き込んでしまう。阪木はそれを理解しながら、あえてそれを行う。文字通り、復讐に燃えている彼に説得は通じないとおもってくれ」
「『ナインブレイド』のリーダーは?」
「そっちは別部隊が捕縛する。気にしないでくれ。
 心情的にこのまま彼に仇を討たせたくはあるが、そのために無関係な人間が犠牲になるのは問題外だ」
 伸暁はかつての同僚に思いを馳せる。プロト・アーク時代、アーク始動にむけて辛苦をともにした仲間。始動時にはすでにアークを去っていたが、共に過ごした日々の彼は悪い奴ではなかった。
「彼を止めてくれ」
 短く、しかし思いを込めてフォーチュナはリベリスタたちを送り出した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月23日(月)22:41
 どくどくです。
 人の数だけ正義があるといいます。ですが正義の数だけ悪もあるわけでして。
 アークにとっては紛れもない『悪』をお送りします。

◆成功条件
 阪木の捕縛。生死は問いません。
 エリューション・フォースに関しては成否の条件に含みません。

 場所は繁華街。時間は夜。
 炎上しているビルを中心に強結界がかかっているため、ビルの周りに人はいません。強結界のため消防車が近寄れず、ビルの炎は止まることがありません。このままだと火は他のビルに燃え移りますが、リーダーの退路を制限する為に、阪木はこれを解除するつもりはありません。
 急いでいけば、リーダーを追うためにビルから出てきた阪木に遭遇することができます。

敵情報
●阪木・竜一
 ヤモリのビーストハーフ。25歳。『ナインブレイド』と交戦後のため、かなり傷ついています。ですがまだ戦闘可能です。
『ナインブレイド』壊滅のために全てをかけています。そのためにはなにを犠牲にしても構わない。それを止めるものもまた、彼の敵です。
<攻撃方法>
超反射神経:ビーストハーフの専用能力です。PCたちが持っているものと同じです。
火の舞:物近範 流れるような動きで近くにいる敵全てを殴ります。火炎効果
炎の拳:物近単 炎を拳に集中させ、相手を穿ちます。高火力。業火効果
強結界:半径200m内に用のない人間は近寄れなくなります。
熱視線:対象を熱源で感知、知覚する事ができます。
ハイバランサー:優れた平衡感覚を持ってます。
面接着:壁や天井に張り付いて移動ができます。

●エリューション・フォース
 阪木の傍に立つ20歳前半の女性。阪木の姉である阪木和美がエリューション化したものです。阪木の傍から離れることはありません。
 言葉を発することはなく、ただ悲しげに阪木の復讐に付き添います。ですが弟に敵対する存在には容赦しません。
<攻撃方法>
幽霊の身体:物理攻撃無効。
呪います:神遠全 凍えるような殺気を向けて呪います。不吉付与。

●『ナインブレイド』のリーダー
 戦闘開始時点で街中を逃亡中。傷だらけで虫の息です。
 阪木を止めることができれば、別部隊が捕らえます。阪木を止めれなければ、彼に燃やされます。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
プロアデプト
★MVP
ラキ・レヴィナス(BNE000216)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
クロスイージス
英 正宗(BNE000423)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
覇界闘士
神狩 煌(BNE001300)
プロアデプト
七星 卯月(BNE002313)
マグメイガス
風摘 切朱鷺(BNE002358)

●炎が踊る
(復讐に正しいなどあるはずがない)
 言葉なく阪木を非難する『T-34』 ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)。彼は火気対策に用意した水で湿らせたマスクを装着し、口元を覆っていた。どのような理由があれ、それは暴力だ。それが認められていい道理などあるはずがない。
「復讐の為だけに力を使うだなんて、絶対に間違ってるよ」
 復讐に取り憑かれた阪木と、憎んでいる男を重ねる『灼焉の紅嵐』神狩 煌(BNE001300)。その手段が間違っていることを拳で教えてやる。そう意気込んで燃えるビルを見た。
「復讐か。そういう事になった事がないから、理解は出来ないが……」
 親しい者を傷つけられれば、怒りはする。それは理解出来る。『Digital Lion』 英 正宗(BNE000423)は阪木の行動を理解しようとする。喪失。大切なものは失ってはじめてわかるという。その悲しみは、失った人にしかわからない。しかし――
「……とは言え、被害が大きすぎるか」
 ビルの火災は止まらない。それを放置すれば辺り一帯を巻き込む大火災に繋がりかねないのだ。それは止めなくてはいけない。
「イモリのビーストハーフねぇ……。
 めんどくせぇが、希少価値のある種族だってんなら捕まえてアークに送り届けてやるよ」
『白鬼行殺』 風摘 切朱鷺(BNE002358)は相手の種族を思い出し、面倒くさそうに口にした。最も、捕縛が無理なら仕方ない。可能な限り捕まえたいのだが、その覚悟も必要なのだ。
(復讐……か)
『アンサン・ヒーロー』 七星 卯月(BNE002313)は思う。自分は大切な何かを失ったことはない。だから理解し難い感情だ。
(……この表現は正しくないね。失った経験はあるのかもしれないけど、覚えていない、かな)
 そこまで考えて思考を止めた。どうあれ目的は変わらない。一般人への被害阻止、その為に全力尽くす。
 そして目的地にたどり着く。燃えるビルは、まさに炎の柱。轟々と天に向けて燃えるビルの入り口に一人の男とエリューション・フォースの姿が見える。
 阪木竜平。黒地の肌に黄色い斑点を持つイモリのビーストハーフ。阪木竜平。そしてその姉の姿を模すエリューション・フォース。
 竜平はやってきた8人のリベリスタに顔を向ける。退け、と無言で圧力を放つがそれに屈するリベリスタではない。
「復讐の為に鬼と化す、か――青二才め」
『泣く子も黙るか弱い乙女』 宵咲 瑠琵(BNE000129)は竜平に向けて言葉を告げながら、結界を展開する。竜平が結界解除時に野次馬に紛れて逃げるのを封じる為だ。阪木は展開されたスキルと、自らの行為が予測されたことに驚く。
「ナインブレイドのリーダーは我々アークが保護した。俺達は、お前を倒すために来た。大人しくしてもらう」
『捜翼の蜥蜴』 司馬 鷲祐(BNE000288)は竜平に向けて静かに告げる。相手に同情できないわけではない。だが認めるわけにはいかない。悪鬼羅刹の言葉心地に酔いしれて自分を諦める。そんな行為を。悲劇のヒーローは、ここで幕引きだ。
「アークか」
 彼はどこか懐かしむように言い、そして頭を振る。もはや戻れぬ道に決別するように。
「ナインブレイドのリーダーは私たちが殺す。そこをどけ」
「復讐なんて無意味でくだらねぇ、だからやめちまえ。……とは言わねぇぜ。いや、言えねぇさ。だが、復讐の炎に飲み込まれて、大切なもんまで見失ってんじゃねぇよ!」
 ラキ・レヴィナス(BNE000216)は竜平の傍らにいるE・フォースを見て言う。それが阪木和美――竜平の姉だというのなら、果たしてどのような思いでそこに立っているのだろうか?
「何を失おうがかまわない。アイツを殺す」
 言葉だけでは竜平の心は止まらない。ならばぶっ飛ばしてでも止めてやるからな! ラキは機械化した右腕を握り、臨戦態勢をとる。
「何を言っても……か。是非もないな。済まんが、ここで止めさせてもらうぞ!」
 携帯電話に似た正宗の幻想纏いが光を放つ。それに呼応して他のリベリスタたちも各々の武装を展開した。竜平も拳を構え、前に進む。
 炎は、おさまりそうになかった。

●イモリのビーストハーフ
「任務を遂行する」
 ウラジミールは世界から力を借り受け、自らの生命を継続的に癒していく。長期戦になる事を予想しての準備だ。
 卯月はテレパスを使って、皆に支持を与える。最適な場所で最適な戦術を。効率よい戦略は、高い戦闘効果を生んだ。同時に集中力を高め、気糸を竜平に向かって解き放った。
「復讐して、どうするつもりだったんだ」
「さぁな。考えたことはない」
 鷲祐は竜平に問いかけながら、エリューション・フォースの背後を取り、その視線から逃れようとする。そうしながらすばやい動きで竜平の隙を突いて二本のナイフで彼を攻めた。高速で放たれたナイフが竜平の肌を裂く。
 鷲祐はそのまま攻めようとして、エリューション・フォースの視線を感じた。身体の向きを変えるだけで、背後も視界に収めることができる。視界から逃れることは無理か、と悟る。
「自分のやってる事が分かんねえならこれで教えてやる!」
 煌は拳に炎を纏わせ、思いとともに殴りつける。理由があろうが正義があろうが、やっていることはただの暴力だ。
「復讐? 結構じゃねーか。勝手にやってろ。俺がお前に立ち塞がるのは、ただの八つ当たりみてぇなもんだ」
 切朱鷺がはなった稲妻は竜平の目の前で爆ぜ、共にいるE・フォースを巻き込んで荒れ狂う。その身体に帯電する雷を振り払うも、ダメージは軽くはない。死してなお共にある姉弟。それを見て切朱鷺は言葉なく思う。
(にしても死者と一緒に復讐って、竜平はどんな気持ちなんだろうねぇ)
 言葉なき問いかけに答えはない。問いかけても竜平自身答えられないだろう。
「復讐は一向に構わぬ。じゃが、やり方が問題なのじゃ」
 見た目こそ幼いがかなりの年齢を重ねてきた瑠琵は、静かに復讐を認めたうえで竜平の行動を否定する。複雑に指を動かして印を結び、言葉と放つと同時に仲間達の身を守る防御結界を展開した。
 リベリスタたちは竜平達を逃がさぬように包囲網を敷く。ラキ、鷲祐、正宗、煌の4人が包囲しながら逃亡を塞ぐためだ。
 煌と切朱鷺はそのまま前の通りに誘導しようとするが……ただに移動しようとすれば竜平がその隙間から逃亡する恐れに気付き、足を止めた。
「先も言ったが『ナインブレイド』のリーダーはアークで既に捕縛したのだよ。
 こちらの要求を呑んだ上での戦闘に勝てば『ナインブレイド』のリーダーと会わせる、というのはどうかね」
「アイツを捕らえたという証拠を見せてもらおうか? 口だけでは信用できん」
 卯月も交渉して場所を変えようとするが、それも通じない。
 竜平は一瞬脱力したように身をかがめると、流れるような動きで包囲している4人に拳を振るった。炎を宿した拳が脚が流れるように叩き込まる。
「ちょっとやそっとじゃ、倒れてやらん!」
 正宗がまとわりつく炎を意に介さぬとばかりに吼えた。しかし――竜平の拳自体は消して軽いものではない。煌に自動回復の加護を授け、経戦能力を高めていく。
「では倒れるまで穿つのみだ――姉さん」
 竜平の傍らに立つエリューションは、人の可聴域を超えた音波を発する。聞こえないけど存在する呪いの声。それはリベリスタたちの眼に見えぬ運を汚していく。
 炎は、まだとまらない。

●E・フォース
<和美、お前は今の竜平の姿を見て、如何思ってるんだ?>
 ラキは攻撃の手を止め、ハイテレパスで竜平の傍らに立つ思念体に語りかける。言葉が喋れなくてもこれなら意思疎通はできる。
「貴様、何を――」
「貴男には聞いてはいない。自分たちは阪木和美が復讐を頼んだのかを本人から聞きたいだけだ」
 ラキの行為を不審に思った竜平を、言葉で制するウラジミール。そんなやり取りの中、ラキの心の声は和美に響いていく。
<オレにはお前が復讐の念に囚われてるようには見えねぇ。もし、お前も今の復讐に駆り立てられた竜平が良いとは思ってねぇんなら、オレ達だけの言葉じゃ届かねぇ。止めるために力を貸してくれ>
 和美の口は開かない。ただ緩やかに思念がラキの心に届く。
<りゅーへーが……怖くなるのは……イヤ>
 それは復讐に燃える弟を止めてほしいという意図。
<でも彼らは……許せない……。あなたたちが……彼らを殺してくれるのなら……協力する……>
 しかし彼女は復讐に心奪われた存在。その思いゆえにエリューションとなりここにいるのだ。
「ふん、どうやら和美は復讐というなの亡霊のようじゃな」
 伝わった言葉をラキが皆に伝え、瑠琵が嘆息と共に天より雨を降らす。魔的な雨は竜平と和美、そしてわずかながらビルの炎を冷やしていく。心境がどうあれアークとして和美は放置はできない存在なのだ。
「……愛しているんだな、弟を。だが、自分を顧みないようでは弟も堕ちるだけだ」
 鷲祐は阪木姉弟の姉弟愛を思い、しかし辛辣に切り捨てる。それはまだ戻れる可能性のある弟の為か。
「竜平殿が苦しむのを見ていることしかできぬのではないかね?」
<りゅーヘーが……苦しむ……>
 和美が揺れる。ラキが伝えたウラジミールの言葉によって生まれた動揺の色。
「姉さん、惑わされるな! 俺は苦しんでなんかいない!」
「うるせぇ、この石頭!
 ずっとお前の側にいて、お前のことを心配して……。お前の炎が誰を一番苦しめてんのか、いい加減気づきやがれ!」
 ラキは動揺によって生まれた竜平の隙を突く。姉の弟に対する愛。弟の姉に対する愛。そしてそれゆえのズレ。竜平の動揺を生んだその行為は戦闘論理者たるプロアデプトゆえか――否、ロマンチストのラキ・レヴィナスゆえか。

 だがしかし、この一撃は戦闘の勝利に直結するものではない。
 炎は、まだ消えない。 

●リベリスタ
 炎の拳が流れる。右に、左に、縦に、斜めに、突く様に。
 怨嗟の音が響く。耳に、脳に、心に、魂に。
「危ない、煌!」
 正宗が煌に向かって跳ぶ攻撃を庇う。高い防御力を持つ正宗だが、連続で攻撃を受ければさすがに疲労の色も濃い。
 予定では自動回復の加護を前衛に与える予定だったが……かばうことを重視すれば他の行動はできなくなる。
 ウラジミールが代わりにラキと鷲祐と卯月に自動回復の加護を与えるが、その分出遅れてしまう形となった。
「英、オレのことはもうかばわなくていい!」
「しかし……」
「和美の攻撃は防御して耐えるから」
 心霊的な攻撃への防御が甘い煌は、エリューション・フォースの攻撃は防御して耐えようと防御の構えを取る。が、防御に徹すれば自然と攻撃の手も止まる。 
「どうした? 私を止めるのだろう。そんな生半可な攻撃で止めれると思ったのか」
 そしてリベリスタたちの拳には加減があった。殺さずに生け捕りにしようという心。それが攻撃の手を弱めていた。
「く……。回復が追いつかぬ」
 瑠琵は余裕があれば和美への攻撃を行おうと思ってたが、その余裕がない。回復の札を仲間に貼るが、それ以上の勢いで炎と呪いが跳ぶ。
 最後まで待機していたウラジミールが炎と呪いを撥ね退ける光を放つ。数名の炎と呪いの声を打ち消すことはできるが、全てを消すにはいたらない。
 リベリスタたちは少しずつ押され始めていた。
 竜平に火力を集中させていたことにより、和美への攻撃がおろそかになる。戦場全てを射程に収める彼女の放置は、少しずつ全員にダメージを蓄積する結果になる。
 回復よりも攻撃力によっているメンバーゆえに、竜平の集中砲火は巧手である。一気呵成に攻め立てれば、勝機は充分にあった。
 しかし和美説得による攻撃の停止や、殺さぬように手加減するなどの精神的なストッパー。そんな小さな足止めが少しずつ重なり、穴となってそこから勝機がこぼれ落ちていく。
「誰の為でもねぇよ、俺は俺の為にテメェを止める」
 生きて捕らえるのが難しいと判断した切朱鷺は魔方陣を展開し、竜平を殺すために魔力弾を放った。殺気のこもった一撃はイモリの肌を穿つが、致死にはいたらない。
「……ぐっ……!」
 そして幾度目かの炎の拳により鷲祐が膝を折り、倒れる。
「他の誰かが同じ不幸に遭わないように、大切なこの世界を守りたいって思うから戦うんだ!」
 私欲に堕ちたお前は決して強くない。煌は思いを炎に変えて、拳に乗せて竜平にぶつけた。竜平の顔にクリーンヒットするが、お返しに炎のストレートパンチが飛んで来る。その一撃を受けて、煌も倒れた。
「そうか。そのまっすぐな気持ちを忘れずに前に進んでくれ」
「自分は身内も含めて目の前で数え切れぬほどの人が殺されているよ。
 だが、それを言い訳に復讐者にはなれん」
 空いた前衛を埋めるようにウラジミールが接近し、淡々と竜平に言葉を発する。40年近く生きたロシヤーネの人生がその中にある。それを受け、竜平は静かに答える。
「ならば笑うがいい。私はたった家族3人を殺されて復讐者となった愚者だと」
「まだ……まだだ……!」
 倒れてやらん。その宣告どおり正宗が運命に逆らうように立ち上がり、壁となって竜平の前に立ちふさがる。
「接近戦は怖いが、まぁしかたない」
 魔力の尽きた切朱鷺も、いつの間にか前に出てきている。炎を防ぐ術はあるが、もとより体力不足。竜平の拳相手にどれだけもつかわからないが、ここで引く理由はない。
「仕事とは別に『彼を止めてくれ』と頼まれてるのじゃよ」
 瑠琵は伸暁が漏らした言葉を思い出しながら、符を構える。肩で息をしながら、しかし心はまだ尽きていない。
「ならば止めてみよ。この炎を」
 
 炎はより激しく燃え上がり――

●復讐の炎
 消防車のサイレンが響く。
 事前に消防署に連絡していた事もあり、火災は鎮火の方向に向かっていた。
 あの後、竜平は切朱鷺を地に伏してビルの壁をまるで床のように歩いて逃亡した。それを追うにはリベリスタたちは、傷つきすぎていたのだ。
「お主は本当に復讐の為だけにアークを去ったのかぇ?」
 瑠琵の問いかけに一瞬足を止めるが、しかし竜平と和美はそのままアークに背を向け、そのまま闇に消えていった。

 消防車のサイレンが響く。
 消防署へ事前に通報してあったこtもあり、ビルの火災は鎮火の方向に向かっていた。被害は予知されたものよりも少なくなるだろう。
 そして繁華街の中にあった一つの死体。『ナインブレイド』のリーダーのものだ。
「復讐の炎、消すことできなかったね」
 煌は炎の拳で心臓を穿たれた死体を見下ろしながら、静かに呟いた。
 痛む身体を押さえながら帰路に着くリベリスタたち。もうこれ以上ここにいても仕方ない。
 口の中に広がる苦い味は、血の味だけではなかった。

 炎は、消えることなく燃え続けていた。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 どくどくです。
 まずはオープニング文章とシナリオの詳細で、敵の名前が間違っていたことをお詫びいたします。申し訳ありませんでした。

 では判定の理由を。
 誘導は竜平逃亡防止のキーでした。皆様の予想通り面接着の逃亡は隙あらば敢行するつもりでしたので。
 誘導に関する具体的な案があれば、誘導されたかもしれません。ただ「誘導する」ではリベリスタたちと交戦を重視するわけではない竜平を動かすには至りませんでした。

「かばう」「全力防御」は戦闘における主な行動です。いわば「攻撃を放棄して」行う行動なのです。
 かばいながら攻撃はできませんし、全力防御しながら攻撃はできません。
 結果として攻撃手が減る形となります。集中砲火作戦においてこれはよろしくないということで、きびしい判定をさせていただきました。

 後は阪木に対して「できるなら殺さないよう加減する」というプレイングです。
 非殺はすばらしい信念です。しかし加減する以上、精神的な枷がかかるもの。その枷もわずかながら判定理由に含ませていただきました。
 どくどくは信念を貫くことを悪いとはいいません。むしろすばらしいことです。
 ただそれを貫く以上、障害もあるのです。それを乗り越えてなおその信念を貫けるなら、それこそ真にすばらしいことと思います。

 そしてMVPは和美に説得を敢行したラキ様に。結果として説得は通じなかったのですが、彼らの心に確かに「何か」を刻みました。

 文中にも書きましたが、一つ一つは小さなことです。ただそれが重なり、今回のような結果となりました。
 
 それではまた三高平市で。