●百人隊長の許 10人で隊を作り行動していた兵士達は、隊長の号令を受けて一斉に隊列をくずした。 隊長の前へと集合し、整列すると直ちに点呼を開始する。 全員が同じように短めの剣を持ち、盾を構え革鎧を纏い、そして投槍を持っている。 彼らの前に立つ隊長も、少々拵えが良いというだけで身につけた装備はほぼ同じだった。 統制の取れた兵士達の一隊はしかし、全員が生きている存在ではなかった。 世界から逸脱した力によって生まれ、そのまま進めば……やがて世界を壊す存在。 隊長が剣を掲げるのに合わせるように兵士達は声を発し、同じように剣を高く掲げる。 掲げられた隊長の剣が、光を浴びて静かに輝く。 その剣はかつて、こう呼ばれる物のひとつだった。 『百人隊長の剣』 ●集団戦闘 「『百人隊長の剣(グラディウス・ケントウリオ)』と呼ばれるアーティファクトは幾本か存在してるみたいです」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう説明して、ディスプレイに1本の剣を表示させた。 表示された両刃の剣はやや小ぶりで、装飾等はなく実用一点張り……シンプルだが扱い易そうな作りに見える。 「剣の能力は、持ち主の力量に応じて幻影の兵士を召喚し、戦わせるというものです」 持主の力が弱ければ現れる兵士は弱く、そして人数も数人程度。 だが、強い力を持ちエリューション的な力を持つリベリスタやフィクサードが持てば、熟練の兵士が多数……最大で100人の兵士を作りだす事ができるという。 もちろん扱える力が大きくなれば持主の消耗も大きくなるようだが。 「実はその内の1本が発見されたんですが……」 E・ゴーレム化してしまっていたみたいなんです。 マルガレーテは説明した。 剣はエリューション化し、一人の戦士……隊長となって兵士達を召喚し、率いているという。 本来なら持主に応じて1種の兵士が召喚されるらしいのだが、今回は3種の兵士が召喚され混成部隊のようになっているのだそうだ。 「今はまだ人の居ない場所を行進したりしているだけですが、フェーズが進行すれば人の多い場所を避けたりはしません」 現状のままでも偶然遭遇した人や生き物が襲われる可能性があります。 「ですので、皆さんにこのエリューションを撃破して頂きたいんです」 今回は敵も多いので、かなり多めのチームで担当して頂くことになります。 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタたちを見回してから、詳しい説明を開始した。 問題のE・ゴーレムと率いられた兵士の隊は、開けた平地のような場所に出現するらしい。 「今回は皆さんに、こういう感じで並んで頂きます」 そう言ってフォーチュナの少女は5つのチームが横一列に並んだ感じの図を表示させた。 「この平原でこういう感じで並ぶと、それに応じるみたいな感じで兵士達の集団が現れて、同じように陣形を取ってきます」 スクリーンの画像が、2つの集団が向かい合うようなものに切り替わる。 「この状態になれば、ゴーレムと兵士の集団は逃げようとはしません」 全力で襲いかかってきますと彼女は説明してから、全てを倒すことも可能だと思いますが隊長であるE・ゴーレムを倒せれば作りだされた兵士達は全て消滅するとも説明した。 「勿論どちらにするか、両方を視野に入れるか等は、現場で戦う皆さんにお任せします」 そう言ってから彼女は続いて敵の戦力について説明する。 「アーティファクトの力で作りだされた兵士の数は全員で100人です」 それに隊長であるE・ゴーレムを加えた合計101人、101体が今回の敵の総数となる。 「兵士は大きく分けて3タイプが存在します」 『ハスターリ』と呼ばれる兵士はフィジカル重視で主に先陣を務めてくる。 古代ローマでは若者たちが担当したらしい。数は40人。 『プリンチペス』と呼ばれる兵士はフィジカルとテクニックのバランスの取れた主力だ。 古代では30代の大人たちが担っていたようである。数は同じく40人。 『トリアーリ』と呼ばれる兵士たちはテクニック重視のベテランたち。 古代では少々体力は落ちたものの経験豊富な壮年達に後詰めや最後のひと押しを託したらしい。此方の数は20人。 「武装は全員同じみたいです」 剣と楯を装備し、革鎧を纏い兜をかぶり、投槍を装備しているらしい。 投槍の数は、ハスターリとプリンチペスが2本。トリアーリは1本。 「戦法は遠距離攻撃可能な距離まで接近して一斉に投げ槍で攻撃した後、接近戦に移行するという形みたいです」 少数の隊に分かれ連携を取りつつ機敏に動きまわるというのが彼らの戦術である。 隊内はもちろん、隊同士も隊長の指揮の下で連携を取り合い戦闘を行うようだ。 攻撃を集中させたり仲間同士で庇い合ったり、余力があれば包囲を試みたり……人間ではないが、戦いに対する判断力というものは決して侮れない。 「1つの隊は10人の兵士で構成されているみたいです」 本来は全員同種らしいのだが、今回はハスターリとプリンチペスが4人ずつ、トリアーリが2人ずつという混成部隊。 これが10隊集まって合計100人。 リベリスタたちに合わせるように5隊が横一列に並び、その後ろに残りの5体が同じように横一列に並ぶという陣形を取ってくる。 「それを率いる隊長、E・ゴーレムは能力の取れたバランス型のようでした」 突出して優れた能力は無いが、大きな欠点も存在しないという堅実な存在のようだ。 こちらは投槍は装備しておらず、攻撃は近距離攻撃のみとなっている。 「ただ、戦闘指揮のスキルに似た能力を持つみたいで、近くにいる兵士達の戦闘能力が少し上昇するみたいです」 戦闘に関する知識や判断力を持ち、言葉の使用も可能なようだ。 ただ、知性のある生き物という訳ではないので交渉や説得等には当然応じない。 「混乱したり魅了されたり……あと、怒りに我を忘れるみたいなこともないみたいです。あ、兵士達の方もそういった精神的な力を受け付けないみたいです」 E・ゴーレムは最初は中央後方の隊に位置しているが、戦況を確認し指示をしながら隊を移動していくようである。 「どう移動するかまではちょっと分かりませんでした……」 すみませんとマルガレーテは申し訳なさそうに謝った後、ゴーレムの性格の方は勇敢だがある程度の冷静さを持った武人みたいですと言って敵の説明をしめくくった。 ●中央右・第4小隊 「ここからは各小隊毎に説明させて頂きます」 マルガレーテはそう言うと、集まったリベリスタたちの一隊、第4の小隊に向かって説明した。 「皆さんに担当して頂くのは中央右側、左から数えて4番目の位置になります」 左隣が中央、右隣が右翼のこの小隊も、どちらかといえば両隣の隊の援護をする形になる可能性の高い小隊である。 「右翼が側面を守ってくれるなら中央と共に正面突破を目指し、右翼が動くなら全体の右端を守る……みたいなのが基本だと思います」 正面突破を目指す場合に大事なのは、やはり攻撃力という事になるだろう。 早期に敵を撃破できれば、それだけ右翼が単独で複数の隊と戦う時間を減らす事ができる。 対して全体の右端を守るという事になると、防御や回復の力が大事になる可能性が高い。 もっとも、攻撃こそ最大の防御という事で攻勢に出るのも危険要素は増えるかも知れないが間違いとも言い切れない。 敵の数が減少すれば総合的な攻撃力が減少するのもまた事実だからだ。 「もちろん、他にも様々な動き方、作戦はあると思います」 とはいえ正面から敵が中央突破を狙って前進してくるという事を考えると、完全に独立して動くというのは位置的には難しいと言える。 何らかの手段を講じない限り敵の前進を中央の隊だけで止めるというのは……不可能に近い。 だからこそ、第2、第3、第4の3つの小隊に中央という文字が振られているとも言える。 「もちろん何らかの作戦があるのでしたら試してみるのも選択肢の1つだと思います」 どうするのかを決めるのは、小隊を構成する8人次第だ。 敵の能力は決して複雑というほどではない。 個々の能力も弱いとはいえないが、強力という程ではないだろう。 問題なのは、唯……その数だ。 「とにかく、隊長であるゴーレムさえ何とかできれば大丈夫ですので」 E・ゴーレムはアーテクファクトそのものでもある。 倒せばアーティファクトも壊れ、力を失ってしまうだろう。 だがこのままでは、誰かが、何かが傷付き、世界も傷付いていってしまうことになる。 「色々考える事は多くなってしまいますけど……どうか、宜しくお願いします」 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタたちを見回すと、手をそろえ大きく頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月06日(金)00:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●睨み合い 「聞こえるか……貴様らを滅ぼす蹄の音を」 我ら第四、騎馬部隊としての参戦ぞ。 圧倒的な、力を持たぬ者の視線を引き付けずにはいられぬ気配を漂わせながら『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)が口にする。 (さも合戦の様相だな) その姿をやや離れた後背より仰ぎながら『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は小さく呟いた。 さすれば我々の勝利は揺るがないだろう。 「我々には精鋭が揃い 敵は一平卒で構成されている」 我々には王が居り 敵は高々百人の長。 勝利は火を見るより明らかだ。 「だが油断は出来ない」 数で押すは戦場の基本。 そしてその数を活かす術を、敵は心得ている。 本物ではないとは言え、相手はローマ軍団の背骨とまで謳われた叩き上げ達の姿を模したエリューションだ。 もっとも、この場の全員、負ける気など欠片もない。 事前に確認した情報は可能な限り連絡し、他隊との情報交換は済ませてある。 「彼らに勝利を」 『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)がこの戦場にいるのはエリューション退治という理由もあるが……一番は戦友のためだ。 「そのためにも、全力で自分の役割をこなそう」 「カンネーの戦い、再びとなりますか」 兵装を白銀で纏めた『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)も誰に言うでもなく呟いた。 「うーん……壮っ観ですねえ……」 欧州でもなかなか見なかったですよ、この数は。 目前にて隊列を整えた兵士たちを眺めながら、ユーキ・R・ブランド(BNE003416)は素直な感想を口にする。 「ここまで整った陣営ですと、なにやら胸を借りる気持ちにもなりますねえ」 「もう少し地力をつけてからならこういう戦いもわりと歓迎だったんだけど」 (まあ、それは私の都合ね) リリィ・アルトリューゼ・シェフィールド(BNE003631)は呟いてから、とにかく私は今できることをするのみよとつけ加えた。 『求道者』弩島 太郎(BNE003470)がこの戦いに思うことがあるとすれば、それは唯一事。 足並みを揃えられなくてすまないという思いだけである。 (ただ、苦手なのだ。乗り物全般が) それ以外には……特段思うことも、なく。 「俺はただ、一兵として成すべき事を全力で成す」 それだけだ。 一方で『鋼鉄の信念』シャルローネ・アクリアノーツ・メイフィールド(BNE002710)は敵の様子を見ながら考えこむ。 小隊を組んでの集団戦。 「ふむ……アークの任務としては比較的珍しい」 少数精鋭で挑む任務とはいささか勝手が違う。 だが、死力を尽くし己が役割を全うするという点は変わらない。 「どのような任務でも己が力を発揮する為の訓練も怠っているつもりはない」 己が役割を全うし、勝利を収める。 「この剣に約束しよう……我と三十九の英雄、その完全なる勝利を!」 響く声で刃紅郎が宣言するのを見届けると、ユーキは静かに口にした。 「それでは、いざ」 ●宣戦布告 刃紅郎は名乗りの後、皆の準備の時間稼ぎを兼ね投槍の、つまりは自身の疾風居合いの間合いまで距離を詰めた。 宣言するように獅子王「煌」を振るい真空の刃を放つ。 「さあ当ててみろ、だが我とて早々に倒れる心算は無い!」 反撃を望むかのように言い放てば、それに応えるかのように攻撃を受けた兵士が、同じ隊の兵士たちが投槍を放った。 内、熟練兵の放った数本が刃紅郎を傷つける。 少々過激な宣戦布告は終わり、刃紅郎は隊の許へと戻り第4小隊は一旦後退した。 交代するように左隣に位置する第3小隊が前進し始める。 敵の中央はその第3小隊に向かったが、刃紅郎と相対した第4正面の隊はそのまま第4小隊と雌雄を決そうと言わんばかりに直進してきた。 反対側、第2の正面に位置する敵の隊は一部が中央へと誘き寄せられる形になっているようである。 刃紅郎の宣言が敵への牽制となったといえよう。 それがどのような結果をもたらすのかを此の時点で知る者は当然いない。 戦いは第3小隊と敵中央の攻撃によって幕を開けた。 ある程度の敵を誘引しつつ、第3小隊は徐々に後退していく。 それを確認した第4小隊も、戦いを開始すべく正面の敵と距離を詰め始めた。 「状況は整いました 勝利を勝ち得に向かうとしましょう」 雷慈慟の言葉に刃紅郎が鷹揚に頷いてみせる。 彼が単騎進み敵兵の注目を集めている間に、既に戦の準備は整えられていた。 クリスは回復役として敵後方の射程外、狙われ難い後衛に位置を取る。 太郎は後衛でマナサイクルによって活性化させた体内の魔力を循環させており、リリィも後衛でマナブーストを使用して活性化させた魔力を増幅した後に、攻撃の精度を上げる為の集中を開始する。 ユーキも全身から漆黒の闇を生みだし、無形の武具として身に纏っていた。 全身のエネルギーを防御に特化させ身に纏っていた真琴は、刃紅郎を最優先に前衛たちへと、世界から借り受けた癒しの力を付与していく。 両隊の距離は、詰まっていく。 敵兵は一行を仰ぎつつ臆する様子もなく前進してきた。 幾人かは槍を構え、投擲する姿勢を取っている。 一番不味いのは投槍に紛れて敵の前衛がこちらの後衛まで抜けてくることだ。 ユーキはそう考えていた。突破される事だけは絶対に防がねばならない。 防御の姿勢を取りながらも、彼女は敵前衛の動きを観察した。 真琴も投槍の一斉攻撃に耐えるべく、全力で防御の体勢を取る。 互いの遠距離攻撃が届く距離となり、戦いは始まった。 ●攻防始まる 兵士たちは一斉に槍を投げ、あるいは剣を抜き前進してくる。 投げられた槍が、前衛たち目掛けて降り注ぐ。 他の隊が受けた投槍攻撃に比べると、第4小隊の受けた攻撃の効果は小さかった。 最初の刃紅郎への意趣返しで槍を放ったトリアーリがいた為である。 前衛達は全員が攻撃を受けたものの戦闘を継続するには全く問題のない状態だった。 刃紅郎は一本を受けたものの直撃を避けダメージは小さい。 ユーキも同じく一本を受けたものの、こちらも直撃は避けダメージは軽微と言える。 真琴も同じく直撃を避けた上、彼女の防御力は絶対的だった。 守りの力によってダメージはかすり傷程度であり、オーラによる反射によって敵が受けたダメージの方が大きかった程である。 シャルローネは2本の直撃を受けたが、ただちに危険という程ではなかった。 「ちと雨がきつくて視界が悪いですが、後逸だけは防ぎませんとねえ」 敵の投槍攻撃が終わった事を確認したユーキは、次いで敵前衛の動きに警戒する。 抜刀した方の兵士たちは既に眼前に迫っていた。 だが、それよりも早く。 刃紅郎が大剣を手に相手の間合いを奪うように強引に前進すると、気合の声と共に強烈な一撃を兵士のひとりに向かって打ち込んだ。 複数の前衛たちが負傷していると判断した太郎は味方全体を回復させるために詠唱によって癒しの福音を響かせる。 傷がほぼ回復したと判断したクリスは、自身の攻撃が効果を発揮するようにと待機しながら戦況を窺う。 リリィは集中し狙いを定めた場所に魔炎を召喚すると、兵士達を巻き込むように炸裂させた。 (私が出来ることなんて一角を焼き尽くす程度だもの) 「だからその分、覚悟しなさいよ!」 短時間の集中では彼女の実力では直撃させるのはまだ難しい。 それでも今は手数を重視して。彼女は魔力を操り攻撃を続けていく。 ユーキは自分の生命力を暗黒の瘴気へと変換すると複数の兵士達に向けて解放する。 雷慈慟は練り上げた気の糸で兵士の一体を狙い撃った。 真琴とシャルローネは大きく振りかぶったそれぞれの武器に神聖な力を収束させると、目前の兵士に向かって振り下ろす。 ここで目前の敵をある程度潰せなければ他の小隊へのフォローが難しくなる。 (確実に数を減らしておきたいところだ) シャルローネは消耗を厭わず、再び武器に力を込める。 皆の攻撃を確認したクリスは、刃紅郎によって重圧を受ける兵士やユーキの放った暗黒によって不幸を植えつけられた兵士を目標に定めると、呪力によって疑似的な赤い月を創り出した。 それでも兵士たちは戦意を喪失する事なく武器を振るい、あるいは隊列の隙間を縫うようにして後衛たちに近付こうとする。 前衛だけでは止め切れぬと判断した雷慈慟が立ち塞がるように移動すれば、兵士は構えた剣を振るい雷慈慟と相対した。 戦いは次第に長期戦の様を呈し始めていた。 ●味方の苦戦、第4小隊の苦悩 刃紅郎は精度の高い攻撃を直撃させ、雷慈慟やユーキも適度に攻撃を命中させダメージを蓄積させていく。 真琴とシャルローネは相手の回避能力故に的確なダメージを与えられないと判断すると、それぞれ戦い方を変更した。 真琴は手数を減らして敵の動きに集中することで攻撃の精度を高めるように心掛け、シャルローネは命中と同時に気を送り込む土砕掌に攻撃を変更する事で、幅はあるものの確実にダメージを与えていく。 リリィは狙いを定め魔炎を召喚しつつ、敵が後衛まで達した場合はクリスを庇おうと警戒していた。 (回復役は戦場の要だもの。それに……何かよくない雰囲気がするし) 兵士達へのダメージは確実に蓄積していっていた。 だが、倒すには至らない。 もっとも戦況の方は第4小隊の側に有利に展開しているというのは揺るぎの無い事実だった。 前衛陣は高い防御力を持ち、真琴によって癒しの力も付与されている。 加えて後衛には2人の回復役が控えていた。 敵の攻撃は強力とまでは言えないが的確で、リベリスタたちの動きを注視し、可能な限り攻撃を集中させてくる。 決して油断のならない攻撃であることは間違いない。 だが、第4小隊の前衛たちの防御力と後衛の回復力によって、それらは脅威とまではならなかったのである。 クリスが赤き月を創り出すことが出来たという事が、第4小隊が安定して戦いを進めていた証といえよう。 真琴の纏ったオーラによる反射も、敵を負傷させるという点で堅実に効果をあげていた。 ただ、防御や回復に優れている分、どうしても他の面が弱くなる。 相対した兵士の一人が熟練のトリアーリと判断した刃紅郎は、早期に決着をつけるべく闘気を雷へと変換し渾身の力を篭めた一撃を叩き込んだ。 前衛を倒し切れないと判断した敵は、回復等を担当する後衛たちを叩こうと前衛たちの整えた隊列を何とか突破しようとする。 幾人かは後衛まで到達し、実際にクリスや太郎、リリィらに攻撃を行った。 それでも、受けた傷はただちにクリスと太郎の力によって癒された。 突破した兵士が単体であれば、癒し切るだけの力をふたりは持っていたのである。 「突き進め、雄雄しき勇者達よ。数多の槍を乗り越えて! 立ち上がれ、素晴らしき戦友達よ。勝利の栄光を我らが旗に!」 戦友の為に、高らかに。クリスが歌声を響かせる。 突破を敢行した敵は刃紅郎が闘気を篭めた獅子王を一閃し吹き飛ばす。 真琴は何より戦線の維持を心掛けできる限りの敵を前衛で止めようとし、シャルローネは消耗を気にせず気を送り込む掌打を放ち続ける。 そして雷慈慟は癒し手二人の消耗に注意しつつ力を消耗した他の者たちへも能力を使う力を付与していった。 ユーキも暗黒の瘴気を放つことで兵士達を攻撃し続ける。 最初に2人が倒れ、それ以降は……負傷の蓄積が限界を超えると、そこから次々と兵士たちは倒れていった。 もっとも、戦いは終わらない。 正面の敵の撃破には成功したものの、第4小隊は直ちに後続の敵小隊との戦闘に入ることになったのである。 この戦いも危険ではなかったものの、早期の決着は難しそうだった。 それは、AFによって連絡を取り合っている第4小隊の者たちにとって別の意味で問題のある推測だった。 この時、敵中央を引き付けながら後退する第3小隊と中央後背で敵と正面からぶつかった第1小隊の被害が蓄積し始めていたのである。 できるだけ急ぎ敵を撃破しなければならない。 そう思いはしても、直ちにそうすることは難しかった。 先程の戦いと同じように第4小隊は堅実にダメージを蓄積させていったが、一気に撃破する事までは出来なかったのである。 ●包囲挟撃作戦、始動 状況が一変したのは、第5小隊の援軍によってであった。 自分たちが相対していた敵を撃破する事に成功した第5小隊は、第4小隊と向かい合っていた敵小隊を側面から強襲したのである。 これによって戦いの趨勢は決した。 数人が中央へと合流したものの敵小隊は撃破され、これにより第4、第5小隊の担当していた側の敵部隊の撃破が完了したのである。 第4小隊は態勢を整えると第5小隊と並ぶように位置を取り、敵中央への攻撃を開始した。 第5小隊が敵中央側面の後方寄りに攻撃を仕掛けるのに対し、第4小隊は前方寄りへと攻撃を仕掛ける形になる。 (隊全体としては、脇の第三を突こうとする敵を迎撃するような形になりそうですが……) 「まあ、つまり。目の前で横腹晒している敵を食い破れと。ふふ、そういう風に言ってくれるとわかり易い」 ユーキは呟くと笑みを浮かべた。 もとより前衛の仕事は、ただ前に居る敵を討つ事のみ。 「仕事しますよー」 時を経て失せた無形の武具を再び生みだした暗黒によって作り出し、身に纏う。 太郎もマナサイクルを再度使用し、真琴も完全な防御態勢を立て直す。 第4小隊が敵中央へと攻撃を開始しようと刃紅郎を先頭に位置を取った時、第3小隊と敵中央の前衛部隊は乱戦状態に陥っていた。 前衛以外の兵士たちが攻撃に加わっていないのを確認した第4小隊は直ちに攻撃を開始する。 これによって敵の中央部隊は戦力の一部を第4小隊へと向ける形になった。 刃紅郎は前衛で敵を圧迫するように攻撃を仕掛けつつ、後方を狙って突破を試みようとする者には力を篭めた『煌』の一閃で吹き飛ばしを狙う。 太郎は皆の負傷を確認し、多数が傷付いている際には福音を響かせ、少数である場合はもっとも負傷している者に癒しの微風を呼び寄せることで消耗を抑えていた。 クリスは回復を殆んど太郎に任せ、不幸を呼ぶ月による攻撃を続けていた。 幸いなことに二人が回復を行わねばならない事態というのは殆んど発生していなかった。 赤月を創り出す能力の使用は彼女を著しく消耗させたが、それを補佐するように雷慈慟が能力によって力を分け与える。 リリィは魔炎を召喚し、ユーキも暗黒の瘴気で複数の敵を攻撃し続ける。 真琴は敵の動きを確りと観察しながら攻撃を行い、シャルローネは土砕掌で敵の守りを委細気にせず手数で敵を押していく。 続く攻撃によって押されるように、敵は僅かに後退していった。 本来であるならばこれによって第3小隊が足止めしている間に両側から側面攻撃を続け、敵を撃破しつつ隊長を探すという作戦だったのである。 だが、この時点で第4小隊と第5小隊が受け持っている側の反対、左翼側には第2小隊しか存在していなかった。 しばらくして、反対側の第2小隊が敵に狙われたらしいとの連絡が入る。 雷慈慟はAFにて確認し、結果として第1小隊が援護に向かうことになった旨を皆へと報告した。 ●仲間を信じ、為すべき事 第3小隊が百人隊長を発見したとの報が飛び込んできたのは、すぐ後だった。 第4小隊はそのまま前面の敵へと攻撃を続行する。 攻撃力に優れた個人はいても全体として第4小隊は回復力を持つ守りに優れた小隊だった。 局面を打開するという点においてはどうしても火力が不足してしまう。 味方の危機を知っても、直ちに援軍に向かう事はできなかったのだ。 包囲網を維持したまま援軍に向かおうとするのであれば、目の前の敵を倒すしかない。 刃紅郎は先頭となって攻撃を続け、集まった兵士に向かってユーキやクリスが攻撃を行っていく。 攻撃を続ける事で第4小隊は兵士達を自分たちの側に引き付けるという形で、味方の援護を行っていた。 その間に雷慈慟はAFで他隊の動向把握を怠らなかった。 第2小隊の援護によって第1小隊が第3小隊の援護に間に合い、百人隊長との戦いに望み……報告を聞きながら皆は眼前の兵士たちと戦い続ける。 それがほんの少しでも仲間たちの援護になると信じて。 そして……その時は唐突に訪れた。 戦っていた兵士たちが次々と、何も残すことなく消え始めたのである。 呆気ないほど簡単に兵士達全員が姿を消し、戦場だったその空間は違和感を感じさせるほどの静けさに包まれた。 一行のその先に、第3小隊と第1小隊の仲間たちの姿が見える。 皆が、特に第3小隊の者たちは満身創痍だった。 それでも、その顔には戦いの終わりを感じた何かが浮かんでいた。 顔を見合わせ言葉を交わし、皆が頷いてみせる。 戦いは終わったのだ。 40人の戦士たちは力を合わせ、唯ひとつの勝利を掴むことに成功したのである。 静まり返ったその平原が、彼らの、彼女らの勝利の……守り抜いた日常の、証だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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