●百人隊長の許 10人で隊を作り行動していた兵士達は、隊長の号令を受けて一斉に隊列をくずした。 隊長の前へと集合し、整列すると直ちに点呼を開始する。 全員が同じように短めの剣を持ち、盾を構え革鎧を纏い、そして投槍を持っている。 彼らの前に立つ隊長も、少々拵えが良いというだけで身につけた装備はほぼ同じだった。 統制の取れた兵士達の一隊はしかし、全員が生きている存在ではなかった。 世界から逸脱した力によって生まれ、そのまま進めば……やがて世界を壊す存在。 隊長が剣を掲げるのに合わせるように兵士達は声を発し、同じように剣を高く掲げる。 掲げられた隊長の剣が、光を浴びて静かに輝く。 その剣はかつて、こう呼ばれる物のひとつだった。 『百人隊長の剣』 ●集団戦闘 「『百人隊長の剣(グラディウス・ケントウリオ)』と呼ばれるアーティファクトは幾本か存在してるみたいです」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう説明して、ディスプレイに1本の剣を表示させた。 表示された両刃の剣はやや小ぶりで、装飾等はなく実用一点張り……シンプルだが扱い易そうな作りに見える。 「剣の能力は、持ち主の力量に応じて幻影の兵士を召喚し、戦わせるというものです」 持主の力が弱ければ現れる兵士は弱く、そして人数も数人程度。 だが、強い力を持ちエリューション的な力を持つリベリスタやフィクサードが持てば、熟練の兵士が多数……最大で100人の兵士を作りだす事ができるという。 もちろん扱える力が大きくなれば持主の消耗も大きくなるようだが。 「実はその内の1本が発見されたんですが……」 E・ゴーレム化してしまっていたみたいなんです。 マルガレーテは説明した。 剣はエリューション化し、一人の戦士……隊長となって兵士達を召喚し、率いているという。 本来なら持主に応じて1種の兵士が召喚されるらしいのだが、今回は3種の兵士が召喚され混成部隊のようになっているのだそうだ。 「今はまだ人の居ない場所を行進したりしているだけですが、フェーズが進行すれば人の多い場所を避けたりはしません」 現状のままでも偶然遭遇した人や生き物が襲われる可能性があります。 「ですので、皆さんにこのエリューションを撃破して頂きたいんです」 今回は敵も多いので、かなり多めのチームで担当して頂くことになります。 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタたちを見回してから、詳しい説明を開始した。 問題のE・ゴーレムと率いられた兵士の隊は、開けた平地のような場所に出現するらしい。 「今回は皆さんに、こういう感じで並んで頂きます」 そう言ってフォーチュナの少女は5つのチームが横一列に並んだ感じの図を表示させた。 「この平原でこういう感じで並ぶと、それに応じるみたいな感じで兵士達の集団が現れて、同じように陣形を取ってきます」 スクリーンの画像が、2つの集団が向かい合うようなものに切り替わる。 「この状態になれば、ゴーレムと兵士の集団は逃げようとはしません」 全力で襲いかかってきますと彼女は説明してから、全てを倒すことも可能だと思いますが隊長であるE・ゴーレムを倒せれば作りだされた兵士達は全て消滅するとも説明した。 「勿論どちらにするか、両方を視野に入れるか等は、現場で戦う皆さんにお任せします」 そう言ってから彼女は続いて敵の戦力について説明する。 「アーティファクトの力で作りだされた兵士の数は全員で100人です」 それに隊長であるE・ゴーレムを加えた合計101人、101体が今回の敵の総数となる。 「兵士は大きく分けて3タイプが存在します」 『ハスターリ』と呼ばれる兵士はフィジカル重視で主に先陣を務めてくる。 古代ローマでは若者たちが担当したらしい。数は40人。 『プリンチペス』と呼ばれる兵士はフィジカルとテクニックのバランスの取れた主力だ。 古代では30代の大人たちが担っていたようである。数は同じく40人。 『トリアーリ』と呼ばれる兵士たちはテクニック重視のベテランたち。 古代では少々体力は落ちたものの経験豊富な壮年達に後詰めや最後のひと押しを託したらしい。此方の数は20人。 「武装は全員同じみたいです」 剣と楯を装備し、革鎧を纏い兜をかぶり、投槍を装備しているらしい。 投槍の数は、ハスターリとプリンチペスが2本。トリアーリは1本。 「戦法は遠距離攻撃可能な距離まで接近して一斉に投げ槍で攻撃した後、接近戦に移行するという形みたいです」 少数の隊に分かれ連携を取りつつ機敏に動きまわるというのが彼らの戦術である。 隊内はもちろん、隊同士も隊長の指揮の下で連携を取り合い戦闘を行うようだ。 攻撃を集中させたり仲間同士で庇い合ったり、余力があれば包囲を試みたり……人間ではないが、戦いに対する判断力というものは決して侮れない。 「1つの隊は10人の兵士で構成されているみたいです」 本来は全員同種らしいのだが、今回はハスターリとプリンチペスが4人ずつ、トリアーリが2人ずつという混成部隊。 これが10隊集まって合計100人。 リベリスタたちに合わせるように5隊が横一列に並び、その後ろに残りの5体が同じように横一列に並ぶという陣形を取ってくる。 「それを率いる隊長、E・ゴーレムは能力の取れたバランス型のようでした」 突出して優れた能力は無いが、大きな欠点も存在しないという堅実な存在のようだ。 こちらは投槍は装備しておらず、攻撃は近距離攻撃のみとなっている。 「ただ、戦闘指揮のスキルに似た能力を持つみたいで、近くにいる兵士達の戦闘能力が少し上昇するみたいです」 戦闘に関する知識や判断力を持ち、言葉の使用も可能なようだ。 ただ、知性のある生き物という訳ではないので交渉や説得等には当然応じない。 「混乱したり魅了されたり……あと、怒りに我を忘れるみたいなこともないみたいです。あ、兵士達の方もそういった精神的な力を受け付けないみたいです」 E・ゴーレムは最初は中央後方の隊に位置しているが、戦況を確認し指示をしながら隊を移動していくようである。 「どう移動するかまではちょっと分かりませんでした……」 すみませんとマルガレーテは申し訳なさそうに謝った後、ゴーレムの性格の方は勇敢だがある程度の冷静さを持った武人みたいですと言って敵の説明をしめくくった。 ●中央・第3小隊 「ここからは各小隊毎に説明させて頂きます」 マルガレーテはそう言うと、集まったリベリスタたちの一隊、第3の小隊に向かって説明し始めた。 「皆さんに担当して頂くのは中央、左から数えるなら3番目の隊になります」 もちろん中央なので、右から数えても3番目になる。 「この隊は真正面から敵とぶつかりあう事になると思います」 その為、5つの隊の中では特にできる事が限られていると言える。 基本的には、正面の敵と戦うだけだ。 違いは攻勢に出るか、守勢に回るか……くらいだろう。 両翼が守りを固めてくれているという状況では絶対に攻勢に回らなければならない。 自分たちより多くの敵を両端の隊が押さえている間に一刻も早く中央の部隊で敵正面を突破しなければならないからだ。 中央突破する事で敵を分断できればその時点で敵戦力は大きく減少するだろうし、敵の連携を弱めることもできる。 逆に両翼が動いている場合……選択肢は分かれる。 堅実に行くなら守勢に回って敵の攻撃に耐えながら味方が側面や背面から攻撃するのを待つという方法がある。 防御や回復を重視すれば大きなダメージを受ける可能性はかなり低くできる筈だからだ。 ただ、敵にも余力が残る可能性は否定できない。 そうなれば両翼の隊に求められる判断力や分析力は自然、高くなる。 それらへの援護も兼ねて攻勢に回るというのも選択肢の一つだ。 敵の余力はなくなるし、上手くいけば他の部隊と敵を挟撃できる可能性も高くなる。 もっとも、危険度は比べものにならないくらい上がる事だろう。 両翼が動いていれば両隣、中央左右の隊は正面以外の敵も引き受けている事になる。 それでも攻勢に出るとなれば、中央の隊で出来るだけ多くの敵前面の戦力を引き受けなければならない。 加えて能力を攻撃重視で使用するなら受けるダメージも当然多くなる。 下手をすれば敵の攻撃に耐え切れなくなってしまうだろう。 中央が撃破、撃退されるような事になれば分断されるのはリベリスタの側という事になってしまう。 ……為すべきことは単純かも知れないが、だからこそ難しいかもしれない。 「もちろん、これらが絶対という訳じゃありません」 私には思いつきませんけど、様々な手段、動き方や戦法があるかもしれません。 フォーチュナの少女はそう言って、第3小隊の皆を見回した。 何ができるのか、何をするのか。 実際にどうするのかは、隊の全員で決める事だ。 敵の能力は決して複雑というほどではない。 個々の能力も弱いとはいえないが、強力という程ではないだろう。 問題なのは、唯……その数だ。 「とにかく、隊長であるゴーレムさえ何とかできれば大丈夫ですので」 E・ゴーレムはアーテクファクトそのものでもある。 倒せばアーティファクトも壊れ、力を失ってしまうだろう。 だがこのままでは、誰かが、何かが傷付き、世界も傷付いていってしまうことになる。 「色々考える事は多くなってしまいますけど……どうか、宜しくお願いします」 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタたちを見回すと、手をそろえ大きく頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月06日(金)00:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●それぞれの想いを胸に 「まさかこんな戦いが出来る時が来るとは思わなかった……」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)の一言には沢山の、言い表し切れないほどの想いが籠っていた。 「ローマ軍を模したような彼らとの戦い、歴史の浪漫を感じるね」 精強で油断ならない敵だ。 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が続けるように口にする。 ツァインはそれに頷いた。 同じような出で立ちで、きっと剣技も似てるんだろう。 強敵である事は間違いない。それでも……言葉が溢れた。 「あぁ、これが心奮わずにいられようか?」 快は同意を示しつつ……だからこそ、勝利する為に冷静に敵について思考を巡らせる。 「ここを彼らのカンネーにしよう」 口をついたのは紀元前に遡る遥か昔の出来事であるにもかかわらず、欧米の陸軍士官学校では必ず教材として扱われると言われる1つの戦の名だ。 (とはいえ安易に名将の戦いを真似ては、こちらがザマの敗戦になる) 包囲に拘らず状況に応じた最善手を。そう自分に言い聞かせて。 「私は剣である」 『エリミネート・デバイス』石川 ブリリアント(BNE000479)は敵兵を眼前に仰ぎながら、宣言した。 私はただひと振りの剣である。 人類文明の守護を志向し、その意思に振るわれる一個の装置(デバイス)である! 「貴様らがいかに鉄壁の統制を誇れど、我らの一撃に耐える事など叶わぬと知れ!!」 彼らを、彼女らを視界に収めながら。 「我は戦争というものを知らぬ」 『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)は小声で呟いた。 勿論知識としては有る。 (有るのだが、今ひとつピンと来んのだ) 彼女にとっての戦争とは歴史の授業で暗記するもの……その程度のものなのだ。 平和な国に生まれ、争う事を知らずに生活し、リベリスタになったのもついこの間の事。 (……だからきっと、この身体が震えてしまうのも詮無き事) これまでも恐る恐る依頼で敵と戦ってきたが、それでも今程恐いと思った事はない。 (恐くて今にも泣き出しそうだ) 「だが泣くのは後にしよう」 彼女は自分に言い聞かせた。 (我は黄昏の魔女フレイヤ様だ) 「敵が勇猛果敢に戦うならばソレに応えてやるのが魔女の礼儀というものだろう!」 自分の内に存在する小さな何かを振り絞るようにして、叫ぶように口にする。 対して『黒姫』レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)は自身の気持ちを素直に受け入れるようにして口にした。 「これだけの大規模戦闘っていうのも初めてだから少し緊張するわね」 だが鬼達との戦いを考えれば、いい経験になりそうという思いも確かに彼女の内に存在している。 「ま、訓練なんて生易しいものじゃないし気を抜くつもりもないけれど」 その言葉に『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)は頷いた。 「こちらの人数が多いという戦闘が多かったので、今回の敵が多いという戦いは勉強になります、ね……」 (多勢に無勢とは言いますが……) 「……私は、お役に立てるでしょうか……」 眼前の敵、E・ゴーレムに率いられた幻影の兵士たちは既に戦闘態勢を整えているように見える。 「軍団戦か……俺の得意分野ではないが、まぁ努力するとしよう」 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は冷静に敵を観察しながら戦闘の為の準備を行っていた。 「暗殺、撹乱は古来より戦の一方面。存分に利用させてもらうとしよう」 「なんぞ戦国時代や中世の時代の戦争でもおっぱじめる気かねぇ」 面倒でさなぁ、と『√3』一条・玄弥(BNE003422)は呟いた。 目立つように背負った幟には平日DTとか、そんな単語が記されている。 布陣の前に配っていた饅頭にも、似たような文字が描かれていた。 「危険が危ないのは勘弁してやぁ」 どこかとぼけた様子で口にする彼の眼は、口調とは異なり静かに相手を窺っている。 他の皆の様子を思い出しながら、玄弥は相変わらずの口調で呟いた。 「まぁ、あっしはいつも通り仕事をさせてもらいやすがねぇ」 ●第3小隊、前進 第4小隊の一人が口上を述べ、きつい挨拶を交わし合う事で宣戦布告は完了した。 言葉が決する時は終わり、武器が、力が決する時が訪れたのである。 第4小隊は後退し、交代するようにして第3小隊は前進を開始した。 迎え撃つように敵側の中央正面の隊が前進を開始する。 快は全身のエネルギー防御に特化させ、玄弥は解放した漆黒の闇を形なき武具として身に纏う。 オーウェンは集中によって脳の伝達処理速度を高め、レイチェルは敵を惑わし攻撃の力を減ずる闇を身に纏う。 癒しの力を味方に付与していたツァインも、前進しながら能力によって完全なる防御態勢を構築した。 ブリリアントも前進し、ミミはオーウェンを庇えるように位置を取る。 良子は投槍で狙われ難いようにと後衛に位置し、念の為に全力で防御できるように体勢を整えた。 士気を高めるように声を掛け合っていた兵士たちは一行が戦闘準備を整えるのを見ると、隊列を整え、投げ槍を構え、一行の動きに集中しながら距離を詰めてくる。 そのまま第3小隊は敵の投槍攻撃を誘うように射程へと足を踏み入れた。 兵士たちが一斉に槍を振りかぶる。 同時にリベリスタたちも動いた。 快が玄弥を、ツァインがレイチェルをそれぞれ庇う。 オーウェンが物質透過で隠れたのを確認したミミは後退しつつ全力防御の姿勢を取った。 庇われている玄弥とレイチェルの二人は生命力を暗黒の瘴気へと変換すると、射程に踏み込んできた兵士達に向けて解き放つ。 ほぼ同時に、兵士達の投擲した槍が前衛陣に降り注く。 快とツァインは直撃を避ける事に成功したが、ミミとブリリアントを狙った槍がそれぞれ一本ずつ二人を直撃した。 もっとも、玄弥とレイチェルの攻撃も兵士たちを傷つけることに成功していた。 リベリスタたちの攻撃を受けた兵士たちは、遠距離戦ではリベリスタたちが有利と判断したらしい。 次の槍は構えずに今度は一斉に剣を抜き放つと、前衛たちに向かって前進してくる。 「小隊突撃!」 快の言葉に応じるように第3小隊の前衛たちも迎撃する態勢を取り、戦いは白兵戦へと移行した。 ●遅滞戦闘 全身に破壊の闘気を巡らせたブリリアントは、その力を武器に収束させ兵士へと叩き込む。 ツァインもブロードソードを大きく振りかぶると、刀身に神聖な力を篭め、渾身の力を以って振り下ろした。 玄弥は敵が距離を詰めてきたのを確認すると攻撃手段を変更した。 味方と連携し死角から攻撃されないようにと注意しつつ奪命剣と魔閃光のふたつを使い分け、その効果を確認していく。 直接武器を振るう奪命剣の方が物理攻撃にやや優れる玄弥の力もあり威力もかなり高いが、敵もまた物理的防御力の方が優れているようにも思える。 力を収束し放つという魔閃光の特徴上、離れた敵を攻撃できるという点も見逃せないだろう。 もっとも、負傷してくれば当然敵の生命力を自身へと転換できる奪命剣は大いに役立つ筈だ。 効果を確かめつつ玄弥は攻撃を続けていく。 一方でレイチェルは引き続き暗黒の瘴気によって複数の敵を攻撃した。 複数の魔方陣を展開しておいた良子も魔炎を召喚すると、敵前衛のやや後方辺りを狙って炸裂させる。 快は指揮官然として振るまい、敵の注意を自分へと引き付けようと試みる。 透視を利用して敵の陣形を観察したオーウェンは、敵の注意が味方前衛に向けられているのを確認すると別方向へと姿を現し、思考を物理的な圧力へと変換し炸裂させた。 そのまま数度の攻防を経て……やがて第3小隊は、徐々に後退し始める。 もっともそれは予め計画された行動だった。 敵の攻撃に押されるようにして第3小隊はじりじりと下がっていく。 敵の中央も第3小隊を圧迫するように、それでも用心した様子で一気には距離は詰めず、隊列を組んだまま慎重に前進してくる。 それに続くようにして中央後方が、そして第2の正面にいた敵中央右の1個小隊も引き寄せられるように中央の後詰めをするように移動し始めた。 これによって他の小隊もそれぞれ作戦行動を開始する。 ツァインは苦しそうな態度を取りながら、仲間たちの様子を窺いつつ少しずつ後退していった。 (いや、実際に苦しいんだけどな……) それでも、仲間の攻撃が功を奏すまで、持ち堪えてみせる! 防御を固め後退しつつ……静かに強く、心に誓う。 幸いというべきか、第3小隊の受けたダメージは軽微だった。 快とツァインの守りは敵の攻撃をほぼ無効にするだけの力を持っていたのである。 直撃させない限りかすり傷程度のダメージしか二人は受けず、攻撃を受けはしても易々とは直撃を許さなかった。 二人の全身を覆うエネルギーによる反射で、攻撃した側の兵士の受けるダメージが大きい事もままあったのである。 勿論兵士たちはすぐにそれに気付き、その双壁以外へと攻撃を向けようとしたが、ふたりは他の前衛たちを庇うことで兵士たちの行動を妨害した。 その為、兵士たちは後衛へと攻撃を向けようとしたものの……徐々に後退しているという第3小隊の動きのせいで、思い切った突破ができなかったのである。 オーウェンの攻撃は兵士達に、不用意に前進すれば奇襲じみた攻撃を受けるのではという警戒心を植えつけていた。 加えて玄弥の、のらりくらりとした下がりつつも、どこかで不意を突いて前に出そうとも感じさせる移動も兵士たちの幾人かを戸惑わせる事に成功していたのである。 包囲に気付かせないように。 押されている風を装いつつ他隊と連絡を取りながら。第3小隊はゆっくりと後退していく。 しばらくして第1小隊が前方の敵を突破し、間をおいて第2小隊が討ち漏らしをほぼ撃破したと連絡が入ってきた。 敵兵数人は中央に合流したものの左翼で動いていた敵部隊は全滅したと考えてよいだろう。 第1小隊はそのまま敵中央の後背に回り込む形になり、第2小隊は第3から見て敵中央の左側面側を押さえる形になるらしい。 それから間を置いて第5小隊が敵部隊を撃破したとの連絡が入り、続いて第4小隊も敵部隊撃破の報を送ってきた。 こちらも敵兵数人ずつが中央へ合流したらしい。 どちらもすぐに態勢を整え、第3小隊から見て敵中央の右側面から攻撃を仕掛けると連絡してくる。 これをもって、包囲網はほぼ完成した。 第3小隊は後退を止め、持ち堪える態勢を取る。 ここからが、正念場だった。 当初の予定とは少々陣形が異なっていたが、自分たちが敵の突破を阻止するという役割は変わらない。 甕の底が砕ければ、溜めこんだ水は全て外に流れ出てしまう。 後退も許されない。 底が抜ければ、それは破られるのと同じ事だ。 他の隊の仲間たちを信じて。 かくして作戦は、最終段階を迎えることになったのである。 ●不退転 包囲された敵部隊は当然突破を試みてきた。 後退を止めた第3小隊に向かって残っていた槍を投射すると、一気に接近しての白兵戦を挑んできたのである。 阻止しようとする第3小隊と、無理矢理突破しようとした敵中央前方部隊は激しくぶつかり合い…… さほど間を置かず前線は崩壊し、両隊の戦いは乱戦状態に突入した。 「いいか! 絶対に此処を突破されるなよ!」 快は近くにいる玄弥を庇いながら周囲の皆へと声をかけた。 必要ならヘビースマッシュで攻勢もと考えていたが、この状態で何より優先すべきは攻撃手たちを守る事である。 前衛たちを打ち破る事が困難と考えた兵士たちは第3小隊が足を止めたのを確認し、強引に前衛を突破しようとしていた。 「ウウウオオオオオオオオォォォォォァァァアアアアアッ!!」 ツァインは気合の声と共に盾や剣を構え立ち塞がり、ミミは後衛達へと癒しの力を付与して回りながら味方の負傷を確認していく。 ブリリアントは後衛を狙おうとする者達へと向かい、闘気を収束させたデバイスを振るって兵士達を弾き飛ばそうとする。 レイチェルは皆と連携し側面や背後を守り合うように動きながら、後衛を狙おうとする敵へとソウルバーンの狙いを定めた。 オーウェンは移動しつつ味方を巻き込まずに攻撃を行える地点を確認し、良子も攻撃範囲に注意しながら魔炎を召喚する。 乱戦状態となっているのは敵中央前方の半数ほどで、残りは側面に到着し攻撃を開始した第4小隊と対峙していた。 それでも壊滅した他の隊から合流した兵士が加わっていた為、第3小隊と人数的には大差ない。 もちろん個々の実力ではリベリスタ達の方が上だろうが、乱戦となると防御力に劣る者を庇いきるのは難しかった。 その為、他の隊の戦いに変化が起こったことはAFを通じて知りはしても、8人はこの場を凌ぐ事で精一杯だった。 第2小隊から敵の攻勢で突破される危険性があり第1小隊との合流を望む連絡を聞きながら、一行は戦い続ける。 その時だった。 前方に一人の兵士の姿を発見したのは。 ほんの少しだけ質の良さそうな、それでも実用性を重視した兜と胸当てを纏い、剣と盾を構えたその戦士は、兵士達に指示を出しながら前衛たちに向かって距離を詰めた。 「ま、間違っていたら、ご迷惑になりますし……」 ミミが確認するように尋ね、玄弥が皆に知らせるように叫ぶ。 「あれが隊長や! みなやってまえ!」 間違いない。 リベリスタたちの探していたE・ゴーレム。 百人隊長が、ついにその姿を現したのである。 ●百人隊長 「百人隊長と見受けた! その首、おいてけ!」 武器を振りかぶったブリリアントが隊長へと距離を詰め、捨て身で電撃の籠った一撃を放つ。 「各隊を縦横無尽に動かして我々を翻弄し、個々の能力においても優秀な戦士、か」 見事だ、だが我らとてむざむざと負ける訳にはいかん。 攻撃を受けながらも臆する様子もなくそう言い放つと、隊長は手に持った剣で鋭い突きを繰り出してきた。 「なぁアンタ、一体どれだけの戦いを超えてきた……久しく、望む戦場が見つからなかったか?」 ツァインも戦闘態勢を整え直すと、百人隊長に、一人の戦士に呼びかけながら構えを取った。 「分かるよ。言葉は要らん。さぁ始めようぜ、時代遅れの……古い古い戦いを」 剣へと力を篭め、大きく振りかぶる。 レイチェルは周囲の兵士ごとE・ゴーレムを暗黒の瘴気で狙い撃つ。 倒すことができれば戦いは決着する。 リベリスタたちの勝利という結果で。 だが、倒すことができなければ別の結果が待っている。 快とミミは味方を庇い負傷を出来るだけ抑えようとしたものの、乱戦となってしまうと手が足りなかった。 もっとも、前衛後衛問わず傷付いた者たちは怯まなかった。 「我が倒れ戦う事を諦めたら次に倒れるのは戦う意思のない子供かもしれん」 (それだけは断じて認める事は出来ん!) 傷付き満足に動かぬ身に力を篭め、良子は無理矢理に立ち上がる。 「血反吐をはいてでも立ち上がらねばならんのだ!」 倒れたオーウェンも運命の加護によって身を動ける状態に保ち、倒れた状態から不意を打って兵士達を奇襲し足止めした。 その間に、ブリリアントとツァインが全力を振り絞り隊長へと攻撃を続けていく。 第5小隊が敵中央後方へ、第4小隊が側面から中央前方を攻撃してくれている事で、向かってくる兵士の数は頭打ちとなった。 だが、それでも劣勢であることには変わりない。 限界を越え戦い続けていたブリリアントが力尽き、膝を折った。 ツァインの身にもダメージが確実に蓄積していく。 そんな時だった。左方に閃光が走り、落雷の様な音が響く。 黒の鎖を受けた兵士が動きを止め、そこから第1小隊が突撃してきた。 デュランダルたちが其々の武器を振るって兵士を、百人隊長へと斬りかかり、癒しの力が皆に放たれる。 最後の力を振り絞り、ツァインも剣と盾を構え直した。 リベリスタたちとエリューションの間で、斬撃が数度交わされる。 それで、決着がついた。 「……見事だ」 その場にいた者たちを見回すように首を巡らすと、それだけ口にして。 次の瞬間、金属が砕けるような音が響き渡り。 百人隊長は、一人の戦士が、崩れ落ちる。 それが戦いの終わりを告げる合図になった。 それに続くように兵士たちも次々と消滅し、やがて静まり返った平原には……40人のリベリスタたちだけが、存在していた。 激しい戦いの後はあっても、それ以外の物は何ひとつとして残っていない。 いや、ひとつだけあった。 百人隊長のいたその場所には、折れた一振りの剣が転がっていた。 満足は出来たのだろうか? 見つけられたのだろうか? 浮かんだ問いを胸に、幾人かが静かに問いかける。 それに応えるかのように風が吹いた後、平原を静寂が支配し……リベリスタたちは顔を見合わせた。 静まり返ったその平原が、彼らの、彼女らの勝利の……守り抜いた日常の、証だった。 今、確かに。40人は力を合わせ、唯ひとつの勝利を掴むことに成功したのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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