●百人隊長の許 10人で隊を作り行動していた兵士達は、隊長の号令を受けて一斉に隊列をくずした。 隊長の前へと集合し、整列すると直ちに点呼を開始する。 全員が同じように短めの剣を持ち、盾を構え革鎧を纏い、そして投槍を持っている。 彼らの前に立つ隊長も、少々拵えが良いというだけで身につけた装備はほぼ同じだった。 統制の取れた兵士達の一隊はしかし、全員が生きている存在ではなかった。 世界から逸脱した力によって生まれ、そのまま進めば……やがて世界を壊す存在。 隊長が剣を掲げるのに合わせるように兵士達は声を発し、同じように剣を高く掲げる。 掲げられた隊長の剣が、光を浴びて静かに輝く。 その剣はかつて、こう呼ばれる物のひとつだった。 『百人隊長の剣』 ●集団戦闘 「『百人隊長の剣(グラディウス・ケントウリオ)』と呼ばれるアーティファクトは幾本か存在してるみたいです」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう説明して、ディスプレイに1本の剣を表示させた。 表示された両刃の剣はやや小ぶりで、装飾等はなく実用一点張り……シンプルだが扱い易そうな作りに見える。 「剣の能力は、持ち主の力量に応じて幻影の兵士を召喚し、戦わせるというものです」 持主の力が弱ければ現れる兵士は弱く、そして人数も数人程度。 だが、強い力を持ちエリューション的な力を持つリベリスタやフィクサードが持てば、熟練の兵士が多数……最大で100人の兵士を作りだす事ができるという。 もちろん扱える力が大きくなれば持主の消耗も大きくなるようだが。 「実はその内の1本が発見されたんですが……」 E・ゴーレム化してしまっていたみたいなんです。 マルガレーテは説明した。 剣はエリューション化し、一人の戦士……隊長となって兵士達を召喚し、率いているという。 本来なら持主に応じて1種の兵士が召喚されるらしいのだが、今回は3種の兵士が召喚され混成部隊のようになっているのだそうだ。 「今はまだ人の居ない場所を行進したりしているだけですが、フェーズが進行すれば人の多い場所を避けたりはしません」 現状のままでも偶然遭遇した人や生き物が襲われる可能性があります。 「ですので、皆さんにこのエリューションを撃破して頂きたいんです」 今回は敵も多いので、かなり多めのチームで担当して頂くことになります。 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタたちを見回してから、詳しい説明を開始した。 問題のE・ゴーレムと率いられた兵士の隊は、開けた平地のような場所に出現するらしい。 「今回は皆さんに、こういう感じで並んで頂きます」 そう言ってフォーチュナの少女は5つのチームが横一列に並んだ感じの図を表示させた。 「この平原でこういう感じで並ぶと、それに応じるみたいな感じで兵士達の集団が現れて、同じように陣形を取ってきます」 スクリーンの画像が、2つの集団が向かい合うようなものに切り替わる。 「この状態になれば、ゴーレムと兵士の集団は逃げようとはしません」 全力で襲いかかってきますと彼女は説明してから、全てを倒すことも可能だと思いますが隊長であるE・ゴーレムを倒せれば作りだされた兵士達は全て消滅するとも説明した。 「勿論どちらにするか、両方を視野に入れるか等は、現場で戦う皆さんにお任せします」 そう言ってから彼女は続いて敵の戦力について説明する。 「アーティファクトの力で作りだされた兵士の数は全員で100人です」 それに隊長であるE・ゴーレムを加えた合計101人、101体が今回の敵の総数となる。 「兵士は大きく分けて3タイプが存在します」 『ハスターリ』と呼ばれる兵士はフィジカル重視で主に先陣を務めてくる。 古代ローマでは若者たちが担当したらしい。数は40人。 『プリンチペス』と呼ばれる兵士はフィジカルとテクニックのバランスの取れた主力だ。 古代では30代の大人たちが担っていたようである。数は同じく40人。 『トリアーリ』と呼ばれる兵士たちはテクニック重視のベテランたち。 古代では少々体力は落ちたものの経験豊富な壮年達に後詰めや最後のひと押しを託したらしい。此方の数は20人。 「武装は全員同じみたいです」 剣と楯を装備し、革鎧を纏い兜をかぶり、投槍を装備しているらしい。 投槍の数は、ハスターリとプリンチペスが2本。トリアーリは1本。 「戦法は遠距離攻撃可能な距離まで接近して一斉に投げ槍で攻撃した後、接近戦に移行するという形みたいです」 少数の隊に分かれ連携を取りつつ機敏に動きまわるというのが彼らの戦術である。 隊内はもちろん、隊同士も隊長の指揮の下で連携を取り合い戦闘を行うようだ。 攻撃を集中させたり仲間同士で庇い合ったり、余力があれば包囲を試みたり……人間ではないが、戦いに対する判断力というものは決して侮れない。 「1つの隊は10人の兵士で構成されているみたいです」 本来は全員同種らしいのだが、今回はハスターリとプリンチペスが4人ずつ、トリアーリが2人ずつという混成部隊。 これが10隊集まって合計100人。 リベリスタたちに合わせるように5隊が横一列に並び、その後ろに残りの5体が同じように横一列に並ぶという陣形を取ってくる。 「それを率いる隊長、E・ゴーレムは能力の取れたバランス型のようでした」 突出して優れた能力は無いが、大きな欠点も存在しないという堅実な存在のようだ。 こちらは投槍は装備しておらず、攻撃は近距離攻撃のみとなっている。 「ただ、戦闘指揮のスキルに似た能力を持つみたいで、近くにいる兵士達の戦闘能力が少し上昇するみたいです」 戦闘に関する知識や判断力を持ち、言葉の使用も可能なようだ。 ただ、知性のある生き物という訳ではないので交渉や説得等には当然応じない。 「混乱したり魅了されたり……あと、怒りに我を忘れるみたいなこともないみたいです。あ、兵士達の方もそういった精神的な力を受け付けないみたいです」 E・ゴーレムは最初は中央後方の隊に位置しているが、戦況を確認し指示をしながら隊を移動していくようである。 「どう移動するかまではちょっと分かりませんでした……」 すみませんとマルガレーテは申し訳なさそうに謝った後、ゴーレムの性格の方は勇敢だがある程度の冷静さを持った武人みたいですと言って敵の説明をしめくくった。 ●中央左・第2小隊 「ここからは各小隊毎に説明させて頂きます」 マルガレーテはそう言うと、集まったリベリスタたちの一隊、第2の小隊に向かって説明を開始した。 「皆さんに担当して頂くのは中央左側、左から数えて2番目の位置になります」 左隣が左翼、右隣が中央というこの位置は、両隣の小隊がどうするかによって動き方が変わる隊と言える。 「自分たちが独自に動くというよりは、隣の小隊を援護するために戦う……という形になる事が多そうです」 左翼が敵の側面や背面攻撃の為に動くとなれば、代わりに最も左側の小隊として敵の攻撃を受け止める事になる。 一度に複数の敵の隊と戦う事になるが、それを耐え切れば……左翼が敵の側面や背面に回り込む、あるいは敵の隊長を確認する時間を稼げれば、挟撃や指揮の乱れを狙う事ができるかもしれない。 だが、耐え切れなければ左翼が攻撃を行う前に自分たちだけではなく中央の部隊まで被害が及ぶ可能性も出てしまう。 対して左翼があまり動かずその位置を守り抜いてくれるというのであれば、前面の敵に全力を注いで中央と共に正面突破を目指すことになるだろう。 「もちろん、それ以外にも様々な手段、動き方や戦法があると思います」 とはいえ、両翼のように自由に動くというのは難しいかも知れない。 敵が最初に正面から中央突破を目指してくるというのであれば、その攻勢を中央の隊だけで何とかするというのは難しい。 もちろん、何らかの手段で中央が耐えているあいだに回り込む事に成功すれば……勝敗を分かつような戦果をあげられるかも知れない。 どうするのか、全ては小隊の8人次第だ。 敵の能力は決して複雑というほどではない。 個々の能力も弱いとはいえないが、強力という程ではないだろう。 問題なのは、唯……その数だ。 「とにかく、隊長であるゴーレムさえ何とかできれば大丈夫ですので」 E・ゴーレムはアーテクファクトそのものでもある。 倒せばアーティファクトも壊れ、力を失ってしまうだろう。 だがこのままでは、誰かが、何かが傷付き、世界も傷付いていってしまうことになる。 「色々考える事は多くなってしまいますけど……どうか、宜しくお願いします」 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタたちを見回すと、手をそろえ大きく頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月06日(金)00:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●勇壮なる軍団兵(レジョナリス) 「これはまた……圧巻、だね」 「堂々たる戦争というべきでしょうか」 リベリスタたちを迎え撃つように姿を現し隊列を整え始めた兵士達を眺めながら『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)が口にする。 それに応じるように浅倉 貴志(BNE002656)は頷いた。 この先このような戦いが起こるか如何かは分かないが、先ず為すべきは眼前の敵を倒すこと。 「彼の名将ハンニバルも、このような敵との戦いに臨んだのでしょうね」 紀元前ローマ連合と戦った、ある一人の将に想いを馳せながら貴志は呟いた。 彼とローマの戦いで最も有名な物のひとつに数えられるのは、イタリア、カンネ村の近くで行われたというカンネの戦いであろう。 数に劣る側が強力な敵に対し包囲殲滅戦を成功させる……今回リベリスタたちが行おうとする作戦も、それに近かった。 もちろん古代屈指のその会戦に比べれば、この戦いは小規模なものである。 だが、それでも普段のリベリスタたちの戦いと比べれば、かなり大きいと言えるだろう。 「こんな大規模戦闘はジャック以来、かな?」 まあ鬼達の事もあるし、調整相手には丁度いいよね。 『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)はそう言ってから付け加えた。 「かと言って油断出来る相手でも無いしがんばるよ」 それに前に出る機会なんて早々無いしねーと口にしつつ戦闘の準備を整える。 「かの決戦には劣るにせよ、敵も味方もこれだけ集まるというのは滅多に無いね」 卯月の言葉に『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)も頷いた。 「これほど大規模な作戦行動は久しぶりですね」 もっとも、だからと言ってすることが変わるわけではないというのが彼女の考えである。 (アークの敵に鉛弾をプレゼントし、アークに利益を) 自身の為すべきことは、それだけだ。 「なによこれェ、まるで映画じゃない?」 「戦場で不謹慎かもしれませんが、なんだか運動会のようでワクワクしますね」 『フロムウエスト・トゥイースト』キャロライン・レッドストーン(BNE003473)の言葉に『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は、同じような、どこか似た笑顔で応えた。 「こんな物を目に出来るなんて、つくづくリベリスタってのは面白い稼業よねェ」 キャロラインはそう言いながら洋酒を呷ると、楽しげに口にした。 「っふー……じゃ、ヤっちゃいましょうか!」 「なめるな、おー!」 応えるようにレイチェルも、兵たちに向かってこぶしを突き上げるような仕草をする。 「偉大なる軍団の再現ね」 とっても興味深い。 そう言って、くすくすと笑った後で……でもね、と。少女は言葉を続けた。 貴方達はきっと本物には及ばない。 自分たちは、決して負けはしない……何故なら。 『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)は、兵士たちに向かって言い放った。 「私達はその本物が培った未来に生きているの」 ●戦端、開かれる 第3小隊の動き……やや突出し誘き寄せるように後退するのに合わせて第2小隊も行動を開始する。 最初の時点で第2小隊は敵の2個小隊と向き合う形になっていた。 だが、最初のW型を意識した陣形によって第2の正面に位置していた敵の小隊は、それぞれ第1と第3小隊の側へと誘き寄せられるように動き始めた。 特に第3に誘き寄せられる形になった小隊はそのまま第3と向かい合う敵中央の側へと移動し、敵の陣形は中央に厚みのある形へと変化する。 もう一隊も第2よりもやや前方に位置する第1小隊の側を警戒する姿勢を見せた。 この状態で第2小隊は前進を開始したのである。 レイチェルは合間を見てスキルにより脳の伝達速度を向上させ、イーゼリットは詠唱によって体内の魔力を増幅させる。 貴志は事前に攻防に備え流れる水の如き構えを取り、同じく前衛のリーゼロットはスキルを使用して射撃の為の神経を研ぎ澄ます。 (……この戦いは決して歴史書の一行にも残らないだろう) 「だが、何としてでも被害が出る前に食い止める必要がある」 行こう、と卯月は皆に呼びかけた。 味方の遠距離攻撃等を見て20mの距離の目安を測りながら。 事前にスキルによる集中によって動体視力を強化した虎美は、同じく能力によって高めた視力と観察眼を活用し距離や敵の確認を行っていく。 キャロラインは誇りを胸に見栄を切る事で、運命の力を手繰り寄せる。 『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は敵の射程外で自身を中心に複数の魔方陣を展開する事で魔力を爆発的に増大させた。 第2小隊の前進によって第1小隊側を警戒していた敵の小隊は、第2小隊側へと向き直り、引き寄せられるようにして移動を開始する。 リベリスタたちが準備を整えているのを見た兵士たちは、槍を手に一行の動きに集中しながら距離を詰めてゆく。 そのまま両者は互いの距離を詰め……やがて、両隊は敵を攻撃射程範囲内に補足した。 敵が投槍を大きく振りかぶったのを見た前衛たちが防御態勢を取る。 貴志に、リーゼロットに、虎美に、無数の槍が放たれた。 そのうちの3本が虎美に、2本ずつが貴志とリーゼロットに命中する。 もっとも、3人とも機敏な動きで直撃は避けられた為にダメージは決して大きくない。 まだ回復の必要はないと判断したレイチェルは攻撃態勢をとった。 「先陣を務める、という柄ではありませんけど……!」 少なくともこの隊にとっては、攻撃こそ最大の防御である筈だから。 厳然なる意志の基、放たれた聖なる光は彼女の眼前に位置する兵士達をのみこんだ。 ●火力小隊 自らの血を黒鎖として実体化させたイーゼリットが、続くように鎖の濁流を兵士たちに叩きつける。 直撃を受けた兵士たちは流血し強い毒を受け、呪いによって動きを封じられ不幸を付与された。 貴志も鋭い蹴りから放った風の刃で兵士の一人を気付け出血させる。 リーゼロットも高速で弾丸を補充しながら嵐のような銃撃を浴びせ始めた。 精度の高い攻撃は本来以上の破壊力で多数の兵士達に的確にダメージを与えていく。 仲間たちに翼の加護を与えた卯月は、エネルギーのチャージを行う為に味方の消耗を確認する。 「弾幕張るよっ!」 続くように虎美が動ける敵をできるだけ引き付けるようにして二丁の拳銃で連続攻撃を仕掛けていく。 キャロラインも弾数を重視した特殊なリボルバーで射程内に入った敵に向かって弾丸の雨を降らせていく。 杏は高めた魔力を利用して作り出した拡散する雷を周囲に放出した。 「アタシの持ち得る全ての力を雷に変えて、視界に入る敵全てをなぎ払ってやるわ!」 精度はやや低い雷の嵐は直撃こそしなかったもののそれでも高いダメージを複数の兵士たちに与えていく。 一行の消耗は極めて激しかった。だが、その破壊力は圧倒的だった。 動ける兵士たちは遠距離戦では勝ち目がないと悟り、そのまま抜刀し接近戦を挑んでくる。 その兵士たちに向かってレイチェルは更に光を放ち、動きを鈍らせる。 味方と一斉に出し惜しみなく、最大火力で。 虎美は前衛で戦い続け、リーゼロットはレイチェルの近くに位置し、貴志はイーゼリットを庇える位置を取った。 前衛3人は負傷が蓄積していくが、それほど危険な状態では無い。 レイチェルと杏も攻撃を受けるが、こちらもまだ大丈夫だった。 庇う貴志と自分の力を仲間たちに与える卯月以外の全員はそのまま攻撃を続けていく。 第2小隊は攻撃しつつ敵を引き付ける形で徐々に移動もしていたが、戦況は……火力が高い為に誘き寄せる最中に敵がどんどん倒れていなくなっていく感じだった。 (……あれ、この消費量に対して魔力を供給するのって相当忙しいんじゃないか) 「さっき楽観視したのは誰だ、全く」 そんな事を呟きつつ卯月は仲間たちが消耗した力の付与に奔走する。 兵士たちが後衛に接近する場面もあったものの、その数は極めて少数だった為、危機は訪れなかった。 結果として第2小隊は比較的短時間で自隊の正面にいた敵をほぼ撃破することに成功したのである。 もちろん1個小隊が第3に誘き出されていた事も大きかったと言える。 そのまま8人は休むことなく第1小隊の援護をする為に移動を、戦闘を再開した。 ●掃討作戦 敵部隊に対して突破を優先し前進していく第1小隊の討ち洩らしを撃破していくという任務は先刻までの戦いと比べると容易なものだった。 敵が少数であれば接近される確率も低くなる。 庇う必要がなければ、回復する必要がなければ、それだけ攻撃の手数は多くできる。 もっとも、その分、補給する者の忙しさは……並大抵のものではなかった。 もし卯月が戦いは補給でやるものだと口にすれば、この時点で首を横に振れる者はいなかっただろう。 もし兵士たちが本当のローマの重装歩兵であるならば大いに頷いて、戦いは兵站(ロジスティック)でやるものだと賛同したかも知れない。 数人の敵兵は中央の小隊へと逃れていったものの、第2小隊は殆んどすべての討ち洩らしを撃破しながら第1小隊の後方を進んでいった。 ただ、これによって第2小隊の担当する範囲は本来以上に広くなってしまう形となった。 第1小隊が突破し過ぎて敵の後背近くまで進んでしまった為に、本来第1と第2の 2個小隊で担当するはずだった敵側面の片側を1個小隊だけで受け持つ形になってしまった故である。 例えるなら『U』型の陣形が『し』の字型になってしまったのだ。 突破し過ぎた第1小隊はすぐに方向転換したものの、そのまま敵中央の後背を突く位置に付く形になった。 『し』から『C』型になったとでも表現するべきだろうか? 第4、第5が本来の位置で頑張っていることを考えると、其方の陣の厚さとこちらの薄さを現わす意味で『G』型とでも言えばそれらしいかも知れない。 もちろん第1小隊はそこまで遠出していなかったが、第2小隊が本来以上の範囲を担当する形となったのは事実だった。 それを何とかする為に第2小隊は引き続き強力な火力での攻撃を続行する。 敵が存在している為に反対側の第4、第5小隊は見えず、少々離れる形となった第1小隊の確認も難しい状態だった。 それでも第2小隊は敵の隊長を探しながら側面攻撃を続けていく。 この時点まで回復は数えるばかりしか行われなかった。 庇うことも最小限に留め、第2小隊は攻撃に次ぐ攻撃を繰り返してきた。 卯月は戦いの最中は勿論、間の僅かな移動なども利用して消耗を抑えようと努めたが、その懸命の努力によっても消耗量の三分の二を補うのが限界だった。 幾人かは警戒し、いざという時を考えていた。 だから、敵の一隊が自分たちへと向かってきた時の判断も早かったのである。 第2小隊は連絡を行い、第1小隊との合流を目指しての移動を開始した。 ●第1小隊との合流 距離を詰められると、射程内を網羅する遠距離全体攻撃も多くの敵を狙う事が難しくなる場合がある。 接近を阻止する為にキャロラインは、イーゼリットは、リーゼロットと虎美が、杏が攻撃を続行する。 レイチェルは力の尽きた状態で射撃を行いつつ、いざとなれば攻撃手である誰かを庇おうと考え様子を窺っていた。 (アタシはベテランさんよりパンチが弱いからァ、違う所で役に立たないとねェ) 「ホントは銃が撃てればそれでハッピーなんだけどォ……ただ足を引っ張るのはごめんよォ」 いざとなれば壁となって仲間を活かす。 強い決意を抱きつつ、彼女は今は、武器を構える。 卯月はイーゼリットへと力を注ぐ。次に回復すべきは誰か? 他の者たちも数回力を使用すれば消耗し尽くしてしまうような状況でそれでも攻勢を続けながら、第2小隊は第1小隊との合流を目指していた。 とはいっても完全にそちらに向かってしまえば、今度は包囲網が維持できなくなる。 大作戦を優先するのなら、一行にできるのは包囲を維持する為の射程を考えながらその範囲で出来るだけ第1小隊よりに位置を取る……という処までだった。 幸いなことに敵は第2小隊に攻撃するべく接近してきたので、他の隊の側面や背面へと回り込まれる事態は回避できた。 第2小隊の攻撃を受けつつも敵は半数ほどが距離を詰め、白兵戦を挑んでくる。 残った数名も負傷はしたものの倒れてはおらず、動きを封じられただけの状態である。 貴志がイーゼリットの守りに付き、リーゼロットもレイチェルを庇う形になった。 敵に与えるダメージは大きいが、敵の攻撃から受けるダメージも無視できないものだった。 敵の攻撃が他と比べて強力という訳ではない。 庇っているふたり以外が防御以外の面に能力の多くを傾けている為である。 攻撃力、特に多数を相手にした場合の殲滅力という点で考えれば、第2小隊は恐らく5つの小隊の中でもトップクラスの能力を誇っていた。 その火力の一部が消耗によって不完全になっているというのもあるかも知れない。 「やられる前にやればいいんでしょ!?」 杏が発生させた雷を周囲に撒き散らし、イーゼリットも血の鎖を精製した。 「……ありがと」 防御と消耗は委細気にせず全て仲間たちに預けて、そしてそれに応えてくれる仲間たちに感謝して。 彼女は具現化させた黒鎖を兵士達に向けて解き放つ。 負傷が蓄積した兵士たちが倒れる。 一方で、仲間たちの様子を確認していたレイチェルは聖なる光を放つのを一旦止め、癒しの為に詠唱で清らかな存在に呼びかけた。 戦いは乱戦になった。 リーゼロットはレイチェルだけを庇っていられなかった。 卯月と虎美は耐久力の高さで何とか攻撃を凌ぎ、杏は防御の力で受けるダメージを減少させる。 力尽きかけたキャロラインは懸命に自分を叱咤し運命の力を手繰り寄せ、戦い続けた。 そこへ、第1小隊が突撃してきた。 この時点で、この方面における趨勢は決した。 強力な単体攻撃を主な攻撃手段としている第1小隊にとっては、乱戦であろうとも大した影響はない。 個々人が強力な攻撃力を持ち、同時にある程度の耐久力や防御力を持っているのだ。 反面敵の数の多少が攻撃力に大きく影響を与えるが、この戦場では敵の数は減少し、更に数人が行動できない状態だった。 第2小隊と第1小隊の攻撃を受け、敵部隊は文字通り全滅する。 撃破を完了した2隊はそのまま合流した状態で連絡を入れると、第3、第4、第5小隊が敵中央と戦っている戦場へと向かった。 こうして戦いは最終局面へと移行したのである。 ●最終局面へ 第1第2連合部隊の到着によって敵部隊への包囲網は完成した。 だが、正面を受け持っていた第3小隊は危険な状態に陥っているらしかった。 後退を止め敵の攻撃を凌ぐ形となってからは負傷が徐々に蓄積していたらしいのだが、それに加えて百人隊長が現れ交戦しているようなのだ。 時間はあまり無い。 そう判断したからこそ、幾人かが決断した。 レイチェルの放った閃光が兵士達を直撃し、続くように黒鎖が、雷が、そして無数の弾丸の嵐が、敵陣の一角に叩きつけられる。 そして破られた陣形の一角へと第1小隊が突撃した。 それを妨害しようとする兵士達に向かって、それぞれが射程の限りの援護を行っていく。 あとは唯、仲間たちが倒すことを信じて戦い続けるだけだ。 そう、戦い続けなければならない。まだ敵の兵士たちは残っているのだ。 もっとも敵兵士の多くは突破を阻止しようとしたり中央へ向かっていった為に、第2小隊が相対した敵は少なかった。 お陰で第2小隊は何とか包囲網を維持し続けることができたのである。 それ程までに第2小隊の消耗は激しかったのだ。 もっとも、この小隊の瞬間的な攻撃力という物を考えるのであれば当然なのかもしれない。 卯月の補給を受けながら第2小隊は戦闘を続けていき……やがて、決着の時が訪れた。 残っていた兵士たちが消滅したのが、戦いの終わりを告げる合図となった。 兵士たちは次々と消滅し、やがて静まり返った平原には……リベリスタたちだけが、存在していた。 戦いを終えたそれぞれの小隊の姿も見える。 傷の重い者はいるものの、危険な状態の者はいないようだった。 仲間たちと顔を見合わせた後、レイチェルは笑顔で皆とハイタッチを交わす。 静寂を取り戻した、静まりかえった平原。 それこそがリベリスタたちが勝利した、守り抜いた日常の証だった。 歴史に残る事のない、知られざるひとつの戦いは……こうして幕を閉じたのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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