●百人隊長の許 10人で隊を作り行動していた兵士達は、隊長の号令を受けて一斉に隊列をくずした。 隊長の前へと集合し、整列すると直ちに点呼を開始する。 全員が同じように短めの剣を持ち、盾を構え革鎧を纏い、そして投槍を持っている。 彼らの前に立つ隊長も、少々拵えが良いというだけで身につけた装備はほぼ同じだった。 統制の取れた兵士達の一隊はしかし、全員が生きている存在ではなかった。 世界から逸脱した力によって生まれ、そのまま進めば……やがて世界を壊す存在。 隊長が剣を掲げるのに合わせるように兵士達は声を発し、同じように剣を高く掲げる。 掲げられた隊長の剣が、光を浴びて静かに輝く。 その剣はかつて、こう呼ばれる物のひとつだった。 『百人隊長の剣』 ●集団戦闘 「『百人隊長の剣(グラディウス・ケントウリオ)』と呼ばれるアーティファクトは幾本か存在してるみたいです」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう説明して、ディスプレイに1本の剣を表示させた。 表示された両刃の剣はやや小ぶりで、装飾等はなく実用一点張り……シンプルだが扱い易そうな作りに見える。 「剣の能力は、持ち主の力量に応じて幻影の兵士を召喚し、戦わせるというものです」 持主の力が弱ければ現れる兵士は弱く、そして人数も数人程度。 だが、強い力を持ちエリューション的な力を持つリベリスタやフィクサードが持てば、熟練の兵士が多数……最大で100人の兵士を作りだす事ができるという。 もちろん扱える力が大きくなれば持主の消耗も大きくなるようだが。 「実はその内の1本が発見されたんですが……」 E・ゴーレム化してしまっていたみたいなんです。 マルガレーテは説明した。 剣はエリューション化し、一人の戦士……隊長となって兵士達を召喚し、率いているという。 本来なら持主に応じて1種の兵士が召喚されるらしいのだが、今回は3種の兵士が召喚され混成部隊のようになっているのだそうだ。 「今はまだ人の居ない場所を行進したりしているだけですが、フェーズが進行すれば人の多い場所を避けたりはしません」 現状のままでも偶然遭遇した人や生き物が襲われる可能性があります。 「ですので、皆さんにこのエリューションを撃破して頂きたいんです」 今回は敵も多いので、かなり多めのチームで担当して頂くことになります。 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタたちを見回してから、詳しい説明を開始した。 問題のE・ゴーレムと率いられた兵士の隊は、開けた平地のような場所に出現するらしい。 「今回は皆さんに、こういう感じで並んで頂きます」 そう言ってフォーチュナの少女は5つのチームが横一列に並んだ感じの図を表示させた。 「この平原でこういう感じで並ぶと、それに応じるみたいな感じで兵士達の集団が現れて、同じように陣形を取ってきます」 スクリーンの画像が、2つの集団が向かい合うようなものに切り替わる。 「この状態になれば、ゴーレムと兵士の集団は逃げようとはしません」 全力で襲いかかってきますと彼女は説明してから、全てを倒すことも可能だと思いますが隊長であるE・ゴーレムを倒せれば作りだされた兵士達は全て消滅するとも説明した。 「勿論どちらにするか、両方を視野に入れるか等は、現場で戦う皆さんにお任せします」 そう言ってから彼女は続いて敵の戦力について説明する。 「アーティファクトの力で作りだされた兵士の数は全員で100人です」 それに隊長であるE・ゴーレムを加えた合計101人、101体が今回の敵の総数となる。 「兵士は大きく分けて3タイプが存在します」 『ハスターリ』と呼ばれる兵士はフィジカル重視で主に先陣を務めてくる。 古代ローマでは若者たちが担当したらしい。数は40人。 『プリンチペス』と呼ばれる兵士はフィジカルとテクニックのバランスの取れた主力だ。 古代では30代の大人たちが担っていたようである。数は同じく40人。 『トリアーリ』と呼ばれる兵士たちはテクニック重視のベテランたち。 古代では少々体力は落ちたものの経験豊富な壮年達に後詰めや最後のひと押しを託したらしい。此方の数は20人。 「武装は全員同じみたいです」 剣と楯を装備し、革鎧を纏い兜をかぶり、投槍を装備しているらしい。 投槍の数は、ハスターリとプリンチペスが2本。トリアーリは1本。 「戦法は遠距離攻撃可能な距離まで接近して一斉に投げ槍で攻撃した後、接近戦に移行するという形みたいです」 少数の隊に分かれ連携を取りつつ機敏に動きまわるというのが彼らの戦術である。 隊内はもちろん、隊同士も隊長の指揮の下で連携を取り合い戦闘を行うようだ。 攻撃を集中させたり仲間同士で庇い合ったり、余力があれば包囲を試みたり……人間ではないが、戦いに対する判断力というものは決して侮れない。 「1つの隊は10人の兵士で構成されているみたいです」 本来は全員同種らしいのだが、今回はハスターリとプリンチペスが4人ずつ、トリアーリが2人ずつという混成部隊。 これが10隊集まって合計100人。 リベリスタたちに合わせるように5隊が横一列に並び、その後ろに残りの5体が同じように横一列に並ぶという陣形を取ってくる。 「それを率いる隊長、E・ゴーレムは能力の取れたバランス型のようでした」 突出して優れた能力は無いが、大きな欠点も存在しないという堅実な存在のようだ。 こちらは投槍は装備しておらず、攻撃は近距離攻撃のみとなっている。 「ただ、戦闘指揮のスキルに似た能力を持つみたいで、近くにいる兵士達の戦闘能力が少し上昇するみたいです」 戦闘に関する知識や判断力を持ち、言葉の使用も可能なようだ。 ただ、知性のある生き物という訳ではないので交渉や説得等には当然応じない。 「混乱したり魅了されたり……あと、怒りに我を忘れるみたいなこともないみたいです。あ、兵士達の方もそういった精神的な力を受け付けないみたいです」 E・ゴーレムは最初は中央後方の隊に位置しているが、戦況を確認し指示をしながら隊を移動していくようである。 「どう移動するかまではちょっと分かりませんでした……」 すみませんとマルガレーテは申し訳なさそうに謝った後、ゴーレムの性格の方は勇敢だがある程度の冷静さを持った武人みたいですと言って敵の説明をしめくくった。 ●左翼・第1小隊 「ここからは各小隊毎に説明させて頂きます」 マルガレーテはそう言うと、集まったリベリスタたちの一隊、第1の小隊に向かって説明した。 「皆さんに担当して頂くのは左翼、最も左側になります」 右翼と並んで最も端の配置であるため、自由な裁量が委ねられる位置と言える。 「様々な動きが可能だと思いますが、単純なものを挙げるとすると2つくらいでしょうか?」 配置を大きくは動かず堅持するか、一気に動いて敵の側面や背面に回り込むか、だ。 堅持する事は右隣に位置する中央左や中央等への援護となる。 中央左が前面の敵のみに集中できれば、中央や中央右と合わせての正面突破や正攻法による敵の撃破が可能、容易になるかもしれない。 反面、自分たちの隊は正面の敵に加え敵の後列が回り込んできた場合、側面、あるいはそれ以上からの敵の攻撃を受けることになるだろう。 敵が回り込んできた場合、真っ先に矢面に立つという盾の役割を担う形になるからだ。 一方、一気に動いて敵の側面や背面に回り込もうとする場合の利点は、文字通り敵を側面や背後から攻撃できるという点である。 早期に敵の隊長を発見できる可能性がある他、敵の戦力がある程度減少すれば中央等の部隊と挟撃する事も可能かもしれない。 もっとも、その為には戦況や敵の行動等を充分に察知し的確な判断を行う必要がある。 判断を誤れば多数の敵に囲まれ全滅する可能性もあるのだ。 また、堅持した場合の自分たちの役割を隣の中央左、第2小隊に委ねる形になる。 時間が掛かれば正面以外からも攻撃を受けた中央左が耐え切れなくなる可能性も出てくるだろう。 「もちろん、それ以外にも様々な手段、動き方や戦法があると思います」 どうするのかは小隊の8人次第だ。 敵の能力は決して複雑というほどではない。 個々の能力も弱いとはいえないが、強力という程ではないだろう。 問題なのは、唯……その数だ。 「とにかく、隊長であるゴーレムさえ何とかできれば大丈夫ですので」 E・ゴーレムはアーテクファクトそのものでもある。 倒せばアーティファクトも壊れ、力を失ってしまうだろう。 だがこのままでは、誰かが、何かが傷付き、世界も傷付いていってしまうことになる。 「色々考える事は多くなってしまいますけど……どうか、宜しくお願いします」 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタたちを見回すと、手をそろえ大きく頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月06日(金)00:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦いの、前 「面白い剣だな。これだけの戦力規模が単体で動くか」 『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)は呟いた。 惜しむらくはE・ゴーレムになっていたという事である。 「これを上手く活用できればかなりの戦力増強になっただろうに、残念だ」 「ローマ軍団かー、凄く強かったんだよねー」 『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)が布陣した兵士達を眺めながら口にした。 多数と多数のぶつかり合い。普段とは少々毛色が異なるこの任務。 (戦術だとか難しいことはよくわからんがやることはいつも通りだぜ―) 「真っすぐ行ってぶっ飛ばすー!」 1人3殺すればお釣りが来る人数差だけど折角だからエース(5殺)でも狙おうぜー? アンタレス、と愛用の黒いハルバード呼びかける。 「いーねいーね! 100vs40で大っきなパーティ始めるってー!?」 ハイテンションで嬉しそうに尋ねるのは『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)だ。 「昔っからパーティ行く時はコイツ(単車)ん乗るって決めてんだよね」 機嫌良さそうだし、コイツもさ! 上機嫌でそう言うと、甚内は敵である兵士達を眺めた。 「やー久々血が滾ってきちゃったよー」 今度の敵はちょーっと多いぜ? 楽しいパーティにしよーじゃん? 笑顔で口にする彼に近しいテンションで。 「合戦でござるですー!」 『サムライガール』一番合戦 姫乃(BNE002163)が、わらわの『はむかぜ』の初陣で ござるですと歓声のような声を発する。 「一緒に頑張ってわらわたちの初勝利にするのでござるです!」 なでなでしながら笑顔で話しかけ……そんな高揚した二人とは対象的に。 (流石に数が多いと緊張しますね) 「……ぇと、なんか映画を見てるような気分です」 冷汗が滲むのを感じつつ、雪待 辜月(BNE003382)は素直な感想を口にした。 これだけ大人数で行動するというのは珍しい。意識はしないようにしても緊張し、自然と鼓動が早くなる。 (微力を尽くして、皆さんの支援をします) 自分にできる限りのことをしたい。それに、そうしないと…… 「……この小隊凄く前のめりですし」 言葉にすると、不安が大きくなるような気がしてくる。 「真の勇者は一騎当千の大活躍をする場面なのですが……ボクはまだまだ実力不足なのです」 仲間の力がないと戦えないのです。 悔しそうに呟いてから、でも……だから、と『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)は気持ちを切り替えた。 「小隊の皆さんが全力を出せるよう頑張ろうと思うです」 パーティーサポートも勇者の役目。 「集団戦はボクの流儀ではないデスネ」 (しかし、古代から伝わるスパルタンな戦いは血沸き肉踊るものというのがボクらのような戦う者にとって心地よいのもまた事実) 『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)はそう結論を出して哲学を締め括ると、ふた振りを手に兵士たちに向かって語りかけた。 「せっかくデスノデ、思う存分暴れさせて頂くのデス」 「百人隊長の剣率いる100体の軍勢か――」 『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)は兵士たちに……いや、それを率いる百人隊長に想いを馳せ、語りかけた。 「なかなか面白い能力を手に入れたようだな」 担い手が現れなければ本懐を果たせない。 ならば自らを担い手として自らを揮えば良い。 そんなことを考えれば、内側から何かが燃え上がるように湧き上がる。 それらを素直に表情へと露わにしながら、美散は静かに言い放った。 「奴の出した答えに全力を以て応えるとしよう」 ●戦闘開始 第3小隊が敵の中央を誘き寄せ始めた事を確認すると第1小隊は行動を開始した。 行方と宗一は前進しながら肉体のリミッターを解除し生命力を破壊の力へと転換する。 岬も敵の射程に入る前にと全身に破壊の闘気を漲らせる。 リベリスタたちが戦闘準備を整えていくのを確認した兵士達も投槍を構え、狙いを定めながら距離を詰めてゆく。 やがて2つの隊は互いを攻撃可能な距離まで接近し……敵は一斉に振りかぶると、構えていた槍を第1小隊の前衛たち向かって投射した。 行方は速度を緩めくことなく身を低くして投槍を掻い潜るように前進し、美散は全力防御で凌いだ後、距離を詰めながらリミッターを解除する。 岬も同じく防御に専念する事で負傷を軽減し、甚内も凌いだ後に脳の伝達処理速度を向上させつつ笑顔を見せた。 「鉄砲は持ってこられた事あっけど、槍は初めてだっつーの!」 前衛たちはそのまま接近戦に移行する。 「強いものが栄光を手に入れる時代の申し子デスカ。ならば屈服してもらうのデスヨ、アハ」 全身のエネルギーを集中させた肉斬リと骨断チを、行方は兵士の一人に叩き込んだ。 直撃を受けた兵士はその一閃に耐え切れず、大きく後方へと吹き飛ばされる。 宗一は気迫の声と共に闘気を篭めた武器を兵士に振るう。 直撃と同時に闘気は破壊の力となって爆発し、兵士に癒せぬ傷を刻み込む。 美散も兵士たちが後衛達を狙いにくいようにと位置を取りつつ、力を篭めたランスで鋭い突きを放った。 兵士はかろうじて直撃を避けはしたものの、それでも受けたダメージは軽くない。 それに続くように光が、作り出した雷を兵士たちに向かって拡散させた。 放たれた雷を兵士たちは機敏に回避し、あるいは身を翻す事で直撃を何とか回避していく。 それでも、完全な回避には至らない。 「ハイエナ? サバンナ一の狩りの名人だよねー」 岬はそれらを観察し、もっとも負傷していると思われる兵士に向かってアンタレスを振るい、真空の刃を生みだした。 直撃を受けた兵士は血を流し、負傷に身体を揺るがせる。 辜月は翼の加護を皆に与えた後、マナサイクルで体内の魔力を循環させる。 「やあやあ 情熱もやる気も希薄だねー? ……だよねぇ?」 甚内は何かあればすぐに対応できるようにと辜月の近くに位置しつつ、ヴァンパイアとしての能力を活用しながら倒し損ねた敵を攻撃していく。 皆と足並みをそろえて前進した姫乃も力を結集させたランスで突きを放った。 兵士達もそのまま迎え撃つように剣を抜く。 かくして戦いは、白兵戦へと移行された。 ●敵陣突破 個々の戦闘能力ではリベリスタたちの方が実力が上と認識したのだろう。 兵士たちはリベリスタたちの動きに集中したり、負傷した味方を庇ったりと慎重に連携しながらの戦闘を行っていた。 行方は突破を優先し、吹き飛ばした相手は放置する形で敵陣を強引に切り開くようにして進んでいく。 「雪待、大変だろうが付いて来いよ!」 一撃で倒すのは難しいと判断した宗一は敵を弾いて陣形を崩す戦法に変更する。 美散は攻撃集中時にはオーラを纏わせた一撃を、味方を庇う兵士には強烈な爆裂する一撃でと、能力を使い分けながら戦闘を行っていった。 味方、前衛達の負傷が蓄積してきたと感じた光は、詠唱で清らかな存在に呼びかける。 岬は負傷した敵が周囲にいない場合はアンタレスにエネルギーを集中させ、強烈な一閃で兵士を弾き飛ばしながら進んでいった。 辜月は負傷した者への癒しと消耗した力の供与を、皆の様子を見ながら交互に行っていく。 (皆さんが十分動けるようにするのが私のお仕事です) 力の供与に関しては、結城、宵咲をやや優先する形である。 リベリスタたちの猛攻に兵士たちは耐え切れず、陣形に楔が穿たれた。 そのまま強力な攻撃を続け、第1小隊は敵の隊を引き裂くようにして前進していく。 包囲される危険はもちろんあったが、皆は第2小隊の援護を信じていた。 負傷し、あるいは吹き飛ばされ。兵士たちは負傷を蓄積させ戦線を離脱し、あるいは陣形を維持できず、敵の隊を第1小隊が貫いていく。 リベリスタ達の高い攻撃力があってこその結果ではあるが、同時に多少のダメージを物ともしない耐久力もあってのことだ。 攻撃力が高くとも耐久力に劣れば、敵の反撃に耐え切れず前進するほどに急速にダメージが増加し、途中で殲滅される危険がある。 もちろん攻撃力が不足すれば、そもそも敵陣に傷を付け突入する事すら困難なのだが。 第1小隊はそういった意味で、突破する為の攻撃力と耐久力を備えた強襲型の小隊と言えた。 無論、突入するほどに負傷も増加し消耗も蓄積していく。 だが、敵側も負傷は増大し、何より向かい合っての通常の攻防に比べると兵士同士の連携も隊を裂かれる形になる事で行い難くなっていく。 デュランダルたちの強烈な一閃で弾き飛ばされる兵士達も多かった。 連携する事で何とか戦線を維持しようとする兵士たちにとっては、この攻撃はダメージ以上の効果を発揮することになったのである。 簡単には決着はつかなかったが、激しい戦いの末に第1小隊は目的を達成した。 正面の2個小隊を完全に突破し、敵の背面まで到達する事に成功したのである。 もちろん、この戦果には第1小隊の後方に位置する第2小隊の援護のお陰も当然あった。 第1小隊の突破した敵が再集結や立て直しを行う前に、後ろに続く第2小隊がその攻撃力で以て敵兵を各個撃破していたのである。 この時点で第2小隊は撃破の最中ではあったが、消耗は大きくともその攻撃力は圧倒的で敵の完全撃破は時間の問題という感じだった。 もっとも、当初の予定の陣形を考えると第1小隊の戦果は『突破し過ぎ』という感じもあった。 この時点でリベリスタたちの陣形は『U』型というよりは『し』の字型とでも言うべき形になっていたのである。 とはいえ、当初の予定とは異なるものの、それもまた戦いだ。 そのまま急ぎ向きを変えると、第1小隊は敵中央後方の部隊へと進撃を開始した。 この時点でリベリスタ側の陣形は『し』から『C』の字へと変化するような形になりつつあった。 ●楔と盾 左手側のやや離れた距離で敵左翼側と戦っている第5小隊が見える。 もう少し近場、敵中央左からも戦いの音が聞こえてくるが、姿までは確認できない。 流石にそれをしっかりと確認するほどの余裕は第1小隊には存在しなかった。 敵中央後方に位置していた兵士たちは第1小隊が後背へと回り込んだのを確認すると、そのまま隊ごと第1小隊の側へと向き直ったのである。 他の隊と離れないようにと前進は行わず、戦いつつ徐々に後退していくという戦法を取っていたが……結果としてその戦い方は第1小隊の突破を阻む形になった。 ちなみに兵士達の後方、つまりは第1小隊の遥か前方では同じような戦いが攻守を変えて行われていたのである。 徐々に後退していく第3小隊と、前進していく敵中央前方隊。 もっとも、そちらの戦いは後退していく第3小隊が防御力や牽制などにおいて優れていたというのが突破されない大きな要因だった。 対して第1小隊が結果として苦戦する形になったのは、他の戦いで撃破を逃れた兵士たちが少数とはいえ合流し、敵の隊の人数が増加していた事などがあげられる。 もっとも、それらに怯む事もなく前衛たちは攻撃を続けていく。 「さてさて敵は多数こちらは少数。つまり一人が多数を仕留めれば圧勝なのデス。皆壊したり刻んだりするのは得意デスヨネ?」 行方は変わらぬ様子で両手の肉斬り包丁を兵士たちに叩きこみ、岬は鋭くアンタレスを振るった。 辜月は懸命に仲間たちを癒し、光も回復に専念する形になる。 それでも前衛たちのダメージは蓄積していった。 だが、敵の受けるダメージも大きかった。 「自ら当たりに来てくれるのなら寧ろ好都合だ」 深い傷を負った味方を庇う兵士に対して、美散が圧倒的な破壊の一撃を叩き込む。 自身も傷付いていた兵士は渾身の一撃を受けてよろめき、岬の放った真空刃を受け力尽きた。 反撃とばかりに兵士たちが深い傷を負った姫乃へとグラディウスを振るう。 「燃えよ、我が槍、我が魂!」 膝を折りかけた姫乃は未来をつかむ力を振り絞り、槍を手に戦いを継続する。 じわじわと押し込むように、それでも突破は許さず……戦いは膠着状態に陥りつつあった。 だが、この戦いの途中から第1小隊へと援護の戦力が加わることになる。 対峙していた敵左翼側を撃破する事に成功した第4、第5小隊のうちの第5小隊が、援軍として参戦したのだ。 全員が第1に攻撃していた中央後方は、これによって第5小隊の側にも戦力を振り分けることとなった。 加えて第5小隊からの回復の援護によって、第1小隊は蓄積していた負傷も軽減する事ができたのである。 攻撃を受けた敵の隊は圧迫されるようにして戦いつつ徐々に後退していった。 第5小隊とも戦いながらの為、第1小隊から見ると斜め後方に向かって下がっていく形になる。 同じようにその後方、第4小隊と戦っている敵中央の一部も、徐々に反対側へと押し出されていく形になっていたようである。 反対側で包囲網を形成していたのが第2小隊のみというのもあったのだろう。 それで、押し出された敵の一部は……包囲網の一角が薄い事に気が付いたらしかった。 敵の一小隊が自分たちの側に向かってきた事を確認した第2小隊は、自分たちだけでは包囲網を維持する事が困難と判断し第1小隊との合流を望む連絡を送ってくる。 連絡を受けた第1小隊は即座に判断した。 「第一小隊、これより援護に向かう。もう少し持ちこたえてくれよ!」 戦いを第5小隊に任せると、宗一が直ちに連絡を入れる。 かくして第1小隊は、第2小隊に向かおうとする敵を側面から攻撃するための移動を開始した。 ●戦いの先 一度決まれば行動は早い。 合流はもちろん戦闘の方も、決して困難ではなかった。 第2小隊へと攻め込み乱戦状態にある敵隊に、側面から攻撃する形で第1小隊は襲いかかった。 この戦いは圧倒的だった。 苦戦していたとはいえ第2小隊も殴られる一方だった訳ではない。 打たれ弱くはあっても殴られる以上の力で殴り返していたのである。 そこへ第1小隊が援軍として到着したのだ。 戦いは激しくはあったものの短時間で終了した。 敵の兵士たちは全て倒れ、消滅したのである。 この方面での戦いは決着したのだ。 もっとも、すべての戦いが終わった訳ではない。 第2小隊と合流した第1小隊は、そのまま急ぎ最後の戦場へと向かった。 敵の中央を第3、第4、第5小隊が三方より包囲している戦場へと向かった第1小隊と第2小隊は、共に到着すると開いていた最後の一方へと位置を取る。 これにより敵への完全な包囲が完成した。 とはいえ油断は禁物である。 敵中央の攻撃を受け続けた第3小隊は限界に近いようだった。 第4小隊が敵中央の一部と引き付けていたものの、中央には今回の目標である百人隊長がいるらしいのだ。 戦いは既に始まっており、戦闘不能となった者も出ているようである。 急がなければ突破はもちろん全滅の危険すらある。 そんな時だった。 閃光が兵士達を直撃し、続くように黒鎖が、雷が、そして無数の弾丸の嵐が、敵陣の一角に叩きつけられる。 「邪魔者は私たちが排除します!」 その呼びかけに、8人は即座に応えた。 乱れた敵陣の一角に突入し、そのまま第3小隊目指して強引に突き進む。 「居たぜ、あいつだ! 皆、あいつを狙え!」 第3小隊を、そして戦う一人の戦士を確認した宗一が、叫びながら兵士の一人を弾き飛ばした。 すでに力を失い、地面に倒れている者もいる。 そのまま第1小隊は、他の兵たちの攻撃を物ともせず無理矢理第に百人隊長へと距離を詰めた。 「さあさあ強兵は引かずただ消え去るのみ。兵は土に、隊は塵に。無残にバラけて朽ちるのデス。アハハハハ!」 行方が二丁を大きく振りかぶり、エネルギーを篭めて一閃する。 百人隊長、E・ゴーレムはそれを身を固め盾をかざして直撃を防いだ。 付近にいた兵士達が迎撃するように剣を構え走り寄る。 「楽んのしぃぃ~っ! 今寝ちゃうなんて勿体無くて出来ないってー!」 負傷した身に更に斬撃を受けた甚内は、それでも表情を崩さず運命の加護で危機を凌ぐ。 辜月は第3小隊の皆にも届くようにと天使の歌を響かせた。 (庇って頂く分の働きはしてみせます) 危険な状態にあった第3小隊の者たちが、ほんの少しだけ持ち直す。 敵味方が入り乱れる戦場で、数度の斬撃が交わされて。 「宵咲が一刀、宵咲美散。推して参る!」 全身の闘気を注ぎ込み爆発させた美散のその一撃で、決着はついた。 「……見事、だ」 その場にいた者たちを見回すように首を巡らすと、それだけ口にして。 次の瞬間、金属が砕けるような音が響き渡り。 一人の戦士が崩れ落ちる。 それに続くように兵士たちも次々と消滅し、やがて静まり返った平原には……リベリスタたちだけが、存在していた。 激しい戦いの後はあっても、それ以外の物は何ひとつとして残っていない。 いや、ひとつだけあった。 百人隊長のいたその場所には、折れた一振りの剣が転がっていた。 それに向かって、美散は静かに問いかけてみた。 無論、返事はない……それでも。 辜月が負傷した皆に応急の治療をしようと心配げに声をかける。 静寂を取り戻した平原を、静かに風が渡っていった。 それこそが、リベリスタたちが勝利した、守り抜いた日常の証だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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