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<黄泉ヶ辻>幼製ガーデニング

●ある少女の未来
 みんな逃げてる。
 あたしから一生懸命逃げていく。
 なんで逃げるんだろう。鬼ごっこなのかな?
 いつも澄ましたあの子も、あたしをいじめるあの子も、あたしが苦しんでても知らない顔する先生も。皆そろって逃げ回ってる。
 でも、あたしは嬉しいよ。
 だっていつもなら皆、あたしのことを知らない顔するかいじめるのに、今はそんなことないもん。
 だから、いっしょにあそぼうよ。
 今からおいかけるからね? いくよー。

●ブリーフィング
「エリューションというのはどうしてこう、時と場所を選んでくれないのでしょうねえ」
 ブリーフィングルームにおいて『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)は頭を振った。
 この場にリベリスタが揃うということは事件が起きるということ。今回もまた、例外ではない。
「今回起きると予知された事件はこちらなのですけどね。少々ショッキングかもしれないですよ?」
 そう言った四郎がモニターに映し出した映像。そこには一人の少女が映し出されていた。
 年はまだ若く、少女というにもまだ若い。そういった年頃の少女ではあるが……その映像の少女は、腰から下の部分が巨大な球根のようなものに変質していた。
 球根状のモノの根元からは触手のように多数の茎とも根とも取れない蔦上のものが繁茂し、表情は虚ろながらも多幸感に溢れた笑みを浮かべている。
 その胸から腹にかけては刻み目のようなものがあり、食虫植物のように開く口と化していた。
「彼女は麻木まゆ。小学二年生で、クラスでは少々廻りから浮いていたようですね。
 休み時間に突如革醒し、急激にフェーズが進行するようです。覚醒の原因まではわかっていませんけどね」
 年端も行かぬ少女の覚醒。ただの運命の気まぐれか、それとも引き寄せるだけの何かがあったのか。
「彼女はエリューションと化した後、クラスメイトを次々に襲い取り込んでいきます。
 あまり目立つとよろしくないので出来るだけ保護してくれるとありがたいですね。まあ、多少の被害は仕方ないのですが。最優先すべきは彼女の討伐です。よろしくお願いしますね」
 四郎はそう言って資料をリベリスタ達に配る。事件の場所、エネミーの情報等が載ったそれらの資料を配布しながら、ある一言を付け加えた。
「それと……どうやらこの件には七派のうちの一つ、黄泉ヶ辻に所属するフィクサード。『庭師』と呼ばれる人物が関わっているようです。直接今回、事を構えることはなさそうですが……一応気に留めておいてくださいね」
 少女の不幸を終らせるためにリベリスタ達は向かう。惨劇が待ち受ける学び屋へと。

●ある少女の回想
「なるほど、君は苦労してるんだね」
 公園で彼女はある男と出会った。知らない人について行っては行けない。それはどの大人も等しく、口を酸っぱくして彼女に言い含めていた言葉である。
 だが、現在隣にいるこの男は不思議と拒絶する気にならなかった。むしろ一緒にいると不思議な安心感を感じるぐらいである。
 いつものように学校で阻害されている少女は、この公園に立ち寄った時に男と出会い、悩みを打ち明けたのだ。
 クラスに馴染めない、苛められている、先生は何もしてくれない……それらの悩みに男が返した言葉が、先ほどの一言であった。
「大丈夫、君が強く想えばいつか逆境も越えて望みが叶うよ。君はいくらでも強くなれる」
 男の言葉は、少女にはやや難しかった。だが、彼が自分に共感し、励ましてくれているのだろうということを、彼女は理解した。
 そして男は少女に一つの物を手渡した。それは一つの細工物。植物の種のようなものを樹脂で固めた、結晶状のアクセサリー。
「この種は君の強い思いに応えて芽を出してくれる。それほどに強い思いを持つことが出来れば、君が望む未来は開けるはずだよ」
 そうして男は去っていった。少女はその時受け取った言葉と物を、宝物とすることに決めたのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月30日(金)23:21
●馳辺の資料
■フィールド:某街小学校

■環境
 授業中の小学校です。三階建てでかなりの大きさがあり、事件は二階二年の教室で起きます。
 クラスの他の生徒は逃げ回っており、それを追ってエリューションは学校を徘徊します。
 他のクラスでは通常通り授業が行われており、発見された場合パニックとなるでしょう。

■勝利条件
 麻木まゆの撃破

■エネミーデータ
・麻木まゆ(E・ビースト フェーズ2)
 ・小学二年生の少女を核に植物が繁茂したエリューションです。
 ・胸部から腹部にかけて、食虫植物のような口となっています。
 ・下半身は球根のようなものになっており、蔦のような支持部位で移動します。
 ・自我らしきものは残っていますが、会話はまともに成立しないでしょう。
 ・可能な限りリベリスタよりクラスメイトの追跡、捕縛を優先します。
 ・攻撃能力は下記
  ・蔦槍 遠単物
  ・噛み付き 近単物 出血
  ・捕食 遠2物単 ダメージ0、麻痺、猛毒
   命中した場合、まゆの場所まで引き寄せられます。一般人が捕食された場合2ターン後に消化されます。
  ・樹海縛 遠物全 ダメージ0、呪縛

・『庭師』(フィクサード)
 ・黄泉ヶ辻所属のフィクサードです。
 ・詳細は不明。今回直接相対することはないでしょう。

●マスターコメント
 気をつけよう 優しい言葉と 甘い罠
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
ソードミラージュ
山田・珍粘(BNE002078)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)

●造園
 その男は路地より見上げていた。
 柔和な笑みを浮かべた線の細い優男。その雰囲気は穏やかで、対話する者に安心感を与える気配を持っていた。
 男が見上げているのは学び舎である。
 子供達が基礎の学問を学ぶ為の施設、小学校。それを見上げる男の目は慈愛に満ちていた。
「君の感情はようやく芽吹いたんだね。よかったね、がんばったよ」
 そう呟く男の言葉満ちていたのは、まごうことなき愛情。慈しみ育てたものが芽生えた時に向ける優しさが確かに、そこにはあった。
 眼前にある小学校で起きている出来事は、決してそのように優しいものではないというのに。
 男の側を一団が走り抜けていく。彼らの目には緊張感や怒りといったものが窺われ、脇目も振らずに小学校へと駆けて行った。
「さて……ここからは自立できた君の問題だね。応援するよ、がんばれ」
 そういい残し男は街へと消えていく。幸せそうな表情で、あの子への祝福を残して。
 ――その男は『庭師』と呼ばれていた。

●歪んだ庭園
 ――校舎内は阿鼻叫喚であった。いや、正確には教室内というべきだろうか。
 事件の中心となる教室は、突如起きた異変を受け入れられずに絶叫と悲鳴、怒号が満ちた空間となっていた。
 年端もいかない少年少女達が多数存在するその場所。授業が行われていたその場所は、一転して地獄のような状況となっていた。
 内部で密やかに発生した恐慌。それを最初に目撃したのは、外部より予知を元にして駆け込んだリベリスタ達である。
 二手に分かれて探索と避難を行う決断をするリベリスタ。教室に先に辿り着いたのは一方の一団である。
 逃げ惑う子供達を掻き分けて辿り着いた教室。そこに広がる光景は決して良い状態ではなかった。
「やだああぁぁぁぁ!」
 響く子供の悲鳴。蔦に絡みつかれ、恐怖に怯え悲鳴を上げ続ける子供。植物の繁茂したような室内。それらは全て室内に存在する一人……一体、もしくは一株。どう指すかはわからないが『ソレ』によって生み出されていた。
「おい! その子を離せ!」
 勢いよく飛び込んだ『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が子供に絡みつく蔓に対し、手にした黒鋼のトンファー『√666』を叩きつける。
 強かに打ちつけられたその打撃は蔓を切断はしなかったが、強い衝撃に蔓が緩み、子供は拘束から解き放たれ地面へと転がった。
「……だれ?」
 空ろな声が響く。植物に苗床にされるように融合し、植物そのものとなった少女。かつて麻木まゆだった少女の声。
「みんなと遊んでるんだよ。あなたたちじゃないよ」
 感情がないわけではない。情動が豊かとはいえないが、確かな思いがそこにある。だが、理性が存在しない。思いついたままの言葉を垂れ流すような、単純な言葉。
「そう言うなってまゆちゃん。お兄ちゃん達とも遊ぼうぜ」
『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)がシニカルな笑みを浮かべ、まゆに語りかける。
「大丈夫。私達が守ってあげる……」
 まゆが取り落した子供をすぐに『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)が庇うように守り、教室の外へと連れ出していく。まゆはそれを見ながら、どこか困ったように表情を変えた。
「まってよ。連れて行かないでよー」
 まゆの興味の中心はあくまでクラスメイト達なのだ。立ち塞がるリベリスタ達も、基本的にはどうでも良い存在なのだ。
 リベリスタ達を無視するようにまゆは廊下へと子供達を追って向かおうとする。
「おや、いけませんね。ごっこ遊びの時間は終わり」
 それを阻止するように扉の前に立つのは『残念な』山田・珍粘(BNE002078)こと那由他・エカテリーナ(自称)。二本の長剣を抜き身に立ちはだかる彼女はまゆの外出を許さない。
「これからが本番です。――それじゃあ面倒な殺し合いをはじめましょうか?」
 どこか楽しげに微笑する那由他。彼女の心根は他のリベリスタとは一閃を隔す。他の者が善意で思考する者が多い中、彼女に関してはその意識が薄いのだ。
 無慈悲にして確実な開放。わかりやすい終わりを彼女は望む。最も先の無き救いを。
「ちょっと、通してよ」
 まゆの植物部より伸びる蔦がぐにゃりと蠢き、道を塞ぐ邪魔者へと襲い掛かる。一本二本、より多数の蔦が槍となり襲い掛かった。
 那由他はそれらを身を捻り、時に受け流し、逸らしていく。雨霰と降り注ぐように放たれる槍をステップを用い、致命的な一撃は受けぬように凌ぐ。
「おや怖い怖い」
 緊張感の薄い調子で那由他は襲い掛かってきた蔦を切り払う。切り捨てられた断面より奇妙な色をした汁が吹き出し、教室を濡らしていく。
「追いかけっこだけじゃなくて、お兄ちゃんとも少し遊ぼうよ」
 どこか優しげに、そして悲しげに夏栖斗が手にした得物を振るう。
 クラスメイト達に執着するまゆを逃さないよう、支持茎部へと叩きつける。その部位へ叩き込まれた打撃は表皮を突き抜け内部からそれを破壊する。
「……あれ?」
 内部から破裂するように支持茎の一つが破壊され、がくんと上体が傾く。だが、支持茎は複数存在し、さして気にも留めぬような様相でまゆは外へと進もうとする。
「いかせないって! まゆ、お前は遊んでるつもりだろうけどそれは傷つけてるんだ!」
 俊介もまゆの進行を押さえ込むように立ち塞がる。本来は癒し手である彼だが、今は彼女を行かせるわけにはいかない。ポジションも何も関係ない、意地でも通さない。そのために。
「だから……通してってば」
 ぞわり、とまゆより伸びる根や蔦や茎、そういった植物部が蠢き、部屋を埋め尽くすように急激に伸びた。
 繁茂する植物はリベリスタ達を拘束する網となり、その動きを止める。捕縛される者、かろうじてそれらを逃れる者もいるが、場は急激に緑に包まれ自由を奪い去る。
「じゃあね、お兄ちゃん達」
 拘束による僅かな隙をついてまゆは支持茎を動かし教室から去ろうとする。悠々と拘束した相手の脇を抜け、まゆは教室から去ろうとし……
「どこへ行こうというのです?」
 凄まじい衝撃がまゆに叩きつけられ、室外へと押し戻される。
 扉の向こうに立っていたのは、銀色。押し戻したは白銀の槍。貫く意志を具現化したかの如き槍『Convictio』を手にした『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)。
「オウ、大変そうだな。今なんとかするぜ」
 どこか浮世離れしたというか、凄惨なる場においても穏やかさを絶やさない『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が後光の如き穏やかな光を放つ。光は室内のリベリスタ達を縛る拘束を緩め、開放した。
「痛いだろうけど……早く終らせてあげる」
 新たな闖入者と共に戻ってきた羽音が憂いを帯びた表情でまゆを見つめる。避難誘導を行っていた彼女は、同様に別行動をとりつつ子供達を逃がしていた班と合流し、戦場へと戻ってきたのだ。
「遊ぶのは子供の義務じゃが、ちと度が過ぎているのう」
 どこか困ったような、呆れたような表情を浮かべつつ『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)も室内へと踏み込んでいく。
「どれ、まゆとは他の子の代わりにわらわが遊んでやろう」
 そう言い銃を抜く瑠琵。夜空に輝く七星の如きその銃『天元・七星公主』は本来の銃ではない。彼女の陰陽の媒介となる術具であり、現在この場においてはまゆと遊ぶ為の遊具である。生死のやり取りという遊戯ではあるが。
「なんとかしたいですが、さすがに難しいですかね」
 最後に『不屈』神谷 要(BNE002861)が入り口を塞ぐように立ち塞がった。剣を携え、油断なく盾を構えていついかなる攻撃も凌げるように備えた彼女に隙はない。
 それはまゆへと同情する心であろうとも、決して歪みはしない。だからこその、不屈。
「お兄ちゃん達、なんで友達と遊ばせてくれないの? まゆは絶対に皆と遊ぶんだからね」
 ぐにゃり、と植物が蠢き胴の口がギチリと軋む。先ほどとは比べ物にならない敵意がリベリスタ達へと向けられる。
 彼女はここに至り、リベリスタ達を障害と認めたのだ。

●少女園芸
「さあ来なさい。相手をしてあげますから」
 要が剣を一閃すると激しい閃光が放たれ、まゆへと叩きつけられる。その光は意識をざわめかせ、要に対する敵愾心を相手に刷り込む一撃である。
「ちょっと、やめてよ」
 どこか危機感のない否定の言葉と共に、まゆの蔓が再び槍となって要へ襲い掛かる。そこにフツが展開した守りの結界が展開され、要を含むリベリスタ達を包んだ。
 守りの力と自らの装甲を持って、襲い掛かる槍を正面から受け止める要。槍が強かに手にした盾へと打ち付けられ、逸らされる。高い守りの能力を持つ要にとって、それは決定打にはなりえない。
「貴方はこのようなことが望みだったのですか?」
 要が攻撃を受け止めながら問いかける。
「友を作り、仲良くしたかっただけではないのですか?」
「みんなまゆを虐めてた。きっとまゆがびくびくしてたから」
 戦いの最中ながらも穏やかに問いかけられるその言葉。その言葉に対し、まゆは答える。だが、それは決して問いに対して答えているという感じではない。
 耳から入る言葉に、自分に残されている記憶から追憶する。独白のような、その言葉。
「まゆ、つよくなったよ。だからみんな、一緒にあそぼう?」
「遊ぼうって? まゆ、お前遊びたかったんだよな! ……今のお前は遊んでるんじゃない、傷つけてるんだ!」
 皆に刻まれた傷を塞ぎつつ、俊介が叫ぶ。
「虐められてたって言ったな! だったら傷つけること、傷つけられることの悲しさはお前が一番わかってるだろう!? そうだろ!?」
 怒鳴りつけるような言葉。一線を越えてしまった少女に問いかける、俊介の言葉。人でなくなってしまったけれど、最後まで人として居てほしい。人間を取り戻してほしい。そう願っての叫び。
「そうだぜ、まゆ。君は本当にこんなことを望んでたのか? ――お前の願いはこんなことだったのかよ」
 夏栖斗もまた、穏やかに問いかける。通じないかもしれない言葉であっても、問いかけることはやめない。誰かが少し優しければこうならなかったかもしれない。そんな無念の込められた言葉。
「あの日、貴方に種をくれたのは、悪い人なの。そのせいでこうなってしまったから」
 羽音は優しく言葉をかける。こうなってしまった現実を憎みながら。自らもかつて、エリューション事件によって大切な人を失った。その傷は癒えてきてはいるが、それでも神秘によって起きる悲劇への憎しみは消えはしないのか、彼女の中に燻っている。
「人殺しはさせたくない。――だから、早く終らせてあげる」
 宣言、そして轟音。手にした『ラディカル・エンジン』が唸りを上げる。人もエリューションも関わらず、その刃と動力は血と復讐と殺意を求める。道具らしく、どこまでも。
「――みんな、あそぼう?」
 まゆのその呟きと共に、多数の蔓がリベリスタ達へと襲い掛かる。一人づつ確実に仕留めようと、一点集中、また次へ、と襲い掛かる。
「やれやれ、仕方ないのう」
 瑠琵は目を凝らして凝視し、まゆの状態を観察する。一点でもいい、彼女を救うための手がかりを探そうと。原因となった媒体の『種』、それさえ摘出すればなんとかなるのではないかと。
 ――辿り着いた結論は、不可能。
 すでに種は発芽し、まゆへ根を張り一体化して一つの存在と変質している。救うというならば、それは彼女の生命の否定。
「――無念、じゃな」
 そう呟いた瑠琵は即座に意識を切り替え札を撒く。札は小鬼を生み出し、瑠琵の施す術式をアシストする。
 銃声と共に放たれたのは一羽の鴉。その式はまゆへと纏わりつき、その植物と融合した肉を抉り取る。
「いたい、いたい!」
 悲鳴を上げるまゆ。実際に痛みを感じているのか、反射として口にしているのか。言葉とは裏腹に苦痛を感じた様子もなく、蔓を振り回してリベリスタを襲い続ける。
 やがて振り回された蔓がノエルを捕らえ、一気に懐へと引き寄せられる。
「くっ……!」
 力任せに暴れるが、まゆ本体のもつ少女のイメージとは一致しない凄まじい力で引きずられるノエル。やがて懐へと引きずられた彼女へ、胴の口が大きく開き噛み付いた。
 肉を抉り、血を撒き散らす。こそがれた肉片は胴を下り、下部の球根部へとぼたりぼたりと入り込むのが透けた肉構造から見える。
「そうはいかないんだよ!」
 俊介が叫び、術を解き放った。光はノエルを包み、傷を癒すと共にその身を外敵から守るように作用する。触れた蔓がじゅう、と音を立て焼け焦げる。外敵に作用する光の鎧は浄化の力を発揮するのだ。
「少々忍びないですが……離して貰います!」
 そこへ要が飛び込み、剣を振るった。自身の持つ神秘の守りを攻撃に傾けるその刃は敵を打ち倒すべく激しく輝き、切り裂いた。
 蔓が、茎が、そして肉が。激しく焼かれ、切り裂かれる。そこへさらに飛び込むのは、那由他。
「自分の望む形であろうとも、やったことには報いがありますよね」
 半ば仮面に覆われたその表情が楽しげに歪む。自業自得。例えどのような理由だろうと、報いは本人へと返される。
 一閃二閃と高速で振り回された刃はまゆの胴を大きく刻み、その機能を一瞬なりとも麻痺させる。それによって緩む、ノエルの拘束。
 その隙を逃さず拘束から逃れたノエルは一旦距離を取り、手にした槍を構えて床をしっかりと踏みしめた。
「皆さんは遊んであげていますが――お遊びはここまでです。消えなさい」
 ノエルの眼光が鋭くまゆを睨みつけ、弾かれるように駆け出した。自らの体重とダッシュ、それに膂力の全てを載せた渾身のランスチャージ。その一撃は狙いを違わずまゆの胴を貫き、大穴を穿つ。
「やだ、やめて……!」
 命乞い。されどまゆの表情は空ろなままで。
 そこにさらなる一撃が叩き込まれる。激しい動力音を奏でる刃が、羽音の膂力と共に叩きつけられる。エンジンの轟音と、肉を切り裂き植物を砕く破砕音が不協和音となり、教室へと奏でられる。
 それは人に対する殺傷か、それともただの伐採か。
「もっと早く助けにこれたら何か変わったかもしれないのに。――ゴメンな」
 夏栖斗の謝罪。言葉と同時に手にした得物がまゆへと叩きつけられる。その一撃は明確ではない彼女の人であった部分とすでに人ではない部分、境目へと叩きつけられ……
 ――少女に根付いた庭園は、今終わる。

●廃園
「――何か言いたいことはあるかい?」
 フツは手に数珠を握り締め、語りかける。先ほど終らせた、まゆへ。まゆだったものへ。
 生死の境界を越え、彼の言葉は少女へ届く。それは御仏の慈悲か、彼自身の功徳の結果か。
 彼の目に映る少女は、悲しげな顔をしていた。
「話をしてくれるつもりがあるのなら、一つだけいいかい? 知らない人に会って、何か貰ったり言われたりしなかったかい?」
「放っておいたら沢山の人が不幸になる……私達はそれを防ぎたいの。教えてくれる?」
 羽音もまゆの遺体へと語りかける。少しでも先の悲劇を無くす為に。
『……あのおじさんは、私は変われるって言ってた』
 少女の霊。もしくは少女の遺体の記憶。それは問い掛けへと応える意志がある。
 彼女は誰の不幸も望んでなどいない。ただ、自分に勇気が欲しかった。結果としてこうなったが……彼女は誰も恨んでいない。
『よくわからないけれど、あの人と話してたら……凄く安心したんだ』
 彼女が残す記憶は、さしたるものはない。少女の弱った心に与えられた優しさ、ただそれだけ。例え優しさの裏に何があったとしても、彼女はそれに救われた。
 心の救いと、人としての救い。彼女は今、二回救われていた。
『――うるさくしてごめんね。みんな』
 それを最後に彼女からの意識は、途切れた。伝えるべきことも、伝えられることもそれで全て。彼女の長くない一生は、さしたる情報量を与えはしない。
 ――命の重みは、長さで計れるものではないとしても。
 彼女の遺体をリベリスタ達は隠すように持ち帰る。誰の目にも残らないように、神秘を秘匿する為に。彼女より見えざるエネミーの情報を得る為に。
 ……そして彼女を弔う為に。

 ――後に小学校において起きた事件はただの事故、老朽化。そういったものとして処理される。
 人でなくなった少女の事も、人を取り戻そうとした者達の事も全て忘れて。忘れさせられて。
 残ったのは生徒の一人減った学校。そしてリベリスタ達の心に残る、思いと記憶。

「次に見かけたら必ずぶっ殺してやるよ、庭師」

 誰かが言った、その言葉。
 復讐か、正義感か。リベリスタ達の戦いは続く。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 生徒被害ゼロ。
 徹底した生徒を守る行動と意思のおかげです。
 描写はされていませんが、避難誘導がしっかり行われた為ですね。
 庭師はまたいつか何かを行うと思います。

 少女が終わり、世界は回る。
 それではまたいつか。