● 「……ちくしょう、くそっ、オレだって頑張ってるのによ……」 路地裏を歩く男の心は荒み、そして疲れきっていた。 仕事の不調。上司からの叱責。そして自棄酒。――良くある話だ。 「あー、もー! やっぱ神様なんていねえな!」 彼も彼なりに頑張っているつもりだった。だが結果はついて来ない。 同僚は次々と成果を上げ、自分の成績は低く、昇進など夢のまた夢。 「もしもいるってんなら、オレを救ってくれよ!」 そんな理不尽な罵り文句を吐き、傍らのゴミ箱を蹴る。 蹴飛ばされて倒れた、その衝撃でゴミ箱から空のペットボトルが転がっていく。 それを何の気なしに目で追って、そして気付いた。 光だ。 路地裏に光が差している。 思わず見上げて、目が潰れるかと思った。 どうしてこんな眩しい光に今の今まで気付かなかったのか。 いや、だが良く見れば直視しても目に痛みが走らない。 だというのに、確かにそれは太陽のような激しい輝きで。 ――神々しい光、そんな言葉が頭を過ぎる。 「……あ、ああ……な、な……」 光を放つそれは中空に存在した。 それは平たい円盤状で、どうやら白色をしている事が辛うじて分かる。 輝きに紛れてハッキリは見えないが、その上に何かが乗っていることがわかる。 これは何だ。まさか台座――いや、玉座だというのか。 「これって……」 円盤は、ゆっくりと高度を下げて来ている。 男の目前に向けて、緩慢に。だが着実に。 いつしか、円盤の上部がはっきりと男の視界に入ろうとしていた。 「まさか……」 神々しい不思議の光に満ちた円盤の上。 そこに座するべき存在は、一つしか思いつかなかった。 荒唐無稽だとも思う。だが、それでも、輝きは余りに眩く、言葉に出来ない威厳は男のアルコールに鈍った脳を射抜き、畏怖と、そして幽かな期待を止め処も無く喚起させていた。 「神様――!?」 しかし思わず身を乗り出した視線の先、円盤の上には誰もおらず――否、何かが乗っていた。 それが、咄嗟には想像できない動作で跳ね上がり、口もないのに叫んだ(?)。 「とんでもない! あたしゃシメサバだよ!」 ● 「よし帰る」 リベリスタ達が一斉に立ち上がった。 説明を終えた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)から視線を逸らし、即座に出口を確認する。 扉は全開。冬にも関わらず窓も開いている。 完璧だ。そう、万一を考えてどちらも開けておいたのである。 これまでの経験が、反省がリベリスタ達を歴戦の勇者に成長させていたのだ。未来視など無くとも危険を察知し、退路を確保しておく。これで今度こそ、この頭の痛い依頼からのサボタージュを! 「だめ」 イヴが一言そう言い。指を器用にパチリと鳴らした。 バタン! バン! バン! ガチャ! ガシャン!! 扉が、窓が全て勝手に閉まった。 挙句その全ての下から鉄格子がせり上がった。 ブリーフィングルームが、あっという間に檻に変わった。 「さすが智親。いい仕事」 イヴが満足げに一つ頷く。 「「「何作らしてんだーーーーー!?」」」 ア ホ か 。 今、リベリスタ達の心は一つだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月28日(水)23:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● それは、紛い物の神である。神真似の贋物である。 だがそれでも、人が神に縋る想いの一部が具現化した姿なのだ。 その威厳は正に神域。 天より降りし双球の鉄塊、共に舞い降りし母なる海の恵み。 しかしそれらが纏う空気は、正に創造神が与える試練や天罰を髣髴とさせるだけの迫力を有している。 そして中空を漂う薄い円盤、その上で自身も光り輝くその威容たるや―― やめとこう。言葉をいくら飾り立てても意味がない。 ――ぶっちゃけ、鉄アレイが邪魔で、シメサバが生臭い。 ● 「そんなスキルは無い! 整理整頓は日々の積み重ね!!」 そんな叫びに、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)は悶絶しつつも言い返す。 「……ぐ、これでも本当は整理整頓を代わってくれる小人さんが欲しいって言いたいのを遠慮したんだけ……ガッ!?」 開幕早々にシメサバの動きを止めようと『冷凍食品は鮮度が命!』等と叫びつつ凍れる拳を放った彼だったが、流石は単体でありながらも万華鏡に8人の派遣を判断させるシメサバ様。一言目でクルトの拳を跳ね除け、二言目で腹部に重い一撃を叩き込んだのだ。 挙句、運悪く鉄アレイまで直撃した。 クルトの願いは『一回整理したら一年は整理しなくても持つくらいの整理整頓スキルが欲しい!』 神の力を超えないよう配慮した願いではあったが、シメサバ様はそれでもお気に召さなかった様である。と言うかそもそもどんな願いならお気に召すんだよって話だが。 「…イヴくんこわい。……というか、アークこわい。どうしてぼく、来日しちゃったのかしら」 その隣で己が身体のギアを最速に向け上げつつある『作曲者ヴィルの寵愛』ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)が、どこか根源的な疑問を口にした。 「生臭い……」 ぶつかったシメサバの匂いに眉をしかめながらも、やせ我慢を押し通し脳の集中力を極限まで高める『脆弱者』深町・円(BNE000547)は、演算能力を上げた脳みそがその生臭さをより細密に認識してしまって思わず言葉を漏らした。行動には特に枷は掛からないが、そう言う問題ではなく、辛い。 「あー怖い。怖くて生臭いけど仕方ない」 ──だんっ そんな酢っぱ臭い空気を割り、一発の呪弾がシメサバ様の皿にヒビを刻んだ。 「シメサバ様! 皿が本体だったりします?」 超越者の空間内で呪いの弾を初手から撃ち込むことを優先し、冗談めかして確認する『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)。 「行きたいのはお前1人じゃないんだよ! 無理だったら大人しく諦めて次を待つ! ファンなら待てる!」 あまつさえ首をめぐらせて睨んできた(※ただし首はない)シメサバ様に、偉そうな事を言われたりもする。ついでに鉄アレイがめしりと側頭部に直撃したりもする。コメディ。 声優イベントのチケット当選を願ったのだ、七海は。倍率86倍と言う激レアチケットである。オークションにまで縋り負けたり騙されたりして、それでも未だ諦めないその根性は正にファンと言うのに相応しかろう。 もちろん、シメサバ様は納得しなかった訳だが。 あと多分どっかの狗系フィクサードが草葉の陰で泣くぞ。 「サバ嫌いなのに……」 開始早々シメサバと鉄アレイの地獄、いや天国と化した場の空気にげんなりと呟きながら『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が張った結界は、守護として鉄アレイや海産物の威力を少しだけ軽減し始める。 「神なんていねえ! ましてシメサバなんて神じゃねえ! 神なめんなー!」 邪悪でロリロリな声(意味は聞くな)が戦場に響き渡る。『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)の挑発だ。 「神はあのときわたしを見捨てた! ぜったいに、ゆるさない!」 神への嘆き、または窮地でこその信仰を告白する詩篇の冒頭。磔にされた救世主がどちらの意でそれを叫んだのかは聖書研究者に任せるとして、エリエリは三白眼でシメサバ様を見据える。 「ましてやまがい物……ていうか食べ物! 食べ物じゃないですか!」 その言葉を偽名にした少女の『神』への思いが単純なわけもないが、少女は言葉を投げかけながら抜け目無く己の脳の演算速度を上げている。想いとは別に、彼女もまたリベリスタなのだ。 「そんな事言われても ウチ シメサバやし」 「てめーーー!?」 ――それだけに、あんまりにも程のあるシメサバ様の反応にキレるのも無理は無かった。 「後、自分の評価は自分で作るもんよ。人任せで得た評判、ほんとに欲しいん?」 挙句やっぱり願い事に駄目出ししつつ、なんか撫でてきた。シメサバなのに。 「……ぐうっ……!」 思っても見ない言葉と反応にか、それとも至近距離で浴びた理不尽な威厳と薫りにか、あるいはその両方にさしもの超強気少女もたじろぐ。 尚、彼女の願いは『わたしを名実ともに真の邪悪ロリとして世間にみとめさせろ!』だった。邪悪ロリ()なんてもう言わせない! 自分こそが邪悪ロリ! スキルだってそう言ってる! そんな思いの篭った願いだった。――撫でて来たあたり、多少お気に召したのかも知れない。 まあでも、叶えないけど。所詮シメサバだし。 「ホイホイ来ちゃっ……痛っ」 「あう!?」 首尾よくエリューションを召喚できたことに満足の声を上げつつ、範囲外に逃げようとした『わたくさひめ』綿雪・スピカ(BNE001104)と、そして『ナーサリィライムズ』アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)が悲鳴を上げる。逃げつつも体内の魔力を活性化、増幅させていたスピカと、狙撃手としての感覚を研ぎ澄ましていたスピカの二人である。頭上に召喚されたシメサバ様のしめ鯖&鉄アレイ空間から逃げ切れなかったのだ。 「学問に王道無ぁし! と言うか願い事が生臭い!!」 追い縋っての一撃が、届く。シメサバ様はリベリスタ達の頭上を猛スピードで突破し、その拳骨(?)をスピカの頭部に叩き付けた。 「生臭いとか……あなたが……言う……?」 強打されたスピカは言い返しつつも力なく倒れ、起き上がらない。 リベリスタ達の顔に焦りが生まれた。いちいち冗談臭いシメサバ様だが、やはりその一撃の威力は絶大。防御にも耐久にも秀でないスピカでは耐え切れないほどに。 或いは、『学年末の通信簿、オールAを切実希望よ。来年受験だし、成績悪かったら内申書に関わるもの。個別評価もうーんと良くして、足りない出席日数は適当にツケといてv』と言う彼女の数え役満の様な願い事がよっぽど、エリエリとは逆ベクトルにお気に召したがゆえの威力なのかも知れないが――ついでにあえて言おう。そんな形で背伸びした学校に入っても周りについていけないぞ。 しかし、何にせよ戦況は何名かが懸念した通り、前衛も後衛も無い乱戦となったのだ。 ● スピカの次に限界を来たしたのはクルト。前衛で戦い続けるゆえの必然の一つではあった。 「ここで倒れたら……アークの俺の戦闘記録に『シメサバに倒された』と記される……。 ……うわぁ、嫌すぎる。倒されてたまるか! 人間の意地舐めんなシメサバ!」 しかし、運命を燃やして倒れる事を拒否。と言うか凄い気合だった。 その後ポルカもまた重傷を受けるが、同様に運命を燃やす事で踏み止まり、前衛の負担を軽くする為に七海が前に出て攻撃を受け持つ。 工夫とギリギリの見極めの上で、リベリスタ達はそれ以上戦力を削られる事無く戦い続けていた。 「生臭い? もともとわたしの手は鉄臭いんですよメタルフレームだから! 慣れてますよ! 泣いてなんかいませんよ!?」 ――ちょっと訂正。精神力は削られても、それ以上戦力を削られることなく戦い続けていた。 「誤解は言葉で解ける! 表現が苦手なら口使え口!」 召喚の際の『すこしだけ感情表現が、上手になりたい』と言う、冷たい人間と思われがちな事を悲しむ願いへの返答なのだろう、例によって偉そうな言葉を叫んで振り上げたシメサバ様。その拳をギリギリでかわし、ポルカはカウンターで吸血を狙う。拳は避けたが鉄アレイのダメージが溜まりつつあったからだ。 「ぼくは、なにから吸血をすればいいのかしら」 そんな疑問に動きが止まりかかる。 シメサバ様本体か、それとも皿か、鉄アレイなら鉄分はたっぷり。 しかしそのどれだったとしても、ちょっと大胆に豪快な食事風景でしかないのでは。そんな懸念が彼女の動きを一瞬鈍らせたのか、シメサバ様はグネッと皿を捻って吸血を回避した。 「なにこれシュール」 非常にダリな有様を至近で目の当たりにしたポルカが思わず零す。当人はすごくすごく真面目なのに、その武威も侮れないのに、なのに敵が敵なせいでなんとも緊張感に欠ける。 「……頑張らないと」 そんなシメサバ様の懐に、襲い来る鉄アレイとシメサバの隙間を縫う様な俊敏な動きで潜り込むのは円。その手に握られているのは毒針。 荘厳な発光にも魚臭さにも怯む事無く突撃した彼女の針は、シメサバ様の身体を形成する切り身の一つに見事に命中した。 「自分から動けばきっと出来る。大丈夫」 だが、刺された切り身を毒で変な色に変色させながらもシメサバ様は反撃せず、その頭にポンポンと手の平(※ただし手はない)をのせただけだった。――『友 達 が 欲 し い で す』と言う切実でいじらしい願いに、さしもののエリューションも暴力で返す気が起きなかったのだろう。 ──がごん! が、鉄アレイは容赦なく当たった。 「ごめ゛んなざぃい゛いいい」 頭部に走る激痛と衝撃に一転泣き叫んで暴れながら命乞いを始めた円を前に、シメサバ様は思わず立ち尽くした(ような気がする)ものである。 そのシメサバ様をかなりの遠距離から撃ち抜いてたたらを踏ませ(※ただし足はない)たのは、七海が再び放った呪いの弾丸。 「何でしめ鯖相手に本気で戦っているんだろう? アワビとか高級な奴なら……いやそれもどうだろ……」 その的確な狙撃と這う裏腹に、当の射手は何やら根本的な疑問に捕らえられていたりするが。 「サバ臭いサバ臭いサバ臭い……」 サバ嫌いの綺沙羅にとってこの状況は地獄そのものである。ぶつぶつと怨嗟の呟きを漏らしながらもぶつかったまま頭にへばりついたシメサバを乱暴に払い落とし、呪符を取り出す。 ポルカが回避した事で味方の治癒に余裕が出来たゆえの攻勢である。別に生臭さに我慢の限界が来たわけではない。……多分。 放たれた符から生まれた鴉は、シメサバ様の肉体であるシメサバを啄ばむ。傍目に見ていると何かすごく普通なような、珍妙なような絵面である。 しかし、あるいはだからこそ、怒りの呪力は強く浸透したようだ。 シメサバ様が鋭い眼光(※ただし目はない)で綺沙羅を睨んだ。 その間隙を縫うように、邪悪でロリロリな一撃が轟音を響かせる。 ――ところで邪悪でロリロリな一撃ってなんだろう。誰か知ってる人いませんか。 「皿をバラバラに割って、シメサバをミンチにしてちくわにしてやります!」 轟音の元はエリエリの鉄槌による物である。力任せに振るわれたかに見えるそれは、その実シメサバ様の動きの前兆と怒りによる隙を(どう見ても皿の上に乗った調理品だが)読み切り、決してかわせないタイミングでの一撃を成立させたのだ。 「大体鉄アレイといっしょに飛ばすならちくわと昔からきまっています! どうしてシメサバですか! ゆるせねえ!」 エリエリは激怒していた。 さっきのあんまりな返答に対してもあるのだろうが、彼女自身の拘りもあるようだ。 あの鉄アレイ、思いつきで追加したって聞いたことあるよ。 「たべものを粗末にすることもゆるせねえ! 孤児院は貧乏なんですよ!」 「あ、いや、すいません」 思いの外真っ当な理由もあった。 猛る幼女。思わず素直に謝るシメサバ様。何この絵面。 「たとえ理不尽な威力でも、当たらなければ、怖くないです!」 七海と同じくシメサバ様の権能の射程外に離れた位置より放たれたアルトゥルの魔弾が、逃れる暇さえ与えずシメサバ様の皿に射抜き、ヒビを皿に広くさせる。 ライフルを支える手をちょっとだけ自分の髪にやり、相変わらずのふわもこである事を確認すると、アルトゥルは頬を膨らませてから叫んだ。 一番願い事で手こずったのは、実は彼女であった。 『おおきくなったらとうさまと結婚したいの! かあさまが駄目っていうけれどチーズケーキを1ホール、アルだけで食べたい!』 どちらも、シメサバ様は召喚されなかったのである。 「アルのこの髪は、ストパーや縮毛如きじゃ、どうにもならないんですよう! ストパーが天パに押し負けるんですよう! 雨の日にくるんくるんもっふぁぁぁぁぁぁぁぁーってなって勝手に天気予報ですよ!」 ――願いと言うより、ただの愚痴かも知れない。凄い熱弁である。 「1日だけさらっさらストレートにしてよシメサバさまあ!」 「……」 シメサバ様は一瞬一瞥し、何やら考え込む顔(※ただし顔はない)をした風にも、見えた。 だが結局何も言わず、綺沙羅へと距離を詰める。 綺沙羅の願いは最初、ブリーフィングルームに例の機能を付けた智親への呪いだった。 だがそれは願い事として主旨がズレると判断されたのかシメサバ様は召喚されず、彼女はもう一つの願い、『身長がもう少し欲しい』と言う願いをかけた。 「育つには先ず食べる! 成長期なら横より縦に伸びる。それで無理なら天から縦方向に試練を受けてるんだと思って諦める!」 道力を纏わせた剣を周囲に浮遊させた綺沙羅を横薙ぎに殴り飛ばしながら、シメサバ様の言葉は相変わらずえらそうでかつ無責任。 「そんな事でいちいち神様に頼るな!」 大見得を切る(原理不明)その姿(シメサバ)は本当にえらそうだ。 「寧ろこの生臭さから今すぐにへるぷみーごっど」 その側面にポルカの声がぶつかる。慌ててそちらを向いた(※ただし顔はない)シメサバ様を襲うバスターソードの一閃。皿を傾ける事で辛うじて避けるも、その体勢が大きく崩れる(浮遊してるのに)。 「と言うか殴らせろ。そして倒れろ。生臭いから。 ごめんねシメサバさま。きみを騙してた。ぼく、こう見えて無神論者なの……」 だがポルカのターンは未だ終わっちゃいなかった。決して止まらないかのような澱みなさで次々と連続攻撃を放ち、ついに追い詰めたエリューションに一撃を直撃させる。 「この生臭さが消えるまで! 俺は! 殴るのをやめない!」 クルトもまた、相変わらず凍れる冷気を纏った拳を振り下ろした。 打点をずらし氷りつくことこそ避けたのものの、シメサバ様の皿に一層大きなヒビが入る。 泣き止んだ円がそのヒビに毒針を突き入れ、七海は呪い弾を命中させる。 そしてついにヒビは割れ目となり、皿の3分の1が地に落ちガラガランと音を響かせた。 「この後やりたい事があるんでね……簡単には倒れられない」 先ほど殴り飛ばされた綺沙羅もまた、倒れる事無く己の傷に治癒の符を当てつつ宣言。 この状況に自らの敗北の足音を聞いたのか、シメサバ様の表情(※だから顔はない)が固まる。 「生かさず殺さずシメサバ発生器として一生飼い殺しにしてやろうか!」 その固まった表情(※もう一度言うが顔はない)――正確には切り身の一枚を、エリエリの鉄槌が地面に叩き付けた。 「明日から毎日シメサバをたべようぜ! やっぱいやですねそんな食生活」 じゃあ何故言ったし。 「……お前ら、こんだけ強くてなぜ神頼みなんぞ……」 息も絶え絶えの言葉。願いに関わる事柄限定で会話が可能とは言え、結局の所はE・フォース。 捧げられた願いが自らを召喚する為の方言とは気付いていないのだろう。 いや、あるいは方言でありつつも、同時に心よりの願いであったから、かも知れないが。 「ほんとうはアル、とうさま譲りのこの髪、だいすきです」 響いたのはアルトゥルの声。20mを超える距離を置きながらも、その声は不思議と戦場に響き、シメサバ様の視線(※繰り返すけど目はないんだってば)がそちらに向く。 「たまにたまに、神頼みしちゃっても、いいじゃないですか」 だってだって、にんげんって弱い生き物でしょう? そう語る少女の手の中のライフル。 その銃口が真っ直ぐに自分を狙っている事を見て取り、慌てたようにシメサバ様が回避動作に入る。 「でもねでもね、悩んでも苦しんでも悲しんでも、助けあえるよ。前へ進めるよ」 その動作を見切り、銃口の向きをピタリと調整しながらねこっけの少女の言葉は続く。 自分の力で願いが叶わなくても。 何かに縋りたくなる苦境でも。 神様に頼って、それでも駄目だったとしても。と言うか神様どころかシメサバが来ても。 「アルは、アルトゥルは。挫けても挫けても、立ちます立ち上がります。ぜったい!」 宣言と共に放たれた銃弾。 未だ幼い少女が、不退転の覚悟と意思を篭めて放った魔弾。 「……そか」 神頼みの想いから生まれたエリューションフォースに、避けられる筈も無い。 皿の砕け散る音が響く。地に落ちた切り身が見る見る薄れて行く。 消えて無くなる直前、笑った様に見えた。 ――シメサバだけど。 ● ところで、アークの誇る天才、開発室長真白智親が後日シメサバをぶつけられただとか、開発室に段ボールいっぱいのシメサバが届いて生臭さで大変だったとかいう話があるが、今は関係のないことである。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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