● 「甘き……蕩ける様な香……。此処は、望む場所か……?」 女は大樹の下、目を醒ました。 「嗚呼、喉が渇いた……」 女は、辺りを見回す。ふと、若い娘が通りを行く姿を見つけた。 「きゃっ」 若い娘は、突然目の前に飛来した女に驚愕し、慌てて後ずさる。 「そなた、美味そうな香をしておるの……」 「なっ、何よアンタ」 全身を黒で埋め尽くした女の不気味な言葉と笑みに、娘の体が硬直する。 「妾の喉の渇きを潤すに相応しい香じゃ……」 女の手が、娘の頬に触れる。ひたり、と、押し付けられた手は氷のように冷たい。 「ひっ」 堪らず、娘は声を上げる。 女の口角が引き上げられ、宙に口付けた。 じゅる、じゅる、じゅる、ごくん。 じゅる、じゅる、じゅるるるる……。 大気を飲み込むかのように、唇を動かし、舌を鳴らし、喉を潤す。 娘に触れているのは、頬に添えた手、だけ。けれど、女の口端からは、赤い血が滴り落ちている。 娘は、声を上げることも出来ず、その場に崩れ落ちた。 亡骸になった娘を放り出すと、女は手の甲で唇を拭う。 「なかなか甘美であった……。次は、悲鳴で彩りを添えて貰いたいものだがな……」 「ならば、その役目は私がしましょう、あねさま」 女の背後に人影。見れば、女と瓜二つの顔をしている。 「おお、舞姫か。妾を追ってきおったか……、寂しがり屋の妹じゃのう」 女は先ほどとは打って変わった表情でコロコロと笑い、『舞姫』と呼んだ者の頬を愛しげに撫でる。 「獲物の手足を切り落として悲鳴をお聞かせするのは私の役目。あちらの世は食い尽くしてしまいつつあります……。あねさまは、こちらで存分にお食事を」 「そうじゃのう……こちらの者も、なかなかに美味である……」 そして女は歩き出す。 『腹が減った』と、呟きながら……。 ● 「アザーバイドが出現しました。対応をお願いします」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、事務的に告げると詳細を説明する。 「アザーバイドは2体おり、姉妹です。20代程度の女性のような外見、全身に黒い装束を身に着けています。容姿は瓜二つですが、妹は巨大な扇を両手に持っています。それで見分けがつくでしょう」 和泉の説明を、リベリスタは資料を見ながら聞いている。その一人から声が上がった。 「送還じゃなく、討伐を優先?」 「はい。優先と言うか、彼女達がこの世界に来た後、自然にディメンションホールが閉じてしまっていますので、送還は不可能です。更に今回のアザーバイドは、危険な特性を持っています。喉を潤す為には人の生き血を飲まなければならず、飢えを満たすには人の肉を喰らわなければなりません。人を食料とするアザーバイドです。下手を打てば大きな被害に繋がります……」 言葉終わらぬうちに、先ほど問いを投げたリベリスタが口を挟む。 「優先じゃなくて、討伐しろってことか」 「そうなりますね」 スクリーンに、姉妹の画像が映し出される。それぞれ髪の先に、まるで血を吸ったような大輪の薔薇を咲かせている。 「さて、彼女達ですが。姉は、武器を持っていません。吸血の他に複数を麻痺させる技や、爪で切り裂いたりする技を持っています。妹は、両手に持つ巨大な扇を武器とし、舞踏のような動きで攻撃してきます。とにかく姉に盲従しており、姉に害を為す者は放っておきません。また、10秒ごとに皆さんの生命力を吸うことが出来ます。対象が多ければ多いほど、その回復量は上がります。また、直接血を吸ったり、肉を喰らえば更に大きく回復します」 アザーバイドの画像を映していたスクリーンを消し、和泉はリベリスタの方へ向き直る。 「彼女達が偶然見つけたディメンションホールから此方に来た目的は、人間を喰らう為です。皆さんのことも食料としてしか見ません。説得は通用しないと思ったほうが良いでしょう。どうか、よろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月27日(火)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「甘き香がする……。妾の腹を満たしてくれるモノの香じゃ」 姉――ブラッディローズはうっとりと息を吐いた。 「そうですね。どうやら、近くに数匹、獲物が居るようです」 それらも全て貴女に捧げましょう。と、妹――舞姫は、微笑む。 「獲物、ですか」 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の、普段は幻を纏う黒猫の耳がピクピクと動く。 「良い餌場を見つけたつもり、でしょうかね」 ブラッディローズの声音、そして舞姫の言った『獲物』という言葉。やはり話に聞いた通り、此処を食事をする場としか考えていない。そして、自分たちは『餌』として認識されているだけに過ぎない。 「何かを食らって生きるのは人と同じ。ただ彼女達は絶対的捕食者であっただけで……」 ただの悪とは思わない。『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)は、呟く。だからこそ、このアザーバイド達が生き残る未来を作る事の出来ぬ我が身が許せない。 ただ、倒すしかない自分たちに、彼女たちを責めることが出来るのだろうか。 京子は手にした『運命刈り』を強く握る。 それでも。 「彼女達が笑って人を殺すところにすごくイラついてたりするんですけど」 これも、本心である。 「この世界はそう美味くはできてない。世界の敵として、速やかに排除させていただきましょう」 レイチェルの言葉に、京子は小さく頷いた。 ぷかぁ、と、煙が立ち上る。戦闘中でも口元から外さぬ其れを歯先で咥えた『足らずの』晦 烏(BNE002858)。 「美味そうな香だとか、匂いで獲物の良し悪しを判断しているぽいけれどな。煙草の匂いが染み付いたこの身は嫌がらせになるのかねぇ?」 揺蕩う煙。この香はお世辞にも『美味そう』とは言えないだろう。だが、と、別件で負った傷を覆う包帯に触れる。 「何か重傷中で血が滲んでたりするので狙われそうな気がしないでもないが」 ぼそり、と呟いて煙草の灰を地へ落とす。 「まぁアザーバイドの考える事は判らんわな」 何せ、自分たちの事を食料として考えているような輩である。血の匂いや、人肉の香に食欲をそそられぬ自分が考えた所で判る訳はないと、結論づけた。 「食料としか見ていない、か――。否、好都合だ。送還や説得では心行くまで戦えない。世界を食い潰す程の“敵”ならば俺にとっては御馳走だ」 『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)は、手にしたランスを一振り。アザーバイト達に先を据える。 「互いに空腹、言葉は不要。俺は奴を喰う。奴は俺を喰う―――唯、それだけの事だ」 「確かに、人間を食料としか見てないようだけどな」 『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)は、アザーバイド達を睨み付ける。 「ここはお前らの世界とは違うんだ。人間様の本当の力って奴を刻み込んでやるぜ。覚悟しろ、アザーバイド!」 可愛らしい服装には不似合いにも思えるほどの勇ましい声で吼え声を上げた。 ラヴィアンの開戦の合図に、舞姫へ突撃した影は2つ。 「すーぱーでりしゃすさぽーたーミーノけんざんっ!!」 「存分に楽しませてもらうッスっ」 『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ ミ-ノ(BNE000011)と、『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)の役目は、妹の抑え。 「みんなっがんばろ~ふぁいとっ♪」 妹の眼前に立つと、まずテテロが仲間の能力を強化。その傍らではリルが軽快なステップを踏みながら、後方の陣形を確認する。 そして、一点で視線を止める。その先に居るのは、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)。 最後方で翼の加護の準備をする彼女は、リルの視線に気づくと微かに笑みを浮かべた。 「お任せします」 後ろは任せて下さいと、その瞳が語っていた。 タン、タン、タタン、タタン。 リルのステップの音が響く。 「異界の踊り子と会うのは二人目ッス」 妹の動きを誘うように、リルはステップを踏む。舞を見せてみろと、動き、踊る。 「お前も、舞うのか」 呼応するように妹の扇がふわりと閃く。巨大な扇の重さを感じさせぬような優美な動き。 妹は緩やかに体を回転させた。その舞は暴風を起こし、扇の先に風の刃を生み出す。 「リルちゃん、回避するのっ」 すぐさま後方へ避けたテテロの声に反応し、リルは宙を舞い風の刃をかわす。 「同じ異界の踊り子でも、やっぱり踊り方違うんスね。――今度はこっちの番ッスよ!」 体勢を整えると渾身の力でブラックジャックを放つ。しかし、巨大な扇に遮られ、彼女の身には届かなかった。 しかし、この攻防によって、活路を見出した者が居る。 「お前の相手は俺だ」 美散は、妹が動いたことによって出来た姉妹の隙間に飛び込む。 「ふん……、おぬしもなかなかに美味そうな香じゃのう」 眼前に現れた美散を見返すと、姉は微笑む。薄く開いた唇の間から、血のように紅い舌が見え隠れする。 2人の間を風が通り抜け、それを追うように美散の衣服と共に肉が裂け血が噴き出す。 「……少々血気盛んか? 美味であるわ」 長く伸びた爪から、美散の血が滴る。それを掬うように舌で舐めとると、にやりと笑った。 「――っ」 噴き出す血を拭いもせず、美散はメガクラッシュを打ち込む。 姉と妹をもっと引き離すための方策。けれど。 ゆらり、と姉の体が揺らめく。ふわりと宙を舞うと彼女は後方へと下がる。 「どうした? それだけか? もっと彩りを添えるように鳴いて貰わぬと面白うないわ」 未だ美散の血が伝う指先に口づけると、クックックと笑って見せた。 ● 『――――』 空気の切れる音が響いた。 弾丸は、髪を彩る薔薇を掠め、端正に整えられた顔に傷をつける。 「彩りね……。彩りを添えるのはあんたらの下卑た悲鳴になりそうだがね?」 弾丸を放ったのは烏。銃口から立ち上る硝煙にあわせるように吐き出した紫煙は姉の肢体に纏わりつく。 背後に居る凜子に攻撃の手が及ばぬよう、射線を封じるように立つ彼の放ったバウンティショット、言葉。全ては、彼女を挑発するため。 その行為は、彼女の余裕に満ちた顔を歪めることに成功した。 「貴様……! 気に入らぬ、去ね!」 鋭い眼光で烏を睨み付ける。その途端、麻痺の呪縛が彼を襲う。そして、それに巻き込まれ、ラヴィアン、京子までもが捕らわれ、更に彼らに与えられていた加護までも奪い去った。 麻痺した体。表面だけでなく、内臓の感覚までが奪われていく。呼吸もままならぬ苦しみに――けれど、それに抗う3人。 痺れ、思うように動かぬ唇を戦慄かせながら、叫ぶ者がいた。 「うおりゃあああっっ!!」 気合で麻痺を振り払おうと、ラヴィアンが叫ぶ。けれど、その呪縛は緩むことはない。 「任せてください。――聖なる息吹を与え賜え」 後方から、凜子が神の息吹を吹かせ、ラヴィアンと京子が麻痺から解放された。しかし、烏の身はまだ自由にはならない。 咥え煙草も震え、武器を手にしているのもやっと。それでも倒れるまいと、烏は姉を睨む。 「だいじょうぶっ。まだミーノがいるの~」 妹の抑えをしつつも、周りに気を配っていたテテロのブレイクフィアーが烏の麻痺を取り除く。 しかし、その行動で生じた隙――。 妹の体が大きく旋回した。優美な舞は先ほども見た動き。けれど、スキル発動直後のテテロは回避できず、巨大な扇で薙ぎ払われる。 強かに体を打たれたテテロは地へ膝を着き、その体がガクンと重くなったように感じる。凄まじい虚脱感――。 妹はリベリスタの攻撃を一手に受ける姉の方へ向かう為、テテロの身体を乗り越えようとする。 「ダンス相手は、リルだけじゃ不満ッスかね?」 リルは、テテロを庇うように妹の前に立ちはだかった。 一方、姉と戦うリベリスタ。 凛子の癒しが仲間たちを支える中、美散は自らの攻撃が当りにくいと悟ると、集中し、次手に備えていた。 しかし、その身体に姉の爪が食い込む。 「ぐ……っあ」 深く、深く食い込む爪。そしてその身体から血液が失われていく。 空気を吸うように唇を動かし、彼女は美散の血を飲み下す。 串刺しに刺された爪を体から抜かれると、美散の身体は地へと崩れ落ちる。それでも、闇に引き込まれそうになる意識を彼はなんとか浮上させた。 倒れたままの美散。その後ろから、京子の雷帝の名を冠した矢が業火を纏い放たれる。更にその後ろからは、レイチェルの生み出した神なる光が、絡まるように姉の顔面へと向かっていく。 「――ふん」 ゆらり。再び彼女の体が揺らめき、業火と光を回避する。しかし、彼女の薔薇が1つ、ポトリと落ちた。 地に落ちた薔薇。それに視線を移動させると、姉の瞳から冷静さが消え失せ、2人を睨み付けた。 「うぬら……! 餌の分際で妾の薔薇を!!」 「薔薇がなんだ! お前が眼力なら、こっちは鎖で縛ってやるぜ!」 『一網打尽』発動を阻止すべく、ラヴィアンは叫ぶ。 「お前は既に一人殺してる。だから容赦しないぜ。これは殺されたお姉さんの分だ!」 黒の鎖。自らの血を代償に生み出したそれは、姉を飲み込み呼吸さえも奪う。 「あねさま!」 鎖の濁流に飲み込まれた姉を呼ぶ妹。けれど、姉から返答はなく。 「あねさま! あねさま!!」 気が狂ったように妹は叫び、彼女を抑えるテテロとリルを攻撃する。 「まいひめちゃんっ! ここはいっぽもとおさないよっ」 大切な友人と同じ名のアザーバイドを止める、テテロ。 「ミーノとリルちゃんのびすはさっぽう、とくとあじわうのっ!」 いつの間にやら完成していた技名を高らかに告げると、2人の攻撃が舞姫の顔面を打ち砕いた。 「あねさ……ま……」 二人の攻撃に、よろめく妹。 妹の危機に反応するように、黒の鎖に巻かれた姉が声を上げた。 「妾をこんなもので、縛れると思うてか……!」 鎖に溺れ、息絶えた筈の姉は倒れてはおらず。 ゆらりと宙を舞いラヴィアンの前に降り立ち、その頬へと手を伸ばす。 陣形のど真ん中に降り立った姉。京子は振り向きざまに魔弾を放ち、背後から攻撃された姉の腹を貫く。 姉は、腹を押さえて血塗れになったままの手を、ラヴィアンへと伸ばす。その手首を横から掴むものが居た。 「お前の相手は俺だって言っただろう」 「貴様……、まだ生きて」 「空腹が満たされるまで篤と味わえッ!!」 暗闇から生還した美散が、渾身の一撃を姉の顔面に叩き込んだ。 「ぐ……っ」 美麗な顔を血で彩って、姉はよろめく。 「あ、あぁ……っ」 血が欲しい。歪んだ口で呟くと、美散の腕を掴んだ。 「お前にもう血は吸わせないぜ! 弱肉強食はわかるだろ? そっちの世界じゃどうだか知らないけどな……こっちの世界じゃ、アザーバイドより人類のほうが強いんだよ!」 ラヴィアンは叫び、黒の鎖を再び放つ。 鎖に飲み込まれ、姉は美散から引き離された。 「あねさま……っ」 テテロとリルに進路を塞がれたままの妹は悲鳴にも似た声を上げる。 「どけぇ!! 貴様らぁっ!」 瞬間、凄まじい覇気が放たれた。 「皆さん気持ちで負けるようなことはありません!」 咄嗟に凜子が叫ぶ。しかし、凄まじい闘気によってテテロとリルが吹き飛ばされる。 「あねさまっ!」 姉への道が拓かれ妹は駆け出すが、その行く手に京子が立ちはだかる。 「お姉さんは大切? お姉さんの為に泣ける?」 「邪魔だ、どけっ!!」 姉の元へ行くため、必死の妹。 「だったらどうしてその気持ちを他の人にその何万分の一でも分けてあげられなかったの?」 「煩いっ!」 妹は京子を突き飛ばし、叫ぶ。 「お前は食事を前にして泣けると言うのか!」 彼女らにとって、人間は餌に過ぎない。餌が食われたことによって、他の餌が苦しんだり悲しんだりすることなど、彼らには理解できないのだ。だとしても――。京子は唇を噛み締める。 「それでも私は、真剣だ! つまんないことかも知れないけど、アナタの名前が舞姫である以上、私の気持ちは抑えられない!」 叫びと共に、アーリースナイプを放った。 ● なんとか、ラヴィアンの鎖から抜け出した姉は、リベリスタから生命力を吸収する。 しかし、受けたダメージは蓄積し、定期的な生命力吸収では追いつかなくなってきた事を感じ取る。 「こんな事になろうとは、な……」 腹にあいた穴も全ては塞がらず、未だ傷からは血が滴り落ちている。 「舞姫。これ以上やっても無駄じゃ」 強かにダメージを受けつつも姉を守る為に駆け寄ってきた妹の手を取る。 手を取られ、見れば姉の顔は醜く歪み。普段の美貌からは想像もつかない程に、崩れていた。 凛子は、神聖の息吹を仲間達に施すと、姉妹に問いを投げかけた。この異世界の吸血姫とも思える姉妹。見た目がいかなる雰囲気であれ、このままでは力無き人々に被害がでてしまう。他にも同様の種が存在するかなど、聞きたいことは山ほどある。 「どういう理由でこちらに?」 妹は、凛子を見返し、言い放つ。 「食事だ。それ以上でも以下でもない」 そして、妹は姉の手を取り逃走を図る。その先にはリルが待ち構えていた。 「この先は一方通行ッス。意地でも最後まで相手してもらうッスから!」 妹は、扇をリルに叩きつけ、リルはそれを受け止めた。 「あねさま! ここは私が!」 「承知した、舞姫」 リルと組み合ったまま妹は叫び、姉は一人逃走すべく跳躍する。 「妹を見捨てて逃げるとは大した姉だな?」 姉の胴に美散のメガクラッシュが炸裂し、彼女は地面に叩きつけられた。 「あねさま!!」 リルに加わりテテロとも剣戟を交わす妹は慌て、身体を回転させる。 しかし、今度の『薙ぎ払い』は二人にダメージを与えることは叶わず。 「どっちかが死ぬまで、踊ってもらうッスよ」 リルのブラックジャックが炸裂した。 「くそっ、貴様ら……!」 呻き、その場に膝を着く妹。モロに喰らったダメージは凄まじく、彼女から回復の力を奪う事に成功した。 「餌の分際が、いつまでも……っ」 自らの血に塗れながら、彼女はリベリスタ達を睨み付ける。 しかし、『一網打尽』発動より早くレイチェルの光が姉を貫く。 重ね、京子の攻撃が背中に直撃し、姉は地に膝を着く。 その首が、ゴトリ。と、地に転がった――。 首を落とした当人――美散は、薔薇を宿した長い髪を掴み頭を持ち上げると、妹へと投げつける。 「次はお前だ」 姉を倒したリベリスタ達は、残る妹へと向かった。 レイチェルは、神気閃光を撃ち小さく笑む。 (弱体、ショック、戦闘指揮、リミットオフ、全て込みでの美散さんのデッドオアアライブが決まったら。……現アーク最強の一撃、ってトコでしょうか。これはなかなか、ぞっとする破壊力ですね) 既にその前提の一つである、ショックは自らの手で与えた。 そして、レイチェルの予想通り美散は自らのリミッターを解除する。生命力を戦闘力に変換するその力は、まるで滾る熱気のようにも感じられた。 次いで、ラヴィアンの4色の魔光が立て続けに舞姫を討つ。 ポトリと、薔薇が一輪、落ちた。 姉と揃いの薔薇が落ちる姿に、姉の首が落ちた瞬間の映像が蘇る。 「如何だ? 高飛車な姉が死んで清々しただろう?」 「――っ」 美散がにやりと笑みを見せた。 脳が沸騰するかのような熱さに押され、妹は扇を畳むとその先端を美散目掛けて突き出した。 その眼前に割り込んだのは、烏。 扇を突き出した腕と絡むように突き出された『二四式・改』は、妹の瞳を貫き、頭蓋内で弾丸を生み出す。 鈍い破裂音。妹の頭部は骨ごと吹き飛んだ。 「ア……アァ……」 頭を半分吹き飛ばされた妹は、最早言葉すらままならない。 「この一撃では仕留めるに『足らず』、だが致命の一撃にはなるだろうよ」 深く吸い込み、吐き出された紫煙。その煙が散った先、見える姿は全ての力をランスに込めた美散。 「……では、思いっきりどうぞ?」 レイチェルの筋書き通り事は運んだ。後は、それが姉に当たれば。 「あの世でも精々仲良くするんだな」 生命力を込めたデッドオアアライブは、妹の頭部を消し飛ばした。 ● 戦い済んで地を彩るは、薔薇2輪。 そして、息絶えた若い娘。 「運が無かったな」 美散は、娘の亡骸を回収し、帰還の準備をする。 凛子は、舞姫を抑え続けたリルに包帯を巻いていた。 「よく持ちこたえてくれましたね」 微笑んでそっと頭を撫でれば、痛さを堪え嬉しそうに微笑むリル。 そして、ふと見ると、地に落ちている薔薇。その傍へ歩み寄り頭を下げる。 「すごく綺麗な舞いだったッスよ。その舞いは、しっかり目に焼き付けたッス」 その薔薇を拾い上げると、レイチェルは、呟く。 「……もしかしたら、薔薇の精とかそんな感じの存在だったのかも。個人的には微妙にイメージ崩壊ですけど」 「綺麗なバラは棘だらけでしたと、おお、こわいこわい」 肩を竦めながら咥え煙草の烏はアザーバイドの遺留品を探す。黒い装束の一部や、舞姫が使用していた扇でもあれば。 そう考えていたが、どうやら彼らが事切れると同時に霧散してしまったようで、見つけることは出来なかった。 2輪残された薔薇。姉妹それぞれの髪に宿っていたそれは。 霧散した彼女達が存在していた事は現実だと語るように輝きを放っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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