●『地球割り』富船士郎 ししおどしは鳴らない。 流れていた水は池から漏れ出て、日本庭園は泥水で散らばっていた。 所々に砕けた襖やら箪笥の破片やらが落ちていて、とても人の庭とは思えない。 ましてやここが、温厚で知られる道六剣八の家だなどと、とてもではないが思えなかった。 そんな家屋の中でどかどかとものの壊れる音がする。 「畜生、なんでだ! あの野郎ォ!」 野太刀を四方八方に降り回し、畳みを切り裂き柱を折り、壺やら掛け軸やらを矢鱈滅多に破壊している男がいた。 老人である。髪はざんばら。ぼろけた着流し。 しかしどこか雄々しさを備えた男だった。 「剣八……満足そうに死にやがって、コノヤロウッ!!」 無理な破壊をし過ぎたのだろう。刀は既に刃零れを起こし、柱を斬ろうとした所でぽきりと折れてしまった。 鍔から5センチ程度の長さになった刀を見つめ、悔しげに壁へと叩きつける。木箱が砕けて散った。 「剣山も、剣八も、どいつもこいつも死にやがって。長介の野郎は姿消したっきりとんと掴めねえ。畜生、なんだってんだ……畜っ生っ!!」 畳の床を踏みつける。 ぜえぜえと息をする。心臓に痛みを感じ、彼はその場で膝をついた。 玉の汗を額に浮かべ、地面を見つめる。 そんな時である。 「派手に暴れてるな、富船」 いつの間にか。 本当にいつの間にか、目の前に男が立っていた。 誰とも判別できないような無個性な顔をした、白いスーツの男である。 彼は帽子を目深に被ると、誰とも判別できないような無個性な声でしゃべり始めた。 「お仲間が全盛期の力を取り戻したのが悔しかったか? お前も若いころみたいに暴れまわってみたかったのか、『地球割り』よ」 「…………」 老人――富船士郎はゆっくりと顔を上げる。 「昔の称号を持ちだすんじゃねえ。出来ねえモンは出来ねえ。どんな手段を使ったかは探らねえが、あいつらみてぇには……」 「できるぜ?」 男が、いつの間にか背後に回っていた。 士郎は柱に深く食い込んでいた刀の先っぽをむしり取ると、素早く背後に投擲する。 男の心臓を貫いたが、次の瞬間には縁側に座っていた。 いつの間にか。 いつの間にかだ。 縁側に転がった小鳥の死骸を摘み上げ、男は振り返る。傷一つない。 士郎はそれを当たり前のように受け取って、首を鳴らした。 「世迷い事を言いに来たんなら帰りやがれ。俺ぁ虫の居所が悪いんだよ」 「そう言うな。良い話だからよ」 男がそう述べた途端、士郎の視界はブラックアウトした。 ししおどしは鳴らない。 流れていた水は池から漏れ出て、日本庭園は泥水で散らばっていた。 所々に砕けた襖やら箪笥の破片やらが落ちていて、とても人の庭とは思えない。 ましてやここが、温厚で知られる道六剣八の家だなどと、とてもではないが思えなかった。 士郎は、部屋の真ん中に立っている。 「…………ああ?」 顔を上げる。 「何でこんなとこに居るんだ俺ぁ。剣八が死んだってぇ知らせを受けて、それから……そうだな、いっぺん修行したんだったか。忘れてたぜ歳とっちゃあいけねえな」 士郎は、剣八の家がどうしてこんなに派手に壊されているのかよく分からなかったが、まあいいやと呟く。 「剣八よう、俺も取り戻したぜ……あんときの力だ」 壁にかけられていた長さ2m近い太郎太刀を掴み取り、鞘から抜く。 気合一発。 道六剣八の家は、一瞬にして砕け散った。 屋根も柱もまるごと吹き飛び、粉砕する。 富船士郎は首をこきりと鳴らして、踵を返した。 「じゃあな剣八。おめえの仇、討ってやるよ」 ●達人の復活 主流七派が一つ六道という組織は、鍛錬と研究の個人主義組織だと言われている。 その中にある『斬鉄』という武闘派集団は、以前リベリスタ達の活躍により撃破。四勝三敗一分けというギリギリの戦果を最後に活動を止めた。 しかし生き残ったメンバーである達人たちは、全盛期の技と力を取戻し、再びリベリスタ達へと挑んできた。 その戦闘力はリベリスタ八人がかりで戦っても厳しいものだった……と記録にある。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、そうした『斬鉄』の生き残りについて話をしていた。 「富船士郎(とみふね・しろう)。『地球割り』の異名を持っていた剣士で、生き残りの一人です」 写真とプロフィール。全盛期の噂などをまとめた資料がデスクに並べられた。 剣の一振りで森を薙いだとか、走ってくるダンプカーを左右に切り分けただとか、天の雲が斬風で割れただとか、人間とは思えない噂が並べられていた。 リベリスタ達が呟く。 「事実かどうかはともかくとして、全盛期の力がどれほどのものか分かる話だな」 「でも、こんな資料をわざわざ並べたってことは……まさか」 「そうです」 中指で眼鏡を押す和泉。 「富船士郎が、全盛期の力を取り戻しました」 彼は一般人殺しを再開しようとしているらしい。が、目的はアークのリベリスタ達との再戦にあるのは間違いない。 今も、とある武道会館でじっとこちらを待っているのだ。 「放っておけばどんな被害を生み出すかわかりません。皆さんの手で……終わらせてあげて下さい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月02日(月)22:58 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Earth shaker 武道館の『天井』から『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が飛び立った。 宙で五回転してナイフを振り込む。相手は刀を半月状に振り込むと、リュミエールの身体ごと跳ね除けた。 飛び散る火花と金属音。其れに混じって『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)が地面を蹴る音が聞こえた。 地を踏みしめる足音。空を切る刃の音。地面スレスレの高度から急上昇する紗理。ソードカトラスの切っ先が相手の肩に走ったが、その直後に繰り出された闘気の渦によって紗理とリュミエールは吹き飛ばされた。 攻撃の直後を狙ったかのように、そして虚空より湧き出るように現れる『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)。大剣で横一文字を切る。途中にある大気が強制的にかき混ぜられ、重力にも似た物理運動が起きた。相手は背後を取られたことを本能的に察していたのか素早く前転。足つきのタイミングで前後反転して刀を振った。二メートル程の長さと極端な重量を持つ太刀である。太郎太刀。真柄直隆が扱った伝説敵な刀とされているが、これはレプリカと思われる。過去の戦いで八本刀の一人が持っていた物と同じだ。察するに彼自身のものではない。 彼。名を富船士郎。斬鉄八本刀の一人にして『地球割り』の異名を持つ達人である。 そんな彼を前にして、ジャンルは違えど同じ剣士であるリュミエール達はやや苦戦を強いられていた。 「ムリダナ、上手く当ラネー」 「噂に違わず相当の腕前のようですね。どちらの剣技が上か」 勝負。そう言って士郎の眼前へと急接近する紗理。彼女のカトラスが突きを繰り出すのを目視できたわけではあるまい。しかし士郎は片手で刀身を掴み取ると、強引に軌道をずらした。無刀取りの応用である。 しかし片手であの太郎太刀を振り回せるとは思えない。リンシードはここぞとばかりに側面へ回り込み、相手の肩口を狙って大剣を叩き込む。 「私は剣技とか、腕前とか、気にしてません。これは相手を倒すもの」 「そこは同感だ」 肩に担ぐように構えた太刀がリンシードの剣を遮る。直後、彼女の腹を蹴飛ばした。 狙いを定めている最中のリュミエールへ向けてリンシードを転がす。 どうやら食らったと見せかけて衝撃を逃がしきっていたらしく、リンシードはけろっとした顔をしていた。 「あなたの剣技も、ただ避けるだけです。達人だからなんてものは、ありません」 「……おっと、お前は特別早そうだな。悪ぃが後回しにさせてもらうぜ」 太刀を両手で握る士郎。大上段から振り下ろすと、強烈な風圧が波となって走った。富船士郎の特技『地球割り・弐式』である。 「来ます、ヘクスさん!」 「はい」 味方への強化を続ける七布施・三千(BNE000346)。そんな彼を保護するように『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)が立ち塞がった。 びりびりというしびれを抑え込むように、もしくは閉じ込むように扉型の盾を翳す。 「地球割り、すごい攻撃力なんですよね。ヘクスが追い求めていた最強の攻撃力の一つ。どんなものでも破壊できる自慢の技なんでしょう。いいです、いいですね」 盾を抑える腕の力が足りないのか、盾は暴風に煽られる看板のようにがたがたと揺れていた。 「その攻撃を受けて立っていることができたらあなたは絶望、するでしょう?」 「ああ?」 盾ごしに受けたダメージはさほど大きなものではない。小声で『七布施さん』と呼びかけ、ダメージ分を回復でカバーしてもらう。 その様子を見て、士郎は微妙な顔をした。 「そういう気持ちは、理解しねえでもねえけどよ……まあなんだ、もっと若い奴にやれ。俺みてぇなのはな、もう挫折慣れしてんだ。達人から転げ落ちた時とか、どういう気持ちか想像つくだろ?」 「けれど今は取り戻した」 「力だけだ。『ちょっと固いくらいで調子に乗る』なら、せめてもうちっとやるようにならねえとな」 「……」 そこまで言われても、ヘクスはじっと三千の前から動かなかった。 「挑発には乗らねえか。次は誰が来る?」 「はいはーい!」 鈍器のような銃を構えた『Trompe-l’oeil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が片手を振りながら言った。 「相手するから奥義くーださい!」 「あ?」 「だからおーぎ! ラーニングするから出して出して。くれなくても勝手に盗めるんだろーし? こ……ん、あれ?」 銃のトリガーをがちがちと引きながら首をかしげるぐるぐ。何度か振ったり叩いたりした後、頭上で豆電球を光らせた。 「あ、これ鈍器だった。アリスナ無理だわ」 「鈍器なのかよ」 ぐるぐは少し考えた後、とりあえず突っ込んでおくことにした。と言うより、突っ込む他に無い。 「前だって盗めたしね、ノックダウンコ――ぎゃん!?」 「浅はかだってんだよガキが!」 攻撃を撃ち込もうとした途端、凄まじい闘気と一緒に太郎太刀を叩きつけられた。 くるくると回って壁に叩きつけられるぐるぐ。もう少し当たり所が悪かったら即死コースの打撃だった。 「うひー、怖ぁ」 「テメェの『それ』はな、相手と絆を作らないと意味ねえぜ。つまり今のスタンスじゃやるだけ無駄だってことだ。ラーニングマニアならそのくらい覚えとけ」 「うーん、隙だらけに見えて隙が無いなー」 背後に廻って神気閃光を撃ち込んでみる『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)。命中率は五割といった所である。興を冷まさぬように端的に述べるが、ショック状態にできる確率は二割強と言った所だ。 「オレの攻撃が通りさえすれば後は畳み掛けられるんだから、頑張らなきゃね」 力の強い富船士郎と粘り強いアークリベリスタ、という構図である。 ヘクスと三千の状態が維持されている限りは誰も落ちる心配がないが、反面その一点さえ突破されてしまうと後はひび割れる氷河のように切り崩されていくことだろう。 それを誰より理解しているべきヘクスは、と言えば。 「世界最硬を証明するには、あなたの攻撃を受けきる必要がありますから」 「そんなら、受けてみるか?」 大上段から強烈な闘気と共に太刀を叩きつけてくる。ヘクスはそれを盾でもって受け止めた。人間一人覆えるような……と言うより、もともとそう言う風に設計された盾である。より具体的に言うなら鉄扉に無理矢理取っ手をつけた盾である。物理的な頑丈さは充分にあった。あとはヘクス自身の腕力である。 「アークのリベリスタ、だったよな」 地球割り・壱式。 強烈な打撃を盾は耐えてくれた。しかしヘクス自身の腕が耐えきれなかった。一発で三割近く削られるのがデフォルトだ。 「ヘクスさん、無理をしないで!」 三千がデフォルト分の回復をしてくれてはいる。しかし如何せんヘクスの足の遅さ、もとい回避率の低さが脚を引いた。かなりの割合で倍近いダメージが入るのだ。そうなってくると三千のフォローでは追いつかない。 「砕いて見せて下さい。ねじ伏せて見せて下さい。絶対防壁を!」 「上等ッ!」 最終的に、ヘクスは十発近くの壱式を受けきった所でフェイトを使用。直後にもう一発を食らって力尽きた。彼女の経験値からすれば、大健闘だったと思われる。 「ヘクスさ……くっ!」 危機を察し、急いで後退する三千。 士郎は汗を拭う。 「待たせたな。相手してるうちにだいぶ体力削れちまったが、纏めて相手してやるからかかって来い」 「……」 七人の中でも指折りで倒しづらい相手を真っ先に狙ったのは、もしかしたら敬意の現れだったのかもしれない。放って置いて他の仲間から削って行けば、あるいは彼の勝ちだったのかもしれないのだ。三千はそう考えて口をつぐんだ。 リンシードとぐるぐが左右から飛び掛る。 「八人全員で挑むのは、卑怯何て言いませんよね?」 「勿論だ。だからお前ら、負けて死んでも文句は言うなよ?」 繰り出されるソニックエッジ。士郎はそれを中途半端に払うと、豪快に地球割り壱式を叩き込んだ。 吹き飛ばされるリンシード。 攻撃直後の士郎の背中にぐるぐがノックダウンコンボを叩き込む。 クリーンヒット。良いダメージにはなったが、その直後に顔面を鷲掴みにされた。 頭上へと放り投げられるぐるぐ。 「ひっ、うわわ!?」 この流れはなんとなく分かる。士郎は太郎太刀を野球のバットのように構えると、ぐるぐをフルスイングでかっ飛ばした。 武道館の壁に激突し、跳ね返って天井にまでぶつかる。 これまでの戦いで既に一度はフェイトを削っていたぐるぐである。今の攻撃がクリーンヒットになり、今度こそ目をグルグルにして気を失った。 しかし、ぐるぐとリンシードの攻撃が良い隙になった。 死角から叩き込まれたウルザの神気閃光がクリーンヒット。士郎の体勢が大きく崩れた。 「今だよ!」 「マカセナ」 壁を足場にして飛び掛るリュミエール。 よく集中したソニックエッジが走り、士郎の自由を奪う。 「それにしてもその刀よく壊れネーナ……貰って」 「馬鹿やめろ、借りもんだ。つうか平気で人のモン奪って行くな。山賊かてめぇは!」 「……否定はシネーナ」 「しろ、あと本気で気分悪くなるからやめろ! 鹵獲対策に罠張ってたらどうするつもりなんだよ!」 「……それは考えてネーナ」 などと言っている内に、士郎の背中に紗理のソニックエッジが撃ち込まれた。 「己の全てを賭けた剣技のぶつかり合い。よそ見は失礼でしょう?」 「五月蠅え、七人分も見えるか!」 「ソリャソウダ」 言いながらも好き放題斬りつけ続けるリュミエールと紗理。 戦いが一方的な様子を見せ始める。 なんとも無情な戦いか。 所詮戦闘などこの程度のものか。 半場そう思いかけた時。 「舐めてくれんな、こちとら時間がねえんだよ」 麻痺を振り切り、地球割り零式を発動。 士郎を中心に、リュミエールと紗理は吹き飛ばされた。入れ違いに突撃するリンシード。 三千から回復支援をされているとはいえ全快と言うわけではない。 「勝つのは腕前、だけじゃない。執念って、重要だと思いませんか」 「……気が合うな」 二人の剣が激突。火花が激しく散り、血飛沫もまた散った。 互いの刃を研ぎ合い、肉を削り合う。 もとより脆いリンシードはすぐに体力の限界を迎えたが、迷わずフェイトを使用。 「私は人形、いくら壊しても構わない」 「……」 身体は生き返ったにも関わらず目だけは死んでいる。そんなリンシードを見た士郎は、露骨に嫌そうな顔をして飛び退った。 「テメェはもういい。先にこっちだ」 空中で身を捻って地球割り弐式を発動。紗理とその射線上にいた三千に衝撃が走る。 「七布施さんっ!」 「平気です、続けて下さい!」 すかさず天使の歌を発動。自分を含めた仲間を回復しつつ射線から外れる三千。 紗理はカトラスのガードで衝撃をある程度殺し、そのまま士郎へと突っ込んで行く。同時に、ウルザがありったけの神気閃光を発射した。 「あ、もしかしてトラップネストの方がよく当たったかも……って今更か。まあいいや!」 空間を飛び越えるかのような素早さで突きを繰り出す。 士郎の肩を剣が貫通。更にウルザの神気閃光が綺麗に入り、士郎の体勢を崩す。 トドメとばかりに頭上を掠めるように飛んだリュミエールが、彼の喉をかき切った。 「がっ……!」 体力はもう底をついている筈だ。 これで達人、富船士郎の命は尽きるのだろう。 なんと虚しい最後か。 「俺の出番は結局無しか……馬鹿が一人待ち惚けしただけになったな」 武道館の入り口で、桐生 武臣(BNE002824)が煙草を咥えて立っていた。 真ん中で士郎がうつ伏せに倒れている。 「勝ちも負けも生き死にも、オマケみてぇなもん……と思ったがな」 この期に及んでと思われるかもしれない。故に述べておくが、彼は同意の上で『サシの勝負以外に興味が無い』と言って武道館の外で待っていたのだった。 仕方あるまい。たとえ最初にサシの勝負を挑むとしても、士郎が八連戦するのに対してこちらは一人ずつ入れ替えるなど、いくらなんでもアンフェアな話だった。時間をかけて死ねと言っているようなものである。それゆえ武臣は最初から勝負を投げていたのだが。 「悪い名、俺のワガママで」 「別に構いやシネーヨ。あ、刀貰っとこ」 てくてくと士郎の枕元に歩み寄るリュミエール。 見事な太郎太刀だった。頑丈そうで、そして何より重そうだ。 両手で持ち上げる……と、その途端刀の柄が掴まれた。 「あー……あ、っと。ここで死んでりゃ恰好もつくのによう」 「…………は?」 「だから奪うなつったろ。仲良くなったらくれてやるから、な」 骨折れ、肉落ち、血反吐撒き散らし。 富船士郎が立ち上がった。 「悪ぃな、もう一勝負できそうだわ」 「……イイ」 武臣は煙草を噛み潰した。 サシの勝負は叶えられた。 富船士郎は回復なし。武臣は全快状態である。 「俺が負けたら死ぬだけだ。ただし、テメェも負けたらしっかり死ねよ。化けても出さねえし文句も言わせねえ。『軽い気持ちだったんです、殺さないで下さい。言わなかったことにして下さい』なんて格好悪いこたぁ、まさか言わねえよな?」 「言わない。負けたら潔く死んでやる。ただし俺が勝ったらお前」 「みなまで言うな」 長ドスを抜く武臣。 太郎太刀を握る士郎。 「「さ、殺し合おうぜ」」 風のように走る武臣。士郎の背後に廻ってドスを首にかける。だが士郎は身体をわずかに屈めて回避。太刀を強引に振り込んで武臣に叩きつけた。血を吹いて転がる武臣。 寝転がった所に太刀が叩き込まれるが、武臣は更に転がって回避。地面の板が割れて飛び上がった。 武臣は素早く立ち上がり、ドスをまっすぐに構えて突撃した。 太刀を振り上げる士郎。腹にドスが突き刺さり、うめき声を漏らす。突き立てる際、丁寧に捻じっているのだ。 士郎は武臣の頭めがけて太刀を振り下ろす。ごしゃばきりと言う独特の音がして武臣は目を見開いた。目から血の涙が漏れ、鼻血が大量に吹き出た。 ドスから手を放す武臣。 ここまで接近してしまうと二メートルの太刀など邪魔なだけだ。士郎は刀から手を放すと武臣の顔面を殴りつける。 歯が数本宙を舞う。武臣もまた、士郎の顔面をぶん殴った。 歯が抜けたからか息が乱れたからか、武臣は発音も危うく喋る。 「奥義は出さねえのかよ」 「テメェの仲間が粘り強くてな、正直あと一発分しかねえ」 「そいつは残念だな!」 拳が交差。武臣の頬が奇妙に歪んだ。顎が外れたのだ。 「がはっ……!」 再び拳を振り上げる武臣。それを上から押しつぶすように、士郎は強烈な闘志を噴出させた。 「最後の一発!」 地球割り壱式、無刀。 拳が武臣の額に叩き込まれる。 武臣は宙を舞い、武道館の壁に激突して動かなくなった。 「桐生さん! ちょっ――!」 「……」 停めに入ろうと身を乗り出す三千を、リンシードが無言で止めた。 「何するんですか、シャレになりませんよ!?」 「もういい、終わった」 首を振って言うリンシード。 振り返ってみると、富船士郎はその場に膝をついていた。 大量の血を吐き出し、うつ伏せに倒れる。 「……なんだ、こりゃ」 信じられないものを見るように、自分の手を見つめる。 じわじわと、ぐちゃぐちゃと、士郎の手から水気が抜けていく。 いや、違う。高速で老化が起こっているのだ。 「え、何? 自爆?」 ウルザ達が首をかしげていると、士郎の枕元に人が現れた。 どこから、ではない。最初からそこにいたかのように、もしくは最初からそこには居なかったかのように、白いスーツを着た男が立っていた。 誰とも判別できないような無個性な顔をした男である。 彼は帽子を目深に被ると、誰とも判別できないような無個性な声でしゃべり始めた。 「残念だったな富船ェ、時間切れだ時間切れ。お前燃費悪すぎるんだよ」 「誰ですか」 カトラスに手をかけ、身構える紗理。だが次の瞬間には白服に接近、カトラスを振り込んでいた。 だが手ごたえが無い。霧でも切ったかのような感触だ。 「……実態じゃ、ない」 「まあそう熱くなるなよ。俺は弱いんだから、戦闘なんてまっぴらなんだよ」 白服の男はそう言うと、地面に転がった太郎太刀を拾い上げた。 「準備は整った。そろそろこっちの反撃ターンにさせてもらうぜ」 「どういう意味です?」 「おいおい何でも説明させんなよ。暫くしたら、嫌でも見せてやるから。と言うより、アークの連中ならすぐに探り当てられるんだろ」 白服の手の上で忽然と消える太刀。 「そういうワケだ。次回をお楽しみにな」 そして、白服もまた忽然と消えた。 今までにない戦いの臭いがする。 リベリスタ達は胸の奥にどこか熱いものを感じながら、一時戦場を後にしたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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