●チーム『ファルコン』 高度100m。 雲にはまだ遠く、しかし地上は遥か下。 風を掻い潜り男は飛ぶ。 華麗にインメルマンターンを決めて、両手を大きく広げる。 空中をくるくると回転しながら、彼は目を瞑った。 周囲を飛ぶ七人の若者たち。 今だけ、ここは彼等の制空域だった。 邪魔するものは食い散らかす。 目につくものは切り刻む。 それで充分だった。 そうしていれば、自由だった。 ●翼をもつ者ども 有翼人のみで構成されたフィクサードチームがある。 名をファルコンと言い空中戦を得意とするフライエンジェの集まりである。 戦闘能力は不明だが非常に好戦的で、付近を通る飛行機類はおろか目についた有翼種をフィクサード・リベリスタ問わず襲撃していると言う。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は彼らの活動圏やおおまかな情報を記したメモをボードに張り付けていった。 「ただのフィクサード集団であれば、戦って倒すだけで済むのですが、彼らは主に上空で活動しているため普通には手が出せません」 「普通には……」 そう呟いて、首をかしげるリベリスタ達。 どこか頼もしいものを見る目で和泉は振り返った。 「しかし皆さんは、普通じゃありません……よね」 「そうだな。俺達には翼がある」 フライエンジェ達は勿論の事、翼の加護を使えば全員で空を飛び続けることも十分に可能である。中には簡易飛行と言う手を使う者もいるだろう。 「ファルコンのメンバーは八人。皆さんなら、彼らを倒すことができる筈です!」 たのしいたのしいフィクサード退治。 そして滅多にない空中戦である。 リベリスタ達は顔を見合わせ、そしてにやりと笑い合ったのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 1人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月23日(金)22:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 1人■ | |||||
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●高度百メートルの神秘戦 「目標補足、横方向から殴り込む形で良いよね」 『紅乃月夜』夏月 神夜(BNE003029)は超長距離から敵フィクサード隊を『肉眼で』確認。味方フライエンジェを含めた小隊(四機)編成で高速先行していた。 くつくつと笑う小夜。 羽を鋭角にして加速しつつ、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が視線を寄越してきた。 「どうかしたの?」 「あ、悪い。昔はよく飛び回って悪さしたなってさ、思い出してた。さて、交戦範囲到達まで目測5秒」 ここまで来れば相手だってこちらに気づく。 まずは様子見としてこちらを警戒し始めた彼らに対し、氷璃はまず魔曲・四重奏を発動。同速度から離脱した四発の魔法弾が自律発進してフィクサードの一人へと食いついた。 「警告もしねえでいきなり射撃かよ、何だこいつら!」 急上昇をかけて魔法弾から逃げるフィクサードだが、すぐに追いつかれて自由落下に代わる。顎を上げる氷璃。 「滑稽ね。たかが百メートルで空を、自由を、手に入れた心算かしら?」 「何だと、テメェら一体!」 銃やライフルがこちらを向く。 が、その時には既に『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)がライフルを連射していた。咄嗟に四方へ散るフィクサード達。 「空は誰のものでもありません。手前勝手な狼藉は捨て置けませんね」 「そーゆーこと! 枢、いつもより飛びまーっす!」 両腕を広げた『ジェットガール』鎹・枢(BNE003508)が更に加速。敵機へと突撃した。相手の腰に捕まる形で群を抜けさせる枢。サポートの『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の鴉も加わって、敵フィクサード隊『チーム・ファルコン』から四体を分離させることに成功した。 「大したことない奴等ほど凄そうな名前を付けるもんだ。俺らも倒せずに制空気分に浸るなんざおかしな話だぜ! なあ!?」 高らかに笑う神夜。四体四の空中戦が、こうして始まったのだった。 その一方、残された方はと言えば。 「いきなり分断されちまったぞ。どうする」 「助けに行きたいけど……そういうわけにも行かなそうね」 振り返る四人。 そこには。 「チームファルコンに告ぎます。自分たちはチームフライハイ。申し訳ないですが、この空を制圧させて頂きます」 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)が抱えていた『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)を分離。 「あぅ、空高いです……っ」 一瞬わたわたとしてから、小夜は翼の加護を発動。 同じような形で補助移動していた仲間に光の翼を付与した。 ボウガンを引く『日常の中の非日常』杉原・友哉(BNE002761)。 「めんどうくさいやつらだな、はあ、寝たい」 先ずはハニーコムガトリング乱射。 「めんどうくさいが、撃ち落とすか」 「そんな理由で落とされてたまるかよ!」 フィクサード四機は複雑な螺旋軌道で弾幕を回避。 抱えていたライフルを乱射してきた。 「飛ぶだけで運命を自分のものになんて、できないよ。あなたの自由は、私達がねじ伏せちゃう」 手を翳す『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)。 彼女の頬を弾が掠り、紅色筋を作る。それを無視して魔閃光を発射した。 ガード態勢のまま突っ込んでくる敵フィクサード。 「人数的にはほぼ一緒だ、そこまで分は悪くない……やるぞ!」 こちらでもまた、四体四の空中戦が始まろうとしていた。 ●地を捨てよ、新天地は雲の上にあり。 宵咲氷璃を語る際、幾つかの逸話を例に出すことができるが、中でも秀逸なのが賢者の石争奪戦である。対第二次クレイジーマリア戦と言っても良い。 しかし、まあ、見て貰った方が早かろう。 「覚悟なさい」 回転しながら上昇する氷璃。彼女の周囲で無数の魔方陣が展開した。 「私とマリアの堕天落としは、とても厄介よ」 唇を指でなぞるようにしてから、氷璃は両腕を広げた。 途端、周囲幾重にも集中した魔方陣から閃光を発射。 二機編成で飛んでいたフィクサードへと襲い掛かった。 「やべっ、避けられるか!?」 「できると思うのかよ!」 たちまち石と化したフィクサード。もう一人がブレイクフィアーをかけつつ氷璃に接近した。 「良く分からんが特殊スキルだ。こいつから叩く!」 「そう? 付いてらっしゃい。付いてこれるなら」 氷璃はその場から後ろ向きに離脱。フィクサードが高速で追いすがり、ライフルを連射してきた。対して氷璃は急制動をかけてターン。戦闘機戦における捻り込みと呼ばれる動きで後ろを取るが、フィクサードもまたボディ自体を反転。氷璃の魔曲弾をギリギリでかわしつつ射撃を叩き込んできた。 翼で己を包むように防御する氷璃。しかし相手も急激な反転で目をくらませていた。 「あら残念」 氷璃は魔曲弾を連続発射。血をまき散らしながら落下していくフィクサード。 氷璃は手を振ってこう言った。 「Au revoir」 先刻石化され、未確認落下物扱いされかけていた二人のフィクサードに話を戻す。 彼らは、神夜とユウのタッグを相手にボウガンを乱射していた。 「やられてたまるか、おれ達は自由に飛びたいだけだってのに!」 「お行儀が悪すぎましたね」 ライフルを単射から連射に切り替えるユウ。横薙ぎにスターライトシュートを放つ。と同時に、神夜が天使の歌を発動。そもそも回避性能の弱い二人は相手の射撃を全て被弾していたが、当たった傍から回復をかけていた。 フルカバーとはいかないが、相当長いこと持ちこたえられるだろう。 歯を食いしばるフィクサード。 「ちっ、神秘型か。苦手だな」 「文句言うな、ヤらなきゃ死ぬだけだ!」 フィクサードは背中を合わせてスターライトシュートを発射。 神夜とユウは双方から回り込むように飛ぶと、スターライトシュートと天使の歌を同時発動。相手の弾幕を殺しつつ、相手の羽根に穴をあけていく。 サングラスを指で上げる神夜。 「その力をまっとうな方向に使ってみる気はないか?」 「お前、そのセリフ俺らに言われたらどう返すんだよ?」 「……ま、それが戦争ってもんだよな」 ヒヨって悪るかったな。神夜はそう言うと再び天使の歌を発動。包囲を縮めるようにしてフィクサード達を抑え込むと、ユウのライフルとサンドにする形で掌を突きつけた。 決着は、既についたと言ってよい。 鎹枢と書けば、なんともがっちりとしていて安定感のある印象を受けるが、その実は真逆と言っても良かった。何せ通り名がジェットガールである。 地上にいる時でも可能な限り常に飛んでいて、地に足がつかないとはこのことだとまで言われた彼女は今、大空に舞いあがっていた。 「楽しく飛びましょう! 小細工なしなしっ!」 きりもみ回転をしながら急上昇。鋭い角度でカーブすると敵フィクサードへと突撃した。 相手もまた両腕を広げて突撃。二つの影が空中で交差し、8の字を書いて再び交差。 交差は幾度も続き、輪はしだいに小さくなり、最後には細かい二重螺旋を描きながら二人は飛んで行った。 「もっと高く、もっともっともっと速く!」 弾き合うように左右へ分かれる。 枢は急上昇。フィクサードは急降下。空圧変化で胸を圧迫されるが、二人は息を止めた。ゴーグルは既に下している。常人であれば眼球が飛び出してもおかしくは無い。 もうどれほどか分からぬほどの高度で停止する枢。 息を大きく吸い込み、全力で叫んだ。 「いくよっ!」 急降下。落下速度を数倍にした勢いで枢は突撃する。 「いーえっくす、スカイダッツ!」 空中激突。 フィクサードとて空中戦には強かった筈だ。しかしそんな彼の翼が、根元からごきりと千切れた。 負けた。そんな目をして、彼は墜落していく。 急降下エネルギーを殺しきれなかった枢もまた、大気圏を突破した隕石が如きスピードと熱をもって落下していく。 戦場を移す。 だがこの戦況を述べる前に、杉原友哉について僅かながら語っておくべきだろう。 「めんどうくさい、めんどうくさいから、もういいや」 初期知識無くして聞けば、真剣な戦場で何をネガティブな言葉を連呼するのだと、気だるさをアピールする中学生かと、怒りを露わにする者もあるかもしれない。 故に述べておこう。 「めんどうくさいから、ひたすら削ろう」 敵影に向けて大雑把にハニーコムガトリングを乱射する友哉。そんな彼にとって『めんどうくさい』は呼吸のようなものであり、本当に面倒くさかったらそもそも戦場にすら来ない。 「面倒くさくなってきた、カレー食いたい、そして寝たい」 ……が、本当に面倒くさいだけかもしれない。 戦況を述べるのも面倒くさくなってきた。ここから先の描写は撃った外した撃たれた落ちたの結果だけ述べるのでは、だめだろうか。 口癖にするのはいいが、本当に面倒くさがるのは、いかがなものだろうか? などと、捕らわれてはいけない。 「あの、さっきからあまり当たってないんですけど……」 定期的に天使の息や歌を発動して弾幕殺しを図っている小夜が、申し訳なさそうに顔をだす。 「だって面倒くさいし」 「え、本当に!? 本当に面倒くさがってるんですか!? 流石に負けて落ちたら死んじゃうんですけど……」 「いや、それは流石に」 などと言っていると、フィクサードのライフル弾が友哉の腹を貫通。態勢を崩した途端別の射撃が脳天をぶち抜いて行った。 「っと?」 ぐらりと上下反転する友哉。 (こればかりは面倒くさがったわけではないと思いたいが)フェイトの使用もやめていたので、友哉は完全に意識を失った。光の翼も消失し、自由落下を始める。 「わ、わっ! 友哉さん!?」 慌てて飛び付き、友哉を抱える小夜。小夜にまでライフル弾が襲い掛かるが、天使の息を自分にかけつつなんとか軽減。しかし半分もカバーできている気がしない。 こうなれば体力の底がつくのは速いもので小夜はフェイトを削って必死に状態を維持。 あと一発でもくらえば友哉もろとも潰れたトマトのようになってしまう……と言うところまで追いつめられた。 「も、もう……」 必至に回避行動を試みる小夜だが、よく狙ったフィクサードの1$シュートを避けきる自身は無かった。風を切って回転するライフル弾が音速を超えた速さで自分の背に迫るのを感じる。 小夜が死を覚悟して目を瞑った、その時。 「これ以上は行かせない!」 間に割り込んだ亘が弾を自分の腕で受け止めた。 「下がって下さい、ここは自分たちがなんとかします。シャルロッテさん!」 「いいよ、行ける!」 亘はフィクサード達へと突撃。シャルロッテが魔閃光で援護射撃を加えた。 弾幕を張って対応するフィクサード。亘はそれを稲妻機動で回避すると、高速でフィクサードの背後へと回り込んだ。 「ふふ、自分を止めたければ本気できなさい。空で死ぬ覚悟でね!」 首を切り裂く。フィクサードは何を言う暇もなく墜落して行った。 そしてもう一方のフィクサード。彼は援護射撃を消そうとシャルロッテへ連続して射撃を叩き込んでいた。亘ほどの回避性能も、そして防御力もないシャルロテはたちまち体力が底をつきかける……が、しかし。 「一緒に堕ちて貰うよ」 シャルロッテからおぞましい闇のようなものが生まれた。それはフィクサードへと絡みつき、凄まじい痛みを直接植えつけ、更には彼の翼をもぎ取った。 反動の強さゆえか、力尽きて墜落していくシャルロッテ。 フェイトは使っていない。小夜達ではないが、このままでは墜落死コースは確実……と思われたが、サポートに入っていた雷音が彼女をキャッチ。亘にOKサインを出してきた。 「助かりました。さて、ラストは……」 亘は振り向きざまマントを大きく翻した。 大量の矢がマントに突き刺さる。 振り払って飛び出す亘。 相手はそう。 チーム・ファルコンのリーダーにしてラストワン。 「ドッグファイトと行こうか、フライハイさんよ」 「いいでしょう」 ソニックエッジが交差。互いのナイフを強烈なパワーで弾き合った。 回転しながら天へ飛び上がるナイフ。 二人は直角な急上昇でナイフをキャッチすると、互いに上昇をかけながらお互いのボディを切り裂き合った。 「ふ、ふふふ」 「ははは、はっははははは!」 飛び散る血が軌道となり、複雑な三次元波形を描き出す。 「強ぇなあ、強ぇなあアンタ! 先輩とどっちが強ぇかなあ!」 「先輩? まあ、ヤボなことを聞くのはよしましょうか」 「ああよしてくれ、今は――!」 のけぞりながら血を吐きだすフィクサード。 墜落しかけてフェイトを削る亘。 「己の全てを賭けてきなさい!」 「望む所だ!」 高速で衝突する二人。 これがただの人間であったなら、加速中に一度、衝突で二度、その反動で三度は死んでいただろう。いや、その後の墜落で四度だろうか? 鮮血をまき散らし、きりもみで墜落していくフィクサード。 亘はそれを見下ろして、額の血を拭ったのだった。 小規模フィクサード集団、チーム・ファルコンは壊滅した。 しかし彼等がただのチンピラとは思えない空戦能力を有していたこと、そして『先輩』の存在。 リベリスタ達は空での戦場へ再び訪れる気配を感じながらも、地上へと帰って行ったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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