● 「うまくいかないなぁ……何でだろうなぁ……折角知力とそれなりの能力を持った上で『協力的』なノーフェイスまで使ったというのに、おかしいなぁ……期待値には届かないなぁ……何でだろうねぇ、等活君……」 「さあ。我の研究は此方とは違いますので」 一歩進んで、一歩下がる。一歩進んで、一歩下がる。 簡単に言えば前後に揺れているだけの白衣を纏った三十代の男が呟く隣で、等活と呼ばれた壮年の男は肩を竦めた。 「折角紫杏様が例の石を手に入れてご機嫌だったのになぁ……。他の誰かがもっとうまく……いやいや、他の誰かが褒められるのも癪だなぁ……何故届かなかったのかなぁ……素材がまだ悪かったのかぁ……」 等活は黙って、男が『うまくいかない』と嘆く視線の先を見やる。 存在するのは異形。辛うじて人型を保っている一体はまだしも、もう一体は二人の人間を半端に融合させた様な奇妙な風体。溶けた肉の上に、ゆらゆらと二つの上半身が揺れていた。 目は濁り切り光はなく、知性も感じられない。 「そうだなぁ……素材。もっといい素材が欲しいんだよねぇ、等活君……。……ついでに『これ』の能力も測れたら二重に得じゃないかなぁ……つい最近、ちょうどいい場所を君らの誰かから聞い……あれ、君だったかなぁ……まあいいや」 「つまり、『これ』の能力を測るついでに素材を得て来いと?」 「ああ、いや、ねぇ……素材の確保に関しては、適当にこっちから誰かに要請しておくからさぁ……ほら、君の視点は僕と違う訳じゃない、護衛ついでに一緒に『これ』観察して感想聞かせてよ、探求者の一人としてさぁ……」 「感想、ね……」 わざわざ能力を見るまでもない。 実に醜い、と等活は思うが、人の研究に口を出す程に野暮でも暇でもない。 ましてや『六道の兇姫』六道紫杏に心酔するこの集団と無駄に事を構える程に馬鹿でもない。 何しろ、彼らは金払いが良いのだ。 研究には金がいる。ならば金を払うクライアントに言う事は一つ、了承のみ。 「我ら六道が最下層、地獄一派――地獄の沙汰も金次第。報酬があるならば、幾らでも」 故に等活は、所詮出来損ない、という本音を奈落に放り投げた。 ● 「……ああ、こんにちは。皆さんのお口の恋人、断頭台・ギロチンです。単刀直入に事実だけ述べると変なものが出ました。あ、帰らないで下さいね、真面目な話ですよ、ちゃんと」 赤ペンを手に振り返った『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は傾げていた首を戻しリベリスタを見やる。 さて、と開かれた地図、県外の山間に位置するそこにギロチンは丸をつけた。 「ここには既に第一線を退いた年長のリベリスタ達が、幼いフェイト持ちの子供達と共に住んでいます。そこを六道と裏野部のフィクサードが襲撃するのが見えました。彼らは仲間ではありませんが、利害が一致したんでしょうね」 モニターで示されたのは、更に詳細な地図。 二つの建物が、隣り合うように建っている。 「今回は『レイジ』『トシヤ』『タク』という三名の裏野部フィクサードが六道に協力しています。アークと交戦歴もある連中なので覚えている方もいるかも知れません」 次いで現れたのは、柄の悪い若者達。黒髪、金髪、茶髪。 少し考えて、ギロチンは隣にも映像を出した。 人の形をした何か。人の形を保っていない何か。 誰かが、眉をひそめる。 「……で、此方は六道の手駒……同じく前回の時に撤退したノーフェイスの『ゴウ』、及びその際に死亡した『ミヤ』と『セイジ』だと思われます」 微妙に歯切れの悪い言葉。単語を選ぶように、フォーチュナは言葉を続ける。 「……資料を見る限り、ゴウはノーフェイスでした。セイジとミヤも死亡していて、仮に革醒したとしてもアンデッドのはずです。……ですが、この二つはどうにもそれとは種類が違う。何が、とは具体的に言えなくて申し訳ないのですが」 考えて、ギロチンは首を振った。 「皆さんに受け持って貰うのは、この『ゴウ』に『ミヤとセイジ』――彼らを食い止めているのは、年長のリベリスタ達です。が、その力量差は歴然。皆さんが辿り着く頃にはほぼ壊滅している事と思われます」 詳しい事は向かいがてら資料での確認をお願いします、と配られる紙。 「現地のリベリスタは皆さんよりも実力は低いですが……それ以上に、このエリューションの戦闘能力が高いんです。なので、十分な警戒が必要だと推察されます。推察しなくても必要です。それに加えて、六道フィクサードが遠方から彼らの行動を観察している様子です」 ただし、彼らは手を出してくる事はない、と青年は溜息を吐いた。 あくまでも彼らは謎のエリューションを観察し、裏野部が行動を成すのを見ているだけ。 「ああ、彼らに関してはノータッチで。情報が欲しいのは山々なのですが、あくまでも今回は、『謎のエリューションの討伐』及び『子供らの無事』にのみ目的を絞って下さい。……申し訳ない、鬼の方との兼ね合いもあって、人員がギリギリです。能力も人数も分からないフィクサードに向かわせるだけの余裕がありません。正直、厳しい戦いだと思います」 薄っすら浮かべた笑みはいつものまま。 ただその眉間に少しだけ皺を寄せて、地図を叩く。 「現地のリベリスタはもう満身創痍です。ですが、彼らは早々には退きません。彼らの望みは『己らが死しても子供達を守る』事です。ですから、もし、皆さんまで危なくなったら――即座にその場から退却の後、もう一班と合流し撤退して下さい。救える分だけでも、子供達を救って下さい。それが結果として、彼らを助ける事になると思います」 彼らにも自負がある。子供や外部のリベリスタに被害が出る位なら自らが、と思うだろう。 しかし、子供の無事が確認されれば、彼らとて無駄に痛むつもりはない。 「……厳しいとは思いますが、可能な限り、お願いします。平和な声に満ちていたこの建物が、誰もいない場所になってしまうなんて事は、嘘にして下さい。ぼくを嘘吐きにして下さい。お願いします」 そう告げて、ギロチンは手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月26日(月)22:10 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 夕暮れ。赤く染まった庭。赤く染まった地面。 遠方からでも分かる惨事の傷跡。あそこで今、命が削られようとしていた。 「ふん。気にくわないねぇ」 向かう途中の車で潰した煙草の香りの残る息を吐き、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)が道を駆ける。外道。道を外れた、という意味ではそうだろう。彼らがそう名乗っていないとしても。最早名乗るだけの知恵を持たないにしても。だとしても戦う相手としては十分。楽しめそうだ。 戦を願い楽しむ御龍にはちょっとやそっとで倒れない敵は実に望ましい。そう簡単に壊れてくれるなよ、と思う。 「今回はまだ、交戦記録のある個人だから分かったものの……そうでなかったら謎のエリューションとして処理されていたかも知れないですね」 「ええ。六道は最近、研究成果の披露会でも催している様な状態ですから」 柳眉を寄せた『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)に、『無何有』ジョン・ドー(BNE002836) が首肯を返した。立て続けにブリーフィングルームで告げられた事件。『何にも分類されない』、『イレギュラー』、仮の名称で呼ばれるだけのエリューション。 万華鏡を用いたフォーチュナですら見通せない正体。共通するのは、謎のまま放置するには些か人畜『有』害である事実。話を聞く限り、報告書を見る限り、嘗てゴウと呼ばれた存在は運命の加護を失ったノーフェイスだったはずだ。 「彼らの死と破滅自体には、何の憐憫も同情もないけれどね」 己の欲に従い『悪』を為してきた以上、表裏一体の破滅も予期はしていただろうと『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は思う。覚悟もなく行っていたのならばそれこそ破滅は自業自得の因果応報。 だとしても。死体を弄び『生きて』いる存在を変質させる六道はそれより性質が悪い。そこには人間の死という最期の尊厳すらない。実験体に過ぎず一個のモノ。細められた目に宿るのは冷静なる怒気。 「俺は、こんな形で再戦を望んでいた訳ではない」 呻く様に『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が呟き、『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が静かに頷いた。 彼らは未だ『人』と言える時分のゴウ、そしてセイジとミヤを知っている。 ゴウ達とて善良であったはずもない。零二が告げた通り、死に憐憫も同情も抱かない程度に、己の手で与えてやっても良いと思う程度に悪辣であった。良い記憶ではない。救えたが排せなかった。だが、決して代えの利かないものを守り通せたならば、何れ再びその顔と相見える事もあると思っていた。 結果として彼らの目の前に現れたのは、更なる異形と化した三人――二体。 「しかし、施設を襲うとは、何の意図が……」 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)の顔が曇る。 六道の所業を見る限り、決して良い事ではありえない。組んだのが裏野部である時点で、穏当な手段を取るつもりもないのだろう。 何処かで見ているという六道のフィクサード。それに問い掛けたとして答えてはくれないだろう。 組み替えられた存在に問うか。無理だ、彼らには最早知性の片鱗も残っていない。 ならば、真琴は真琴のできる事を行うだけ。誰一人として失わず、傷付けないように。 「しかし何ですな、サイボーグ戦士ゴウって感じの姿ですな」 ショットガンを肩に置き、遠目で眺めた『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が微かに笑う。 侮っている訳ではない。強力である事は身を持って感じられた。 それでも隠れて泣いている訳にはいかないのだから、何時もの通りに。 泣いて隠れて生き延びるのは子供がいい。怯えて隠れて、その戸を開けて迎えるのが信頼する者ならば尚良い。彼は誤解されがちだが見目に反して子供が好きだ。 「さ、まあ頑張って撃ちましょうか」 ちきり。鳴った鋼の音が、激戦のトリガー。 ● 普段は子供達の遊び場なのだろう。 端には手作りと思しき木製のブランコが六つ。 シーソーにバスケットゴール、小さな野球場にドッジボールの線。 だが、今は其処彼処が血で汚れている。日常が非日常で塗り潰されていた。 中心に座すのは、奇妙な風体をした二体。 呻き声をあげながら、それでも立ち上がろうとする男に、腕が振り上げられる。 「そこまでです」 手に持つ愛剣セインディール。その軌跡と同じ色を残し、リセリアは追い撃ちを掛けようとしていたゴウの前に立ちはだかった。 目は赤く充血しきり、そもそも視線が定まっていない。 脈打つように動く金属は水銀の様で、そこから伸びるパイプは明らかな硬質。 「一旦退け!」 唐突な乱入者に警戒を高める現地のリベリスタに、優希の一喝が飛ぶ。 「我々はアーク、援護する」 「私達が抑えている間に体勢を立て直して欲しいですのう」 顔を見合わせた彼らに、零二と九十九が重ねて告げた。 近頃良くも悪くも知名度が飛躍的に上がったアークを、彼らも知っていたらしい。 優希と九十九を見て誰かが名を囁けば、その言葉も疑いなく受け入れられる。 だが。 「そう気軽に、退くわけには……!」 彼らは既に刃を置いた身であったとして、強力な敵に対しては些細な攻撃の積み重ねが紙一枚差の勝利を招く事もあると知っている。 ましてや幾ら名を上げたとはいえ、外部組織であるアークに頼り切れないのは致し方ない事だろう。 「子供達は『貴方達を』待っているのでしょう」 躊躇を断ち切ったのは、リセリアの声。 体はゴウに向けながら、彼女はそれでも真摯な瞳で己の背後に庇ったリベリスタを見やった。 「だから、これ以上一人も欠けず子供達の許に帰ってあげなければ駄目です――お願いします」 「あなたたちが倒れても、あたしたちは子供を守りきるつもりだけど……この先もずっと守り続けられるのは、あなたたちだけだよ?」 背は高くとも幼さを残す少女に諭され、幾人かが黙り込む。 「……怪我人を保護し、整えたら、戻ってくる」 「ああ。その際はアレに火線を集中してくれ」 搾り出された言葉に、零二がゴウを指して付け加えた。 戦闘を前提とした言葉は、多少なりとも彼らの矜持を補ったらしい。 無言で頷いたリベリスタは、即座に背を向けて痛む仲間を拾いに行った。 「今度こそ、倒す!」 不器用な仕草で武器を構えたセイジとミヤの前に、優希が躍り出ると同時に掌打を叩き込む。 同時に流れ込む、爆発的な気。外殻の硬さを無視し、内部へと直接与えるダメージ。 濁り切り、白目を剥いた姿が揺れた。 が、やはりおぼつかない手つきで武器を構え直す。 同体のミヤが銃口を向けるより早く、レイチェルによって翼の加護が齎された。 擬似の翼による揚力を得て、優希はミヤの銃弾を紙一重ですり抜ける。 「ね、あたしの事、覚えてる?」 レイチェルの目線は、既に言葉という概念すら理解しているか怪しいセイジとミヤを越えてゴウへ。ノーフェイスであったが、以前に彼は確かに笑って喋り皮肉を言う人間性を、質としては最低だが持ち合わせていた。しかし。 まるで鈍色の蛇に巻かれたかのような姿のゴウは、一切の反応を返さない。 「……わけ、ないか」 問い掛けが無意味で在ろう事は分かっていた。彼らと出会った時は、今だこの世界に疎かった、とレイチェルは思う。故に取り逃した、と。発展途上のアークに磐石の戦いはそうない。だから、すべて上手く行くとは限らない。 「すぐ、解放してあげるね」 そして彼らの結果が自業自得だとしても――この姿は、許容しがたい。 レイチェルの傍らに並んだジョンは、攻撃手の数を減らすべく気糸を張る。 絡む糸の輪、しかしがくがくと生物としては不自然な動きを繰り返すセイジは糸を払い切った。 「ならば、掛かるまで」 彼らの最初に狙う目標はゴウ。 攻撃を行う間、セイジとミヤによる攻撃を少しでも緩めねばならない。 「くっくっく、その目を頂きますぞ」 ゴウを狙い構えた九十九の銃弾は正確に目標を捉えるが、一度ぐるりと回った眼球に然程の損傷は見られなかった。あの部分も金属なのか、それとも変質した肉体の強度を物語っているのか。 とは言え、落胆も見せずに九十九は再び構え直す。壊せないなら、壊れるまで撃てばよい。 「本物の外道というものはこういうものだ!」 月龍丸を振りかぶった御龍が告げたのは、遠くから観察しているという六道への言葉だったのか。 ぎいんと鋭い音を立て、衝撃に傾ぐゴウの体。 「なあ、少し離れるか」 間髪をいれずに、刃に闘気を乗せて零二が一撃を加える。 ざざざ、と砂埃を巻き上げて、ゴウの体が少しばかり施設から、後方のリベリスタから距離を開けた。 「皆さんを、傷付けはしません」 真琴によって呼ばれた十字。周囲に展開した光の十字はリベリスタの体に吸い込まれ、神秘の守りと意志を固める。 濁った白い目が、ぎょろりと此方を向いた、気がした。 にたりと、御龍が笑い愛刀を翳す。 「この御龍、存分に傾いて見せよう!!」 ● 振りまかれる粉で、状況は落ち着かない。 敵味方を時に見誤り、体の神経を絡め取られて動きを塞がれる。 回る毒は放置しておけばそれだけで多大なるダメージを与えるが故に、真琴とレイチェルは殆ど回復に掛かり切りになっていた。 だが、その回復は現地のリベリスタも範囲に含んでいたが故に、アークは彼らの援護射撃を得る。ほぼ力が尽きていたが故に、スキルの一つも満足に放てないものが殆どであったが――片手を越えるリベリスタが加わったのは、明らかに有利な事柄であった。 「――麻痺一撃に付き、元の10%程度ずつ強化されている様子です」 回復手に精神力を分け与えた後、ゴウを見通したジョンはそう告げる。 正体自体は不明であっても、戦闘能力の分析は可能。彼の目は正しく見通す。 リセリアによる澱みのない剣戟は、確かにゴウの動きを止める事に幾度か成功していた。 しかし、麻痺で止める度に、当たり難さは増していく。振り払うスピードが上がっている。 代わりにリセリアに与えられるのは、強力無比な一撃と回る毒。 「踊れ燐光、纏え加護。茨の魔力を此処に」 レイチェルによって呼ばれた加護が、身を包む。ゴウを傷付けるには些細な棘。 それでも、ダメージは与え続けているはずだと――蒼と銀の少女は目を細め、刃を振るう。 だが、前線に立つもののダメージは決して軽くない。 一歩も引かず、鬼気を以って運命を燃やし、立ち続けていた御龍がとうとう落ちた。 「……少々疲れた。後はよろしく頼んだよぅ」 御龍が体を傾ぎながら呟いた言葉に、零二は頷きその襟首を掴むと背後の仲間へ身を預ける。 九十九が抱き留めた体に、そっと別の手が重ねられた。傍らに駆け寄ってきたリベリスタだ。 「その方は、我々が命に代えても、」 「代えられちゃ困りますのぅ。私達としては皆さんも無事でないと寝覚めが悪いのですから」 穏やかに言葉を遮った九十九とて、決して健康体とは言い難い。 先程まで毒に蝕まれていた体は、既に危険な領域。それでも。 「何、当たらねば良いのですよ」 ひらりと袖をはためかせ、ミヤの銃弾を避けた彼は――からりと笑った。 「命ある限り、貴様をこの手で狩り取ってくれる!」 歪む視界を、回る毒を、己に不利な影響を与える全てを掌打と共に敵に打ち込むつもりで優希が叫ぶ。 ゴウやセイジ、ミヤに同情している訳ではない。 彼らも倒すべき悪であるのは間違いなかった。 それでも、更なる存在がいる以上、ここで立ち止まっている場合ではない。 「それがこの俺の、存在の証だ!」 憎しみの刃を携えた少年の一撃は、再び死体の一つの動きを止めた。 意識が逸れた一瞬、注射器と化した指先が、その異様に硬質な針で零二の体を深く深く裂く。 皮膚とは違う、もっと奥底の何かを抉られる気配に零二は失いかけた意識を必死で引き戻す。 霞み眩んだ黒い視界に灯るは、青い炎。魂を、運命を灼く炎。もう一度、零二の体力を継ぎ足した。 「屈するなと……貴様らの悪意を滅せよ、とな!」 血を吐き捨てて、両手に握った剣に全ての力を乗せて、渾身に振るう。 硬い金属に当たった。だが構わない。体ごと薙ぐつもりで刃を押し込む。 ずぐり、と手ごたえが変わった。 ゴウの体に、零二の刃が減り込んでいく。体の中心を切り裂いていく。 零二が鋭い目で刃を振り抜いた後――落ちたのは、ゴウの上半身。 びくびくと動いてはいるが、最早ここからの回復はできないだろう事は明らかであった。 「これ以上は我々で! 別方面からの襲撃も心配だ、子供らの元へ行ってくれ」 一足早い快哉を上げかけたリベリスタに、零二は呼びかける。 戸惑うリベリスタに、衣装を赤に染めた真琴が頷いた。 「お願いします、ここは子供達の保護に全力を」 これ以上危険な戦場に立たせたくはない、という彼女の心遣い。 幾らレイチェルによる回復があるとは言え、耐え切れず倒れたリベリスタも存在していた。 見た限り息があるのがまだ幸いであったが、これ以上の怪我人は真琴の望む所ではない。 別方面からの襲撃、という言葉に揺らいだリベリスタが、真剣な目に頷いて後方の施設へ走り去る。 「残るは……」 ジョンがゆらゆらと揺れるセイジとミヤへと視線を移した。 麻痺での足止めが目的であったとは言え、内部から掻き乱す優希の一撃を喰らい続けた以上は無事ではない。 追い詰められた時の切り札であったのか、腕の数本が千切れかけたミヤからの最後の抵抗が放たれた。 無数の弾丸は、グランドを削り蜂の巣を作り出す。一撃凌いだ、しかしもう一撃が雨霰と降り注いで、リベリスタの数人が恩寵を使い果たす。 「倒れてなんか、いられないんだから……!」 それでもレイチェルが立ち上がり、皆の体に彼女が扱える最上級の癒しを齎した。 半数以上が倒れた。それでも、彼らに負ける気はない。 「終わりにするぞ!」 「ああ。六道の思う通りになどさせてなるものか……!」 優希の掌が、零二の刃が、セイジとミヤ其々に叩きつけられた。 傾いだ体が、濁った目が、天を仰ぐ。 死体が死体に戻る――と、思われたその時に、崩れた。火を付けた蝋燭が溶けていく様に、バーナーを近付けたアイスクリームが溶けていく様に、とろとろどろどろ体が崩れた。そこに在るはずの骨さえも残らず均等に蕩けていく。 驚愕に身を引いたリベリスタの目前で、ゴウの体も崩れ溶けていく。 「……はは。全く、仏様にもしてくれないのですかのう」 傷口を押さえた九十九が、立ち上がれないながらも、それでも痛む体で軽く手を合わせた。 なむなむ、と唱えながら、周囲の木立を見やる。 「見物客に、感想の一つでも言って貰いたい所ですけどね……」 ● 「ああ、推論だけどさぁ、もしかして組み合わせが強力になりすぎて耐えられなかったかなぁ……。だから期待値に届かなかったのかぁ……。……っていうか、彼ら僕ら見てるの気付いてるっぽくないかなぁ……」 「気付いてるんじゃないですか。悪名高い『万華鏡』だ。――素材確保に向かった連中も連絡途絶。頃合です、戻りましょうか」 「あれ、待たなくていいのかなぁ……」 「逃げられるなら逃げているだろうし、駄目なら別に助ける必要もない。あちらにも逃走ポイントは設けている筈です。それとも死体でも確保します?」 「ああ……いいや。彼らレベルの死体なんか他でも手に入るし……。一番いいのは生きてて一体でも二体でも素材確保してくれてる事なんだけどねぇ……。見捨てるなんて等活君、ひどいなぁ……」 「酷いのはどちらだと。我は元より裏野部の連中を好いてませんので」 「あれぇ、でもさ、こないだ何か手伝ってなかったっけ……『尸解仙』だっけ……?」 「日頃から常申している通り、地獄の沙汰も金次第。個人的好悪と金払いの良いクライアントは別問題。羅刹様に仇成さぬ限りは――それは今は関係ない。貴方もクライアントで今は引き際だ。帰ります」 「……うん、うん、もう目新しい発見もないしねぇ……早く帰って、次を試さないとかなぁ……。ねぇ、次は何がいいかなぁ……?」 「どうせ我が何を言ったって好きにするんでしょうが」 「分かってるねぇ……」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|