●AGAPE 「奥村さん。ずっと前からあなたのことが好きでした。付き合ってください」 「え……? うれしい。ありがとう……ありがとう……!」 「うわ、えと、その。そんな、泣かなくてもいいじゃない」 「ううん。すごく嬉しい。もう、もう死んでもいい……」 涙を流す少女にハンカチを差し出す少年。そのハンカチは、 「ならば天に還るがいい。ノーフェイス」 ハンカチは渡されることはなかった。その声により少年と少女は神秘の世界に迷い込む。 「のーふぇいす?」 「奥村珠美は既に世界の敵。世界を滅ぼす因子」 正確には迷い込んだのは少年の方。少女は既に神秘の住人。 「誰だ、アンタ!」 「アルゼスタン・フランビット。フランビット家嫡男のリベリスタ。 世界に仇名す奥村珠美を、神の名の下に消し去る騎士なり」 「奥村さんを……奥村さんを殺すって言うのか!?」 言葉の意味は理解できないが、アルゼスタンと名乗る男の雰囲気からそれだけはわかる。そしてそれは見過ごせる事態ではなかった。 「ノーフェイスは世界の敵。ゆえに世界から排除されるが運命」 「そんなこと、させるかよ!」 飛び掛る少年。しかし革醒していない少年が革醒者にかなう道理はない。腕の払いで跳ね飛ばされる。 そしてその槍が少女の胸に突き刺さった。 「うそ……そんな」 「安心しなさい。彼女はまだ生きている」 少年の言葉に応じたのは別のリベリスタ。吹き飛んだ少年を抱きとめて、そのまま耳元で言葉をつむぐ。顔は見えないが、おそらく女性だろう。 「ねぇ、みた? 普通の人なら死んでいるのに生きている。あれがエリューション。世界の敵よ」 「あ……た、すけて……」 「ねぇ。彼女を助けたい? 私はあの娘の傷を癒すことができるんだけど?」 「え……? お、お願いします!」 「いいわ。世界の敵でも愛するその紳士さ、健気さ。素晴らしいわ。神様も喜んでるわ。 だから癒してあげる。その心が続く限り」 見る間にノーフェイスの傷が癒えていく。しかし、その槍は突き刺さったまま。 ゆえにアルゼスタンが槍を動かせば、悲鳴を上げる少女。傷つけ、癒し、また傷つけ、癒す。殺すことなく、延々とノーフェイスに苦しみだけを与え続ける。 「あら彼女苦しそう。まだ助けたい?」 「ああ、ああああ、ああああああ!」 少年は苦しむ彼女を見て『リベリスタ』の意図を悟る。彼らは奥村さんを許すつもりはない。自分が諦めるまで、延々と苦しみを与え続けるつもりなのだ。 「世界の敵は、死ぬが運命。その罪、深々と魂に刻んで旅立つがいい」 「世界に愛されなかった貴女は、たった一人愛してくれた少年にも見捨てられて死ぬ。それが世界があなたに与える罰よ」 肉体的に、精神的にノーフェイスを殺そうとするリベリスタ。 少年の心が折れ、少女を見捨てた時に処刑は完了する。それはそう遠いことではなかった。 ●ARK 「ここからおおよそ二十秒ほどして少年の心が折れる。 絶望と痛みの中で少女は命尽き果て、少年の心には好きな少女を見捨ててしまったことによる深い傷が残る。そんな未来(バッドエンド)だ」 ふう、と吐いた息はため息なのだろうか? 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は見てしまった未来に陰鬱な気分を隠せないでいた。この男にしては珍しいことだが、逆に言えばそういう気分にさせられる事態でもある。 「クールになれよ。まずはいつもの通り情報だ。紙と鉛筆はOK? まずは少女。名前は奥村珠美。ノーフェイスだ。革醒して間もない為、戦闘力は皆無だ。常人より死ににくいという程度でしかない」 モニターに映し出されるのは告白場所と思われる夕日の公園。そして四人の人物。 「次、そのレディに告白した少年。名前は如月敬介。革醒していない一般人の彼はリベリスタに押さえ込まれ、ノーフェイスが弄られるのを見せ付けられている」 自分の愛した人が痛みで苦しんでいるのを見続けているのだ。助けることもできず、彼が見捨てるまで延々と苦しみ続ける様子を見続ける。その辛さ、推して知るべし。 「最後、フリーのリベリスタチーム。チーム名は『アガペー』。ダークナイトとクロスイージスによるチームだ。目撃者を『殺さずに』口封じする事で有名だ。正直、眉を顰めるものも多い。 その実力はかなりのものだ。個人戦力ならアークのリベリスタを抜いているだろう」 この非道さが強さの秘訣かね、という伸暁の言葉は小さくため息の中に消えた。 「目的は『ノーフェイスの撃破』だ。これは『アガペー』に任せても構わない。それを確認すればいい」 アークとして重要な部分はその一点である。逆に言えば、どうあってもノーフェイスだけは倒さなければならない。そういう意味では『アガペー』とやることは結果的に変わらない。 「とはいえ、黙って指を咥えてみているのがお前たちのスタイルかい? ノーフェイスを放置はできないが、こんなハートブレイクは美しくない。おまえ達なりの未来(グッドエンド)を決めてきてくれ」 黒猫はどうしろと具体的に言わない。ただぽん、とリベリスタの背中を押した。それが彼の信頼の証。 リベリスタたちは視線を交わし、ブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月20日(火)23:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●開幕 「お前は一般人を盾にしないと戦えないのか? クロスイージスが泣いて呆れるな」 『red fang』レン・カークランド(BNE002194)の言葉にサーシャが反応したと同時、『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)の輝く手甲が叩き込まれる。推されるような一撃にサーシャが吹き飛んだ。 「敵か」 槍をノーフェイスに突き刺したまま、アルゼスタンはやってきたもの達をみた。 「アークのリベリスタとお見受けする。世界の救済の邪魔をするとは如何なる理由か?」 「ノーフェイスは倒すべき存在。ですが、あなた方のやり方は許せない。 はっきり言って気に食わない」 浅倉 貴志(BNE002656)はオープンフィンガーグローブを嵌めながら、アルゼスタンの問いに答える。拳を握って射抜くように睨んだ。 見れば、他のリベリスタも怒りの視線をアガペーに向けていた。そのなかで唯一『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)だけは冷静である。 (確かに偏っているとは思うけれど、どうにも敵視する気にはなれないな) それは自分がアガペーの考え方にある程度同調していることなのだろうか? 心の中で疑問を抱き、まぁどうでもいいと結論付けた。 「神罰を邪魔するとは。不遜な者達だ」 「いいわ。自らの正義を掲げて悪に挑む瞳。相手をしてあげる。その正義が折れるまで」 死にかけのノーフェイスなどすぐに倒せる。そう判断したのか、ノーフェイスの胸部に刺さった槍を抜いて、『アガペー』の二人はリベリスタのほうを向く。 リベリスタ同士の戦いが始まる。互いのエゴと破界器が振りかざされる。 ●罪 「アガペーを名乗るのならば当然『山上の垂訓』は知っているよな?」 『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)がアルゼスタンに問いかける。神の言葉を受けたものが群集に向かって語った教えである。 「無論だ」 「主は、自分の敵さえも愛さなければならないと説いているはずだ」 禅次郎は負のオーラを生み出し、手のひらに凝集する。自身もそのオーラにより体力を削られるが構いはしない。打ち出された闇のオーラは『アガペー』達を覆い、その身を削る。 「然り。例え悪事を繰り返すフィクサードでも、神の子なら愛そう。 しかしノーフェイスは神の子ではない。運命に愛されなかった罪人だ」 アルゼスタンは断言する。ノーフェイスは敵ですらない存在だと。尊厳すら認めず、殺すのだと断言した。 「問おう。貴殿たちもリベリスタ。ノーフェイスを滅ぼしに来たのではないのか?」 「その通りだ。だがおまえ達のやり方は愛が無い」 禅次郎はアルゼスタンの瞳を見ながら言う。 「俺達は自身の行動が常に正しいなんて思ってない。葛藤しながら戦っているんだ」 その瞳に迷いはない。人間であったノーフェイスを倒さなければならないことに葛藤しながら、しかし『アガペー』の行動は許してはいけない。それだけは確かだった。銃剣を構えて真っ直ぐにアルゼスタンを見据えて禅次郎は言った。 「何が神の意思だ。一緒にするな」 「神は存在する。その意思が感じられないのは、信仰が足りぬからだ」 「神が居るならサッサとそいつにやらせろよ」 会話に割り込む形でアルゼスタンの懐に入り込む『三高平の狂拳』宮部乃宮 火車(BNE001845)。その手に炎を宿し、ノーフェイスを引き剥がすように背中で押しながら、アルゼスタンに拳を振るった。鎧越しに拳の衝撃が伝わり、呻きをあげる。 「神なんて目にも見えねー虚ろな存在の所為にして、正義だ何だと心地好い言葉に酔ってんじゃねぇぞ!」 「神が虚ろとは。神よ、無知なる者をお許しください」 火車の拳を槍の柄でさばきながらアルゼスタンは言う。全てを捌けるわけでもなく、いくつかの拳が鎧を叩き、その炎が鎧の中の人間を焼いていく。 「正義に酔うと言ったな、炎の拳士。なら汝は正義なく拳を振るうというのか? それではただの暴漢と変わらぬ」 「正義とか関係ねぇ! オレは俺の意思で覚悟決めて信念を貫き、己の決意を押し通す!」 火車の拳が炎に包まれ、燃え上がる。その拳は他人の意見ではなく自らの意思で握られた拳。その炎は決意を込めて燃え上がる炎。 「ただ人生を謳歌してただけで勝手にノーフェイスなんかにするような世界も、人一人も救えんモンも! そんなクソみてーな存在が神だとか抜かすならなぁ……」 跳ね上がるように下されるアッパー。それがアルゼスタンの兜を飛ばし、彼の素顔を見せる。 「オレがソイツを全否定してぶっ潰してやるんだよぉ!」 「神を否定するとは!」 アルゼスタンの槍が動く。心臓を貫くように突き出された槍は火車のわき腹を傷つける。精神すら傷つける闇の騎士の一撃。それを受けてなお火車は挑戦的な笑みを崩すことはなかった。 「アガペー。貴様らは拙者の前でしてはいけない事をしたでござる」 『女好き』李 腕鍛(BNE002775)はノーフェイスをアルゼスタンから遠ざけながら爪を構える。アルゼスタンの槍がノーフェイスに届かぬように、身を盾にしながら怒りの視線を向けた。 「無抵抗のものに槍を向けたことか。くだらぬ。世界の為にノーフェイスを退治することが必要であることはリベリスタなら自明の理!」 「ノーフェイスが罪。それは同意にござる」 腕鍛はノーフェイスに聞こえないように、しかししっかりと相手に告げる。 「しかし、彼女は進んでなったわけではないと思うでござる。それなら拙者は彼女を人として扱うでござる」 「ノーフェイスは人ではない。世界に仇名す存在だ」 「繰り返すでござるよ。貴様らは拙者の前でしてはいけない事をしたでござる。 力を持つものが持たないものを蹂躙したのもそう、拙者の正義と完全に敵対する行動をしているのもそうでござるが……女性を傷つけた。それが一番許せないでござる」 腕鍛は奥村を『人』として扱うと決めた。そして女性に刃を向けることは彼にとっては許しがたいことだ。だが、 「貴殿はそうやってノーフェイスを野に放っているのか」 「いいや、拙者もノーフェイスを殺してきているでござるよ」 それは避けられない事実。リベリスタである以上、避けては通れないこと。 「だから拙者は殺人鬼」 自らの正義の為に『人』を殺す。その覚悟、その意味を噛み締めながら腕鍛は拳を握った。 「『神罰』、ね」 リィンはヘビーボウを構えて、距離を離す。並の革醒者なら届かないが、射撃手なら範囲内。そんな位置に。矢に呪いを付けてアルゼスタンを狙う。矢は騎士に刺さり、呪いがアルゼスタンを蝕んでいく。 (僕自身は『アガペー』達に怒りも何も抱いてはいないけれど、ね) 一般人とノーフェイスをを保護して後ろに回しながら、リィンは『アガペー』達の罪と罰を思う。ノーフェイスの肉体と心を徹底的に蹂躙し、絶望のまま死に至らしめる。やっていることは偏っているが、それ自体は激しく嫌悪するほどではない。 (……と思うのは、僕が『そちら側』に近いところに居る、と言う事なのかな?) 再び矢を番え、呪いを乗せてサーシャに放つ。射程外からの攻撃に『アガペー』は怒りの視線を向けるが、リィンは中性的な顔を笑みに変えて、視線を受け止めた。仲間がブロックしているっため、あちらの攻撃がここまで届くことはない。そのまま後ろに顔を向けて、 「あ、キミタチは逃げない方がいいよ。僕から離れると危ないから」 ノーフェイスと一般人に笑みを浮かべながら動かぬように告げる。身を案じているわけではない。逃げられないようにするためだ。 (救う為ではないんだよね、後で倒さなきゃいけないんだから……ふふ) ノーフェイスが去れば『アガペー』は戦う意味をなくし逃げるだろう。そうさせないためにノーフェイスは今は討たない。サディスティックな心を隠し、リィンは戦場の方に目を向けた。 ●罰 「アガペーですか」 貴志はサーシャと向き合いながら流れる水を意識して構えを取る。力を上から下に流すように。一つにとどまらずに流動するイメージ。 「神が人間に対して示す無償の愛というキリスト教の概念らしいですが」 「そうよ。神の愛は無限。あの霧の殺人鬼だろうが許すのが神の愛。 だけどノーフェイスは違う。アレは人じゃない。愛する価値もない」 「そんな名前を大前提に構えるリベリスタがこんな連中ですか。その神にしたらどういう気持ちでしょうね」 「きっと私たちの働きに涙しているわ」 怒りと共に拳を握り、貴志はその手に氷を生む。相手の顔を見て、真っ直ぐに言葉を繰り出した 「神の正義を名乗る時点で自己正当化も甚だしい。罪を罪と感じないようになったら、最悪ですね」 「あら。私たちが何か罪を犯しているのかしら? 世界の為にノーフェイスを討つ私たちが」 「あなたたちの罪は自己の心を神の名で欺瞞していることだ」 そんな劣悪な存在に説得など必要ない。ただ拳で黙らせる。貴志は低温で相手の動きを封じる為に、真っ直ぐに拳を突き出した。 「欺瞞? あなたたちも彼女を殺すんでしょう? 世界の為と偽って」 「そうね。結論は同じ。少年は傷つき、少女は死ぬ」 『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は淡々と事実を告げる。ふわりとスカートが舞い、糾華の手から伸びた糸がサーシャを縛る。 「くだらない。 罪業を被せて命を刈り取ろうとする殺し屋も。正義の名の下に私刑を正当化する聖職者も。救われ無いものにせめてもの救いを齎そうと遁走する私達も。全てが全てくだらない」 ノーフェイスとそれを守ろうとする少年を見て糾華は変わらず淡々と言葉を出す。救いなどない。奥村珠美に生きる選択肢はなく、その結果少年は傷つく。その結果をくだらないと糾華は言う。 「なら何故あなたは私に敵対するのかしら? くだらないのなら、黙ってみていればいいのに」 「あなたが気に入らないからよ」 赤の瞳がサーシャを射抜く。 「何を持って、罪と断じた? 何を持って、罰を加える?」 「運命(かみ)に選ばれなかったことが罪。心身ともに世界に拒絶されることが罰」 「運命? 偶然の産物に価値を見出すべきじゃないわ。選民思想ね。何様」 「私たちは選ばれた存在。神の世界を守るための使途様よ」 迷うことなく断言するサーシャ。その態度に応じるように糾華は死の刻印をサーシャに刻む。 「あなたたちは自分や仲間が堕ちても親しい人間の心を引き裂くような真似を望むのでしょうね、勿論? 何にしても心をないがしろにするような真似を許さないわ」 「選ばれなかった者の心は、存在すること自体が罪なのよ」 血を吐きながらサーシャは答える。高い防御力で耐えながら、堅い信仰で相手の言葉に応じる。 「俺は心まで殺したりはしない」 レンはノーフェイスと一般人の動向に注意しながら、サーシャの言葉に怒りの言葉を返す。ノーフェイスはともかく、一般人がノーフェイスを連れて逃げかねない。それを注意しながら言葉をつむぐ。 「あなたはノーフェイスを庇うの? 世界の敵であるノーフェイスを」 「目的は同じだ、別に正義を気取るわけでもない。だがやり方は許せない」 「ノーフェイスの心を砕くのがそんなに許せない?」 「許す許さないで言えば、俺はお前を許せない」 きっぱりと言い放ち、レンはグリモワールを構える。両手に魔道書を持ち、二重の魔力が展開される。不吉の月がサーシャを照らし、その光が体力と幸運を奪っていく。 「酷いわね。未練を残せばその心がE・フォースになるかもしれない。愛すべき一般人に憎まれるかもしれない。心を殺せばその憂いもなくなるのに」 「憎まれても、心を失うよりずっといい」 例えサーシャのいうことが正しくても。例え守るべき存在に憎まれることになろうとも。レンは心を残すことを正しいといった。 「エゴだと言われても、それを信じてきた。これからも」 レンはかつて住んでいた町を追い出されるように出た経験がある。周囲の恐怖心から住んでいた町を出ることになっても、その人たちを恨むことはできなかった。 「ああ、強く信じる心は素晴らしいわ。神様も喜んでる。でもそれは茨の道。心折れるまで続くマラソンよ」 「それでも構わない」 レンは強い意思を持ってサーシャの言葉に答えた。 「罪の定義は多様です。ノーフェイスは存在自体が罪か。それは価値観の相違と取っても良いでしょう。 私がひどく疑問に思うのは、その罪に対して与えられる罰です」 輝く手甲をサーシャに向けながら、かるたが問いかける。 「エリューションには進行性及び増殖性革醒現象が存在し、長期の放置は禁物。つまりこの罰は、崩界をむしろ加速している。 何を根拠に、これで世界が救えると言うのでしょう?」 「神の意思よ」 サーシャは両手を広げて言葉を返す。 「フェーズが進行すれば強い敵を討ったと神が喜ぶ。増殖性革醒現象で他の者が革醒したら、選ばれなかったものをより多く討てることで神が喜ぶ。ほら、何の矛盾があるのかしら? 崩壊した世界は後で治せばいい。それだけのことよ」 予想外の返答に、かるたは一瞬絶句する。 この女は第一義として世界を救っているわけではない。世界の敵であるエリューションやノーフェイスを討つことが目的で、その結果世界を救っているのだ。それも神の意思を称して、ノーフェイスの心を砕くことに砕身し。それはまるで。 「わかりました。あなた方は自身の嗜虐心を満たそうとしているだけの……フィクサードです」 「それこそ価値観の相違ね。運命に選ばれなかったものを倒す。それは私たちもあなたたちも代わらない」 「それは否定しません。ですが私たちはあなたたちとは違います」 かるたは手甲を振るう。『信念を持ち、日々を大切に生きよう』……心に刻んだ言葉を反芻する。彼らの刃と自分の刃は相容れない。例え結果が同じでも、譲れない信念がそこにある。 かるたの手甲とサーシャの腕が交差する。かるたの一撃はその心の如く真っ直ぐに、サーシャの防御を押し切ってその頬に傷をつけた。 ●少女と少年とリベリスタ アルゼスタンの槍が火車の肩を貫き、その動きを止める。 返す槍の動きで禅次郎の腹部を裂いた。リベリスタでもここまでダメージを与えられれば致命的だ。しかし、 「ハッ! 燃えてきたぜ!」 「おまえ達みたいなヤツに倒されるわけにはいかなくてね」 「おのれ、神の寵愛を燃やすとは何たることか!」 フェイトを燃やして立ち上がる火車と禅次郎を、怒りの視線で睨むアルゼスタン。しかし、 「……あ……これも神の試練……」 「我が信仰が足りなかったというのか……!」 回復を行なうサーシャが倒れたことで、アルゼスタンのダメージが蓄積する。そしてリィンの呪いの弾丸が暗黒騎士に膝をつかせた。 「……私たちを殺すか? アークのリベリスタ」 「命はとらない。貴様等の思想にこの力は凶器だ。だけどその力で救える命もある」 レンは『アガペー』を捕縛し始める。これでこちらは片付いた。あとは、 「……」 息絶え絶えの少女を庇うように立つ少年。リベリスタたちの会話は聞いていたらしく、命を盾にしてノーフェイスを守る意思がそこにあった。 「説明は不要のようですね。私たちは奥村珠美さんを殺します」 「世界の為に、か。彼女を治す方法とかはないのか!」 少年の叫びに、首を横に振るかるた。 「エリューションは周囲を引き寄せるようにエリューションに近づけていくわ」 その影響は彼女だけには留まらない。周りを巻き込んでいくことを糾華は注げる。 「だから彼女を殺すわ」 糾華は謝らない。仕方ない、わかってほしいとも言わない。そんな言葉は自己満足で、相手に届かない。だから謝らない。 他のリベリスタも何も言わず、少年もノーフェイスを守る意志を曲げない。硬直した状況で火車が手に炎を灯し、前に出た。 「俺たちは女を殺す。守るって言うんなら一緒に燃やすぜ」 「やってみろよ。ここはどかない」 「……オーケー。それがお前の意思だって言うんなら、そいつを尊重してやるぜ!」 振るわれる炎の拳は、 「奥村さん!」 とっさに割って入ったノーフェイスに庇われる形となった。炎上するノーフェイスの体。それに駆け寄ろうとする少年を、レンが抑える。 『まもってくれて、ありがとう。あなたにこくはくされて、うれしかった。ほんとうに、うれしかったよ』 死の間際、ノーフェイスの唇は確かにそう動いた。 そのままノーフェイスは崩れ落ち、世界は守られた。 「憎いなら、俺たちを憎んでいい。 でも、彼女の分まで生きてくれ。お前が生きる限り、彼女はその中で生きているから」 ノーフェイスの遺体を前に崩れ落ちる少年に向けてレンはそう告げる。その憎しみが彼女を思うことによるものなら、それは受け入れよう。 「お前には復讐する権利がある。いつでも来るが良い」 復讐心も生きる為の糧になる。禅次郎は彼の心が折れてしまわないように生きる目的を与える為に言った。 少年は何も答えない。リベリスタたちもそれ以上は何も言わずその場を去った。 そして世界を守るためのエリューションとリベリスタの戦いの幕が落ちる。 運命に選ばれたものが、運命に選ばれなかったものを倒す。神秘の世界ではよくある話。 選ばれなかったものは罪なのか? 刃を向けられるのは罰なのか? 答えなど、きっと無い。だからこそ、革醒者は迷うのだ。 今日も、そしてこれからも。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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