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<六趣に於いて蠢くモノ>交錯する悪意

●解放される力
「ご気分はいかがですか?」
 微かな振動音に紛れて聞こえてきたのは、白衣を着た研究者のような女の落ち着いた声だった。胸のネームプレートからは、かろうじて『六道』という文字が確認できる。
 沈黙を肯定と取ったのか、一度頷くと女は背後にある両開きの扉を開け放つ。
 風が流れ込んでくる。僅かに香る潮の匂い。海が近いのだろうか。
 女が扉から外へと降りる。彼女の履いているヒールがコンクリートの地面とぶつかり硬い音をたてた。
 女が乗っていたのは中型のトラックの荷台。外側には町中でよく見かける運送会社の社名とイラストが描かれている。
 荷台の中は暗く、奥まで見通すことはできないが時折、ごん、ごん、という重く何かが暴れるような音が聞こえてくる。しかし、
「お静かに」
 ただ一言。女がそう告げると音は消え、荷台の中の闇は静寂に包まれた。
「……あなた方はつい先日まで小規模なフィクサードグループとして活動していました」
 白衣の女が語り出す。
「私たちはその根城に赴き、ここにいるあなた方以外を全て殺しました」
 闇からは、何も返ってこない。
「私は『弱い』と言いました。するとあなた方は『強くなりたい』と言いました」
 ――、――イ。
「そこで私たちはあなた方を『強く』しました。ヒトの殻を捨てさり、純然たる力を与えました」
 ――イ、――、――ラ。
「ですがまだ足りません。要するにあなた方は不完全です。不完全のまま解き放つのはこちらとしても不本意ですが、私たちは今、データが欲しい」
 ――カ、――ゼン、――タ。
「殺してきて下さい。できればリベリスタかフィクサードが良いですね。男、女、子供、大人、老人。性別や年齢は問いません。その戦闘、その殺戮の全てが重要なデータとなります」
 ――ス、リベ――、――ド。
「では、『お願いします』」
 がちゃり。
 闇の中で、何かが外れる音がした。

●起動する闇
「鬼の件で色々立て込んでるトコ悪いけど、仕事だ」
 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の表情にも少し疲れが見える。しかしそれを振り払うように髪をかき上げ、普段のクールな表情を取り戻す。
「ま、お互い頑張ろうぜ。さて、今回の事件はそんな俺たちをさらに悩ませてくれるらしい」
「悩ませてくれる、というと?」
 椅子に腰掛けず、立ったまま壁に背を預けていた『ディーンドライブ』白銀 玲香(nBNE000008)が疑問を投げかける。
「曖昧な言い方しかできないのがもどかしいんだが、一言で言えば今回の相手は――正体不明だ」
「それはまた、妙ですね」
 玲香の言葉に、だろ? と肩をすくめつつも伸暁は概要を話し始める。

 今回の戦場は、ある港の埠頭。そこで何やら六道派による動きがあるという。
「主流七派が何かしでかすのはまあ、今まで何度もあった事なんだが……奴ら、ご丁寧に運送会社のトラックに偽装までして、あるものを運んでいてね」
「あるもの、ですか」
「ああ。だけど、それが具体的に何かは分からない。少なくとも生物であることはわかるんだが、しかしアザーバイドやノーフェイスの類じゃない。
 かといってエリューション・タイプのどれかに属するわけでもなく……色んなモノをない交ぜにしたような、今までにないイレギュラーな存在とでも言うべきかな」
 切り替わったモニターに映し出されたのは、全身が溶けた黒いゴムのようなもので覆われた、辛うじて人型に見える『何か』。中に人ならざる者が詰まっていると言われれば納得してしまう程の不気味さを、それは感じさせる。
「ホラー映画に登場するモンスターを無理矢理白日の下にさらせば、案外このような姿をしているのかもしれませんね」
 玲香が率直な意見を漏らす。
「ま、色々考えるのは後だ。俺たちは動かなきゃならない。こんなものが町中に放たれたらとんでもないことになるからな。
 君らは現場に直接乗り込み、正体不明の『何か』を倒してくれ。それが今回の任務だ。
 現場に到着した時、残念ながら六道派の連中には逃げられてしまうけど、その場にいる『何か』を叩くことはできる」
 『何か』の数は計4体。リベリスタ達を認識すると、有無を言わせず襲いかかってくるだろう。
「敵さんの能力は君らに馴染みのあるスキルが変容したものだ。性能が強化されているから気をつけてくれよ」
 資料ファイルを閉じると伸暁は一息付き、リベリスタ達を見渡す。
「こんなとこだな。んじゃ後は任せたぜ。君らなら、大丈夫さ」
「ええ。吉報を約束します」
 彼なりの笑顔でリベリスタ達を送り出した伸暁に、玲香が力強く答えた。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:力水  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月25日(日)23:01
 こんにちは、力水です。
 正体不明は化け物である条件の一つだと思います。
 それでは以下に詳細を。


◆成功条件
 正体不明の『何か』4体の全滅。

◆戦場
 時刻は深夜、ある港町の埠頭。ここで六道派が『何か』を町に放とうとしています。
 戦場の状態は地面がコンクリートで障害物が何もなく、十分な広さがあります。
 離れた場所にもちろん海がありますが、敵を海に落とすと逃げられてしまいます。

◆敵情報
 名称:UNKNOWN
 計4体。
 そのいずれもが溶けた黒いゴムのようなもので全身が覆われた人型の『何か』です。
 高い生命力と防御力、自己再生能力を有しています。
 理性はなく、本能のままにリベリスタを攻撃します。また、混乱or魅了時以外で同士討ちは行いません。
 ◎個体別能力
  全ての個体が、既存ジョブスキルの強化版を攻撃手段とします。
 ・UNKNOWN:1(U1と呼称)
  肥大化した右腕を用いた攻撃を得意とします。主に前衛で戦います。
  攻撃その1:無頼の拳(猛毒追加)
  攻撃その2:テラーテロール(呪い追加)

 ・UNKNOWN:2(U2と呼称)
  触手化した両腕を用いた攻撃を得意とします。主に前衛で戦います。
  攻撃その1:ギャロッププレイ(対象が複数に変化)
  攻撃その2:吸血(出血が失血に変化)

 ・UNKNOWN:3(U3と呼称)&UNKNOWN:4(U4と呼称)
  翼化した両腕で低空飛行を行います。主に後衛で戦います。
  攻撃その1:ポイズンシェル(虚弱追加)
  攻撃その2:チェインライトニング(感電が鈍化に変化)

◆NPC・白銀玲香
 ソードミラージュの初級スキルが使用可能です。
 スキルや行動の指示があれば、プレイングにてお願いします。
 特に指示がなければ、作戦に沿いつつ邪魔にならないように動きます。

◆その他
 リプレイは現場到着時からスタート予定です。
 また、六道派の研究者らしき女性はすぐに車で逃げるため、追跡や捜索は不可能です。


 情報は以上になります。グロいです。
 それではご参加お待ちしております。


参加NPC
白銀 玲香 (nBNE000008)
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
リスキー・ブラウン(BNE000746)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
覇界闘士
片倉 彩(BNE001528)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
デュランダル
飛鳥 零児(BNE003014)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)
インヤンマスター
風宮 紫月(BNE003411)
ホーリーメイガス
弩島 太郎(BNE003470)

●悪意満ちる実験場
『こちらポイントE3。そちらに向かう複数の人影を確認。タイプはリベリスタ』
 ポケットに収められた無線機から突然響いた男性の声に、白衣の女の動きが不意を突かれて止まった。事務的な報告が一方的に無線機から垂れ流されていく。
『そちらへ一直線に向かっていることから考えて、偵察ではない。我々の動きがどこかに漏れたか、あるいは』
「アーク、ですね」
 当然わかっていたかのように、白衣の女は無線機を掴んでその報告に言葉を差し挟む。そして背後の荷台を一瞥した後、続けて無線機へ声を送り込んだ。
「各員に通達、予定変更。現時点より実験を開始します。持ち場に付き、監視の準備を……」
 そうして各所に指示を送り終えると、女は荷台の暗闇へと向き直る。
「少々予定は変わりましたが、実験に支障はありません。あなた方への指示も変更はありません。
 では――『お願いします』」

●<監視ポイントC4:廃工場>窓に設置された高感度カメラによる映像記録
 乾いた足音が夜闇に包まれた埠頭に響く。十数メートル程離れた場所にある倉庫群を照らす街灯から漏れた光が、戦場に急ぐリベリスタ達の横顔を仄かに白く染めていた。
『あれか』
 暗視スキルにより、仄暗い場所でありながらも十分な視界を得ていた『求道者』弩島 太郎(BNE003470)が極めて端的にトラックの発見を告げる。しかし同時に、トラックの隣には横付けされた黒塗りの車の姿も見受けられる。
『待ちやがれ! この鬼巫女御龍様が叩き斬ってやる!』
 鬼神の如く荒々しく威嚇する『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)を、しかし横目に見つつ、複数の人影が素早く黒塗りの車に乗り移っていく。
『……ぶっ殺す!』
 明らかに無視をされたことに御龍が憤るが、白衣の裾らしきものが僅かに見えたかと思うと途端に車のドアが閉まり、急発進する。
 静寂を取り戻した埠頭に残されたのは乗り手の居ないトラックと、
『ヴ……ォォォ……』
 その荷台の中から這いずるように現れた4体の、「何か」。
 どの個体にも目らしきものは全く見あたらない。だが、それらがリベリスタ達の方へ向き直った時、誰もが確かに感じたのだ。
 見られた、と。
『……ヴォォォォォォッッ!!』
 その瞬間、四体の「何か」は口の無い頭部でくぐもった咆哮を上げ、粘着質な音を立てつつ活性化を始めた。あるモノは右腕が異常に膨れあがり、あるモノは両腕を触手へと変貌させ、あるモノは腕を翼に変えて空に浮く。
 そして、それらはリベリスタ達に向かって一斉に突撃を開始した。
 だが、リベリスタ達とて見物に来たわけではない。
『お前らここで通行止めだ。街へは行かせないぜ!』
 そう、『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)が宣言したように、食い止めに来たのだ。ここで敵を撃破し、助けられる命を助けるために。
『こっちはあたしが抑えます!』
 ラヴィアンの横を駆け抜けた『白虎ガール』片倉 彩(BNE001528)が巨腕を備えた「何か」――U1を標的に捉え、敵の攻撃範囲へと踏み込む。
 U1の動きを抑えるというのが彩の役割であるが、敵の拳は容赦なく押し潰す様に彼女の頭上から振り下ろされる。それを彩は両腕で受け止め威力を落とし、受け流す。
『何のなれの果てかは知りませんが、闘士として尋常にお相手願いましょう』
 殺しきれなかった威力をその身にダメージとして受けてはいるが、彩の構えは乱れを見せていない。
 その一連の動向に気を向けつつも太郎はマナサイクルで体内の魔力循環を強化し、仲間の回復に備える。
(正体不明の“何か”の殲滅、か。なんにせよ、人々の平穏を脅かすというのであれば、ただ滅するのみ)
 サングラスの奥の瞳に、強い意志が輝く。
 太郎と同じく回復手として後衛に立つ『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)の懐中電灯が正体不明の怪物を改めて照らし出す。
(昨今の任務は、こういった手合や、目的が不明な物が多くありますが……彼らもまたそういった流れを汲む者、なのでしょうか)
 六道の手によるものと見られる事件は、今回の件以外にも何件かがフォーチュナ達によって検知された。しかしそのどれもが、未だ多くの謎を孕んでいる。
(……事件の全貌は解りませんが、どちらにせよ此処で対象を逃がす訳には行きません)
 遺品であり幻想纏いでもある護り刀に、紫月はそっと手を添えた。
 敵と味方の境界線では激突が続いている。爆砕戦気による闘気を乗せた愛刀、月龍丸を構えた御龍がそのオッドアイの双眸に捉えたのは、両腕の触手を時には鞭のように、時には槍のように操る「何か」――U2。
 雷光を纏った斬馬刀を、御龍は己が身に返る衝撃を意に介すことなく、存分に叩き付ける。攻撃を受けたU2の肩口が、その衝撃でぱっくりと裂けた。敵には自己再生能力が備わっているとはいえ、これほどの傷はすぐに癒えるものではない。
『ハッ!』
 手応えを感じた御龍の口角が、愉悦に鋭く吊り上がる。
『この調子じゃ、こっちはすぐ片付くかもな……彩ちゃん、怪我持ちなら無理するなよ?』
『大丈夫です、ッ!?』
 御龍の気遣いに答えようとした彩だったが、U1の猛毒を含んだ一撃に思わず顔をしかめる。敵の拳は硬いハンマーのようなもので殴られるというよりかは、肌に触れた箇所から内部に侵食されるような感覚であり、それでいて確実にダメージを与えてくるという不思議さもある。
 だがU1の攻撃は止まらない。連続で振るわれる毒手に彩が身構えるが、
『そうそう、無理はいけない。もちろん、風宮嬢もな?』
 後方から聞こえた言葉と共に魔弾がU1に激突し、魔力の残滓が爆煙のように周囲に立ち込めた。煙の向こうには『正義のジャーナリスト(自称)』リスキー・ブラウン(BNE000746)の姿がある。
『魅力的な女性陣をレンズ越しに眺めていたい……なんてバカなこと言ってる余裕はなさそうだ。
 大丈夫。きっちり仕事はこなすさ』
 ゆらりと、リスキーは紫煙を燻らせる。
『お二人とも、ありがとうございます。でも……やれます!』
 U1から目をそらすことなく、彩が答える。
『そ。そんじゃ』
『ああ、任せるよ』
『はい!』
 仲間の信頼を背に受けて、彩は再び立ち向かう。
『さあ、愉しもうじゃないか。我にももっと遊ばせろ!』
 御龍が再びU2に剛剣を振るう。しかしU2とてただの巻藁ではない。無傷の左腕から触手を伸ばし、振り下ろされる剣撃を真横から触手で薙ぎ払うことで剣の軌道を逸らす。
 さらに振るった触手を今度は逆方向に振り、御龍の胴へ触手が鞭のように叩き付けられる。
『ぐ、が……っ』
 強い衝撃に、御龍がコンクリートの地面を転がされる。
 追撃に出ようとするU2だが、その前方に『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)が立ち塞がる。
『かろうじて人を取り繕っていますが、人ではありませんね……』
 全身に闘気を漲らせたノエルが白銀の騎士槍Convictioを風切り音と共に取り回し、その穂先に雷気を纏うことで雷槍とする。
『その正体、見極めさせていただきます』
 稲妻のような一撃がU2の胴に突き刺さり、ゴムのような体表が電撃によって焼けただれるのと同時に再生を開始する。
『このタイミングなら!』
 暗視ゴーグルを装着した『ディーンドライブ』白銀 玲香 (nBNE000008)がナイフによるツインストライクでU2の胸部に大きな十字傷を描き、飛び散った赤黒い液体が灰色の地面を汚した。
 リベリスタ達の連携攻撃にたたらを踏んだU2へ、さらに『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)が押し迫る。
『俺には今の姿が幸せには見えない。価値観を押し付けて悪いが解放したいんだ。
 その手段が、倒すだけだとしても……!』
 炸裂する闘気が零児の全身から溢れ出し、彼の踏みしめた地面が黒く焼き付く。そして、仲間達が残した隙へと爆裂の一撃が轟音と共にぶつけられた。
『ルォォォオオ!』
 自らの生命活動を大きく脅かす衝撃に、U2が悲鳴のような甲高い咆哮を上げる。
『まだ……か。むっ!?』
 手応えは確かだがU2の活動はまだ止まることがない。加えてリベリスタ達の攻勢の合間を狙って、U1とU2の後方に位置していたU3とU4が乱雑な羽音と共にリベリスタ達を乱れ撃つ。
 黒い稲妻と毒素を増した弾丸が戦場を飛び、前衛そしてラヴィアンに様々な異常を植え付ける。
『攻撃もそうですが、与えて来る状態異常も厄介……皆さん、頑張って下さい!』
 だが、それらの異常はすぐさま紫月と太郎が放つ柔らかな光によって浄化され、力を溜めていたラヴィアンの葬操曲・黒がお返しだとばかりに、敵に数々の呪いを与え、蝕む。
『おにーさんのすべてを受け取ってくれぇい』
 さらにリスキーのインスタントチャージが、口元から流れる血をぬぐい不敵な笑みを浮かべつつ立ち上がった御龍の魔力を回復した。
 火力と回復、両者をバランス良く揃えたリベリスタ達が確かに優位に立っている。

●<監視ポイントG7:沖合の小型船舶>船上からの研究員のスキルによる記録(編集済)
『しばらくの間おとなしくしていてもらいましょうか』
 彩の拳が、魔力の氷でU1の脚部を地面に縫い付ける。
『ブオオオ……ッ』
 バランスを崩したU1は、攻撃のために振り上げていた巨腕を急遽支えとすることで転倒を免れる。
 その隙に息を整えつつ半歩後退――そんな彩の戦闘を後衛から確認していた紫月だったが、彼女が敵を上手く抑えているにも関わらず、余裕が無いように見えることが気になっていた。
 それは彩の役割から来るものもあるのだろうが、加えて敵の有り様もまた、彩だけでなくリベリスタ達に普段以上の緊張を強いていた。
 敵の頭部らしき黒い湾曲面には目鼻口はもちろん表情すらなく、声と感じられそうなものといえば身体の中から絶えず漏れ聞こえてくる、呻くようなくぐもった咆哮。
 そう、正体不明の“何か”達からはおよそ反応らしい反応が得られないのだ。攻撃を受けた時に仰け反るなどの受動的な動作は見られるものの、リベリスタに対する攻撃以外で能動的な動作というものが全く無い。
『本当に、攻撃が通っているのでしょうか』
 紫月の呟きは、この場にいるリベリスタ達が少なからず心の何処かで抱いた感想だろう。
 敵が意思疎通の可能な相手だったなら、表情が読める相手だったなら、どれだけ楽だっただろう。
 「何か」は無機的な外面を纏いつつ、有機的な動きでリベリスタ達を苦しめる。
 U2が両腕の触手を不気味に揺り動かしながら、前衛に襲いかかる。本来なら気糸で締め付けるはずの攻撃が、触手を用いる事で威力や効果が強化されていた。
 零児の足下を掬い上げるようにU2の触手が伸びる。
『くっ……!』
 剣というにはあまりにも無骨な鉄塊。それを扱うには下半身の動作が重要になる。
 まるでそのことを理解しているかのような敵の攻撃に零児の反応が一瞬、遅れた。
『零児さん!』
 固いコンクリートの地を蹴り、同じく前衛に立つノエルが零児の前方に飛び出す。
『ノエル!』
 零児の声がノエルの背後から響く。彼女の細い身体に触手が容赦なく纏わり付き、そして侵食するように静かに痺れが襲いかかった。
 さらにその機に乗じるように、U3とU4が攻撃の届きにくい後衛に目標を定めて黒翼を乱雑に動かし、前方へと移動する。
『ギイィィィ!!』
 刃物でガラスを思い切り掻いたような声を上げて魔法陣を展開すると、そこから放たれた赤い雷撃が幾条にも分かれてリベリスタ達に叩き付けられた。
 後衛に立っていた太郎も雷撃を受け、鈍重と化す身体に思わず膝を崩しかけるが、
『ッ、いかん! ……はぁっ!!』
 回復手の矜恃が勝ったのか、自力でそれをはね除けると圧のある声で仲間達の活力を回復させていく。
『俺は……俺はただ俺が成すべきことを成す。それだけだ』
 精悍な容貌に違わぬ“強さ”を持って、心優しき癒し手は仲間を守る。
『ヴゥゥ……』
 ノエルに絡みついた触手が、U2の本体へと彼女を引き寄せる。それと同時に今まで何も存在しなかった頭部に亀裂が入った。
 恐らく口と呼称できる器官が初めて現れ、そして大きく開かれた口の内部をノエルは見た。
 人のものであろう眼球が6つ、ノエルの目を見つめている。
(何、ですか、これは)
 ノエルも敵の正体について事前に考えていた。おそらく人型の何かが元になったのでないか、と。
 だが、彼女の目の前にあるモノはさらに真実を教えてくれた。怪物一体を生み出すために使われた「人型の何か」の数は、“決して一人だけでは無い”と――。
『いつまで女の子捕まえてんだ!』
 突然、横から聞こえてきた声と共に、ノエルを締め付ける触手が断ち切られた。
 途端に地面へと投げ出され、息が詰まる彼女に原因である御龍が声をかける。
『悪いね、少し遅くなった』
『いえ……助かりました御龍さん』
『ま、少し休んでな。あとは我等で片付ける!』
 斬り捨てられた触手はどこかに消え、残った触手から再生を試みるU2に再び玲香がナイフによる連続攻撃を叩き込み、その体表を削り取っていく……が、それもすぐに回復されてしまうだろう。
 だが、その「隙」が見逃されることはない。
『真ん前から叩き斬る!』
『正面から打ち砕く!』
 御龍と零児がU2と三角形を描くように立ち並ぶ。そして、彼らはU2のいる頂点へと駆け出した。
 獣の歯牙を噛みしめ、全身の闘気を雷撃へと変換し、標的へと叩き付ける。
 標的を狙う義眼の右目が、赤色光の軌跡を闇夜に描きつつ、弩級の一撃で薙ぎ払う。
 二人が交差した瞬間、重ねられたエネルギーが炸裂した。U2の身体が地に叩き付けられ、元々そうであったかのように動かなくなる。
『はぁっ!』
 幾度目かの魔拳が振り抜かれる。U1に命中したそれは、しかし動きを封じるまでには至らない。彩の立つ場所に紫の光線が一瞬の煌めきと共に放たれる。常人にはもはや知覚不可能なそれを彼女は背筋のバネを最大限に利用したバク転で回避、距離を取った。
『いくぜっ! 破滅のブラックチェイン・ストリーム!』
 敵の攻撃の合間を突くように、ラヴィアンの小さな身体から黒鎖の濁流が溢れ出し、「何か」達を次々と飲み込む。
『此処で、確実に仕留めさせて貰います』
 紫月が放った呪力によって、虚空から雨が降り注ぐ。だがそれが敵に触れた途端、軋むような音を立てつつ雫が敵を巻き込んで凍結していく。
 黒鎖と氷牢に囚われ、野獣のようにU1が身悶える。その前で信念の雷槍を構えたのは銀騎士、ノエル。
『塵も残さず消えなさい』
 ただまっすぐに、雷槍の穂先がU1の胸深くへと突き刺される。
『ヴォ、ァァァアア!!』
 そして、幾重にも重ねられたような叫び声を上げるU1の上半身を、
『これで、終わりです!』
 彩の回し蹴りが作り出したかまいたちが、その自慢の右腕ごと袈裟懸けに刈り取った。
『ここから先には何処にだって行かせません。人知れぬ場所で散りなさい』
 体勢を整えた白虎闘士の琥珀色の双眸が、残りの「何か」達に向けられる。
『お前らのターンは無い! ずっと俺らのターンだぜ!』
 ラヴィアンの宣言通り、U3とU4が撃破されたのはそれからまもなくのことだった。

●<監視ポイントB2:貸倉庫>電波ジャックした無線式防犯カメラによる映像記録
『まったく、家の近所を荒らされてるみたいで嫌だったよ』
 リスキーが煙草に火を付ける。ライターを仕舞うと同時に取り出した紙に、先ほど倒した怪物達の姿が写し出された。
『んー、ウチのトラックじゃないみたいだ、よかったよかったぁ……って念写?』
 乗り捨てられたトラックの確認を終えた御龍が、リスキーの背後から紙を覗き込む。
『ああ。倒したのはいいが、なんにも残さずに消えちまったなぁ、こいつら』
 リベリスタ達の多くが撃破した敵の遺体を調べようとしていたがリスキーが事前に予想していた通り、「何か」の遺体はそのいずれもが戦闘が終わると同時に溶解し、一欠片も残さずに霧散してしまった。
『彼らは、一体何だったのでしょう……』
 リーディングを試そうとしていた紫月だったが、それはもう叶わない。だがもし戦闘中にリーディングを行ったとしても、おそらく得られるものはなかっただろう。
『人を止めてまで力を得たかったのか、それとも無理矢理与えられたのか』
『もはや、想像でしか語ることはできないな』
 周囲の警戒から帰還した零児と太郎が釈然としない表情を見せる。特にめぼしいものは見つからなかったようだ。
『一体、これらの事件はどの様な形で決着をつけるのでしょう。嫌な予感しか、しませんが……』
『今は皆無事だってことを喜ぼう。あ、そうそう風宮嬢、そこに立ってくれないかな。美しい君を一枚』
『え? それはちょっと……』
『ダメ? じゃあ玲香嬢――』
『お断りします』
『早っ、――』

 ――――。

●<不明:六道研究所>研究所内、ある一室の監視カメラによる映像記録
 停止ボタンを押されたリモコンが机の上に置かれる。戦闘記録を映していたモニターが消え、薄暗くなった部屋に白衣の女が立っていた。
『……実験体が一度で使えなくなったのは痛手でしたが、良いデータが取れました』
 白衣を翻し、扉へと手をかける。
『これでまた良い作品が作れそうです』
 そうして廊下に響くヒールの音と扉の閉まる音を残し、部屋からは誰もいなくなった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 こんにちは、力水です。
 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 今回は正体不明の怪物との戦いでしたが如何だったでしょうか。
 女研究者と怪物の組み合わせが個人的には好きだったりします。

 今後の展開がどうなっていくのか、私も楽しみです。
 それではまた別の冒険で。力水でした。