● 春。漸く、桜の蕾が膨らみ始める頃。 今年も友人と、恩師と、泣き笑い、思い出を紡いだ学び舎から、巣立つ季節がやってきた。 桜が咲く頃には、ランドセルに背負われてしまいそうになりながら。 新たな学び舎へと進む女児男児。 わが子の成長に涙を堪える父兄。見送る先生達の表情。 厳か、しかし温かみの溢れる空気の中、一人の園児に、証書が渡される。 卒園おめでとう。優しい園長先生の声に、園児は嬉しそうに笑う。 席へ戻る為、証書を丸めて、礼をする。否、しようとした。 ぞわり、空気が変わる気配。次いで上がる、悲鳴。ばらばら、落ちたのは小さな指。 丸めた証書の端と端。生えた鋭利な歯が、園児の指を食い千切っていた。 それが、始まりだったように。 既に席についていた園児から。証書を持つ先生から。凄まじい絶叫が上がる。 飛び散る血。嗤う卒園証書。 祝うべき門出の日は、運命の悪戯で鮮血の記憶へと姿を変えようとしていた。 ● 「……あのさ、凄い忙しいとこ悪いんだけど、手空いてる奴居る?」 ブリーフィングルームの片隅。『導唄』月隠・響希(nBNE000225)はそっと、集まる面々に声をかけた。 「頼みたい事があるのよ。……偶々感知したんだけどさ、ある幼稚園で行われる筈の卒園式で、大惨事が起きそうなの。 具体的に言うと、配られる卒園証書が式中に覚醒する。……あたしが視た時は、阿鼻叫喚だった。 幸いにも卒園式はまだもうちょっと先。今の内に証書を燃やすなりなんなりしちゃえば被害は出ない。 一般人に任せてもいいんだけどさぁ、なんかあったら危ないし。念の為、って事であんたらに廃棄お願いしたいのよ」 因みに、証書破棄については適当な理由をつけて許可を得ている。 そう告げて、フォーチュナは少し迷う様に、再度口を開き直した。 「それで、さ。本題はこっからなんだけど。 ……卒園証書、流石に間に合わないんだって。今から頼んでも。だから、その……まぁ、折角の門出だしさ、良い思い出にしてあげた方が良いじゃない? あ、これあたしの発案じゃないからね。じゃないんだけど、その……廃棄した後に、園児と一緒に卒園証書、作ってきてくれない? 材料とかはアークが用意してある。先生方にも話はつけてあるからさ。卒園前の思い出作りみたいな感じで…ひとつ」 資料に視線を落とす。リベリスタと目を合わさないのは照れ隠しだろうか。 くすり、と。リベリスタに混じり話を聞いていた『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)の、笑う気配。 私も行きましょう、そう告げてから、彼はリベリスタへと向き直った。 「緊張感や使命感は無論大切ですが、時には緩めないと限界が来てしまいますしね。……息抜き、と言う事で」 ご一緒しませんか。微かに首を傾ける彼の横で、フォーチュナは微かに安堵の吐息を漏らす。 「まぁ、あれよ。神秘については話さない。幻視推奨だけど、仮装で済む範囲なら仮装って言えば子供も喜ぶんじゃない? あとは、世間的に悪いって事はしない、ってのだけ守ってくれれば後は何でもいいからさ。……後宜しく。 あ、あたしは行かないわよ。あたし、子供よりおじ様派だし。……子供得意じゃないし」 じゃあ、いってらっしゃい。立ち上がった彼女はひらり、手を振って部屋を後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月26日(月)22:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 何処か何時もと異なる空気に、つられたように。 浮き立ち、楽しげに笑う幼子の声が響く。 その姿を見渡しながら、『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は堪えきれない笑みを漏らした。 こんな可愛い子供達と遊べるなんて。良い依頼もあるのじゃないか。 心置きなく堪能しよう。そう胸の内で妄想、基、今日のプランを描き出しながら、彼女は一つ、手を叩いた。 「はぁい、みんな。お姉さんと一緒に遊びましょう?」 一斉に此方を向いた子供達が、わらわらと集まってくる。その姿に胸を高鳴らせながら。 淑女は慈愛に満ちた微笑を浮かべて手近な少年の頭を撫でた。 「いい? お名前を呼ばれた子は、あっちのお兄さん達のところに行って、一緒に賞状を作りましょう」 わかったかな? そう尋ねる声はまさに『せんせい』。はーい、と返る元気な声に、その表情が更に緩んだ。 仲間達の証書の処分、そして、証書作成の間、子供達の面倒を見る。 『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は依頼前に目を通した読本を思い返しながら、ぎこちなく、少女達の傍へと屈み込んだ。 小さな手。幼い顔立ち。こんなにも小さな子供に接するのは、生まれて初めてだ。 怖がらせない様に。大きな声を、出さない様に。声に出さずに繰り返して、静かに口を開く。 「お人形さん遊びが、いいかしら? それとも、何かしたいことある……?」 「おはなし! おはなしましょ、おねえちゃんもいっしょに!」 この間、ランドセルを選びに行った。 小学校に持っていく筆入れは、こんなのを買ったの。 そんな、少女らしい会話は徐々に、恋の話へと傾いていく。 「あらまぁ……最近の女の子は、大人っぽいの、ね……」 話に耳を傾けながら、感嘆の吐息を漏らす那雪も、勿論少女達にとっては標的の一人。 卒園式に、さおりくんにすきって言うの!そう宣言した少女が不意に、その大きな瞳を彼女に向ける。 「ねぇねぇ、おねえちゃんはすきなひと、いないの?」 あーききたーい! 続く言葉に、那雪の瞳が彷徨う。 何と答えたらいいのか。そんな、動揺に満ちた瞳が捉えた先に居るのは、纏わり付く少年を抱え上げた狩生だった。 視線に何かを悟ったのだろう。少年を地に下ろした彼も、少女の輪に混じる様に腰を下ろす。 何のお話を? そう尋ねる彼を物珍しげに眺めていた少女達も、すぐに慣れたのか口々に報告の言葉を紡ぐ。 嗚呼、と納得した様に頷いて。青年は含みありげに、那雪に微笑んで見せた。 「……大人の女性、と言うのは秘密があった方が綺麗に見えるものなんですよ」 だから、お姉さんは何も言わないんです。その言葉を聞けば、少女達は慌ててさっきの話を撤回し始める。 「お前ら、お祭りみたいなお面とか欲しくないかー?」 卒園祝いだ、好きなものを持って行くといい。そう告げながら、『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)は背負っていた箱を下ろす。 かちり、上部を押せば広がる、色とりどりのお面。 途端に目を奪われ近寄る子供を眺めて、冥真は目を細める。 子供は嫌いじゃない。寧ろ、好きな部類に入るだろう。 けれど今回は、子供との交流を心から楽しみにしている仲間の邪魔をしてはいけない、とも彼は思っていた。 だが、愛らしいものは愛らしい。お面の前で真剣に悩む子供の頭を軽く撫でてやって。 冥真はぼんやりと、その光景を眺めていた。 ● 「さ、エレーナが卒園証書作るお手伝いするわね」 遊びから離れ、自分の証書を作る為やって来た子供達の前で。 優しげな笑みと共に、『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は挨拶をして見せた。 興味深げな瞳で此方を見詰める園児の顔を見渡して、彼はそっとその胸を撫で下ろす。 危険な証書は片付けた。これで、彼らが酷い目に合う事は無い。 卒園、なんて大切な時期なのだから。出来る限りの手伝いもしてやりたい、そう思って此処に来た。 「そつえんしょーしょって、なぁに?」 貰うと言う事は知っている。しかし、それは大事なものなのか。 そんな疑問を吐露する少年の傍に屈んで、エレオノーラは軽く頷く。 ――幼稚園で沢山遊んで大きくなったあなたは次は小学校に行きます、おめでとう。 そんな、幼稚園からの贈り物なのだと教えてから。彼は笑みを浮かべ直す。 「……でも、普通ってつまらないじゃない?」 今まで此処で友達と遊んだ思い出。 小学校に行ったらやりたい事。それを選んで、詰め込んで。 「自分だけのものを作ってみましょうよ」 どう? 誘う言葉に、幾度か瞬きをした少年は、次の瞬間には嬉しそうに大きく頷いた。 聖堕天使君――のぶあき、くん。あのブラックキャットのファンだろうか。 愛玩物ちゃん――どりん、ちゃん。(´・ω・`)とした顔が可愛らしい。 黒猫君――のぶあき、くん。おや、またのぶあきだ。 当て字、と言うのか何と言うのか。流行なのであろう煌びやかな名前を何とか解読しながら。 『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)は、ペンを取り、思案していた。 出来る限り、どの名前も自分の手で書いてあげたい。しかし、日本語は難しかった。 手書きをする用にはしているつもりなのだが。そう微かに眉を寄せて、彼女は漆黒の青年へと声をかける。 「狩生さん、お願いがあるんだけど」 「――今年度卒園生全員分の名前、及び証書に使われる定型文は一通り浚って有ります」 三日程度の練習期間しか取れませんでしたが。イーゼリットが質問を終える前に、青年はさらりと、言葉を紡いでいた。 曰く。 「事前に頼まれた事。……準備と言うものは万全にしておく事でしょうから」 だからお任せ下さい。そう微笑んだ彼に、彼女は手書きの教えを請う。 その隣では七布施・三千(BNE000346)が優しく、両隣に座る少年少女に声をかけていた。 「思い出に残る証書を作りましょうね。……どんな事がありましたか?」 手元に広げるのは、卒園アルバムと、保育士の綴った子供達の特徴。 「おれこれー! おゆうぎのときのやつがいい!」 正義の味方をやった。そう手を一杯に広げて語る少年の横では、少女も楽しげに写真を捲っている。 「てっぺいくんは、おゆうぎの時間に、正義の味方をがんばったんだね。……くらりすちゃんは?」 嗚呼、元気いっぱいなのにおしとやかでもあった、すてきなレディだったのか。 そう、三千は優しく、聞いた話を整理してやる。 それをその侭描こう。差し出した画用紙に引かれる鮮やかなクレヨンの線に、優しげな瞳が細められた。 す、と走る筆が描く、金の線。冥真が素早く、しかし見栄えする様に描き出すのは、証書の金縁。 次々に仕上がるそれに興味を示したのだろう。少女が一人、その手元を覗き込む。 「やってみるか? ……ほら、これ持って」 自由にやる事が出来る様に。手出しはしないで、見守ってやる。 最初は不安げに。慣れてくれば奔放に、けれどのびのびと。描き出される枠。 「何だ、上手く書けるんだな。俺より上手いんじゃねえの?」 「ほんと? ありがとうおにいちゃん!」 そういうセンスは見習いたい。そう、内心で思いながら褒めてやれば、嬉しそうな声が返る。 つられて寄って来た子供にも筆を与えて、冥真は微笑ましげに次の証書へと取り掛かる。 「えっと……さおりくんに、ももこちゃん……」 この程度なら、日本人である自分にとっては何の問題も無い。 丁寧にペンを走らせながら、『虚弱体質』今尾 依季瑠(BNE002391)は子供達に目を向ける。 きらきら、楽しげに輝く瞳。折角だから、イラストも描いてあげたい。 教えて貰った好きなものを手早く証書に描き出せば、此方を見つめる瞳が更に輝きを増した。 「おねえちゃん、おれ、おんなのこかいてほしいな」 そんな希望には、う、と詰まる。 流行にはどうも疎い。それに、漫画やアニメタッチのイラストは専門外だった。 びくびく、怯えた瞳。 人見知りなのだろうか、中々寄って来ない子供の目の前に、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)はぱっと手を差し出す。 掌に乗った、黄色い小鳥の様なもの。 「ほら、怖くない」 ぱぁ、と明るくなる表情に、此方の表情もつられて緩む。漸く寄って来た子供の証書に描くのは、小さな似顔絵。 「ありがとう、おにいちゃん!」 先程とは全く異なる嬉しそうな笑顔に、アウラールは同じく笑顔で応えてやった。 証書作りに勤しむメンバーとは、別の場所。 持ってきたリボンやビーズを並べて、『鷹蜘蛛』座敷・よもぎ(BNE003020)は説明を始めていた。 机に置かれているのは、四角い証書入れ。これに飾り付けるのだ、と説明してから、幾つかの本を並べる。 「スクラップブックの作り方の本を持ってきたんだ、用途は違うけれど……愉快な装飾の仕方が多いんだよ」 こっちには、折り紙の本もある。 気に入ったものがあれば教えて欲しい、そう告げて、折紙を折って見せれば見よう見まねで子供達もそれに加わる。 子供達がそれに夢中になっている内に。よもぎは狩生を呼び寄せた。 カバーに綴るべき、卒園証書と言う言葉。そして、幼稚園名。 「……私も字には自信がなくてね。手伝ってもらえるかい?」 勿論。返す言葉と共に、青年は作業に取り掛かる。 「字は、おにいちゃんたちがかいてくれるの?」 「いいや、名前の部分だけは皆が自分で書くんだよ。なあに、教えてあげるさ。 シールに書いてから貼るから、失敗してもへっちゃらだ」 気軽に行こう。そう、優しく笑うよもぎの言葉に安心したのか。 差し出されたシールを見詰めて、僅かに緊張していた子供の表情が緩む。 その隣には、子供と一緒に折紙を折る那雪の姿。 折紙の本片手に見よう見まね。難しいのね、思わず漏れた呟きには、手先が器用なのであろう少年がこうだよー! と声をかける。 世界に一つだけの証書作りは、順調に進んでいっていた。 ● こっちにはクレヨン。あっちにはのりとはさみ。 作業を見遣り、足りていないであろう物を運んでいた『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)もまた、子供達に纏わり付かれていた。 身体を動かしたいのだろう。頻りに騒ぐ子供達を落ち着かせようと、レイラインが差し出すのは美味しいおやつ。 「ほーれ、おばあちゃん特製のお茶とお菓子じゃよ~♪」 おばあちゃん? と首を傾げる子供も、その美味しさに表情を綻ばせる。 しかし、小学校入学前。その元気を持て余す子供にとって、レイラインは格好の悪戯の的だった。 「かみなげー! すげー!」 ぐいぐい、引かれる髪に慌てる横では、ふわふわのスカートに興味を示したもう一人がばさりとそれを捲る。 「ひにゃぁ! 今スカートめくったの誰じゃー!?」 慌てて子供を追い回すレイラインに、子供達は更に楽しげに走り回り始めた。 「あなたお名前なんていうの? そう、ゆうりくんっていうのね」 ペンを持つ手に力が入る。 名前だけは、綺麗に書いてやりたい。だからこそ、やはり、己の字に自信を持つ事は出来なかった。 「人生に一度しかない事だものね……狩生くん、名前だけ書いて貰えないかしら……」 「勿論。……意外ですね、貴方は非常に器用そうなのですが」 子供達よ、不甲斐ないあたしを許して欲しい。その呟きに笑い声を漏らした狩生は、丁寧に綴った証書を返しながら首を傾げる。 「ねぇエレーナおねえちゃん、ぼくね、みんなと海に行ったことかいてほしい!」 おねがいします。きらきら、輝く瞳が此方を見詰める。 詳しい事を教えてね。そんな言葉と共に、彼と少年の証書は鮮やかに色付いていく。 「ごめんね、お姉さん忙しいの。向こうで遊んでてね」 真剣な表情で文字を綴りながら。イーゼリットは寄って来る子供達をすげなくあしらわんとしていた。 小さい子の相手なんてした事がない。だから出来る限り避けようとする彼女の気持ちはしかし、子供達には届かないようだった。 「やだー、あそぼ、あそぼー?」 困ったな、そう小さく呟くも、その表情に嫌悪の色は無い。 まるで、自分の妹の様だ。あの子はもう高校生になるけれど、この純真さは似ているかもしれない。 と、感慨にふける途中。いきなり走った痛みに、イーゼリットは驚きの声を上げた。 「あ、ちょっと! 髪留め引っ張らないで……もう!」 あっちにいってなさい! そう、思わず強く叱れば、途端に潤み出す大きな瞳。 「って、泣かないでよ……よしよし、いないないばあー」 慌て頭を撫でてやり、知っていたあやす方法を試してみれば、返って来るのは子供じゃない! という言葉。 子供って難しい。今度は拗ねた子供を宥めながら、彼女はそっと溜息を漏らした。 「ほら、お前は何を頑張ったんだ?」 金枠を描き終えてから。席を移った冥真が、子供に尋ねる。 「うんどうかい! かけっこいちばんだったんだ!」 そう、一生懸命語る言葉に頷いてやりながら、彼が作り出すのは首から提げるメダル。 頑張った証明に、と作り出されたそれを首に掛けられて、少年は嬉しそうに友人へとそれを自慢していた。 いいところを褒めて証を貰う。 その過程はきっと、子供達の将来の糧になるだろう。 本来の証書は燃やした。子供達には悪いけれど、その代わりに。 こうして、幼稚園最後の充実した思い出を手に入れられていれば良い。そう思う冥真のもとには、再び子供達が集まっていた。 仕上がった絵は、上手くは無いけれどのびのびとして、色鮮やか。 「おにいちゃんみて! おゆうぎのえ!」 一生懸命見せてくる少年。確かに上手くは無い。けれど、これは園児が成し遂げた大事なものだ。 優しく微笑んで。三千はその頭を撫でてやる。 「よくできました、なでなで~」 頬に付いたクレヨンの跡も、序に綺麗に拭ってやった。 「おねーちゃーん! ほら、かいじゅうごっこしよう!」 どん、と力一杯飛びつく子供。 ふらふらと床に座り込みながら、依季瑠は子供の相手に全力を尽くしていた。 見た目は少女、実際おばあちゃん。そんな彼女にとって、園児の容赦無い元気さは身に応えている様だった。 あぁやめて本当に疲れてるの。乗っからないで。髪の毛引っ張らないで。 実年齢を明かせず苦しむ彼女が、己の得意な遊びに興味を持たせられるのはそれから10分程経った頃だった。 「こーら、えっちな子は誰かしら? ダメよ、そんなことしたら」 鬼ごっこをするには部屋が狭い。そう判断し、室内でも出来そうな遊びをしていたティアリアは、目の前の少年二人を優しくたしなめていた。 この頃の子供は皆腕白。振り回される事も楽しい。 だから、先程の様にこの長いスカートを捲られるのも、体にべたべた触られるのも全く嫌ではないのだが。 一応叱らなくては、そう思っての言葉に返るのは、しゅん、とした表情。ああ、幸せ。 そんな呟きを漏らしながらも、目配りを忘れない彼女は一人、輪から外れた子供に気付く。 「ほら、あなたも一緒に遊びましょう? ……全員笑顔じゃないとダメよ」 ふわり、子供の身体を持ち上げる。驚いた表情を見せる少女の感触を堪能する事も忘れずに。 誰一人として仲間外れにする事の無い様に。子供達の輪を作ったティアリアは、優しく次の遊びの意見を尋ねた。 ● 証書の作成を終えても、子供達はリベリスタが帰る事を望まなかった。 もう少し。もう少しだけ遊ぼう。 そう、強請る声。しかし、もう夕暮れ。子供達は家に帰らなくてはならない。 園の先生が幾らそう言い聞かせても、誰も頷かない。帰らない、そう言い募る声の中心に、ティアリアが屈み込む。 ひとつ、お歌を歌いましょう。そんな提案に頷く子供達と、馴染み深い歌を歌ってから。 彼女は静かに、立ち上がって首を傾げた。 「みんな、いい子にするのよ? 『せんせい』との約束ね?」 お別れの挨拶と共に約束を告げるティアリアに、懐き切っていた少年が泣きそうになりながら大きく頷く。 違う少年は既に泣きながら、その腰辺りにしがみついていた。 楽しかった。恐らくは子供達にとっても最高の卒園祝いであっただろう今日。 だからこそ、別れは辛い。まだ幼い彼らにとっては、尚の事だったのだろう。 しかし、それでも漸く別れを承諾した子供達に、リベリスタは各々優しく、別れの言葉を告げる。 この子達が何時か、立派な大人になった時に。 こういう事をしたなと思い出してくれれば嬉しい。そう呟くエレオノーラの横では、冥真がお面を付けた子供に目を細める。 暫く予定は無い。けれど、見ている分には非常に可愛い存在だった。本当に。 幼稚園は、楽しい思い出に溢れているべきだ。 それが例え、この学び舎で過ごす最後の日であったとしても。彼らは最後まで、最高の思い出を作り続けるのが勉強。 だからこそ。それを彩る為の大切な要素を、全力で作った。 上手く行っただろうか。よもぎは己に問う。 その答えは、別れを惜しみながらも幸せそうな園児の顔を見れば、一目瞭然であった。 互いに、最高の一日を送る事が出来ただろう。 そんな確信を胸に抱きながら。リベリスタ達は今日一日過ごした学び舎を出た。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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