●彼女の手紙 疲れました。 弱い子でごめんなさい。 何もできなくてごめんなさい。 あいつのせいで私はもう死ぬしかなくなりました。 けどかわいそうだから、私の口からは言わないで持って行きます。 お父さんとお母さんに会ったらこの事を話そうと思います。 覚えていてください。 お元気で。 からだに気をつけて死んでください。 その時はよろしくね。 ●彼女の家 後悔は無かった。 天井から吊り下げられた妹の身体が静かに揺れ、ロープが軋む音が四六時中脳を蹂躙する。 塗り潰す為には彼女の悲鳴が必要だった。 だから、殺人は必然だった。 夏服の白いセーラー服なら、もっとうまく血で染まっただろうに。 紺色の冬服ではどれだけ傷が深いのかわからない、だから繰り返し切り刻んだ。 怯えて腰を抜かした2人の少女も、ついでに首を刺して殺しておいた。 昨年末に張り替えたばかりの白い障子が赤で染まる。 あっけないものだとポケットナイフを投げ捨てた。虚無感ばかりが残る。 もう、どうでもよかった。 「お兄ちゃん」 懐かしい声に振り返ると、庭のほうに友香里が立っていた。 彼女はもう死んだ筈。 頭のすみに残った理性がそう告げたが、罪業の臨界点はもう突破しただろう。 黙れ。理性もあっさりと殺害する。たやすい事だ、妹が帰ってきてくれるならば。 「――友香里。無事だったんだね」 妹が虚ろに微笑み、床の間の畳を踏む。 あぁ、友香里の足はこんなにも白く細かったのか。 ごめんな。ごめんな。 必死に声を殺したが、溢れ出る涙は止めようも無い。 友香里が俺の頭に腕を伸ばした。 抱きしめてくれるのか? こんな俺を。なんて優しい子なのだろう。 後頭部ににぶい痛みが走る。 あぁ。 拭った涙が赤いのは、もう俺が人間でなくなった証なのだろうか。 ●彼女の死 「皆さん、いつもお疲れ様です。温羅の件等の対応でお忙しいかと存じますが、至急の案件が」 ブリーフィングルームに呼び出されたリベリスタ達を、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がかしこまって見まわした。冷静にとつとめているようだが、その表情はどこか浮かない。 「本日の夕方、フェーズ2のE・アンデッドが都内住宅街に出現。こちらの排除を要請します」 自殺した少女――筒井友香里がアンデッド化し、実の兄を殺害しに自宅へと戻って来るのだという。 殺害目的は不明であるとの事だ。 「当日はお兄さんのほか、友人の少女たちが3名筒井邸に居ます。彼女らが家を訪れた理由もわかっていません。更には……ですね」 お兄さんが、友香里の到着以前に少女たちを殺害してしまう未来を万華鏡が捉えている――。 和泉は重々しくそう告げた。こちらもそうなった原因が特定できない、とも。 「そして、友香里さん自身は全員を殺害しようとしています。わからない尽くしの事件で申し訳ございません。けれど、私たちが確実に決断すべき前向きな対応は只一つです」 エリューションを撃破してください。 それしか出来ないのだから、と、和泉が俯く。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:日暮ひかり | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月23日(金)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●彼女の友人 今村綾は立ち止った。 筒井邸に向かう途中の彼女らの前に立ち塞がったのは、見知らぬ男女の一行。 「友香里ちゃんのお知り合いの方……ですか?」 黒服姿に菊を携えた『ENDSIEG(勝利終了)』ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)の姿を不可解そうに見やり、綾が問うた。 言い訳は用意してある。風芽丘 L 真(BNE003580)が筒井家の親族を名乗ると、少女らは何事か囁き合ったのち一先ず腑に落ちたようだった。 「悠一さん、妹さんの事で精神的にまいってるので落ち着くまで訪問は控えて欲しいんだ」 「でも、今日行くって連絡はしてあるはずです」 それでも綾は頑なに帰ることを拒んだ。埒があかないと見てツヴァイフロントが口を開く。 「今村綾だね」 不意に発せられた自らの名に、綾はびくりと肩を震わせた。 「少し話がある、いいかな。誰の話か君は分かるだろう?」 少女らのまだあどけない顔に滲む怯えの色を見れば答えは明白だった。何を言うつもりかと彼女を見遣る仲間達の視線を背に、ツヴァイフロントが読み上げたのは。 「『疲れました。弱い子でごめんなさい』」 その一句を耳にした瞬間、明らかに綾の顔色が変わった。気に留める素振りもなく、ツヴァイフロントは淡々と、流暢に続く言葉を読み上げていく。 誰か止めさせて。そう願うように綾の視線が一行を彷徨うが、応じる者は居ない。 「い、嫌、やめて……ッ!!」 かの家に隠されしは死の追悼か、それとも――実は確信など無いが、ロジックは後から組み立てればいい。更に鎌をかけようとするツヴァイフロントだったが、何事かに耐えかねた綾は一行に背を向け、道を引き返そうと走った。 「お主ら、ちょいとお待ちよ」 路地からひょっこり現れた『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)に行く手を遮られ、綾達は短く悲鳴を上げた。 失礼なおなごたちじゃのう。そう言って長い袖から取り出した煙管を一吹かしする見た目には幼い少女を、綾は茫然自失と見つめる。そして迷子はにやりと笑い、呟いた。 「お主ら、ひょっとして……先程の内容に心当たりがあるのではないかの? 例えば、同じ文面の手紙を受け取っている、とかのぅ」 「!!」 普通に考えれば、綾に虐められた友香里が悠一に残したように見える遺書。 しかし……綾に向けて書かれたものである可能性がある。 迷子の立てていた幾つかの仮説の一つ。先程の反応を見るにそれは的中していた。 「やはりな」 追いついたツヴァイフロントはいけしゃあしゃあと付け加えた。 (こやつ、本当に分かっていたわけではおるまいな……) しかし当の綾達はすっかり恐れ慄き、こくこく頷いている。感心したような呆れたような視線を送りつつ、まぁ関係あるまいと迷子が一人ごちたところで『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)と真が合流する。 冬芽は疑問に思っていた。なぜ、わざわざ内心で厄介がってた子の家に……? 事前に悠一に約束しての訪問。そして、友香里の遺書を彼女が持っているという事実。 答えは導かれつつある。意図まではわからなかったが、冬芽は質問を変えた。 「悠一さんに遺書を見せに来たのかな?」 何故、全て知っているのか。 冬芽は極力優しく問いかけたつもりだったが、堰を切ったように綾は泣きだしてしまう。 「わ、私っ、思ってなくて。友香里ちゃんが、こんなものをくれる位、頼ってくれてたって。もし誰かが友香里ちゃんを追い詰めたなら、探さなきゃ……って思った、んだけどっ。分かんないからお兄さんに相談しよう、ってことになって……!」 ささいなすれ違いから死ぬ原因を生んでいた可能性はある。けれど、やはり今村綾は悪人ではない。 冬芽と友人らに慰められる彼女の様子は嘘を言っている風には見えず、真はそう思った。 「分かった。有難うな。……良ければ、遺書は悠一さんに渡しておくよ」 綾が鞄から取り出した白い封筒の中身は、紛れも無く彼女の自筆の遺書だった。それを確認すれば尚更謎に思える。 何故悠一は、妹のためを想い訪れた友人達を殺害するに至ったのか。 (どう考えても、正常な精神状態じゃないよな) 兄と接触を計った仲間の身が心配だ。 かの家を振り返れば、鮮血のような不吉な夕暮れが空を閉ざし始めていた。 ●彼女の兄 「……今村綾さん、かな」 筒井邸を訪れた『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)を目にした悠一の第一声はそれだった。 「綾先輩、今日は急に都合が悪くなって来れないって。ボクも友香里先輩にお世話になったから……」 綾は仲間たちが追い返すだろう。部活の後輩を名乗り、アンジェリカは線香を上げたいと頼んだ。『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)も、アンジェリカに話を合わせ教育実習生だと名乗ると、特に疑いもせず悠一は2人を件の床の間に通し、丁寧にお茶と菓子まで用意して出してくれた。 「有難うございます。友香里も、喜ぶと思います」 微笑んだ悠一の顔はやつれきっていた。塞ぎこんでもはや疑う気力もなかったのだろうと思えた。このぶんだと、仕事も休暇中なのかもしれない。 エーデルワイスはハイリーディングで密かに彼の心理を探る。 友香里の遺書を見せてもらえないかとアンジェリカが申し出ると、悠一は一瞬躊躇った。 何かわかることがあるかもしれないから。その訴えも信じてはいないようだったが、少し待ってほしいと言い床の間を離れる。 「どうだった? お兄さんの様子……」 「奇妙ですね。友香里さんの事ばかりが頭を占めていてノイローゼ気味になっています、が」 今村綾の顔が検出できない。 つまりまったくの意識外であり、むろん綾への殺意などあるはずもないと。 「友香里さんの死の真相が掴めるなら藁にもすがりたい、といった所でしょうか。けれど、何か切欠さえあれば心のバランスが崩れかねない危険な状態です」 廊下にかすかな足音が響く。悠一が戻って来た事を察し、2人は口をつぐんだ。 悠一は白い封筒を手にしていた。 失礼しますと一言断って、中身を取り出す。 それは友香里の直筆の遺書に相違ない。 アンジェリカは祈るように瞳を閉じ、意識を集中する。少女たちの複雑な友情。そして、2人きりの兄妹。想起するのは背徳感にあふれた甘美な恋模様。自分の想像は正しいだろうかとわずかに胸を高鳴らせ、彼女は選んだ。 その紙に眠る歪んだ真実を読み取ることを。 ――――!! 「何やってる!!」 気付くとアンジェリカは遺書を払いのけていた。激昂し、殴りかかろうとする悠一をエーデルワイスがなんとか取り押さえた。 庭に隠れていた『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)がすかさず部屋に押し入る。魔眼の力をもってすれば、一般人である悠一の無力化は容易い。その場に崩れ落ちた悠一の首根っこを乱暴に引っ掴むと、女は虚空を見つめる。 「ゆがんでいるのは誰かしら。兄と妹? その友人達? それとも全員? まあ……歪な人間模様な事、常識人の私と私の家族には理解できないわねぇ?」 う、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ……。 うっそりと嗤いながら、真名は悠一を引き摺り廊下へ出る。 「ねぇお兄さん。言いたい事があるなら吐き出しちゃいなさいな? どうせ私以外誰も聞いちゃいないわ」 「……ずっと頑張ってきたつもりだった……けれど悩みに気付いてやることもできなくて、俺は……友香里、ごめんな……お前を死に追い込んだ奴は、必ず――」 後は事が済むまで別室に隔離しておく手筈となっている。 (必ずなんだっていうの? 家族を救えない兄なんて、どうにでもなれば良いのよ) うわ言のように繰り返す悠一を無感動に見下ろし、真名は屋敷の奥へと歩いていく。 その頃同じく庭に居た『チャイルドゾンビ』マク・アヌ(BNE003173)はというと、ぼんやり待っているのにも飽き庭をふらついていた。 (なにか食べるの物ないれしょうか……う……?) マクの目が爛々と輝いた。彼女の大好きな神秘のにおい。もとい、微かに漂う鼻につく死臭。友香里が出現したのだ。家に駆け上がれば、時を同じくして真名も接近を感知したらしく走って戻ってきた。 仲間達に連絡を取るべく、幻想纏いを起動する。 何かわかったことはあったか。そう聞かれ、アンジェリカは答えた。 先程サイレントメモリーで見た光景。それが意味するところは、まだわからないけれど。 「友香里さんは」 友香里は。 同じ遺書を2通書いている。 ●彼女の真実 かさ、り。 骨と床の間の畳が擦れ、軽い音が響いた。 生あるもののそれとは明らかに異質な、亡者の歩む音。 部屋に降り立った友香里は、出迎えたリベリスタ達を憮然とした顔で見回す。 「お兄ちゃんは」 此方が何者かになど全く興味がないようだった。 「居ない。綾さんも来てたけど、帰ってもらったよ。ここは彼女にとってあまりいい場所じゃないから。貴女が一番、それは分かるんじゃないかな」 そう言った冬芽の顔を、友香里は瞬き一つせずに見つめる。焦点の合わない瞳。 「『あいつ』。お兄さんを探しに来たのね」 続く冬芽の言葉には肯定も否定も返さず、友香里は呟く。 ――邪魔したのね。 「殺す」 忌々しげに彼女が告げると、彼女の周囲を漂っていた菊が舞い上がり冬芽に襲いかかろうとする。 「させぬわ」 その動きは流れる水。緩やかなせせらぎの構えから突如繰り出された、鉄砲水の如き迷子の襲撃は真空刃を生み菊の花弁を散らした。 「――友香里。無事だったんだね」 長い髪を引き摺りながら、呂律も回らない様子の幼子がふらふらとこちらに歩みよってくる。 「う゛……ぁ……!」 マクと友香里。屍の少女達の視線が交差したのは一瞬。 「おなかすいた」 理性の限界を迎えたマクに獣の貪欲さが宿る。餓えた猟犬のように友香里に飛びかかると、そのまま馬乗りになって腕を噛んだ。喰いちぎらん勢いで顎に力を入れる寸前、友香里が立ち上がりマクを振り払う。 「無事……? 酷い嫌味。生きてる時にだって言われた事ないくらい」 友香里はまるで中学生のそれとは思えぬ卑屈な笑みを浮かべた。その顔を赤い光が照らす。 「友香里さん」 擬似的に生まれた赤い月を背負い立つアンジェリカの声音には、どこか寂しさが滲んでいた。 その不吉な輝きに蝕まれた菊がまた花弁を散らしていく。 「悪いけど、あなたの遺書を『視させて』もらったんだ……」 アンジェリカがドレスのポケットから遺書を取り出すと、綾から同じものを受け取った真も応じるようにそれを突き付ける。 「そんなもの、今更どうでもいいよ」 赤い月に焼かれながら友香里が歯を食いしばった。 「私が死んだ後で、お兄ちゃんと綾がそれを読みさえすれば良かったの」 その場に居た誰もが友香里の意図を計りかねた。 ある者は愛情ゆえの寂しさで兄を殺してしまったと考え。 別の者は蘇ってまで殺したい程憎しみがつのっていたのだと考えた。 そしてアンジェリカは。 「ボクはね、友香里さんが綾さんの事を好きだったんじゃないかと思ってた。でも……」 遺書から読み取った記憶の中の友香里を思い出す。 夜、誰も居ない家で暗い部屋にこもってペンを走らせる友香里の顔は能面のように無表情で、とても誰かを愛し、また愛される事を信じている人間の顔には見えなかった。 彼女は――かつての自分とよく似た表情をしていたのだ。だから、胸が痛む。けれど。 「どんな理由があったとしても、ボクは今生きてる人を守るよ……」 深い悲しみを抱き、赤い月の幻影が再び爛々と燃え上がる。 1つ、2つ、3つ。菊の半分以上が赤い光の中へと飲み込まれる。 「貴女の事情は関係ないわ、私達は殺す側なのだもの」 真名が残った菊に向けて爪を振り抜く。菊は葉を散らしながらふわりと吹き飛んだ。 「ああでも、言いたい事があるのなら全部全部吐き出しなさいな」 素っ気なく言い放ったそれは、彼女に僅かに残った正気が吐かせた台詞であったのか。気だるげに髪を梳く真名の横をすり抜け、舞い戻った菊はマクの元へと向かった。 「偉そうに……どきなさいよ」 友香里の殺意が衝撃波となり、刃と化した菊の花弁と共にマクを襲う。 「う゛ぅ~……があ!」 しかし吹き飛ばされずにマクは踏みとどまった。青の目がぎらりと光る。 「兄殺すは寂しいしたから?」 「私が……お兄ちゃんを?」 「兄は忙しくて話聞いてあげられないしたとか」 マクの言葉を聞いた友香里は首を振る。 「そんなはずないね」 その言葉は意外な言葉ではあった。態勢を整えながら冬芽が答えを返す。 「本当なら、あなたはそうする所だったよ。何をされたの? 逆に何もしてくれなかった、とか」 「お兄ちゃんは『何でもやってくれすぎた』のよ。お陰で私、何もかも人から劣る子になっちゃった。そのくせあなたたちが言ったように肝心な話は何も聞いちゃくれない」 「貴女が一番恨んでいたのは兄だった……という事でしょうか?」 エーデルワイスのフィンガーバレットから放たれた弾丸が菊をまた1つ撃ち落とした。同じように真も残った菊を狙い打ったが、矢は横をすり抜ける。 「綾も嫌い。良い人の振りしてさ。私の事鬱陶しがってるのバレバレだったし」 見てるとムカつくの。私はあの子みたいに要領よくないから。 菊の残骸を踏みつけ、友香里は吐き捨てるように言った。 「さっき綾がうちに来ようとしてたって言ったよね? やっぱね。あの子なら絶対お兄ちゃんに遺書のことチクると思った!」 菊に追いすがりながらツヴァイフロントがしたり顔を浮かべる。 「成程、面白い。つまり君の目的は……いや、私の口から言うべきではないな」 「そう。私は」 生きていくのがつらかった。 その原因を作った2人が、自分の死を巡って何か嫌な目に遭ってくれるなら。 自分のやった事を否定して、必死に責任のなすりつけ先を探しながら、私の影をずっと引き摺ったまま生きて、死んで。 「その苦しむ様子をずっと見ていられたなら、私。このまま生きてるより楽しいんじゃないかと思ったの。あの手紙は時限爆弾のようなもの。いつか爆発すればよかった。中身は私にもわからないし、こんなに早く期限が来るなんて思わなかったけど――」 「だ、そうだ。どうだ今村綾」 「え?」 『……許してください……お願いします、友香里ちゃん、ごめんなさい……!!』 ツヴァイフロントの手にした携帯電話から漏れる綾の泣き声に、友香里は動きを止めた。 「お友達の電話に少々細工をさせて貰ってのう。ずっと電話が繋がっておったのじゃよ。亡霊たるお主の叫び、しかと届けさせて頂いたぞ」 それは私の手柄だというツヴァイフロントの視線を適当にかわし、迷子が再び放った蹴りが最後の菊を散らす。 「余計な事を……! 死ね! 私の楽しみを邪魔しないでよ!!」 友香里の発した憎しみの波動が前衛に居た者達を薙ぎ払う。エーデルワイスと真の射撃が左右から飛び、彼女の攻撃を牽制する。 「ハスタラビスタto you――お別れの前に。恨みや憎しみの意志を私は肯定します。友香里さん、貴女は知らないと思いますが」 エーデルワイスが口を開いた。 「恐らく、綾さんに貴女の遺書を見せられた別の未来の悠一さんは、綾さんを殺してしまうんですよ」 己の非を突きつけられ、積み重なった自責の念が爆発した結果だったのか。 あるいは、妹の復讐を遂げたつもりだったのか。 「分かりません。両方、かもしれません。それが貴女の憎しみの結末でした」 「嘘よ」 「今村さんだって、本当に君の事が嫌いだったわけじゃない。全部思い込みだ」 真も訴える。 けれど、屍の少女は嗤った。 「わかってない。私、いくら必死に生きても、死んでからやっと意識される程度の存在にしかなれなかった。そう育てたのはお兄ちゃん」 「わかってないのは貴女のほうだよ」 冬芽と、冬芽の影をつなぐ運命の糸が交錯し、満身創痍の友香里を切り裂いた。 「人は矛盾を抱えて生きている……好きだけど嫌い、殺したいほど愛してる。その歪みを解くために言葉があるのに。言葉で伝わらないものも確かにあるけど、それは言葉を尽くさない理由にはならないよ。どうせならその歪みを全て言葉にし尽くせば……何か変わったかもしれないのに」 畳に落ちる糸の影は迷路のように複雑に絡み合う。 人生の迷路を進む事は、勝利の望み無き永久の闘争。 どうして生きているのか。それに明確な答えを出せる勝者など限られているとしても。 「寂しいのです」 はっきりとした声でマクは言った。 自らの生を断つ事でしか愛を求められなかった彼女は、歪んでいる。 ツヴァイフロントの波打つ槍が友香里の腹を抉る。 憎々しげな悲鳴と共に少女のからだがぐらりと傾き、床に崩れ落ちた。 『友香里、ちゃん……? いや! いやあぁぁあぁ!!』 半狂乱の叫びを上げる携帯電話を持ってきた菊の花束に埋め、少女への手向けにと放った。 「綾……」 菊は、太陽の形をしている。 終わりの意味、なんかじゃない。 どこまでも幾多にも。広がる未来。 「やっぱり私、最後まで何も出来ない子だった」 そう言い残し、彼女は『また』死んでいく。 彼女の生んだ罪も、罰も、哀しみも。 全てはみな、生きる人々に続いていくというのに。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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