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<六趣に於いて蠢くモノ>ナイトメアダンサー

●Deadly Crescent
 一瞬前まで自分が立っていた空間を鋭い鉤爪が切り裂いた。
 力任せに振われるそれを食らったなら、私の身体など難無く両断されてしまうだろう。
 冷静に。落ち着いて攻撃を良く見て躱さなければ……

 ギチギチギチ……

 不快な音を立てて巨大な節足が忙しなく動き回り、見た目にそぐわない素早さで鉤爪が私に向かって振り下ろされる。
 ぎりぎりの所で身を翻すが、髪の毛を数筋と肌を浅く切り裂かれ血が噴き出した。
 視界が歪み、意識が朦朧とし始める。刃を濡らす気味の悪い体液には毒が含まれていたのか……

 針の様な剛毛に覆われた体表の殆どは鋼鉄の様に硬い。関節や柔らかい腹部を狙って剣を振い、浅い傷を幾つか負わせるものの致命傷を与える迄には至らず、それどころか瞬く間に傷口は再生し、何事も無かったかの様に塞がれる。
 一方のこちらは剣を振う度、攻撃を躱す度に体力は擦り減り、じわじわと追い詰められていく。
 手にした剣がいつになく重く感じる――

 どうしてこんな事になったのか……

 思い起こせば数日前、『金になる話がある』と彼が言っていたのが始まりだった。
 今まで胡散臭い話は何度もあった。それでもこれまで自分達は上手くやってきた。
 今回も上手くいく――その筈だった。

 一人で依頼主へ話を聞きに行った彼が戻ったのはずいぶん遅かった。
 顔色が悪く酷く混乱している様子だった。大声で怒鳴り散らしながら暴れ回る。
 どうやら依頼主と何かあったらしいが、彼は取り乱していてその言葉は支離滅裂だった。
 そして彼は私の目の前で苦しみ出し、床に倒れもがき苦しんで――
 
 化物の背に逆さまに付いた『彼』の顔に目が合った。
 その瞳は虚ろで何の光も宿しておらず、だらしなく開きっ放しになった口から、絶えず気味の悪い色をした泡を吐き続けている。
 もう知性は微塵も感じられず、その耳に私の声も届いてはいないだろう。 

 血が目に入った所為で足を捻り、体勢を崩した。
 即座に彼――正確には『彼だったモノ』が猛烈な勢いで私を吹き飛ばす。
 凄まじい衝撃と共に嫌な音が聞こえ、口の中に鉄錆の味が充満する。内臓をやられたか――

 流石に私もこれまでか。この稼業、畳の上で死ねるだなんて思ってはいなかったが、化物に八つ裂きにされるなんて碌でもない死に方だ。いや、どこの馬の骨とも分からない連中の手に掛かるよりは、彼の手で死ねるならそれも――

●Watchmen
 狭い室内は大量の電子機器で埋め尽くされていた。あちこちで電子音が鳴り、状態を知らせる表示がリアルタイムに瞬く。
「首尾の方はどうだ?」
 リーダー格の男がコンソールの前に座る研究員に問いかけた。
 モニターには巨大な蜘蛛の様な化け物と戦う女性の姿が映っている。
「順調です。今回は状態が比較的安定しているので、前回よりは効率的にデータ収集が出来そうです」
「流石は『賢者の石』と言ったところか。御姫様には感謝をしないとな」
「ええ全くです」
 そう言って唇を歪ませた男はドアを開け、部屋の外に出る。
 そこは鬱蒼とした森の中。今まで居たのはトレーラーのコンテナ内だったらしい。トレーラーの周辺を武装した集団が取り囲み、周辺に警戒を巡らせている。
 男は武装集団の一人に話しかけた。
「アークの方はどうだ?」
「さっそく動きがありましたが、こちらの全てを把握している訳ではなさそうです。イニシアチブは常にこちらに」
「今は時期ではないからな。こちらから手は出すな。何かあればすぐに撤退できるように準備しておけ」
「はい」

●Briefing
 三高平アーク本部。
「ある山中でフィクサードと謎の存在が戦っています。放っておけばフィクサードは倒され、その『存在』が山を降りて人里を襲う可能性があります。阻止して下さい」
 召集に応じブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が今回の任務を説明する。
「『謎の存在』? どういう事だ? フォーチュナでも分からないのか?」
 怪訝な顔をしてリベリスタの一人が尋ねる。
「すいません。エリューションではあるようなのですが、何かイレギュラーな存在の様で、残念ながらタイプを特定できませんでした……非常にタフで自己再生能力を持っている事は間違いありません」
 和泉は申し訳なさそうに頭を下げ、リベリスタもやれやれと肩を竦める。
「鬼事件も状況が逼迫しているのに困った事だ。で、フィクサードの方は何者なんだ?」
「組織に属しないフリーの便利屋の様です。特に信条は無く、報酬次第で何でもやる男女2人組で、最近はフィクサード組織、六道派の依頼を受けて動いていた様ですね……それと、エリューションを監視する集団がある様ですが、詳しくは視えませんでした。積極的に介入して来る様子は無いので今回は放置して、エリューションの排除に全力を尽くして下さい」
 リベリスタ達は頷き、それぞれの得物を確かめると出動の準備を整え始めた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:柊いたる  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月27日(火)23:42
柊いたるです。今回はいつもと毛色が違うのでご注意を。

■勝利条件
正体不明の存在(コードネーム:デッドリークレッセント)の撃破。
人里への攻撃の阻止。

■追加情報
戦場は人気の無い山中。時間は夜。視界や足場はあまり良くありません。
女性の安否は作戦の成否には関係ありません。
監視者は離れた場所にいて正確な位置は分かりません。

●正体不明の存在(コードネーム:デッドリークレッセント)
 防御値と生命力が非常に高く、自己再生能力を有する。
 受けたダメージや戦闘経過時間で能力や状態が変化する可能性が高い。
 その他詳細は不明。

●フィクサード
 香織 24歳 女性 ジーニアス×デュランダル 得物は剣
 そこそこの腕前を持つが、現在は消耗が激しく瀕死状態です。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
ホーリーメイガス
★MVP
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
ナイトクリーク
クリス・ハーシェル(BNE001882)
ナイトクリーク
ダグラス・スタンフォード(BNE002520)
プロアデプト
廬原 碧衣(BNE002820)
覇界闘士
四辻 迷子(BNE003063)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
ダークナイト
エミリオ・マクスウェル(BNE003456)

●闇に囁くもの
「来ました。アークのリベリスタです。間もなく実験体と接触します」
 コンテナの中に設置されたコンソールの前でオペレーターの一人が椅子に掛ける男に報告した。
 男は時計を見て静かに笑みを綻ばせる。
「予測時間通りか。いつもながら几帳面な奴らだ。いいだろう。全力で相手をさせてデータを収集しろ」
「ですが、まだこいつは不安定で――」
 男は手でオペレーターの反論を制する。
「構わん。現状での限界を記録して報告しろと御姫様の指示だ」
 それを聞いてオペレーターの表情がさっと変わった。
「は、はい。分かりました。それでは命令通り、限界まで戦わせます」
 オペレーターはコンソールに向き直るとキーを手早く叩いた。

●森
 心臓が早鐘の様に打ち、呼吸は乱れる……
 ぼやける視界に思う様に動かない身体―― 
 振りかざされた巨大な死神の鎌に月光が反射する。もはやこれまでと目を閉じた。
 脳裏に真っ二つにされる自分の姿が浮かぶ。
 一瞬の後、金属同士が激しくぶつかる様な轟音が辺りに響き渡った。

●邂逅
 香織と怪物の間に割って入り、振り下ろされた怪物の鉤爪を受け止めていたのは、幼い子供の手にした大煙管。常人であれば得物ごと吹き飛ばされてもおかしくない。そんな不可能を可能にできるのは――
「アークのリベリスタじゃ。死にとうなければ下がっておれ」
 自分の何倍もある怪物の鉤爪を受け止め、押し返して『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)がそう言いながら振り返り、後方を確認すると、手際良く『』四条・理央(BNE000319)が手筈通りに体勢を整えているのが見えた。互いに視線を交わし頷き合う。

 同時に『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)も素早く身を滑らせ、手にしたヘビースピアで次々と襲いかかる鉤爪を打ち払う。
「少なくとも、今あなたを敵とみなして殺すようなことはないから協力して。なぜ彼がこんな状態になったのか、アークならその原因を探れるかもしれない――貴方もここで無駄に命を落とすより、今は身を護って生き延びて」
 香織を天使の歌で癒しながら『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が穏やかに話しかけ、
「君に生き残る気があるなら、指示に従ってくれ」
 『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)もシャドウサーバントを召喚しながら声をかけ、『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)がトラップネストの気糸を張り巡らせて休みなく襲いかかる怪物の脚を絡め取り、仲間を援護する。
「私はあれに似たモノと戦った事があるよ……」
 鉤爪の一つを気糸に絡め取りながら、碧衣はかつて戦い、敗北を喫した相手の事を思い出していた。その相手もまたアザーバイドでもノーフェイスでもないイレギュラーな存在だった。
「それは、六道の連中に研究の為に『何か』をされた存在の様だった――知っている範囲で良い、教えてくれ。お前の相棒は一体誰に会いに行ったんだ?」
「私も詳しくは知らない……六道の兇姫の息が掛かった研究機関とだけしか……」
 碧衣の問いに香織が答える事が出来たのはそれだけだった。 

 『夜色紳士』ダグラス・スタンフォード(BNE002520)がブラックジャックの黒いオーラを伸ばし、『執行者』エミリオ・マクスウェル(BNE003456)は己の生命力を暗黒の瘴気に変えて放ち、怪物――死の三日月、デッドリークレッセントのコードネームを持つそれと激しい攻防を繰り広げる。怪物は巨体に似合わない素早い動きでそのコードネームの由来となった死神の鎌を思わせる巨大な鉤爪を振りまわし、木々を薙ぎ倒し、大地を抉る。
 巻き起こる土煙。圧倒的なパワー。直撃を受ければリベリスタといえども平気では居られまい。動けなくなれば蜘蛛が獲物を捕食するように体液を吸われ、干乾びさせられてしまうのだろうか。次々と襲い来る鉤爪を紙一重でかわしながら、そんなグロテスクな光景を想像してダグラスの眉が歪む。

●死闘の果てに
「助けてくれた事には感謝するわ。だけど『彼』は私がこの手で倒す――」
 香織は戦闘圏外へ連れ出そうとする理央の手を振り払って、再び怪物の方へと身を翻す。
 戦ってでも止めるべきか――いや、強敵を前にそんな事をして戦力を下げるわけにはいかない。ならばやむをえまい。少し予定が変わったが、理央は後方からの回復支援で味方のサポートを開始する。
 夜の闇の中、迷子の設置した灯りにリベリスタ達の武器と怪物の鎌が鈍く輝く。
 迷子は意識を集中させ、エネミースキャンで怪物を解析しようと試みた。
 確かにエリューション反応はある。しかしアーク本部で聞いていた情報の様に今までにないカテゴリーの存在でタイプを特定する事はできない。人間であり、E・ビーストでもある。そしてまた、そのどちらでも無い。現状では接近パワータイプで神秘耐性は高くない様だが、今もなおその特性は定まること無く変化し続け――

「仕掛けて来る! 避けて!」

 迷子が叫ぶのとほぼ同時。硬質化した怪物の体毛が鋭い槍となって周辺一帯に発射された。無数の槍が空を裂いて飛び、取り囲むリベリスタ達に猛烈な勢いで嵐の様に降り注ぐ。
 ダグラスは襲い来る槍に身を捻って回避を試みるが、あまりに数が多すぎた。かわし損ねた数本の槍に身体を貫かれ、信じられないという表情を浮かべて倒れた。たちまち周囲が血に染まる……

「数が多すぎる――」
 なんとか自分に向かって飛んできた槍を叩き落としたユーディスだが、その脇を何本かの槍がすり抜け、その行く先には――香織が動けずにいた。
「危ないっ!」
 理央が槍の前に身体を投げ出した。
 耳障りな音と共に理央の身体を数本の槍が無慈悲に貫く。
 その姿はたちまち血塗れになって、力無くゆらりと倒れる。
 素早くニニギアが倒れた理央に駆け寄り、彼女が動けないまでも命に別状は無い事を確かめ、ひとまず胸を撫で下ろす。即座に天使の歌を戦場に響かせて傷付いた仲間達を癒し、再び戦う力を与えていく。

「お前が此処で死ぬのも、お前の相方を此処で討って終わるのも奴らにとっては何の意味も持たないだろう。この場を生き延びて、奴らに意趣返しをして初めて無念を晴らせると思うがどうだ?」
 理央の血に濡れて呆然とする香織に碧衣がそう言いながら、超頭脳演算で弾きだしたプランの元、ピンポイントスペシャリティで怪物の守りの薄い急所を突く。

 血の海に倒れたダグラスの耳に届いたのは誰の声だったか――こんな所で終わるわけにはいかない。消えかかった命の炎をフェイトの力で再び燃やし、手にした刀を杖に渾身の力を振り絞って立ち上がり、再び戦線へと復帰する。
「これ以上長引かせる訳にはいかない。火力を集中して」
 エミリオの十字架型ランチャー『メメント・モリ』が赤く輝いて怪物の血を啜り、エミリオの傷を回復させていく。

 精々楽しませて貰えば――任務の前に迷子はそう思っていたが、今はそんな余裕はどこにも無いと感じていた。全力で当たらねば、少しの油断が死を呼び寄せる。
 地響きを立てて襲い来る鉤爪を掻い潜りながら、情報を得るなら死ぬ前にとリーディングで怪物の思考を読む。
「!?」
 迷子の脳に苦痛・恐怖・混乱・狂気・飢え・怒り……それらの混ざりあった最早人のものとは思えない混沌とした感情の奔流が流れ込んでくる。

(殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス!)

 それは怒りに荒れ狂う獣の様であった。
 少しでも人の心が残っていれば香織に伝えようと思ったが、これではそれも出来そうにない。
 今はこれ以上の情報収集は諦め、とにかく今は目の前に敵を倒す事が先決だろう――

 素早く身体を怪物の死角へ躍らせたユーディスが、手にしたヘビースピアを魔落の鉄槌で大上段から振り下ろす。
 大きな手応えと共にその衝撃は怪物の硬質化した鱗とも見える表皮を砕き割り、血とも体液ともつかぬ気味の悪い色の液体を周辺に撒き散らせた。

 耳をつんざく咆哮が夜の森に響き渡る。

 脚の一本をへし折り、少なくないダメージを与えた実感はあったが、それでもその背にある唯一の人間との名残である男の顔は苦痛に歪むわけでもなく、ただ、だらしなく涎を垂らして虚空を見つめるだけだ。その表情とは裏腹に、怪物の身体は怒り狂う猛獣の様に周囲の山林を破壊しながらリベリスタ達に襲いかかる。その暴風雨の様な攻撃の渦の中でリベリスタ達は軽くは無い多くの傷を負う。その傷口からは毒が侵入し、彼らの力を奪い、死へと誘うが、ニニギアの天使の歌とブレイクフィアーがそれを癒し、なんとか戦線を維持し続けている。

 クリスがライアークラウンの破滅のカードを怪物に投げながら香織に言う。 
「香織さん、彼は貴方を殺そうとした。彼はもう……化物だ。倒すしか救う道は無い」
「分かってる……分かってるわ。彼はもう……人じゃない……」
 香織は頷いて剣を握り直すと怪物に向かって跳んだ。裂帛の気合と共に全身の闘気を爆発させ、その背の人面に向かって剣を叩きこむ。激しい衝撃と共に血飛沫が上がり、怪物の身体がぐらりと傾く。
 今がチャンスとダグラスも暴れる脚を掻い潜って接近し、装甲の様な外殻の間の柔らかい部分を狙って刀を振い、的確にダメージを与える。
(パートナーが化け物にされるなんてどういう気持ちだろう……彼女の想いも込めて、この悪夢を終わらせるよ)
 そう思いながらエミリオは怪物を前にして最後の賭けに出る。
「後はどっちが先に倒れるか、我慢比べだね」
 そして狂った様に暴れ回る怪物にペインキラーを放ち、痛みをおぞましき呪いに変えて怪物に叩き突ける。使い手である術者をも傷つける苦痛の呪い。両者共に全身から血を流しながらの消耗戦である。

 苦痛と怒りに身を振わせて暴れ回る怪物。まさに死へと誘う悪夢の舞踏。巨体を受けて大木が裂け、薙ぎ払われる大鎌に大地が穿たれ、土砂の飛礫となって降り注ぐ。
 狂った暴走機械と化した怪物の突進にクリスが跳ね飛ばされ、地面に激しく叩きつけられて、ゴム毬の様に何度かバウンドしてようやく動きを止める。
 意識を失って立ち上がれないクリスのその身体に向け、怪物の鋭い鉤爪がギロチンの様に振り下ろされ、その身を切り裂くと思われたその時、香織がその身体をもって攻撃を受け止めていた。
 胴を貫かれ、おびただしい血を吐く香織。
 怪物はとどめを刺す為にもう一方の鉤爪を振ろうとしたが、動きの止まったその隙を突いて接近した迷子の業炎撃がその脚をへし折った。
 次いでユーディスの槍が喉元を貫いて頭部を爆ぜさせると、ようやくその巨体が大きく震えて崩れ落ちる。

「やった!」

 これで死闘が終わった――誰もがそう思った。
 しかし、倒れた巨獣の身体は泡立つ様に沸き立ち、失われた頭部には新たな肉が盛り上がり絡み合って、より醜悪でおぞましい器官が形成され始める。

「まだ再生するというの? これじゃきりがない――」
 倒れた理央やクリス、満身創痍の仲間達を見ながらニニギアが撤退を考え始めたその時、
「いや、これは再生じゃない……」
 碧衣の言うとおりだった。
 沸き立つ肉塊は一つの形に留まる事は無く、絶えず変化し続けていた。立ち上がろうとする脚もまた熱せられた蝋細工の様に歪にねじ曲がり、引き千切れて巨体を支える事は出来ない。グズグズとむせ返る悪臭を放ちながらそれは這う様に身をくねらせ、何度も失われた頭部や脚の再生を繰り返すが、肉塊から生えて来るのはグロテスクにデフォルメされた出来損ないのそれであり、機能を果たさない。
 見る間に溶解した自身の腐肉の池に溺れるかの様に崩れていき、泡立つその不快なヘドロの様な水溜りも地に染み込み、風に気化して消えて行った……

●コンテナ
「ダウン現象を確認。実験体は融解。活動限界に達しました――」
 モニターを監視していたオペレーターが感情の無い事務的な声で報告する。
「この程度か……とはいえ、未完成にしてはよくやったというべきかな……御姫様への土産にアークのリベリスタの首も持ち帰りたかったが、それは望み過ぎだったな」
 それを聞く指揮を務める男もまた無表情に呟いて立ち上がる。
「充分だ。我々はこれより撤収する」

●戦いの後
 静かになった森でニニギアは意識を取り戻した理央とクリスの容体を見ていた。手酷くやられてはいるが、命に別状はない。リベリスタの回復力であればすぐに戦線復帰できる事だろう。
 ボロボロになったダグラスとエミリオが肩を抱き合いながら歩いて来る。
 せめて怪物の一部でも回収して分析できないかと思ったが、残念な事に肉片一つ、体毛一本すら残ってはいなかった。

 周辺は台風の過ぎ去った後の様に破壊されていた。
 激しい戦いだったが、アークのリベリスタ達に欠員を出す事は無かった。しかし――

「香織、頑張れ。アークへ来れば意趣返しの機会もある。そうすれば……」
 碧衣の呼び掛けに香織は弱々しくかぶりを振る。
「期待に応えられなくてすまないが、私はこれで満足している……危ない橋を渡り続けて来たこの稼業、いずれこうなる事は分かっていたんだ……」
「彼は六道に改造された。そういう事なのですね?」
「彼は戻って来た時には既に何かされた後だった様だ……おそらくは……そうなのだろう……」 
 ユーディスの問いに何とか答えたが、重傷を負った香織の命の火はもう消えかかっていた。
 クリスがニニギアに助けられて身体を起こし、香織の手を掴む。
「人を化物に改造し、命を弄んだ……この事件の真の犯人はアークが必ず捕らえる。だから、安心してくれ……奴らの研究は必ず阻止する」
 頷く香織に迷子が言う。
「戦いの途中であいつの頭の中を読んだが、狂気に蝕まれ殆ど獣の心になっておったが、奥底ではお主を探しておったぞ。今度会ったら、離れ離れになるんじゃないぞ」
「ええ、そうするわ……ありがとう……きっと彼の仇を取って……」 
 香織の声が小さくなり、クリスの手の中の温度が冷えて行った。

 多くは無いが今回得られた情報もある。アークへ帰って情報を統合し、引き続き調査を続ければ新しい事実も分かるのかもしれない。だが、今エミリオにできるのはただ2人の冥福を祈る事だけだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
辛勝といったところでしょうか。厳しい判定をさせていただきましたが、ノーマルでも油断すれば失敗の可能性はあるという事を肝に銘じていただければと思います。
MVPは広い視野と洞察を持って戦線の維持に貢献されたニニギア・ドオレさんへ送らせていただきます。