●ビルの中には そのビルは、静岡県西部にある町に建てられていた。 建築計画が途中で頓挫し、長い期間、建設中のまま放っておかれたビル。 いろいろな経緯をたどって、最近ビルの建設計画が再開された。 ただし、その真の目的に気づいた者はいなかった。 まだ肌寒いある日の昼間のこと。 突然、地面が揺れた。 「地震かな?」 ビルの前を通りかかった青年は、体に揺れを感じて呟く。 少し間を置いて2度目の振動が起こる。3度目、4度目……。 振動がビルのほうから伝わってきていることに彼はようやく気づく。 視線を向けた青年は、呆気に取られた表情となった。 「……は?」 道路側の壁が、左右に開いていた。 建物の高さはおよそ30mほどであろうか。 内部には部屋を区切る壁はもちろん、階を隔てる天井さえ存在しない。 代わりに、そこにあったものは、見上げるほどの大きさを持つ人型の機械だ。 周囲には飛行する羽虫のような代物――比較対象が大きいだけで、実際には人ほどもあるだろうが――も大量に飛んでいる。 それはゆっくりとビルの外に出てきた。 鈍く光る巨大な目が遥かな高さから青年を見下ろす。 へたり込んだ青年へと、それは近づいてくる。 『――死ね、弱い生物よ』 その目から放たれた光線が、彼のいる一帯を問答無用に薙ぎ払う。 遠く離れた別のビルから、ロボットが動くのを見ている者たちがいた。 1人は白衣を着た若い男だ。 残り2人は動きやすそうな服装で、油断なく周囲を警戒していた。いずれも懐に銃器を隠し持っている。 「素晴らしい! あんな巨大なものまで動かすことができるなんて……!」 興奮する男を、残る2人は冷ややかな目で見る。 「技術力だけであれができたんならすごいんだがな……結局あれも、妙な力で動いてるだけなんだろ?」 「ああ。タネは教えてもらえなかったがな。そこの助手気取りのお坊ちゃんでさえ知らないって話だ」 「ま、余計なことは知らないままのが1番さ。俺たちは金さえもらえりゃ、それでいい」 「違いない」 2人の会話を、白衣の男は聞いていなかった。 ただ、暴れるロボットを観察し、子供のようにはしゃいでいた。 「飛行タイプもちゃんと飛んでいる。よくバランスが取れているなあ」 ●ブリーフィング アークのブリーフィングルームで、『ファントム・オブ・アーク』塀無虹乃(nBNE000222)は集まったリベリスタたちを無表情に見回した。 「エリューションが出現しました。タイプはゴーレム、フェーズ3の強敵です」 なんでも、ゴーレムは30m近い人型ロボットのような姿をしているらしい。 もちろん本物のロボットではない。工学的には動くはずのない代物である。 攻撃手段は、まず1つ目から放つレーザーで視界内のすべてを薙ぎ払うこと。直撃すれば隙ができる上、強化効果が解除される。 その他、虹乃の分析では4種類の行動を行う。 胸部から肩部には無数のミサイルが装備されているようだ。範囲に対して打ち込んでくるそれは、爆発して炎によるダメージを与えてくる。 腕には巨大なブレードが装着されている。非常に強力であることは言うまでもないが、さらに斬られた者は身動きできないほどの衝撃を受けるだろう。 腹部からはプラズマ球を放つことができる。この攻撃はロボットが損傷するほどに威力が増す。ある程度損傷するまで使ってこないが、体力で劣る者は一撃で倒れる可能性が高い。 周囲に防御フィールドを展開し、飛躍的に物理防御力を伸ばすこともできるようだ。守るだけでなく、攻撃してきた者にダメージを返す効果まである。 また、行動を封じるものや精神的なものなど、一部の特殊効果は無効化されるだろう。 「この敵の弱点は頭部です。活動停止させるには頭を破壊しなければなりません」 ただし頭は30mの高さにある。直接狙うならなんらかの手段が必要だろう。単純に、脚を攻撃して転ばせたり膝をつかせてから狙うこともできるが。 「それから、周囲には別のロボットが10体いるようですね」 こちらは飛行能力を持っているようだ。両腕から放つビームは、衝撃で動きを鈍らせてくる。 最初は高空を飛んでいるので大した脅威にならないが、状況が変われば低空飛行に移る可能性もある。 戦場は街中になる。 ロボットが起動する直前に到着できるので、ビルの敷地から出させないようすぐに攻撃したほうがいいだろう。 「それから、戦闘を観察しているフィクサードがいるようです」 エリューションについてなんらかの情報を持っていると考えられる。もし余力があれば、捕縛してきて欲しいと虹乃は言った。 マグメイガスの白衣の男と、傭兵らしきインヤンマスターとナイトクリーク。 実力はアークのリベリスタと同等だろう。 「ロボット側の戦闘が終われば離脱するでしょうから、手出しするならエリューション戦が厳しくなります」 あくまで、余力があると判断できたら、と虹乃は念を押した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月26日(月)22:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●ビルの中に 昼なお暗い曇り空の下で、エリューションが潜むビルはいかにも不気味に見えた。 だが、どれだけ強大な敵がいようと、臆するリベリスタはいない。 「でっかいロボをバラせると聞いて!」 むしろ目を輝かせているのは、『Trompe-l'oeil』歪ぐるぐ(BNE000001)だ。 幼女にしか見えない彼女が実際に何歳なのかは、本人さえも知らない。常識にとらわれることを嫌う彼女は、非常識な敵との戦いを楽しみにしているようだった。 対して、『合縁奇縁』結城竜一(BNE000210)は戦慄していた。 「人型ロボだと……? バカな! 人型ロボの有用性は、ロマンのない輩によるツッコミによって否定されているはずだ! 足の自重がどうとか、手による武器運用がどうとか、投影面積がどうとかと!」 もちろん、理由は恐怖などではなかったが。 「……アホか! そんなのはどうでもいいんだよ! 重要なのはロマンだ! だのに、破壊せねばならないとは……もったいな……ごほん」 憤慨する竜一の隣で、メイド服の女性が正しくロマンの無いツッコミを入れた。言葉の後半をスルーしてくれたのは、優しさか、それとも彼女にとってどうでもいいことだったからか。 「どう頑張っても半径30mが射程の限界なエリューションがこれだけ肥大化してしまうと、自身の身長以内の距離しか狙えないという画的に致命的な問題に直面するわけで」 見た目には12歳くらいにしか見えないアークが誇る制圧型メイド、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の言葉には容赦がなかった。 「まあ、アレですね。しつこいようですが世の中浪漫だけじゃ食っていけません」 「巨大……ロボット……って……、好きな……人が……多いの?」 さらに、同じくメイド服のエリス・トワイニング(BNE002382)も呟く。 エリスにそんな意図は無かったかもしれないが、竜一はまるで追い討ちをかけられたような顔をした。 急ぎ移動するリベリスタたちの前で、ビルの前面が開き始める。 人よりも大きいであろう巨大な頭部が、隙間からもう覗いていた。 ぐるぐが卵形のアクセス・ファンタズムからリボルバーとスパナを取り出す。他の者たちも、それぞれの武器を出し、構えながら移動を続ける。 「……ああ、何となくこういう相手は安心するわ……最近神経削る敵ばっかりだったから」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が感想を漏らす。 「こういうわかりやすいのばっかりだと良いんだけどね。動く巨大ロボとかやっぱりロマンだし。とはいえ、加減は一切してあげないけど」 「最近巨大な敵、と縁がある……ね。やりがいがあって、楽しいからいいけど……」 ツインテールの女性が無表情に言った。『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)だ。 「ついに来たかー、人型巨大ロボ。前は合体変形前にこわしちゃったからなー」 『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)は見た目だけでなく実年齢でもまだ若い12歳だ。 彼女は前にも人型ロボットのエリューションと戦ったことがあった。なんとなく同じ誰かがデザインしているように思える。 「なんか見てる人がいるみたいだけど、まずはこいつ街に出さないようにしないとねー」 「事情を知ってる様子の3人組を捕らえたいのは山々で御座いますが、まずはアレをどうにかするのが先ですか。造ったのか呼び出したのかは存じませんが迷惑千万ですな」 『静かなる鉄腕』鬼ヶ島正道(BNE000681)は袖をまくり上げて鋼の拳を握る。 「巨大ロボットか、少しワクワクするけどエリューションなら倒さなければいけないね」 フルフェイスヘルメットの奥から、『アンサング・ヒーロー』七星卯月(BNE002313)は敵を見上げる。 ビルの前面が開ききる。 飛行型も含め11体のエリューションが動き出し、ほとんど同時にリベリスタたちは敵を射程内に収めた。 周囲に人影は無い。 四条・理央(BNE000319)が周囲200mに結界を展開している。 「全長30mの巨大ロボとか飛行ロボとかどうやって用意してるんだろ? どうせ出すなら岡山の鬼相手にぶつけてくれれば良いのにさ」 いったいいかなる理由でこんな街中で暴れさせるのか、その理由はわからない。 どうせなら最近活発に動いているアザーバイドたちにぶつけてくれればいいのにと、理央は思った。 ●飛行ロボット強襲 動き出したエリューションは立ちはだかるリベリスタたちをすぐに認識した。 ぐるぐは接近しながら巨大な敵の脚を観察する。 脚部だけで人間の数倍はある。 「ピピッとサーチ! この子膝と足首が弱いですよ!」 特別な弱点などはないが、それでも関節に当たる辺りは多少構造的に弱いようだった。 「……こんなデカイのとめられるのか……? まあ、やってみるさ!」 竜一や正道も、ぐるぐと共に前進していた。仲間たちは足元にまで接近してしまうことで、巨大な敵の視界に入りにくくしている。 天乃も、ミサイルに巻き込まれないよう距離をとりつつ、前衛に立っている。 他の仲間たちは、飛来する敵を迎え撃っていた。 ぐるぐは手近にいい足場が無いか探したが、すぐにその前にやるべきことができた。 「うっとうしい羽虫どもめ、邪魔をするつもりか」 光り輝く防御フィールドを展開し、はるか上空からエリューションが告げてくる。 「エリューションが人様を羽虫扱いとは、なかなか言ってくれるものでございますね」 集中力を高めながら、正道が眼鏡を押し上げる。 彼の隣へと、小走りにぐるぐは接近した。 「ぐるぐルール発動! 『バリア禁止!』」 先ほど見つけた構造的に弱い場所へ、ぐるぐは手にしたスパナを振り下ろす。 バラバラカーニバルと名づけられたそれは、機械をばらすのには都合のいい武器だ。……殴っていれば、大抵のものはバラバラになる。 輝くフィールドが一瞬にして消え去った。 「生憎、この手のバリアはすぐに割られるものだと相場が決まっているんですよ」 「まったくですね。ぐるぐさんの特等席探しを邪魔しないで欲しいものです」 淡々と言ったモニカに同意すると、彼女は再び足場になりそうな高所を探し始めた。 飛行ロボのビームが降り注ぐ。けれど、高空からの攻撃は有効ではない。半分は地面をうがつか、当たってもかすめる程度でしかない。 モニカは腕に装着した対物砲を空へと向ける。 背中には卯月が与えてくれた小さな翼があったが、今のところ彼女が飛ぶ必要は無い。 「さて、まずはなんとかの一つ覚えから行きましょうか」 淡々と引き金を引いた銃口から、ばらまかれる無数の弾丸。 空を飛ぶ敵は思うように回避できず、面白いように攻撃が命中する。 撃っている当人は、別に面白そうな顔はしていなかったが。 さらに、アンナがまばゆい輝きを放った。 光が打った敵の動きが、さらに鈍る。 「突出している敵がいるのだよ!」 「オッケー、ぶっ壊すよー」 卯月が示した敵へと岬がハルバードを振り抜く。 見えない刃が、特に大きなダメージを受けていた1体を両断した。 さらに別の1体にエリスの放った魔法の矢が突き刺さり、ぐるぐの魔弾が射抜いた。 「今の子ポイント高いんじゃない?」 まるでゲーム感覚でぐるぐが言った。 残った敵も、正道が張った気糸の罠や理央の呪印が動きを封じていった。 エリスは巨大ロボの単眼が光ったことに気づいた。 道路が光線に薙ぎ払われる。 岬が飛びのき、理央が盾を構える。エリスも回避を試みたが、そんな間もなく攻撃が襲ってくる。 一瞬、まばゆい光で目が見えなくなった。 アスファルトが溶ける匂い。 気づくと道路に無数の線が走っていた。 「ん……みんな、平気?」 平気そうな仲間はいなかった。前衛は視界から外れてはいたが、抑え役たちはそれ以前にミサイルによる攻撃を受けていたからだ。 おおむね威力の落ちることが多い全体攻撃なのに、恐ろしい威力だった。 「ボクは護るのが得意だからね。これくらいならまだまだ。一番大丈夫じゃないのは、エリス君じゃない?」 中衛にいた理央がエリスの位置まで下がった。かばってくれるつもりらしい。 「出し惜しみせずに回復を頼むのだよ。足りなくなれば私の力を分けよう」 「……わかった」 グリモアールを開き、詠唱する。高位の存在にアクセスしたエリスから息吹が放たれる。 あるいはそれは、書の持ち主であったという大天使ラジエルの息吹かもしれない。 1人では回復しきれないと見たのか、アンナも同じように息吹を仲間たちへもたらしていた。 その間にも、モニカがマイペースに敵を削っている。 さらに2体の飛行ロボが壊れたかと思うと、敵が低空飛行へと移行する。 正道は竜一と共に巨大ロボの足元にまとわりつくようにしていた。 20倍近いサイズを持つ敵に、の果たしてこれで足止めになっているものか疑問に感じる。ただ、少なくとも今のところ巨大ロボは前進するのを控えているようだった。 「うわっ、こっち来た!」 降下してきた飛行ロボの1体が竜一へビームを放つ。 「自分が対処をいたします。竜一さんは足止めを続けてください」 「わかった。俺は、俺の仕事をする!」 飛行ロボの行動パターンを解析する。アンナの閃光で動きが鈍った状態なのが見て取れた。 天乃の気糸が敵を捉えた。 正道の鋼の拳はロボを瞬く間に追い詰めて、破壊する。 「これで5体ですな。残りは後衛にお任せするといたしましょう」 正道は巨大ロボに向き直る。 支援は十分、小細工の通じる相手ではない。彼のなすべきことは、力押しだった。 低空飛行に移行した飛行ロボットたちは厄介な敵となっていた。 彼らの射撃は動きを鈍らせる効果がある。敵を倒すのにも時間がかかってしまっていた。 理央とエリス、2人の回復役がひたすら回復を連発して、アンナも時折回復に加わってどうにか皆の体力を維持している。 卯月が意識を同調させて、尽きかけたエリスの力を回復していた。 巨大ロボットがブレードを振り上げる。 アンナは警告を発した。 「上から来るわ、気をつけて!」 壁を登ろうとした天乃の身体を、彼女の背よりもはるかに巨大な刃が断つ。 「……危ない」 両断はされなかったが、衝撃で彼女の動きが止まっていた。 理央が光を放って麻痺を癒し、傷はエリスの微風が完全とは言えないまでも治す。 アンナは前進した。 飛行ロボと、そして巨大ロボも視界に納めて、閃光を放つ。 モニカの銃撃が火を吹く。 先ほど気糸の罠や呪印で動きを止めていた2体が、そこで壊れた。 岬の斬撃とぐるぐの銃撃がさらに1体ずつ。 巨大ロボットの単眼から再びレーザーが降り注いできた。 回復しようとしたアンナの目の前に、最後に残った飛行ロボが降下してきた。 両腕のビームに発射される。 セーラー服に穴が開き、眼鏡が吹き飛ぶ。 ぎりぎりのところで、アンナは倒れるのをこらえた。 「痛いわね。でも、こういう敵のほうが、素直に感情を出せるわ」 ボウガンの引き金を引き、敵を破壊する。 「……神秘なんて大っ嫌いだ」 ●巨大ロボを撃破せよ 天乃はビルの内壁を駆け上っていた。 肩の高さまで上ったところで、敵の顔に意識を集中する。 彼女の家に伝わるのは、忍術に由来する武術だ。壁を登ることなど、造作も無い。 壁を蹴る。巨大ロボの表面を足場に、頭部へと接近。 「……動かない、で」 遥か下方では仲間たちがロボットの足を狙っているようだった。 気糸を放つ。 狙うはロボットの単眼だ。 だが、いかに巨大とはいえ特定の部位を狙うのはそう簡単ではない。命中したのは目から少し離れた場所だ。 単眼が天乃をにらみつけてくる。 肩から放たれたミサイルが、天乃へと飛んできた。 至近距離で爆発に巻き込まれた彼女は空中に投げ出される。 「……いいね。そう、でなくっちゃ」 倒れていてもおかしくないほどの攻撃だが、運命はまだ彼女の味方だった。 ゆっくりと降下していく。空中でも、彼女の体術はスカートがまくれるのを避けていた。 卯月は残る敵が1体きりになったところで攻撃に転じた。 プロアデプトの頭脳があらゆる状況を演算して、効率的な攻撃を可能とする。 「関節の辺りを狙うといいですよ」 「なるほど。助かるのだよ」 ぐるぐの言葉を受け、卯月は足首の辺りへと攻撃を集中するように、仲間たちへと呼びかける。 「任せろ! でかければ、それだけ回避運動も取り辛いはずだ! その弱点! 狙わせてもらう!」 竜一の刃が強烈な一撃を叩き込む。 吹き飛んだ拍子に、巨大ロボットが膝を突いた。 卯月は頭部を狙って気糸を飛ばした。 「脚はまだ壊れてはいない。狙える時間は長くはないのだよ!」 立ち上がるまでの間に、リベリスタたちの攻撃が頭部へと集中した。 理央は残りが巨大ロボットのみとなっても、油断はしなかった。 結界を張りなおして仲間たちの防御力を上げる。 むしろ回復の頻度を上げている。なぜならば敵はまだ必殺の攻撃を使ってきていないからだ。 「熱源反応が出現しましたよ。皆様、気をつけてくださいね」 普段と変わらない語調でモニカが言った。 けれどその言葉が意味するところは仲間たちにすぐ伝わる。 理央がとっさにかばったのはアンナだった。 果たして、狙われたのは彼女だ。 ロボットの胴部が開き、高熱のプラズマが放たれる。 愛用の盾がひとりでに動いてそれを受け止めた。頑丈な防具越しに灼熱が伝わってくる。 「……食らったのがボクでよかったよ。どんな原理でこれほど高温を出してるのか、知りたいところだね」 攻撃を受け止めきった理央に、エリスとアンナが相次いで癒しの微風を送ってくれた。 岬は理央たちが攻撃を受けている間に巨大ロボに接近していた。 正道や竜一が足首を狙って攻撃を繰り返している。 アンタレスを振りかぶる。 「なんで人型巨大ロボがロマンと言われるかその足に教えてやろうとしようよー、アンタレス!」 大火の名を宿した邪悪な黒の斧槍。中央にある禍々しい目を中心に、エネルギーの球が蓄積する。 木を切り倒すかのように水平に、岬は薙いだ。 すでに竜一の攻撃で一度大ダメージを受けていた足首は、再度の衝撃に耐えることができなかった。 ロボットが膝を突いた。 単眼が岬を見下ろす。怒りが目に浮かんでいるように見えるのは、錯覚だろうか。 プラズマ球が飛んでくる。身体をひねるが、かわしきれるタイミングではない。 少女の身体が高熱に焼かれる。 「……巨大ロボに殺られた傷って言ったら逆に自慢できるかもー」 アンタレスを突いて立ち上がった岬に、エリスや理央の回復が飛んできた。 卯月が付与した翼で飛び、正道が後方から連続で殴りつける。 ロボットの頭部がアスファルトに穴を穿った。 竜一は悲しげな目を倒れたロボットに向けていた。 ロマンの詰まったこの敵を、これから彼は壊さねばならないのだ。 フォーチュナの虹乃に褒めてもらって、撫で撫でしてもらうためにも。撫でてはくれないような気もしたが、それはきっとおそらく錯覚のはずだ。 スパナを振り上げたぐるぐが情け容赦の無い打撃を弱点に向けて叩き込む。 卯月の気糸が装甲を穿ち、天乃の気糸が今度こそ目を傷つける。 狙い済ましたモニカの1射が精密に頭部を貫く。 全身の闘気を竜一は日本刀に込めた。 「……さらばだ、巨大ロボ。俺の元にいれば、主役機として活躍できたろうに!」 叫びと共に、振り抜いた刃が頭部に触れると、闘気が爆発する。 デュランダルの一撃がロボットの顔面を粉砕すると、エリューションの単眼から光が消えた。 ●戦い終わって 天乃は監視役の3人がいたというビルの屋上へ姿を現した。 やはりというべきか、もはや誰もいない。 「大きな手がかりなんか、残ってないだろうけど……」 落ちているものもなさそうだったが、天乃はいちおうなにか手がかりがないか、ビルを見て回った。 その頃、現場のほうではリベリスタたちが負傷の手当てをしていた。 後片付けも必要だろうが、それは生身でどうにかなるようなものではない。 おそらくは報告すればアークのほうで手配してくれるだろう。 竜一は停止した巨大ロボット型エリューションの前に、どこで買ってきたものかアイスの棒を立てた。 マジックでロボの墓、と書いてある。 いったいなぜ彼らは戦わねばならなかったのか……。 友になれたのではないか……。 そんな思いを込め、彼は祈った。 「……なにをしてるのかしら」 「よくわからないけど、面白い絵面ですね」 アンナの疑問にぐるぐがそう言った。 「そっとしておいてあげましょう。同類だと思われたら嫌ですし」 毒舌家のモニカは、最後まで男の浪漫を否定した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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