●時を経て 対峙する、二人の漢。 一方は青龍偃月刀を携え、一方は方天画戟を掲げ、静かに、相対す。 空気は震え、地は微かに鳴り響き、まるで激突寸前の漢達の空気が世界を揺るがしているかのようだ。 「いざ、参る!」 「尋常に、勝負だッ!」 漢二人はそれぞれの獲物を同時に構え、地を蹴って、ただ、真っ直ぐに目の前の相手へと、打って出る。それこそが彼等の誇る、生きる意味そのものであるかの如く。 二人は戦い続ける。彼等以外には誰もいない、この世界で。 ●……ん? 「京劇って、実は結構好きなんですよ。私も行きたかったな……」 八人分のチケットを手に、しゅんとした表情を見せる『転生ナルキッソス』成希筝子(nBNE000226)。そんな彼女は改めて、今回リベリスタ達に託す任務の説明を始める。 「皆さんには、三高平市郊外にある市民ホールに向かって貰います。其処には今、本場中国の劇団の方々がいらっしゃってて、京劇の公演を行ってるそうなんですよ。ええと内容は……」 ぱらぱらとパンフレットを捲り、あらすじを発見した筝子は、何処か楽しそうにそれを朗読する。 「『三国時代の有名武将の子孫が、時を超えて三国時代へタイムスリップ、彼等が歴史の裏で繰り広げる、もうひとつの戦乱、その結末は……!』……って何だこのトンデモ展開」 今確認したのか。 そんなリベリスタ達のじっとりした視線に気付いたのか、たじろぎながらも説明を続ける筝子。 「と、兎も角。その京劇で使われる小道具、及びそれに染みついた使い手の役者さんの思念が揃ってエリューション化してしまったそうです。皆さんにはこれを討伐して来て欲しいと」 そして筝子は、今度は資料の方をぱらぱらと捲る。 「まずはE・ゴーレムについてですが。主役二人の武器、それぞれ“青龍偃月刀”と、“方天画戟”が覚醒し、単なる小道具だったそれ等が本物の武器のようになってしまったそうです。お陰で切れ味は抜群、重量感もたっぷり」 けど、と続ける筝子。 「それだけなら話は簡単でした。何せこの二つの武器は、別に独りでに動く訳でもない。言ってしまえば張りぼてが本物の武器になってしまったというだけなんです。まぁ、危なくなると妙な衝撃波を飛ばしますが……ある理由から殆ど使ってきません。ですが問題は、使い手であるE・フォース」 と、徐に、スクリーンに二人の男が映し出された。如何にも中華系武将といった感じの出立だ。顔にも塗料か何か塗られている。 「識別名は仮に、基となった役名から、青龍偃月刀の使い手で、豊かな顎髭の生えた男を“関江”、方天画戟の使い手で、鳥の羽をあしらった冠を被った男を“呂明”と呼ぶ事とします」 彼等は三国時代の武将の中でも特に有名な武将の子孫という設定らしい。それだけに、かなり厄介な相手だと筝子は言う。 「この二人、一応分類上はフェーズ2なんです。けれどその戦闘能力は凄まじい。フェーズ3名乗っても良いんじゃないかって位の体力と、攻撃力を誇ります。加えて、関江は防御力が高く、呂明は素早さが高い。まともにやり合えば確実に此方にも甚大な被害が出ます。ただ、実は今回、皆さん上手くやれば楽が出来るんです」 人差し指を立てて、茶目っ気たっぷりといった風情でウインクして見せる筝子。その余裕綽々な態度の訳を、リベリスタ達が問うと、筝子は軽く頷いて、その理由を語り始めた。 「この二人、どちらかが消滅しない限り延々と一騎打ちを続けるんです」 つまり。 どんなにリベリスタ達が乱入し、介入してこようと、二人が生存している内はリベリスタ達に攻撃は加えてこないのだ。 「まぁ双方範囲攻撃は持ってるので、気を付けていないと巻き込まれる事はありますけども」 それでも、上手く立ち回ればまともに相手をするのは疲弊した片一方だけで良いという事になる。 「尤も、互いに相当体力は高いですし、トドメはリベリスタが差さないと消えないので、長丁場を避ける為にもある程度の介入はしないといけませんが」 その辺りの匙加減の判断は、任せると言う。 「あ、そうだ。皆さんには劇団員の方々がいなくなる夜に、此処に用意した合鍵を使って、ホールの劇場に潜入し、討伐を行って貰いますが……その前の日中は当の京劇を公演しているので、観賞して戦闘時の参考にするのも良いかも知れませんね。ただ、その場合……」 途端に険しい顔つきになった筝子が、リベリスタの一人の肩をぐっと掴む。 「帰ってきたら、感想聞かせて下さいね!」 眩しいまでの美少女の微笑みが、其処にあった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月25日(日)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●両雄相見える 「……実は俺、あんまり知らないんだよね、三国志?」 客席で軽く首を傾げる『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)。名前だけは聞いた事があるから有名な話ではあるのだろう、という位の認識だ。 『鉄鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)も大体そんな感じで、有名武将の名前を数人言えるかといった程度。 「まぁ、どうせだし見ておきましょう」 今回討伐するエリューションは、これより上演される京劇の登場人物達が元になっているらしいから、観賞する事で彼等の行動パターン等が読み取れるかも知れない。そして何よりも、この上演を楽しみにしている仲間達もいる事だし。 「そろそろ始まるようだぞ」 照明の落ちた客席に、ヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)は始まりを予感する。 そして――唯一明るき舞台の上で、戦乱の時代が幕を開ける。 荒んだ時代の中にあっても華々しい英傑達の出立、そして戦いぶりは、その無骨ささえ忘れさせる程の、鮮やかさ。 「わー、踊ってるようで、色も鮮やかです」 未だ慣れぬ幻視によって、薄桃の髪で団子を作った『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)が、パンフレットを手に乱世の再現に見入る。握り締めたパンフレットは大事な資料です。 「おっ、いいぞ! 好! やっちまえー!」 本来、好きな武将は魏勢力の守りに秀でた右将軍や、隻眼の勇猛な大将軍だったりするのだが、これはこれで楽しめているらしく、登場人物達の剣戟に『錆天大聖』関 狄龍(BNE002760)も惜しみない声援を送る。 ところで、今回討伐すべきE・フォースは、この劇の主役二人が基となっているのだとか。 ならばその流れ、戦い方、誰が勝つのか、介入すべきタイミング、等々、参考になる部分も少なからずある筈だ。 (……とは言え……) 武術を嗜む身としては、この舞台にも興味がある。二重の理由で、『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は、再現された武将達の演舞に見入っていた。 ●兵団突撃す ――中天に月のまします、青藍の帳の下。 劇も幕を下ろし、人々も己が帰るべき場所へと帰る頃。リベリスタ達は、改めて市民ホール、その劇場を訪れていた。 事前にアークが用意していた合鍵は、吸い込まれるように鍵穴に嵌り、あっさりとその扉を開く。 其処に――矢張り彼等は、いた。 終わりを告げた筈の、歴史の再現。にも拘らず、今度は神秘が化けた英雄の子孫達は、その場で唯一、明るく高き舞台の上で、たった二人だけの戦乱を繰り広げる。 乱れ舞い、ぶつかり合い、その存在を誇示し続ける。 (英傑同士の一騎打ちに横槍を入れるのは無粋とは思いますが……) それがエリューションであるのならば、必ずや、リベリスタのその手で討ち取らなければならない。『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)は決意を胸に、今は両雄の戦いを見守る。 (呂……な武将さんは好きですので、せめてわたしの手で討ち取りたいですっ) それが自分に出来る最大限の敬意の表明ではなかろうかと、思うのだ。 数合、また数合。 打ち合って、火花を散らし、声を張り上げ吠え猛る。 その気魄だけで、押し潰されてしまいそうだ。 (エリューションでも、武将と言うだけの事はある、か……だが) 如何に強力な相手であろうと、此処で討つ。ヒルデガルドは素直に両雄の力量を認めつつも、冷静に機を伺っていた。 その時、呂明が方天画戟を振り上げ跳躍し、上段から関江を打ち据えようとする! 「関江将軍!」 影が、ひとつ。関江の前へと、軽やかに飛来する。呂明の重い一撃を、自らの周囲に纏う無数の黄金の粒で受け止め、弾き返す。風圧に学ランが微かに揺れた。 『猛る熱風』土器 朋彦(BNE002029)が、その身を挺する勢いで、関江を庇ったのだ。 「直接受け止めた訳じゃないのに、こっちにまで痺れが伝わって来るみたいだ……」 重圧による負担のみで体力を大幅に削り取られ、朋彦は思わず苦笑した。ある程度予想はしていたが、まさかこれ程までとは。これが――一騎当千と謳われた将の子孫の、潜在能力! (……そう言えば、劇中でも呂明はこんな感じの上段からの攻撃を繰り出してたわね。で、この後は確か、関江はその攻撃を受けるけど直撃は避けてて、反撃に出てた筈……) 其処まで思い出して、ティセラは俄かにそのペリドットの如き双眸を見開いた。 「あのエリューション二体が“何処まで行っても一騎打ちの間は私達に興味を示さない”なら……朋彦さんが危ない!」 ユーディスもその意味を察し、声を荒げた。 「朋彦さん! 関江から離れて下さい! 急いで!」 だが――その呼び掛けは、僅かに遅かった。 「っ!!」 その時、本来であれば呂明に対する反撃を目的として放たれた筈の、関江の渾身の一撃は、眼前の朋彦の周囲の護りすら呆気無く打ち破り、彼を横薙ぎ、一閃したのだ! 「う……ぐっ!?」 「土器様っ」 不意を喰らってその場に膝を着く朋彦。だが、意志の力は自らを加護する運命を燃やし、再び立ち上がるだけの力を得る。よろめきつつも両雄の攻撃範囲外へと逃れた彼は、まおに連れられ一度後方へ。 矢張り、互いの事しか眼中に無いとは言え、巻き込まれれば相当な痛手を受けてしまう。 「何も馬鹿正直に相手取るのが戦じゃねェ。当たるを幸い、チクチクと削らせて貰おうか!」 狄龍は不敵に笑む。真っ向から当たるのが得策でないなら、それ以外の策を以て戦うのみだ。 それもまた、確かに戦の常。 ●将兵入り乱れる 金属のぶつかり合う音が、今尚響いている。 その間、自身の力を高められる者は、高めておく。ただでさえ強敵と評された相手、加えて先程の圧倒的な攻撃力を見るに、生半可な状態で突撃してもまず勝ち目はあるまい。 焦らず、最善手を常に考え、動いてゆく。 剣戟の止まらぬ最中、徐に狄龍が悲鳴を上げた。 「うわーっ! りょ、りょ、呂h……明だーっ!!」 何やら元ネタの方を言いそうになったようだが言わぬが花としておこう。ともあれ、狄龍はそのまま呂明の繰り出す乱舞に巻き込まれる形で、無惨にも餌食となった――演出をして見せる。 刃を致命傷にならない程度に受け、後方に転がり込むと、体勢を整え背筋を伸ばし、同じ姓を有する関江に向けてその手甲から魔弾を放つ。流星の如く一直線に関江の頭部へと飛来するそれは、直撃は避けられてしまうものの、こめかみ部分で弾け飛んだ。思わぬ一撃に不覚にもよろめく関江。 それでも両雄は、互いの目の前、宿敵との勝負をつけるべく、漢と漢との真剣勝負を止めない。 未だ互いに、疲弊した様子は見えない。それを受けて、まおは従えた影と共に舞い踊り、全身から鈍き光の糸を迸らせ、呂明を襲った。乱れ飛ぶそれは宛ら蜘蛛の糸。けれどそれは救いではなく。 「ッ!?」 呂明の全身に纏わりついて、離さない。 引き千切ろうとする間に、関江が青龍偃月刀を振り被る。そのまま、先程とは逆の立ち回りになる形で、呂明の脳天を打ち砕かんとする。だが其処に、研ぎ澄まされた真空の刃が躍り掛かる。ティセラの放つ風が、関江の左腕を切り裂いた。 しかし、呂明の側にも再び細く寝られた気の一撃が飛んだ。それは、今度はまおからではなく、ヒルデガルドから発せられたもの。矢の如く翔け、呂明の右肩を的確に貫いてゆく。 「そのまま劇のあらすじをなぞって消えてくれれば比較的容易い仕事だったろうが……まぁ致し方あるまい」 それが叶わぬのなら、この手で始末をつけるのみ。リベリスタ達は強敵を前にも怯まない。 両雄の多くを巻き込む攻撃には警戒しながらも、彼等を討つ事を諦めない! 当て所無く激戦を繰り広げる両雄に、リベリスタ達は堅実に、少しずつではあるが、確実に体力を削ってゆく。或いは、ひたすら精神集中し、機を伺う。 まおの気糸が、今度は関江に纏わりつき、ティセラは呂明の瞳を狙い一筋の矢を放つ。 それでも、両雄は、戦いの手を止める事は無い。 (これが、乱世を生きる武将の生き様……ですか) 何か感じる者があったのか、ユーディスが胸中でのみ、呟く。 「私達の攻撃を多く受けているのは関江さんですが、消耗しているのは呂明さんの方のようですっ」 攻撃に巻き込まれない程度に呂明の傍に付き、様子を伺っていたななせが声を張り上げ、戦況を伝えた。流石に事前情報にもあったように、関江は堅い。関江側で同じく戦況を注視していたまおも頷く。 「なんだかまおやリベリスタの皆様が名脇役でいい感じですね」 演出も兼ねて、両雄を猛々しく立ち上る炎で包み込む朋彦、その様子を見てまおが一言。 「ま、何にしても取り敢えず、二人共健在の内に出来るだけ削っておきたいよね。さて、柄じゃないけれど……助太刀しようか?」 やや押され気味の呂明の前に綾兎が飛び出し、一切の雑念をも感じさせない、その雑念ごと破る勢いで、切り刻む。 だが直後―― 「……あ……!?」 呂明の旋回させた刃が、綾兎の背から鮮血を噴出させたのだ! 皮肉にも、正面は避けていたとは言え、二人に余りにも近付きすぎてしまった事で、皮肉にも彼と速度の近い呂明の乱舞から関江を護る盾となってしまったのだ。 「綾兎さんっ!」 一度倒れ込み、それでも身を捻って舞台を転がり逃れた綾兎を、ななせが助け起こす。 「大丈夫、ちょっと痺れるけど……少し油断してただけ。次は、こうはいかないよ」 痛み身体に鞭打って、綾兎は立ち上がる。その気概は両雄のそれにも後れを取らぬ。 彼等は兵。兵は兵でも“つわもの”である。 “つわもの”は、強者に通じる。 ●強者反攻す 「おおおおおおおおおお!!」 「はああああああああああ!!」 吼える。魂の滾るままに闘争する漢達が、吼える。 曝け出した荒ぶる闘争の本能が、爆ぜる。全身全霊の力を籠めて、武器を取り、縦横無尽に暴れ回る。 「そろそろ終わりにしたい所ではあるな」 「そうね……じゃあ、これでどうかしら」 ヒルデガルドの言葉に頷き――ティセラが狙い澄ませた矢、一条。虚空を切り裂き、引き寄せられるように突き刺さったのは、呂明の、漆黒の瞳。 「ぐああああああああああああああああ!!?」 けたたましい絶叫が、閉塞されたホールに木霊し、震える。呂明はそのまま、力任せに矢を引き抜いた。思念体相手に視界を奪えたかどうかは判らないが、ダメージは大きかった。傷口を押さえ、後退る。 「隻眼は別のがいた気がするけど」 「おう、有名なのがいるぜ! 詳しくは後で話すが……」 何やらティセラの呟きを聞いた狄龍が嬉しそうだ、ともあれ、今が呂明を畳み掛ける絶好の好機! 「今ですっ!」 ななせの掛け声に、リベリスタ達が一斉に、動く。 「これで、終わらせます! お覚悟を!」 ユーディスの聖なる渾身の一撃が、呂明の胸を打ったのを皮切りにして、更に、刃が、矢が、弾丸が、気糸が、防壁が、呂明へと殺到する。呂明は持ち前の素早さで身を翻し、流れるような動きで回避を試みるも、流石に全て躱し続けられる程ではなく。 「ごめんなさいっ!」 最期には、ななせが万感の思いを籠めて、その鋼の一撃で、呂明の鎧ごと、その身体を完全に穿ったのであった。 「来ましたね」 まおの言葉を肯定するが如く、関江がリベリスタ達を顧みる。 「しかし無傷で済んではいまい。一気に討ち取ろうぞ」 ヒルデガルドが改めて、携える刃を関江に向ける。残るリベリスタ達も、それに倣った。 負傷状態にあっても、偽りの具現であっても、関江の気魄は恐ろしい。其処に一切の揺るぎが無いのだ。呂明に向けていた凄まじい殺気が、未だ薄れず迸っているのだ! ――それでも。 「関江様に恥ずかしくないようにがんばります」 踊るように戦う、敵ながら見事と言えよう相手に、敬意を表して。 まお等リベリスタが退く事は、矢張り無いのだ。 「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 裂帛の気合が、世界を震撼させる。 魂の炎を纏った偃月の舞踏は、一見闇雲でありながら、一部の隙も無い構えと連撃の嵐で、リベリスタ達を襲い、その身に刻み付けては、燃え上がらせる。 痛みに耐え、尚、前へと踏み出すリベリスタ達に浴びせ掛けられる、無双の連打。これが、乱世の英雄の子孫を模した思念の強さ。 だが、それでこそリベリスタとしての、武人としての腕が鳴るというもの! 「壮揚兵馬! 満州馬賊のワザマエ、見せてやるぜ!」 狄龍の断罪の魔弾が、刃向った罪を裁くべく、関江の胸を深く深く抉り取った。呪いを纏った一撃は武神の血をも昏き澱みで鈍く蝕む。 「いい演舞でしたよ、関江将軍」 朋彦も名残惜しげに、黄金の防壁による全力の打ち込みで殴り砕く。 ――そして。 「全力を以って、打倒します!」 ありったけの力を。持てるだけの全ての力を。ただ純粋に目の前の漢を打ち砕くだけの、力を。 余す事無く、叩きつける! その力で以て――ユーディスは、関江を、討ち取った。 ●名刀無に帰す 「まだ、お仕事残ってますね」 まおが顧みたその先には、地に落ちた両雄の武器。 「反撃されるのも面倒だし一斉攻撃で一撃でやりましょう」 「そうだね。じゃあさっさと終わらせてしまおうか」 向き直るティセラと綾兎。そして、全員が己が武器を向けた。 「破壊せねばならないなら……やりましょう」 ユーディスの言葉に異を唱える者はいない。 綾兎が、ななせが、朋彦が、狄龍が、まおが、ユーディスが、ヒルデガルドが、ティセラが、せめてもの餞にと、出せる全力を出し尽くし、名刀になりたかったのであろうE・ゴーレム達に向かう。 反撃で綾兎とティセラがその身に傷を受けたが、討ち取る事は愚か体勢を崩させるまでにすら至らない。 リベリスタ達の尽力で、最後の刃が、折られた。 ――静まり返ったホールの中、それぞれに物思う。 両雄に、彼等の生まれた背景に、思いを馳せる。 「劇には歴史があるように、まおの服もこんな歴史から生まれたのかなって思いました」 全てのものには須らく歴史がある。パンフレットに目を落としながら、まおは帰ったら図書館で色々、自らを取り巻くものの歴史を調べてみるのも良いかも知れないと、考える。 「さて、筝子さんへの土産話は京劇と実体化した『本物』と……どちらが良いでしょうね?」 「あ、そうですね、折角ですからどっちも! エリューションのお二人もですけど、京劇かっこよかったです!」 今度は筝子も一緒に行かないかと、誘ってみよう。楽しい計画に胸を躍らせるななせに、綾兎も思わず、微かに表情を綻ばせた。 「じゃあ、取り敢えず帰ろうか。彼女も報告待ってるだろうしね」 今は何も残らないその舞台を、リベリスタ達は静かに降りた。 帰路、その道すがら、ユーディスはふと考えた。 (武器が反撃以外の攻撃をしてこない理由。結局本当の所は判りませんでしたが、もしかして“主の武器”であってこそ、自分に存在価値があると思っていたんでしょうか) 優れた名刀でも、扱う者の腕次第で活殺自在。あの武器はそれぞれに、自らの主を、その武器として最高の戦いが出来る事を、信じていたのではなかろうか。 今となっては真実はこの夜の闇の中であるが、ユーディスにはそんな気がしてならなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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