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頼れる! 僕らのマンボウ兄貴

●じっと、見つめる
 若い漁師達は困っていた。
 水揚げされた網の中に、予定外の魚が紛れ込むことはよくあった。だが、甲板の上に投げ出されたその魚は苦しげに口をぱくぱくとさせながら、つぶらな瞳でじっと見つめてきていたのだ。
 腹を触ってやるとむにっとして手形が付く。――正直少し気持ち悪い。
「お、お前何とかしてやれよ……」
「海に投げ返すにもデカすぎるしよ……お、俺を見るなよ!」
 そう、その魚はひれも合わせて2mを超えていた。そして瞬きまでする魚。
 マンボウだった。
「………」
「………」
「………あ」
 気が付けばマンボウは絶命していた。つぶらな瞳がみるみる濁っていく。
 見殺しにしたような罪悪感を感じながらも、どこかほっとする漁師達。
 誰もが無言でマンボウの死体を片付けようとした、その時。がばぁ! と、マンボウが立ち上がった。
 もう一度言う、マンボウが立ったのだ。尻びれを甲板に、堂々と立っている。
 ぽかんとする漁師達。
 そしてマンボウは―――迫ってきた。物凄い威圧感で迫ってきた。
「うわ、ちょ、逃げええええええ!?」

●人類代……表?
 召集されたリベリスタ達はまず何を如何言おうか三分くらいは迷ったという。
 駆け付けた部屋に映し出されていたのは、3m以上の縦に長い何か。左右につぶらな瞳が見える。OK、生き物らしい。その真ん中におちょぼ口が見える。よし、生き物だ。
 だがしかし、珍妙過ぎるその姿。
「マンボウ。倒してきて」
 以上、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の説明終了。
「いやいやいやいや!?」
 余りにあんまりな対応にリベリスタ達が総突っ込みを入れると、イヴは何とも微妙な雰囲気で話し始めた。
 どうやらうっかり網で引き揚げられたマンボウが、うっかりエリューションとなってしまった。
 さらにマンボウはエリューション化したスルメイカとダツ、ハリセンボン、挙句マグロを引きつれているという。
 犠牲者は今の所ゼロ。漁師を襲ったものの、うっかり逃げられたらしい。
「そして、ここ。漁師達を追いかけて船着き場――じゃなくて、そこから150mくらい離れた誰も居ない海岸に上陸する。ほっとくと漁師や近隣の住民を食べてしまう」
 ちょっと待て。それなら直接船着き場に行くもんじゃないのかと誰かが問う。
「うっかりしたんじゃないの。それか、潮に流された」
 大丈夫かそのエリューション。
 それから、と、イヴはもう一点注意を呼びかけた。心落ち着けて聞くこと、と前置きして。
「エリューション化した彼らは肺呼吸可能。スルメイカは足で立ってるし、ハリセンボンは膨れたまま、ダツは短いひれで懸命に立ってる。マグロは――あ、ホンマグロはホンマグロだけど幼魚。数百万しないから安心して」
「食っ……!」
「アンデッドの隣に居ても? マンボウって寄生虫も多い。……こほん。続ける。そのマグロは尾びれで立って前ひれは腕組みしてる気がするし、マンボウに至っては飛行能力をもって浮いてる。そんな状況」
 頭を抱えるリベリスタ達。
 ファンタジーやメルヘンの世界はあったんだよ。
 そんなリベリスタ達に、イヴはばっと片手を掲げた。
「さあ、行って。みんな。これは私達とエリューション……そして、人類と魚類の果てなき戦いでもある」

 行ざ往かんベリスタ達。―――イヴの口調は淡々としていたが、タイミング良くモニターに映し出された波が音を響かせた。
 ざっぱーん。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:琉木  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年04月01日(日)23:33
 はい。お魚天国です。半分以上ノリです遊びです。でもそれなりに強いです。
 ボディプレスなんかは涙がちょちょ切れます。

●場所&時間
 人通りの少ない夕暮れの浜辺。上陸した所でうっかり青春している所に遭遇できます。
 まだ海水温度はとても冷たいです。

●エリューション
「ギョッ」とか「うおッ」とか「ぼう」とか言うかもしれません。
・時々ドジっ子頼れる僕らのマンボウ兄貴(E・アンデッド)
 背びれを含めると3mを少し超えます。ブロックは一人じゃきついでしょう。
 リーダー格でそれなりに耐久力があり、それなりに強いです。お魚達の士気にも影響します。
 飛行持ちで少し浮いてます。死ぬと目を閉じます。
 腹は柔らかいですが、他は固いです。でも腹が弱点という訳でもありません。普通です。
 ぼよんと跳ねて味全神HP回復・BS回復20、死んだ魚の目で見つめて遠単神・弱体、びたーんと倒れて物近範・反動30なんかをしてきます。
 特殊能力『今こそ奮起せよ』があり、3ターンに一度海の仲間を従えます。具体的に言えばわさわさとカニに群がられたり、海の中のナマコから水をかけられたりします。各々の嫌がらせ(?)は一度だけです。
 振り払われたり、気がすんだら離れます。

以下愉快なE・ビースト達
・将来は立派になるんだ。夢を見るマグロ君(幼魚「ヨコワ」)体長1m弱。お友達軍団の中ではちょっと強いです。尾びれで立ってます。身体をぶんまわしたり、ボディプレスしてきます。
・兄貴が来いって言ったから・スルメイカ・体長40cm
 スミを吐いて隙を与えてきたり、足を伸ばして遠くの人も叩きます。
・最近スルメイカさんがマンボウ兄貴に近づきすぎてるのを怒ってるんじゃないんだからね! ハリセンボンさん・35cm四方
 近い人へも遠い人へも毒針を飛ばします。
・いつかリュウグウノツガイになりたいひょろ長ダツ氏・体長1m30cm
 突き刺してきます。出血します。痛いです。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
マグメイガス
土器 朋彦(BNE002029)
ソードミラージュ
安西 郷(BNE002360)
ホーリーメイガス
弩島 太郎(BNE003470)
ダークナイト
赤翅 明(BNE003483)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)

●嗚呼、果てし無き
 寄せては返す波が規則正しく音を立てていた。輝く夕日が美しい。
 海から陸に上がり、初めて見た太陽は美しく、彼らは思いを新たに佇んでいた。
「ぼう……」
 巨大な影が呟いた。
「ギョッ」
 小さな影が応えた。
 そう、そこに居たのは――魚達。死んだ魚の目で地平を見続けるマンボウに、ずらりと並ぶダツ、ヨコワ、スルメイカ、ハリセンボン。
「……どうあがいて見てもマンボウですね……」
『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(ID:BNE000609)は両目とも視力2.0を超える瞳が映し出す現実に早くも負けそうになっていた。
「ああ……面白魚介類の揃い踏みだな」
 ホワイトスーツに身を包み、棒つきキャンディーを咥える『糾える縄』禍原 福松(ID:BNE003517)はしみじみと頷く。「だが」と息を吐けば、口端を上げて。
「兄貴分の為にわざわざ駆けつけるとは中々に男気のある魚介類達じゃないか。こちらも全力を以って相手しよう」
 秘める思いは違えども、サングラスを崩さず『求道者』弩島 太郎(ID:BNE003470)も魚達を、そして海を見遣っていた。その隣で『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(ID:BNE000062)は早くもすちゃっとヘビーボウガンを取出し、構えてみせる。
「あまり悠長に構えていられないのが残念だ。マンボウは鮮度が大事らしいし、早いところ倒して捌いてしまおう」
「なぁに、焼けば喰える! ヨコワは炙り、スルメイカは焼き、ハリセンボンはロースト。ダツは浜辺焼きだ!」
 カッと意気込みと共に目すら光って見える『猛る熱風』土器 朋彦(ID:BNE002029)の言葉に、『三つ目のピクシー』赤翅 明(ID:BNE003483)はきらきらと瞳を輝かせた。そして息を吸い込む。
「さっすが火加減番長! それじゃ早速、ギョ――――ッ!!」
「ぼう!」「ギョッ!?」
 その声に振り向く魚達――もとい、お魚軍団。
 マンボウが巨大すぎて、隣に立っていたハリセンボンとスルメイカがびしびしっと飛ばされたが、すぐに隊列は元通りになる。
「人類代表、赤翅明! 食べられないお魚さんを増やさない為にも、戦いを挑ーむ!」
 くわわッと叫ぶ明以下計八人のリベリスタ達。
 凛々しくエリューションとなった魚達に挑むその手には、携帯コンロ。投擲網。鍋。クーラーボックス。等々エトセトラ。
「ぼおおおおおうッ!」
 どこからどう見ても食べる気満々のオーラにマンボウが叫ぶ。ダツ達も呼応する彼らの言葉を意訳してみるとこんな所だろう。
『見よ、食べる気満々の人類を! 今こそ! 我々魚類は立ち上がらねばならない!』
『そうだそうだ!』
『魚類の恐ろしさ、今こそ見せてくれるッ』

 そう思っておこう。
 かくして人類対魚類、はたまたリベリスタ対エリューション、果ては喰う者と喰われる者の果てなき闘いが今幕を開けたのであった。

●魚だって負けてられない!
 リベリスタ達はざざんと砂浜に降り立ち、走り出す。
 ぬりかべにも似た巨大なマンボウへ真っ先に殴りかかったのは『まごころ暴走便』安西 郷(ID:BNE002360)。
「なんだこの絵面は! マンボウが…いや、マンボウだけじゃない、それ以外の魚も立っている! どういうことなんだ、どうしてこうなったんだ!」
 現実を受け入れたくない叫びが木霊する。
「っ……!」
 その声を聞き、尾びれで立ち塞がるヨコワの前に立った彩花の動きが鈍った。
 自分はそれなりの財閥の令嬢だった筈。それがこんな愉快な仲間達に混ざるなんて。嗚呼。
「彩花くーん! 前だ、前!」
「え、あ、きゃあっ!?」
 朋彦の声に気が付けば、ヨコワがマグロを目指す体躯でばたんと倒れてきた。中々のボディプレスに――というよりも、魚に押し倒された現実に更に絶望したくなる彩花。「わたくしは断じて面白枠では……」と小さくぶつぶつと聞こえるが、聞かないであげるのも良心だろう。
「ふう……そこのマンボウさん」
 一拍置いて静かに語りかけたのは同じマンボウ……の、姿を模した剣を持つ雪白 桐(ID:BNE000185)。
「私の武器と同じ相手とは何かの縁でしょう。思いっきりぶん殴らせてもらいます」
「ぼッ」
 マンボウ、受けて立つと言わんばかりに死んだ魚の目をキリっとさせた。流石僕らの兄貴。負けてない。
 既にファンタジーな世界が広がる中、太郎は冷静に体内の魔力を循環させていた。
(振り返ってみれば、今まで海というものに特段惹かれたことは無かったからな……)
 故に、マンボウと戦おうとこの場に居た。果たしてこのメルヘンな魚介類戦は太郎に意味を与えられるのか、聊か不安になる先行きではあった。
 が、中には食欲を出さず真面目に対峙している者も居る。
「とりゃッ」
 掛け声一つ。トゲを全開に膨れているハリセンボンを拳一つで殴りつける福松の姿。しかしその拳にはストールが巻いてある。矢張りハリセンボンを拳で殴るには覚悟が居るようだ。
「………ふ、」
 そして小さな笑み。
「この程度痛くは無い。だが少々効率が悪いのでコイツを使わせて貰う」
 矢張り痛かったらしい。やせ我慢のニヒルさが哀愁を誘う。
「ギョ―――!!」
 と、そのハリセンボンもろとも突如召還された炎が魚達を呑みこんだ。火加減番長こと朋彦の魔炎である。
「よっし! 良い焼き加減! ダツも暴れると危ないか痛い!!」
「ギョ!」
「とっても痛いよ!?」
 思わずガッツポーズをしかける朋彦に、ダツがその鋭く長い口先を突き刺した。実際に殺人ウツボとも呼ばれるダツが更にエリューションとなったその威力。びちびちと跳ねるダツを引き抜くもものの見事に血が流れ出ている。その一瞬、ダツはしてやったりと顔を歪めた――気がした。
「朋彦」
 後方に控え、全体の一状況把握に努め、移動する杏樹が声かける。しかしそれは心配するものでは無く、
「身は焦がさないようにな。あとで鍋に入れるから」
 だった。勿論、朋彦の頭も本日のレシピで一杯である。血をだらだらと流しながらも良い笑顔でぐっとサムズアップで返す。その姿に頼もしさを感じざるを得ないのが、明。
 こんがり焼けた魚を想像してか、ぺろりと唇を舐めるとスルメイカの前に相対する。
「君の兄貴おいしそうじゃん! あの濁った眼がまたラヴリーなんだよね!」
 勿論これは挑発である。明はマンボウを食べる気は無い。が、その言葉はてきめんの効果を発揮する。我らが兄貴を食すという言葉にスルメイカはカッとなって明に墨を吐きつけた。
「ぼ、ぼう……!」
『何て健気な仲間達なんだ……!』
 と、マンボウが言ったかは意訳に過ぎないが、宙に浮くマンボウが目の前に立ちはだかる郷、桐へと迫った。その存在感は中々のものである。
 恐怖心なのか、畏怖なのか言葉に出来ない感情を郷は持て余し、構え――
「くっ、来るどわああああ!?」
「潰されま―――くぅっ!!」
 びたーん。
 郷、桐、両名ともマンボウの巨体に押し潰された。
 愛剣『まんぼう君』で押し返そうとした桐だったが、天然物のマンボウも負けてはいない。ある時はウィンチェスターライフルを弾き返し、ある時は銛をも跳ね返したという数々の伝説を持つマンボウの皮膚は伊達では無く、嗚呼無常、剣もろとも下敷きになる桐。そして涙目になる郷。
「く、ま、負けません。負けませんよ……私の武器の原型のエリューションとかいて欲しくないですしね」
 マンボウの下から這い出た桐は屈辱と嫉妬をあらわにゴっと闘志の炎を燃やしたのだった。
 兄貴――まだ立ち上がれずびちびちしているマンボウに向かって。

●あ、兄貴ィ―――!!
「水棲生物には電撃がお約束ですよね? というか……」
 襲い来るヨコワ、周囲のお魚軍団も纏めて電撃を浴びせる彩花はちらりと郷を見る。一心不乱にマンボウに拳を叩きつけるその姿は、何かを振り切るようであった。気になる。気にはなるが、彼も彼で認めたくない現実と闘っているようで声がかけ辛い。
(そっとしておきましょう。わたくしだって辛いのですから)
 現実と向き合えない二人。郷はひたすらに「昔展示してあったマンボウは生きていたのか!?」やら、「横倒しになっていたんだ……」やら、過去のトラウマらしき事を叫んでいた。
 気合のような掛け声と共に受けた傷を癒す太郎の視線はどこか生暖かくて優しい――いや、あまり変わらない。太郎はこのメルヘン世界の中、唯一変わらぬ平常を保っていた。ある意味とても強い男に見えた。
 しかしお魚軍団も負けてはいない。
 ある者は炙られ、ある者は撃ち抜かれながらも、澱んだ瞳のマンボウ兄貴がぽよんと跳ねればその傷はみるみる塞がっていく。
 その癒え具合を見て、杏樹は魔弾を穿つ相手をマンボウに変えた。
「さすが兄貴だな。伊達じゃないか。うっかりらしいけど」
 言いながらちらりと辺りを見遣る。その視線に気付いて、朋彦、明、福松もさりげなく無言で頷き合った。どこかそわそわとしているようにも見える彼らの手には、武器から投げ網へと装備が変更されている。
(そろそろだよね?)
(そろそろだよね!)
 待ち望んだその心の声に応えるように、マンボウが不意にきっと空を仰いだ。
 そして、鬨の声を上げる。
『さあ、仲間達よ、今こそ奮起せよ――!』
 わさ。
 わさわさわさ。
 音を立てて砂浜から蟹達が一斉に姿を現した。踏みつぶされそうな小さな姿ながら、健気に鋏を振り回している。
 マンボウの声に応え、人類に反旗を翻すと呼応した海の仲間達である。蟹達はリベリスタ達にむらがり、その行動を阻害する。殴る拳を、その銃口を塞ぎ、戦い抜く海の戦士達の礎となる――筈だった。
「来たァ―――!!」
 ……だったのだが、その奮起にかけられたのは待ってましたと言わんばかりの歓喜の声。
「ぼ、ぼうッ!?」
 マンボウの目の前で繰り広げられたのは、嗚呼無常。立ち上がった蟹達が漁師御用達の漁業網にかかっていく姿であった。目の前に対峙していたダツやスルメイカにすら背を向けて嬉々として網を投げ出すリベリスタ達の姿は少なからずお魚軍団に動揺を走らせる。同時に、多大なる恐怖感すらも。
『な、なんという……! そこまで我らを食べ物としか見ないのかッ!』
 と、マンボウが言ったかは矢張り意訳だが、攻撃の手を加える桐の剣『まんぼう君』はその隙を見逃さず、華麗に叩き込まれた。思わずのけぞるマンボウ兄貴。
 ぶるぶると震えるマンボウに、ハリセンボウが心配そうに駆け寄っていく。もとい、転がっていく。
『兄貴、しっかり! くっ、……なんて酷い、人類! えげつない!』
 涙を針に変え、ハリセンボンはぷくっと膨れて網を投げる福松の背に突き刺していく。その痛みに我に返った福松だったが、現れた小蟹の多くは既に網の中に捕らわれていた。蟹達の悲鳴に更に目を澱ませるマンボウ兄貴。
 最早どちらが悪役なのか解らない。流石リベリスタ達である。いや、これも仁義なき戦いなのだ。リベリスタ達は世界の秩序を守る存在であり、エリューションは倒すべき存在。彼らに加担する者へ情けをかけてもいられないのは哀しい事実なのである。
「はい、クーラボックス! 鮮度が命だからね!」
 捕まえられた蟹達はぽぽいと明の持参したクーラーボックスに閉じ込められた。
 精神的に追い詰められるお魚軍団。それでも、それでもマンボウ兄貴なら――魚達は兄貴を仰ぐ。巨大な存在感を持つ兄貴はそれでも諦めなかった。
「ぼ――――う!」
 悲しみを力に変え、おちょぼ口で叫ぶ。恐怖に怯えた郷が回し蹴りの要領でソニックキックをかましたが、それに踏み留まって再び仲間たちの傷を癒していった。それを受けてきっと再び相見えるお魚軍団。
 だが、戦いの終わりは近い。
 ただ一つ。人類の大きな『食欲』を前にして、精神的に押された魚達。
 彼らが葬られる――もとい、食材に変わってしまうのも、そう時間は掛からなかった。

●食。それがリベリスタ・ジャスティス
 ごくりと、誰ともなく唾を飲み込む音を立てる。
 それは御馳走を前にした堪らないものでは無く、未知に挑戦する時の覚悟の音。
 巨大なマンボウの遺骸は海に帰そうとしていた明だったが、食欲に支配されたリベリスタ達によりそっと押し留められた。
 浜辺では既に様々な魚料理が出来上がり始めている。
 マンボウの心意気に打たれ、新たに奮起をした海の仲間達もまた食材となり果てていた。
 まるで闇鍋を前にした緊張が流れる中、きちんと加熱調理を行った桐が息を吸って静かに問いかけた。
「さて……マンボウを食べる方は?」
 マンボウは確かに食用にもなる。だが、痛みやすい魚である。
 加えてこのマンボウはエリューションであり、更に言うならばアンデッドであった。既に死後時間が経ったそれを食するというのは無謀と言える。
 そこに堂々と挙げられた手が二つ。朋彦と杏樹であった。
「焼けば何とかなる!」
「ああ、食用にしてる場所もあるみたいだし、マンボウが食えるのは間違いない」
 まるで自分に自己暗示をかけ、思考を停止したような朋彦に、持てる知識を信じ強気に頷く杏樹。
 並べられたマンボウの身は透き通って白い。
 空いりし、水気を飛ばされ締った身は確かに他のリベリスタ達も少し惹かれる程であった。そしてマンボウ食を軽く調べていた杏樹の言葉により、肝を添えた天ぷらとなったマンボウ兄貴の身。
「………」
「………」
「………」
「よし、いただきますッ!」
 たっぷりの時間をもって覚悟を完了し、両名がぱくっと口に入れた。
 淡白な味が油に絡み、つまみとして十分通用する美味みが広がる。肝から出た脂のとろりとする甘さがなんとも言えず、絡み合う。それは今まで食べた事のない新世界の幕開けにすら感じられる。
 あまりの衝撃にほうと息を吐き――
「ご、ごはぁ!?」
「うぐっ!!?」
「番長! 杏樹さあああああん!?」
 二人と、残りのリベリスタ達の絶叫が木霊した。鮮度が落ちていたのか、それともエリューションだからか、思い当たる節はありすぎる。余りにも早く腹を直撃し、悶え苦しむ朋彦と杏樹。
 思わずマンボウに対するトラウマが倍加していきそうで身を竦ませる郷の横、「ふんッ」と掛け声一つ太郎が柔らかな風を生み出し二人を包み込む。だが、効果が薄い。それ程までに腹に直接与えたダメージは大きく、腹を内蔵ごと抉られたような痛みに悶絶し―――二人は動かなくなった。
「……やはり、だめですね」
 調理を行った桐は、更に残ったマンボウの身、そして余りに巨体過ぎてほぼ原形を留めて残っているマンボウの身体を海へと引きずり始めた。魚は海へ、還してやろうと言うつもりらしい。
 それに明も同行する。
 もしかしたらマンボウはただ、海に還りたかっただけではないか。願いから遠ざかった悲劇のマンボウ。そうとも思っていた明は、潮の夢に還すべく小さく手を合わせた。
「……新鮮な内に、会いたかったよ」
 その呟きは、波の音に消える。その後ろには死屍累々――ぴくりとも動けない朋彦と杏樹は生死の境を彷徨っていた。明はついでにその勇者達へも黙祷する。
「残りは……大丈夫ですよね。食べてしまいましょう。あまり痕跡を残したくありませんし……」
 郷が用意したバーベキューセットの上でじゅうじゅうと焼かれている残りのエリューション達と、呼び出された海の仲間達へ、彩花はそっと手を合わせる。それは黙祷ともいただきますとも取れた。
「それは、食べられるのか?」
 福松が問う。明らかに肥大化したハリセンボンやダツ、スルメイカにヨコワ。福松はそれらには決して手は出さない。確実に安全だろう、炙られた小さな蟹を口にしていた。普通に美味しくて箸が進む。
「いや……なんか微妙ですね」
 桐がもくもくと元・エリューション達を口にしながら答える。
 ただ、食べられるだけ、お腹を壊さないだけマシなのかもしれない。近くで屍を晒している朋彦と杏樹を見て瞳を伏した。

 ざざあ、ざざあと波の音と共に聞こえてくる、そんな食欲旺盛なリベリスタ達の声。潮の香りに混ざる、新鮮な炙り焼きの匂い。
 それらを背に受けながら、太郎は一人佇んでいた。
 普段農作物の世話ばかりをする太郎にとって、馴染みの無かった海の光景。音。山の中とは違うどこまでも広がっていく海を眺め、海を感じる。
 その太郎の隣に朋彦がスルメイカを頬張りながら並んだ。この世界における生存権まで酷使して腹痛から立ち直り、尚魚介類を食べ進める姿はある意味驚嘆に値する。因みに杏樹は――倒れたままだ。
「しかし、エリューション化は海の中にも広がっているかー……」
 そんな事を何でもないようにしみじみ呟く朋彦につられるように、太郎も広がる海を見た。地平線の果てまで続く母なる海。
「鬼の城もある以上、竜宮城があってもおかしい話もないし、いつか他の親分エリューションにもめぐりあう日もあるかもね……」
 朋彦の言葉に太郎はゆっくりと頷くのであった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
遅くなりました。申し訳ありません。
リベリスタの皆さんの食欲を甘く見ていました。なんて恐ろしい(※褒め言葉)
とても熱いプレイングを有難う御座いました。
お疲れ様でした。マンボウ、涙目。