●絶望の牢獄 「しっかり目に焼き付けておかないとね。きっとこれが最後になるんだから」 今は夜の帳を下ろさない、明るいその空間で、草薙宮は感慨深げに溜息を吐いた。 ここは、かつて彼女の祖父が運営していたプラネタリウムだ。先月、祖父が亡くなり閉館した事で、土地は売りに出される事になり、明日、この建物の取り壊しが行われる。 その為、宮はその最期の姿を自らの記憶に焼き付けるべく、此処に忍び込んだのであった。 「……じいちゃん」 祖父と、祖父の運営するこのプラネタリウムが好きだった。けれどもう、この場所で満天の星空が見られる事は無い。それを思うと、じんわりと目頭が熱くなった。 いけないと彼女はかぶりを振り、目元を拭った。自分がこんな状態では、可愛がってくれた祖父が安心して眠っていられないかも知れない。 「じいちゃん、私忘れないから。此処の星空は私の中にずっと」 ――突如、夜が訪れた。 「……え。え?」 突然の出来事に、呆然と辺りを見回す宮。見れば、朧気にではあったが、この室内に今、再び、夜の星空が再現されていたのだ! 「ど、どういう事?」 更に室内をぐるりと見渡す。すると、彼女はあるものをその目に留めた。 コンパクトな、一級式のスターボール。それが、室内に二つ残されていたのだ。 「撤去するの忘れたのかなー。これ、父さんたちに言っておいた方が良いかな。忍び込んだのはきっとばれちゃうけど、この際仕方無いもんね」 がちゃり。 出入り口のドアに手を掛けるも、開かない。まるで施錠されてしまったかのように。 「え、嘘っ!? これちょっと拙くないか!?」 最早完全に背に腹は代えられなくなり、携帯電話で親に連絡を入れようとするも。 「圏外!?」 以前訪れた時はそんな事は無かったというのに、一体どうしてしまったのだろうか。 このままでは明日の取り壊しまで発見して貰えない事になる。下手をしたら発見すらされず、取り壊し工事に巻き込まれて死んでしまう。 慌てふためいている内に――信じられない事が起きた。 ――空が堕ちてくる。 虚空を仰いで彼女が見たものは、熱と重圧を伴って堕ちてくる夜空。 その巨大な存在に、ちっぽけな少女が抗える筈も無く。 明日を待たずに、その命の灯は掻き消えた。 ●空堕ちる日 「見つけ出すから、どんなに寒風に曝されても、灯る君のglow heart」 その『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の言葉に、リベリスタ達は双眸を見開いた。 この男の第一声が大抵は殆どのリベリスタ達の理解に苦しむ所である事は周知の事実であるが、流石に今の言葉で彼が何を表そうとしているのか判らない者はいなかった。 つまり、誰かの命が風前の灯であるという事。 「……違う。何かが足りないな」 納得のいく表現は後でゆっくり考えてくれと、伸暁に説明を急かすリベリスタ達。 「そう生き急ぐなよ。クールに行こうぜ、Haste makes waste、良く言うだろ?」 急いては事をし損じる、と言いたいらしい。 「現場は元民営のプラネタリウム。其処で草薙宮って女子高生がトラブルに見舞われる。勿論一般人で神秘の事は何も知らない。そんな彼女が見舞われちまうトラブルってのは、エリューション絡みでもありアーティファクト絡みでもある」 アーティファクト・識別名“アストライアの双眸”。 プラネタリウム内にある二つのスターボールが覚醒したもので、妙な障壁に守られていて破壊出来ない。加えて共に厄介な性質を備えている。 一つ。プラネタリウム室内に鍵を掛ける。戦闘中は一切の出入りが不可能になるのである。更に、室内では効果が複数に及ぶスキルは全て無効化されてしまう。 一つ。光のE・エレメントを無尽蔵に生み出す。一個体は大した強さではないが数の暴力。とは言え一定数撃破する事が出来れば先のもう一つのスターボールと共に自爆し、E・エレメントごと消滅する。 つまり、単体攻撃のみで迅速に一定数以上のE・エレメントを撃破しなければ、脱出出来ないのだ。 「しかも二つ揃ってる事で、もっとややこしいシチュエーションになっててな」 何と、二分以内にそれが達成出来なかった場合、E・エレメントが全てフェーズ進行し、極端に肥大化し、アーティファクト含めた空間内の全てを押し潰すと言うのだ! 「だから結果的には放っといてもアーティファクトは壊れる。アーティファクトが壊れた瞬間にE・エレメントも消滅するからそれでジ・エンド。お前達もフェイトがあるし、傷だらけになっても生還は出来るだろう。但し、問題は草薙宮。一般人の彼女は、そうなったら絶対に救えない」 彼女に神秘に対抗する術は無い。つまり彼女の生還条件は、リベリスタ側の勝利あるのみという事だ。 「何、アークは幾つもの奇跡を起こしてきたんだ、上手く行くさ。俺のsishful thinking、現実にしてくれよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月14日(水)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●00:00:00 「愛で墜ちてくる訳ではないんですね? ……いえ、こっちの話です。それは兎も角、光ってどんな斬り心地なんでしょうねー。ちょっと楽しみ。さて」 仮面の下に掴み所の無い笑みを微かに浮かべ、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は、プラネタリウムのドアを背に、今回共に任務を熟す仲間達を振り返る。既に皆、突入前の準備は万端だ。 ある者は限界を超えた力の発動により身体能力を飛躍的に向上させ、またある者は仇為す全てのものから味方を護る守護の結界を展開する。ある者はひたすら精神統一を図る事でその動体視力を研ぎ澄ませ、またある者はその脳内で並行計算式を驚異的なまでの処理能力で組み立てる。そしてある者は内に秘められし魔力をその身に循環させ神秘の力を高めた。 「ふふ、それじゃあ、自ら審判に来た堪え性の無い乙女様にお仕置きと行きましょうか」 珍粘に妖しいまでの微笑みを返し、『Bloody Pain』日無瀬 刻(BNE003435)は、躊躇う事無く目の前のドアにその白い手を掛けた。 ●00:00:01 「……え、あ……え? ど、どうして人が!? わああごめんなさいごめんなさい、すぐに出て行きます、悪気は無かったんですホント済みませんッ!!」 突然開かれたドアに、中に独り佇んでいた茶髪の少女が驚愕の表情を向け、やがて視界にリベリスタ達の姿が映ると、混乱したように慌てふためき始める。彼女が草薙宮その人であろう。 同時に、不意に照明が落ちたかのように辺りは闇に包まれる。ドアもまた独りでに閉まり、ぴたりと一部の隙間も無く固まった。そして――奴等が姿を見せた。 星、星、星、星星星星星星。見渡す限りの、星。しかしリベリスタ達は知っていた。それが此処がプラネタリウムであるという事を抜きにしても、その投影ですらない、偽りの星でしかないのだと。 リベリスタ達は、その時には既に動いていた。 狙い澄まして、『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)が偽の星の一つ、リベリスタ達から尤も近い星を、その霞さえ穿つ思いを籠めて銘打たれた運命蜃気楼で、射抜いた。 だが、次の瞬間に京子の胸を貫く、白の閃光。 焼けるような熱を伴う痛覚に、京子は思わず体勢を崩した。 「京子さん!」 咄嗟に『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)がその手を振り翳し、癒しの微風を戦がせる。 「お手間掛けてごめんなさい、でも、大丈夫!」 急ぎ体勢を整え、凛子に明るい笑顔を向ける京子。リベリスタ達は戦意を失わない。寧ろ、この程度で失われる戦意しか持ち合わせていないと言うのなら、リベリスタの名が廃るというもの! 「草薙さん、すぐに終わらせますから、星でも見てて下さいねー」 珍粘はあくまで穏やかに、宮に告げると、惑わすような動きで、京子を狙った星へと斬りかかった。反撃の閃光は珍粘をも貫かんとするが、珍粘は持ち前の素早さを以て、ひらりと躱して見せる。 「思い出のプラネタリウムか、こっち来る前を思い出すな……取り壊されるのが決定してるが、その前に破壊させてたまるかよ」 タイミングを合わせて、『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)が一息に天を翔け、上空からの鋭い剣戟をトドメとして見舞うと、星を模した偽りの光は刹那の内に飛散して、消えた。 「え……っと、貴方達は!?」 仕方の無い事だが、未だ状況が呑み込めていない宮。彼女の問いに、京子が逆に問いを返す。 「宮さん、星は好き?」 「……え……?」 「私は時々見上げるようになったよ」 大切な人の姿が、笑顔が、其処に見えるかも知れないから。 それでも。 「今日はね、宮さんを助けるために星と戦わなくちゃいけないんだ。だから落ち着いて、隠れてて欲しいの」 それが大切な人との約束。だから、笑って、振り返る。 「大丈夫、絶対に助けるから。私達の後ろに隠れてて?」 ●00:16:72 「申し訳ありませんが、事情は後程お話します。今は座席の影に避難を」 凛子に促され、宮はこくこくと頷くと、すぐさまその身を引っ込めた。 そんな彼女を一瞥してから、痛みから生ずる呪いを星々に刻み付けながら、刻は偽りの空を仰ぐ。 星ばかりが其処に在る。しかしそれはあくまで偽りの星だ。故に、奴等に真の星と同じたらんとし、同じ姿を見せようとする甲斐性等は存在しないのだ。 アーティファクトにその名を冠された乙女座は愚か、星座と呼べるような集まり等、一つも無い。 「所詮は偽りの星空、ね」 偽りの星空に、星乙女――アストライアの姿は無い。それを悟った刻は興味を失ったかのように、まるで無感動に、偽りの星の一つに更に呪いの刻印を刻み付けた。 (アストライア……彼女は今では裁判所にてその姿を拝見できますが、片手に剣をもう一つの手には天秤を。その瞳を持って何を審判するのでしょうか?) そして彼女は一体、何を罪とし、裁かんと言うのか。此処には本来なら、ただ祖父と、その愛したものを想う少女しか、宮しか、存在しなかったと言うのに。 (果たして天秤はどちらに傾くか分かりませんが……) 持てる力を以て、理不尽な運命に、抗う。それが『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の為すべき事。その、ただ直向きな思いだけをその胸に秘めて、彼は、至極冷静に光の糸を撃ち出した。 その光は偽りの光を貫いた。其処に、間髪入れずに『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)の銃口が向く。 (『星は何でも知っている』……“アストライアの双眸”も全てを睥睨するかのように見ているのでしょうか?) いずれにせよ、なかなかの趣向だ。条件は明白なまでに相手側に有利。それでも、折角の招待だ。此方も持てる力の全てを尽くして相手をせねばなるまい! その気魄は黒の魔弾となって、偽りの星を突き抜け、弾けた。 ●00:54:21 (これまでじいさんと一緒にしっかりお勤め果たしたのに、最後の最後でこれはちょっとじいさんも浮かばれねえんじゃねえかな……) もどかしい思いを抱えながらも、『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)は式符によって“影”を生み出す事に専念していた。 影は姿に通じる。即ち、式符・影人は美峰の影としてその姿を取り、その命に従う分身だ。それは見せかけだけでなく、身体能力ですらも美峰そのもの。 しかし流石に、最初に生み出した分身が一撃の元に葬られた時は美峰も面喰った。だが、ジョンの見立てによると『当たり所が悪かっただけ』である模様。その言葉を裏付けるかのように、影人は今、五体生み出した内の三体が健在だ。そして今、六体目を生み出し、狙う偽りの星を取り囲ませた。 「一対一でも、活躍出来るんですよ、私!」 その時京子の魔弾が、更に一体の敵を無に帰す。 そして、珍粘は更に奥へ。座席も壁も、その脚で蹴って敵の下へ。 「ちょっとお行儀が悪いですけどね」 微苦笑を浮かべたまま、斬り刻み、掻き回す。翔太も地を蹴って、振り切る風の刃で斬り裂いて、また一体、消し去った。 十数秒前に手痛い反撃を喰らった星龍は、その場をジョンに任せ、状況注視に転ずる。其処へ凛子によって癒しが届けられると、再び攻勢に転じ、呪いを叩き込んだ。 凛子は今回のメンバーの中では、動きは早くもないが遅くも無い分類だ。よって、彼女の回復を効率良く受ける為に、疲弊した者は凛子の癒しを得られるまでは状況注視に徹し、回復を待って、再び攻撃に移る。そういう戦法を取っていた。 だが、手数重視とでも言うのか、敵は一個体では然程の強さを持たないとは言うものの、積み重なれば徐々にその身に負担として圧し掛かり、重くなる。 しかしだからと言って、攻撃の手を休める訳にもいかない。回復が間に合わない場合には、反撃を覚悟で打って出なければならない、そんな状況であった。 そして、それが複数人に及んだ時は―― 「……あ」 光に焼かれ、ぐらりと傾ぐ刻の身体。 呪いを齎す自らの痛みをある程度保つ為に、疲弊を保っていた所に、放たれた光は突き刺さったのだ。 「日無瀬様!」 仲間達の悲痛な呼び声を聞きながら、それでも彼女は不本意ながら、地に跪く。 ●01:04:53 それでも、彼女は立ち上がる。 「……平気よ」 酷薄な、けれどだからこそ美しい笑みはそのままに。 運命を燃やして、その為の力を得る。 「偽物の星なんかに、これ以上好き勝手なんざさせるかよ……!」 翔太は味方を護りはしない、けれど敵が傷付けるなら許さない。思い上がったフェイク達に目にもの見せるべく、彼は飛翔した。そのまま、軽やかにしかし確かに剣先を突き出して、敵の身を裂く。 「エリューション、並びにアーティファクトそのものに未だ変化は無い模様……ならば……まだ、討つ手立てはある筈。私はそれを行い続けるだけです」 その時間の内に出来る事を。ジョンの静かなる意志はそのまま真っ直ぐ、乱れ無き気の糸となり、弾丸の如く偽の星を襲う、的となり、刺された星は一瞬にして弾け飛ぶ。 凛子の回復を待つ者がいない今、彼女は疲労の溜まっている者数人に目星をつけ、その中からジョンに癒しを与えた。 いつ、誰が、思わぬ重い反撃を喰らうか判らない。保険をかけておくに越した事は無い。 その間にも、星龍は呪いを弾として放出し続けた。風穴を開けた偽りの星は一瞬にして消滅していく。 「……プラネタリウムだけに、星の数だけいる敵とは中々に洒落が利いてますが……偽りであったとしても、星空は星空のままでいて貰いたいものです」 堕ちて、人を殺す等、言語道断。それを食い止める為なら、星龍は弾を惜しまない。 そして次なるターゲットを定めた美峰の影人達が、一斉に駆け出した。 (極力仲間の攻撃を無駄にさせないように運用していきてえな、頼むぞ影人達……) 美峰の思惑に応えるように、彼女達は動いてゆく。そして、彼女達の働きによって、また偽りの星空から、輝きが一つ、失われていった。 ●01:36:98 「っ!」 身軽さを駆使して敵の反撃を躱し続けていた珍粘が、遂に完全に光に捉えられた。 バランスを乱し、地に崩れ落ちる。急ぎ凛子が癒しを送り、何とか立て直す。 「……未だ、アーティファクトに自爆の兆候は見られませんね……」 ジョンの言葉に、京子が息を呑んだ。 (このままじゃ、宮さんが大好きなお祖父ちゃんの星に………そんなの!) 絶対に、させる訳にはいかない! 彼女の思いを受けたかのように、駆け出したのは翔太。未だ残る偽りの光に、その刃を向かわせて。 一刀両断。彼の速さを未だ敵は捉えられない。故に、未だ翔太は全くの無傷。そんな彼の姿は、味方であるリベリスタ達に、そして宮に、一抹の希望を与える。 その勢いに乗じてジョンが星龍が刻が、流れるような連携で、また偽りの星々を屠って。 その数を増やし続ける美峰の影人達も、仲間達が撃ち漏らした星々を逃がさない。増え続ける相手には、味方を増やして立ち向かう。そうして少しでも、敵の数を減らせるなら。 リベリスタ達は、諦めない! そんな仲間達を、凛子の癒しの微風は後押しする。絶対に、皆で生きて、この場を切り抜けるのだ。 リベリスタ達だけではない、宮も、一緒に。 「絶対に助けるって約束したんだッ!」 京子の放つ弾丸は、彼女を裏切らない。その証として、彼女の銃口が捉えた偽りの星がまた一つ、確かにその光を失っていったのだから。 ●01:42:77 それでも、珍粘と刻の燃やしていた運命が、遂に燃え尽きた。 しかし力無く地に伏す彼女達の意志も、残るリベリスタ達は無下にしない。受け取って、先へと繋ぐ。任務を遂行する為に、何より、神秘に対して無力で無辜なる宮を、護り抜く為に! だが、此処に来て、翔太が遂にその身を光に抉られた。 「……っ、あ……っ!?」 「上沢様……!」 よろめく彼の前にジョンは進み出て、反撃の更に反撃に、光の糸を見舞った。穿たれた偽の星は内側から弾けるようにしてその存在を失う他に為す術は無い。 翔太が凛子の癒しを受ける間、星龍が追撃の弾丸を放つ。呪いを秘めしその弾丸は、先程から星々達に鋭く刺さり、いとも容易くそれ等を消し去っていた。敵に感情というものが存在していたのなら、真っ先にその弾丸に、そしてその弾丸の主である星龍に、恐怖を覚えていただろう。 そんな中、美峰の影人達は、美峰によって生み出されて数を増やしつつ、敵によって撃ち倒されて数を減らしつつ、懸命に敵に当たっていた。強力な攻撃は出来ないので討ち漏らしを仕留めるか、そうでなければ体力をじわじわ削っていくしか出来ないのだが。 だが、其処に美峰本体から放たれた、鴉が飛来し偽りの星の一つを食い破った。 「私も参戦するぜ、攻撃合わせていくぞ!」 影人の召喚に専念していた美峰が、今この瞬間を以て、戦列に加わる事となった。 リベリスタ達の中に静かな、しかし確かな歓喜が広がる。 いよいよ、最後の追い上げが始まろうとしている。 闇は未だ晴れない。ならば、この残り少ない時間の中でも、闇を晴らすべく粉骨砕身し、事に当たるのみ。リベリスタの底力なら、この土壇場にあっても、それが出来る筈なのだ! ●01:56:39 此処まで来たら、後は己を信じて、全ての力を振り絞り、戦い抜く! 「一気に……」 「片付ける!」 京子が魔弾を放ち、翔太が剣技を披露する。地と天からの挟み撃ちに、また一つ偽りの星は姿を消す。 ふと、何かを感じ取ったのか、ジョンと星龍は、アーティファクトの方を見遣る。其処に変化は無い。が――改めて偽りの星空を見上げれば、僅かながら偽りの光が一瞬、揺らめいた。 「皆様!」 「後少しです!」 確証は無い。だが確信はある。何体倒したかもう判らない。それでも、終わりは近い。星々の揺らめきに、崩壊の予兆が見て取れた。ならばもう一押し、押し切れれば、宮の命は救えるに違い無い。 だが、その為の時間ももう、無い! 切羽詰まったこの状況で、形振り等構っている余裕等、残されてはいない。此処で倒れたとしても、這ってでも食らい付いて、絶対に目の前に横たわる悲劇を、その手で、阻止しなければならないのだ。 ジョンの気糸が突き刺さった敵に、美峰の影人達が数人群がり、消し飛ばす。それを認めた星龍は、また別の星に銃口を向け、狙い違わず撃ち落とした。 凛子も此処まで来ては、回復の手を止め、少しでも、宮を救える可能性を広げる為に、ありったけの魔力を籠めた一撃を加え、敵の輝きを削り取ってゆく。 「これで、これで終われ!」 最後に美峰が飛ばした鴉。それは黒き風となりて偽りの星に食らいついた。 しかし――消滅させるには、及ばない。 残った影人達がそれを察して駆け寄るも、その攻撃は僅かに届かずに―― ●02:00:00 膨れ上がる。 白の星々が、その偽りの輝きが、呆れ返る程にその身を肥大させてゆく。 宛ら、星が、近付いてくるように。肉薄し、視界の多くを奪い去るように。 ――一般人の彼女は、そうなったら絶対に救えない。 身も蓋も無い、希望すらない、その端的過ぎる程にシンプルな一言だけが、リベリスタ達の脳裏を俄かに過ぎる。そして、その心を、思いを、願いを、深く深く抉った。 救えない、その現実が、今、堕ちてくる。 「駄目ぇぇぇぇぇぇ!!」 京子の叫びが、空しく響く。 状況が理解出来ず、呆然と座り込む宮の前に、しかし、最後に立ちはだかった者がいた。 「無駄であってもやらない後悔よりはやります。前に進む事で私の覚悟を示します!」 言葉を、聞いたのだ。受け取ったのだ。アークは幾つもの奇跡を起こしてきたのだと。その通りだ。では、その奇跡はどうして起きたのか。それは最後まで戦い続けたからこそ起きたものではないのか。 ならば今こそ起これ奇跡よ、この絶望から未来へと続く道を切り拓け! 絶望の中にあって尚、心は強く、気高く、戦い続ける彼女――凛子の背中を、宮は暫く茫洋と見つめて、やがて、その細い背中越しに、ふと、虚空を仰ぐ。 無情なまでに、それは白く、眩くて。 宮は、ぼんやりと思った。 ――ああ、空が堕ちてくる。 全ての視界さえ遮るその夥しい白は、ゆっくりと宮達に覆い被さり―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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