●最後の試合 「ただいま……」 「おう、おかえり。どうだった、外の様子は?」 山小屋に戻ってきた仲間を、迎える2人の男。戻ってきた男の手にはコンビニで売っているような簡単な食事があった。そして、それをひったくるように奪うと、黙っていた1人ががっつく。 「おいおい、がっつくなよ、みっともない」 苦笑を浮かべる男に返事を返すのは、人心地がついてからようやくだった。 「そうは言っても、仕方ねえだろ、キャプテン? ここん所、全然飯食ってなかったんだしさ」 「だよなー。本当にいつぞやマネージャーが作ってくれた豚汁が懐かしいぜ」 2人に言われてしまい、キャプテンと呼ばれた男としては返しようが無い。 「あの頃は良かったな。それに引き換え、今の俺達は……」 彼らはいわゆる、フィクサードと呼ばれる人種である。かつて、後宮シンヤに与して、アークや主流7派と激戦を繰り広げたもの達だ。「後宮フィクサード」という、考えてみれば不遜な名前を掲げて、それなりの戦績も上げていた。 しかし、2011年12月の戦いで後宮派は敗れ去り、結果として彼らは敗軍となった。三ツ池公園の戦いで半数がアークに捕まった。今では主流7派のフィクサードに追い掛け回され、残った仲間もこれだけである。 「やっぱ、剣林はヤバイよ。あんなに若い女の子が、強いなんて誰が思うさ?」 「いや、むしろ逆凪だろ? 俺達なんかにあんだけの人数向けてくるのはおかしいって」 「おかしい、ヤバイ、ってんなら裏野部かなぁ。一般人巻き込んでホテルを焼くとか。俺もフィクサードだけど、アレはどうかと思ったね」 そこまで話して、一斉にため息をついた。ヤバイ相手について話し合っても、状況が良くなるわけでもない。と言うか、そもそも状況が良くなる見込みなど何処にも存在しないのだ。逃げても行く当ては無い、しかし、諦めたら死ぬ。それが彼らの現状だ。 「また、野球したいな。そろそろシーズンも始まるし」 「って言うか、キャッチボールすら出来ない身分だからな……」 思い出すのは、大好きだった野球のこと。恩人であるシンヤを野球に誘って、思い切り遊ぶ。そんな夢というには小さな夢も、既に果てて消えた。せめて、死ぬ前に思い切り、野球をしたい。青空の下でキャッチボールが出来れば、それで満足だ。そんな所にまで、彼らは追い詰められていた。 カランカラン その時だった。仕掛けてあった鳴子が音を立てる。瞬間、武器を構えるフィクサード。それなりの経験は積んでいるのだ。危機を前にして、愚痴愚痴言う程、馬鹿では無い。 そして、窓の外を見た彼らは目にする。不気味な異形の怪物を。 一見すると鴉のようだ。しかし、不気味なことに腹からは、ネズミの頭が突き出している。加えて、身体の一部を金属が覆っており、所々不規則に螺子や歯車が飛び出している。正直、10秒とだって正視していたくない、おぞましい外見だ。 「お、おい……何だよ、あれ?」 1人が情けない声を上げる。 今まで追われた中でも、あんなものを見かけたことは無い。 「お、俺達を倒すために用意したエリューションに決まってるだろ。ビビッてるんじゃねぇ」 「でもよ……キャプテン……」 「岡山で見かけたアレとは別もんだよな?」 キャプテンも2人の気持ちは分かる。可能なら逃げ出したい位だ。だが、それが無理なことも悟っていた。研ぎ澄ました感覚が、他の敵の存在も感じさせるのだ。 「おい、2人とも。アレだ。円陣組むぞ」 「お、おう……」 言われておずおずと円陣を組む3人。 お互いに怖くてしょうがない。 生きて何になるわけでもない。 それでも、今を生きるために必死に己を鼓舞する。 「たとえナインが揃わなくとも、俺達は負けないぞ!」 「「後宮フィクサード、ファイ!」」 それはあまりに悲壮な決意。 走る先にあるのは死の運命。 それでも、彼らは生きるために立ち向かう。 後宮フィクサード、最後の戦いへと……。 ●異形の狩猟者 ばたばたと慌てながら、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)がブリーフィングルームに駆け込んでくる。割と時間に厳しい彼にしては珍しい話だ。集まったリベリスタ達の顔にも驚きの表情が浮かんでいる。 「すまない、ちょっと色々あってな。急いで説明を始めるからちょっと待っていてくれ」 そう言って手早く準備を整えると、守生は説明を始めた。鬼事件も状況が逼迫しているのだ。裏方であるフォーチュナにとって、仕事は想像している以上にあるのだろう。 「今回あんたらにお願いしたいのは、とあるエリューションの討伐だ。もっとも……ちょっとばっか、厄介な話なんだが」 困ったような表情を浮かべながら、守生がスクリーンに表示させるのは不気味な怪物だった。 姿は鴉に似ている。その腹からはネズミの頭が突き出し、全身が機械のようなパーツに覆われていた。それなりに経験を積んでいるリベリスタ達もこんなものは見たことが無い。 「一応、エリューション・ビーストっぽくはあるんだがな……何とも評しがたい、ってのが正直な所だ。アザーバイドではないし、イレギュラー的に特殊な特徴を多分に持っている。これが3体だ」 過去に姿を見せたエリューションに似た雰囲気もあるが、何とも言えない。まさしく、謎のエリューションなのだ。 「攻撃方法だったらある程度目星はついている。鴉の頭とネズミの頭での同時攻撃だ。あと、ネズミの口からミサイルを打ち出すことも出来るらしい」 直接と言えば直接的な戦闘方法だ。しかし、その分、威力はある。防御を疎かにすると、あっという間にやられてしまいかねないだろう。 「加えて、高い防御力に再生能力まで有しているらしい。連携をしっかりさせないと危ないかもな」 謎の多い、強敵。リベリスタ達の背に寒気が走る。 「こいつらは、あるフィクサード集団を攻撃しようとしている。後宮派の残党だそうだ。名前は……『後宮フィクサード』とか言うチームだったな。ふざけた名前している奴らだが、知ってる奴いるか?」 守生の説明によると、後宮シンヤに窮地を救われ、恩を返すために戦っていたフィクサードらしい。全員草野球が好きで、戦闘時もちゃんと防御効果を持たせた野球のユニフォームに身を包んでいたとか。元々はチームワーク主体で戦ってきた連中だが、残り3人ともなっては、最早他の組織にとって格好の餌でしかない。 守生としては彼らに興味は無いようだが、協力すれば戦闘は楽になるかも知れない。アークでの保護を約束すれば、彼らにとっても悪い話では無いだろう。アークでは元々同じチームにいたフィクサード6名を捕虜にしている。 「それと、遠くから六道のフィクサードが現場を監視している。場所や戦力は残念ながら不明だ。ただ、介入してくる可能性は低いな。下手に関わらない方が良いだろう」 六道派が何を考えているかはよく分からない。しかし、そこに戦力を割いている余地は無さそうだ。 「出来る説明はこんな所だ。危険な任務だとは思う。だけど……」 説明を終えた少年は、リベリスタ達に精一杯の送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 1人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月20日(火)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 1人■ | |||||
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あの赤い月の夜から、4ヶ月も経とうとしていた。 その間に、後宮に属したフィクサード達は主流派によって、激しい追及を受け、少なからぬ者が命を落としている。 これは、後宮の元で戦ったとあるフィクサード達の、最後に行った戦いの記録である。 ● 「え……? 何でお前達が……!?」 「また会ったわね」 異形の怪物の接近に対して、意を決して挑もうとした後宮フィクサードのメンバー。 しかし、隠れていた山小屋を出ると、待っていたのは謎の怪物だけではなかった。 「3人じゃ野球は出来ないよね、助っ人が必要でしょ?」 山小屋の外にいたのは、アークのリベリスタ達。 『重金属姫』雲野・杏(BNE000582)は軽く手を振り、『ビタースイート ビースト』五十嵐・真独楽(BNE000967)は軽くウインクを飛ばす。 2人はかつて、三ツ池公園の軟式野球場で後宮フィクサードと戦いを繰り広げた。もちろん、野球の試合などでは無い。命と意地を賭けた、文字通りの死闘である。結果はリベリスタ達の勝利に終わり、フィクサード達は本隊へと撤退して行った。それから様々な事件があり、出会うことは無かったのだが、運命の女神はここで引き合わせたのである。あるいは野球の神の仕業なのかも知れない。 「この場は手伝う。まずは生き残ることだけを考えろ!」 流れる水の如き構えを取り、イレギュラーエリューションへの闘志を高めているのは、『紅蓮の意思』焔・優希(BNE002561)だ。 今、助けようとしている相手はフィクサード。彼ら自身悪事を働いていないわけでは無いし、優希自身それに対する怒りが無いとは言えない。しかし、全てを失った彼らを責めることは出来なかった。 「代打……という所で御座ろうか。ここは拙者らが引き受けますゆえ、後ろへ下がられい!」 刀を構える風音・桜(BNE003419)の言葉に従って、後宮フィクサードはおずおずと頷き、リベリスタ達の後ろにつく。 リベリスタとフィクサードの間には、エリューションの力に対する考え方という埋め難い溝がある。 しかし、それと同時に、エリューション化を果たし、運良く世界に受け入れられた人間であるという共通点も有している。 絶対的な善と悪など存在せず、常に全ては移ろい行く。 だからこそ、リベリスタとフィクサードは、時に争い、時に手を組むこともあり得るのだ。 (なんぞ見はっとる輩やら、妙な因縁もってるフィクサードとか、面倒、面倒、面倒でさぁ) リベリスタとフィクサードが手を組む景色を、耳をほじりながら眺めていた『√3』一条・玄弥(BNE003422)。ぷはっと紫色の煙を吐き出す。彼に言わせれば、いつ裏切るとも知れないフィクサードを『助ける』などとはちゃんちゃらおかしい。さすがは正義の味方、リベリスタ様だ。 (あっしはいつも通り殺らせてもらうだけですがねぇ、くけけっ) 心の中で笑うと、玄弥は手に構えたクローをカチカチ鳴らす。それを挑発と感じたのか、イレギュラーエリューションが鳴き声を上げる。 『ギィィィィヤァァァァァ!!』 『ギィィィィヤァァァァァ!!』 『ギィィィィヤァァァァァ!!』 何かを搾り出すような必死な鳴き声だ。腹を空かせた地獄の餓鬼ならば、このように鳴くのであろうか? 少なくとも、目の前にいる者達全てに敵意を向けているのは間違い無さそうではある。 「なんでカラスの体にネズミの首なの? もっと他にかわいい組み合わせなかったのかしら」 場違いな感想を述べたのは『蜂蜜色の満月』日野原・M・祥子(BNE003389)だ。実際、目の前にいる鴉とネズミを掛け合わせて、機械のパーツを付けたような醜怪なエリューションを見たら、そのように思うのも仕方ない。白くてふわふわした猫にフライエンジェの翼でも生えていれば、それはそれはもう、見るだけで幸せになれるというのに。 「背番号27! キャッチャーのアーリィだよ! ドーンと受け止めるからね!」 そして、荒ぶるイレギュラーエリューション達を前に、『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)はヘビーボーガンを構えると、名乗りを上げる。 「こんな感じで良いのかな……?」 しかし、その後すぐに気恥ずかしくなったのか、『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)の方を振り返ってしまう。そんなアーリィに対して、ルーメリアは頷くと、ぎゅっと野球帽を被る。彼女もまた、赤い月の夜にこのフィクサード達と戦ったリベリスタの1人だ。 「選手の交代をお知らせします! 背番号18番、ポジション、ピッチャールーメリア!」 「前は監督って言ってなかったっけ」 思わずツッコミを入れてしまう、フィクサードのキャプテン。結構細かい男だ。しかし、ルーメリアはそんなツッコミもなんのその。キャプテンに微笑を向ける。 「覚えてるかな、ルメが最後に言った言葉」 「え?」 その時、さすがに探りを入れるのは止めたのだろう。イレギュラーエリューション達は、大きく鳴き声を上げると、一同に向かってミサイルを放つ。しかし、ルーメリアはそれすらも意に介さない。 「助けに来たの。同じ野球を愛するもの同士、当たり前なの!」 ● 奇怪な鳴き声と共に、イレギュラー達はミサイルを放つ。一方的に攻撃が行える利点を十分に理解しているのだ。極めて攻撃的な性格にそれを活かそうとする狡猾な知性、その2つを宿している危険なエリューションだ。 その攻撃に対して、長距離武器を持たない真独楽は仲間を庇いながら、肉食獣の瞳で隙を探っていた。中途半端な跳躍での攻撃は、自分の隙が大きくなってしまう。ならば、イレギュラー達が近付いた時に、全てをぶつけてやればいい。 (悪いコトもしたかもしれないけど、反省するチャンスがあってもイイよね? きっと悪い人たちじゃないって信じてる。だから助けたい!) 心の中で誓うと、飛んできたミサイルをかわす。爆風で少し傷ついたが、この程度は物の数では無い。その時、真独楽の横から爆風を利用して『やる気のない男』上沢・翔太(BNE000943)が飛び立つ。 「降りてこないなら、こっちから行かせてもらうぞ!」 翔太は全身の反応速度を高めると、イレギュラーに向かって強襲をかける。 実際の所、普段の翔太は「めんどくせぇなー」が口癖の、やる気が無い学生だ。ただ、野球が絡むとちょっとだけ本気を出す。今回のも、そうした1つなのだろう。 そして、「空中にいるものを攻撃可能なものがいる」という事実は、イレギュラー達を警戒させるのに十分だった。空中からの攻撃は有利である。しかし、エリューション能力による飛行は、相応の集中力を必要とするため、隙が大きい。すると、空中からの攻撃のメリットと比べてマイナスだ。 しかし、それは結果から言うと、獣の浅知恵であったと言わざるを得ない。地上は人間のテリトリーだ。 「この陣を崩そうものならば、拳でもってその身を砕いてくれる!」 機械と化した右腕から優希の全身に電光が走る。その瞬間、彼の身体は疾風へと変わる。目にも止まらない圧倒的な速さから、降りてきた2体のイレギュラーを返り撃ちにしていったのだ。目の前のエリューションが何者なのかは分からない。だが、エリューションであることに変わりは無い。だったら、これらを倒し、不遇なフィクサード達の望みを叶えさせてやるのが、自分の使命だ。 一方、フィクサードのことは気にしないように決めたのが玄弥だ。裏切られたのなら、その時に殺せば良いだけの話。幸い、力量は自分に劣るし、疲労もあるようだ。最悪、自分だけで十分だろう。 「ぼちぼちといきまっかぁ」 気の抜けたような声を上げると、暗黒の瘴気を放ち、次々とイレギュラー達を飲み込んでいく。 「おっと、そいつはいけねぇな」 啄ばみと噛み付きの同時攻撃を受け流す玄弥。普通の相手ではあり得ない動きだけに、並みのリベリスタなら苦戦は免れないだろう。 しかし、イレギュラー達はまたしても、ここで相手が只者で無いことを思い知らされるのだった。 「はっはっは! 追い込まれれば追い込まれるほど、闘志がたぎるというもので御座る!」 確かに、桜は傷ついていた。全身に毒が流れつつあり、出血も決して少なくはない。それでも、士気を落とすどころか、一層勢いを増して刀を振り下ろしてくるのだ。そして、その傷と痛みが生み出す闇は、イレギュラーの1体を喰らう。 「ちょっとー、やり過ぎだよー」 「おお、これはかたじけない」 ボロボロになった桜の姿を見かねて、アーリィは癒しの福音を響かせる。実際の所、有利に戦局を進めているが、敵の火力は決して低くは無い。仲間の回復に努める少女達がいなければ、彼の戦術は元より、戦線そのものが瓦解していただろう。 前線で戦うリベリスタ達に守られながら、ルーメリアは後宮フィクサードの面々に声を掛ける。 「ベンチ暖めるだけ、ってのは性に合わないかな? でも、長い潜伏で疲れてるだろうし……無理はしないでね」 「いや、大丈夫だ。ただ、ここまでアークとの実力差が開いていたとはな……」 事前情報があった通り、イレギュラー達の防御力は非常に高かった。フィクサード達では決定打を与えられないほどに。多少の怪我が出来たとしても、それはすぐさま塞がってしまうのだ。もし、アークの援護が無ければ、彼らがどうなっていたか、それは想像に難くない。 「ただ、それこそベンチウォーマーで終わりたくは無いからな。行くぞ!」 「「おう!!」」 ルーメリアの応援もあって、士気を取り戻すフィクサード達。与える怪我は微小でも、相手の回復速度を抑える役割位は果たせる。 「楽しく野球やるためにも3人は絶対死なせないよ」 最初は回復に回っていた祥子だが、次第に敵の数が減ってきたことで攻撃に転じる余裕が生まれた。そこで、人を護るという強い意志を込めて、強い光を放つ。その聖なる光は同じく地上に降りていた1体の身体を焼き尽くしていく。 「よし、残り1体だよ……って、何あれ……」 祥子は自分が倒した敵の姿を見て、絶句する。敵を倒したことへの後悔などでは無い。それを乗り越える強さを持てるほどに、彼女は戦ってきた。だがしかし、こんな敵の姿は初めてだ。 倒れたエリューションの組織が崩壊し、どろどろに溶けていく様子など、覚悟していなかった。 その様子を見て、杏の心に火が点った。 「あんなもの、まこにゃんに見せられない! すぐに終わらせるわ! 食らえ、アタシのラブビート!」 それまでのゆるゆるとした詠唱とは打って変わって、超高速で浮かぶ魔法陣に魔術を組み込み、それをイレギュラーに向かって放つ。喰らったエリューションは動きを封じられ、ゆっくりと落下してくる。よく見れば、先程のエリューション同様に、翼の組織が崩壊を始めているのが見て取れただろう。 そして、イレギュラーが射程圏内に入ったのを真独楽は見逃さなかった。 跳躍しイレギュラーに接近すると、すれ違いざまにクローで死の刻印を刻み込む。 『ギィィィィヤァァァァァ!!』 イレギュラーは一声叫ぶと、己を縛る術式を破り、リベリスタ達に襲い掛かろうとする。 しかし、それは一歩遅かった。 イレギュラーが攻撃にかかるよりも、死の刻印によって確実な死が発動する方が先だったのだ。 そして、その様子を見て、杏はポソッと呟いた。 「……いや、別に他のエリューションの時は手を抜いてたとかはしないわよ、お仕事だもの」 ● 「ゲームセット、なの。お疲れ様!」 エリューションが全て倒れたのを確認すると、ルーメリアは仲間達に次々とハイタッチをしていく。リベリスタもフィクサードもお構い無しだ。玄弥とフィクサード達は当惑してしまう。 そんなフィクサード達に真独楽はおずおず話し掛ける。 「それでなんだけど……アークに来ないかな? 加入とまでいかなくても、アークには他の残党もいるし、ひとまず保護させて欲しいな」 「まあ、今の貴方達の状況を見るに捕虜でも何でもうちに来たほうが安全なんじゃないかしら? 捕虜がどういう扱い受けるか分かんないけど」 「人を不安にさせるようなことを言うな」 杏の声に苦笑を浮かべるキャプテン。元より選択肢など無い。本来なら、ここで失われていたはずの命だ。口でそのように答えながらも、答えは決まっているのだろう。 そこにポイッと優希がボールを投げ込む。慌ててキャッチするキャプテン。 「せっかくなんだ。アークに行ったら一試合しよう」 「あたしはあんまり野球詳しくないけど、みんなでスポーツするのは楽しそうだね」 祥子が微笑む。 それを見て、フィクサードの1人が腰を下ろして涙を流す。 もう夢は潰えたと思っていた。 どんな小さな夢すらも、もう叶わないのだと思っていた。 だけど、最後の最後で、1つ残った夢が叶おうとしているのだ。 それに釣られて、フィクサード達は涙を流していった。 「ほな、かえろっけぇ」 玄弥はあくびをかくと、いつものようにくけけっと笑って去って行った。 そんな姿に桜は苦笑を浮かべると、周囲の後片付けを始める。 アーリィは片づけを手伝う中で、ふと周囲の気配が消えているのをを感じていた。 (……そういえば……なんかずっと視線みたいなの感じたけど……なんだったのかな?) 戦場を観察していたフィクサードは既にいなくなっていた。 そう、まだ六道派の陰謀は始まったばかりなのだ。 ● この事件から数日後。 三高平市にある某球場で野球の試合が行われた。 アークとそれに保護された革醒者の試合である。 アークからは少女2人のバッテリーが出た。 もちろん、普段から親しんでいるだけあって、相手チームも強力だ。 サードとライトの守備に穴があるのを見て、しっかりと攻めてくる。 しかし、アークも負けてはいない。左中間は鉄壁の外野陣で中々崩せないのだ。 また攻撃にあっては懸命に足で稼ぎ、相手チームをかく乱していった。 こんな日が続けば良い、そんなことを思いながら、その日の試合は続くのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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