●告白 桜の木の下を飛び出し、少年は走っていた。 卒業式で賑わう校舎の外を、体育館や廊下を、誰か探すかのように走り回っていた。 「クソッ」 彼の名は山田慧流、小学4年生。 やんちゃ盛りの彼ではあるが、好きな人がいる。今までさんざん嫌がらせをしてきたけど、それでも好きな人がいる。 彼女は6年生、今日の晴れ舞台を経て中学へと卒業してしまう。 だからこそ、今日こそ思いを伝えたい。その為になけなしのお小遣いをはたいて、ちょっと高いプレゼントも買ってきた。 いたずらもからかうのも抜きで、本当の、本当に――。 「今まで、有難うございました」 「気にしなくていいの、綿貫さんも色々あったけど頑張ったからね」 ある教室の一角で、先生と生徒が言葉を交えている。 彼女の名前は綿貫美々。目の前に居るのは彼女の所属していた運動クラブの顧問だ。 体が細く、どことなくびくびくとした印象を醸し出す彼女は、運動が得意というわけでもなかった。 『自分なりに体を鍛えよう』そう思って入った運動部だったが、いいとこなしのダメダメなところばかり。 次第にクラブ内での友人も減り、落ち込む美々を構ってくれたのは顧問の先生と――。 「そういえば、いつもの彼は?」 「山田君は……まだ待ってたら行こうかなって」 「それなら早く行かないと、探しまわってるんじゃないか?」 彼こと、慧流だった。もっとも美々の抱く彼の印象はいいものではない。 スカートを捲られることもあったし、失敗しては笑われることも多々あった。 構ってくれはしたが、単にいじりやすい標的だったから――。 彼女はそう思っていた、だからこそ彼を後回しにしたのだろう。 そんな話をし、一礼して教室を出ようとした、その時。 「み、つけた!」 「きゃっ」 危うく美々と正面衝突するかのような勢いで、教室に飛び込んできたのは小柄な身体に短髪。 そして、ブレザー型の制服を身に纏った少年――慧流だった。 「はぁ、はぁ……卒業、おめでとうな」 「あ、ありがとう。でも、うぅぅ……」 彼女のふんわりとした長髪が風に揺れ、突然の襲来に心までも揺れる。 「……これ、プレゼント」 慧流が押し付けるように握らせると、美々は半歩下がり、恐る恐る手を開く。 手の中にあるものは、トカゲとかの生き物ではなく、駄菓子屋などでありがちなハート型の装飾がついたおもちゃの指輪。 「ありがとう。でもなんで、どうして?」 「……あの、えっとだな!」 言葉に詰まる慧流。その顔は紅潮し、次の言葉がでない。 「山田くん大丈夫? 保健室に――」 握りしめ、心配そうに顔を見る美々だが、その手の中では妙な変化が始まっていた。 指輪が淡く光り始め、それが強さを増していく。 「や、山田くんこれ光って、なに!?」 「な、何だ? 眩し――」 やがて、2人ですら感知するほどにまでに輝きを増したリングは、強烈な光と共にその場を包み込んだ。 「うー、なんなんだよ……あれ」 光が収まり、尻餅をついた慧流が尻をさすりつつあたりを見回す。 眼の前に居るのは――。 「お前、誰?」 「えっ」 線が細く、カールがかったセミロング。 目のかかった前髪。 中性的で、ひ弱そうな印象を持つ『彼』は、慧流の言葉に右往左往する。 「えっ、えっ。誰って山田くん、綿貫だけど」 「だっておま……男じゃねぇか!」 慧流の言葉に、一瞬だけ時間が止まり――。 「ええええーっ!?」 悲鳴と共に少年は身体を確かめる。 ちょっと出ていた胸がない。 体の線も細い、心なしか制服のサイズもあってない気がする。 そして何より違うのは――下半身に男性としてあるべきものが、ある。 「なんで、なんで……ふええん!」 「泣くなって! 俺のほうが泣きてぇよ、何で……」 なんでこうなるんだよぉー!! 絶叫する慧流の叫びが、教室にむなしく響いた。 ● 「――と言った具合に男の子になっちゃうんだよね。このままじゃ」 話を終えた『首を突っ込みたがる幼き賢者』ミカ・ワイナミョイネン(nBNE000212)が一息つく。 彼こと、山田慧流のプレゼントしたアーティファクト『恋せよオトメ』は感情の起伏によって発動するアーティファクト。 発動と同時にアーティファクト本体は所持者と融合し、その性別を反転させる。 今回の場合だと、渡された美々が所持者となり、少年になってしまう。ひどいとばっちりだ。 「で、お願いなんだけど……アーティファクトの回収もそうだけど、できたら慧流の告白もうまい具合に結んでくれないかな?」 慧流はしばらくの間、学校の正門裏にある小さな桜の木の下で待っている。 美々にも手紙で伝えてはいるが、視た通り後回しにされている。それ故の未来でもあろう。 「当日は学校敷地内には入れるけど、校舎内は関係者以外立入禁止になってるからね」 リベリスタの能力があれば警備員をくぐって入る事はできるが……バレたら騒ぎにもなり得るし、間違いなく警察のご厄介になるだろう。 「他の横槍もないから、今回はキューピットとして頑張ってほしいな! 無理そうならアーティファクトだけでいいけど、ホラええと、せっかくだしさ。なんか親近感? そんなのもあるし」 半ば取り繕うように話すミカではあるが、同級生なりの親近感が湧くのだろう。 幼い2人を繋ぐプレゼントの代わりに、リベリスタで何とかならないものか。しばし彼らは考えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カッツェ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月25日(日)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●二つの仕事 桜がほのかに咲く校外。今日のこの日に卒業生はこの小学校から離れ、中学校へと旅立つ。 そんな場にアーティファクトが絡む無粋は防がなくては、そして何より――。 「リングはしっかり回収するとして、恋のキューピットなぁ」 『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)はなんとも複雑な顔をしている。 恋のキューピットとはいったものの、それが成就するかまではわからない。 「個人的には見事に撃沈するのも悪くないと思うがのぅ」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)がそのように語るのは、人生経験に関しては一日の長であるが故か。 しかし瑠琵は『難しいことは言い出しっぺに任せている』と言い放ち、彼女は先に校内へと入っていく。 ――今頃その言い出しっぺはソファーの上でゴロゴロもだもだしていることだろう。 「あーくおたすけちーむ、このこいばっちりじょーじゅさせるのっ。えいえいおー!」 意気揚々と校舎に入っていく『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ ミ-ノ(BNE000011)に続けと他の面々も入っていく。 「……」 と、思いきや『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)だけがまだ入らずに立ち止まっている。 「今のうちにあらん限りおって言ってしまうお」 しばらくはこの口調は我慢しなければ、ガッツリは一息吸って――。 次の瞬間、おっおおっおおおっおおおっー! という奇声が、学校前から聞こえた。 ●桜の下で待つ少年 「……遅いなぁアイツ」 ヤキモキする少年こと山田慧流。まだ10分もたってないのだが、彼からしてみれば数時間待たされているような気分。 ポケットの中には買ってきたハートのリング――もといアーティファクト『恋せよオトメ』が入っている。 「綺麗に咲誇っているな……何時か見た時と、同じだな」 『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が上を見れば、五分咲きの桜にふと昔を思わせる。 「坊主、何してんだ?」 「な、関係無いだろ」 近くによってきたモノマと葛葉の姿を見るや警戒する慧流、一体何者か――と思ったその時。 「ふむふむ……さては、告る気だな」 「ば、ばっかじゃねぇ!? 告るとかそんなんじゃないし!」 突拍子もなく突かれた図星発言に、慧流は激しく取り乱し始める。 「ははっ、照れるな照れるな」 「なーでーるーなー!!」 わしゃわしゃ頭を撫でるモノマとじたばたしだす慧流。 その度に慧流のショートカットが乱れ、喚き散らす。ある意味仲睦まじい光景である。 「\イチヤン/」 「それぐらいにしておけ」 ミーノの呟きはさておき、現れた葛葉の言葉にモノマも頭を撫でくりまわすのをやめると、慧流もまた少しは落ち着きを取り戻す。 「済まんな、俺は義桜葛葉。こっちは付喪モノマだ」 「山田慧流。で、まぁ告ると言うかそんな感じのことするけどさ」 慧流が濁しきれてない言葉を並べる。言っていることはアークで渡された資料と大差なく、それを子どもっぽくややこしくしているだけだ。 「なるほどのぅ」 「ん~ん~……」 さり気なく入ってきた瑠琵とミーノがうなずく。 「どうだって良いだろ俺のやり方なんだし。それより退けよ」 また人が増えたことに焦りつつ、場所を変えようかと歩み寄る。 「それはいかんのじゃ、もう少しココで待ってて欲しいと美々からの伝言なのじゃ」 「美々からって、マジか?」 前言撤回。告白する子の名を聞き、歩みでた慧流の足が止まる。 「大マジじゃ、その様子だと自分で探しに行こうとしてたかぇ?」 これまた予想通りの事を指摘され、慧流が呻く。 「わかった、もう少し待てばいいんだろ。けど来たらあっち行けよな!」 「ま、それまでは俺らがいいことを教えてやるぜ」 「ぐぎぎぎ……」 モノマに対しては牙を剥き出すそぶりを見せる慧流。 何はともあれ、これでしばらくは話す時間ができそうだ。 ●取材敢行 「すいません、今日卒業生の取材をさせていただけるとお伺いしていた者ですが」 1階校長室。学校長と対面したガッツリの目がどこか怪しく光る。 「あぁ、はい。生徒の意思を尊重していただければかまいませんよ」 学校長はそういうや『報道関係者』と書かれた3人分の腕章を引き出しから取り出す。 普段とは違う口調にヒヤヒヤしつつも、これでひとまず怪しまれることはないだろう。 「バッチリだお!」 「ナイス、ガッツリチャン。短時間で済ませるぜ」 やりきった顔で校長室から戻ってきたガッツリを柿木園 二二(BNE003444)が出迎える。 慧流班が足止めしていても長々と居るのは得策ではない。ガッツリの千里眼が美々らしき少女の一団を捉えると、腕章をつけつつ急いで教室前へと向かった。 「あの子でござるな」 現場に向かうと、教室で顧問の先生と談笑する目隠れ少女――美々の姿を『おとこの娘くのいち』北条 真(BNE003646)がこっそり確認する。 彼らは話のタイミングを見計らい、教室のドアを開ける。 「こんにちわ、今日はよろしくお願いします」 カメラを持った『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)が先生に対し、開口一番丁寧に挨拶する。 「えっ、はぁ」 ちらと壱也の腕章を見て報道関係者と判断するが、突然の来客には流石に動揺する。 (ガッツリちゃんお願い) 「(おおおっ!?)そう時間は取りませんので……」 壱也のアイサインにガッツリも一緒に説得(という名の魔眼)すると、先生も何となしに了承する。 「あの先生、この人達は」 「どうも驚かせてごめんねー、卒業特集の番組制作に協力してもらえるかな?」 気になった美々が先生に尋ねると、代わりに記者に扮した二二が笑顔で返答する。 いきなりの取材に動揺しつつも、美々は取材を受け入れる。 「宜しく、おねがいします」 「まずは卒業おめでとう、クラブ活動とかどうだったかな?」 ――少しなら山田くんも待ってくれるはず、そう思ったから。 ●彼はまだ恋を知らない 「ホラ、これがプレゼント」 「ハートのリングとは随分ベタじゃのぅ」 「うっせバーカ!」 ところ変わって桜の木の下、慧流がポケットから取り出した『恋せよオトメ』が、彼の手の上で転がっている。 決して高いものではないが、お小遣いを貯めて買うには高い買い物だったことが伺える。 「それでもむき出しってのはなぁ、好きな奴に渡すなら小奇麗にしなきゃな」 モノマはケースを取り出すと同時にアーティファクトを素早くひったくり、ポケットに収める。 既にケースの中には同種のリングが入っている、革醒していない列記とした装飾品だ。 「あれ、俺のプレゼント盗ってないだろうな?」 「ないない、ホラ」 ケースを開けてハートのリングを確認させた後、閉じてケースをラッピングし始める。 「あいつも悪い奴じゃないんだ、ちょっとは勘弁してくれ」 「\モノマンッ/もこいのおたすけなのっ」 やや不信気味の慧流を2人がなだめる。 「なあ、慧流。少し、俺の話を聞いてくれないか?」 「……」 悪い話ではない。そう言い含めて了承させると、葛葉は自身について語り始める。 「俺にも好きな女性が居た。……昔は弱くてな、年下の彼女に頭が上がらなかった」 桜を見、感慨深く語る葛葉。それははるか昔の恋話。 「へー。で、その後どうなったんだ?」 慧流の問いに無言になる葛葉。それに対して食い下がるも、彼はただ『さて』『もう逢えないからな』と言葉を濁す。 「ん~、ミーノはやっぱりまちがったあぴろーちだとおもうの~」 ミーノのゆるい言葉にトゲはないが、慧流は思う節を突かれたせいもあり、黙りこんでしまう。 「すきってきもちのぎゃくこうどう、ちゃんとしないときらわれちゃうよ?」 「知ってるし。けどそのさ、恥ずかしいし」 「恥ずかしいから悪戯かぇ?」 慧流も察してはいたが、それを表現する方法を公にできないでいた。 それに至るまで様々な理由があっただろう。しかし、何よりも大事なのは――。 「少なくとも、美々はそんなお主の気持ちには全く気付いておらぬ」 「ミーノもそういうことされたら、いやーってなるの~」 美々が慧流のやり方を理解していないことを真っ向から伝えること。 それは、それだけは紛れも無い事実。 「美々ちゃんは慧流くんのこと、嫌い?」 「それは……」 二二からバトンタッチされた壱也の問いに美々がもじもじしだす。 美々もまた、慧流の事が気がかりだった。だけど引っかかるこの感情がもどかしく、きっと『拒絶』されるという不安を駆り立てる。 ――つまる話、彼女もまた踏ん切りが付けられていなかった。 「嫌いじゃ、じゃないです。山田くんにもきっと優しいところがあるのかなって思うけど……」 けど、単に弄りやすいだけなのかも知れない。そう思うと言葉も足も出てこない。 「男ってバカな生き物で、好きな子にはちょっかい出したくなっちまうんだよな!」 「そう、なんですか?」 「そうそう、足引っかけたりスカートめくったりとか」 二二の言葉に少し前の出来事を思い出し、美々の顔がみるみる真っ赤になる。 「それで、今日は何か約束があったんじゃない?」 2人の話が温まった所でガッツリが割り込む。 「えええっ! なんでそんな事知っているのですか?!」 「本で占いコーナーも担当してるから、なんとなくわかるよ?」 その言葉に何となしに納得する美々。占い効果恐るべし。 「今もきっと待っていると思うぜ、このままサヨナラは寂しいだろ?」 二二が手持ちのアクセス・ファンタズムをちら見する、そろそろ頃合いのようだ。 「美々ちゃんと約束したもんね? 慧流くんは約束を破ったりする?」 「ううん……でも、怖い」 震える美々、まだ何処かでわだかまりがあるのだろう。 その手を2人のリベリスタが優しく握る。 「途中まで一緒に行こうか」 「……はい」 泣きそうだけど、彼との約束。これが最後かもしれない。 だから後悔だけは、このわだかまりだけは残したくなかった。 校舎から出る前に、ガッツリは腕章を2人から回収し別行動となる。 「それじゃここまでのあちきからプレゼント」 ガッツリは袋の中を探り、紙片を折りたたんで入れた後、その品物を美々に渡す。 「手袋?」 「良い事が起こるまで手袋とらない方がいいよ? 取っていいのは良い事があったら。 手袋はサービスであげちゃう、桜の木の下で今も待ってくれるからいってあげるといいよ」 「ありがとうございます……?」 身につけようと手を通すと何かが引っかかる。 「あの、これ」 「これもプレゼントだと思うぜ?」 中に入っていたのは、遊園地のペアチケット。 送り主ことガッツリは、既にその場から立ち去っていた。 ●二人の想い 「もうすぐ来るみたいだぜ。それと、これ」 モノマがラッピングしたケースを渡す。 「好きな奴に意地悪とかすんじゃねぇぞ。してたんなら……悪い事した時、どうするか学校で習っただろう?」 「判ってるからあっちいけ」 「にふふ~♪ ほんとはね~とってもとてもすきなんだよねっ♪ ふぁいとぅっ!」 「いいからあっち行け、あっち!」 赤面させて狼狽える慧流を尻目に、リベリスタ一行は美々の姿を確認すると桜の木の下から退散した。 「おまじないかけてあげるよ、ふぁいとっ」 「大丈夫だよ、美々チャン。行ってこい!」 「……私、頑張ってみます!」 壱也が頭を撫で、二二が背中を押し――少女は理解ある大人達に見送られ、約束の地へ向かう。 「リングは確保完了。あとは坊主の告白がどうなるかだぜ」 アークに連絡を入れて帰る者。恋せよオトメをテーピングで包み、恋人へのリングをどうするか考える者。 「さてさて、2人はうまくいくかな?」 「やるだけの事はやったのじゃ」 そして、さり気なく大事なシーンが見える位置に隠れる一行。 慧流を考慮して使わなかった強結界もここで使い、準備は万端。 「遅れてごめんなさい!」 「時間書いてなかったし、別にいい」 思いや伝えたいことを胸に。 桜の木の下で今、二人が出会った。 ●桜の木の下に―― 「……これ」 「え?」 慧流はラッピングされたケースを恥ずかしそうに手渡す。 「あと、今までごめん」 顔を背け、矢継ぎ早に美々に謝る。恥ずかしさからか顔は酷く紅潮している。 「……うん、ありがとう。大丈夫?」 プレゼントを受け取る美々の表情は、何処か不安に包まれている。 「それで」「そのっ」 「……お前からでいいよ」 同時に放った言葉にしばし詰まりつつ、慧流に譲られて美々から切りだす。 「その、ありがとう。今まで、助けてくれてありがとう」 思い返せば嫌なことばかりではなかった。逆上がりができない時は助けてくれたし、一輪車の乗り方も教えてくれた。 けど、嫌なことや意地悪されたことばかりが浮かんで、逃げようとして、それで、どこかで後回しにしていた自分が確かにいた。 でも、これで会えるのもきっと最後。 だからどうしても伝えたかった。 「…………」 その言葉に慧流はしばし沈黙し、切りだす。 「俺、美々のことが好きになっちまったみたい」 言葉で表せなくて、あるいは同級生からからかわれるのが嫌で意地悪をしていた。 それは男子同士の交流でなら些細なこと。しかし、相手が女の子なら嫌がるとついさっき知った。 そう教えたのは、突然現れた妙な大人達だった。 「見ているこっちが不安になるな」 「どきどきするの~」 そんな大人達は、草むらでまだかまだかとその様子を覗いている。 「山田くん、本当は優しい子なのかなって思っていたから、ずっときにしてたの。でも、でも――」 嗚咽と共に告げられた言葉は、慧流を動揺させる。 「でも?」 「でも、本当は好きだった、ううん、好きだけど……」 うつむき、言葉につまる美々。 慧流も恥ずかしくて、ドキドキして言葉が出てこない。 沈黙が2人の間を隔てていく。 『本音でぶつからねば悪戯と思われ――お主の恋は終わるのじゃ』 ふと、告げられた言葉が慧流の脳裏をよぎり……少年は覚悟を決めた。 「美々!」 慧流はなにか吹っ切れたように顔をあげ、次の瞬間美々に抱きついた。 本音どころか体ごとぶつかるアピールっぷりに、リベリスタ達もにわかに興奮する。 「ひゃわ!?」 2人の身長差はあまり変わらない。美々は不意なハグによろめくも、慧流に支えられて踏みとどまる。 「俺、美々にかまって欲しくてまた意地悪するかもしれない。けどそれぐらい美々が好きだし、美々のこと、好きなんだ!」 言い切り、慧流はぎゅっと美々を抱き締める。 不安と言い切った本当の気持ちが入り交じり、まだ幼い彼の体を細かに震わせる。 (慧流君、こんなに震えて……) こんな小動物のような慧流を、美々は一度も見たことがない。この機会がなければ見ることすら無く、単に意地悪する子としか感じずに卒業していただろう。 「ほんとに、本当に私でいいの?」 不安げな慧流の頭をそっと撫でつつ、言葉を返す。 「うん、美々じゃないとダメだ!」 「中学に行っても、また会う頃にはまた卒業しちゃうかも……」 「その時は飛び級してでもなんとかする!」 その言葉に、美々の顔がほころぶ。そうだ、いつもこんな口調で無茶なことを言っては困ってた私。 けど、この願いだけは叶えられる。叶えたいと思った。 「それじゃぁ、その……これからもよろしくね、慧流君」 しどろもどろながらも美々が出した答え。慧流の思いが美々に届いた瞬間だった。 「あいのきゅぴっとさくせん、だーいせーいこー♪」 「きゃー!!?」 真っ先にミーノが飛び出し、見られていたことに顔をゆでダコのように真赤にする美々。 それと同時に、シャッター音が鳴る。 「いい絵がバッチシとれたよ!」 「と、撮るなぁー!!」 壱也のベストショット宣言に、同じく顔を真赤にしてカメラを奪おうとする慧流。 二人はきっと似たもの同士。瑠琵はそう思いながら本懐を遂げ切った慧流に向け、傍目に見えぬよう小さくサムズアップした。 桜の木の下に恋が実り、風に揺れ散る花びらは嬉し涙のよう。 願わくは、この恋が長く続きますように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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