● 鋼鉄の壁に隠れた檻の中、佇むナニカがある。 それは人のようで人ではなかった。全身が刃物で出来ているからだ。文字どおりに。 両腕は刀の形をしているし、全身の皮膚いたるところを突き破って刀剣が生えている。生きた剣山と言えばこうなるのか。 異形はゆるりと腕を振りかぶる。その動きに合わせてキシキシと金属が擦れ合う音が響く。 シュン 風も吹かない檻の中、振りかぶった腕が大気を押しのけて袈裟がけに動いた。 瞬間、人影の対面にある壁に大きく斜めの線が刻まれて、その線に従うように壁がゆっくりと滑り落ち、閉じていた檻に新しい空気と轟音が入る。 それを見ていた男が口を少しだけ歪ませて言う。 「ふむ、どうやら第一段階はクリアの様だな…… なら、次は実働テストと言ってみようか」 楽しみで仕方がないと言う声を出しながら男は笑う。 ● 「皆、色々と忙しい中集めてしまって申し訳ないわね」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が集まったリベリスタを見渡して言う。 「今回の敵はエリューションなのだけれど、正体がわからないわ、いずれの分類にも当てはまらないの。 アーティファクトを使っているようでもあるし、ノーフェイスのようでもあるし、突然変異で生まれたような敵よ。」 いつもは的確な指示を下す少女にしては歯切れの悪い言葉に顔を見合わせるリベリスタ達。 「申し訳ないわね、不確定要素を貴方達に任せるのは心苦しいのだけど急がなければならないのよ」 画面に示された映像を示すイヴ。 映像のエリューションは人の形をしているが、その縁を多くの刃物が彩っている。 「敵は一体、知性は無いけど反面戦闘力はとても高いわ、強敵よ 目的は一般人の殺害、貴方達が遅れるとかなりの数の人が殺されるわ」 流れるようにイヴは解る限りの敵の詳細な情報示す。 「戦闘方法は両腕を駆使して使うソードミラージュに酷似した技の数々 さらに両腕の刀は斬撃の強化と飛ばすことを可能にしている、その一撃は強力無比 武器だけじゃなくエリューション自身は近接攻撃に対する反撃や高い防御力と生命力に加えて自動回復を備えているわ 出現場所は昼のビル街に出現するけど、今から出発すればこのエリューションが人を切り始める前に遭遇できる、ただし早めの撤収を心掛けてくれると嬉しいわね」 最後に、と前置きしてイヴは言葉を続ける。 「その場所から離れたビルの屋上で複数六道のフィクサードがこのエリューションを監視しているわ、私にも詳しい位置は見えなかったし、向うから直接手は出すことはないようだから今回の任務では放置して、素早くエリューションを倒すことだけを考えて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月21日(水)23:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●語る奇想曲 風が唸りを上げて吹きすさぶビルの屋上に、白衣を風に任せて流す医者風の男の姿があった。男の回りはカメラや集音マイクなどの測定機器が男の部下達の手によって手際よく設置されていく。 男はそれをこの少し後に始まるであろうショーの前座を見るような目でその様子を見ていた。其の目に映るのは喜びの色、己が力を注いだモノが動くということに対する純粋な興味と喜びが渦巻いていた。 白衣の男の隣に周囲の様子を警戒していた護衛が付いて報告する。 「アークのリベリスタ達がこの周囲を目指しているようです、対象はアレだと思われます」 報告を聞いて男は大げさに肩をすくめる。 「やれやれ、向うのお得意の事前察知か。一般人を少し殺してその様子を見るだけだったのに、これじゃあ実働テストが実戦テストに早変わりじゃないか、いやぁ困った困った」 全く困っていないように、むしろ楽しげですらあるように嗤う。 彼らの名は、六道。 見果てぬ真理の扉を目指す者達。 ●動く前奏曲 ざり、裸足の足が日差しに照らされたアスファルトを踏む。動くたびに足音とは違う音が響く。六道の観察対象でもあるソレはその異様な異形をリベリスタ達の前に曝した。 「お前は六道に作られたのかい? そこまでしたって闘い続けたかったのかはしらねぇが、お前の業は俺が断ち切ってやるよ」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)がチェーンソーの切っ先を剣士へと向けて言葉を流す。 だが剣士はなにも答えない、その濁った眼に知性の輝きはない。その様子を見て影継はいらだちを隠さない。 「けっ、胸糞悪くなることしてやがんな」 剣士の異形を見て『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)も軽く眉をひそめて呟く。 「気味が悪いことには変わりありませんが……今は詮索よりもこの敵を止める事が大事ですね」 ガントレットをゆっくりと握りしめて戦闘態勢を整えた彩花に目を向ける剣士、敵対する意思を感じ取った目に仄暗い光が灯る。 「向うもただでやられてくれるつもりはないようだね」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は言葉と共に携帯を操作する。一瞬の光の後に戦闘態勢を整えた疾風の姿が現れた。 「だけど、お前の目的を見過ごすわけにはいかないね」 「そうだな、お前は俺達の敵、この場に今あるのはそれだけだ」 『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)がパチン、と指を鳴らして人払いの強結界を張る。場を整えて頬を少しつり上げて笑みを作れば 「戦う理由は、それだけで充分だろ? 剣士さんよ」 好戦的な言葉が漏れた。 「そうね、六道の事も気になるけど、やることはしっかりやらないとね」『』片桐 水奈(BNE003244)は戦闘に備えて後ろに下がる。 「それじゃ、徹底的にやろうぜ!」 影継が周りの仲間が武器を構えたのを確認して音頭を上げる。同時に一陣の風が吹いた。 ●風なりの即興曲 剣士がわずかに膝を落とし、一瞬で伸ばす。硬質化した足の指が地面に食い込み溜めた力を解放して一気に接近、わずかな動きで最高の動きにギアを入れる。 そのまま前に立っていた疾風に右腕を振るう、残像を生み出す程の高速で振るわれた腕、今となっては剣になってしまっているそれは身を捻って避けようとする疾風の胸のあたりを切り裂いて振り抜かれる。 「ぐっ!」 一瞬で走った鋭い痛みに顔をしかめて身を捻る疾風。遅れて血が流れ始める。 「っ!」 『』来栖・小夜香(BNE000038)は癒し手としてその傷を即座に治そうとするが、作戦上の小夜香は最後に動かねばならない、回復が一手遅れてしまうことにとはいえ歯噛みする。 「大丈夫だ、この位ならまだ支障はないぜ」 (しかし、一撃でこれか……またなんつーものを作りやがるんだ、六道の奴ら) 内心の焦りを隠して構えを取る疾風、流れる血は止まらないが弱音を吐くわけにはいかない。 「そこですっ!」 腕を振り抜いて攻撃を止めた剣士に彩花が恐れずに拳を振るう、残念ながら弱点のような場所を見つける事は出来なかったが、高速で振るわれた拳は纏った空気を氷に変えて破壊力を増して剣士の体を穿つ。。 「……っ」 敵の体に触れた感触が拳に伝わると同時に、先程の疾風程ではないが剣士の体中に生えている刃物のうちの一本がカウンターのように彩花を切り裂いて血を流させる。 「あの体、歪ですけどとても厄介ですね」 出来た傷に目をやりつつ呟く彩花。 「遠距離から撃てば厄介でも関係ないです」 『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)がトリガーガードから引き金に指を掛けて一息に引き絞る。消音機によって発せられた極小の発砲音を従えて細長い杭が高速で放たれる。 肉を抉って道路に杭が刺さる、足を食いちぎって行った弾丸には目もくれず流れる血が目に入ろうとも剣士は何の反応も示さずに腕を引き戻して闘いを継続する意思を示す。 「そうこなくてはな! 我が全身全霊の一撃。その身を以て篤と味わえ!」 肉体の限界を超えて、研ぎ澄まされた一撃を叩き込む美散、彩花と同じように反撃が襲う堪える様子はない。それどころか両腕で重ねて自らの渾身の一撃に耐えた剣士の姿を見てさらに深く獰猛な笑みを作る。 「ふはは、流石に一撃で倒れるようなことはないか」 ランスを引き戻して離れる美散、その間に影継が割って入る。 「一撃でダメならもう一発喰らいやがれ!」 高速で回転する極小の刃が連なって剣士を襲う、激しい火花と轟音がせめぎ合うこと数秒。澄んだ音が響く。剣士の体に生える剣が一本へし折れて舞い、刻んだ傷が回復を阻む。 「へっ、どんなもんだ」 「こっちは回復するわよ、福音よ、あれ」 「いきますのですよ~」 小夜香と『』来栖 奏音(BNE002598)がそれぞれの癒しを奏でる。二重奏になったそれはその場にいる仲間全てに降り注いだ。 ●破壊の円舞曲 剣士が動き、攻撃を行うたびに傷つけられた組織がズルリと音を立てて蠢く、本来なら力を得た彼の体は抉られた脚の肉、凍傷になりかけている腹の傷、ズタズタになった各組織を埋めていくはずだが異常なまでに深く叩き込まれた斬撃がそれを妨害する。 「まだまだ俺達の攻撃は終わってないよ」 「そうですね、行きますわよ」 疾風が大きく、剣士に背を向けるように体を回す。遠心力を殺さぬように左足で地面を蹴りつつ体の回転を縦に変えて右足の蹴りを放つ。 彩花がその場で軽くジャンプ、腰の入った大きな蹴りを空中で放ち、動きに従った長い髪を翻して着地する。 二人の拳士が放った蹴りは二人の前に真空の空間を発生せしめ、それが指向性を持つ。何度か剣士が放った遠距離斬撃に似たそれは同時に放たれ、重なり、十字を描き突き進む。 まともに当たれば剣士の体にさらなる深い傷を負わせるであろうそれを右手の剣を下段からかちあげる動きで弾く剣士。一瞬の鍔迫り合いを演じて、剣士の腕の欠片をわずかに飛ばし逸れた軌道で肩を浅く裂いたその先で空間でもう一度空気を受け入れ真空は散る。 「あれを受けてもあの程度か……」 疾風が上がった息を整えつつ言う、二人の一撃は確かに渾身であった。剣士がそれを受ける事が出来たのは自身の技量によるものであった。 体から生えた剣を赤い血が伝い落ちて赤い斑を作る。軋む駆動音を上げて剣士が体を捻る。 「何かが来ます! 気をつけて!」 剣士の動きに連動して戦闘全体を見ていた水奈が声を上げる。 水奈の声が終わると同時に剣士が両手を煌めかせる。 「……!」 両腕で空間に刻まれた斬撃の数は8。距離の壁を越えて等しくその場にいる全員に必殺の威力が込められた斬撃が襲う。一斉に鮮血が舞い飛ぶ。 「私が倒れるわけにはいかないのですよ」 「仕事が終わってないのよ」 後衛の奏音と小夜香を庇った水奈が倒れるが二人ともこの死闘へ参加し続ける覚悟で立ち上がる。一撃で戦線に影響する一撃が撃たれたがもう一度立て直しを図ろうとする。 「やばい! まだ終わってねぇ!」 そこに影継の焦ったような声が響く。全員がその声に顔を上げれば歯車が擦れ合うような音がもう一度響く。剣士の体から生える剣一本一本が輝く。その場で独楽の様に廻る剣士、刃先がなぞった斬線が嵐のように飛び跳ねる。 斬撃がリーゼロットのボディースーツを切り裂いて、流れ出す血がアスファルトを汚す、リーゼロットが膝をつくことでその血だまりがさらに大きくなる。彼女は歯を食いしばり、膝を持ちあげて血と一緒に流れていく運命をつなぎとめる。 「皆、お願い、立って!」 小夜香は待機もせずに癒しの風を放つ。掲げられた十字架から生まれた癒しは仲間の血を止め、倒れかけた仲間達の気力をつなぐ。 「私もいますよ」 水奈が手にする書に記された聖句を朗々と歌い上げる。小夜香の力によって埋った傷に暖かく水奈の声が沁みる。 「助かりましたわ、これでまだ戦えます」 彩花が先程剣士にそうしたように、つま先で斬線を描き斬撃を飛ばす。まっすぐに飛んできたそれを剣士は縦に揃えた両腕で防ぐ。両腕に罅がビシリと走るが、防ぎきる。 「一発でダメなら、同じようにもう一発だ!」 疾風が同じ場所にかまいたちを撃つ。剣士が回避を行う間もなく連射されたソレを同じように防ぐ。腕に入っている亀裂は広がり続ける、パキパキと破片が落ちる。 剣士が地面に足をめり込ませる、押し込まれて行くがそれに逆らうように全身でブレーキを掛けて止まる。 「そうだ、そこまでやってこそ俺の敵に相応しい!」 剣士がその声に惹かれるように前を見据えるとそこには美散がいた。刃を食いしばった笑みと共に美散は獲物を叩きつける。剣士の体にある剣が何度も美散を切るが気にせずに槍を引き戻し、石突きに全体重を乗せて殴りつける。 「もう一発だ、持って行けえええ!」 剣士の体と美散の槍の間に剣士の腕が滑り込む、確かにその石突きの先を捉えて防ぎきるはずだった。 澄んだ音が鳴る。亀裂が腕の反対側まで届き、へし折れる。石突きはその勢いを失わず剣士の土手っぱらに突きささる。 「ごああっ」 呻き声を上げて剣士が吹き飛び、地に伏した。 ●剣士への鎮魂歌 小夜香の戦闘終了の報告を受けてアークの撤収部隊が到着する。 「やれやれ……映画の撮影とでも勘違いしてくれれば良いんだがね」 疾風がリーゼロットに肩を貸しながら歩く。 「コレをどこかで見ている人が居るんですよね……探してみたいんですが」 「それはまたの機会にしましょう、次こそ絶対に首根っこ捕まえてやるのよ」 小夜香と彩花が悔しさを滲ませてそういう。 確かに今回の件は六道が仕掛けてきた案件のうち一つに過ぎないのだ。 「六道は私達を動かして、こんなことをしてなにがしたいんでしょうかねぇ」 水奈も考えが纏まらない、というように髪を軽く掻きながら言う。 「まぁ此処で考えても仕方あるまい。コイツを持って帰れば何かわかるかもしれんな」 美散がしゃがみ込んで拾い上げていたのは先程己の攻撃でへし折れた剣士の腕であった。それは元が腕であった事なんて信じられないように硬く、鈍い光を放っていた。 「そういうわけで、コイツは貰って行くぞ」 美散が立ちあがった瞬間、手にした物体に異変が生じる。 ぶくぶくと表面が泡立ったかと思うと次の瞬間、ドロドロと融け始める。 「なっ!」 それを見ていたリベリスタ全員が慌てたような声を上げるが、液体になった剣士の腕は美散の指をすり抜けて落ちる。同時に転がっていた剣士の体本体も同じように液体となってアスファルトにはもはや染みしか残っていない。 影継が拳を握りしめながら呟く 「これで満足かい? 楽しめたかい? 六道さんよ」 ●闇への序曲 『これで満足かい? 楽しめたかい? 六道さんよ』 集音マイクにつながったスピーカーからリベリスタ達の声が入る。 「あぁ、満足したとも! 楽しめたとも! ありがとうアークの諸君、ただ人を殺して回るよりよほどいいデータが取れたよ」 相手に届かない声を返して白衣の男が笑う。 「さぁ、次は何をしてみようかな」 男は不穏な言葉を風に載せてその場を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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