● 見えない、と言う事は無限の可能性を秘めているとは思わないだろうか。 言うなればそう、シュレーディンガーの猫。 中を見るまで、それは確定しない。 例え本当はただの白い布切れだったとしても。 見えなければそれは分からない。可憐な桃色、扇情的な黒。可能性はまさに無限大。 「――だからつまりだ、あの子のパンツは絶対ピンクのすけすけなんだよ!!!」 繁華街。路地に隠れた人影が、大通りを歩く少女を指差し力説する。 セーターにスカート。足元は寒さ対策か、黒いタイツに覆われている彼女は、そんな話をされているとは気付かず通り過ぎていく。 「お前さあ、確かに論理的ではあるけど……あっあの子の絶対領域完璧」 その隣。同じく隠れていた青年が、にやりと笑う。 スカートと膝上の靴下の間。白い太ももの身が見えるあの姿こそ至高。 だってほら、人間だもの。即物的欲求って大事じゃね? そんな会話を繰り返す、人影の上。隠れていた月が顔を出し、路地を照らす。 其処に居たのは。 漆黒のタイツを頭にかぶり、目と口だけを出した青年と、まるで防寒具の様にニーハイソックスを手と首につけた青年だった。 観察するだけで幸せだ。満足だ。至福。 けれど。 近頃はそれだけでは我慢出来なくなってきているのも、事実。 不意に話を止めた青年達が、視線を交わす。 折角、こんな力にも目覚めたし。 そろそろ、即物的な欲求、満たしちゃっても良くないですか? ● 「……あたしは見えてた方が好みなんだけど。何、初心な青少年には刺激が強いの?」 だらりと椅子に身体を預け切っていた『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は唐突に、入ってきたリベリスタに問う。 如何言う事だろうか。主語を飛ばされては答え様が無い。 真顔でリベリスタを見詰めていた彼女は、面々の表情に浮かぶ怪訝な色に嗚呼、と頷いて言葉を足した。 「なんつーかあれよ、乙女の柔肌とか? スカートの中身みたいな」 普通見たいでしょ。現代男子って奴はみんなこうも草食系な訳? 嘆かわしい。そう溜息を漏らすフォーチュナに、リベリスタの疑問はますます深まる。 一体何の話だ。誰かが口を開けば、フォーチュナは漸く椅子に座り直して先程とは異なる色の溜息を漏らす。 「今からあんた等に話す、倒すべきフィクサード、って奴の特徴よ。 敵は2人。後、なんか……E・ゴーレム『黒タイツ』と『ニーハイソックス』ね。全部片付けてもらうから」 沈黙が、落ちる。 今、やれやれと肩を竦めてみせる彼女は何と言ったのだろうか。 聞き間違いだろう。そうだ。きっと最近慌しいから疲れているだけで、 「……聞き間違いじゃないからね。続き行くよ。 フィクサード1人目、メタルフレーム×クロスイージス。識別名……『ぴょんきち』。命名者はあたしじゃない。 実力はそこそこ。因みに命名理由は簡単。頭から黒タイツ被って目と口だけ出してるから。ほら、兎みたいでしょ。 2人目。犬のビーストハーフ×ソードミラージュ。識別名は……『兄さん』。こっちも命名者はあたしじゃないわよ。 やっぱり実力はそこそこ。んで、……命名理由は、ニーハイを防寒具にしてるから。要するに言葉遊び的親父ギャグ」 マフラーと手袋代わりらしいよ。正直其処は問題じゃない。 頭が痛くなる様な敵の紹介を淡々と読み上げて。フォーチュナは面白そうに笑う。 「ま、普通にやれば負けないよ。因みに、ぴょんきちは黒タイツを履いた足に。兄さんはニーハイと衣服の絶対領域に弱い。 女の子がやれば呪縛に相当する効果与えられるかもね。あ、魅せ方次第だからそこんとこ宜しく。 でも、それが男とか、まぁ…オネエ様だった場合は覚悟した方が良い。憤怒の余り最強になりそう。 あ、討伐に行くのが男ばっかりでもそうなるから。そこんとこ宜しく」 さらり、と恐ろしい台詞が投げ掛けられる。 若干引き攣るリベリスタの顔など見えないと言いたげに、フォーチュナは眼前に広げた資料と睨み合っていた。 「E・ゴーレムの方はフェーズ1。因みに、こいつらのコレクションの中の秘蔵っ子。 ……有り余る愛の所為で目覚めたんじゃないの。勘弁して欲しいけど。 絡み付く事での呪縛と、締め上げる事での攻撃が可能。これを倒すと要するにぼろ布になる訳だけど……その」 奴らは怒りの余り、それまで削った体力を全て回復し襲い掛かってくる。 何と言う執念。何と言う……気持ち悪さ。 言葉を失うリベリスタに、資料を畳んだフォーチュナが若干の苦笑いを浮かべる。 「……こいつら、今までは隠れて観察するんで満足してたんだけど、まぁ、我慢の限界来ちゃったんだろうね。 夜、帰宅を急ぐ女性が沢山いる駅前の通りに飛び込んで、まぁ言う事聞かせてあんな事こんな事するみたい。主に足に。 未然防いで貰う事になるから。……通る道は分かってるからさ、適当に誘惑してぶちのめして来て頂戴」 じゃ、宜しく。 そう告げた彼女の瞳に、若干の哀れみが含まれていたのは気のせいだったのだろうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月17日(土)22:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夕刻。人通りが増え始めた大通りの端の方で。 既に、作戦は開始されていた。 「やだもうー、ティセったら!」 きゃっきゃうふふ。そんな効果音が聞こえてきそうな雰囲気で。 『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411) は、隣の少女、『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151) に抱き着いて見せる。 少々、大袈裟に。目を惹く様に。何処にでも居そうな、しかし全員がニーハイ若しくは黒タイツを履いた彼女達は笑い合う。 時折、確認する様に周囲を見渡す。一瞬だけ見えた黒い何かの残像に、ティセは慌てて目を背けた。 へんたい、というものは何時何処にでも居るものなのだ。そう。多分さっきのも。 共に行動する全員が、それぞれの衣装を、そして脚を覆うタイツとニーハイを着こなしている。 ぱっと人目を引く姿。見られているのだ、と思うと少しだけ、恥ずかしくなってくる。 「……お仕事お仕事!」 小さな声で。照れを振り切る姿を見詰める影は、惹かれるままにリベリスタの後を追い始めていた。 「まんまと引っかかったね! ――女の子を泣かせる悪い人達はボクがおしおきだよ、覚悟してね!」 背景に星が飛び散った気がする。 路地の途中にある空き地。其処に、全員で入ってから。当然の様に後を追って来ていた二つの影に声をかけるのは、『暗黒魔法少女ブラック☆レイン』神埼・礼子(BNE003458) 。 びしっと、ポーズを決めて。変身を済ませた今の彼女は既に礼子ではない。魔法少女レイコなのだ。 後ずさるフィクサードの後ろは、気配を殺し控えていた『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)と『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016) が塞いでいた。 「この変態、どもめ……そんなに、こんなのが、いいの?」 ひらり、と。見えそうで見えないスカートが翻る。 無表情に、微かな嘲笑を載せて。天乃は2人を見詰める。 窮地とも言うべき状況。しかし、フィクサードは怯えるどころか瞳を爛々と輝かせていた。 「全く……理解出来んな」 はぁ、と溜息が漏れる。 相手は、色々と残念な空気を漂わせたフィクサード。しかしまぁ、仕事である以上選り好みをする訳にも行かないだろう。 かつん、とヒールを鳴らすヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)は首を振り、目の前の状況を見詰めて居た。 漸く、状況に理解が及んだのだろうか。それとも若しくは、堪能し終えたのだろうか。 動きを止めていたフィクサードが、悪びれる事も無く武器を取り出した。 「な、何だお前達! 俺達の神聖な時間を邪魔する為に来たのか!」 「幾ら可愛いタイツの乙女だって許さないからな!」 見た目が見た目なら台詞も台詞だった。 一気に冷めた表情を浮かべる女性陣。しかし、ただ一人だけ、引く所か燃え上がる男が居た。 「――黒タイツは夢であり、ニーソは奇跡」 男、竜一の演説は、そんな一言から始まった。 例えば、一つの黒タイツがあったとして。その場合重要なのは、隠されたパンツではない。 例えば、一つのニーソがあったとして。その場合真に目を向けるべきは、絶対領域ではないのだ。 「膝をちょっと曲げたりした時にこそ見える、膝の肌色。黒と肌の色とが合わさるその領域こそが神秘。 そして、ニーソの場合は領域の境目。……即ち、ニーソがフトモモに当たりフトモモが少しへこんでいるその部分! ニーソの価値は、その柔らかなフトモモを連想させるソレこそがキモ!!」 演説はヒートアップしていく。 初めは呆気に取られていたフィクサード達も、感動の眼差しで聞き入っていた。 何だこの人が神か。脚神様だ。 「分かりやすいものに飛びつくのは素人! 正しき道に導かねばならん」 ――見えてないものにこそ、夢と理想を追う姿は買うがね。 清々しい程のドヤ顔で最後の台詞まで言い切って見せる。 崇め奉るように頷く、フィクサード2人。 そんな彼らを満足げに見詰めてから、竜一は表情を崩す。今日は最高の日だ。もっと言うなら大チャ~~~~~ンス! だ。 囮っぷりの撮影は既に持参した小型カメラで済ませてある。ばっちりだ。高性能万歳。 後は、彼らを誘惑する姿をばっちり収めるだけ。笑いがこみ上げてくる。 「うひょおおおお! みんな可愛いよおおお! ぺろぺろ!」 ……嗚呼敵は身内にも居たようだ。女性陣の顔が引き攣る。 何とも言えぬ静寂が、10人もの男女が集う空き地に落ちていた。 ● 何分経っただろうか。天乃と竜一が静かに仁義無き腹パン攻防を繰り返す横で。 沈黙を破らんと動いたのは、ぴょんきちだった。 すたすた、近寄り。少しだけ距離を開けて。じっと見詰める先にいるのは『赤猫』斎藤・なずな(BNE003076) 。 見定める様に、見つめる視線。少しだけ嫌な寒気が走る。次の瞬間。 カッと黒タイツに開いた穴から覗く目を見開いた彼は、早口に捲くし立て始めた。 「ガーリーなスカート、ゆるふわお嬢さんと見せかけてのキュロット。そして、その丸い瞳は気の強さが窺える……。 そんなギャップ萌えの君の見えない其れは恐らく黒。黒のレース! 色気たっぷり、しかし乙女心も忘れない。 飾りにリボンとかついてそうだよね、白でも良いし、さり気無く同色でも可愛いなぁ、どっちだろうなぁ」 何こいつ気持ち悪い。 その場に居る女性は恐らく誰もが思った事だろう。いやまじで其処まで妄想するとか有り得ない。 しかし。 その対象であるなずなは、表情ひとつ変えずに透け感が魅力のタイツで仁王立ちして見せた。 「私はいつでも純白だ!」 どん、と。 効果音が付きそうな程堂々と言い放たれた台詞に、別の意味で空気が凍る。 流石のリベリスタも、そして言われた本人であるぴょんきちですら返す言葉の無い状況で、なずなは更に続ける。 「なんだその絵に描いた様な変態的ビジュアルは! ぴょんきちの名が泣いている! そもそも黒タイツは頭に被るものではなかろう! 履くものだ! ちゃんと履け!」 ミニスカ着用で、と続く。ちょっと待って欲しい。それはもっと不味くないだろうか。 仲間からツッコミが入る前に気付いたのか、なずなは慌てて発言を訂正する。 その横では、『ダークマター』星雲 亜鈴(BNE000864) が興味深げにニーソ防寒の兄さんを見詰めて居た。 ニーソやタイツに興奮する。そんな敵も居るのか。 未知なる、しかし正直全く必要ないであろう新たな知識に興味深げに頷く。 幸いにも、自分は常日頃からニーソを身に着けている。ならば。 「……満足させてやろう」 そんな呟きが聞こえたのだろうか。兄さんの指先が、遠目に亜鈴の露出した太腿の長さを測っていた。 合格だ。そんな風に唇が動いたのが見える。その目測力を他に生かせばいいのに、と言うのは言ってはいけない事である。 「欲求があるなら聞いてやらない事もないぞ」 先ずは油断させよう。そんな目的を持って告げられた台詞に、兄さんの目が怪しく煌めく。 「なんだって? ボーイッシュニーハイ乙女な君ならそうだね、……ぜ、是非、その太腿を撫でさせてくれ!」 ボーイッシュ全く関係ねぇよと言う突っ込みも、してはいけなかったのだろうか。 広げられたのは、場違いなレジャーシート。揃えて置かれる靴。 そして。 ぺたん、と下ろされる腰。は、と思い出したように、スカートを押さえてもぞもぞと動いて。 此方に向いた足の裏までを包み込むのは、聖なる黒タイツ。 「どんなのが満足させられるんだろう……?」 小さな声が漏れる。誘惑を目的に。確りと相手の様子を確認しながら、レイチェルはポーズを変えて見せた。 これぞまさにサービスタイム。スーパーレイチェルタイムとでも言えばいいのだろうか。 目移りする様に瞳を彷徨わせていたぴょんきちが、据わった瞳でレイチェルへとにじり寄る。 「清純派? しかしその割には未知の色気に満ちている……ううむ、君、君の其れは……縞パン! どうだ! どやあ、と言いたげな顔。ぴくり、レイチェルの眉が跳ねる。 覚悟はしていた。寄って来られるだろうと。しかしそれでも恥ずかしい。 「へ、変態……っ!」 かぁっと紅く染まる頬。上がる歓喜の声。嗚呼罵倒すらご褒美でした。 移動を続けていたぴょんきちが、遂に堪え切れなくなった様にレイチェルへと駆け寄って来た。 「や、やだ、前衛頑張って!」 「それにしてもなんて可愛いうさぎさん……、なわけないのです」 流麗な軌道を描いて。振り上げられた脚が生む鎌鼬が、レイチェルに纏わり付かんとしていたぴょんきちを切り裂き倒れ伏せさせる。 本当にあんな格好する奴がいるだなんて。恥ずかしくないのだろうか。 しかし。自分の本当の敵はこの変態兎ではないのだ。そう。 「いいねぇ、いいねぇ、幼くもしなやかな脚がサイハイに包まれている! 最高だ!」 この、変態犬野郎なのだ。 「っもー、やだぁ……」 自分猫だし。気持ち悪いし。正直全く相手にしたくは無いが宿敵だ。 次からは全力の拳で燃え散らしてやろう。そう硬く心に決めつつ、纏わり付かんとしてくる男を彼女はかわす。 こうして漸く、フィクサードとの交戦が開始された。 ● 激しくなる、と予想されていた戦闘はしかし、完全にリベリスタの優位で進んでいた。 ぴょんきちが攻撃を仕掛けようとすれば、それより先に黒タイツ陣の誘惑が彼を苛む。 ならばその敵を排除しよう。そう、兄さんが動こうとすれば今度は魅惑のニーソ陣がそれを阻んでしまうのだ。 「とぉりゃぁ! ボクの一撃、くらえーっ!」 飛び上がり振り回された武器に合わせてふわり、舞い上がる着物の裾。 慌てて覗き込む兄さんの身体に、さくり、と鋭利な大鎌が突き刺さっていた。 まさか避けないとは。流石に哀れか、と思い、礼子は小さく首を傾げ問いかける。 「だ、大丈夫……?」 「心配するなよ魔女っ子! き、君の中身……ガード固いな……けふっ」 真顔で親指を立てる姿に、溜息が漏れる。 怪我って言うかもう既に中身が手遅れなのだろう。そう思い頷く彼女の、後ろ。 それまで大した動きの無かったそれが、遂に牙を剥かんとしていた。 しゅるしゅるしゅるっ。そんな音を立てて。手触りの良い黒タイツが、可憐な魔法少女(笑)の身体を絡め取る。 油断していた。身動きが取れない。さ、っと青ざめる彼女の前で。 「お、おお……! 良くやった俺の嫁! これで、これで俺の悲願は、叶う!」 「ちょと、動けな……やだ、近寄るな! 触るな、へんたいぃー!」 「おおお! シャッターチャンス、チャンスだ!」 にじり寄る兄さん。上がる悲鳴。用意済みだったサングラス型カメラのシャッターを切りまくる変態もう一人。 そんな色んな意味で危険な状況を間一髪救ったのは、ふわり、と脱ぎ捨てられた、黒タイツだった。 投げ付けられたそれに、ぴょんきちが恍惚とした表情を浮かべる前で。 天乃はニーソを直しながら、その瞳を兄さんへと向けていた。 「……一応、用意してきた」 ニーソインタイツ。上級者と言うかもう寧ろ一部の人の趣味を満たす為だけに取られたその方法に、誰もが驚き釘付けになる。 そして。 「ふおおおおなんだ! なんだよそれ! 新しい、新しいぞ、そしてしなやかな脚の絶対領域……際どくって最高だ!!」 ぺろぺろ! そう叫びながら兄さんが天乃へと標的を変える。 詰まる距離。後一歩。後一歩でその脚に届く。兄さんがスライディング気味に地面に倒れこんだ、その時。 「見えそうで、見えないのがいい……んだよね? どっちにしろ、中は……見せない、けど」 ぐしゃり、と。そのしなやかな脚が兄さんの頭を踏みつける。 アングル的には見えそう。見えそうなのだ。なのに。 彼女の熟練の技なのだろうか。履いてないらしいその中身は全く見えない。見えそうなのに。これなんて生殺し。 「く、くそ……っ、だがそれもいい!」 嗚呼、やっぱり手遅れだった。呆れた色を浮かべた彼女の瞳が、今度は竜一を写す。 「……結城、腹パンされたい、の?」 「みんなの勇姿をカメラに収めるのが俺の役目だ! 遊びでやってんじゃないんだよ! でも腹パンは勘弁して下さい!」 やっぱりこっちも駄目かもしれない。 「お、お姉様……っ、そ、その脚舐めさせてくださぁい……!」 ハイヒールまじやっべえ。そんな呟きと共に、漸く天乃のタイツを仕舞いこんだぴょんきちは、凄まじい勢いでヒルデガルドの脚に纏わり付く。 「タイトスカート、そしてまさかの軍服! 超マニアック! お姉様の中身は黒ですか?黒ですよね、わかってまぐふぅ!!」 鼻息荒く語りかけるぴょんきちの声が、呻き声と共に止まる。 タイトなジーンズの、其処。丁度急所とも言うべき其処すれすれに、がつん、と。 迷い無く踏み込まれたのは、ヒルデガルド本人のヒールだった。 「外してしまったな。……嗚呼、無論、次は当てるんだが」 どうだ、満足か? にっこり、怜悧な美貌に笑みが乗る。 ――たまひゅん、とでも言えばいいのだろうか。 黒タイツ破けたりしないかな。そんな妄想をしながら。 身につけた機器の数々で撮影を繰り返す竜一は、縮みあがる思いで目を背けた。 「わーん、燃えちゃえー」 「兄さん共々ぴょんきちを黒焦げにしてやる!!」 炸裂するのは燃え盛る拳と、地獄の業火。 気持ち悪い気持ち悪い。それがありありと表情に浮かぶティセの後ろで、なずなはさっと辺りを確認する。 大丈夫。自分の攻撃は、エリューションを巻き込んではいない。 別に気遣いなどではない、と彼女は自分に言い聞かせる。回復が面倒なのであって決して、大事なものを燃やすのが忍びない訳ではないのだ。決して。 彼女達の猛攻が聞いたのだろうか。遂に、フィクサード達は膝をつく。 「さて、満足した所で倒させてもらうぞ」 此処が好機、と。彼らが体勢を立て直す前に、畳み掛ける様にヒルデガルドや亜鈴の攻撃が加えられる。 そして。 漸く、変態二名はその身体を、地面へと横たえた。 ● 「ねぇねぇ」 ぐったりと倒れ伏すフィクサード達に。魔法少女レイン――礼子は笑顔で、現実を告げる。 「もしボクが80歳でしたって言ったら絶望する?」 一瞬、凍り付く空気。何も言えずに目を逸らすぴょんきち。しかし。 「えっ、合法ロリがニーソですよね? 俺一生ついていきます!」 先程までの疲れ切った顔は何処へやら。兄さんの凄まじい勢いでの返事に、今度は礼子の表情が凍りついた。 結局、ニーソなら何でもいいんじゃね? その横では、大雑把なメモを取りながら、亜鈴が興味深げに幾度か頷いている。 「ふむ、人の欲求という名の生態行動をまた一つ理解した」 帰ったら考察を書かねばならないだろう。そう呟く彼女の事も、兄さんは恍惚とした瞳で見詰めている。 「貴様ら……」 結局懲りて居ないのだろうか。様子を見ていて限界を覚えたのだろう。なずなは足音荒く二人の前に立ち、大きく息を吸う。 「本当に愛があるのならば無理矢理どうこうするのではなく、男らしく正々堂々真正面から挑まんかッ! そんな事で黒タイツやニーソたちが喜ぶと思うのかァ! 答えろ!」 因みに具体的にどう正々堂々とするのかは知ったことではない。自分達で考えろ。 理不尽。しかし何故か胸に来る言葉を言い放ち。なずなはツン、と顔を背ける。 折角燃やさず我慢したのだ。少しくらいは立ち直れと思っても罰は当たらないのではないだろうか。 ちらり、2人の方を確認する。しゅん、と項垂れる姿に、満足げに微笑みかけた。その時。 「……惚れた」 ぼそり。呟くのは、ぴょんきち。 リベリスタが聞き返す様に其方を見遣る。勢い良く立ち上がった彼は、その勢いのままなずなに抱き着こうとし―― 容赦無く、顔面を蹴り抜かれていた。 「うぶっ……そ、そんなところも素敵だお嬢さん、是非もう一回……」 ふらふらと伸びた手が、再度、なずなによって踏み締められたのは言うまでも無い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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