●『夜の翼』と『屍操剣』 「噂は聞いているわ、そちらも中々に上手く行っているようじゃない? さすが、と言った所だわ」 黄泉ヶ辻のフィクサード、ミランダ・鍵守(-・かぎもり)は都会の雑踏の中、携帯電話で知り合いに連絡を取りながら歩いていた。ちょっと聞く限りには、他愛の無い世間話に聞こえる。しかし、その内容は世界の神秘に関する、余人にとって未知の内容だ。 「わたし? ふふ、順調よ。個人的には一気に進めてしまいたかったけど、さすがに無理だったわ。やはり手強かったわね、アークは。貴方が来てくれれば話は違ったかも知れないけど」 ミランダが電話で話す内容に注意を払うものなど、1人もいない。道ですれ違う人は、彼女の見事な肢体に目を奪われてしまう。もっとも、彼女自身そのような視線にも慣れているようだが。 「お互いに順調なようで何よりね。そうだわ、この間美味しいブラッディー・メアリが飲めるお店を見つけたの。今度一緒にどうかしら? 研究成果について、色々と話したいし。……えぇ、そう。それは残念だわ」 電話の相手にすげなくされて、悲しそうな表情を見せるミランダ。もっとも、彼女の表情はころころと姿を変える。ある時は少女のように純真な瞳で、ある時は媚を売る妖女の笑みで、ある時は研究者としての怜悧な声で。 「それじゃ、今後も上手くやりましょう、『屍操剣』。偉大なる狂介様のために……なんてね。……あら?」 別れの挨拶の途中に切られた電話を見て、ミランダはきょとんとした表情を見せる。そして、自分が電話をしていた相手の性格を思い出す。 「ふふ、相変わらず冗談が通じないんだから。ま、そういう所は嫌いじゃないけど」 ミランダは薄く笑うと、髪をかき上げ、携帯を鞄に仕舞う。 「さて、作業を進めないと。口封じに人集め、アレの実験も出来るのは幸いかしら」 考えを巡らせながらミランダは都会の闇の中へと消えて行く。 夜はまだ、終わらない。 ●黄泉ヶ辻、再び 3月頭のとある日、アークに集められたリベリスタ達。そして、その前にいる『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は集まったメンバーへの説明を始めた。 「今回、あんたらにお願いしたい件は、とあるアザーバイドの討伐だ。ちょっと厄介な事情も入るがな」 リベリスタ達は心の中で、「こいつ、どんな事件も厄介な事件と言うんじゃないのか?」と呟いた。しかし、そんなツッコミはおくびにも出さず、守生の説明に耳を傾ける。 「現れたのは鳥のような頭を持った獣人だ。こいつが都内に住む女性を襲うのを食い止めて欲しい」 スクリーンに表示されたのは、鳥の頭を持ち、ボロボロのローブに身を包んだ異形。身体からは蛇が尻尾のように生えている。 そして、一部のリベリスタ達は、もう1つ表示されたアザーバイドの姿に驚きの表情を見せる。以前、黄泉ヶ辻のフィクサードと交戦した際に現れた、ジャガーの頭を持つ獣人だ。 「あぁ、知っている奴もいるみたいだな。これが厄介な事情の1つ目だ。以前、俺から依頼した事件に現れた獣人も、鳥頭と一緒に女性を襲っている。近くにD・ホールが見当たらないから、また別の所で召喚されたんだろう」 鳥の獣人は手に斧を持ち、それによる攻撃を行う。加えて、超音波を発することによっての遠距離攻撃や恐怖のオーラで相手を無力化し、鈍化させるのだという。戦闘力は中々に高く、油断できない相手だ。 ジャガーの獣人は木剣を使った剣技を得意とする巨人だ。同時に複数の相手を切り裂く素早い攻撃と、威力の高い攻撃を使い分けることが、以前の戦いで明らかになっている。他にも何かしらのスキルをもっている可能性も高い。 そこまで守生が説明した所で、リベリスタの1人が質問する。先程、「1つ目の厄介ごと」と言った事についてだ。 「あぁ、それじゃあ2つ目を説明しよう。襲われる被害者についてだ。彼女の名前は大友・歩美(おおとも・あゆみ)。都内の大学に通う女子大生だ。そして、前の事件で生贄に供された被害者、大友・進(おおとも・すすむ)の妹に当たるらしい」 たしかに厄介な事情が多い、とリベリスタ達は納得する。 「真白室長が調べた所、大友進は革醒者ではないものの、素質は有していたらしい。それが生贄に選ばれた理由かも、ってのが本部の見解だ。黄泉ヶ辻のフィクサードは捕えたんだが……今の所、有効な情報は得られていない」 ある程度の期間耐えれば良い、そう思っているように見えるらしい。何を企んでいるのかは相変わらず見えない。しかし、間違い無く水面下で何かが進行している。 ひょっとしたら、歩美から「何か」の情報を掴む切っ掛けが得られるかも知れない。アプローチさえしっかりすれば、何かしらの情報は得られるはずだ。 「それでコイツが最後だ。遠くから黄泉ヶ辻のフィクサードが現場を監視している。場所や戦力は残念ながら不明だ。ただ、介入してくる可能性は低いな。下手に関わらない方が良いだろう」 あいも変わらず不気味な連中である。しかし、アザーバイドも強力である以上、戦力を割くのは危険だ。目の前の敵に集中した方が良いだろう。 「出来る説明はこんな所だ。危険な任務だとは思う。だけど……」 説明を終えた少年は、リベリスタ達に精一杯の送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 ●兄と妹 大友歩美は大学からの帰り道、沈んだ顔で歩いていた。 先日、兄が死んだ。通り魔による犯行ということだ。正直、まだ実感が湧かない。 夢見がちなことばかりを言って、だらしがない……言ってしまえば「ダメな兄」だったと思う。まだお互い田舎にいて、自分が中学生だった頃は、口を聞きたいとも思わなかった。 だけど、失ってみて初めて気付いた。それでもやはり、血の繋がった兄妹だったのだと。 それに、ここ1年は良いことがあったとかで、生活も変化を見せていた。それなのにこんなことになるなんて……。世の理不尽が心を切りつける。 「Shaaaaaaaa、Shaaaaaaaa……」 そんな思いに歩美が耽っていると、どこからか野獣の唸り声が聞こえてくる。思わず彼女は周囲を見渡す。すると、周囲を壁が覆っているだけで、何も見えない。 しかし、その認識自体が間違っていることに気付くまで時間は要らなかった。さっきまで道路を歩いているはずなのに、そんなことは起こり得ない。 「か……怪物……」 そして歩美は気付く。鳥の頭を持つ異形の影に。自分を覆う影が、獣の頭を持つ巨人であることに。 歩美は知らない。この怪物が兄が死んだ現場にいたものであることなど。それでも叫ぶ。 「助けて、兄さん!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月19日(月)00:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「鍵守様、こちらが大友歩美殺害作戦の報告書とその時の映像になります」 黄泉ヶ辻に所属する研究員の1人が、研究者らしく白衣姿のミランダに資料を渡す。 「ありがとう、お疲れ様。それじゃあ、分析に入りましょうか」 資料を受け取ったミランダは天使のような笑みを浮かべる。研究員も思わず釣られて笑ってしまうほどだ。しかし、彼女の表情はすぐさま、感情を隠す無表情のヴェールに包まれる。彼女にとっては、報告の内容の方が重要なのだろう。 「なるほど……悪くは無いわね。ただ……」 「はい、どうかしましたか?」 「コレは……何?」 ミランダの表情に浮かんだのは、怪訝な表情。本当に理解しがたいものを見た、そんな顔をしている。 そして、映像資料に映っていたのは……。 ● 「イェーイ! 鍵守ミランダ以下、黄泉ヶ辻の人見てるー?」 映像に映っていたのは、頭の後ろにチラシを貼り付けて、跳ねている木菟の獣人、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)だ。黄泉ヶ辻に対する挑発の意味もあるのだろうが、少なくともこれから戦闘に赴くものの姿には思えない。一応、本人の名誉のために言っておくと、フィクサードに対する警戒はちゃんとしている。 そんな七海の横で、『朔ノ月』風宮・紫月(BNE003411)は真面目な顔で魔術書を開いた。 「アークと、フィクサードとの停戦が終わった今、多くの事件が起きる様になりましたね……。これもまたその内の一つの事件、という事ですか」 2011年末、ジャックがアークによって倒された。それによって共通の敵を無くしたフィクサード達は、次第にその動きを強めている。協約の失効によって、互いの保障も無くなったのだ。事件が次々と表面化してくるのは当然と言えよう。 「偶然か、はたまた狙っての事か。糸を引くフィクサードの意図は知りませんが……」 「えぇ、黄泉ヶ辻が何を企んでいるかは判りませんが……まずは救うべき者を救い、その上での話ですね」 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)の言葉に『不屈』神谷・要(BNE002861)が頷く。リベリスタ達がフォーチュナから聞いた限り、以前、黄泉ヶ辻によって同種のアザーバイド、ジャガーの獣人が召喚されている。黄泉ヶ辻の意図を読み解くことはまだ出来ていない。しかし、その前にまずは目の前の命を護らなくてはいけない。 そんな中、『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)は、被害者となる大友歩美本人よりも、彼ら兄妹の関係に想いを馳せている様に見えた。 「どんな愚兄でも兄なればきっと妹御を救いたかったじゃろう……。わしも妹に厭われておったが、のぅ。それでも妹は可愛いものじゃよ」 長い年月を生きる『少年』にとって、妹との関係は決して良好なものとは言えなかった。それでも、妹の身を案じてしまうものなのだ。以前の事件で殺されたという兄の進も、同じだったのでは無いか、と思ってしまう。 咲夜の様子を見て、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)がクスリと笑う。 「嫌いであっても兄妹。簡単に割切れるものではないですね。これ以上の悲劇を起さないように彼女にために出来ることをさせて頂きましょう」 そして、現場が近づいたことを確認すると、仲間達に翼の加護を与えていく。 その時、リベリスタ達の視界内に不気味な獣人達の姿が映った。それを見て、交戦経験のある『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)の目が鋭く光る。 「あの時殺された人の妹……同じようにフィクサードに狙われるのは何か理由があるのかしら? でも、今度は絶対に殺させない」 そして、リベリスタ達は駆け出す。失われようとする命を護るために。 ● ジャガーの獣人は木の剣を振り上げて、身動き出来ない歩美を切り裂こうとする。よくよく見ると、木剣には黒い石が所々挟まっており、切れ味を与えていた。獣人の巨躯から振り下ろされたなら、乙女の体を引き裂くには十分過ぎる威力であろう。 しかし、その剣が実際に歩美に触れることは無かった。 ガキィンと音がする。歩美の代わりに剣を受け止めたのは、彼女よりも小さな、ビン底眼鏡をかけたゴスロリ少女である。普通では考えられない光景だ。 目の前で展開される景色に理解が追いつかない歩美。しかし、そこに優しく声を掛ける者があった。 「この場は危険です。ここは私達に任せて早く逃げて下さい」 「え!? な、あなた達は!? 一体何なの!?」 さすがに状況が掴めず、戸惑う歩美。しかし、凛子は怯まない。過去、こうした状況でパニックを起こすものは何度も見てきたし、対応してきた。だから、相手の目を見て、真摯に想いを伝える。 「今は説明している暇はありません。ですが、後でなら兄さんの事も解る範囲でならお教えできるかと思います」 「!?」 歩美は何故ここで兄の名前が出てくるのかは分からなかった。しかし、凛子が何かを知っていることを理解した。そして、その瞳に嘘が無いことを。 「混乱するのは、無理はない…じゃが、今だけ、どうか信じてはもらえぬじゃろうか? 絶対に、そなたは守るのじゃよ」 明らかに年下にしか見えない少年からの言葉。普通なら一笑に付されても仕方が無い台詞だ。しかし、歩美は不思議と少年の言葉に安堵するものを感じていた。 そして、歩美は頷き、リベリスタ達が開けた逃走路を走る。決断さえしてしまえば、行動力のある娘なのだろう。 歩美が逃げ去ったのを確認すると、ヘクスは頷き、再びジャガーの獣人を睨む。彼女の目の前にはどっしりとした鉄の扉が置かれる。 「あぁ、言葉は通じないんでしたね。でも、通例ですので言わせていただきましょう」 ヘクスの体を薄い光が包んでいく。 「砕いて見せてください、ねじ伏せてみてください。この絶対鉄壁を!」 「Shaaaaaaaa!!」 「GAoooooooo!」 ヘクスの言葉に興奮したような声を上げる異形達。ここからが本番だ。 「……兄に続いて妹、絶対に護って見せます」 ヘクスと並び立つようにユーディスがジャガー獣人の前に立つ。徹底的に先へは進ませないという誓いを力に変えて。その強い意志を湛えた眼差しを前に、獣人は怯んだように見えた。 「兄妹の絆を断とうとした罪……その身を以て償いなさい」 不気味な姿をした鳥獣人の前に立ったのは、クローチェだ。目の前に現れたシスター服の少女に対して、獣人は己の体から生えている蛇をけしかけ、隙をついて斧を叩き込もうとしてくる。しかし、彼女も負けていない。斧をかわすと全身から気糸を放ち、獣人の動きを束縛に掛かる。勝利条件は、ここから進ませないことだ。 そして、それを一瞥すると、七海はクールに背中のチラシを剥がす。 「カーニバルとか、色々分からないですね。でも、今は集中集中」 軽い言葉とは裏腹に、番えた矢に神経を集中させていく。現れるのは呪いの矢だ。 放たれた矢は残った1体のジャガー獣人に刺さり、悲鳴を上げさせる。それが合図となって、リベリスタ達は集中攻撃を開始する。 「きつねはーふ、はかいとーし、おかしけいじょし! ミーノ! おしてまいるの~っ!」 『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ・ミ-ノ(BNE000011)は、仲間に声援を飛ばしながら、その毒針でジャガー獣人を牽制する。そこに要が、戦いへの意志を極限まで高め、想いの丈を込めた十字の光を放つ。 「あなたの相手は私です」 要の赤い瞳に吸い寄せられるかのように剣を振り下ろす獣人。その一撃は要を捉えるも、要の覚悟まで吹き飛ばすことは出来ない。そして、要とテテロが作った時間はジャガー獣人に対して余りに致命的だった。 紫月の詠唱が完成する。すると、にわかに戦場を雨が包み込む。彼女の魔力に制御された雨は、リベリスタ達を避け、アザーバイド達のみを凍らせていく。 「降り注ぎなさい……魔を滅す、氷雨の嵐……!」 「Shaaaaaaaa!?」 鳥の獣人が悲鳴を上げる。何か、違和感でも感じているかのように。 そして、紫月の呼んだ嵐が過ぎ去った後、要とテテロの前にいた獣人は凍りつき、二度と動くことは無かった。 ● 仲間がやられたからと言って、アザーバイド達の士気が下がるなどということは無かった。むしろ、一層士気を上げ、仲間の弔いだとばかりにリベリスタ達に襲い掛かる。 「Shaaaaaaaa!!」 鳥の獣人が奇怪な雄叫びを上げる。すると、周囲に黒い靄のようなものが立ち込めて、リベリスタ達を包んでいく。靄がもたらす闇の中では、たとえ訓練されたリベリスタであっても、恐怖からは逃げられない。 しかし、闇が恐怖を与えるならば、闇が無ければ臆する必要など無い。 「あまり無理はせんようにのぅ?」 やんわりとした口調で咲夜が呼びかけると、辺り一帯を優しい光が包み込む。彼の手にあるのはかつて妹に読み聞かせた童話が記された本。その暖かな光は恐怖を打ち砕き、邪悪と戦う勇気を与えてくれる。 「無理はしませんが、捨て置ける相手でもありません。大友さんには指1本触れさせませんよ」 咲夜に微笑みを返すと、紫月は再び魔力の雨を降らす。姉と比べて自分はまだまだ未熟だ。だからこそ、多少無理してでも頑張らなくては行けない。そして、この程度のことは無理でも何でもない。 一方、『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)は、冷静に冷静に弾丸を撃っていた。 (『屍操剣』黒崎骸……個人的にはまたその名を聞けただけで収穫です) かつて遭遇したフィクサードの手がかりに逸る心を抑え、正確にアザーバイド達を打ち抜いていく。 「Shaaaaaaaa!!」 傷付けられた鳥獣人が怒りと共に発した奇声は、目の前にいるクローチェの体を切り裂く。しかし、それで彼女に隙が生まれるよりも早く、凛子の呼びかけに応じて現れた癒しの息吹が、傷ついた者達を癒してしまう。アザーバイド達の攻撃力は確かに大きかった。しかし、リベリスタ達に癒し手は十分におり、攻撃が追いつかないのだ。 その時、凛子は視界の端に怯える歩美の姿を捉える。不安そうな顔をしている。当然だ。何事かは理解出来ていなくとも、目の前で自分を助けようとしている人々が傷ついたことを理解するのはそう難しくはない。 そんな歩美を安心させるべく、凛子は声を掛ける。不安に怯えるものを励ますのは、過去に経験済みだ。 「貴女は私たちが守ります」 「えぇ。安心して下さい。……だから、させませんって」 鳥獣人が歩美の方へ注意を向けたのを見て、七海が呪いの魔弾を放つ。黄泉ヶ辻のエージェントが現れる気配こそ無いが、いつ彼女が狙われてもおかしくない状況に変わりは無い。だから当然、残っているジャガー獣人の動きにも油断は出来ない。もっとも、あの2人なら大丈夫だとも思えるわけだが。 「ここから先に行きたければ、私達を倒してからにして下さい」 振り下ろされた木剣を槍でいなすと、バランスを崩したジャガー獣人へカウンター気味に聖なる力を帯びた槍を振り下ろすユーディス。 「ジャガーの方も強そうですが、鳥の方も気になります。そろそろ倒れて下さい」 そこへ追撃をかけるように、ヘクスが組み付き、血を奪い取る。まだまだジャガー獣人は倒れこそしないものの、体力を削られてきているのが見て取れた。一方、リベリスタ達からの集中攻撃を受けている鳥獣人は、それ以上の消耗を強いられていた。 それを察知したクローチェは、舞うようなステップを止め、集中をして鳥獣人に飛び掛る。 「肉親を失った者の苦しみと痛み、味わうと良いわ」 何が起きたのか理解出来ていないという風情のアザーバイド。そこでクローチェが飢え付けた死の爆弾が爆発する。 「Shaaaaaaaa!?」 思いがけない方向からの攻撃にのた打ち回る鳥獣人。 その時、要の剣が鮮烈な光を放つ。夜の闇を貫く、強い輝きだ。 「貴方達の好きには、させません!」 光が鳥獣人の体を貫く。 いや、違う。 要の剣が、貫いたのだ。 そして、鳥獣人が倒れたのを確認したリベリスタ達は頷き、ジャガー獣人への総攻撃を始めた。 ● 「よかった……怪我はしておらぬかのぅ?」 「う、うん……大丈夫だと、思う」 歩美の言葉を聞いて、それは良かったと顔をほころばせる咲夜。その笑顔に、つい彼女は顔を赤らめてしまう。 あれから程無くしてジャガーの獣人は倒れた。リベリスタ1人1人と比べると高い戦闘力を持つが、数の差は埋めようも無い。 「さて、話すと長くなりますが、説明させていただきます。私達も生憎と普通ではないので……」 前置きをすると、凛子はそれぞれについて掻い摘んで説明を始める。当初は混乱していた歩美も、話を聞く内に恐怖も消えてきたのだろう。むしろ、真剣に話に食いついてくるようになった。 その様子を見て、リベリスタ達は踏み込んで質問を開始してみる。 「質問をさせて下さい、居なくなる前。お兄さんに何か変化はありませんでしたか…?ほんの、些細な事でも構いません」 「貴方からお話を伺えれば、貴方のお兄さんが亡くなった理由に、真実に近づく事が出来るかもしれません」 しばらく悩んでいた歩美だったが、リベリスタ達が思いやりを持って接してくれているのを感じたのだろう。ぽつぽつと話し始める。 「兄さんは、いつも夢みたいなことを言っている人、でした。いつも、適当なことを言って、いい加減に生きている、そんな……」 何かを堪えるようにゆっくりと話す歩美。まるで勢い良く話したら、何かが零れ出してしまうかのように。 「そんな兄さんに、恋人が出来たらしいんです、ちょうど1年位前……。多分、あなた達の言う、その人です……」 それを聞いて、リベリスタ達が唸る。あのミランダという女は、それ程前から仕込みをしていたのだ。おそらくは近付いたのも、件の儀式や『カーニバル』とやらの準備の一環なのだろう。 「その人と付き合ってからです。わたしと兄さんが、前より話すようになったのは……。今まで迷惑ばかりかけていたけど、今度は大丈夫だって。最近では、就職活動もしていたらしいんです……。でも、わたしはいつも通りの兄さんだと思っていて……また、いい加減な失敗するんだろうと思っていて……」 進とミランダの関係がどのようなものであったかは想像の域を出ない。しかし、彼女は彼を殺したのだ。わざわざそこまでの時間をかけ、関係を紡いだ上で。 それ程の手間をかける儀式。調べるに当たって、絞るのは難しくないはずだ。 しかして、歩美は話しながら次第に込みあがってくる何かを止められなくなってきていた。 「もっと優しくしてれば良かった! ちゃんと話していれば、兄さんを助けられたかも知れないのに!」 そこまで話すと歩美は、さすがに流れる涙を止められなくなってしまう。後は後悔の涙を流すだけだ。 「お兄さんを救えなかったのは、自分達の責任です……」 七海は不器用なりに、歩美を慰めようとした。自分達に怒りの矛先を向けさせることで、彼女が自分を傷付けなくても済むようにしてあげたかった。しかし、彼女は怒らなかった。詰らなかった。首を振って、リベリスタ達のせいではないと泣きながら呟き、自分を責めていた。 「これからどうするかは、貴方次第です」 「とは言え、もうこの様な怖い思いをさせたくないのじゃ……守らせては貰えないかのぅ?」 何にせよ、一度狙われた身だ。また狙われないとは限らない。歩美を保護するべくアークに連絡を取るリベリスタ達。 そこに周囲を見張っていたヘクスとユーディス達が戻ってくる。 「幸い、黄泉ヶ辻の連中は引き上げたようです」 「……気持ち悪い輩じゃの」 ヘクスの言葉に、ポツリと咲夜が呟く。聞こえないように小さな声で。しかし、嫌悪感を込めて。 「黄泉ヶ辻……貴方達の思い通りには決してさせないわよ」 黄泉ヶ辻が立ち去ったという方向を睨んで、クローチェが呟く。それは一方的ではあるが、強い強い宣戦布告。これ以上、黄泉ヶ辻の陰謀で、人に涙を流させないという誓いだ。 まだ黄泉ヶ辻を覆うヴェールはとかれていない。 しかし、終わらない夜など、存在しないのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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