●『彼』の気持ち 此処が何処だか解らないが、とても住みよい場所だと彼は思った。 二足歩行の巣の上を辿れば、大抵餌が手に入るし、そこを守る四足達も大した事はなかった。 今日もたくさん餌を仕入れて、彼女に運ぼう。もっともっと住処を広げて、皆で暮らそう。 何故なら彼女には、私の――― ●『彼』のお話 「この世界をいたく気に入ったアザーバイドが現れた。気に言って貰えたのはこの世界の住人として冥利に尽きるけど、好き勝手されるのも困るよね」 何を特に気に入ったのかと、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は勿体ぶった。見上げたモニターにようやく映し出されたその姿は、雄々しく前に突き出た一本角を持った馬。たなびく鬣に、青白い身体は、伝説上の麒麟やユニコーンを思わせる。発光していると思われたその姿をよく見れば、それは身体に蓄電された電気だとリベリスタ達は気付く。 「そう、主食は電気。彼は自分が落ちた山の下にある住宅街に走る電気を夜な夜な失敬している。毎日とても大量に。だから最近、ブレーカーが落ちるとか、使ってもいない電気量が計測されて奥様達の家計も大ダメージ」 ああ、それは重大事件だ。一人暮らしをした事のある誰彼なら、夏場と冬場の電気代の請求書を思い出して身震いする。 イヴはそうして付け加えた。 「彼の思考はとても単純。そこにいるボスに勝てばそこは自分のものと思っている。今は向かってきた犬や猫を撃退して、自分のテリトリーになったと思ってるみたいだけど、もし人と対峙でもしたら――結果は容易に知れる」 彼は容赦しないだろう。立ち向かってくるなら、相手が誰であろうとその雷を以て立ち向かう。 相手は獣風体なれど、話は通じないのかと誰かが問い掛けた。それは「難しい」と両断される。しかし、間をもってイヴはリベリスタ達に向き直った。 「知性と情はあるみたい。気持ちを込めて説得すれば、聞くだけは聞いてくれると思う」 情? そのキーワードに首を傾げれば、山の天辺にある一本杉をイヴはモニターに映し出した。 その根元に居るのは、初めに映し出された一本角と似た個体。ただし、やや小柄で角が小さい。そしてその個体が抱いてるのは、もっと小さな幼い個体。それはどう見ても、仔の姿。 彼らの為に、この住み良い世界で食事である電気を求め駆け回っているのは明白だった。が。 「言ったでしょう。彼の考えはとても単純だって。もし説得が成功しても、彼はきっと言う」 ―――ならば、己を撃ち倒してその主張を通して見せてみろ、と。 「それに彼は獣のようで、ヒトのように複雑。誇り高いと言えば聞こえはいいけど、怒りやすいのは確か。聞く耳を持たなくなったら倒すしかない。――初めから倒す方向で考えてもいいけど」 それは任せるとイヴは瞳を閉じた。 彼は、彼なりの騎士道がある。リベリスタ全員が相手になる事は、自分の力量を鑑みれば卑怯だとは思わない。何より正々堂々とした戦いを重んじるという。 けれど、それは異邦者の都合。方法をリベリスタに委ねられた今、イヴは最後にこう言った。 敵わない事はない。いざとなれば角を狙えばいいと。 そこは彼らの弱点だから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:琉木 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月19日(月)23:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●二足達の話 餌は幾らでも充電された。 二足の彼らは一体、何なのだろうか。興味はあった。 そんな時、私は彼らに話しかけられた。 「こんばんは、いい夜ですね」 ふわりと舞い降りながら緊張気味の声をかけたのは、『百の獣』朱鷺島・雷音(ID:BNE000003)。今まで見た事のない翼の生えた人間の姿に、雷を纏った獣は足を止めた。 見ればこの夜半に、殆ど会った事のない二足が八人も居る。彼は首を傾げた。不思議とこの夜は、この八人以外は誰も居ない。それは勿論、リベリスタの技、四条・理央(ID:BNE000319)が生み出す結界の力だったが、それを彼が知る術は無い。かけられる言葉は続く。 「俺達はリベリスタと言う。そして、そちらの事情も知っている」 自らの事情と相手の事情を告げるのは『暗影武式』ネロス・アーヴァイン(ID:BNE002611)。通じているのか、いないのか、彼は身じろぎ一つしない。しかしそれを不安と思わず、誠意の籠め雷音は続ける。 「貴方がここを根城にしているのはわかっています。貴方にも大切な家族がいることは理解しています。ですがここは貴方方の世界ではありません」 彼が他の二足を見やる。偶然目があったのは『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(ID:BNE000589)。この二足も、どの二足も武器を持っていなかった。威嚇する声色でもないのは、彼にも解っている。 「貴方達の食料は、この世界の大事な資源……人々が平穏に暮らす為の、希望の力なの」 だからどうか分かってもらいたい――それは八人、全員の気持ちであるらしかった。言葉を話さない残りの二足へも、値踏みするような視線が向けられる。 その眼光を唯一逸らしたのは『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(ID:BNE003555)。 彼の姿は美しい。伝説そのものの姿に見惚れるようにしていたが、ふと射抜かれた瞳に気圧されたかのように雷音の陰に隠れてしまう。 「我はその……まぁなんだ。初対面の相手といきなり話せるほど我に社交性ないし……ま、任せるぞ!」 理央に付加された翼で同じ屋根に登っていた良子は逸らす視線を決して下へ向けない。高い所が苦手らしい良子の行動は、どこか小動物のようだった。控える『愛煙家』アシュリー・アディ(ID:BNE002834)は思わずふっと息を吹き出す。 「ねえ、それと」 その姿を遮って、再び雷音とネロスが前に出た。 「ボクたちは彼女と子に手をだすつもりはない」 きっぱりとした口調。ぴくりと彼の耳が動く。 「出来れば戦いたくないが、そうもいかないんだろう? だから俺らを試して欲しい。そして判断して欲しい」 ネロスの含む口調には、もし自分達を打ち倒したとしても今後狙われ続ける事。これが最初にして最後の通告だと秘められていた。 彼がその場で佇む事暫し――不意に、バチっと強い音がした。 角に走った電流に一瞬身構えたリベリスタ達だが、それは意を汲んだと示す行動だと知る。首を山へ向け、彼は空へと駆け始める。青白く光る角はまるで灯火。リベリスタ達を導く光となって山へと尾を引いていく。 場を変える意思行動。ついて来いと言わんばかりの彼の布告。 最後まで言葉無く控えていた『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(ID:BNE001789)は、その姿に口端を上げた。 「誰かを護る為に戦う奴の考え方なんざ、どいつも一緒なんだよ」 それは吐き捨てる言葉ではなく、威風堂々たる彼に挑戦するような不敵な笑み。 「てめェの餓鬼に格好良いとこ見せてェよな、雷電」 ●雷電、世界の守護者と対し 彼は言った。あれらがこの地を護る者だろう。 信じられる? まだ解らない。だから私は貴方に寄り添う。 何をも、後悔はしたくないのだから。 リベリスタ達を迎えたのは彼と彼女の姿であった。見渡せば小さな仔は一本杉の後ろからそっと顔を出している。時折不満そうに鼻を鳴らすが、その度に彼女が止めた。 彼女は彼と生きる事を選び、だから支える事を選ぶ。だが、仔は。――この世界を守護するかのように現れたリベリスタ達を前に、親の都合で巻き込むにはまだ幼い。彼らはそう判断したのだろう。少しでも意が汲まれた事に、リベリスタ達はほんの少しの安堵をする。 (俺には、ただの良い父親にしか見えねえがな) その姿を見て思い出を振り切るよう苦笑する『蒼き炎』葛木 猛(ID:BNE002455)は、軽い音を立てて拳を掌で受け、開戦の時間に備える。雷の化身に挑む楽しさもふつふつと感じながら、地を踏みしめて。 「こっちは兎も角、そっちに出て言って貰わないと困るンでな。力づくで来いってんなら本気で行くぜ……!」 リベリスタ達が集うまで立ち続けるその姿は、満月を背に神々しい。 「見れば見るほど 美しい出で立ちだな」 ネロスの呟きは誰しもが頷く所だった。アッシュ、ミュゼーヌ、猛、ネロスが彼の前へ、後方に控えるのは雷音とアシュリー、そして良子。 眼前に立ちはだかったアッシュは痛みの王と呼ばれた棘を、迅雷と呼ばれるナイフを二刀に構えた。 「俺様は雷帝。雷帝アッシュ様だ。てめェの陣地を奪いに来たが、てめェの餓鬼と妻にゃ手出ししねェ。 俺様は雷“帝”だ。王は勝利を盗まねえ。勿論“角”も狙わねえ。 ―――その代わり俺達“群”が相手だ!」 言葉を受けて、彼は後足で立ち上がった。雷が全身を駆け登る。収束された光が角に灯り、猛々しく嘶いた。 受けて立つ。その意思を以て開戦の始まりが告げられた。 真っ先に動いたのは誰でもない、銀の色を持ち、高らかに宣言を行ったアッシュ。 彼が嘶いて立ち上がったその足を下ろすよりも前にアッシュは懐に潜り込む。金属を雷が弾く奇妙な音が響く。ぶつかり合いの最中挑まれる視線は強く、彼は思った。 成程、雷を落とすのは無粋か。ならばと突き上げた角は飛び込んできたアッシュをいともたやすく吹き飛ばす。 草に背から落ち小さく唸るアッシュの横、ネロスと猛は息を呑んだ。八人総出で来いと言うだけある威力を目に、集中しては身体能力のギアを上げる。 「気高き雷獣さん、今度は私のお相手を願えるかしら?」 銀の雷帝に続き彼の前に立ちはだかったのは金の髪をしたミュゼーヌ。 手にしたリボルバーマスケットではなく、叩きつけたのは機械の足による大ぶりな蹴り技。微弱な電流が覆う彼の肩を強かに打ち据えて、彼は一瞬よろりとたたらを踏んだ。 「大丈夫? 今、回復するわ」 痛えと頭を掻いたアッシュの傷を癒していくのは、雷音と背中合わせに後方に控えるアシュリーの符。 「さすが、強いね」 その一撃の重さを悟って雷音は翼を、その両手を広げる。広がる結界がリベリスタ達の護りとなり構築される。 「ふふ、だがな! この黄昏の魔女であるフレイヤ様が率いる我々リベリスタ達だって、負けぬぞ!」 良子の魔術。四色に練り込まれたそれが彼の首筋を穿つ。彼はバチバチと雷を貯め、その身を優しい光が包み込んだ。彼女の優しい囁きが傷付いた身体をほんの少しだけ癒していく。 それでもリベリスタ達は決して彼女へ刃を向けはしない。そして今、もう彼女に来るなと止める事もしない。 「がっ……ふ!」 薙ぎ払われた彼の角が、近接していたミュゼーヌを叩き打つ。 「大丈夫か!? すぐ交代するから、無理すんじゃねえぞ!」 猛が風の刃を編み出しながら言う。穿たれた腹を抑え、ミュゼーヌはまだいけると頷いて見せた。 「騎士と喧嘩、ってのも面白いもんだ! さあ、もっと楽しい喧嘩をしようじゃねえか!」 その刃は空を蹴って飛ばされ、追って到達するネロスの強襲。 薙ぎ払われる角の範囲には常に一人。対峙する一人一人が挑む瞳を以て彼を促し、彼の重い一撃による被害は最小限に減らされていたがしかし。それでも。 小突かれては退かれ、退かれれば現れる。後方より、中堅より穿たれる己だけが一人とのみ対峙する道理はない。彼はほんの少しの苛立ちをもって嘶いた。 ―――轟音。 視界が白け、昼であるかのような錯覚を覚える程に強烈な雷が降り注ぐ。距離を置いた後方の三人にも等しく降り注ぐそれは正に神鳴る雷。 全身を貫くような痛みに膝を折りながら雷音もまた光を生む。神々しい光は仲間の体内を駆け巡る電流を癒していくが、はっと見上げた先、耳に聞こえたのは美しくも禍々しい歌声。 彼女が唄っていた。 彼の苛立ちを知り、彼に応えるようなその歌は、彼を愛し、彼以外の者を呪うかのようにリベリスタ達に圧し掛かる。 これは誇りをもった戦いである前に、領地を巡る獣と守護者との戦いでもあった。だから彼も戦法を変える。一対一を受けるより確実に、勝利を得る為に。彼の身体を走る雷が一際また輝いた。 ●誇り高き角、轟雷 彼は雷を落としながらふと気が付く。 二足の彼らは誰一人として己の角を狙わない。 それが弱点と知れているのだろうか、それは解らない。だが、彼は試してやろうと思った。 頭を下げる。威嚇するように僅か浮く蹄を掻いて、襲い来た猛の拳を角で受けるように突きつける。 「っと、危ねっ!」 強かに撃つ拳はやはり逸れた。軌道をずらして撃ちこまれ、顔を上げた己に魔力を編む良子を見て前足を上げる。雷に打ち据えられ、肩で息をつきながらも、良子の軌道はやはり角では無い。 彼は確信する。この者達は己の弱点を知っている。知っていて狙わない。 例えば晒された弱点を狙う事は“卑怯”な事だろうか。 その判断は個々に依るだろうが、しかし、彼は獣であった。彼は知性はあれども獣である。故に、もしリベリスタ達がそこを狙い続けていたのなら、彼は激昂のまま怒りに身を任せてしまっただろう。 手負いの獣がそうなるように、取り返しがつかなくなる選択肢となっていた事は間違いない。 だから勝てば。少なくともこの戦いに勝てば彼らは去る筈だった。 「……強いものね。できれば穏便に済ませたかったけど」 雷の範囲外に逃れたアシュリーが呟く。その視線の先には雷と対峙するネロスの後姿が見えた。彼は逃れる者を追いはしない。その変わりに、雷を落とすことを止めなかった。ここで回復手である己が倒れてはならないと、アシュリーは自らの傷を癒す。 勝てばいい。この戦いはそれだけだったが、それが難しい。 立て続けに落とされる雷は雷音の言葉の通り、途轍もない脅威となって降り注ぐ。 「うあっつ……!」 「良子君!」 放電に座り込む良子を見て理央は考える。庇わなければと、しかし――状況は難しい。雷音が走る痺れを取り除くが、庇う事と癒しを歌う事は同時に出来ない。理央は歌う事を選んだが不安は残る。轟雷に耐え得る守護を構築するだけの手が間に合わない。 「はっ、マジで強ェなてめェ。面白ェ。続けようぜ。俺様はまだまだ終わっちゃいねェ!」 「ええ。この武をもって主張を通させてもらうわ」 アッシュとミュゼーヌが距離を違えて雷の化身へと叩き込む。猛とネロスは雷音の癒しを受けて追撃する。彼女の癒しを上回る、確実なダメージは与えているはずだというのに彼は雄々しく立ち続ける。 「くっそ負けねェぞ、雷電! 意地を張ってこその男なんだよッ!」 閃光と轟音。 涼しげな顔で放たれるそれは彼女と仔を背負う彼の強さ。 「ああ、試せと言ったのは我々だ。恥じぬ戦いをしたいものだから、な!」 強襲するネロスの剣先が、彼の身体を覆う電気へ食い込みジジ、とノイズを音立てる。ぐらり、と。彼の足がほんの少しだけ傾いた。ネロスがそれに気付いたその時、彼はまたその角を振り上げ、強く深くネロスを吹き飛ばす。 「―――ッ!」 後少し体力が下回れば退く筈だったネロスは、一歩遅れた。降り注ぐ雷で削られた身体に、確実に一個体を攻め抜く角を振り下ろされればそれは止めとなり得てしまう。彼の一撃は、引き際を誤まった者に容赦しない。 「ネロス!」 アシュリーが符を握る。――が、間に合わない。吹き飛ばされたネロスが最早戦えない状態なのは、一目瞭然。 しかし彼が雷を起こさなければ、その分回復手は攻撃の手と変わる。一瞬の判断のミスも許さない消耗戦。 例えば誰もが倒れないようにと動き続くならば、そこに退かない者が出ればその者の手は掛かりっきりとなってしまう。アシュリーや雷音のように、圏外に退かず撃ち続ける事を選んだ良子は、そんな理央癒しを一身に受けながらも四色の魔力を撃ち続ける。 全てに落とされる雷と、確実に穿つ一本角を的確に使い分ける彼の前に、そのような長期戦は不利をもたらした。後は単純に彼の膝をつかせれば良いはずだと言うのに。それでも――ミュゼーヌはちらりとアッシュを見やる。 アッシュが一撃一撃に篭める点では彼に似ていた。大きな被害を被る前に退いては集中を繰り返すアッシュの一撃は重い。炎の拳を叩きつける猛の次に、その一撃が与えられれば或いは、と。 だから、前を張る自分達がこれ以上倒れる訳にはいかなかった。 「ミュゼーヌ君!」 「理央さん!?」 傷を受け再び下がったミュゼーヌを前に、彼は再び止めを打ち据えんと全身に雷を纏い始めた。手酷く負った傷のままそれを受けるのはまずい―――理央は落とされた雷をその身で受けた。けほげほと咽こむ理央の意識は明暗するがそれでも、弱弱しく草を握る。 「倒れ、ないよ――! ミュゼーヌ君、猛君、アッシュ君、お願い……!」 「ああ、任せとけ! いい加減、倒れろォ!!」 ぐらぐらと閉ざされそうな視界を閉じて理央が歌えば、猛が炎を纏った拳を叩きつける。ミュゼーヌが手にしたマスケットで彼の身体を撃ち抜いていく。再び一人に攻撃を定めた一撃が猛を打ち据えれば、アッシュが満を持して鋭く瞳を開けた。 「雷帝が、雷電に! 負けられるかァ―!」 その練り込まれた一撃は電光の如く。周り廻った連撃は嵐の如く。 積もり積もったダメージは、遂に彼を後退させる。一歩、一歩、たたらを踏むように。 誰もが息を呑んだ。この戦い、続けるのか、否か。彼は考える。 これは消耗戦である。続ければ確かに二足達に更なる被害は出るだろう。だが、それでも、傷が蓄積したこの身体は彼女の囁きでは追いつかない。彼らは自分のように立ち続けるだろう。ならば、最後に立つのは、一頭か。それとも“群”か。 そして決定打となったのはネロスの言葉。この結果を天秤に掛けなければならない事。 此処で勝ったとて次はこのように角を狙わない輩ではなく、そうなった時の彼女と仔への危険性は―――。 彼は、前足を折った。 ●季節巡る天のように 恐らく私は群に敵わない。 それが結果ならば、私達は去ろう。 私は、彼女と仔をも護らなければならないのだから。 彼はリベリスタ達を認めた事で、その戦いを終わりとした。事実、彼の身体はそれ以上の戦いには恐らく耐えられない。 ぐらりと伏せそうになる彼に走り寄ったのは、成り行きをじっと見守っていた小さな仔。続いて彼女が立ち上がり、歩いてくる。 雷音もアシュリーも手を差し伸べようとするが、その余力は無い。彼が戦いの結末を判断してくれた事に安堵の息を吐くばかり。 「あの、角にさわってもいいですか?」 息を整えながら問い掛けたのは雷音。 もしフェイトを分け与える事が出来れば、彼らは此処に残れるのだろうかと自己に問う。――それは、出来ない。 相容れない存在の彼ら。最後にその誇りを感じたくてそう述べる。けれど彼は戸惑いを見せ、それは僅かな拒絶だと知る。無理強いはしない雷音は少し寂しげに手を引き戻したが、見た。 彼の傷を癒そうと角を交わらせ、角と角を触れ合う彼と彼女の仕草は、とても親しげで愛おしい。誇りであると同時に愛情を示すようであり、思わず顔を綻ばせる。 「な、これ、腹の足しになんねぇかな」 そういって猛が差し出したのはトラックのバッテリー。彼らの前に置けば、小さな仔が興味を示して鼻面を寄せる。 「使えそうか? 土産ついでに持って帰――うおっ」 思わず猛が飛びのいたのは、前足をバッテリーに乗せた仔がバチバチと発光し始めた為に。土産にという意図は伝わらず、差し出された電力は仔によりぺろりと平らげられてしまった。誇らしげに電気を身に纏う小さな仔に、顔を見合わせたのは理央と良子。 撫でようと思った仔の全身は電気が弾けていて、とても撫でられそうにない。 「子が健やかに育つ呪いをかけておこうと思ったんだがなぁ……」 良子が言う。伸ばした手に触れたのは、彼女の頬。柔らかい雷が覆う見えない層が在るようで、その皮膚までは到達しない不思議な感触に理央は瞬いた。 しかし彼らは帰るべき存在。 ようやく彼が立ち上がれば、彼女が逸れに寄り添う。お腹一杯に電気を食べた仔は先ず先にホールへと駆け登る。父を退けたリベリスタ達に恨みは無く、かといって必要以上に懐きもしない、知性と野性に生きる獣の姿。 去って行く彼らが見せたのは、夏の嵐のような轟雷。 秋を越えて冬の雪のように包み込む柔らかい唄。 春に芽吹く草木の様な小さな駆け足。 それが最後の姿となり消えていく。 塞がれた穴に、二度と出会えない雷の化身に、リベリスタ達は見上げ続けた。 アシュリーがゆっくりと紫煙を吐く傍らで、雷音は養父にメールを打つ。 ――家族って、いいですね、と。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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