●ゴミ山で生まれた命。 真夜中のゴミ置き場で、ゴミ達が蠢く。 ずるずる、ずるずると、お互いに欠けたパーツを埋めあうように集まってくる。 ボロボロになったタイヤも、ドアの外れた冷蔵庫も、落書きだらけの洋服箪笥も、関係なく、集まって集まって、積み重なっていった。 町の外れの粗大ゴミ置き場。厚い雲が空を覆い隠す、月の見えない夜、そいつは産声をあげた。 産声、と言うには、おぞましく、聞きぐるしい、ノイズのような咆哮。 恨みと悲しみに満ちたそれは、誰もいないゴミ置き場に響き渡った。 その声に答えるように、周りにうず高く積み上げられたゴミ達が震えだす。そいつと同じように、まだ使えるのに、哀れにも人間に捨てられ、こんな場所で野ざらしにされた恨みを持つゴミ達だ。 雲が風に流され、月が顔を覗かせた。 月明かりの差し込むゴミ置き場に浮かびあがったのは、巨大な人の形をしたゴミの塊。 「ひっ……」 その時、小さな悲鳴が上がった。 悲鳴の主は、遇然ゴミ置き場の傍を通りかかり、そいつの咆哮を聞いてしまった哀れな一般人だ。 ギシギシと軋むような音をたてて、そいつは彼の方を振り向く。それに同調するように、ゴミ達が震えた。人型の、頭部にあたる部分に赤い光が灯る。 パラパラとガラス片を撒き散らしながら、家具と家電で構成された巨大な腕が彼に迫り……。 ●ゴミはゴミ箱に……。 「以上が、予想された未来」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、集まったリベリスタ達にそう告げた。白い髪が小さく揺れて、サラサラと肩を流れ落ちる。 「敵はフェーズ2のE・ゴーレム。それから、そいつに呼応して生まれた、フェーズ1のE/ゴーレムが2体」 ゴミで出来た巨人と、その傍に控えるゴミの塊がモニター映し出される。 「人間に強い恨みを持っている模様。こういうの、妖怪にいたよね。なんだっけ? 塵塚怪王?」 なんて、問いかけるイヴに答える声は無かった。全員、真剣な眼差しでモニターに映った敵の姿を見つめている。 「塵塚怪王って呼ぶ事にするから。家電と家具で構成された巨人で、ダメージを受けても、近くのゴミを吸収して回復する特性があるみたい」 便利な体ね、とイヴは呟いた。 「それから、配下の2体は、それぞれ家具のE・ゴーレムと家電のE・ゴーレム。こいつらは回復できないみたい。人間に恨みを持っているのは同じだから、街中に向かおうとしているみたい。また、ゴミ置き場は足場が悪く、動き辛いと思うから、どこかにおびき出して戦闘を行うのがいいかと思う」 おあつらえ向きに、すぐ近くに空き地があるわ。 と、モニターに地図を表示するイヴ。ゴミ置き場から20~30メートル程離れている。 「街中からは少し離れているけど、人が通らないわけじゃないから、気をつけてね。人と見れば見境なく襲ってくるわけだから」 モニターに映るゴミ置き場は、山のようなガラクタで溢れかえっている。それは全て、人間達が捨てたもので、中にはまだ使える物も含まれているだろう。 それを思うと、塵塚怪王に同情する者もいるかもしれない。だが、一度E・ゴーレムとして生まれた以上、それはリベリスタ達にとっては倒すべき敵でしかない。 人を襲うなら、尚更だ。それに、同情したところで、捨てられた以上、それはゴミである。元の持ち主が回収に来ることは、いくら待ってもないだろう。 「これを見ると、リサイクルとかって言葉が、虚しいよね」 月に向かって吠える塵塚怪王の姿を見つめるイヴの顔は、どことなく寂しそうだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月14日(水)23:36 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●夜に紛れて歩む。 厚い雲に覆われた空。肌に冷たい風が吹く。道路に灯る街灯は、チカチカと点滅を繰り返し人気のない周囲を不気味に照らす。 そんな道路の脇にある、何もない空き地に八人の男女の影があった。 「それじゃぁ、翼の加護をかけておくわね」 片桐水奈(BNE003244)が、空き地の真ん中に集まった仲間達を見回して、準備はいいか確認を取る。 「えぇ、今のところ周囲に一般人はいないようね。作戦を開始しましょう」 熱感知で周囲に人がいないか確かめて『鉄鎖』ティセラ・イーリア(BNE003564)が頷く。それを受けて、片桐は翼の加護を使用した。 一瞬、強い光が瞬いたかと思うと、皆の背に小さな翼が生まれていた。 その翼を『第18話:重症出勤中』宮部・香夏子(BNE003035)が物珍しそうに指で突いていた。 「これで準備はいいわね」 ティセラがそう言った、その時。 闇夜に、金属を擦り合わせたような耳障りな音が響き渡った。 「多くて見苦しからぬは、文車の文、塵塚の塵。人間の生活にはゴミとは縁が切れなかったってわけだな。塵塚怪王、か」 と、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が呟く。ふぅ、と吐き出された煙草の煙が闇に溶けた。 その音が、ゴミ捨て場で生まれた塵塚怪王の鳴き声だと気付いた一同の顔に、緊張の色が浮かぶ。 「くすくす。この国に古くから伝わるゴミの付喪神ね。興味深い」 なんて、どこか愉快に微笑むのは『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)だ。銀の髪が風に揺れているのを押さえて微笑む。 「塵塚怪王が漢字で書けない香夏子です。漢字の書き取り面倒です。こんな面倒な名前の敵さんは、早く倒してしまいましょう」 そう言って、グリモアールを持ち直す宮部に、一同が頷いた。 「人間が人間の為に作った物が、人間を恨むってのは、甚だ筋が違うよね? あぁ、早く、片づけよう」 塵塚怪王をこの空き地まで誘導する係を担当する『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)が、逆立てた赤茶の髪をセットしつつ空き地から出て行く。 「ゴミの分別はキチンとしないとね。人襲ったりするなら、ぼくは容赦しないよ」 阿久津に続いて、自慢の紅白グラデーションの翼をはためかせ『紅翼の自由騎士』ウィンヘヴン・ビューハート(BNE003432)が空き地を飛び出していく。 「人間への恨み、ですか。ゴミとはいえ、捨てられた事が悲しかったのでしょうね」 『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が、悲しそうな顔で2人に続いた。ウィンヘヴン、イスタルテの2名は、ゴミ置き場から空地を含むこの道路近辺に人が入り込まないよう、人払いの看板をセットし結界を形成するのが役目だ。 途中で阿久津を追い越し、道路に飛び出した2人はそのまま左右に別れて飛び去っていった。 空き地に残された5名も、それぞれの持ち場へ急ぎ足で向かう。在る者は、阿久津のサポートをするため、彼の後ろへ。また在る者は、怪王の強襲に備え意識を集中させる。また在る者は、怪王や配下のE・ゴーレムに不意打ちを食らわせるべく、暗がりに身を潜ませる。 金属音と、ゴミ山が振動する音が夜空に木霊する。 それに答えるかのように、一瞬だけ不気味に赤い月が雲の切れ目から顔を覗かせた。 ●夜の闇に吠える。 イスタルテは、白い翼をはためかせて、自分の持ち場へ急ぐ。暗視ゴーグルを通してゴミ置き場の方に目を向けると、そこには人の形をしたゴミの塊――塵塚怪王の姿があった。 闇に浮かぶそのおぞましい姿に、軽く身震いするものの、自分の役目を思いだし、ゴミ置き場を見ることを止めた。 この辺りでいいか、と在る程度ゴミ置き場から離れた場所に「立ち入り禁止」の看板を設置する。 彼女の持ち場はゴミ置き場から離れている。看板を置いて、結界を使用。急いで空き地まで戻るべく、元来た道を引き返す。 阿久津が怪王を空き地まで誘導してくる手はずになっている。 「急がなきゃ……。そっちの様子はどうですか?」 空き地に戻る道すがら、手にしたAFを使って仲間に訊ねる。 「こちらティセラ。空き地で待機中よ」 イスタルテに現状を訊ねられ、まっさきに答えたのは、一人空き地で待機しているティセラだった。 体中を走るエネルギーコードから緑色の光を溢れさせながら、自慢の武器を構え意識を集中させている。 切れ長の目を半ば瞑るようにして、精神統一。暗視ゴーグルを降ろし、ふぅと詰めていた息を吐き出した。 「いくわよ、トゥリア……」 手にした相棒に、そっと声をかける。 「こちらイーゼリット。阿久津たちはまだゴミ置き場から出てこないわ。空き地との中間地点で待機中よ」 電信柱の影に身を潜ませながら、そっとゴミ置き場の様子を窺うイーゼリット。同じように、向かいの電信柱の影に隠れた晦と視線が交差する。 二四式・改を構え、いつでも射撃可能なよう準備しているのが、ティセラのいる位置からでも分かった。 二人より少し前にあるゴミ箱の影には、宮部の姿もある。 全員、戦闘準備は万全のようだ。程よく緊張とリラックスを織り交ぜた表情で、事が動き出すのを待っている。未だ、辺りに響くのは、金属の擦れるような怪王の鳴き声だけだ。 そのまま、どれくらい時間が過ぎただろうか。 突然、地面が大きく揺れて、ゴミ置き場から道路へ、ガラクタが飛び出してきた。 「来た!」 と、晦が飛び出してきたゴミ目がけ、弾丸を撃ち出す。 弾丸は、寸分の違いもなくガラクタを撃ち抜いた。 しかし……。 「待ってください。アレは、ただのゴミです!」 宮部がそう叫んだ、その瞬間。 ゴミ置き場から、必死の形相で阿久津と片桐が飛び出してきた。 「じゃあ、ボクは看板置いてくるね」 そう言って、ウィンヘヴンはゴミ置き場の前を素通りして、さらに先へと進んでいく。それを無言で見送ってから、阿久津と片桐は、そっとゴミ置き場内に踏みこんだ。 金属音に応えるように、山と積まれたゴミが震えている。2人は頷きあって、懐中電灯の明かりを灯す。 それから、慎重にゴミ山を迂回し、金属音の出所へ。塵塚怪王の居場所は、そいつの発する音からだいたい見当はついている。ただ問題は、そいつが、ゴミ置き場の奥まった場所にいると言う事だ。 今にも崩れ落ちそうなゴミの山を見て、片桐が顔をしかめた。 「この向こう、ね」 「あぁ、んじゃぁ、僕がおびき出してくるよ。無事を祈っててね」 懐中電灯を肩口に固定し、阿久津はゴミ山の向こうへ、飛び出していった。 塵塚怪王の顔が、阿久津の方へ向けられる。阿久津の姿を確認するや否や、家具で構成された不格好な腕が、阿久津目がけて振り下ろされる。 その攻撃を、バックステップで回避し、阿久津は怪王を見上げた。 「まぁ……。気持ちは解るよ? 親に逆らいたくなるってのは、どんなモノにもあるかもね?」 それは、かつての自分に向けた言葉だっただろうか……。 怪王に通じる筈も無く、再び腕が伸ばされる。その度に、ゴミ山が大きく揺れて、崩れそうになる。 怪王の攻撃に呼応するように、脇に控えていた家電と家具の塊が飛び出してきた。 「そうそう、イライラしたらとりあえず暴れねーと、スッキリしねーもんな?」 なんて、額に汗を浮かべながら茶化すように、そう言った。向かって来た家電を矛で払いのけ、家具の体当たりは盾で弾く。衝撃で自身も後ろに弾き飛ばされた。 倒れないよう踏みとどまって、そこで阿久津は目を見開いた。 「うっそ……」 視界に飛び込んで来たのは、ゴミ山に向かって大きく腕を振りかぶった怪王の姿だった。 振り回された巨大な腕が、錆臭い空気を掻きまわす。 「逃げるよ。片桐!」 ポロリと、咥えていた煙草が落ちる。 回避できたのは、彼の持つ超直感によるものだろうか。滑るように前のめりに倒れ、片桐の待機するゴミ山の後ろに飛び込んだ。 彼の背後を、ゴミの塊が通過し、道路に飛んでいった。 ここはマズイ、と2人は一瞬で理解する。慌てて立ち上がると、脇目も振らずに、ゴミ置き場の出口目がけて駆けだした。 「逃げるよ! 空き地へ!」 ゴミ置き場から飛び出してくるなり、阿久津が叫ぶ。晦が撃ち抜いたゴミが散らばっているが、安全靴を履いた彼にとっては、さしたる問題でもないのだろう。蹴散らしながら走る。 彼らの後を追って、2体のE・ゴーレムがゴミ置き場から這い出てきた。家電が、逃げる阿久津目がけて電気を走らせる。 「そうはさせない」 晦の射撃。撃ち抜かれたのは、家電の脚部に当たる部分。バランスを崩し、阿久津への攻撃は逸れた。しかし、それにより、晦の居場所が見つかってしまう。 飛び跳ねるようにして近づいてきた家具が、晦目がけて倒れかかった。 「うぉ……!」 回避しようとするが、間に合わない。足を家具で押しつぶされた。続けざまに、倒れた晦目がけて、家具が叩きつけられる。 「させないよっ!」 家具が晦にヒットする寸前、紅い槍が家具を弾き飛ばす。否、紅い槍ではなくウィンヘヴンだ。看板を置いて、戻って来たらしい。手にしたランスを大きく振るう。 「今のうちに、急いで!」 イーゼリットの叫び声。ウィンヘヴンが晦に肩を貸して、空き地へ駆けだす。丁度、時を同じくして、ゴミ置き場から塵塚怪王が歩み出てきた。巨体故か、緩慢な動作だ。 宮部が音も無く駆け寄って、影で出来たカードを投げつける。 カードは、怪王の腕に当たった。ボロボロと鉄クズが散らばる。それを見て満足したのか、宮部もまた、仲間達に加わって空き地へと駆ける。 「予想外だったわ。まさか、いきなり攻撃してくるなんて……。見境なしにも程があるでしょ」 片桐が水色の長髪を風に踊らせながら、空き地に飛び込む。 続いて、他のリベリスタ達が駆けこんでくる。仲間の誘導をしているのは、つい先ほど戻って来たイスタルテだ。 怪王達は、動きが緩慢なようで、比較的楽に空き地に逃げてくる事ができた。とはいえ、時折撃ちだされる、家電の雷によって、何人かは傷を負ってしまっていた。 全員が空き地の奥に集まる。傷を負った者は、片桐が治療を施している。 彼女が何事か唱えると、光の粒子を孕んだ微風が生まれ、傷を癒す。 リベリスタ達から遅れる事十数秒。家電、家具、塵塚怪王の3体が空き地に踏みこんできた。人間達を見つけ、猛り狂っているようだ。金属の音が更に大きくなる。 その瞬間。 「不法投棄じゃないのだから、いいじゃない。呪うなら、道具のくせに捨てられる程度の機能に製造された、自分の身を呪っていなさい」 ティセラの構えた銃から撃ちだされ、数多の光弾が撃ちだされた。それは、夜空に走る流れ星のように瞬いきながら、対象目がけて一直線に闇を翔ける。その光に撃ち抜かれ、怪王はその場で崩れ落ち、残る2体は勢いに負け、左右に弾き飛ばされた。 「今よ!」 イーゼリットの掛け声で、阿久津、ウィンへヴン、宮部が駆けだした。イーゼリット自身も、3人の援護をするように、自身の血液で作りだした黒い鎖を伸ばす。 身体の前で重ねられた両の手の平から濁流のような勢いで鎖が伸び、怪王達を飲み込んだ。 技の反動か、イーゼリットが歯を噛みしめ、苦しげなうめき声を漏らす。 「家具は私が!!」 向かって右側に弾き飛ばされた家具へ、イスタルテが駆け寄る。フィンガーバレットから撃ちだされる弾丸が、家具をその場に縫いつけ、その動きを妨げる。 「オッケー、こっちは任せて!」 ランスを掲げ、滑るように移動しながら家電目がけウィンヘヴンが突撃する。その動きに気付き、攻撃しようとした怪王の前には、宮部が躍り出た。 「そうはさせないのです。ゴミ掃除するのです」 全身から、気で作りだした糸を伸ばす。糸はするすると宙を這って怪王の体中に巻き付いた。ギシ、と木材が軋むような音。怪王の身体から、木屑が散った。 その隙にウィンヘヴンが、家電の元へ辿り着いた。辺りに撒き散らされる電撃を浴びながらも、彼女は家電の正面に滑り込む。 「人を襲うなら、見過ごせないんだ」 狙いを定めたランスの一撃が、家電の中心を貫いた。撃ち出そうとしていた電気が、家電内部で弾ける。バチバチと火花を散らしながら、それでも家電の動きは止まらない。 後退することでランスを引き抜き、家電が彼女目がけ飛びかかる。 「いてて……。ごめんね」 それを喰いとめたのは、黒い光を纏ったウィンヘヴンのランスだった。先ほどの家電の電撃を浴びたのだろう、身体中に火傷を負っている。彼女の持つランスが飛びかかってくる家電を迎え撃つ。グシャリ、と金属の潰れる音。家電はランスにより、正面から穿たれ、宙に縫いつけられる。黒い光が渦を巻き、家電に宿っていた命を刈り取った。ランスに貫かれ、家電は力尽きたのだろう、その場で崩れ去った。 電子レンジや、冷蔵庫、電球などが辺りに散らばる。 散らばったゴミを、ウィンへヴンのランスが、纏めて凪ぎ払った。 「ウィンヘヴンさん、こっちに。治療が必要でしょう?」 片桐に呼ばれ、ウィンヘヴンは足を引きずりながら、後衛に下がる。それと入れ替わるように、治療を終えた晦が前に出た。 「粗末にして、ごめんなさい……」 イスタルテの両手から閃光が走る。夜の闇を切り裂いて、閃光は家具に突き刺さった。 ブスブスと黒い煙をあげながら、家具はその場で跳ねあがる。それがイスタルテの攻撃によるものか、それとも家具の意思によるものかは分からないが、飛び上がった家具は重力に引かれ、イスタルテ目がけて倒れて来た。 「うわ、きゃぁぁぁぁ!」 悲鳴を上げるイスタルテ。思わず、頭を抱えて蹲る。そんな彼女の頭上を、一発の弾丸が走り抜けていった。弾丸が家具に当たる。弾丸は正確に家具の中心を貫いた。E・ゴーレムとしての機能を失ったのか、家具同士の結束が解かれ、ただのゴミに戻る。 「恨めしいからって、暴れて殺して、それで満足なのかしら? 何年も使われたんだから、ずっと休んでいればいいじゃない」 家具を撃ち抜いたのは、ティセラの放った弾丸だった。 「ふん……。面倒な仕事を増やして欲しくないだけよ」 そう呟くティセラだったが、結局イスタルテは家具の山に埋もれ、身動きが取れなくなっていた。 闇の中を駆ける、一匹の狼がいた。グリモアールとラージシールドを手にした宮部である。ちょこまかの辺りを駆けまわりながら、影で出来たカードを怪王に投げつけている。 一撃一撃で与えられるダメージはたかが知れているかもしれないが、数が増えれば話は別である。宮部の攻撃は、確実に怪王の体力を削り取っていた。 「香夏子、頑張るのです」 とはいえ、宮部の方も無事とはいかない。たび重なる攻撃により、身体のあちこちに火傷や擦り傷が見受けられる。 「――――――――!!」 声にならない声で、怪王が吠える。すると、怪王の傍に転がっていた家具の山が、怪王の元に集まった。 宮部が攻撃し、削りとった部分が、それにより補われる。 家具の山が無くなったことで解放されたイスタルテが、慌てて戦場から離れた。 「時間稼ぎ、ありがとう!」 どこからか、阿久津の声が聞こえた。宮部が声の発信源を探す。 それは、怪王の背からだった。いつの間に取りついたのか、怪王の背に矛を突き立て、阿久津がしがみついている。 「しがみつくだけで、精一杯に見えます」 宮部の言う通り、怪王が暴れまわるせいで、阿久津は攻撃に移れないでいた。 「いや、それでいい。そのまましがみついていろ」 タン、と軽い音をたてて地を蹴り、晦が怪王の足元に飛び込む。そのまま、銃の先に付いた銃剣を怪王の脚部に突き刺した。 「しかし、この一撃では仕留めるに『足らず』。崩しの一撃にはなっただろうよ」 晦の放った弾丸により、怪王の足が吹き飛ばされた。片足を失った怪王が、その場に倒れ込む。 周囲のゴミを吸収し、失ったパーツを再形成しようとするが、遅い。 「安心しなよ。君達は生まれ変わるんだよ!」 倒れた怪王の頭上に、矛を構えた阿久津が飛び上がる。それを宮部が気糸でキャッチし、怪王に向けて叩きつけるように、引っ張った。 矛が怪王の頭部を貫く。狙い澄まされた一撃だ。声にならない声で、怪王が吠える。 偶然か……。雲が割れて月が覗いた。月光に照らされた怪王は、一度だけ身を震わせるとやがて大きな音をたてて崩れていった。 人間に恨みを持って生まれた怪物の、最後だった。 ●リサイクル。 空き地に散らばったゴミを、1か所に集める。これから、元のゴミ置き場に運ぶためだ。 「これで、一件落着ね。思うところは、特にないわ。」 片桐が、どこか寂しそうにそう呟いた。これからもう一度ゴミとして処分することを考えると、明るい気分、とはいかないのだろう。 だけど、その前に。 「大家さんにお土産です」 と、宮部がゴミ山に顔を近づけて、何かゴソゴソやっている。使えそうな物がないか、探しているのだろう。 「捨てる人あれば、拾う人もいるもんよ。丁度引っ越してきたばかりだしさ」 そんな宮部を楽しそうに眺め、阿久津もゴミあさりに加わった。嬉々としてゴミ山で発掘作業に興じる2人を見ながら、仲間たちは大きなため息を吐いたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|