●新米タクティシャン 今日、この日、ブリーフィングルームでリベリスタ達を待っていたのは、フォーチュナではなく、一人のプロアデプトの少女であった。 その少女を見た事があるリベリスタ達もいたかも知れない。新聞記事で、或いは実際にその両の瞳で。日本人離れしたプラチナブロンドの長髪、ペリドットのように煌めく双眸。雪のように透き通った白い肌、小柄ではあるがすらりとした細身の身体――数ヶ月前に行方不明となり、先月アークに保護された、元フィクサード。『転生ナルキッソス』成希筝子(nBNE000226)その人であった。 「こんにちは。本日付で正式にアーク所属となりました、成希筝子です。まだまだ若輩で至らぬ所もあるかと存じますが、改めて、どうぞ宜しくお願いします」 右手を恭しく胸元に添えて、軽く一礼する筝子。 全く落ち着いた様子の彼女に、何があったのかリベリスタ達が訪ねると、彼女は頷いて、告げた。 「一緒にフラワーガーデンに行って欲しいんです」 ●安穏ディテクティヴ 「あ、ちゃんと仕事なんですよ」 如何にも拍子抜けしたといった風情でぽかんとするリベリスタ達に、情報を補完する筝子。 「三高平市郊外のフラワーガーデンで、花が一本、覚醒したらしくって。まだ覚醒したばかりだから、力の弱いエリューションって事しか判ってないんですが。それを探して来いって、最初の依頼として言い渡されたんです」 簡単な依頼ではあるが、折角なのでアークの先輩リベリスタ達に捜索を手伝って貰おうと考えたのだそうだ。加えて、もう一つ、筝子には心算があるようだった。 「……前の学校では、殆ど友達がいなかったんです。あんまり人と話すのが得意じゃなくて。けど、皆さんに会うまでは、自分は孤高だと自惚れる事で紛らわせてたんです。でも、これからはそれじゃいけない……」 だから、友達を作りたいのだと。 今回はそのきっかけ。友達とまでは行かなくとも、同じアークで共に戦う仲間。親睦を深めておくのは悪くないと思う、と筝子は言う。信頼関係は円滑なチームワークにも繋がるから。 「まぁ、詭弁でしかないですが」 それでも、付き合って下さると有難いです――と、筝子はそれと判らぬ程、微かに苦笑した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月19日(月)00:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●集合デイライト 「筝子さーーーーーーーーーーん! 一緒に遊びましょうですよー♪」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)のノリの良い挨拶に、筝子は一瞬肩を跳ね上がらせた。が、すぐに微苦笑を見せる。 今、筝子は先輩リベリスタ達を誘って、初任務の舞台であるフラワーガーデンを訪れている。 「筝子さん初めまして、宜しくお願いしますっ♪」 笑顔で挨拶の言葉を掛けてくる『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)に、筝子の微笑も深まる。今回は大分リラックスしているようだ。 その事に確かな安堵を覚える『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)。彼が初めて筝子と対面した時、彼女は“虚無”そのものであった。穏やかな時に憩う彼女の姿を、彼は知らない。 だからこそ、今日彼女に会えて良かったと、思う。 「筝子さんも皆も楽しい息抜きの一時になればいいなっ!」 「ええ、皆さんにも楽しんで頂ければと思ってます」 破顔する『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)に、筝子が頷くのを認めて、『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)は、心中密かに思う。 (あの時の感謝代わりに、今度は俺が助けてあげる番……でしょ?) 本当は、人付き合いはちょっと苦手なのだけれど、それがかつて彼を助けてくれた人々へ報いる事になるのなら、きっと頑張れると、そう、確かに思うから。 ●繚乱ハンドレッド・フラワーズ 「先輩リベリスタとしていいところを見せるのじゃ! わらわに任せておくのじゃ!」 意気揚々と入場した『白面黒毛』神喰 しぐれ(BNE001394)は、しかし程無くして考え込んでしまう。ややあって、思い付いたようにくるりと筝子を顧みる。 「さ、探すのには、気合と根性なのじゃ! どんな仕事も、それが一番大事なのじゃ!」 「確かに、諦めてしまっては其処で全てが終わりだものな」 頷く筝子。フォローであろうか。 「普段は中々、こういった場所に足を運ぶ機会も余りない。折角だ、今回は色々と花を見て回りつつ……エリューションをも探してみるか」 「花を探す……といっても、しらみつぶしに当たっていくしかないし、のんびり、のんびりと」 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)と『猛る熱風』土器 朋彦(BNE002029)の言葉もあって、ガーデン内を回りがてらのんびり捜索するという方針で固まる事になる。 「覚醒したのは何の花かは判ってないんだっけ?」 案内図を確認しつつクルトが問えば、筝子は頷いた。 「……此処にラフレシアが無くて良かった」 「……ですよねー」 アレが覚醒していたらと思うと考えるだけで恐ろしい。本当に覚醒なんぞしていたら、色んな意味で大惨事になるのは火を見るよりも明らかだ。 微かに戦慄するクルトと筝子の傍ら、朋彦はのんびりと春を満喫していた。 「白木蓮に雪柳。頭上にも春は着てる。目を落とせば……おや、タンポポだね」 平和だ。 「……何があっても季節は巡る。空に穴が開こうが、鬼が湧こうがね……ささやかな幸せを感じていないと、続かない職だよ、リベリスタはね」 ふと零した、朋彦の言葉を、筝子は確かに聞いていた。 「そう言えばクルト君はドイツ出身だったかな」 「うん?」 「ドイツといえばプロバットって、ソレひとつで店が建つ焙煎機があってね――」 其処から、朋彦の珈琲談義が始まる。少々長くなりそうではあったが、クルトと筝子は静かに耳を傾ける事にした。 道中、冬芽は筝子に問い掛ける。 「筝子さんはどんなお花が好きですか?」 「んー……胡蝶蘭、とか」 逆に筝子が問うと、冬芽は少し考えてから、口を開いた。 「雛罌粟の花……かなぁ」 「虞美人草とも言う、あの花かい?」 「そう、それです! 野原に咲く、自然な可憐さというか……うん、雛罌粟は決して力強く咲き誇る訳じゃないんですが、でも其処がまた愛しいというか……」 まだ見つけられていないけれど、後で探しに行こうと冬芽は誘う。此処に無ければ、また出かけて捜しに行ければ良いと。筝子も嬉しそうに、頷いた。 そんな話をしている内に、二人は噴水の近くに出た。其処で、ベンチに腰掛け休憩中のエーデルワイスの姿を見つけた。その手には水筒が握られている。 「私は花より団子ー! 食べ物持参でお花見ですよー」 あ、でもお酒は無いよ、と断っておくエーデルワイスだが。 「えっと、休憩中です?」 こてん、と首を傾げる冬芽。慌てて取り繕うエーデルワイス。 「……そういえば捜索しないとですね。すっかり忘れ……いえ、忘れてませんよ、うん」 笑顔が寧ろ清々しい。 「左異常なし、右異常なし、上異常なし。ついでに噴水の中も見てみよー。噴水の中にも花とかあるかな? 水草系のが」 一頻りきょろきょろしてから噴水を覗き込むエーデルワイスの姿に、冬芽と筝子は思わず苦笑を漏らした。 拓真と静は、途中で合流した筝子と共に、丁寧に捜索を続けていた。 ふと、拓真が桜の木を前にして、立ち止まる。満開だった。 「拓真?」 「……矢張り、俺にとって一番思い入れのある花といえば……桜か」 拓真にとっては、尊敬する祖父と、最愛のパートナーとの記憶が、その花に、樹に、籠められている。 静かに佇む彼の姿は、気高く、美しかった。それは筝子が初めて、自分以外の人間を美しいと、それもただの外見だけの美しさではない、内面から発せられる人の“心”が魅せる美しさに、初めて気付いた瞬間であった。 暫し桜の前で時を過ごし、静は二人を伴い、噴水の休憩所へ。流石にエーデルワイスもその脚で捜索を開始したのか、今はその姿は無い。 三人はそのまま噴水周りのベンチに腰掛ける。 「温室の花か、綺麗だよなー」 楽しそうに笑う静。彼の纏う柔らかな空気が、場を和ませる。 「アークには馴染めたか? 何か有ったらオレも力になるから言ってくれな。ほら、笑顔笑顔。笑ってると、心が楽しくなってくるよ。それだけでもきっと、世界が変わるんだ」 そう言って手本を見せるかのように、満面の笑顔を向けてくる静に、筝子は改めて破顔した。 「お花が綺麗なのじゃー。綺麗な花に囲まれると癒されるのぉ」 しぐれは、純粋にフラワーガーデンの散策を満喫しているようだ。あ、勿論捜索も忘れてませんよ! 楽しそうな彼女の姿を見つけた筝子は、安堵に胸を撫で下ろした。 「おお、筝子!」 しぐれも筝子に気が付くと、ぱたぱたと駆け寄る。 「まだエリューションは見つからぬようじゃの。折角じゃ、一緒に色々見て回らぬかぇ?」 そうしぐれが誘えば、筝子が断る筈も無く。しぐれは上機嫌で、再び歩き出す。 「花より団子などというものではないのじゃよー。花も団子も楽しんでこそ乙女なのじゃー!」 同じ年頃の少女。だから同じものを見て、感じて、共に楽しめれば良いと。 純粋な彼女に、癒される。 「んむ?」 不意に、しぐれが立ち止まった。視線の先には、綾兎。何やらその場に立ち尽くし、一歩も動いていない。どうやら集中しているようだ。 「!」 「ひゃわっ!?」 突然、綾兎の耳がぴんと立った。驚いたしぐれの耳も立つ。あ、勿論二人共幻視してますよ! ともあれ、其処で初めて綾兎が歩き出した。此処は秋の花々が咲き乱れる場所。綾兎の生まれた、その季節を彩る生命の集う場所。其処で、彼は見つけた。 風に揺れる、一輪の寒椿――否、此処に風は訪れはしない。つまり、この寒椿こそが。 「見つけた……」 「おお、それがエリューションかぇ」 AFを取り出し、連絡を急ぐしぐれ。その傍ら、筝子が進み出、ぺこりと綾兎に軽く頭を下げた。 「有難うございます、助かりました」 一人では倍以上の時間が掛かっていただろうと言う彼女に、綾兎からアドバイス。 「探し物のコツは全体をよく見渡す事、だよ。一箇所場所を定めたら目を凝らしつつ、其処から動かずに全体を見通す」 「成程……」 筝子は何処からか手帳を取り出して、熱心にメモを取っていた。 「見つかったって?」 やってきた朋彦達の問いに、綾兎はこくりと頷く。 「この花がそれですかー……あれ、拓真さん?」 拓真を見て、きょとんとするエーデルワイス。と言うのも、拓真はエリューションである寒椿の、その姿を、持参したそのカメラに収めていたのである。 「摘み取られる為だけに、此処にいる訳じゃ……なかっただろうから」 せめて、写真の中でだけでも、咲き誇れる場所を作ってやりたいのだと。 そして、花開いた証は永遠のものとなった。 「……じゃあ」 筝子が、その花を、出来うる限り優しく、摘み取った。 ●休息ハッピー・ゴー・ラッキー 「いぇーっ♪」 ぱちん、と冬芽は筝子とハイタッチ。 「あ、管理人さんには、アークの方で色々説明して下さるそうですから、その点は安心して下さいね」 「じゃあ、ゆっくりシエスタと行こうか」 クルトが目配せして見せる。この後は噴水周辺の休憩スポットでのお茶会だ。皆、それぞれに食べ物や飲み物を持参してきている。 「各々、どうやら拘りがある様だし……馳走になるのが楽しみだ」 微かに笑みを浮かべる拓真に、朋彦も笑みを返す。 「今回はパナマ・ゲイシャ種の生豆を焙煎してきたんだ、これは相当な気難しがり屋でね」 焙煎温度が一定を超えると特徴である芳醇な風味が失われてしまう、その反面、上手く焼く事が出来れば、上等の紅茶に似たフルーティーさを楽しむ事が出来る。 三日前から焙煎を初めて、なかなか上手くいかず、腹部の焙煎機から豆を流し出しつつも失敗ローストの山が積み上がり、今月の赤字すら覚悟したのも今日では良い思い出だ。 「オレも皆に混ぜてくれー、スコーンとシフォンケーキ作ってきたんだ」 静が包みを開けば、仄かに甘い香りが鼻孔を柔らかくくすぐる。その心地良い刺激は確かに、皆の表情を柔らかいものへと変えてゆく。 綾兎も、持参した紅茶とスコーン、クロテッドクリームを並べてゆく。これ等も全部、綾兎の手作り。紅茶に合うよう考えて作られたものだ。 其処に置かれたのは、此処で売っている薔薇と林檎のジャム。冬芽が購入したものだ。 「ジャムティー作ったり、お菓子に添えて食べられるかなって♪」 嬉しそうにそう言って、彼女は更に全員分のコップやマドラーを手際良く配ってゆく。 「俺は、ジャスミンティーを淹れてきたよ」 「あ」 クルトが魔法瓶を取り出すと、筝子が声を上げた。 それは、クルトが筝子と初めて出会った時に用意していたものだ。筝子も覚えていた。 「わらわも和菓子に洋菓子にお弁当持ってきてるのじゃ!」 「私も抜かりありませんよー、サンドイッチ、あとフライドポテト、皆さんの分も沢山持ってきました!」 しぐれの大きめの弁当箱には、羊羹やきんつば等の和菓子や、クッキーにケーキ等の洋菓子が詰まっていて。エーデルワイス持参のサンドイッチも、ハム、卵、カツ、等々、何種類も用意されており、ボリュームも満点。 「それじゃあ、頂きましょう♪」 エーデルワイスの合いの手で、楽しいお茶会が始まる。 「そうだ、ちゃんと挨拶してなかったよね」 筝子に声を掛けたのは、綾兎。 「神薙綾兎、よろしくね」 それから、彼は、何故か少しだけ視線を逸らして、続けた。 「自己紹介は、コミニュケーションの第一歩って聞いたから……俺達で練習してみると、いいんじゃない?」 綾兎の頬が、ほんのりと赤くなっているのに、筝子は気付かないのか、きょとんとした表情を向ける。人付き合いが余り得意ではない綾兎が、彼なりに頑張った証なのだが。 ともあれ、筝子は頷くと、彼に続く形で、口を開いた。 「改めまして、成希筝子です。これから宜しくお願いしますね」 ぺこり、ふわり。白金の髪が揺れる。 今日の筝子は良く動く。いや、この程度の動作や仕草は、人としては普通なのだが。 それでも、一ヶ月前の筝子は本当に、自らの意志では積極的には動かない人形のようだったから。それを考えると、一ヶ月を経て彼女は相当進歩したと言えるだろう。 そんな筝子に、拓真からひとつの問い。 「任務、お疲れ様だ。楽しい、とはまた少し違ったかも知れないが、どうだった?」 そう問われて、筝子はやや思案する。けれど、やがて答えを見つけたのだろう、静かに言葉を紡ぐ。 「……そうですね、今は小さな積み重ねですけど、出来る事があるんだなって、ほっとしてます」 今はまだ、拓真達先輩リベリスタには届かないけれど。 いつか、彼等の助けになれる日が来れば良いと、心密かに思いながら、答える。 「……もう、大丈夫だね。あの時とは、目が違う」 クルトの言う通り、一ヶ月前の彼女の双眸には、希望の光は愚か、生気も何もあったものではなかった。 今では、少しではあるが、光を取り戻したように思う。自ら、変わろうと思えるようになる位には。けれど、きっとそれ自体が、彼女の大きな変化であるのだろう。 「普段はどうしてるんだい? ずっと本部につめてるわけじゃないだろう? あぁ、我らが室長沙織殿には気をつけなよ?」 守備範囲が広いという噂だから、なんて、冗談めかして笑ってから、ふと。 「正直なところ、アークに所属したのは少し驚いたよ」 償うにせよ、やり直すにせよ、何かを始めるにせよ、全ては生きていてこそ、叶う事だ。それを諦めて欲しくなくて、クルトは筝子を助けたのだと。 けれども、それはあくまで、選択の幅を広げるだけだ。生ある限り、道は無限に伸びてゆく。戦わない道を選ぶ事も、出来た筈だ。 「他に、償う方法が思い浮かばなかったというのも、あるんですが……」 筝子は言葉を選ぶようにして、一言一言、丁寧に連ねて語ってゆく。 「皆さんと同じ、この力で。今度は、無為に殺める側でなく、意味のある戦いを、誰かの力になれる行いを、出来れば良いと……そう、思ったんです。私を救ってくれた、皆さんと同じ場所で、今からでも……少しでも……」 それが、自分にとっての“転生”であると思うから。 「……何事も、遅過ぎる事なんてない。詭弁でもなんでも、確かに前を向いて歩めるなら……そう悪い物じゃないさ」 「え……」 微苦笑を浮かべながら、拓真は言った。 「……俺も、つい一年近く前までは……仲間の存在はあっても、何処か一線を退いていた……自分に、友人や仲間などが出来て良いのかと」 だが、と彼は、静を振り向いて。 「結果はご覧の通りだが」 人は変わってゆける。退いていた一線を越える事も、手を伸ばす事も、出来るのだ。 静も、スコーンを頬張りながら嬉しそうに屈託の無い笑顔を向けて。 「いつも危険な任務ばかりだからなー、こういう場で鋭気を養おうぜ!」 「そうだね、こうして張った気を緩ませるのも、大切な仕事。成希くんにも、安らげる場が必要不可欠なのを、覚えてもらいたいな」 「……はい」 朋彦のその思いに、筝子は少し照れたように微笑んで、頷く。 「友達になる、などとわざわざ言うものではないじゃろうけども、こうしてのんびりした時間をともに過ごしたのならば、もう筝子とわらわはお友達なのじゃ」 少なくとも、自分にとってはそうなのだと、しぐれも満面の笑顔で頷く。 「これから宜しく頼むのじゃ」 そして、筝子と握手を交わしてから、彼女の頭を撫でてやった。心なしか、筝子も嬉しそうだ。 其処にもう一本、握手を求める手が差し伸べられる。 「驚いたのは確かだけど……嬉しかったのも、あると言うか」 そう告げるクルトもまた、微苦笑を浮かべていて。 「まぁ、要するに、歓迎するよ、ってことさ。改めて、宜しく」 友として、仲間として。 筝子は躊躇う事無く、その手を取った。 「最後に一つ。今の君に世界はどう映っているかな? お姫様」 その問いに、筝子は―― ●終幕トゥデイ、そして 「此処で売ってたのを買ってきたんですよ♪」 「そっかー、俺も買って行こうっと!」 帰りを待っていてくれている、愛しい恋人の為に。静は冬芽に教わって、ジャムを購入していた。そして、“例の場所”で待つ筝子を見つけて、小さな包みを手渡した。 「これ、今日の思い出になると良いなと思って。良かったら食べてくれな!」 「良いんですか? 有難うございます」 中身は静手作りのマカロン。これで、解散しても筝子が笑っていてくれれば良いと思う。 「俺も、これ……良ければどうぞ。気に入ったなら、レシピ教えてあげるから、自分で作ってみるといいんじゃない?」 大した手間じゃないし、と矢張り少し口元を尖らせて、そっぽを向きつつもスコーンの包みを手渡してくれる綾兎にも、筝子はふわりと微笑と、感謝の言葉を向けた。 さて、此処で待っていたのは、筝子だけではな。今回集まった、全員が集合している。 其処に咲いていたのは、白の、黄色の、ピンクの胡蝶蘭。真っ直ぐに伸びるその姿に憧れるのだと、冬芽に筝子が教えた花。 その前に皆が並んで、拓真も三脚にカメラを立てて、右端に並ぶ。勿論セルフタイマーだ。 「偶にはこういうのも、良いんじゃない?」 「そうですねー、さて、皆さん笑顔笑顔、ですよー」 「うむ……各自、最高の笑顔を用意する様に」 そして、シャッターが切られる。一瞬の眩さの後に、カメラの中に思い出は刻まれる。 ――胡蝶蘭を背に、満ち足りた笑みを向ける九人のリベリスタを映した写真が、各自の下へと届けられるのは、また別の話。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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