●力強き翼 ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!! 異界より訪れたその生き物は牙の並ぶ口を大きく開けると、空に咆哮を響かせた。 逞しく巨大な翼が広げられる 帆船の帆布のように、皮膜がいっぱいに風をふくむ。 巨大な翼の持ち主は、それに相応しい巨大な体躯を持っていた。 爬虫類を思わせる無骨さとしなやかさを感じさせる体は鱗に覆われている。 長い尾の先端には杭のような大きさの尖った巨大な毒針が生えている。 例えるならドラゴンと呼ばれる存在に似たそれにはしかし、前足らしきものが存在していなかった。 巨大な翼は背ではなく、そのアザーバイドの肩部から生えている。 力強く羽ばたき宙を駆けると、その存在は再び凶暴な咆哮を辺りに響き渡らせた。 同時に、周囲の空間に小さな穴が生まれ……そこから似たような姿の翼を生やした爬虫類が現れる。 もっとも、その新たに現れた存在は、先達に比べ遥かに小さかった。 翼をひろげて3mに達するかどうか…… もっとも、それでも人と比べれば充分に大きいと言える。 呼びだした主がそれに比べて大きすぎるだけである。 配下達を従えた巨大な存在は、先程よりは小さな威嚇するような咆哮を響かせると、翼を大きく広げ羽ばたいた。 それに従うように3体の飛竜たちも咆哮を発し、翼を羽ばたかせた。 ●wyvern 「こちらが以前三ツ池公園で発見されたアザーバイドです」 ディスプレイに表示された翼の生えた蜥蜴のような生物を見ながらマルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)が説明する。 長い首と尾を持ち飛行するそのアザーバイドは飛竜、ワイバーンと呼称されていた。 牙と尾に生えた毒針で攻撃を行うそのアザーバイドは単体では強力とはいえないものの、数体の群れを作って行動することが多い。 「今回、これを大型にしたようなアザーバイドが出現することが明らかになったんです」 フォーチュナの少女がそう言って端末を操作すると、画面に雰囲気の異なるアザーバイドが表示された。 単純に巨大と言うだけではない。 全身を鱗で覆われていながら、どこか鷹や鷲のような猛禽類を彷彿させる美しさ、気高さを感じさせる……そんな存在。 飛ぶということを突き詰め、そしてひとつ結論に辿り着いた……そんな外見。 イギリス等で紋章に使われているそれは、もしかしたら過去この世界に飛来し目撃された、こういった存在なのかも知れない。 「この巨大なアザーバイドがワイバーンと呼称され、今まで確認されていた存在はリトルワイバーン、小飛竜等と呼び方を変更されました」 このワイバーンと、配下のリトルワイバーンたちの撃退が今回の作戦になります。 マルガレーテはそう言って、アザーバイド達についてのデータを説明し始める。 「飛行することに特化した体のせいか、強靭さ、耐久力という点ではやや劣るみたいです」 とはいえ巨大で強い生命力を持つ存在だ。 生半可なエリューションやアザーバイドよりはしぶといと考えた方が良いだろう。 攻撃に対する防御の能力は、それなりに高い。 鱗が防具のようになっており、攻撃を逸らしたり力を弱める働きがあるようだ。 「もっとも、一番の問題は優れた運動性能による回避力だと思います」 動きは機敏、加えてその機敏さで複数回行動できるらしい。 「極めて優れた飛行能力を持っています」 フォーチュナの少女はそう説明した後で、ですが相手が地上にいる場合は地表近くに降りてきて低空で戦闘を行うようですとつけ加えた。 相手の基本的な攻撃手段は以下の3種類。 牙による咬み付きと尾の毒針による攻撃。 そして高速飛行や羽ばたきによって生みだされる衝撃波だ。 咬みつきと毒針は近距離への単体攻撃。 咬みつきの方が威力は大きいが毒針の方には凶悪な毒が含まれている。 衝撃波の方は直線状に遠距離まで届き、空気の刃を発生させることで対象を傷つけ出血させる効果もあるようだ。 威力の方も当然大きい。反面、アザーバイドの身体能力を持ってしても使用は容易ではないらしく反動でダメージを受けるようである。 「また、このアザーバイドはリトルワイバーンを召喚する能力があるようです」 マルガレーテはそう言ってから、法則みたいなものがあるようなんですと説明した。 このワイバーンには最初から3体のリトルワイバーンが従っている。 この3体がすべて倒されると、ワイバーンは新しい配下達を召喚するようだ。 「自身が低空飛行状態の場合、遠距離攻撃が届かないくらいの上空まで上昇してから使用します」 隙を見せたくないのか地上から離れていないと使用できないのかは分からない。 とにかく、地上から離れてから自身の力……エリューションに似た力を持っているらしいのだが、それを消費して4体のリトルワイバーンを召喚する。 「召喚された配下の方はすぐに攻撃してきますが、ワイバーンの方はその後しばらくは上空に待機します」 遠距離攻撃の届かない場所で標的を定めるように羽ばたくその行動は……集中と似たような効果を持つ。 もちろん飛行などにより攻撃してくる敵がいる場合はその対象に攻撃を行ってくる。 そうでない場合は集中しながら狙いを定め、配下が1体でも倒されると狙いを定めた相手に向かって急降下攻撃を仕掛けてくるようだ。 「……以上がこのアザーバイドの能力なんですが……」 もうひとつ、特定の条件下で使ってくる能力がありますとフォーチュナは説明した。 配下を召喚する際にワイバーンは自身の力を消費するが、それらをあまり使用せずに多くのダメージを受けた場合……傷口からガス状の毒を広範囲に噴出する攻撃を行い始める。 「尾の毒針で使用される毒を体内で作っているらしいんですが、それらを霧とかみたいにして周囲一帯に散布するらしいんです」 遠距離まで届く全体攻撃は回避することが極めて難しい上に威力もそれなりに高い。 加えて猛毒に体を侵される危険がある。 「この攻撃を行うようになるとワイバーンは配下の召喚は行わなくなるみたいなんですが……」 その代わりに、E的能力が尽きるまで毒の散布を続けてくる。 「逆に言えば召喚によって力を消耗し切っていれば、この攻撃は行ってきません」 どちらも多くは使用できないようですが、数回は使用してくると思います。 マルガレーテはそう言ってから、最後にアザーバイドの知性等について説明した。 今回のワイバーンは敵の戦い方等をある程度理解できる程度の知性は持っているようだ。 「倒せそうな者、やっかいと感じられる対象を狙ってきます。判断が難しい場合は近くの者を攻撃してくるみたいです」 正常な判断が行える状態で大きなダメージを受けた場合、逃げる可能性もあるらしい。 もっとも、閉じない穴に向かってなので公園の外に逃げ出すような事はない。 配下のリトルワイバーンたちも基本は逃げ出さないが、ワイバーンが逃げたり倒されたりすれば、同じように穴に向かって逃げ出すようである。 「今回の任務は撃退が目的です」 撃破するか、穴に向かって撤退させるか。 どちらの場合でも任務は成功である。 「単体でも強力な存在な上に、配下も伴っています」 どうか充分にお気をつけて。 マルガレーテはそう言って、リベリスタたちを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月13日(火)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●界を越え、来たるもの 咆哮轟き、穴の向こう。 せかいの狭間を羽ばたいて。 死毒を含んで理不尽を舞い。 不条理連れて空を翔け。 今日も世界はひとみしり。 「ならば、ルカが世界を護りましょう」 世界の奈落、まるで墓場のようなこのせかい。 それは、世界に捧げる『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)の歌。 最下層に存在する自分の世界と、上位階層より来訪した崩壊を加速させる異界の存在を、讃えるでも蔑むでもなく、綴る唄。 「よくよく色々なモノが出てくる穴ですね」 (望んでこの世界に来たというわけでもないのでしょうけど……) そう呟きながら『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は今回の敵であるアザーバイドの事を考える。 「ワイヴァーン、飛竜ね。まるで現実味が無いけれど私からすれば、下手に小物でない分むしろ当て易いわ」 堂々とした態度で『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)は宣言するかのように口にした。 「相手取って不足無し。貴方のお相手、この殲滅砲台が務めましょう」 その言葉に応じでもするかのように、天に咆哮が響き渡る。 風圧と共に辺りの木々がざわめくように揺れ、池の水面が嵐のように波を立てる。 そして、現れた巨大な翼竜が羽ばたきと共に配下を引き連れてリベリスタたちへと距離を詰めた。 「おお、こいつは素晴らしい光景だな。まるで冒険者になった気分だ」 さて、どんな味かな? 事前の戦闘態勢を整えられはしなかったが、『背任者』駒井・淳(BNE002912)は余裕を崩すことなくアザーバイドへと視線を向けた。 (すげー。狩りゲーみたいだ。尻尾の針とかいい素材になりそう!) 「……なんてね。今日は父さんも一緒だからいいとこ見せなきゃ」 しめてかかろう、と『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)も構えを取る。 「温羅復活で忙しいんだ。あんな大物に空を飛びまわられちゃたまらないからな」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)も巨大な存在へと視線を向けながら口にした。 (飛ぶということを突き詰めた存在か……そういうのは嫌いじゃないな) 「俺は強い一撃を与えることを突き詰めようとしているんだ」 そう言ってから『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)は、自身の武器を構え直した。 「あんたを倒すことでその成果を見せるとしようか」 ●前哨戦 誰よりも早く動いたルカルカが距離を詰めながら自身のギアを上げる。 それに続くようにワイバーンが動き、牙の並ぶ巨大な口を開いた。 喰らいつかれる事は避けたものの、鋭い牙は掠めるだけで彼女を傷つける。 敵の様子を窺いながら淳は式符によって自身を援護する小鬼を作りだす。 その次に動いたのは配下であるリトルワイバーンたちだった。 3体がそれぞれ、ルカルカ、快、零児に狙いを定めて襲いかかる。 ギアを上げていたルカルカは何とかその牙を回避した。 快は逆にギリギリで回避し切れなかったが、小さな飛竜たちの牙では、直撃でない限り彼の守りを貫くことはできない。 零児は攻撃を受けて負傷したものの、彼も充分に高い耐久力を持っていた。 戦況を窺いながら、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)とウルザは集中によって脳の伝達処理速度を高速化させていく。 カルナは周囲に存在する魔力を吸収することで自身の力を高め、快は防御に特化させたエネルギーで全身を覆い尽くし完全な防御態勢を整えた。 零児は破壊の闘気を全身に滾らせ、攻撃態勢を整える。 そしてクリスティーナはカルナを庇える位置を取った。 彼女が攻撃態勢に入るのは作戦の第一段階が終了した時である。 リベリスタたちの作戦は、配下を1体だけ残し召喚を使わせないというものだった。 オーウェンのパーフェクトプランによって毒霧による攻撃を減少させ、誘導とカルナの回復によって敵の最大の攻撃を耐え切るという作戦である。 配下達を無力化するのは、充分な実力を持つ8人にとってはさして難しい作業では無かった。 「あっという間にたおせちゃうのね」 数度の攻防の後、光の飛沫を舞い散らせ小飛竜を仕留めたルカルカが口にする。 零児も叩き潰すような斬撃で一体を屠り、オーウェンの呪印封縛によってもう1体も動きを封じられた。 淳はその間、ワイバーンの力を削ぐべく不運の占術を使用して不吉の影でアザーバイドを覆い尽くそうとしたものの、巨大な飛竜は機敏な動きでその力を回避する。 ウルザも聖なる光を戦場全体に放ったが、こちらも小飛竜たちは直撃を受け動きを鈍らせたものの、ワイバーンの方には充分な効果を与えられなかった。 一方、リベリスタたちの受けた攻撃もワイバーンからのものが効果が大きかった。 特にルカルカは尾による連続攻撃を受け、巨大な毒針の直撃を受けてしまう。 もっとも、カルナの即座の詠唱によって具現化された高位存在の癒しの息吹によって彼女の傷は癒され、危険な毒も浄化された。 一時的にルカルカを庇う事も考慮した快だったが、この様子を見て予定通りオーウェンへのカバーに入る。 この状態でワイバーンへの攻撃は、開始された。 ●大いなる翼 作りだした小鬼を活用した淳や脳の処理速度を高めたウルザですら直撃させることが難しい敵に対し、リベリスタたちは精度をある程度無視し手数を重視する戦法を取った。 もっとも、ワイバーンも全てを回避できている訳ではなかった。 時に不吉の影を付けられ、閃光で動きを鈍らせられる。 「死相が出ているぞ……といってもわからんか」 淳の呟きに続くように、零児やルカルカの攻撃が巨体目掛けて放たれる。 特に闘気を纏った零児の破壊的な斬撃は掠めるだけでも充分といえるほどの攻撃力を秘めていた。 「大きいのに素早いとか不条理」 高速の斬撃を命中させたり避けられたりしながら、ルカルカが合間に小さく呟く。 「その力を削り取らせてもらおう!」 ワイバーンの動きを解析し終えたオーウェンは、それを自らの能力と比較し統合することで作成した完全な連続攻撃でアザーバイドの力を確実に削っていく。 強力な能力の連続使用によって攻撃手たちは大きく消耗するものの、5人は躊躇うことなく強力な攻撃をワイバーンへと繰り返した。 オーウェンを警戒したワイバーンは標的を変更するものの、彼を庇うように快がその間に身体を割り込ませ、確りとカバーする。 そして癒しの力を使い分けるカルナが、皆の傷を的確に治療していった。 牙による強力な単体攻撃を受けた者には天使の息を、そして尾の凶悪な毒を受けた者がいた時には全員に聖神の息吹を。 マナをコントロールする彼女は力を使い分けることで消耗を減らし、やがて訪れるであろう敵の強力な攻撃にも備えていた。 そして癒し手である彼女を狙った攻撃は、クリスティーナが身を挺して庇う。 高い防御能力を持つ彼女は回避にはやや劣っていた為に直撃を受ける事も多かったが、連続で攻撃を受けない限りは充分に耐え得るだけの体力も持っている。 負傷という点ではリベリスタたちの側に不安は全くなかった。 戦いは長期化の様を呈していたが、3人が攻撃に参加していないという点を考えれば当然の結末であり、それらもリベリスタたちの予想の範囲内であったことだろう。 だから問題は、リベリスタたちの攻撃の力……強力なスキルを使いこなす力がどこまで持つか、である。 ●長き戦い ウルザが機を見て仲間たちと意識を同調させ力を分け与えていなければ、短時間で力を使い果たす者が出ていたかもしれない。 もっとも、彼の行動の第一はあくまで攻撃にある以上、どうしても回復は追い付かなかった。 無限機関を内蔵する零児は攻撃を消耗の少ない能力に切り換える事で戦い続けたが、ルカルカとオーウェンは限界に近づきつつある。 淳は吸血による回復を試みてみたが、彼の力では直撃しなければダメージを与えるのは難しい。 ダメージを与えなければ回復ができない……直撃の確率と自身の受けるダメージを考えた彼は、デメリットを考え前衛には出ないという行動を選択した。 迂闊に複数が負傷すれば、カルナが消耗する事になる。 個人の負傷であれば彼女は癒しの力を行使しながら魔力を取りこみ、消耗を回復する事すらできるだろう。 戦いは続き、やがてオーウェンは殆んどの力を使い切った。 僅かな残りはあるが、パーフェクトプランを実行するには至らない。 もっとも、これは予定通りだった。 寧ろこれこそが作戦の次の段階に移る目安である。 「さて……その全て、読ませてもらおうか」 彼は自身の力をほぼ観察に向け、敵の更なる能力・行動の分析、思考の察知に力を注ぎこむ。 「カルナさんを怪我させて返したら、悠里にどやされるからね!」 そしてオーウェンを守っていた快が、カルナを護衛すべく移動した。 ここで今までカルナを庇っていたクリスティーナが魔陣を展開し、攻撃へと参加する。 「貴方が空の王者であるなら、私は貴方の天敵として此処に在る」 翼在る者を地に墜とす、人の叡知の象徴こそが対空砲よ。 攻撃手は減少する事なく、守りも緩む事はなく。 何より、これによって敵のより詳しい状況の分析が可能となったのは大きかった。 結果としてリベリスタたちは、ワイバーンが毒霧を散布しようとするタイミングをほぼ正確に判断することできたのである。 ワイバーンの動きを見極めていたオーウェンから警戒の声が飛ぶ。 快は瞬時にウルザを見て彼のやる気を確認すると、クリスティーナへとカルナの護衛を引き継いだ。 ルカルカと零児は全力で退避し、淳もギリギリの位置まで距離を取る。 オーウェンは残った僅かな力を利用して、呪縛から逃れた最後のリトルワイバーンを誘いだす。 「君が最後に見る顔だ……くらえ!」 目を狙って放たれたウルザの気の糸はワイバーンを怒らせる事には失敗したものの、その意識を彼に向けさせる事には成功した。 そして……ワイバーンの咆哮と共に、戦場一帯は一面、不気味な靄に包まれた。 ●蝕むモノ 「此処が俺の正念場だ」 (たとえ俺が倒れても、反撃は仲間を信じてる。だから俺は仲間を守り続ける!) ウルザの前に立ちはだかるようにして、快は防御の力を巡らす。 後ろに立つ少年が、僅かたりとも猛毒のガスを吸い込む事がないように。 その試みは完全に成功した……だが、猛毒は快自身を容赦なく直撃した。 パーフェクトガードすら役に立たぬかのように猛毒の霧は快を包み込み、全身へと浸透していく。 もちろん、完璧な守りのオーラは今も彼を包んでいる。 その力によって彼の受けるダメージは確かに減少した。 だが、全周囲に広がり浸透しようとする毒霧は回避というものを完全に、徹底的に許さなかった。 しかも攻撃は一度では終わらない。 全身の傷口から毒を噴出したワイバーンは、そのまま咆哮すると続けざまに猛毒の雲を生みだしたのである。 二度の直撃を受けた快は、それでも屈しはしなかった。 だが、攻撃が続けばすぐに限界を迎えるであろうことは容易に想像できた。 カルナの癒しの力を持ってしても、完全な回復は難しい。 自分ならば、もう2、いや3撃なら何とか堪え切ってみせる。が、他の者が受け続ければ…… その思考が終わる前にカルナの詠唱が終了し、毒霧を吹き飛ばすように訪れた清らかな息吹が戦場を包み込んだ。 誘導が完全でなかった為に淳と、カルナを庇ったクリスティーナも毒霧の攻撃を受けている。 そのふたりを、皆を、毒を浄化し受けた傷を癒すように、具現化された癒しの力が彼ら、彼女らを包み込む。 次のウルザの攻撃は効果を発揮し、ワイバーンは向きを変え怒りの咆哮を発した。 再び生みだされた猛毒の雲が高速で広がり、周囲の物を包み込む。 陰陽・星儀を行っていた淳は、これ以上は危険と判断し後退した。 ウルザが牽制し、カルナはこの時の為にと温存していた力を惜しむことなく使い聖神の息吹を呼び続けるが……クリスティーナは危険な状態へと陥り、快も激しく消耗していく。 これ以上繰り返されれば…… 限界……その言葉が幾人かの胸の内に、静かに浮かび上がっていく。 ●決戦へ 一方、範囲外へと退避したルカルカはオーウェンによって誘き出された最後のリトルワイバーンを仕留めるべく戦っていた。 もっとも、ワイバーンと比べればこれは脅威ではない。 ルカルカは日常的すぎて逆に非現実的な武器を、彼女にしか為し得ぬ華麗な捌きで揮ってシュールに小飛竜を打ち倒した。 そして、毒ガスの範囲外から敵の動きに集中する。 零児も三度目になる爆砕戦気を使用すると、敵にいつでも攻撃を仕掛けられるようにとその動きを窺い、タイミングを計っていた。 その空いた時を利用するかのように無限機関がフル稼働し、長い戦いで消耗し限界近くなっていた彼のエネルギーを生産し、補給していく。 オーウェンの方はエネミースキャンによって敵を分析しながら確認した情報を仲間達へと連絡し続ける。 3度目になる連続の毒霧噴霧の直後だった。 オーウェンはワイバーンが力をほぼ使い切ったことを確認した。 僅かな力は残っているが、それはもう一度毒の噴霧を行うには満たない量のようである。 彼は直ちにその事を仲間たちに連絡した。 快は何とか攻撃を凌ぎ切り、クリスティーナも限界を運命の加護によって乗り越え、立っている。 そして、それまで敵の動きに集中していたルカルカと零児が、待ちかねたように飛びだした。 (細かいことは無しだ) 「とにかく全力で暴れるだけだな」 射程ギリギリに退避していた淳も攻撃へと加わる。 一方で、ウルザは力の限界を迎えていた。 閃光によって敵の動きを鈍らせ、仲間たちに力を分け与え、そして引き付けるために気の糸を紡ぎ放っていた彼は、この戦いで仕える力をほぼ全て使い切ったのである。 それでも、ナイフを構え戦える体勢でワイバーンへの注意は怠らない。 「最後まで気を抜くなよ!」 快はカルナの護衛に移り、クリスティーナが再び展開しておいた魔方陣を利用して魔の炎を召喚する。 力を残しているのは、彼女と無限機関で力を再充填した零児だけだ。 快とカルナは殆んど消耗していないが、この二人の力は全て守るために費やされている。 そして……戦いは、完全な消耗戦へと突入した。 ●決断の時 淳は鴉の式を放ったのち、吸血を狙う以外の方法は難しいと結論を出した。 零児も闘気を爆発させることが不可能な程に消耗した為、武器をオーラで覆っての攻撃にシフトしている。 クリスティーナは余力はあるものの敵の動きが素早い為に、直撃はもちろん一部を捕えることすら困難な状態が続いていた。 ルカルカも最後のアル・シャンパーニュを放った後は只管武器を振るい続けている。 今の彼女には高速連続攻撃は勿論、ギアを入れ直す余力すらない。 ワイバーンの後ろに回ってからハイバランサーを活用してしっぽを駆けのぼったり等、動き回り、撹乱するように戦い続けている。 一方でアザーバイドの側も手詰まりとなっていた。 牙も、毒も、衝撃波も、敵を負傷させることは出来ても、倒すには至らない。 多少の蓄積は強力な癒しによって回復されてしまう。 そしてその癒し手は完全に守られている。 それらが……これまでの戦いの経過が、ワイバーンの継戦の意志を、意味を、失わせていた。 敵から距離を取ろうと、高度を上昇させようと、飛竜は翼を大きくはためかせる。 それを確認し……淳は現状について考えた。 味方の負傷に関しては大きな懸念はないが、能力を使用する力となると多くの者が限界を迎えている。 どうするべきか……そんな時だった。 「天だろうと地だろうと、私の射程に退路なんか無いわ」 追いかけるように高度を上げたクリスティーナが、力を篭めた十字の光を放つ。 直撃はしなかったものの此の一撃は、ワイバーンを足止めすることには成功した。 だが、だからこそアザーバイドは自身の生存の為に標的を絞り、突破しようと牙を剥いてクリスティーナに襲いかかった。 ワイバーンの動きは不完全だったが、クリスティーナの方も空中で防御態勢を崩している。 彼女は牙による連続の攻撃に耐え切れず、動きを鈍らせ落下した。 それを見て多くの者が限界と判断した。 戦い続ければ……大きな被害が発生するかも知れない。 カルナがクリスティーナを素早く保護する。 念のために警戒しつつ、リベリスタたちは刺激せぬようにワイバーンの動向に注視した。 配下達を失ったアザーバイドは閉じない穴に向かって飛んでいき、そして……姿を消す。 それを確認し緊張をゆるめたリベリスタたちを、負った傷の痛みが襲い、疲れが重くのしかかり始めた。 実感するには、もう少しばかりの時や安全な場所への移動が必要かもしれない。 けれど……彼らは、彼女らは……ゆっくりと、安堵の息を零すことができた。 リベリスタたちは……今、確かに。 アザーバイドをこの世界から撃退し、世界を守る事に成功したのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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