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わかもと

●季節の味を大切に。
 流れるジャズが心地よい。
 意識しなければ聞こえてこない、どこか身体に染み込んで来る。そんな音だった。
 当然である。ここはそれを聴かせる店ではなく、あくまで『てんぷら屋』なのだから。

「来ちゃいました。はいってます?」
 笑顔の青年。二十台後半か、そろそろ三十歳といった所だろうか。
「来ちゃいましたか。入ってますよ」
 人懐こい笑みを浮かべるのは細身の店主。まだ若い。
 男に続いて、ぞろぞろと店に入ってくるのは男女が混じる六人組だ。
「じゃあ、これいっちゃおうかなっ!」
 真っ先に入店した男は、よほどこの店が好きなのだろう。店に入ってからというもの、全く笑顔が崩れていない。
 注文したのは福井の地酒だ。季節の限定モノで、これがなかなか手に入らないのだ。
「じゃあ、コースで」
「あ、俺も」
「私も」
「はい。コース六で」
 決して可愛い値段ではない。それでもそこには、若者達に足を運ばせる魅力があった。
 小気味良い職人の声。箸使い。あくまで顧客に差し障らぬよう、隅々まで気が配られている。
 時折聞こえるじゅわりとした音が、期待を誘う。
「うんめぇ! やっぱ最高っすなあ!」
「ちょっとお父さん、お父さん」
 三十路を前にして、お父さんと呼ばれる青年に子供は居ない。つまりおやじくs――貫禄があった。

 和の趣を凝らした前菜と、爽やかなサラダも大変美味だ。
 微かなゴマがふわりと香る。素材の持ち味を生かすために、あえて油を混ぜることで、軽やかに押さえてあるのだ。
 いよいよ最初の一品。若者達は才巻き海老の頭揚げを口に運ぶ。塩で頂く。
 口の中で上品に海老が香った。

 時は流れ、やがて数品目のブロッコリーが小皿に乗せられる。
「香ばしさを出すために、少し強めに揚げてあります」
 そのときだった。
 突如ブロッコリーが革醒し、青年達を惨殺してしまった。

●おなかがすきました。
「えっと……」
 どことなく困ったような表情の『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)が、言葉を切る。
 なんだこの依頼。どうすればいいんだ。
「放っておくと、あのような事件がおこりますので、アークは先手を打って七人分の席を予約しました」
 青年達、かわいそうに。楽しみだったろうに。いや、殺されるよりはマシか。
「なにこれブロッコリー倒せばいいの?」
「いえ、そのために、彼等の三十分前に店を予約しました」
 どういうことだろう。
「つまり、革醒する前に食べてしまうことになるため、防ぐことが出来ます」
 なるほど。いや、それならば、わざわざ自分達が派遣されるほどでもないのではなかろうか。
 困惑したリベリスタが問う。
「念のため、です」
 あ、そう。ていうか、この店高いんじゃないかしら。
「経費は、アーク本部が捻出するそうです」
 それはいい話だ。
 あれ。青年達は六人じゃなかったっけ。
 なんで席が七つなのだろうとリベリスタが思う。
「私も同行します」
 どうして。
 質問を投げかけようとした時、少女のお腹が微かに鳴った。
 桃色の髪の少女は、静謐を湛えるエメラルドの瞳を伏せ、ちょっぴり頬を染めた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:pipi  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月09日(金)23:11
 てんぷら食べたいです。ブロッコリー美味しいです。
 pipiです。

 席に座った所から開始します。

●目標
 ブロッコリーの撃破。
 誰か一人でも、食べれば大丈夫です。
 一人も食べられなかった場合、依頼は『失敗』です。
 誰か「ブロッコリー食べる」とか、一言下さい。

●注意
 食べすぎると予算オーバーです。
 アークからの予算は一人2万円程度を目安にしてください。
 溢れた分は自腹です。
 財布の残量は自己申告ですが、財布が死んだら『重傷』です。

●てんぷら わかもと
 シックなてんぷら屋さんです。苗字が若本さん。
 笑顔が素敵な若い店主です。
 残念ながら、巻き舌で吼えたりしません。
 ちょっと、お高いお店です。
 おすすめはお塩ですが、お出汁も美味しいです。

●コース
・梅:5000円、てんぷら6品
・竹:7000円、てんぷら8品
・松:9000円、てんぷら11品
・おまかせ:12000円
・ふぐ:15000円

 それぞれ前菜、サラダ、デザートがついてきます。
 締めの『お食事』にお茶碗サイズの天茶か、天丼がついてます。
 揚げ物にブロッコリーも入ってます。

●おしながき
 恐ろしいことに、値段が書いてありません。
・才巻き海老
・きす
・すみいか
・河豚白子
・あまだい
・牡蛎
・ほたて
・はまぐり
・あわび
・アスパラ
・ふきのとう
・たらのめ
・れんこん
・ブロッコリー
・舞茸
・茄子
・しいたけ
・ししとう
・かぼちゃ
・いんげん
・山芋
・かきあげ
・干し柿
・小天茶
・小天丼
・他、季節のおすすめ等

●おのみもの
 各種地酒、ワイン、シャンパン等、小粋に取り揃えてあります。
 未成年の方は、お茶かソフトドリンクです。pipiとの約束です。

●コメント
 ちょっとイベシナみたいな感じですが、プレイングがいっぱい書けて、リプレイがいっぱい書かれる感じです。
 しなければならないことは非常に少ないです。
 あんまり能動的に動かなかった場合は、全力で空気になるか、勝手に食べまくって口から金色のビームとか出しますのでご注意下さい。

 また、同行するエスターテはPCに絡まれない限りは、空気として処理します。
 ちなみに、小食です。

 HARDなお仕事にお疲れの方。
 海外からアークに来た方の日本体験。
 お仲間と。恋人と。
 のんびり過ごしてやって下さい。pipiでした。
参加NPC
エスターテ・ダ・レオンフォルテ (nBNE000218)
 


■メイン参加者 6人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
クロスイージス
★MVP
新田・快(BNE000439)
インヤンマスター
葉沼 雪継(BNE001744)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ナイトクリーク
福田 キヨ(BNE003598)
覇界闘士
福田・大樹(BNE003599)

●戦場、陣形の選定
 僅かに目を細め、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は戦場を見渡す。あくまで冷静に。
 揚げ物屋というのは、まま空気がべとついているものである。
 この店は床にも、座席にも、とにかく店自体に全く油を感じない。程よく落とした照明に、ジャズの音色だけが小さく響く。
 好き者ならば、ともすれば寂しく感じるのかもしれないが、パーティメンバーには女性も多く、この清潔感は実に快適だ。
 快は伊達眼鏡をくいと上げ、カウンターの向こうに視線を走らせる。奥には日本各地の地酒、焼酎の箱が綺麗に並んでいる。
 手早くメニューに目を走らせ、奥に見える冷蔵庫の瓶もチェックする。
 酒屋を実家とし、自らの舌でも地酒を嗜む彼ならば一目で分かる。おそらく恐ろしい相手となるだろう。淡いものから濃厚なもの、フルーティなものと品揃えのバランスもいい。
 女性店員に促され、快の作戦通りに各々が着席する。
 快の推測通り、L字型のカウンター七席全ての貸切だ。
 しかしL字と奇数席のバランスは――って、元はといえば、たまたまアイツと似ていただけなのに!

 閑話休題。
 着席と同時に、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は、『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)と繋いだ手を離す。
 雷音にとって、こういった店は初めての経験だ。
 店に入ると同時に、斜め45度に暖簾を押し上げて『おやっさん、いつもの』という、どこかで聞いたあのアレをやろうと思っていたのだが、なんとモダンな引き戸に出鼻を挫かれてしまっていた。
 どことなく不安げなエスターテも、おそらくこの手の店は初めてなのだろう。いけない。雷音は二歳年上の先輩として、凛と胸を張る。
 目の前には長方形に盛り上がった布がこんもりと置かれている。これはなんだろう。ひざ掛けだろうか。
 ならばいつとるべきかと悩んでいると、それを見てか『緋猿』葉沼 雪継(BNE001744)が、さっと自身の膝に乗せた。
 すかさず少女達も習う。ひざ掛けから姿現したのは、それぞれ塩、レモン汁、お出汁、大根おろしが入った小さな器。そしておしぼりと割り箸だった。

「お洒落なお店ですねぇ、じいさんや」
『三高平の母』福田 キヨ(BNE003598)が隣に座る夫『二世帯戦隊ダンカイジャー』福田・大樹(BNE003599)に呼びかける。
「可愛い子も居るし爺さん嬉しいよ」
 にんまり笑いかけたお爺ちゃんに、ほほほと凄絶な笑みを浮かべるキヨ。
「いや! おキヨ今のは違っ」
 婦人が無双し、旦那が軽く死に掛けている頃、ふとリベリスタ達の背後から声が掛かる。
「お先にお飲み物をお伺いしましょうか?」
 とくんと、雷音の胸が鳴る。
「じゃあ、これいっちゃおうかなっ!」
 快と雪継がアーク本部から聞いていた福井の地酒というのは、まさにあれだ。
「二合のお銚子にお猪口を二つ頂こうか」
 選ばれたのは二月の限定酒。大吟醸純米の生酒だ。
「あ、お酒はあのね」
 大樹もすかさず石川の銘酒を注文する。
「お願いね」
 ここはあえて熱燗である。
 この酒が持つ山田錦のふくよかな味わいが、熱燗に十分耐えうることを知っているのだ。これがてんぷらによく合う。

 リベリスタ達は各々コースを注文してゆく。雷音も皆を習って注文する。
 びしっと決めるのだ。
 なんといっても後輩の隣だ。
 格好よく注文しなければ。
「コース、よろひゅく!」
 噛んだ。
「いやこれはウィットに富んだジョークの一環で」
 弁解を試みる雷音だったが、どことなく緊張していたエスターテも、いつのまにか和らいでいる。だからこれで良かったのだ。

 俺様口調ながら、少女達の中ではやや落ち着いた気配を漂わせる『アルブ・フロアレ』草臥 木蓮(BNE002229)が選んだのは松コースである。
「お好みは如何いたしましょう?」
 店主だ。整った口ひげがベビーフェイスに良く似合う。『お好み』というのは、きっと単品のことだろう。
(ブロッコリー、れんこん、小天丼、かきあげ、アスパラ、しいたけ、舞茸、かぼちゃ、山芋、季節のおすすめ)
 彼女は野菜を中心に追加してゆく算段である。
 それからどうしても気になったのは干し柿だ。これも注文してみる。果たしてどのような形で提供されるのだろうか――

●戦闘開始
 時折響くてんぷらの音が耳をくすぐる中で、前菜と飲み物が静かに通される。お酒、ほうじ茶。それから木蓮が頼んだ麦茶だ。
 そしてさりげなく注文されていた炭酸ミネラルウォーターの瓶が、エスターテの元に運ばれる。
「えっと、少女の酌はいかがだろうか」
 レディたるもの、酌の一つも出来なければならない。桃色の髪の少女は、これが日本のマナーかと興味深げに見つめている。
「可愛いお酌をありがとう」
 雷音の酌を受け取り、快がお礼にお茶を注ぐ。もちろん近くの少女達にも。
「皆に杯は行き渡ったか?」
 雪継がリベリスタ達を見渡す。
「では、今日という日に、乾杯!」
「「「乾杯」」」
 乾杯と共に口をつけた淡麗な酒の中には、旨みや甘みがしっかりと利いている。綺麗なお酒だ。
「うんめぇ! やっぱ最高っすなあ!」
 そんな快の姿は妙におやじくs――貫禄があった。

 前菜はごま豆腐、ササミの揚げ煮、舞茸と大根のりんご酢和えと、ほんの小さなサラダだ。
(良き友と卓を囲い、旨い物を食し、旨い酒を呑む)
 それぞれが親指の先ほどの小さな前菜に、雪継が箸を伸ばす。
(それだけの事であるはずなのだが、どうしてこうも魅力的なのだろうか?)
 談笑の中で眼前に広がる全てが、細工のように美しい。ごま豆腐の中には、ほんの僅かに柚子が香っている。

 そしていよいよリベリスタ達の眼前に、ちんまりと鎮座することになったのは海老の足揚げである。
「こちら、お塩がおすすめとなっております」
 何から食べようかと考えていた木蓮だったが、なんと順番があるらしいのだ。
 いやあ、これ私も知りませんでした。って、それは置いておいて。
 大樹が箸で摘みあげる。最近油モンは胃が凭れて仕方がないが、ともかく口に運んでみる。
 ん。んん?
「うンまァァァアアアい!」
 質の良いごま油の風味を感じる。それも一種類ではない。
 どこまでも軽やかに、あくまで素材を最高の状態で食べさせるということか。おそらく綿実油をベースにしているのだ。
 そして塩だ。店主は何も言わないが、粉雪のようにふわりと手が入っている。
 ミネラル分が多くまるで舌を刺さない。甘みすら感じる。これなら食える。胃に優しい。
(この店主只者ではない!!)
 そしていよいよ一品目の才巻き海老が登場した。
「才巻きってのは刀の鍔の事で……」
 箸を伸ばす快の解説を少女達が聞き入る。
(これはただの衣じゃない。
 卵を卵黄と卵白に分けることでからっと揚がるように工夫されちょる!
 さらにこれは……
 酒だな!通常より酒を多めに入れる事により風味を増している)
 大樹が唸る。
「ううむ、素材の下拵えも完璧……」
 てんぷらは棒揚げと呼ばれる揚げ方で、花は咲かせないためボリュームは小さい。
 素材の味を生かす専門店ならではの揚げ方で、多くの品数も食べやすい。
 これならば小食なエスターテに配慮し、店の人間にこっそりと伝えていた快としても都合が良かった。
「おキヨはい、あーん」
 キヨにとって、大樹がこんなことをしてくれるのは、いつぶりだろうか。
「はい、じいさんや。あーんじゃ」
 てんぷらのようにアツアツな光景は、リベリスタ達の心を解きほぐして行く。

 そして皿に敷かれた紙の上に、二つに切られたレンコンが乗せられる。
「れんこん! れんこん!」
 否応なしに雷音のテンションが上がる。これぞ真っ先に食べたかった一品だ。さくさくの歯ごたえがとても美味しい。
「エスターテ、早く食べるのだ! でも火傷しちゃだめだぞ。おとなしくふーふーして食べるのだ」
 こくりと頷き、桃色の髪の少女もレンコンをつまむ。その口元が微かに綻んだ。
 快の配慮で入り口に座る木蓮が遠慮がちにメールを送る。あて先は唯一無二の恋人だ。
 彼女は食事の席でメールはマナーがよろしくないとも思うのだが、幸いそれほど堅苦しい雰囲気の店でもないようだ。
 折角電波が通りやすいように、快が座席を手配してくれたのだ。ここはその心遣いに甘えてみることにする。
 そういうの私もやります……等という声が聞こえたかどうかは定かではないが、写真だって撮りたい。
「れんこんが美味かった。次は小天丼いってみる! ……っと」
 酒を嗜む年齢ではない彼女としてみれば、ご飯物もほしくなる所だ。
 コースの最後にかきあげの小天丼か小天茶がくるということだが、量はとても少ないらしい。
 ならばそちらは天茶にして、ここは天丼にすればいいのだ。
 それにかきあげとて、一種類ではない。木蓮は別のものを注文することに決めた。
 それにしても、アークに来てからこんな依頼を受けるとは思ってもみなかったものだった。
(そもそも揚げたブロッコリーが革醒って何てレアパターン!?)
 なにはともあれ、仕事はきっちりこなしたい所だ。
 幸いにもブロッコリーは、コースに入っているらしい。ならば後はたっぷり腹ごしらえもしたい。

 一品づつ丁寧に、揚げ方が違うてんぷらが次々と皿に乗せられる。
 ふわりとやわらかいスミイカ、ほくほくのそら豆、みずみずしいおおぶりのアスパラに、しゃきりとしたインゲン。
(うむ、うまい!)
 雪継が目を閉じる。頂きますというのは、まさにこの心境なのだろう。食材への感謝が彼の心を満たして行く。
「エスターテは何から食うんだ? 俺様はコレ!」
 木蓮が箸でアスパラを摘み、エスターテがスミイカを頬張る。
 各々コースによって品数は違うが、分けっこすればいいのだ。緩やかに時が流れていく。
「おやまあ、たまげた。美味しいねえ」
 キヨがふくよかな身体を揺らして微笑む。
 野菜が多ければありがたいと思っていたが、一品一品が非常に軽く、どんどん食べることが出来る。
 甘鯛の鱗が口の中でぱりぱりと崩れていく。その向こうから新鮮な風味が押し寄せてくるのだ。
 こうなれば最早、我慢が出来ない二人が居た。
 誘惑に勝てない。もう、行くしかない。
 快の目配せに、雪継が重々しく神妙に頷く。
 そうだ、行こう。思い切って踏み込むのだ。そして口を開いた。

「ふぐコースを頼む」

●覚悟完了
 快と雪継が頼んだものは河豚と、そして新たな生酒である。
 飲んでしまったのであれば、追加するしかない。
 お酒と共に運ばれてきたのは、河豚の煮凝り、湯引き、そして真子の塩漬けだ。
 すべて天然のトラフグである。
 その卵巣には、本来WPとかで大丈夫かどうか不安になるようなヤバい死毒があるのだが、数年かけて毒抜きすることにより、素晴らしい珍味に仕上がるのだ。
 この塩気と濃厚な旨みが、酒とよく合う。
 快が聞き出したのは、これまた純米吟醸の生原酒である。静岡の銘酒だ。
 それにこの酒蔵と言えば――快がちらりと視線を走らせる。あれ締めの一杯にしよう。彼が見たものは何か。
「食べてみる?」
 次々にお酒を頂く快は、それでも他のメンバーに気を配るのを忘れない。
 未だ箸はつけずに、仲間にもさりげなく食べてもらうのだ。
 量が非常に多くなってしまうが、皆で分ければいいと雪継も考える。こうして三種の前菜は、あっという間に消えていった。
 そうこうしていると運ばれてきた河豚のお造りは、七つの小皿に綺麗に盛られていた。店のちょっとした計らいである。
 快の舌の上で踊るのは、ぷりっとした食感に包まれた仄かな甘みだ。思わず舌鼓がこぼれる。

 さて、そろそろ山菜も頂きたいと。やはり外せないだろう。
 そう思ったところに、やってきたのはふきのとう、たらのめである。ほろりと苦い大人の味だ。
 ハート型が可愛らしい濃厚なめごち、香り高い旬のたけのこの穂先、一本づつ揚げられたしらうお。
 それから、河豚の骨蒸しが運ばれてきた。きりりとした味付けで、これもみんなで食べやすい。

「こちら香ばしさを出すために、少し強めに揚げてあります」
 そしていよいよブロッコリーが登場した。
 雷音が生唾を飲み込む。好き嫌いは殆どない。ないのだが。
 そんな彼女にも『敵』がいないわけではなかった。それが眼前の小さな木みたいな奴だ。
 リベリスタ達は次々に箸をつける。
 こいつは青臭く、硬ければもさもさで、やわらかければべちゃべちゃで――
 違うのだ。子供ではないから、我慢すれば食べられるのだと彼女は思えど、なんとなく周囲の視線が痛い。
「俺様にだって苦手なものはある。だから無理はするなよ……?」
 木蓮が耳打ちする。さりげない優しさだ。
 だが快に世界が変わるとまでいわれては、雷音も勇気を奮わざるを得ない。
「む、た、食べれたら褒めるのだぞ」
 意を決してぱくり。香ばしさと柔らかな野菜の味わいが広がる。

 ……違う。いつものじゃないのだ。

「……おいしい……です……いや、おいしいのだ」

 みんなの視線が雷音に降り注ぐ。店主まで微笑んでいる。
(なぜ皆ボクをみるのだっ!)
 こうして、少女の決意はリベリスタ達に小さな小さな勝利をもたらしたのだった。

「おつまみにどうぞ」
 中休みは、あなごの骨を素揚げしたものだ。スナックのようにぽりぽりと食べられる。
 まだまだ宴は終わらない。それからもてんぷら達は次々に運ばれてくる。
 男二人は見慣れた和紙が貼り付けられている瓶に、とある違和感を覚えていた。
 一見、この手の酒の入門とも言える超有名な一本に見えるのだが。
 大きく銘柄が書いてあるはずの場所には、『無濾過生原酒』とだけ記されているのだ。
 これは、数百本しか出荷されないと言われるアレではなかろうか――!
 勿論、行くしかない。

 かぼちゃがホクホクと香ばしい。
 ほたてと厚切りの山芋は、外は揚げた香りを、中は素材の味を楽しめるように、軽めに揚げてある。
 そして白子が快と雪継の口の中で蕩ける! 蕩ける!
「お熱くなっておりますので、お気をつけてお召し上がり下さい」
 続くのは小タマネギ。新鮮な風味は残しつつ、甘くやわらかく揚げてある。
 そろそろほろ酔いの大樹の視線に、キヨが気づいてしまった。笑みが黒い。
 そこに居るのは木蓮だ。
「木蓮ちゃんは良いおっぱぶるぁぁあああぁぁっっ!!」
 彼女は口調も態度も中性的ではあるが、スタイル抜群で顔もいい。文句なしの美女である。
 キヨは店員に熱い油でも頼もうかと思ったが、巨乳に釘付けの大樹が玉ねぎをひょいと口に運ぶ。
 ぐふっ。むせる。しかも熱い。かなり熱い。なみだ目のじいさんが隣の妻に助けを求める。

 そこには――禍々しいオーラを纏った魔女が居た。

●激戦、死闘
 そろそろ〆の一杯だ。男二人が目星をつけていたのは、二杯目と同じ静岡の酒蔵が醸す一杯だ。
 とあるサミットに提供されたという逸品である。
 フェイト(諭吉)を燃やす覚悟は出来ている。足りなければ歪曲運命黙示録(葉沼さんに借りてATMで降ろす)を使用するまでだ。
 今まさに死線を潜ろうとする快の視線に、雪継は瞼を閉じて厳かに頷いた。

 てんぷらはもう少しだけ運ばれてくるようだ。
 香りの良い海苔に、摩り下ろした大和芋が包まれているのだ。口に含むと、ふわりと溶けて行く。
 木蓮が注文した舞茸も、かりかりと香ばしい。堪らない。みずみずしい椎茸の肉汁が口いっぱいに広がる。
 漸く一息ついた大樹が、ふいに口を開く。
「所で兄ちゃん。その歳で彼女も居らんのか?」
「あーあー聞こえないー」
 間髪いれずに快が首を振る。こいつはやばい。クリティカルだ。
 運命を燃やしてどうにか出来るものなら、したい感じだ。
「ワシが紹介したろか?」
 最後の行者にんにくとあなごを摘みながら、じいさんが攻めてくる。
 今をときめくアラエイのじじいが、しししと笑いながら容赦なく掘り下げてくる。
 数多くの修羅場を潜り抜けたであろう、歴戦の古強者の鋭い視線が、快を鋭く射抜いた。
 こういうのってリベリスタとしての戦歴とか、なんかそういうんじゃないんだ。
 そんな快を眼前に見据えた大樹は想う。たとえばこの兄ちゃんには、近所のおトメさんなんて、どうだろうか。
 若者にはすっげえ親近感が沸きづらそうな響きの名前なんだけど、その辺どうなのか。
「ん? おトメさん去年老衰で亡くなったんやったか」
「って亡くなった人かよ!」

 と。宴もたけなわとなっている頃。
「そろそろお食事に致しますか?」
 気づけばてんぷらは全て平らげられていた。盛大に食ったもんである。
 各々が、天丼か天茶かを店員に告げる。
「七名様にお食事をお願いします」
 ほどなく運ばれる締めの一品。小さな茶碗の中身は、拳ほどもない。
 粒立つ米を抱いた芝海老や小柱の掻き揚げが、リベリスタ達に最後の満足を与える。
 誰しも既に満腹に近い。するすると滑り降りてくる。
 ニンジン、大根、きゅうりを漬けた香物は爽やかで優しい。

 あとは、デザートだ。自家製の黒ごまプリンだ。ベリーのシャーベットだ。
 一緒に新しいお茶が運ばれてくるのがうれしい。
 ここで雪継が立った。
 手洗いに見せかける大人の甲斐性が密かにカードを切らせた。覚悟の上だ。
 こうして天かすの土産、レジ横のキャンディーと共に、長い戦いは終わりを告げたのだった。




■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 素晴らしいプレイングの数々でした。
 字数は大幅に超過してしまいました。
 多くの場面を泣く泣く削りましたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

 MVPは迷いましたが、幹事の快さんへ。お疲れ様でした。
 また雪継さんの決意と勇気に、若干の名声を上乗せしてお贈りいたします。

●参考までに内訳です。
 雷音:12500円
 快 :39900円!
 雪継:39900円!
 木蓮:17100円
 キヨ:12500円
 大樹:15400円
 エスターテ:12900円

 それでは、またお会い出来る機会を心待ちにしております。
 てんぷら食べたいよう。おなかがすいたpipiでした。

===================
食べ過ぎた方はしっかりGPでお支払いいただきました。無い方はお皿洗いで。
(いづれにしても5日間の皿洗い期間後返却されます)