● もう嫌なのって言う女性の顎をつかんで目を合わせて。 そんなこと言わずに、俺を助けると思って、な? そんな会話が静かに行われる、薄くらい店内。 ネオンが彩る夜の街。某都会の、とある一つの店。 今日も沢山の女性達が、綺麗な服を身に纏っては、客を持て成そうとしていた。 「なかなか面白い所じゃないですか?」 「ああ……まあな」 華やかな金髪に赤目。場違いな学ランを来た男が、茶髪の白いスーツ姿の男に話しかけた。 彼等は三尋木派のフィクサード。インテリヤクザ。 穏健派で、派手な戦闘は避けるが、それでもヤクザはヤクザなのだ。 神秘にものを言わせ、女性を操っては高い収入を得る。 「此処も何時、リベリスタにバレる事やら。 俺、特にアークは好きなんだ、大好き。魅力的な人、多いんですよ。 やたら見える眼もあるみたいですし……いつかきっと来ますよ?」 学ランの男は手の平を上に向け、どうするの?と首を斜めに向けて回答を待った。 「どうせ、近いうちだろう。それまで楽しんどけ」 「はは、冗談じゃないですよ。寝る場所確保に来ただけです。 俺は貴方の商売にちょっかいは出しません。まあ、手助けもしませんが……」 女性は嫌いでは無い。どちらかというと少女の方が好きだ。 そう言って、学ランの男は長い弾力のあるソファーに身を横たえた。 いつも薄気味悪い笑みを浮かべながら、それでも目は笑っていない。 「お前はマイペース過ぎんだよ。そろそろ、三尋木の姉さんに怒られるぞ」 「あはは、気高き女性に踏まれるならいつでも」 本気か嘘かは、汲み取れない。 「……左腕、何処に忘れてきた?」 「アークが誇るサジタリーの人に持ってかれちゃいまして♪ まあ、かなり前の話ですけど。 そろそろ、俺一人じゃ超厳しいくらいに強くなられたと思うんで、避難の意味も込めて来ちゃいました」 「貧乏神じゃねーか」 そう言われ、金髪は笑いつつ残っている右手を楽しそうに振った。 代わりの腕はもう用意してある。 言うこと聞かない、捻くれた腕だが、無いよりはマシだ。 金髪は店内の女性を思い出す。皆、目に光りが無く、あれでは操り人形だ。 そういえば昔、そんな感じで女を飼っていた。彼女は元気だろうか。 「此処の女性はみーんな、貴方のせいで?」 「そうだ。大変便利なもんがあってな」 茶髪の男は淡々と返事をする。手元の煙草に火を点けては、煙を吐き出した。 色違いの瞳が、その煙が消えていくのを見ていた。 「あはは、超外道」 「……てめぇだけには言われたかねーな」 ● 「みなさんこんにちは。今回の相手はフィクサードさんです」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)はいつも通りにブリーフィングルームに立っている。 だが、今回はその資料を持つ手に、不自然な力が篭っていた。 「敵は三尋木フィクサードが二人。 茶髪の男は不明な点が多いですが、金髪の少年は杏里がよく知っている男です」 Crimson magician。確か彼はそう呼ばれていた。 赤を好む、金髪の男。争う事、殺す事は嫌いだが、物理的にも精神的にも傷をつける事が好きな男。 そこまで説明して、杏里は吐き気を感じ、古傷達が痛み出す。 杏里にも精神的に大きな傷を残した男だ。 「……今回の目標は、一般人の救出です。女性が二五名。敵の強力な暗示にかかり、働かされています。 敵はあくまでも三尋木派なので、仕掛けてくる事はあっても、大きな戦闘は好まないでしょう。 戦闘は避けたい。けれど、はいどうぞと女性を解放する訳にもいかない。 何かしら、交換条件か、説得か……最悪、最低限の戦闘はしてくるかもしれません。 場所は彼等の店です。彼等が動きやすいようにできていると考えた方が良いと思います」 敵地に乗り込むと言うこと。それは多くの危険を孕んでいる。 けれども、一般人が金のなる木にされているのを見逃しておく訳にもいかない。 「女性への暗示は強力です。主に茶髪の男が核と見ていいでしょう。 アーティファクト『絶対の瞳』は義眼型アーティファクトです。効果は魔眼のそれよりも強力です。 女性が武器を持ち、襲ってくる事も検討した方がいいかもしれません。 戦闘は良いのですが……有利になるのであれば、人質に取ったりもあると思います。 クリムの方は殺しはしないでしょうが、茶髪の方は分かりません。 あらゆる自体を想定して臨むべきだと思います。厄介ですが、宜しくお願いします」 杏里は深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月25日(日)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●再会 人通りも多く、雑音が激しい。人工的な光が夜の闇を照らしていた。 洒落た名前の綺麗な店。 その手前で『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が、眼光を店内へと向けていた。 本来、外からでは見えないはずの店の中だが、彼の千里眼ではそれを可能とする。 店内では女性の数がぴったり二十五人、椅子に座って人形の様に静止していた。 「あっれー、おっかしーなー」 葬識は店の中の状況を仲間に伝えるのを止め、違和感を吐き出しながら後頭部を掻いた。 一人、足りない。 入り口からリベリスタが侵入する。 即座に浅倉 貴志(BNE002656)が店内を見回した。 「横です、お気をつけて!」 貴士がそう言った瞬間に、壁の影から茶髪の男――染色機が上半身を影から出して、出てきていた。 その瞬間に、貴士の喉元を切り裂いて後ろへと下がっていく。 どうやら、フィクサードは既に戦闘体勢へと入っていたらしい。 「一般人を無傷で返してくれれば、貴方達も無傷で逃がしてあげるの」 『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)が大きな声でフィクサード達へ呼びかけた。 よく通る高い声が響くが、同時に金属がぶつかる音さえ聞こえる――武器だ。 「あれ!?」 周りのリベリスタ達は、既に戦闘体勢に入っている。 初っ端から戦闘だと聞いていない。 『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)が苦い顔をした。仲間が武器を取るのであれば、己もそうする他無かった。 走り出す仲間達を見て、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が火縄銃を染色機へと合わせる。狙いは、その神秘の義眼。 その横で『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)も同じく標準を定めた。 その横から咆哮する声が響く。 「クリム!!!」 『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)が、Gazaniaをその手にクリムへと一直線に走っていく。 それよりも早く、『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)の拳が前に出ていた。 染色機へと向かう弾丸達は、恐ろしくも精密だ。 そして、店内に何かが弾ける音と、鮮血が舞った。 ● クリムが目の前の女性を掴んで壁にした。アナスタシアはそのまま拳を女性へと貫通させてしまう。 また別の女性が動き出し、クリムの前に立つ。 「人道的にって素晴らしい★」 そこに葬識が女性の首にスタンガンを押し当て、押し倒していった。 「すんごくお洒落な左腕だねぇ~今のはやりぃ?」 「こんなものお勧めしませんよ、自分の腕が一番です」 軽く言葉を交わせば、葬識の横からジースが弾丸の如く突っ込んできた。 これで攻撃は届く――そのはずだった。 ジースがピタリと止まる。そのクリムと彼の間には、また違う女性が立っていたのだ。 女性の数は二十五人。言い方を変えれば、二十五の壁があるという事だ。 スタンガン一つでは、一度に複数人を気絶させる事は難しい。壁をどけるには、時間が必要だ。 「ほら、こんな綺麗な女性を殺しちゃっていいの?」 女性は綺麗なエメラルドのドレスに、白い肌が包まれている。だが、目に光は無い。操り人形同然の彼女。 クリムはジースへにっこりと笑ってみせた。 ジースはできる限り一般人を全員救出したかった。だからこそ、目の前の女性は攻撃できない。 その歯痒さから、奥歯を強く噛み締めて耐えるしかなかった。溢れる殺気がちりちりと雰囲気を尖らす。 目の前に、倒すべき敵がいるというのに。 「俺だってちょっと左腕が疼くけど、さ」 「ふん」 龍治とクリムの目線がぶつかり合った。 この腕の借り、とれるものなら。 また、違う場所でも吹き飛ばしてやろうか。 暗黙の中でその会話は行われていた。 既に女性二人が、その命を散らしている。 龍治とブレスの弾丸は、洗脳された女性が壁にされ、引き受けたのだ。 顔面が破裂し、真っ赤な血飛沫が舞う。 「ごめんなさい!」 ルーメリアが、首から血を流して死んだそれらから目を離した。 染色機の義眼は強力な暗示であり、それの設定は術者を守ることだ。それが金銭面であれ商売面であれ、戦闘面であっても。 染色機が死体を倒しながら、口を開いた。 「おおい、リベリスタさんよ。俺は仕事してるだけだぜ。お仕事の邪魔しちゃ駄目ってママにならわなかったかい?」 落ち着いた、甘いその声。魅了を司るアーティファクトは彼には相応しい。 葬識が気絶させた女性を、部屋の角へと投げながら言葉を発した。 「まあ、血気盛んだけれども。 俺様ちゃんたちは半数以上一般人を助けさせてもらったら、君達を倒すとか何だとか指示うけてないんだよねぇ」 クリムと染色機は面白い事を聞いたと顔を見合わせた。 『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)が、スタンガンによって気絶させた女性を抱え、それを部屋の角へと。 戦闘に巻き込まれぬように、優しく、丁寧に。 それから染色機とクリムの方を見て、襲い掛かった事への謝罪の言葉と共に、一度だけ頭を下げた。 それを見た染色機が大きくため息を吐く。 「安心しな。他の連中なら兎も角俺達は穏健派だ。此処で引き返すなら、見逃すさ。 女一人分くらいならいつでも補充できるし、ソファや床に着いた血のクリーニングから、死体処理までサービスしてやる。 そうじゃないってなら、判るだろう?」 染色機は言いたいことだけ言うと、静かに目を閉じた。 「判っているさ。だが此方は、その条件は飲めないんだ」 「でも、ルメ達は穏便に済ませたいの。だから交渉を」 碧衣とルーメリアが後方から話しかける。 クリムと染色機が目を合わせていた。何かの意思疎通が行われたようだ。 その間、店は人が多い割りには、静か過ぎていた。 「では武器を引いてくれますか?」 ジースはぎこちなく武器を下げ、仲間の下まで下がる。 ブレスや龍治も一旦武器の標準を下げた。 「聞くだけ聞きましょう。ですが立場上、こちらが有利であることをお忘れなく」 染色機が手を振り上げた瞬間、それに反応した女性達がナイフを首に突きつけた。 「貴方達が半数助ければいいのは分かりました。リベリスタは一体、何人守れるのでしょうね?」 この男には、如何なる事もゲームでしかない。 ● ヴァルテッラが喋りだす。 慎重に、何が引き金となって女性の首が引き裂かれるかは、分かったものでは無い。 「……諸君等の討伐命令は受けていない。 初動での制圧に失敗した今、後の禍根を断つ事までは望むまい」 更に『アルブ・フロアレ』草臥 木蓮(BNE002229)が付け足していく。 「この子達を解放してくれれば、今回は見逃すっていうのが皆の総意だ。考えちゃもらえないか?」 それができれば、一番最善だ。しかし。 「悪いがそれはできないな。 渡すならば女は殺したほうがお前等の依頼失敗で優越に浸る。お互い不利益被ろうぜ?」 染色機が、すぐに答えた。 次に碧衣が言葉を繋ぐ。 「……女性を開放し素直に帰ってくれるなら、 激しい戦闘の上辛うじて撃退に留まった、と上に報告する位は出来ないのか?」 「お前らに負ける可能性があるのかは別として。 仮に負けて尻尾巻いて帰ったなんて知れたら、どうなると思う?」 碧衣は自身の手で顎を持ち、考え込んだ。 こちらから提示できるものが無さ過ぎる。普通の交渉にしては、圧倒的に不利なのだ。 見かねた葬識が軽い口調で言う。 「半数でいいから助けさせてよ。 だめっていうなら殺しちゃう気できてるしね~えへへ本気だよっ★ 逃げるなら追いかけません。約束」 「リベリスタは約束守る方が多いんですよ。それは俺が保障しましょう」 そう言ってクリムは碧衣へにっこり笑った。 碧衣とクリムは以前にもそのような感じでゲームをしていた。 休戦協定があったため、罰ゲームをするに至ることはできなかったが、敵ながら信頼関係がある。 染色機は考え込んでいる。ヴァルテッラも何か譲歩できるものが無いかを探した。 するとルーメリアがクリムへと駆け寄っていく。危ないと葬識が止めようとしたが、それでも向かった。 「クリムさんお久しぶりなの、あんまり会いたくなかったけど」 「お会いできて嬉しいですよ、小さなリベリスタ」 「逃げるなら今のうちなの、無駄な争いは嫌でしょ?」 「部下は置いていけません。商売はどうなろうと知りませんが」 「それに、その左腕もまだ使いこなしてないみたいだし。ルメも、一般人に被害広げたくないから……」 「俺に、何を頼みたいのかな?」 「うん」 彼女は言った。 ほんの小さな声で『ルメを好きにしていいから、手伝って』と。 軽い冗談だった。真面目にされたら困る。けれど―― 『嘘はいけませんね、まあいいでしょう。最大限の譲歩をします』 クリムの手が、優しくルーメリアの頭を撫でる。 そして、声がルーメリアの脳内に響いた。 クリムが染色機を見た。いつもある笑みの欠片さえ無い、否応を言わせない無表情。 驚いた染色機が身体を揺らし、大きくため息を吐いた。 「貧乏神が」 その瞬間に八人の女性が、糸が切れた如く倒れていく。 ルーメリアの背中を押し、仲間の下へ帰しながらクリムは言う。 「八人解放します。残りの女性は此方の思うように使います。 ノルマの数、またはそれ以上まで頑張って救ってみせて下さい。 魅了が阻まれた女性まで、狙おうとはしません。 なので、此方の撤退時は追わない。そのお約束は守っていただきます」 「譲歩、感謝しよう」 ヴァルテッラがまた、一度だけ頭を下げた。 欲しいなら奪い取ってみろ。簡単に言うとそのようなものだ。 「では、お話は此処までです」 そう言ってリベリスタとフィクサードは、ほぼ同時に武器を手に持ち、動き出す。 ● 先手はクリムだ。 その長い弧を描く鎌を軽々と一閃させると、真空波がジースを襲った。 「っく!!」 ジースはすぐに体勢を立て直すが、目の前に見えたのはクリムだ。 「攻撃するたびに俺も痛んだ」 そう聞こえたジースの胴に、鎌の先端が吸い込まれていく。その威力は甚大でかつ致命的な傷を残した。 本当の目的は、龍治の前に立ちふさがる壁の破壊だ。だからこそ、目線はジースを見ていない。それが更にジースの遺憾を買った。 負ける訳にはいかない。 「杏里に傷を負わせたお前を俺は絶対許さねぇ……ッ!!」 アンリという言葉にはっとしたクリムがジースを見つめた。 口から血が零れるが、ジースは叫ぶ。全ては目の前の、彼女の敵を滅ぼすために。 Gazaniaを握り締める、その感触を手で感じる暇もなく、クリムに刃を向けた。 一回、その刃が同じくクリムの胴に当たっていく。しかし、止まらない。 竜の青い瞳が煌々と輝きを増す。 「あははは、いいなあそれ!!」 「俺はジース・ホワイト。クリム・メイディルの命を絶つ者だ!!」 ジースは回転し、もう一度刃を振ってはクリムの身体を捕らえた。 傷ついた彼にルーメリアが癒しの風を送った。 だが、周りには未だ巻き込まれるであろう女性達が無防備でいる。 (すぐ、お家に帰してあげるから) そう心に誓い、小さな癒し手はチームの要として動きだす。 そんな彼女を守っている葬識はクリムを近づけさせんと、漆黒の力が紅を飲み込んでいく。 「一般人を食い物とか、殺人鬼でもやらないよ~」 「あはは、人殺しは飽きたので、俺はしませんねぇ」 「楽しそうにやってくれちゃって、俺の店なんだがな」 そんな光景を見つつ、染色機は染色機で応戦している。 貴志とアナスタシアが倒れている女性たちを運んでいる横で。ブレスの弾丸を放つ轟音が響いた。 「はっ、俺には関係ない。半分助けられりゃ」 「おいおい、なんちゅう適当な」 既に一人殺した。もう三、四人うっかり殺しちゃっても大して変わらない。 その容赦の無い光弾は確実に女性の頭を捕らえ、破裂させていく。 「おいおい、女に庇ってもらうなよな、大事な商品無くなるぜ?」 「義眼させあれば、また補充できるだろってな」 ブレスが脅しをかけてみるが、フィクサード達はそれどころでは無くなってしまったらしい。 染色機はヴァルテッラへ目線を合わせる。 男を魅了する趣味は無いが、そうは言ってられない。特にこの男は危険だ。 「ヴァルテッラさん!!?」 気糸を放っている碧衣は、ヴァルテッラの異変に気づく。 その瞬間に義眼の魔力に侵蝕されたヴァルテッラが、龍治へとアデプトアクションを発動した。 「やめろ!」 そこへ木蓮が武器を投げ捨てて走ってくる。その攻撃は、木蓮へと自然に流れた。 恋人が傷を負ったのを見て、龍治は眉間にしわを寄せた。 「大丈夫だぜ、龍治……!」 弱い方の防御を突かれた木蓮が、痛みに顔を歪めている。 恋人のそんな顔を、誰が望んで見るというのか。龍治の火縄銃を持つ手に、必要以上に力が入る。 彼女を傷つけた原因は味方では無い。目の前の染色機だ。 「義眼、もらうぞ!」 放つ魔弾。直線上には確かに義眼があった。 けれど、けれど。 ――また一人、女性が弾けて逝った。 「そんなの使わないと、女の一人も魅了できないの? 悔しかったら実力でルメを魅了するといいの!」 魅了のせいで仲間が、女性が、傷ついた。思わずルーメリアが叫ぶ。 「身体的に成長してから、また来な」 「左肩痛いよ、俺!」 笑いながらヴァルテッラの横を抜けようとした、クリム。後衛の戦力が、鼻につく。 「少々、お痛が過ぎるか」 その眼前にヴァルテッラが入り、それを止める。 子供が気丈に振舞っているのは、見ていて良い気分では無い。 「ああ、貴方はいつもそう」 大きなシールドと大鎌がぶつかり合えば、轟音が響いた。 デッドオアアライブを受け止めながらも、その腕を掴んで彼の進行を止めた。 「ああ、もう」 腕の借りを返すのはまた今度になりそうだ。 「おい! 女性を操れるたぁ、俺にその義眼寄こせ、なんてな!」 高らかに言ったブレスの精密な光弾が放たれる。 「龍治になんかしたら許さないからな!!」 共に木蓮がMuemosyune Breakを掴んで、迷わず引き金を引く。 届け。 討伐は叶わずとも、せめて一つの神秘は潰したい。 そして、また――。 「ッチィ、おい当たんぞ」 「巻き込んで良し!!」 染色機が前へと出る。クリムがサムズアップ。 「クリム殿、また無茶をなされて、はふぅ」 この人と会うときはいつも立場が違う。そんな事を考えながら、アナスタシアが女性を運んだ所で、半分の女性の数は確保できた。 リベリスタの脳内に「目標数は救出した」というヴァルテッラの声が響く。 だがミッション成功はあちらとしては面白く無い。 染色機が武器を片手に、暴れだす。 「これが終わったら逃げっからよぉ!! おかげで商売できねえよ!! 死ねよ!!」 リベリスタは半分の女性を無力化し、端っこに積み上げていたが、まだ救出できていない者も大勢いる。 「や、やめ!!」 碧衣は急いで目の前の女性にスタンガンを当てた。救えるならば、救いたいのだ。 「えー、置き土産しなくていーのにー」 葬識の目の前に迫る、大蛇の如く蠢く敵の身体。 ヴァルテッラとジース、そしてクリムを巻き込んでは、舞っていく。 それには女性も巻き込まれてしまう、咄嗟にルーメリアがその女性の手前に立った。 「絶対、傷つけさせないの!」 叫びながら、染色機の暴れ大蛇は身体に直撃していく。 更に碧衣だ。彼女は今まさにスタンガンで女性を確保した所だ。せめてこの一人は自身の手で救わなければ。暴れ来る大蛇に身を強張らせた。 が、痛くない。 ふと見上げれば、葬識が庇っていた。ルーメリアが庇える範囲から自ら飛び出していってしまったので、一般人を庇うのに切り替えたのだ。気まぐれの思うままに。 振り返った染色機には、フェイトの恩恵を受けるジースの姿が見えた。 「どんだけ運命持ってんだよ」 そう染色機は吐き捨て、クリムの首根っこを掴んだ。 暴れ大蛇により痙攣する四肢。それをを制御しつつ、葬識は言う。 「また、遊びにおいでよ。相手するからさ~」 「二度とごめんだ!!」 「まー、そう言わずにさ~、いつでも俺様ちゃんうぇるかむだから~」 葬識の皮肉とも取れない、軽い言葉に染色機はいらいらしていた。 「あはは、俺もまた遊びたいです、肉塊散乱させに」←超良い笑顔 「うんうん、いつでもおいで~、今度は殺し合い?」←超良い笑顔 「うるせえ」 できの悪い上司的なものが、もう一人目の前に居るような気がして。 フィクサードは二人は出口へ。 ジースが自身の闘争心を抑えるのに躍起になっていた。いつ飛び出してもおかしくは無い。それを葬識が腕を掴んで静止させている。 「おいおい、敵が無防備に突っ立ってるってのに、マジでなんもしないってのか」 染色機は未だに傷一つ、ついてはいない。 死ぬ気でこれから戦うのであれば、まだまだやれる。 だが、商売道具も持っていかれた。店内も争ってぐちゃぐちゃだ。 これ以上戦っても、何も無い。 外への階段を上り始めたクリムが一度だけ振り向いた。 「ただし、今回限りですからね。俺の店じゃないんで」 妖しく光る、店内のネオン。 壁にまで赤い血が散乱し、人だったものがカーペットの上で横たわる。 辺りには血臭が充満し、その鼻を虐める。 割れたグラスの破片が光に反射し、哀色に光っていた。 救えた数は――十五。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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