●私を殺す死神 ――外が騒がしい。悲鳴? どうでもいいから、静かにして―― 部屋に閉じこもって何日が過ぎただろう。何もかもに無感動。何もしたくない。何も考えたくない。 何故私はまだ生きているの? この先を生きていくなんて想像できない、したくない。あなたを殺した私が、この先も生きていくなんて。 まだ悲鳴は続いている。私はベッドに横になったまま目を閉じた。 ……最後に聞こえたのは母親のもの。少し目を開いて……また閉じる。興味なんて持ってはいけない。だって私は……生きていたくないんだもの。 それを最後に悲鳴はやんだ。 代わりに部屋の扉が突然二つに切り裂かれ、部屋に入ってきたのは……透明がかった幽霊のようなもの。 その手は赤く染まっており、さっきまでの悲鳴の主がどうなったかはすぐわかった。 けれど私は――幽霊に向かって微笑んだ。 「迎えに来てくれたんだね、静香……私の大切な妹」 そっと手を広げて迎える。やっぱり、私によく似たその顔は双子の妹のもの。私が殺した……私の妹。 「ごめんね静香……一緒にいこう?」 幽霊の――妹の赤い手が振りかざされた。そして―― 私の首を、切り落とした。 ●救われない話を 「現れたのはエリューション・フォース」 「アンデットではないんだな」 リベリスタの言葉に『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は頷き説明を続ける。 「フォース。つまりこれは彼女の妹じゃない」 言って資料を手渡す。内容は一月前に起こった事件。 「先月、駒梶静香という高校生が殺されて公園の沼に沈められた。遺体はすぐに見つかった、犯人はストーカーの男」 「ストーカー? 姉が殺したんじゃないのか?」 イヴは頷き、続ける。 「事件から一ヵ月後の今日、殺されるのは静香の双子の姉、桐香。彼女はお葬式の後は一歩も自室を出ず自分のせいで妹が死んだと泣き続けた」 今は涙も枯れはてただそこにいるだけ。生きているだけ。 「なんで――」 自分が殺したなど。そう言外に言うリベリスタに、イヴは告げる。 「ストーカーの部屋には大量の写真や日記。バイト先で見かけた少女に一目ぼれし追いかけた……『駒梶桐香』の事を」 ……つまり。 「そう、ストーカーは殺す相手を間違えたの。ストーカーの狙いは姉の方だった」 嫌な話だ。だけど―― 「彼女のせいじゃないだろ? 悪いのも、裁かれるのもストーカーのはずだ」 「このストーカーはね。静香を殺害した後自殺したの」 ――沈黙。 「静香は一方的に殺された。そして犯人は、自分だけの物になったと満足して自ら命を絶った。じゃあ――遺された家族はどう思えばいい?」 悪いのは誰? 誰が罪を背負えばいい? 一方的に殺された静香の気持ちは? 罪など一片も考えず、喜んで死んだ犯人は? 罪はどこに行くの、静香の気持ちは―― 「……桐香はずっと自問している。そしていつも最後は、自分が妹を殺したという罪の意識」 救われない話だ。なんて救われない話―― 「……今日、E・フォースが現れて桐香を殺す。正体は――」 「もうわかったよ……桐香の罪の意識、だろ?」 頷きは肯定。桐香の罪の意識が思念となって彼女自身を殺しに来る。桐香は、妹が迎えにきたと思い死を受け入れるのだ。 依頼内容はE・フォースの討伐。けれど。 「このままではE・フォースは倒せない。桐香の心に罪の意識が――生きていたくないという気持ちがある限り、何度でも復活する」 データについては詳しいことは資料を読んで。大事なことは―― 「時間が立つほどエリューションは強力になっていく。途中で手がつけれなくなるから……そうなる前に桐香の心を変えなくてはいけない」 エリュ-ションと相対させなければ桐香は神秘を信じないだろう。けれど、エリューションは移動中に人を見れば襲い掛かってしまう。 「一般人の被害は出さないで。エリューションを自宅まで連れて行くか、自宅からなんとかして桐香を連れ出すか。方法は任せる」 頷くリベリスタ達に、イヴは小さく続けた。 「最悪の場合、桐香を殺すことでも解決できる……覚えておいて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月11日(日)23:40 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●私を殺すあなた ちょうど一ヶ月前の今日あなたが死んだ。 私が殺した、あなた。 苦しい。息が出来ない。何も見えない。何も。 ねぇお願い。どうかお願い。 どうか。どうか。どうか。どうか。 ――私を置いていかないで。 本当にブチ殺してやりたい相手はもういない――マジで酷い話だな。 『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341) は自分の仕事を終え、下から二階の様子をうかがっていた。 せめて犯人が生きていれば話は違ったんだろう。恨む相手が居れば。妹を殺された死ぬ程辛い痛みを向ける相手がいれば。 けれど現実は……痛み、苦しみ、罪の意識全てが向けるべき相手を見失い自分へと返っていく。 その結果が自分自身を殺す死神を生み出す――嗚呼なんて話。 階段を降りる足音。プレインフェザーが目を向けると、2mを超える巨躯の『悪夢と歩む者』ランディ・益母(BNE001403)がその肩に駒梶桐香を担ぎ降りてくる。 「……気絶させたのか?」 「いや」 短い返答にプレインフェザーが覗き込むとなるほど、確かに桐香は目を開き意識はあるようだ――ただその瞳に何も映していないだけで。 「何を言っても反応ひとつない。ただここにあるだけ、生きても死んでもいない」 (……おぉこわ) ランディが吐き捨てる。怒っているのがありありとわかり、プレインフェザーは首を竦めた。 「こっちは大丈夫。母親の記憶はいじったからさ、そう遅くならなければ問題ないぜ」 母親には娘は落ち着きを取り戻して外出中ということにしてある。これで無事に送り届ければ問題ないだろう。 「そうか。じゃあ車に乗せておいてくれ」 桐香を降ろすとランディはそのまま二階へと戻っていく。 残されたプレインフェザーは出来るだけ落ち着いた態度で桐香と向かい合った。何も映していない瞳、それでもまっすぐに。 「辛いかもしれねえけど……死ぬ前にちょっと時間くれねえ?」 桐香の部屋の向かい、未だ生活感を感じさせる空間。机の上にはそのままにされた読みかけの本。幾度もくり返し読んだのだろう、背表紙が欠け汚れてなお大切にされた本。 ランディは本を手に取り深く目を閉じた。 生前静香が日常的に触れていた物。突然その生を奪われるなど思いもせず、この世界を確かに生きてきた静香の日々重ねられた思い――その静香の世界を読み取っていく。 時間にしてわずかの後。ランディは深く息を吐いて本を懐に入れた。 自分が生きてきた世界。それが突然奪われる感覚はリベリスタなら理解できることかもしれない――それが桐香の救いになるとは思わないが。 そこに静香がいた現実。一緒に生きていくはずだった……今はない、奪われた未来。 「本来俺達が解決すべきはこういう事件かもな」 世界ってのは不条理なもんだ。来訪者は立ち去る。部屋の主のない空間に、呟きだけが残されて。 ――悲しい、辛い事件だ。 公園の奥深くの沼。静香が物のように沈められた場所。『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は殺された静香を、残された家族のことを思う。 この世は悪意に満ちている。どれだけ頑張っても理不尽はなくならない。決して。 それでも、足掻いた分だけ失くしていけるから。だから。 「これ以上の悲劇を重ねさせるもんか」 決意は力へと変わるから―― その横で頷いたのは『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)だ。彼女は悪くないと呟きを重ねる。 自分が妹を殺したのだと責め続ける桐香。涼子に言わせればその罪の意識は正しくない。 でも、彼女は正しさにすがれなかった。そんな形のない言葉で……確かな、大事なものを失った痛みは拭えない。 (その想いが自分のことじゃなく、双子の妹へのことなら目はある) 言葉を届けにきた。桐香の弱さを、涼子はわかる気がするから。 ――師は言っていた。死を望む者ほど救いを求めていると。 『暗影武式』ネロス・アーヴァイン(BNE002611)は未だ現れぬE・フォースを待ち油断なく沼を眺める。 自身を殺すほどの罪の意識とはどれほどのものか。けれど、その強い想いは救いを求める手。 桐香にはもう一度生きる意志を取り戻して欲しい……妹さんの為にも。 彼女を救う為、死神を沼地に足止めするのが自身の役目――エリューションの気配を感じ、ネロスは大太刀を手に取った。 「……穏便に済めば良いが。いやこっちの話じゃなく」 桐香を連れ出す組の方はどんな按配だろうねと、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939) は愛用の散弾銃を構えながら口にした。 誘拐紛いの行動も視野に入れてることに多少気が引けるのも事実。けれどそれは桐香を救う為に必要なことだ。 妹が死に、罪の意識が姉をも殺す。それで喜ぶのはただ一人、結果オーライと外道が笑う。 ――心が爛れる程の醜悪な終わり、ぶち砕いて粉も残さない。 「さあ始めるとしますかね!」 沼地に現れた半透明のエリューション、その身体に向け、喜平は愛銃スーサイダルエコーを撃ち放った。 ●私を殺せと言った私 「――ありゃ」 拍子抜けした声を漏らす。喜平の銃弾が当たると途端にエリューションの身体が霧散したからだ。 なるほど確かにこの段階ではリベリスタには無力らしい。 もっともそれもつかの間、消えたのとほぼ同タイミングで沼地に再び浮かぶ死神。 「なるほどキリがない」 嘆息し、喜平は再び銃を向けた。後は到着まで少しでもフェイズの進行を遅らせれることを祈るばかり。 悠里は張った結界を確認し、人が誰も近づいてこないことを確認する。この場に誰も巻き込むわけにはいかない。 とにかく耐えること、今はそれに集中するだけ。多くの激戦を潜り抜けてきた悠里にそれは決して難しいことではない。 「どのくらいで着く? ……わかった、人払いはすんでるから」 その後ろで涼子はランディ達に連絡を取っていた。 少しでも詳細な情報を得るのは大切だ。時間の経過が死神を強化し一般人への脅威となるならなおさらに。 現れては打ちのめされ、消えてはまた現れる死神。 けれど時の経過と共にそれは徐々に力を増加させていく。それは自身を生み出した者へ死を与える力、その意思。 自身を苛む罪の意識が自身を殺す、という事もあるのですね――『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)はその姿を見やり呟く。 結果的には自殺……だがそれを見過ごせば後味が悪い。 (何より理不尽な境遇、そして事実に対する誤解……) ――それをそのままにしておくのは、些か『正義の味方』には似つかわしくありませんから―― 故に戦おう。桐香が生きている事、それには必ず意味があることを伝える為に。 「――あ、来たみたいだよ!」 消耗の激しい喜平に力を分け与えていた『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は、桐香を伴い駆けつけたランディとプレインフェザーを見つけ叫ぶ。 同じく目ざとく桐香を見つけ身体を震わせた死神に、ここからが本番とばかりにアーリィは気糸を絡ませ注意を引き寄せる。 「桐香さんはやらせないもん!」 「……静香? 静香でしょ、ねぇ」 死神を見つけ桐香の表情が変わっていった。何も映していなかった瞳は熱を帯び、抑揚のない声音はすがるような響きを持つ。 「待ってたの。ずっと、ずっと来るのを。迎えに来てくれたんでしょ。ねぇ」 待っていたの。あなたを殺した私が、この先を生きていくなんて耐えられないから。だから、お願い。 ――私を、連れて行って―― 「桐香ちゃん駄目だ!」 悠里が叫んだ時には目の前の死神に異変が起こっていた。薄ぼんやりとした半透明の姿は、意思が強まったことを現すようにより濃く影を映す。緩慢な動作はすでになく、腕は鋭利な刃物となり妖しく神秘にの光を放つ。 瞬きの間に風切り音をたなびかせ、死神の刃が悠里、涼子、喜平の身体を深く刻み込んでいった。 「っとぉ、急に強くなったもんだねこりゃ」 先ほどまで無力であった死神の刃は、多くの激闘を潜り抜けてきた喜平の身体に少なくない傷を与える程に。単純に倒せばいいならば別かもしれないが、妹と信じる桐香の前でうかつに攻撃するわけにはいかないというのがリベリスタ達の共通の考えだった。 桐香を救うことこそが目的であるならば―― (きっかけがあれば何の兆候もなくフェイズを進行させますか) 隙を見て状況解析を行なっていたアルバートだが、突如能力の増大した死神を見やり渋い顔をする。 これでは時間の問題はもちろん、自分達の言葉が桐香に届かなかった時、それをきっかけに死神はタイムラグなしで強大な力を手に入れる可能性があるということ。 つまり、アークに送り出される前に言われた最後の手段……桐香を殺害することで危険を防ぐ方法は、彼女の心を救えなかった後の最後の手段には使えないという事だ。 ――より大きな危険を排除する為には、今桐香の命を奪うことが最善―― アーリィはその考えをすぐに否定した。それをしないと皆で決めたからこそ、リベリスタ達は戦っている。桐香の死が運命ならば、わたしたちは抗う為にここにいるから。 無意味な生などどこにも無い。その生に意味を持たせる為に――アーリィは全身を壁にするように死神をその場に縫いとめた。 「静香……私の妹。どうかその手で――」 ――私を殺して―― 「ふざけるなよ」 怒気をはらんだ声にびくりと桐香の身体が震える。 「妹が殺され、原因が自分にあるのは辛いさ。だがな、ウダウダと勝手に妹の気持ちを決め付けてんじゃねえ」 言葉を吐いたランディを桐香は睨みつける。私の気持ちは誰もわからないと―― 「そりゃ俺は赤の他人さ。だが同じ時間を生きた妹とは解り合ってたんだろ」 ランディの言葉が桐香に響く――自責の前にその目と耳を塞いでる手をどけてしっかり見ろ。『アレ』は本当に静香なのか? ……あれは静香だ。そうでなくてはいけない。そうでなくては、誰が私を裁いてくれるの? 私が殺した妹が、私を殺しに―― 「妹を人殺しにした挙句あの世に逃げるな!」 身を打つ衝撃。言葉も残せず一方的に殺された妹……突きつけられたのは、その気持ちを勝手に推し量り、自分を楽な方に逃げさせる言い訳に使っていた自身の卑怯さ。 ――違う。そんなはずない。だってあれは妹だもの。あれは―― 「あれは君が産み出した死への欲望だ」 ネロスの言葉が桐香の身に刻まれる。思い当たってしまう、現実。 「ただ二人の双子であるアンタにだけは分かるはずだよ」 桐香の側に立ち、涼子が声をかける。その響きは優しく、その響きは決然と。 「マジで死にたいなら止めねえよ、お前の痛みはお前だけのモンだ」 でもな……プレインフェザーは桐香の手を取り前を向かせた。そのまま死神を示す。桐香を殺そうとする死神を。 ――お前の妹はこんな風にお前を殺そうとするか? ――逆の立場だったら妹を殺そうとするか? ――妹の一番側にいたお前が、一番分かってんじゃねえのか? 「よく見ろ、あれは妹の幽霊なんかじゃねえ」 示された先で、死神が私を見て笑った。薄い笑い。嘲る笑い。愚かで臆病な私を見下す傲慢な笑い。 静香は私にあんな顔しない。あれは……あれは全てを妹に押し付けて逃げようとする、卑怯で卑屈な私の顔。 ●私が死んだ日 沼地に響き渡る絶叫。死神が喉を掻き毟り、大気を震わす声をあげる。 だがそれは消え行く苦しみではない。生み出した親の心の戸惑いが死神を暴走状態に陥らせていた――フェイズ3への進行は近い。 周囲を駆け回り木々をなぎ払い……桐香に向かって倒れこんだ大木を、自身の片割れの如き斧グレイヴディガーで一閃するとランディは再び声をかける。 「お前の妹は死んだ、死んだヤツは何も問いかけやしない」 ――お前を殺そうとしてるのはお前自身だ。 その言葉は一見冷たく、その言葉は鋭利で心に深く突き刺さる。桐香の心の奥深くで、本当はどこかで知っていた、知らない振りをしていた事実を本人に示すように。 ――死神の身体が震えだす。震えと共に、その身体が膨張を始める。 君は悪くない。でもそれは君もわかってると思う。 理屈じゃないんだよね、そういうのは。 だから責任を感じるなとは言わないよ。 でも、君まで死んだら周りの人達はどう思う? その人達も君を守れなかったって自分を責めるんだ。 「例え辛いことがあっても、人はそれを乗り越えて幸せになれる。僕はそう信じてる」 死神に弾き飛ばされ、なお悠里は立ち上がり掴みかかった。 ――死神の身体は硬化し、その肌が金属のそれへと変貌し始める。 全部を失ったのか? 違うだろう、まだ在る筈だ。 妹さんと今日まで重ねた想いと絆が。 死ぬことで其れすらも消し去ろうというのか。 もし踏み出すのに理由が欲しいなら『生きろ』。 只管生きて生きて、御前は無駄死にだと犯人に示し続けてやれ。 「なぁに這い蹲るような前進でも何時かは何かに辿り着けるさ」 俺はそう信じている、だから今も戦っている。喜平は笑い、流れる血を気にも留めず死神に銃を向けた。 ――死神の全身は刃物と化し、触れるものを容赦なく切り刻む。 死はいつだって残された者の心を縛る。 今の君がそうだ。妹の死で苦しみ自ら不幸を望んでる。 でもな、どうせ心を縛るなら。 死んだ妹の分も生きて幸せにならなくちゃいけない。 そんな風に縛りたいと思ってるはずだ。 「誰よりも悲しんで欲しいと思いつつ、誰より強く生きて幸せになってほしいと願ってるはずだよ」 妹と共に日々を過ごしていた君ならわかるんじゃないかな――ネロスの刃が、死神の刃と斬り合わされた。 ――死神の形相にもはや面影はなく、剥き出した牙は獣の如く。 静香さんの事は辛かったんだよね、どうにも出来なくて。 でも、やっぱり駄目だよ。そんなの……死んじゃったって償いになんかならないもん。 死にたいだなんて言わないでよ。 静香さんも、残された家族だって、友達だって…… 皆同じ思いするんだよ! 「生きて……今はどうして良いか分らなくても、いつか答えが見つかるはずだから!」 桐香に向かって駆け出す死神へアーリィはしがみつく。絶対助けるって決めたから――だから! ――死神の背に羽が生えていく。滅びの意思は一直線に―― 「お前は悪くねえ、誰が何て言っても絶対だ」 空からの強襲を義父から譲り受けたブーメランで牽制しプレインフェザーは叫ぶ。 「生きんのを諦めんなよ!」 「御自身を責めても何も変わりません。どうか生きる意志を無くされぬよう」 アルバートの気糸が翼に巻き付き動きを止める。 「痛いし、辛いよ。わかるよ」 死神と桐香の間に立ち、涼子は背中ごしに言葉を紡ぐ。 「でもさ。一緒に逝きたいほど大事なら生きて、その想いを続けるべきだよ」 ――そうする限り、アンタの妹は終わらないから―― 死神はランディの前にあって、けれどその奥の桐香だけを見ている。 同様にランディもまた、もはや死神など見ていない。この戦いの終止符を打つのはリベリスタではないのだから。 ランディは桐香の顔を覗く。リベリスタ達の言葉を受け、その表情の変化を見やり……懐に入れた本を手渡した。 本から読み取った静香の記憶を頭に浮かべ――もはや伝える必要ないと判断した。静香の残した気持ち、今はもうわかっているはずだから。 「さあ、お前はまだ死にたいのか。それとも生きたいのか。もう一度言ってみろ!」 私によく似た死神。私を殺す死神。 ――私を殺す、私。 静香は死んだ。私は生きてる。それがただ一つの現実。 だから。 「私は生きていくわ。静香の為じゃなくて、静香を想う私の為に」 桐香は目を伏せる。何故気づかなかったんだろう。私が死んだら、静香が消えてしまう。私の中の、静香が。 この先どうしたいかはまだわからない。それでも。静香を忘れたくない、忘れてはいけない。 「だから殺すなら殺せばいい。でもそれは――」 辛い現実から逃げたかった私。 楽な自分の世界にこもった私。 妹に罪を押し付けた卑怯で弱い私。 ――消えてしまえ―― 「さようなら、私の死神」 目を上げた時、死神はもうどこにもいなかった。 死神はなんで消えたんだろ? アーリィは考え、すぐに頷いた。 ――それはきっと目的を果たしたから。 桐香は死んで、新たに生まれ変わった。 静香の想いと共に生きていく桐香。 それはきっと―― |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|