●プロテインは筋肉にいいんだぞ! 皆、毎日飲もうね! 「ハァイ! ハァイ! レッツファイッ! レッツファイッ! ウゥゥゥゥゥッ、マッソォウ!」 別に書いてる人の頭が狂ってるんじゃない。 閑静な住宅街の一角で、凄まじい筋肉の巨漢が歯を光らせながら体操しているのだ。 ビキニパンツ一丁で。 ダンベル両手に持って。 想像できるもんならしてみや……いや、してみて下さい。 太陽にこんがり焼けた素肌に汗が散り、太陽に向かって突き上げられるダンベル(アーティファクト)。 ……おや? 今おかしな表記があったね? ソウサッ! このダンベルこそが……。 「魔剣ンンンンンンッ、筋肉美漢(マッソォウ)!」 「イェェェェェア! マッソォウ!」 付近を(引き気味に)歩いていた40代サラリーマンが突如奇声を上げた。 なぜかビキニ姿になってその辺の重い物を振り上げ、ヒンズースクワットを開始した。 それだけではないっ。 「まっそおおおおうっ!」 明日にでも死ぬんじゃないかっていうようなおばあちゃんが仏壇を担ぎながらウサギ跳びを始める。 ダンベル体操をしていたマッスルは輝くような笑顔で振り向いた。飛び散る汗。迸る効果線。 「サァ、皆で一緒にィィィィィ!!」 「「マッソオオオオオオオオウ!!」」 ●プロテインは頭にもいいんだぞ! 筆者は毎日飲んでるぞ! 『ハァイ! ハァイ! それじゃあ最後にィィ――ヴィクトリィィィ!!』 「りー……」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がポテチ食べながらテレビ画面に向かって拳を突き上げていた。 「ずっとビリーのDVD見て応援してるのに痩せない……」 「当たり前だ」 はっとして振り返るイヴ。 「これは資……」 「……」 「なんでもない」 流石に資料にするには無理がある。 イヴは頭を垂らして依頼資料を引っ張り出した。 と言う訳で、イヴちゃんの素敵な真顔を想像しながらこの説明を読んでいただきたい。 「最近住宅街で白いビキニパンツ一丁でダンベル体操をする男が目撃されるようになったの。目撃者によれば、彼は美しい筋肉の持ち主で、大胸筋から上腕二頭筋までに渡る迫力あるライン。そしてみっちりと鍛え上げられた大臀筋の逞しさには素晴らしい物があるそうよ。しかし彼はフィクサード。主流七派の一つ、アーティファクト研究で名高い六道の構成員らしいの。最近噂の白服達の一味ってことね。彼は最近回収した魔剣・筋肉美漢(マッスル)の効果測定をするためにあちこちの住宅街へ出向いているわ。彼の筋肉体操にあてられるとなんだかすごく身体を鍛えたくなって、その場で筋トレを始めてしまうの。この誘惑に打ち勝つには己の筋肉が十分にマッスルの粋に達していると見せつける必要があるわ。誰にかって言われても困るけど。とにかく見せつけるの。筋肉美をね。だって考えてみて、彼のおかげで住民たちは凄まじい筋肉痛に悩まされているのよ。このままでは研究と言う目的のために多くの人達がマッスルになってしまう。皆の手で止めて頂戴」 ……分かりにくいって人のために一行で。 「マッスルと筋肉で張り合って来て」 ハイ、分かり易い! DVDの再生ボタンにゆびをかけつつ、イヴはきりっとした顔で一同を見た。 「この依頼の成功は皆の手(筋肉)にかかってるの。頼んだわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月08日(木)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●マッソゥ! マッソゥ! ウゥゥゥゥゥゥゥゥマッソォォォウ!! 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は自分のぺたんこな部分をぺたぺたしていた。 具体的には二の腕である。力瘤を作ってみるが、平たくて白い素肌しか見えない。 静かにヘコむアラストールの顔を、山川 夏海(BNE002852)が笑顔で覗き込んだ。 「大丈夫だよ。わたしムキムキじゃあないけど、それなりに引き締まってるし。ナイトさんも同じだよ」 「そ、そうだろうか?」 「前に出て戦っていれば自然とつきますからね」 肩を回して首を鳴らすユーキ・R・ブランド(BNE003416)。 ちなみについているのはフェイトの力なのだが、その辺一緒くたにしているユーキである。 アラストールは小さめに、夏海はちょっと照れくさそうにマッソゥマッソゥとガッツポーズを取ってみた。 なんだか微笑ましいシーン、な気がする。 そして夏海は、もうそろそろ触れなきゃいけないんだろうなって目で後ろを振り向いた。 「それにこっちには、凄い人たちがいるしね」 半裸のワーウルフは想像できるだろうか? できるなら、彼が斜め45度の横顔でサムズアップしている様を想像してみて頂きたい。 彼が『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461) だ。 「筋肉はすごく大事だ。日常生活のちょっとした動作にも使われている。腕の上げ下げや歩行、営みにとって必要不可欠な存在なんだ。つまり筋肉は命そのものだ」 握り拳を作り、腕を激しく波立たせて見せる吾郎。 「つまり、筋肉だって生きている。そんな掛替えの無い隣人と共に強くなっていけるんだ……鍛えることでな!」 両隣りで屈強な男達が頷いた。 「筋肉は敵じゃない、味方なんだ。争う必要なんてないってことを教えてやろうぜ……筋肉でなぁ!」 両腕を天に掲げ、厚い胸板を強調して見せる吾郎。 空気そのものが圧迫されているかのような迫力に、周囲の空間が心なしか歪んだ。 低くなる『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)。 「良い考え方だ。だが、俺の理念は少し違うな」 サングラスを外すディードリッヒ。 シャツとジーンズを着てはいるが、その下に屈強な筋肉があることは一目でわかる。 「筋肉は鍛錬の結晶。日々の精進によってつくものだ。プロテインばっかりじゃいかん、最適な食事バランスと生活態度。それが正しい肉体となって現れるんだぜ。そういうもんは、隠しても隠しきれない」 「精進の結果か、良いことを言う」 『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)が外套を脱ぎ捨てた。 裸体一歩手前の褌スタイルが陽光の下で露わになった。 付近を通りかかった主婦が二度見した。 「筋肉とは所詮結果。より高い目的のための手段である。それを違え、愛する民に鍛錬を強いる行為、断じて許さぬ。王の裁きを下してくれる!」 「その通りッスゥ!」 さっすがジン様パネェっすと言いながら『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)がスライドインしてきた。 ビキニだった。 それ以外なにもなかった。 嘘や誇張、比喩表現でなない。 計都はニヤリと笑ってポージングした。 「覚悟を濁らせる武器などいらぬ!」 武器はおろかアクセすら無い。 「怯懦を隠す鎧などいらぬ!」 防具が防御していない。 「鍛え抜いた肉体の身が全て!」 攻撃スキルはおろか補助スキルすら無い。 あるのは非戦スキルの二つのみ。 「筋肉と筋肉で語り合おう。神話のバベルより雄弁な言語……人と人とが誤解なく解り合える力。真なる人類の革命。それが……!」 「それこそが……!」 「「マッソオオオオオオオオオオオオオオウ!!」」 計都と魔剣マッスルの所有者が二人並んでポージングした。 「分かってるじゃねえか、モヤシかと思ったらとんだマインドマッスルだぜ!」 「正しい魂は肉体をも清らかにするだろう」 「良いもん食えよ!」 「「イェス、マッソゥ!」」 ハーッハッハッハと肩を組んで笑い合う計都、吾郎、刃紅郎、ディードリッヒ、マッスル。 その光景を、『駆け出し射手』聖鳳院・稲作(BNE003485)はガタガタ震えながら見つめていた。 「ウワァ……混ざってます、既に、さりげなく混ざってますよお……!」 ●身体を鍛えなくっちゃ! 兄貴には会えないよぅ! 章は区切ってもシーンは区切らない。 稲作はやっぱりガタガタ震えていた。 敵がパンツマンで濃いだとか、白服を着ろとか、ズボン穿けとか、もう言ってる場合じゃなかった。 もうただのマッスルカーニバルである。 ぶんぶん首を振って気を取り直す稲作。 そして、アマゾンさんで買ったプロテインシェイカー(364円送料無料)をシャキーンと取り出す。 「見なさいマッスル。私は貴方の大切なものを盗んで行きました……それは貴方の心(プロテイン)です!」 付属のスプーンで適当に数匙。そこへ牛乳をやや適当に入れ、ワインを揺らすみたいにぐるぐると回して見せた。 「これを飲めば私だってマッソゥ! さあ一息にぐぐっと――ごべあ!?」 一気のみしようとして噴出した。 初心者はダマを作りやすいので、いっそカクテルみたいにじゃかじゃか振り回すのが良い。泡立つが、ダマになるよりいい。 あと飲むときに鼻から息を吸い込むとタンパク臭がぐっとくるので慣れない人は息を止めよう。 あと、お腹を壊しやすい人はちびちび飲むと良いぞ! 以上、初心者向けプロテイン講座より。 「うう……最近のは飲みやすいって聞いたのに」 「安易にプロテインに頼るからそうなるのだ。あれは調整されたタンパク質に過ぎない」 「そのトォリィ!」 白い歯を輝かせてサムズアップするマッスル。 ダンベル型の魔剣マッスルを振り上げると、リズミカルに屈伸運動を始めた。 二拍子リズムで三回に分けて屈し、二回で伸びる。それを暫く繰り返したら一・三に変え、変則的にパターンを変えながら屈伸を続ける。 うわーと言いながらスクワットを始める稲作。 「気を付けろ、もう体操は始まっている。どうやらブレイクフィアーでどうにかなるものでもないようだ。振り払って攻撃をするんだ!」 と言いながらアラストールも剣をダンベル代わりにスクワットしていた。 「アラさん負けてる負けてる!」 「くっ、思った以上の影響力だ……!」 庇うようにスライドインしてくる夏海。 「ここは任せてっ。わたしは筋トレの誘惑には負けないよ、ちゃんとあるんだからっ!」 胸を張ってダブルバイセップス。 夏海の胸が強調された。 おっぱい的な意味で。 「あ、コレジャナイ!」 「パンプアァァップ!」 マッスルがワンワンのリズムで高速スクワットを開始。夏海はしまったーと言いながら腕立て伏せを始めた。腕を曲げて床5センチくらいの所で30秒間停止するタイプのヤツである。腹筋がー! 腹筋がぁー! 次々とマッスルの術中に嵌って行く仲間たち。 もはやこれまでかと思われたその時――! 「効かんな」 鼻の頭を親指で払い、刃紅郎(褌style)は両手を腰に当てた。 「プロテイン。効率よく肉体を作るには良いだろう。否定はしない。だがそうして作られた肉体には重みが無いのだ」 「何っ、重量なら……!」 「魂の重さだ」 ぴたりと止まるマッスル。 「……タマシィ?」 「食うための家畜ならば頭から足先まで。山の獣なら血肉を残らず屠り食らう。野菜も根から葉まで全て行き渡らせる。我の身体は刈り取ってきた万物の魂によって作られているのだ……見よ!」 刃紅郎の身体が発光した。 光源などは無い。 だがしかし、それは発光したと思わざるをえなかった。 誰もが眩さに目を眩ませ、しかし注目せざるを得ない。 威風とワールドイズマインが同時機能しているだなんて事実が些細なことに思える程、刃紅郎は輝いていた。 宙を舞って飛んでいく褌。 背を反らし、腕を反らし、後色々反らし、雄々しく立ち上がる刃紅郎。 近くを通った主婦が五度見した。 「括目せよ、これこそが完璧なる肉体だ!」 全ての視線(カメラ含む)が彼に向く。 えー、と言う顔をするユーキ。 その中を計都がゆっくりと横切った。 後光を浴びながら立ち止まる。 「軟弱モヤシと蔑まれてきたあたしにも夢がある。モヤシだからこそ磨き抜かれた理想と究極。今こそ顕現せよ――スタイル・チェンジ!」 途端、計都のボディ(顔以外)が究極のマッスルボディへと変貌した。 えー、という顔をするユーキ。 「これがあたしの、アルティメットだ!」 「ぐっ、スキルで作った筋肉など……うっ、これは!?」 マッスルポーズで打ち払おうとしたマッスルは、かっと目を見開いた。 「そう、肉体を磨き抜く『道(タオ)』……心のマッソゥ!」 えー、という顔をするユーキ。 吾郎がラットスプレッドでスマイルした。 それだけである。 スキルは使っていない。 言葉も発していない。 強いて言うならば、大胸筋がゆっくりと上下していた。 「これはまさか……筋肉対話(マッソゥ・オブ・バベル)!?」 そう、今マッスルには筋肉を通してメッセージが伝わって来たのだ。 刃紅郎を中心に、鏡合わせにポージングする計都と吾郎。 それは筋肉と言う動物の最小単位。全動物の共通言語が、今語られているのである。 嘘ではない! 嘘だと思うならボディビル会場へ行け! 国籍とか、いらなくなるから! 「「……マッソゥ!」」 ダンベルを高く持ち上げ、小刻みに大胸筋を震わせるマッスル。 州知事になったことで知られる某シュワちゃんがデヴュー当時に見せたあの動きである。 日本語で表すことはできない。だがあえて表現するならば、彼らは理解し合い、しかし戦わねばならぬ運命に嘆き合っていた。 今は拳を交わす他あるまい。筋肉(とも)よ! 「なら俺から言うことは無い……いくぜ!」 シャツを内側から破裂させんばかりの勢いでパンプアップするディートリッヒ。 彼は大振りな剣を片手で握り込むと、怒号と共にマッスルへ叩き込んだ。 ダンベルで受け止めるマッスル。 しかし彼の身体に走った振動は収まらず、アスファルトの地面を強く窪ませた。 「これこそがデュランダル。鍛え上げた筋肉(マッソゥ)の一撃は、一味違うぜ?」 「ベリィィ――グッ!」 にやりと笑い合うマッスルとディートリッヒ。 ユーキは終始『えー』という顔をしていた。 ●筋肉の筋肉による筋肉の為の肉体 マッスル達が筋肉言語で会話をしている間。 「うあー、もう無理ですっ。これ以上腹筋したらはちきれますぅー!」 稲作が口に稲穂加えたまま高速腹筋を繰り返していた。ガードレールに膝をかけての腹筋である。 「こうなったら稲作、心を込めて……歌います!」 何処からともなくラジカセ(ラジカセだよ?)を取り出して再生ボタンをカチッとやった。 回るテープレコーダー。 ンジーという音の後、ポップで尚且つ熱いミュージックが流れてきた。 稲穂を握って拳を利かせる稲作。 『GO! GO! MUSCLE!』という掛け声に合わせて歌い出した。 「リィン~グゥ~に」 「それ以上はやめなさい!」 ユーキの唐竹割りが炸裂した。砕け散るラジカセ。 「うあー私の秘策がぁー!」 腹筋を継続する稲作。 ユーキはそんな彼女を横目に、剣の柄をぎりぎりと握りしめた。 「肉をつけろ肉をつけろと……くっ」 歯を食いしばるユーキ。 彼女の頭上にもやんもやんと回想雲が出現した。 回想の中でデカいフライドチキンを掲げる欧州男。 『ハッハッハ、ユーキは日系人か!? 東洋人は身体が貧相だなぁ、ガタイをつけろ、肉を喰え! 三食肉だ! 米(ビンズ)なんか食っても筋肉にならん!』 そしてうず高く積まれるステーキ肉。 回想雲が消えていく中、ユーキは剣を振り上げた。 「言われるまま食べ続けて気づけばこの背丈! はた迷惑な習慣だけ押し付けて先に逝きやがってからにビリー!」 空に浮かんだ回想雲の中でビリー(故人)が親指を立てて笑った。 そいつ絶対アメリカ人だろ。 「両手剣振ってれば勝手に背筋つきますよ! 勝手に、勝手にね!」 と、言いながら片手腕立て伏せを継続するユーキ。 「ユーキさん呑まれてる呑まれてる!」 「キレてるキレてるぅ!」 「夏海さんそれ掛け声違う!」 「そうだった!」 うりゃーと言ってむっちりついた太腿の筋肉を強調することでマッスル波動から逃れてみる夏海。 ラットスプレットポーズをしてみる。 「こ、こうかな?」 むにっとした鎖骨が強調された。 うわー駄目だったーと言って片手腕立て伏せに入る夏海。 「くっ、皆……駄目なのか? 生まれつき筋肉が付きづらい体質の私達では抗うことはできないのか!?」 アラストールは歯噛みする。 そんな筈はない。 そんなことがあっていい筈はない。 依頼として成立しな……じゃなかった、何か手がある筈だ! 「手が、手……はっ!」 アラストールはその時、自分が空気椅子をしていることに気づいた。 そして思い出す。 ファミレスでハンバーグセットを食べている時、あえて空気椅子にしていたことを。 ナイフとフォークの柄に鉛を巻き付け、腕や足にウェイトを仕込んでいたことを、支払いは任せろーと言ってスプリング付きの財布をギチギチ開け素で『ゆめて!』と悲鳴をあげられたことを! 「フ、フフ……私にもあるぞ筋肉が。心の筋肉が!」 力技で立ち上がるアラストール。 そして全力のジャスティスキャノンをぶっ放した。 「ハート・マッソゥ!?」 魔剣マッスルの使い手、本名『筋肉・豪』はきりもみ回転して飛んだ。 こんな話を知っているか。 絶対に壊れない人工心臓を目指して日夜研究を重ねる日本人技術者が、海外の出資者と話した際『君が作っているのはどの臓器なんだい?』と聞かれ、英語が達者でなかった彼はこう答えたと。 『HEART』。 それ以来彼はサムライ技術者と呼ばれ、大きな信頼を得たと言う。 なんでこんな話を挟んだかは、よく分からない。 「今だっ!」 好機と見るやすかさずギガクラッシュを叩き込むディートリッヒ。 軽く地面から浮いたマッスルに更に三段パンチを叩き込む刃紅郎。 彼のアッパーでマッスルは高く浮いた。 胸の前で手を絡めて全身を隆起。輝くスマイルを振りまく吾郎。 計都もまた全身(顔以外)の筋肉を漲らせてスマイル。 「ナイスバルク! ナイスバルク!」 「デカァイ!」 夏海たちの声援を背に受けて、彼等は筋肉の門(ゲート・オブ・マッソゥ)を開いた。 深く頷くマッスル。 こくんと頷く計都と吾郎。 このやりとりがあまりに高等過ぎて、正確に記述できないことが大変惜しまれる。そのうえで、日本語にあえて訳すならこうだろう。 ――さあ行こうぜ、更なる位階……マッスル・チャンネルへ昇るために! ――筋肉位階(マッスル・チャンネル)!? ――そうさ、そんなダンベル(剣)持ってたらポージングが決まらないぜ。持っていてあげるから、最高の奴を決めてくれよ! ――オゥケイ! 「「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ――マッソォォォォォォォウ!!」」 汗を散らし、両腕を振り上げるマッスル。 天へ吼える吾郎。 魔剣マッスルを掲げる計都。 「…………」 「…………」 「……アウチッ!」 「やっかましい!」 ユーキの全力(の恨み)が篭った呪刻剣が炸裂。 「あったれー、あぶさいー!」 腹筋ガクガクになった稲作がハニーコムガトリング。 「この筋肉にかけて……倒す!」 腕にぐっと力を込めた夏海が、無頼の拳を目いっぱいに叩き込んだ。 更に後ろへ回り込み、手刀を首へ叩き込む。 「後ろからマッソゥ!」 「オォウ!!」 マッスルは、うめき声をあげて気を失ったのだった。 ●明日も鍛えるんだ。その次の日も、その次の日も。ずっと、ずっとさ! 住宅街の十字路で、刃紅郎は身体を反らして立っていた。あらゆる意味て。 近くを通る主婦やサラリーマンが二度見三度見をしていく。 誰もがどこか満足げな顔をして、誰一人通報する者は居なかった。 「綺麗だった、よ」 腕とかガックガクになった夏海がブロック塀によりかかりながら言った。 「これで明日は筋肉痛……マッソゥ!」 横たわったままガッツポーズする稲作。最近お腹ぷにぷにらしいから。 そんな中、どこか遠くを見るユーキ。 「納得いかないんですが……でも納得以前の問題のような気も……」 そもそもツッコミを入れる時点で違う気も……などと呟く。 首から下だけマッスルな計都が魔剣片手にスライドイン。 今まであえて語らなかったが、屈強過ぎる筋肉達磨の首だけを女の子に変えたヤツを想像して貰えるだろうか。っていうかできるだろうか? 「これを手に凱旋ッス! アークズ・ブートキャンプの始まりだー! ヒャッハー!」 「いや、筋肉を強いてはいかん」 「それではヤツらと同じになってしまうからな」 両腕をがっちりホールドする吾郎とディードリッヒ。 スタイルチェンジが解除されたのか、捕まった宇宙人みたいに連れられていく計都。 そんな仲間たちの背を見ていたアラストールは、ふと遠くの空へと目をやった。 「筋肉……か」 青い空で、何か知らない黒人男性がサムズアップしていた。 アラストールは全力で投石した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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