●『裏切り大悪党』大切断・鎖 コンクリートの柱が斜めに切断された。 ずるりと崩れ落ちる柱。 それを少女は全力で蹴っ飛ばした。 少女の名は大切断・鎖(だいせつだん・くさり)。 目標は長身の男である。 激しい破壊音と共に男はぐしゃりと潰れる、と思われたが。 「甘ェ」 呻るエンジン音。 振り上げられるチェーンブレード。 コンクリートの塊は、一瞬で粉々に分解された。 それだけではない。 長身の男は両腕を翼のように広げると、オオカミのような歯をぎらつかせて飛び掛って来たのだ。 反射的に飛び退く少女。 真後ろの壁にクレーターができた。 少女は歯を食いしばる。 ワニか何かのようにギザギザした歯だった。 「殺す気か、イカレ野郎」 「殺す気だよ、イカレビッチ」 片手に一本ずつチェンソー剣を持って、長身の男は振り返る。 その背後からは、更に数人の男達が姿を現していた。 「お前もさァ、裏野部いるんだったらそろそろ分かれよ。女子供ぶっ殺して、泣きわめかせて、ついでにぶっちぎって、キャイキャイすんのが楽しいんだろうが。それをテメェは毎度――」 少女の首に巻きつくワイヤー。 「毎度――」 男は彼女を強引に引き寄せると、唇が重なるぐらいに顔を近づけた。 「毎度――」 額を叩きつける。 「毎度――」 よろめいた所で少女の腹に蹴りを入れ、柱に押し付ける。 そして幾度も顔を殴りつけた。 「毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度邪魔しくさりやがってテメェはよお! なんのつもりだこの脳味噌ド腐れクソ豚ビッチが!」 「やかましいわ!」 呻るエンジン音。 しかしそれは、通常のチェーンソーから出るような音ではない。 言ってみれば大馬力のモンスターカーのような、V8エンジンの呻り声であった。 今度は男が飛び退く番だった。 飛んだ距離が大きかったのが幸だった。 彼の眼前を通り抜けたのは、巨木を二秒で分断してしまえるような巨大なチェーンソーだったからだ。飛び退くのが遅れていたら上下二分割もあり得ただろう。 少女は……大切断・鎖はV8チェーンソーを強引に振りかざして見せる。 「女子供の泣き声だぁ? 籾殻だぁ? ふざけてんのかファッキンボーイども。こちとら世紀の大悪党、大切断の鎖様だぞ。テメェらみてえな程度の低いお遊びなんざ、付き合ってらんねえんだよ!」 ●鉄鎖鋸暴走団 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明は、おおむねこんな調子だった。 街で女子への暴行やホームレス老人への虐待を続ける鉄鎖鋸暴走団。もしくは省略してノコギリ団。 主流七派は裏野部に所属する不良フィクサードのチームであり、出ている被害から見ても、志からしても、すぐさまぶっ潰しておきたいチームであった。 「今回はこのチームを壊滅させることが目的……なんですが……」 複雑な顔をする和泉。 全部で15人からなるノコギリ団に、妙な新顔のプロフィールが加わっていた。 「詳細は分かりませんが。彼女はチームの一員でありながらリンチに遭う寸前……のようです。仲間割れだと思うんですが、チャンス、ですよね」 和泉は曖昧な、というより自身なさげな言い方をした。 「アジトになっているのはマップにある廃墟ガレージです。乗り込むのはそう難しいことではありませんし、チーム全員がここに集結していますから一網打尽にできるでしょう」 後の判断は皆さんにお任せします。 そう言って、和泉は資料を手渡してきたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月06日(火)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ヤツザキ青春絵日記 今回の事件を語るにあたって、色々省略するべきかもしれない。 故にこのシーンからお送りしよう。 「ファーントム、シュゥートッ!!」 『まごころ暴走便』安西 郷(BNE002360)のフライングキックが炸裂し、暴走団のチェーンソーが弾き上げられた。 と言うより、本人ごと蹴飛ばされたと言って良い。 郷は華麗にバックスピンをかけると、ぽかーんとする大切断鎖の前に着地して見せた。 前髪をピッと二本指で払う。 「おうおう、いい年した野郎共が女子一人によってたかって粋じゃねえなあ。漢することじゃねえぜ!?」 「なんだコイツ、どこのモンだ!」 そう言ってチェーンソーのエンジンを一斉に唸らせ……ようとしたら。 「ギャギャー! ギャッギャー、ギャウ!?」 「ブッヒヒヒヒヒヒィー! ブゥーヒィー!?」 『蒐集家』リザードマン(BNE002584)と『戦火の村に即参上』オーク(BNE002740)が郷を突き飛ばす勢いでスライドインしてきた。 言いかえるとこうである。 リザードマン が あらわれた! オーク が あらわれた! 「なんだコイツ、化モンだ!」 「ブヒヒヒヒ、乱暴して殺してだぁ? テメェの領分も弁えずにオイタしてるじゃねえか。裏の世界にも仁義があるってもンを勉強していけや」 「ギャウギャッ、ギャギャー!」 「おうそうか、楽しめ楽しめ。十五人も雁首揃えてやがる……つまりお愉しみ十五倍ってことだぜ!?」 「ギャッギャー!!」 二人して諸手を上げて飛び掛って行くオークとリザードマン(読者に分かり易い文章を目指すべく二人のモンスターをこう表記します)。 「なんだってんだ、黄泉ヶ辻辺りにアジトがバレたんじゃねえだろうな!?」 「おい誰がフィクサードだ。正しい認識持ってンじゃねえよ」 「ギャギャー!」 流石にこんなのと戦いたくないと思ったのか、暴走団たちはガレージの裏へと振り返る……と、そこに。 「へーい」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が反復横跳びしていた。 左手に肉球がついている以外は普通の少年(少女?)である。 身体が骨っぽい所為でどっか弱そうだったが。 「やあやあ弱虫毛虫の方々、集中狙いしてもいいのよ? いいのよ!?」 「野郎調子乗りやがって」 「シャァラァ!? アァン? シャラァァン!?」 「一人ずつ血祭りにやんよ!」 チェーンソー片手に三方向かた飛び掛ってくる暴走団。 うさぎはニッと笑うとグリーンの布の端っこを掴んで一回転した。 それだけである。 ただそれだけにも拘らず、三人のチェンソー剣は刃を阻まれた。 空中で円形に展開された布にである。 「こんなのの中に会って染まらないとは素晴らしい」 一言呟きうさぎは更に一回転。 遠目に見ればタンバリンと布を持ってくるくる回っているだけだが、布は特殊な防御布であり、タンバリンに至っては人体を引き裂くために特殊加工されたハンディーナイフである。 そんなものを繰り出されれば誰とて『痛い』じゃ済まされない。 「な、なんだよコレェ!」 腹を複雑に切り裂かれ悲鳴に近い声を上げる暴走団。 その頭が光と共に跳ね飛んだ。文字通り跳ね飛んだのだ。 「ほらよっと、喰らいしゃい」 宙に古銭を放りながら『√3』一条・玄弥(BNE003422)が歩いてきた。 キャッチ。手の中でじゃらりと音をたてる。 暴走団の持っているチェーンソーが家庭用の木工チェーンソーなのを見て、玄弥はなんともつまらなそうな顔をした。 「頭の悪いボケカスの集まりかァ……どないにしても邪魔臭い。片付けやしょうや、ポンポンと」 ほれ、と手を翳して再び魔閃光を発射。別の暴走団の頭を吹っ飛ばす。 「ギャギャー!」 「あーへいへい、頭蓋骨は残しときやすよっと」 「な、なんだコイツら……人間じゃねえ!」 慌てて逃げ出そうとする暴走団の一人を、鎖がフツーにさりげなくチェーンソーでぶった切った。 中学生テニスの壁当て練習が如く、やけに普通に、刃渡り2mにして300馬力のモンスターチェーンソーを振り切った。相手は当たり前のように腰で分離する。実に分かり易いワンターンキルだった。 が、そんな事実はどうでもいいと言う風に鎖は振り返った。 誰に? いつの間にかそこに立っていた『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)にである。 「何あれ、地獄兵団か何か?」 「さあ……」 リンシードは何とはなしに大剣を掲げると、無表情のままで喋り始めた。 「大人数相手に無茶しましたね。でも、そういうの、嫌いじゃないです」 「どーも……」 「助太刀は?」 「どーかな、いらんかも」 「いえいえ、勝手にやるので、気にしないで」 空気がブレるような感覚を挟んでリンシードが複数人に分離する。 人間が、ワルツと短距離走と集団殺戮を全部いっぺんに行うとしたらこうなるだろうという……とても荒唐無稽な多重幻影剣を繰り出した。 「せいぜい巻き込まれないように頑張って下さいね」 「うおっと!」 飛んでくる幻影をチェーンソーでぶった切り、本当に巻き込むなよ皆殺しかと野次を飛ばす鎖。 その後ろでは、暴走団が滅茶苦茶にチェーンソーを振り回して互いの片や腕を斬りつけ合っていた。 「馬鹿野郎! どこ見てんだ!」 「何打よコレ、何なんだよコレェ!」 「あらあら、仲間を斬ってしまうなんて……私はこっちですよ」 いつのまにか。 リンシードはいつの間にか暴走団たちの背後に回り込んでいた。 大剣横薙一文字。 鎖程ではないにしろ、暴走団の胴体が上下二分割される寸前まで行った。 「弱い相手を甚振って楽しんでいたそうですね。逆の立場になる気分は、どうですか?」 「――ッッ!!」 男の顔から血の気が引いた。 ヒュウと口笛を吹く鎖。 そんな時、ガレージの入り口を『求道者』弩島 太郎(BNE003470)が潜って来た。 今更、と言う程でもない。 「成すべき事を成す……今日もまた、それだけだ」 サングラスを中指で押し上げ、屈強な身体に力を漲らせる。 首や額に血管が浮き上がり、汗や熱気がオーラとなって立ち昇った。 そして――! 「ふんぬっ!」 怒声一発、凄まじい天使の歌が発動した。 「回復担当なのかよ!」 「何か不思議なことでもあるのか?」 今にも素手で人を縊り殺しそうな構えでそんなことを言う太郎。 今更かもしれないが、突っ込みどころの塊みたいな連中ではなかろうか、彼等。 「そのガタイは飾りかよ。切り刻んでやんよオラァ!」 相手が弱いと調子に乗るのか、暴走団の数人が太郎へと飛び掛って行く。 「むっ!」 「死ねえっ!」 三本のチェンソー剣が振り下ろされる。 そして、鋼鉄の盾に阻まれた。 太郎のものではない。 ピンクの鎧にちんまい身長。 小さい羽を羽ばたかせ、何処からともなく飛んでくる。 鋼少女、名を――『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)。 「超守るのデス!!」 てやーと言って三人分のチェンソー剣を跳ね返す心。 彼女の固さは伊達ではない。何と言っても今回集まったリベリスタ七人が総出で殴りかかっても10かそこらのダメージしか与えられない程である。 「弩島さん、防御は任せるのデス、超超超超――守るのデス!」 自分の身体ほどあるのではないかという盾を構え、心は光を放ったのだった。 「打撃力に頼っているこの人達相手なら心は、無敵デスッ!」 ●エンジン臭の恋心 「怯むな、相手はどうせ生きモンだ。殺せねえ道理はねえ!」 「ギャッ! ギャッギャ~!」 「そうかそうか乱戦で興奮するか!」 リザードマンがチェンソー剣で相手の首を吹っ飛ばす。 そこに留まらず、やけに大事そうに相手の首を拾って並べて行くのだ。 リベリスタのやることではない。 「ギャッギャー!」 「うわ何だ、何言ってるか分からな……うわ何となく分かる!」 とりあえず楽しそうで頭蓋骨を欲しがっているということが分かった。 すごく分かりたくなかった。 もしリザードマンがバベルスキルを取得したらと思うと恐ろしくてしょうがない。 その一方で。 「ひいっ、弱い者いじめはやめてくれぇ……なンてなぁ!」 頭を抱えて屈んでいたオークがちょいっと出した指からバウンティショットを繰り出した。 足首を打たれて転倒する暴走団。 オークはのたのた起き上がると、棍棒でもって彼の喉からちょっと下辺りを突いた。訓練していない人間はこうされると咄嗟に立てないのだ。 何故そんなことを知っているのか。 上下反転するように上から覗き込むオーク。 「ほら、命乞いでもしてみろ。お前のムダ遣いした命がそうしたようなぁ!」 酒臭い息と涎が垂れて来て男はパニックに陥った。 「ま、命乞いしても殺すんですがねぇ」 ギロチンでも落とすように首を落としにかかる玄弥。 喉突き状態からだとこの斬り方が一番首を落としやすいのだ。 何故そんなことを知っているのか。 玄弥は顎を抑えて首をコキリコキリと鳴らすと、背中を丸めて立ち上がる。 この男、背は高いくせにわざと猫背になるものだから妙に低身長に見えるのだ。 「さァて、オークにリザードマンよう。残った連中どうしやすかね」 「ギャギャ」 「皆殺した後マグロショーだろ?」 「ギャッギャー!」 頭の上でチェンソー剣振り回しながら駆け出すリザードマン。 彼らにある意味正義は無かった。 一方その頃。 「天使の息――ふんぬぅっ!!」 「超ォ――守るデス!」 力瘤を隆起させ、熱気を吹き出し身構える太郎の周囲を心がぐるぐる周回しながら防御を続けていた。 もし想像力に余裕がある人は、グラサンかけたダビデの周囲を小柄なピンク鎧が高速周回している様をイメージして欲しい。できるもんならな! 「くそっ、なんだこの歪な回復装置は!」 「ピンクのが只管庇うせいで全然近づけねえぞ、どうなってんだ!」 「弩島さんを気づ付けるなら私を倒してからにして頂きましょうデス!」 うおーと言って高速回転する心。 そうやって嫌な残像を残しながら、心は鎖へと振り返った(?)。 「ここ、一旦引いていただけませんか。今度お話聞いて、出来たら手伝いますので」 「え、お断りだけど?」 V8チェンソーをスイングしてその辺の暴走団を縦方向に二分割する鎖。手が余っているのかついでに横と斜めも合わせて八分割していた。 心とて、コレを喰らったらタダでは済みそうにない。敵に回さなくてホントに良かったと思……ってそれどころじゃねえ。 「お、おとこわりデス!?」 「お断り。だってアンタら見た所……」 「アークですよ。それ以前に、貴女はたぶん私の敵でしょうね」 さり気に爆弾発言をしつつ近寄ってくるうさぎ。 横から振り込まれたチェンソー剣をタンバリン型のナイフで受け止め、刃をがっちりと固定。 ついでに相手を蹴っ飛ばして話を続ける。 「気持ちよく敵対するにはアレらが邪魔でして。お掃除、手伝ってもらえます?」 「……あー」 イエスともノーとも取れない表情をする鎖。 そこへ郷が飛び込んできた。 文字通りに飛び込んできた。 「お嬢さん、アンタはイイな!」 フライングキックで暴走団の一人を蹴り倒し、やっぱりバックスピンをかけながら着地。 キラキラと光る背景を背負って振り向いた。 呻れセンスフラグ。 立ち上がれ恋愛フラグ。 郷の脳内で凄まじいビーチフラッグが始まった。 「一本揺るぎない芯が通ってる。俺は好きだぜ、大好きだ。君のことがもっと知りたくなっちゃったなあ!」 ずんずん詰め寄って行く郷。 脳内では旗に向かって全力疾走である。 「よし決めた、今からこいつらぶっ潰すの手伝うからさ、その後……ね、暇? お茶していこうよ。色々教えて欲しいな!」 脳内で旗に向かって豪快なヘッドスライディング。 一方の鎖は。 「わかった。じゃあお前――」 脳内で砂が舞い上がり、風が散り、手の中に棒状の感触が収まる。 キタァ! 今日こそキタァー! 俺のモテフラグがキタァー! 郷は脳内で思いっきりフラグ的なものを引っこ抜いた。 「おっと答えは聞いてないぜ。ふんじばってでも食事して貰」 「面倒にならんように今の内にぶっ殺すわ」 「なんで!?」 脳内で振り上げたフラグは死亡フラグだった。 ぶっちゃけ鎖をタイマンで相手にすれば、郷の一発死亡判定は確実だった。 死ぬ。マジで死ぬ。ネタとかじゃなくて。 「お、おれは……」 脳内で蹲る郷。 しかしそれは、次なるダッシュに向けてのクラウチングスタートに過ぎなかった。 なんたってプレイングの五割以上がこのためにあるのである。 死ぬ一歩手前までは引き下がらんぞ。 「いいや俺は諦めねえ! 会う約束(願わくばデート)を取り付けるまでは引かねえぞ!」 「やかましいわっ!」 V8エンジンスラッシュが炸裂。郷は口と腹から血を吹きウギャアと言ってぶっ倒れた……が、フェイトを使って無理矢理起き上がった。 「負けるか! 折れるな俺のセンスフラグ!」 だってそうだろ!? 限られたポイントを割いて、夢を賭けてとったセンスフラグがただの飾りだなんておかしいだろ!? 内角から抉り込むように携帯番号を書いたメモを繰り出す郷。 「受け取れぇ!」 「くどいっ!」 「ヒギャア!?」 スラッシュ再度炸裂。 郷はもんどりうって倒れた。 悲鳴をあげる心。 「うわー! 郷さんが再生したプラナリアみたいなことに! どどど弩島さん!?」 「無理だ……流石にワンターンキルを回復でどうこうすることはできん」 太郎はサングラスを中指で押し上げ、深く深くため息をついたのだった。 そうして。 「くそっ、来るな! こっちに来るんじゃねえ!」 仲間が落としたチェーンソーや材木を投げながら後ずさりする男。 彼が鉄鎖鋸暴走団のリーダーだと言うのだから、ガッカリする話である。 既に部下達は無惨に全滅しており、リザードマンが楽しそうに生首ピラミッドを作っていた。 左右からじりじりと距離を詰めてくる玄弥とオーク。 その間を駆け抜けるようにリンシードが急接近して行った。 「ウワア!!」 「力だけでなんでも斬れると思ったら大間違いです」 慌ててチェンソー剣を振り下ろすリーダー。しかしリンシードはその背後に回り込んでいた。 「ヒッ――!」 反射的に後ろへチェンソー剣を振り込む。全く同じ速度で背後にぴったりとつくリンシード。 「当たらなければ、意味が無い……ですね」 ぴたりと大剣の刃が首に添えられた。 「終わりですよ」 直後、リーダーの身体は斜めに切り取られた。 ●『大悪党』大切断鎖 「あっちの小娘はおっかねえが、ガキどもは生かしといても仕方ねえ」 「ギャッギャッギャ~!」 「ビデオ回ってる? おーしおし。レッツマグロshow! 豚さんと蜥蜴さんが楽しいショーをお送りするぜぇ、ブッヒヒヒィ!」 「ギャギャギャー!」 「ブヒヒ、お前らの大好きなチェーンソーだぞぉ、やれリザードマン」 「ギャギャウ!」 「あっしは身ぐるみ、リザードマンは頭蓋骨、オークは……それかい。世の中上手く回りやるぜぇ、くけけっ!」 「ギャギャー!」 「ブッヒヒヒィー!」 という声が隣の倉庫から漏れ聞こえていた。 「なななな何が行われてるんデスか!? 私何かの片棒担がされてませんか!?」 ガタガタ震える心。 バイブレーション機能の目覚まし時計を止めるような要領で頭をぽかっと叩く鎖。停止する心。 「なあ、アレら本当にフィクサードじゃねえの?」 「存在的にはギリギリだな……」 くたばった郷(かろうじて生きている)を肩に担いで呟く太郎。 そこへリンシードがさりげなく割り込んで行った。 「アークに、来ませんか。面倒くさいかもしれませんが……強い人に、会えるかも、ですよ」 「それもお断りかなあ」 チェーンソーのエンジンを切って首を振る鎖。 「古巣の裏野部を裏切ってアークに来るというのも、いい悪事だと思うぞ。それに割と相性がいい……アークと、悪は」 そしてこんなダジャレを思いつくのも悪、とどこかクールにサングラスを光らせる太郎。 鎖はそのアクションをフルで無視した。 「だってリベリスタだろ。世界に愛されんのはゴメンだよアタシは」 指でキーホルダーのようなものを回しながら歩いていく鎖。 その背中を見ながらうさぎはぽつりと呟いた。 「次は喧嘩できるといいですね」 「そうか?」 「そうですよ」 「……あー」 鎖は、机を流れるメイプルシロップのように鈍重なリアクションをした。 「いいけど、アタシの目的って世界征服だよ?」 「…………」 ガレージの停めてあった赤色ベスパに跨ると、どう考えても重量オーバーなチェーンソーを背中に担いだ。 「アタシは世界を愛してる。だから愛されちゃ困るんだよ。アタシのモンにしないと。じゃ、ぐっぴー」 二本指を頭の上で振って走り去っていく鎖。 うさぎ達はそのエンジン音が遠くなっていくのを、最後まで聞いていた。 余談。 明らかにエンジン音がおかしいベスパを転がしつつ鎖は口笛を吹いていた。無論ノーヘルである。 だが赤信号は止まる。交通安全は守る女、鎖だった。 そこでふと、ジャケットのポケットに違和感を覚えた。 手を入れてみる。 なんかメモが出てきた。 「……なんじゃこりゃあ」 ゴミでも突っ込むようにポケットに戻すと、身体を傾けつつ再発進する。 二段階右折はしない女、鎖であった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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